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砂糖の多目的利用について〜発酵で得られる中間化学原料への利用〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2008年8月]

【視点】
 
精糖工業会 理事
斎藤 祥治

はじめに

 甘味料として古来より長い間、使用されている砂糖(ショ糖)は、糖の中では比較的、化学的に安定な化合物であるが故に、化学原料として使用されている例は、あまり多くは知られていない。以前、本誌に神戸大学名誉教授の河本正彦博士が“砂糖は甘いだけのモノではない―化学工業原料としての砂糖―”(1999年9月号)との稿を寄せられているが、現在、同様なことを書くにしても、その後の進歩は、牛歩の如くであり、進歩総説の材料はなかなか見当たらない。
  視点を変えて見ると、砂糖それ自体を直接、化学原料として使用するのは、困難な面があるが、発酵を利用すれば(図1)、中間化学原料の材料となる成分が得られることに気付く。そこで本稿では、平成19年度で終了した「砂糖消費拡大推進事業」の一環として2年間にわたり「砂糖の新規用途利用調査研究事業」で行われた研究成果の一端を参考にして、“現在実用化されている、または近い将来に実用化される可能性がある、あるいはアイデアの段階である”かもしれない、ことを念頭に、発酵により得られる成分から作ることのできる化学製品について紹介したい。


図1  ショ糖(砂糖)を炭素源とする主な発酵


1.バイオエタノールの生産とその利用

 さとうきびに含まれる砂糖を発酵してバイオエタノールを生産し、それを燃料として利用する政策は、1970年代中頃にブラジル政府によるさとうきびを原料として生産したエタノールを石化燃料の代替として使用する方針をとった、「プロアルコール政策」が最初である。その後、この政策は、徐々に進展していたが、2004年からは原油価格の高騰のあおりで、生産が一気に加速し、2000年に106億リットルであったのが、2005年には生産量が157億リットルまで増加した。バイオエタノールは、現在では、砂糖を原料とする以外に、とうもろこしのでん粉をはじめとする食料を原料に用い、二酸化炭素排出量の削減手段、高騰する石化燃料の代替エネルギーとして、世界各国で生産が試みられ、生産量も増大している。ところが、最近になり、そのことが、国際的な食料価格高騰の一因と見なされ、物議を醸している。食料を燃料として使用するのは、人類の生存を脅かす重大問題であると。しかしながら、二酸化炭素排出量を削減しなければ、いつの日にか、温暖化により作物耕作適地が失われ、食料生産にブレーキがかかり、食料不足が到来することが予期されているのも事実である。
  一方、バイオエタノールは燃料だけではなく、色々な化学原料としても使い途のある魅力的な物質である。最近になり、この点も注目され、化学工業原料の中間体としての利用法が開発されてきている(図2)ので、その一端を示す。


