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さとうきび・精製糖の二酸化炭素排出量と食品エネルギー効率〜さとうきびから精製糖までの二酸化炭素排出量の算出結果から〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2008年1月]

【今月の視点】

 
特定非営利活動法人国際資源活用協会
(前・日本甘蔗糖工業会会長)
太田 正孝
特定非営利活動法人国際資源活用協会理事
佐藤 邦光
三井製糖株式会社品質保証部長
江橋 正
三井製糖株式会社千葉工場長
鈴木 章
三井製糖株式会社岡山工場機械課
服部 浩三
 

1.はじめに

 さとうきびは、農作物としては、株出しによる連作が可能で、劣悪な気象や土壌条件下でも育つ強靭な作物であり、巨大台風や深刻な干ばつでも収穫が半分以下になることはないなど生産が安定している。また、さとうきびの地域への経済波及効果は4倍とされ、他の農産物や公共事業の2倍前後と比べ圧倒的に高いので、台風・干ばつ常襲地帯では手放せない作物である。
 エネルギー作物としては、原料耕作面積当たりのエタノール収量や原料作物別の投入化石エネルギーに対する産出エネルギーの比を見ると、とうもろこし、小麦、てん菜と比べ、圧倒的に優れている[1]、[2]。
 また、精製糖は、家庭用、菓子類・清涼飲料など多様な用途に使用され、国民の食生活に欠かせない食品である。最近では、食品エネルギー効率の優れた食品(注1)であるとの報告がなされている(注2)。
 近年の環境への関心の高まりを受け、企業は環境マネジメントシステムを構築し、ISO14001認証を取得する事業所も多くなった。それに伴い、企業が自己の製品やサービスのライフサイクルアセスメント(LCA)を実施している。ISO14040シリーズには、このLCAについて細かく規定されている。
 LCAとは“原料の調達から製造・流通・使用・廃棄にいたるライフサイクル全体を対象として、各段階の資源やエネルギーの投入量と産出物、及び環境負荷となる排出物量を定量的に把握し(インベントリー分析)、環境への影響を定量化し(影響評価)、環境改善に向けて意思決定を支援する手法”と解説されている。
 一方、消費者の環境問題、特に地球温暖化対策への関心が高まるなか、精製糖メーカーは、食品メーカーから精製糖のライフサイクル全体の二酸化炭素排出原単位(CO2排出原単位)(注3)を求められるケースも出てきている。即ち、顧客ニーズからも環境負荷排出物のうち、二酸化炭素にしぼったインベントリー分析結果を必要とする時代となっている。
 さとうきび・精製糖に関するライフサイクルとは、さとうきびの植付け準備から育成、収穫、製糖、さらに、海上輸送、精製、包装、そして、倉入れまでの全工程である。これら各段階における投入資材・エネルギーを調査し、そのデータをもとに二酸化炭素排出量を段階ごとに算出し、それらを累積し、最終製品の精製糖の二酸化炭素排出量を算出することは、さとうきび・精製糖が、地球環境にどのような影響を及ぼしているか、さとうきびがバイオマスとしてどれだけ優れているか、精製糖が食品としてどれだけ優れているかについてより正確に把握することを意味する。また、全工程の投入・産出そして、排出を俯瞰的に見ることにより、地球温暖化防止・省エネ・低コスト化を検討するための課題発掘に、大変有意義であると考える。
 今回、われわれは、徳之島とタイ東北部におけるさとうきび栽培、甘しゃ原料糖(粗糖)製造の各段階におけるCO2排出原単位の算出を試み、その結果を得ることができた。次に、この結果を用いて、粗糖原産地や構成比についてモデルを設定して国産粗糖と輸入粗糖を原料とした精製糖のCO2排出原単位を算定した上で、精製糖の食品エネルギー効率についても算出したので報告する。

注1:食品エネルギー効率とは、食品生産における原料の栽培から加工までの投入化石エネルギーと産出食品熱量との比(栄養熱量/投入化石エネルギー)をいうが、この比率が高い食品を食品エネルギー効率の優れた食品と定義する。