図2  エタノール(バイオエタノール)を経て各種化学製品の生産


①エチレン
  エチレンは化学原料として重要な基礎物質であるが、従来、世界の多くの国では原油を分留して得たナフサを熱分解して生産してきた。ところが最近になり、化石資源由来のナフサからでなく、再生可能な植物資源を利用して得たエタノールからエチレンを生産する技術が開発された。実用化されれば、化石資源の枯渇問題も解消されるし、二酸化炭素排出量の削減にも貢献できる可能性を秘めた技術である。
  注目されるこの技術は、バイオエタノールからエチレンを連続的に生産できる方法である。すなわち、触媒として酸素・アルミニウム・ケイ素・リンからなる直径0.43ナノメートルの微細な空洞が多数空いたものを石英製の反応管に詰め、反応管の上部からバイオエタノールを流し込み、反応管を400℃に加熱すると、水とエチレンが生成されるので、このエチレンを従来の化学工業で中間原料として利用する。
  エチレンを中間原料として生産される工業製品の例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、エチレングリコール、塩化ビニル、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどがある。
  ポリエチレンは、エチレンを共重合することにより製造されるが、共重合の方法を変えることにより、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの2種類のポリエチレンを製造することができる。低密度ポリエチレンは、エチレンを超高圧下で加熱・重合して製造され、食品などの包装材や農業用のハウス・トンネル用資材などに利用されている。一方、高密度ポリエチレンは、低圧の状態で触媒により重合して製造する。ポリ袋や薬品の袋などの用途がある。
  ポリスチレンはエチレンとベンゼンから脱水素反応によりスチレンモノマーを製造し、このモノマーを重合して製造する。このポリスチレンは、電気絶縁性が良いため、電気製品などに多く使われている。
  エチレンを酸化し、エチレンオキシドを作り、さらに加水分解するとエチレングリコールを作ることができる。このエチレングリコールを重合することにより、ペットボトルに使用するポリエステル樹脂が製造される。
  石炭化学で生産されるポピュラーな製品として、アセチレンから合成される塩化ビニルがよく知られているが、この塩化ビニルはエチレンからも合成されている。塩化ビニルをエチレンから得るには、まず塩化鉄(Ⅲ)を触媒として塩素と反応させ、1,2―ジクロロエタンを作る。その後、この1,2―ジクロロエタンを500℃、15〜30気圧に加熱圧縮することにより分解し、塩化ビニルと塩化水素を生成させる。通常、化学工場では、塩化ビニルを生産する時には、得られた塩化水素を空気と混合した後、塩化銅(Ⅱ)を触媒としてエチレンと反応させ、更に1,2―ジクロロエタンを生成させる。これを前述の方法で熱分解すれば塩化ビニルが得られる。そして、この塩化ビニルを共重合すれば、床材、ビニールシートなどに広く使われているポリ塩化ビニルとなる。
  工業的に重要な物質である酢酸ビニルは、エチレンと酢酸から合成されるが、反応性に富んでいるために、合成樹脂の原料として重要である。例えば、ポリビニルアルコールまたはポリ酢酸ビニル、もしくはエチレンとの共重合体の製造に使用されている。その一つが接着剤、洗濯のり、チューインガムベース、乳化剤、化粧品の基材などに利用されるポリ酢酸ビニルで、酢酸ビニルを重合することで得られる無色透明の熱可塑性樹脂である。
  また、エチレン酢酸ビニルコポリマーは、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体で、接着性と柔軟さを持つ合成樹脂であるため、紙容器などのコーティング材、布・紙ラベルの接着剤、エマルジョン系接着剤、チューインガムベース、人工芝、ビーチサンダルなどに利用されている。 

②アセトアルデヒド
  エタノールを触媒として塩化パラジウム(Ⅱ)(PdCl2)と塩化銅(Ⅱ)(CuCl2)を用いて酸化すると、アセトアルデヒドが生成する。また、エチレンを酸化してもアセトアルデヒドを作ることができる。このアセトアルデヒドは反応性が非常に高く、化学原料の中間体として貴重な化合物である。
  アセトアルデヒドを中間原料として生産される工業製品の例としては、酢酸、酢酸エチル、無水酢酸などがある。
  酢酸は、食用や溶剤、ポリマーの原料として重要な成分であるが、発酵法で作られる食用の酢酸を除く多くの酢酸は、化学合成により作られており、そうした合成法の一つがこのアセトアルデヒドを酸化することにより製造する方法である。
  酢酸には広い用途があり、エタノールと反応させてエステル化した成分(酢酸エチル)は、シンナー・ラッカーなど塗料の溶剤として、あるいはマニキュアの除光液として多用されている。酢酸エチルは、低沸点であることから、硫酸を触媒として酢酸とエタノールとを加熱、生成する酢酸エチルを連続的に蒸留して取り出すことにより、効率よく製造ができる。酢酸エチルは溶剤などの用途以外に、パイナップル・バナナなどの天然の果実油の中にも広く含まれる果実臭の成分の一つであるため、エッセンスなど食品添加物の成分としても利用されている。
  無水酢酸は、酢酸とケテンを反応させたり、あるいは無水塩化アルミニウムを触媒として酢酸とホスゲンを反応させたりして、工業的に製造される。無水酢酸は、強力なアセチル化試剤で、アセチルセルロースの製造などに用いられている。
 