注2:2007年3月開催の第2回日本LCA学会において、“輸入糖を原料とした精製糖のLC―CO2”と題した報告[6]がなされている。この中で、タイから輸入した甘しゃ糖で精製糖を製造する場合、“投入化石エネルギーに対する産出栄養エネルギー比は約2.0”と算出し、精製糖は、他の食料素材に比べ、原料を輸入して国内で化石燃料を使って製造しても“食品エネルギー効率の高い食品である”と位置付けている。

注3:CO2排出原単位(ライフサイクルCO2、または、LC―CO2と呼ばれる)は、物質が天然の状態から今の状態にいたる間に、加工や運搬の過程で排出してきたCO2の累積量を、単位質量あたりに換算したCO2排出量をいう[3]。なお、ここでいうCO2は、化石燃料起源のCO2であり、バイオマスエネルギー利用において発生するCO2は含まない。

2.さとうきびから精製糖までのCO2排出原単位の調査方法

(1) 調査方法
 さとうきび栽培と粗糖製造の段階について、日本とタイで調査を行った。日本は、鹿児島県徳之島島内の2工場(さとうきび処理能力1,000トン/日・1,200トン/日;電動ミル・スチームタービンミル各1工場;石灰清浄法、多重効用缶、粗糖のみ生産)、タイは、東北部の三井製糖株式会社の関連会社であるクムパワピーシュガー株式会社クムパワピー製糖所(さとうきび処理能力15,000トン/日)を対象とした。
 徳之島では、特定非営利活動法人国際資源活用協会が南西糖業株式会社の協力を得て、さとうきび栽培ほ場・製糖工場・自治体堆肥製造所などにおける投入資材・エネルギーと産出製品・副製品・廃棄物について現地調査を行った。
 タイでは、三井製糖がクムパワピーシュガーの協力を得て、アンケート調査とヒアリングにより同様なデータ収集を行った。
 精製糖製造の段階については、三井製糖の炭酸飽充・骨炭・イオン交換樹脂清浄法の2工場を選んだ。
 各段階の基礎データは、日本は南西糖業・三井製糖の年報(2005年度)記載のデータ、タイはクムパワピーシュガーの平均的な操業と思われる期のデータをそれぞれ使用した。

(2) 調査範囲(システム境界)
 さとうきび栽培関連では、整地・株出し・耕作・収穫・輸送に使用する農業機械やトラックの燃料、堆肥・化学肥料・農薬などの投入資材を新植・株出し別に調査した。
 粗糖及び精製糖製造関連では、化石燃料・電力・用水・清浄材料・工程副資材・包装材料・排水処理・廃棄物処理など工場で使用する資材・エネルギーを対象とした(図1)。
 ただし、化学肥料・工程副資材などの現場までの輸送プロセスや工場建屋・機械装置など資本財のエネルギー解析は、ISO14041―6のカットオフの定法に従い、結果に大きな影響を及ぼさないので省略した。

図1 システム境界図


3.CO2排出原単位の算出方法と算出結果

 さとうきび栽培、甘しゃ原料糖製造、精製糖製造の各段階において、それぞれの工程で投入される資材・エネルギーの二酸化炭素排出係数(CO2排出係数)(注4)を用いて、それぞれの段階のCO2排出原単位を積み上げ法(注5)により算出した。
 CO2排出係数については、化石燃料は環境省公開データ、電力は調査工場地域の電力会社のデータ、投入資材の中で積み上げ法によるデータが報告されているものはそのデータを使用し、データを見いだせないものは、独立行政法人国立環境研究所が公開している“環境負荷原単位データブック(3EID)”と“味の素グループ版CO2排出係数データベース”[4]を使用した。対象工程の投入量・産出量は、調査結果を利用した。
 なお、算出結果で小数点1位未満と予想されるものは、カットオフの対象とした。

注4:本報告では、既に公開されている資材・エネルギーのCO2排出原単位をCO2排出係数と表現し、算定対象についてはCO2排出原単位と表現する。

注5:積み上げ法とは、対象とする製品の全ての前工程におけるCO2排出量を調査し、それらを累計して対象製品のCO2排出原単位を求める方法である。

(1) さとうきび栽培におけるCO2排出原単位
 南西糖業とクムパワピーシュガーの全面的な協力のもと、徳之島とタイのさとうきび栽培にかかわるCO2排出原単位を積み上げ法によって算出した(表1、図2、図3)。
 CO2排出原単位を算出するのに用いた投入資材・エネルギーのCO2排出係数の出典は、表1の脚注に示した。
 肥料・農薬・農業機械用燃料の使用量は、新植と株出しの収穫面積比で重み付けした結果をha当たりで記入した。近年のさとうきび平均株出し回数は、調査の結果、徳之島1.34回、タイ0.5回であった。
 農業資材・さとうきびなどの輸送用燃料は、輸送車輌の大きさで変化する。それぞれの輸送過程で燃料消費量を算出し、これを収穫さとうきび量で除して単位重量当たりで消費した燃料を算出した。
 項目ごとにCO2排出量を徳之島とタイで比較すると、肥料と農業機械燃料で徳之島が多く、徳之島がタイと比較してさとうきびトン当たりCO2排出量が多い理由になっている。

表1 さとうきびトン当たりCO2 排出量算出結果

さとうきび栽培の「CO2排出原単位」構成比率
徳之島

図2 徳之島のさとうきび栽培
さとうきび栽培の「CO2排出原単位」構成比率
タイ
図3 タイのさとうきび栽培

(2) 粗糖製造におけるCO2排出原単位
 徳之島(南西糖業の2工場平均)およびタイ(クムパワピー製糖所)の粗糖生産と国内精製糖工場までの輸送にかかわるCO2排出原単位を積み上げ法によって算出した(表2)。
 南西糖業の2工場では粗糖と糖みつを、クムパワピー製糖所では粗糖・白糖・精製糖・糖みつ・その他を生産しており、エネルギーや製糖副資材のほとんどが共通して使用され、分割把握することは困難であることから、粗糖の生産にかかわるCO2排出量は、これら生産額の価額案分により求めた。輸送などその使用目的が明確に分割可能な項目は個々に求めた。
 使用電力のCO2排出係数は、徳之島は九州電力徳之島発電所からのヒアリング値を、タイは公開されているタイ国内電力会社の値を使用した。
 クムパワピー製糖所では、バガスによる発電電力の一部を売電しているため、売電電力にタイ国内電力CO2排出係数を乗じたCO2排出量を控除してマイナス値で表中に現した。原料であるさとうきびのCO2排出量が粗糖のCO2排出原単位の7割以上(徳之島では9割近く)を占め、他は輸送にかかわるCO2排出量がほとんどである。製造にかかわるエネルギーはバガスボイラおよび発電により賄っており、これが粗糖のCO2排出原単位が低い要因であると言える。
 精製糖工場到着の粗糖のCO2排出原単位について、徳之島とタイを比較すると、表2で明らかなとおり、徳之島では原料のCO2排出原単位が高く、売電も行っていないため、輸送距離が短いにもかかわらず、311kg―CO2/t―RSとタイの約1.5倍の値となった。
 一方、タイでは、原料のCO2排出原単位が低く、売電による控除があるので、工場が内陸地にあるための陸上輸送及び日本への海上輸送にかかわるCO2排出量が比較的大きいにもかかわらず、トータルでは小さな数値となった。

表2 精製糖工場到着の粗糖トン当たり CO2 排出量算出結果
 
図4 徳之島とタイの粗糖のCO2 排出原単位(精製糖工場到着ベース)

(3) 精製糖製造におけるCO2排出原単位
 南西糖業及びクムパワピー製糖所におけるCO2排出原単位の解析を基に、三井製糖2工場の精製糖製造に関するCO2排出原単位を積み上げ法によって算出した。てん菜原料糖は、CO2排出原単位の積み上げに必要な投入資源・エネルギーの値が入手できなかったため、今回の計算では除いた。
 粗糖のCO2排出係数は、今回算出した、南西糖業(国産糖)及びクムパワピー製糖所(輸入糖)の積み上げ値をモデルケースとして使用した。すなわち、南西糖業データを国産粗糖のCO2排出原単位の代表値、クムパワピー製糖所データを輸入粗糖のCO2排出原単位の代表値として、使用比率で重み付けし、精製糖のCO2排出原単位を求めた(表3、図5)。
 その結果、精製糖製造に占めるCO2排出原単位は、粗糖由来が約41%、エネルギー由来が約55%である。今回明示はしていないが、エネルギー由来のCO2排出量は90%内外が購入燃料由来、残りが買電である。