③プロピレン
  ポリプロピレンの原料など、広い用途のあるプロピレンをエタノールから作る技術が開発されている。本技術を使えば、エタノールから直接99%以上、エチレンやプロピレンなどを得ることができる。
  多孔性のセラミック微粒子にニッケルをコーティングした触媒をカラムに充填し、そのカラムにエタノールを流すと、エタノールからエチレン、プロピレン、ブタンを得ることができる。温度などの反応条件を変えることにより、それらの成分の生成割合を変えることが可能である。
  プロピレンを原料とする製品の例としては、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンコポリマー、酸化プロピレンなどがある。
  リン酸を触媒にしてプロピレンを200℃でカチオン重合させると低分子量ポリプロピレンが、チーグラー・ナッタ触媒でプロピレンを重合させると高分子量のポリプロピレンが得られる。これらのポリプロピレンは、合成樹脂、繊維、フィルムの素材であり、一方、エチレンとプロピレンおよび非共役ジエンモノマーの共重合によって得られるエチレン・プロピレンコポリマーは、合成ゴムの原料となる。プロピレンカーボネートやポリウレタンなどのプラスチック原料である酸化プロピレンは、プロピレンを原料とし、クロルヒドリン法、ハルコン法などの方法、あるいは近年になり工業化されたプロピレンを過酸化tert―ブチルで酸化する方法などにより得られる。その他にも、ポリエステルや界面活性剤に使われるプロピレングリコール、フェノール樹脂など原料となるベンゼンとのアルキル化反応で生成するフェノール、化学工業での中間原料として広範な用途があるソハイオ法あるいはアンモ酸化と呼ばれるMoO3―Bi2O3―Fe2O3のような金属酸化物の触媒存在下で、プロピレンにアンモニアと酸素を作用させて生産されるアクリロニトリルがある。アクリロニトリルは、うま味調味料であるグルタミン酸塩(現在は、食用には使われていない)の合成に、あるいは共重合させることにより合成ゴムや合成樹脂などの生産に使われている。また、イソプロピルアルコール、アセトンなどの原料でもある。

2.アセトン・ブタノールの生産とその利用

 アセトンは、メタクリル酸メチル樹脂の原料となるメタクリル酸メチル(MMA)の原料である。一方、ブタノールは、代替燃料としてバイオエタノール以上に注目を集めている物質である。これらのアセトンやブタノールは、砂糖を含む糖みつを原料にして“アセトン・ブタノール発酵法”で製造することができる。第一次世界大戦の勃発により溶剤需要の高まりから、イギリスとアメリカで原料の糖から酪酸菌によりアセトンとブタノールを生成させるアセトン・ブタノール発酵が開発されたのが始まりである。しかし、その後、石油から安価にアセトンとブタノールを製造する技術が開発されたため、アセトン・ブタノール発酵技術は衰退し、顧みられることはなかった。ところがここに来て、石油の消費が地球温暖化の元凶とされ、アセトン・ブタノール製造にもこの影響が及んできて見直され、糖を利用したアセトン・ブタノール発酵が再び脚光をあびることになった。
  今までのアセトン・ブタノール発酵技術では、糖質を酪酸菌により発酵すると生成したアセトンやブタノールで菌が死滅してしまい、高濃度のアセトンやブタノールを含む発酵液を得ることができなかった。そのためアセトンやブタノールの抽出にコストがかさみ、安価な石油由来のアセトン・ブタノールに太刀打ちできなかった。しかし、現在では、高濃度アセトン・ブタノール含有発酵液に耐えられる酪酸菌が開発されたことにより、本技術(図3)はコスト的にも石油由来のアセトン・ブタノールと十分に競争できる段階に来ている。


図3  アセトンとブタノールから出来る化学製品


 
①アセトン
  アセトンは、マニキュアの除光液の主成分として使われているが、多くは、メタクリル酸メチルの原料として用いられている。メタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA、アクリル樹脂の代表例)を合成する際のモノマーであり、重合させたメタクリル酸メチルポリマーは、透明なプラスチックである。
 
②ブタノール
  1―ブタノールについて、ガソリンの代替燃料としての特性をエタノールと比べると、

1)  エタノールに比べ水との親和性が低い
2) 発熱量がガソリンとほぼ同じで、エタノールより30%も高い
3) ガソリンやエタノールより揮発性が低い
4) 輸送に関してパイプラインなどのガソリンのインフラがそのまま使える
5) その上、ガソリンと0〜100%まで、どのような比率で混ぜても、既存のガソリンエンジンがそのまま使える