表3 精製糖のCO2 排出原単位の構成
三井製糖(株)2工場の加重平均
 
図5 精製糖のCO2 排出原単位の構成

(4) バガス利用による精製糖のCO2排出原単位の低減効果
甘しゃ糖工場においてバガスを利用することによる精製糖のCO2排出原単位の低減効果について、バガスを化石燃料に置き換えたケースを仮定して、以下の前提をおき計算を試みた。

バガスボイラシステム熱効率:ηb
国内精製糖工場化石燃料システム熱効率:ηf
甘しゃ糖工場で消費するバガスの量:Wb(t―bagasse/t―raw sugar)
バガスの低位発熱量:Hb(Mcal/t―bagasse)
原油の低位発熱量:Hf(Mcal/L―crude oil)=10.0
原油の仮想消費量:Wf(L―crude oil/t―raw sugar)
原油のCO2排出係数:Ef(kg―CO2/L―crude oil)=3.11

消費バガスエネルギーの換算原油量
 Wf=Wb×Hb×ηb/(Hf×ηf)(L―crude oil/t―raw sugar)……①
換算原油量を燃焼したときのCO2排出係数:Bf(kg―CO2/t―raw sugar)
 Bf=Wf×Ef(kg―CO2/t―raw sugar)……②

 燃料バガスを化石燃料に置き換えたケースの検討結果を以下にまとめた。
a)南西糖業とクムパワピー製糖所のバガスボイラ熱効率は、ほとんど同じ数値であった。化石燃料を使用する国内2精製糖工場のユーティリティシステムの熱効率もほぼ同じ数値であり、バガスボイラに比べて約9%高い結果であった。
b)南西糖業で得た②式の結果を、国内粗糖製造で使用したバガス燃料の原油換算CO2排出係数とし、同様にクムパワピー製糖所で得た②式の結果を輸入粗糖の原油換算CO2として、それぞれ重み付け後に合計した。これは、日本の精製糖工場到着のバガスエネルギーの原油換算CO2であり、結果は、粗糖当たり1,010kg―CO2/tとなった。日本で使用する粗糖を約150万トンとすると、その生産に使用されたバガスエネルギーは、原油換算CO2で150万トン、原油48万KLに匹敵する。なお、本誌2007年2月号によれば、国内精製糖工場のエネルギー利用によるCO2排出量は約42万トンであり、その約3.6倍である。
c)表2で求めた精製糖工場到着の粗糖がバガスを使用しないケースで推算すると、CO2排出原単位は、1,250kg―CO2/tとなる。すなわち、化石エネルギーを使う仮想ケースの16%のCO2排出原単位で生産を可能としている結果となった。
 このことから、バイオマスエネルギーを活用する甘しゃ糖産業は、地球温暖化に対するCO2負荷を抑えた生産を実現していることが理解できる。

4.精製糖の食品エネルギー効率

 今回、積み上げ法により、精製糖のCO2排出原単位を得ることができたので、さらに、精製糖の食品エネルギー効率について計算した。
 食品生産における投入エネルギーと食品の栄養熱量との比率については、食品素材について発表[5]されているが、投入エネルギーは産業連関表を基にしている。
 食品の積み上げ法によるCO2排出原単位の解析は、近年、日本LCA学会食品研究会等で進められており、その結果が発表されている。積み上げ法で得たCO2排出原単位を原油の発熱量当たりのCO2排出係数(0.286g―CO2/kcal、ただし、発熱量は高位発熱量ベース)で除することにより、食品の投入化石資源エネルギーの原油換算量を得ることができる。
 今回得た精製糖のCO2排出原単位および上述の食品研究会等から発表されている炭水化物・油脂関連食品を選び、そのCO2排出原単位から原油換算投入化石エネルギーを計算し、次いで、食品の栄養熱量(産出エネルギー)との比率、すなわち食品エネルギー効率を計算した。
 その結果が、表4である。精製糖は、その産出・投入エネルギー比は2を超えており、調査した範囲では喫食可能な状態の食品として最もエネルギー効率の高い食品に位置し、食品エネルギー効率が優れた食品と言える。
 なお、食品産業においては、液体の蒸発を伴う工程を持つ業種は、エネルギー多消費型とされる。甘しゃ糖工場は、甘しゃ汁から結晶を取り出す工程を持つので、産業形態はエネルギー多消費型となるものの、表4に示すとおり、精製糖の産出・投入エネルギー比が優れているのは、さとうきびからエタノールを生産するときと同様、甘しゃ糖工場においてエネルギー源としてカーボンニュートラルのバガスを使うシステムができているからである。

表4 食品の産出・投入エネルギー比

5.CO2排出原単位の算出結果から見た今後の検討課題

(1) さとうきび栽培における環境負荷の低減に向けて
 今回、さとうきび栽培において、肥料と農業機械燃料の投入量が多く、これがさとうきびトン当たりCO2排出量を高めていることが分かった。
 日本のさとうきび栽培は機械化されているので、農業機械が化石燃料を使うのは避けられない。しかし、機械の無駄な移動を少なくするなど地域での効率的な運用を図ることによって、CO2排出を抑えることができる。
問題は、日本の窒素肥料の多用である。狭い耕地で収穫を上げるには窒素肥料が欠かせないが、窒素肥料は、他の肥料に比べ生産過程でCO2排出量が多いだけでなく、施肥後に、地球温暖化係数でCO2の310倍とされる一酸化二窒素も排出されるので、より深刻な問題として検討しなければならない。なお、化学肥料には、地下水への浸透という問題もあり、化学窒素肥料を減らし、有機窒素肥料や緩効性肥料の適期・適量の施肥が是非必要である。
 亜熱帯でのさとうきび栽培は、病害虫が多く発生し、雑草も繁茂するので、多収を考えると農薬は必須である。農薬は、その製造に多くのエネルギーが使われると予想され、ほ場での農薬使用重量は少なくても、使用に伴うCO2排出量を無視することはできない。今回の調査において、タイで使用している個別農薬のCO2排出係数の公開データは入手できたが、徳之島で使用されている農薬については、関係機関からCO2排出係数推算に必要な基礎データの提供を受けることはできなかった。
 今後の農業製品のライフサイクルインベントリ分析のためにも、関係機関から日本国内で使用されている主要農薬についての基礎データの公開が望まれる。

(2) 粗糖製造におけるバガスなどの高度利用
 バガスは、ある程度以上のさとうきび処理能力を持っている工場では、自己のエネルギー源として使っても余るので、余剰分は堆肥や敷き料として利用される。処理能力が大きければ大きいほど余るので、かつてその処理に困ることもあったが、現在、世界的には、余剰バガスを使った売電が行われるようになり、甘しゃ糖工場の一つの事業分野にもなってきており、バガスの省エネにおける重みが増してきている。
 製糖工場の省エネ対策については、低コスト化の観点からも再検討する必要がある。
 バイオマス全般にいえる欠点の一つは、水分を多く含み、燃料にするときのエネルギー効率が悪いことである。バガスも通常約50%弱の水分を含んでいる。
 バガスボイラからの煙道ガスは、エアーヒーターなどに利用されているところもあるが、バガスの乾燥などにも有効で、利用価値がある。また、バガスは、熱帯地方では天気によっては屋外でも乾燥でき、さらに通気性のあるコンベヤーで送ることによっても乾燥でき、より高度のバイオマスエネルギー利用が可能である。
 CO2排出削減にもなるバガスによる売電は、どこの国でもできるようになりつつある。
 製糖工場内の省エネ対策としてのバガスの高度利用は、従前とはまったく違った価値を持ち、経済性が出てきている。
 余剰熱を使いバガスを乾燥して燃焼効率を高めることも経済性が出てくるであろう。今後実用化が注目される技術である。
 日本ではバガスを使った売電は、余剰分が少ないのと、季節性が問題で実例はないが、少しでも地球温暖化防止に役立つよう是非電力会社の理解を得たい。
 さとうきびエネルギー利用の先発国ブラジルでは、バガスだけではなく、トラッシュ(梢頭部、葉)をバイオマスエネルギー源として利用することを真剣に検討している。ハーベスタによる収穫で工場に持ち込まれるトラッシュはその始末に困り厄介者である。しかしブラジルでは畑に残されたトラッシュをどうやって集めるか、いくつかの試みがなされ、その経済性が比較検討され膨大な報告書が出されて、バイオマスエネルギー価値が検討[7]されている。しかし、畑に残されたトラッシュを収集することは、さとうきび畑にとって土壌の生物学的、物理的地力を損なうのではないかと懸念される。さとうきび収量には問題ないとの報告[8]もあるが、例が少なく慎重に調査検討する必要のある今後の課題である。