などの利点あり、総合的に見てもエタノールと比べて扱いやすく、発熱量も高いといったことから、1―ブタノールはガソリンの代替燃料として理想的な物質である。
  一方、ブタノールには、前述した1-ブタノール(n-ブタノール)の他に、3つの構造異性体、2-ブタノール(2-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)が存在するが、発酵により得られるのは、殆どが1-ブタノールである。この1-ブタノールの化学原料としての用途は、他の構造異性体に比べ、少ないが、それでも有機化学や繊維生産の過程で溶媒として、塗料用シンナーとして、あるいは揮発性の小さい溶剤としての特性を利用してカラー塗料、あるいはブレーキ液などに用いられている。また、1-ブタノールを酸化して、生分解性プラスチックの原料である酪酸を製造することもできる。

3.プロパノールの生産とその利用

 糖みつなどを原料に発酵によりイソープロパノールとn-プロパノールを生産する技術が、現在研究されている。今のところ、n-プロパノールについては、グルコースを発酵させて、直接得ることのできる微生物や酵素は知られていないが、イソープロパノールについては、学会での発表などによると、大腸菌を使って生産する方法、アセトン・ブタノール菌のプラスミド形質転換系を用いてイソプロパノール生成能を付与することによりイソプロパノール生産を可能にする方法、メタノール資化性細菌による方法などが提案されている。いずれにしても、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心にして、大学や各種の研究機関で精力的に研究が行われており、近い将来には、実用化の可能性がある技術が開発されると思われる。
  イソープロパノールは、アセトン合成の中間原料として重要であり、グリセリンの合成原料としても用いられている。身近なところでは、自動車用の脱水剤(水抜き剤)としても利用されている。

4.微生物由来生分解性プラスチックの生産とその利用

 微生物を用いる生分解性プラスチック(表1)には、ポリヒドロキシブチレートのような脂肪族ポリエステル系生分解性プラスチックや乳酸を化学的に重合して製造するポリ乳酸がある。
  これらの微生物由来プラスチックは糖みつなどを炭素源として産生され、生分解性である利点を生かし、農林水産業用資材マルチフィルム、移植用苗ポット、釣り糸、漁網などを始め、使用後の回収・再利用が困難な分野を中心に、表2のような用途に利用されている。 


 
表1  各種微生物由来のプラスチックと天然系のプラスチック

表2  微生物由来生分解性プラスチックの用途


①脂肪族ポリエステル系生分解性プラスチック
  脂肪族ポリエステル系生分解性プラスチックは、各種の微生物により産生され、汎用樹脂に近い物性を持つために多方面での応用が考えられている。この脂肪族ポリエステル系生分解性プラスチックの1つに、ポリヒドロキシブチレート(PHB)があり、糖を炭素源としてメタン資化細菌、メタノール資化細菌、アルカリゲネス属細菌などを培養すると、PHBが菌体内に蓄積される。メタノール資化細菌の場合には、平均分子量が20万程度のPHBを生産し、生分解プラスチックとして実用化されている。ところが、分子量20万程度のPHBでは伸び率が低く、もろいため、用途が限られるので、さらに高分子のPHBを生産する微生物が求められている。最近になり、分子量250万のPHBを体内に蓄積するメタン資化菌の一種であるメチロシスティス菌や、平均分子量300万以上のPHBを蓄積するメチロシスティス菌などが発見されている。
 PHBは生分解性で耐熱性、耐水性、ガスバリア性があり、軟質から硬質までの幅広い物性を持った高分子ポリマーである。その上、環境にやさしい(エコ)材料としてグリーンプラスチックと称されており、医療用の手術用縫合糸、骨折固定材(ネジ、ピン)、不織布、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム:薬物伝達システム)などに使用されてきている。現在、PHBの特性を考え、用途開発が急ピッチで進められている。