(3) 精製糖におけるCO2排出原単位の低減
 本誌でも2007年2月号に、精糖工業会斉藤氏が“精製糖工場における省エネと二酸化炭素の削減について”と題し、精製糖工場の化石燃料と電力の消費量を主として原単位面から経年的に考察し、業界が長年取り組んできた省エネ対策について報告しているように、精製糖工場は従来からエネルギーを多量に使用するので、コスト面からも省エネを進めてきた。しかし、今後地球温暖化防止のための関連施策が厳しくなると、事業所の温暖化ガス排出減の努力義務が削減義務へと強化され、更には環境税(炭素税)、CO2排出権取引へと進むことも考えられる。このような状況から、従来の化石燃料価格を主とした経済性検討を社会的規制の面からも、再検討すべき時が来るであろう。
 あらかじめ予想されたことではあるが、精製糖工場におけるCO2排出量の半分以上は燃料、電力などのエネルギー源によるものであり、精製糖のCO2排出原単位を減少するためには、これらの削減及び、よりCO2排出量の少ないエネルギー源への変更が必要となってくる。このためには、今まではコスト面で採算性が得られなかった省エネルギー設備、施策などを前もって検討を開始すべきである。
 また、精製糖のCO2排出原単位の4割以上を占める原料については、今回てん菜原料糖の積み上げ法に必要なデータが入手できなかったため、甘しゃ原料糖のみについて計算した。しかしながら、一部公開されているデータによれば、てん菜を原料とした砂糖のCO2排出原単位はかなり大きいと予想される。日本の農業制度・施策の中で、精製糖工場は将来とも一定割合のてん菜原料糖を使用していくのであるから、顧客ニーズを満たすためにも、今後のてん菜原料糖の積み上げ法によるCO2排出原単位の算出が待たれる。

(4) バイオマスとしてのさとうきび
 バイオマス全般にいえる欠点は、水分を多く含むことの他に、林地残材や麦わら・稲わら・もみ殻のように散在しているので、収集・集荷が困難であることだが、さとうきびは、既に大量集荷システムができ上がっており、栽培・収穫も大規模化され、製糖工場にはエネルギー転換プラント=ボイラ・発電タービンがすでに設置されている。
 もうひとつは、収穫に季節性があることである。これはさとうきびも同様だが、製糖所から排出される余剰バガス・トラッシュなどをバイオマスエネルギーとして利用するときは、各地域で、収穫期を異にする他のバイオマスを併せて利活用することが必要であろう。
 現在、世界各国で各種バイオマスからバイオエタノールが生産されている。バイオマスはカーボンニュートラルではあるが、原料農産物の耕作から収穫・輸送・エタノール製造・配送まで、どのくらいエネルギーを使い、どのくらい地球温暖化ガスを排出しているかについて、厳密に算出することが必要である。また、産出エネルギーに対する投入化石エネルギーの比についても計量的な検証が少ないと思われる。
 また、バイオエタノールを生産することだけに集中するだけでなく、バイオエタノールを製造するために、どれだけ化石エネルギーを使っているのか、最終的にどれだけ化石燃料起源のCO2排出削減に役立っているのか、今回の算出と同様、数値的に示すことが望まれる。
 この面では、バイオエタノール先進国ブラジルのデータを使用して小林氏が報告[9]しているが、日本独自の詳細なデータが欲しいところである。
 現在、世界のバイオエタノールは、主として、コスト的にも技術的にも安易な食料原料作物から生産されており、食料生産とのバランスへの配慮が必要である。今後、量的に拡大していけば、食料との競合が国際的に問題となる。熱帯雨林などで耕地拡大していけば、地球環境破壊を指摘されるであろう。いずれにしても、先進国の車を動かすため、世界的食料難に陥らないよう考えるべきで、この点政府が進めている非食料農林産物・廃棄物を原料としたバイオエタノールの開発実用化がまたれる。日本の援助で、来年から稼動が見込まれているタイでのバガスからのバイオエタノール工場の成功を期待したい。

(5) 砂糖技術者への期待
 さとうきびは、エネルギー作物として優れており、また、さとうきびから生まれる数多くの有用物質を考えると、さとうきび産業は従来の食料品製造業だけではなく、地球環境問題に対処するバイオエネルギー面から見直され、これらを組み合わせた新しいビジネスモデルができつつある。
 非食料農産物のバガスをバイオマス燃料やバイオエタノール原料として用いる場合、バガスの量的需要に対応するため、製糖工場内の省エネの徹底見直し、バガスエネルギーを有効に活用するためのバガス乾燥装置の開発、さとうきびの大増産等総合的に検討する必要がある。
 地球温暖化問題は、公害と違い地球規模の問題であり、省エネ・低コストの海外での実施は、そのまま日本にも貢献することとなる。日本で実施してきた製糖・精製糖技術・省エネ技術・合理化経験を海外で生かし、京都議定書のCO2排出権取引(Clean Development Mechanism)案件とすることができれば、日本でのCO2排出削減分に積み上げられることとなる。これができれば、日本での企業活動で排出するCO2量を世界的規模でオフセットできることとなり、大きな意義を持つことになる。

6.結びに

 地球温暖化に関心が集まり、企業の環境に対するマネジメントシステムについてISO14001の認証を受ける企業も多くなり、企業のCSRの最大の関心事として“企業の環境報告書”を出すところも多くなってきた。
 今回、さとうきびから精製糖までのライフサイクルにおけるCO2排出量を詳細な積み上げ法で算出し、また、砂糖が、産出栄養エネルギーと投入化石資源エネルギーとの比で2を超え、喫食可能食品では最も食品エネルギー効率の高い食品であることを示した。
 今後は、日本のてん菜原料糖・てん菜糖についても、関係者の協力を得て、詳細な積み上げ法で算出を試みたい。
 砂糖業界も地球環境問題に企業の社会的責任において、より一層対応しなければならないであろう。そのとき砂糖業界がどのような位置付けであるか認識し、地球温暖化防止に向けて諸対策を進めるに当って、この報告がその一助になればと願っている。
 なお、今回の算出に当って、その趣旨を理解され、積み上げ法に必要な各種詳細なデータをご提出いただいた南西糖業株式会社ならびにクムパワピーシュガー株式会社に対し厚く御礼申し上げます。

(参考文献)
[1] 大聖康弘(早稲田大学)・三井物産(株)、「バイオエタノール最前線」工業調査会
[2] 柴田洋一(帯広畜産大学)、「エネルギー資源としてのてん菜」『砂糖類情報』2005年9月号
[3] 室山勝彦(関西大学)、「食品製造におけるバイオマス廃棄物の利活用とCO2排出に関するライフサイクルインベントリー解析」 日本LCA学会誌 Vol.2No.4Oct.2006
[4] 味の素株式会社、「味の素グループ版食品関連材料CO2排出係数データベース(’90・’95・’00年版 3EID対応)」
[5] (社)資源協会編、「家庭生活のライフサイクルエネルギー」平成6年9月発行
[6] 佐藤邦光・辻本進―(味の素(株))、「輸入糖を原料とした精製糖のLC―CO2」『第2回日本LCA学会研究発表会講演要旨集』2007年3月
[7] S.J.Hassuani,M.R.L.V.Leal,I.deC.Macedo,”Biomass power generation: Sugar cane bagasse and trash” Published by PNUD & CTC
[8] 比嘉明美、伊良部忠雄ほか、「長期運用が作物と土壌に与える影響」沖縄農業試験場土壌保全研究室報告書(平成9年3月)
[9] 小林久(茨城大学)、「燃料エタノール生産・利用における温室効果ガス排出の削減効果」


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