②ポリ乳酸
  糖みつを炭素源にラクトバシラス属やラクトコッカス属などの乳酸菌により嫌気的条件で発酵すると培地中に乳酸が産生する。乳酸発酵には、使用した乳酸菌により乳酸のみを最終産物として作り出すホモ乳酸発酵とアルコールや酢酸など乳酸以外のものを同時に産生するヘテロ乳酸発酵がある。
  乳酸発酵では、経済性向上の観点から発酵と同時に溶媒抽出により乳酸を反応液から分離する方法が実用化されている。ところが多くの場合、用いる有機溶媒や抽出剤が乳酸生産菌に有毒であるため、菌が死滅し、効率的な発酵を阻害する。そこで、最近では、有機溶媒や、抽出剤に耐性のある乳酸菌と炭酸カルシウムをアルギン酸カルシウムに包括固定化してカラムを作成し、このカラムを組み込んだ抽出発酵装置で効率的に乳酸を発酵・抽出する技術、あるいは有機溶媒の代わりにイオン性液体を利用して発酵液より乳酸を抽出・分離する技術などが開発されてきている。
  発酵により得られた乳酸から、ラクチド法や直接重合により高分子量のポリ乳酸を製造する。ラクチド法では、乳酸を加熱脱水して重合し、低分子量のポリ乳酸を作り、この低分子ポリ乳酸のオリゴマーをさらに減圧下で加熱分解して、乳酸の環状二量体であるラクチドを得、このラクチドをオクタン酸スズ(Ⅱ)のような金属塩の触媒下で重合させ、高分子のポリ乳酸を製造する。一方、直接重合方式では、ジフェニルエーテルなどの溶媒中で乳酸を減圧下で加熱し、水を取り除きながら重合させて直接ポリ乳酸を製造する。このポリ乳酸はポリエステル類に分類され、カーボンニュートラルな合成樹脂として、現在、農産物由来の持続可能な素材として注目を集めている。
  また、ポリ乳酸にはポリ-L-乳酸(PLLA)とポリ-D-乳酸(PDLA)があり、L体とD体の立体配置の違いにより、互いに逆回りのらせん構造を取っている。そのため、PLLAとPDLAを混合すると、らせん構造がうまくかみ合い、耐熱性の高い、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SC-PLA)と呼ばれる樹脂を得ることができる。
  高分子のポリ乳酸は、「生分解性プラスチック」の中で、最も研究・実用化が進んでおり、環境中で加水分解により低分子化され、さらに微生物などで最終的に二酸化炭素と水になる。このような特性から、農業用のマルチシートやハウス用のフィルムとして、あるいは繊維製品、光ディスク、包装用フィルム、レジ袋などへの利用や応用の試験研究が進んでいる。一方、堆肥の中などのように微生物が豊富な環境でなければただちに生分解が起こるわけではなく、一般の合成樹脂と同様にほぼ安定であるので、家電の外装の素材(ラジオ・携帯電話ほか)としても、利用実績がある。
  最近の新聞に、某化学会社がでん粉を炭素源とし発酵により得たコハク酸を用いて、生分解性プラスチックの工業化を始めると報道されていたが、この炭素源であるでん粉を砂糖と代替することも可能であると推測される。

5.微生物セルロースの生産とその利用

 酢酸菌(アセトバクター属細菌)を砂糖を含む培地で、好気性条件下で培養すると、培地中に微生物セルロース(BC)が産生される。このBCは一般に、植物由来のセルロースに比べ結晶が規則正しく並んでおり、非常に細いリボン状繊維が複雑に絡み合ったネットワーク状の構造を有し、しかもこのポリマーは振動させても迅速に振動が収まっていく特性があるので、それらの特徴を活かして産業への利用開発が精力的に行われている。
  例えば、食品、各種工業材料、医療材料、化成品など種々の方面において、可食性セルロース、音響機器材料、外科用包帯、医薬含浸パッドなどの具体的な製品が提案されている。さらに、ハニカム構造体あるいはハニカム状多孔質体と呼ばれる機能性高分子材料が、近年注目を集めているが、このBCは、そのハニカム状多孔質体の一つである。そのため、微細空孔が規則的に配列した形状を有することから、半導体低誘電率材料、電子ディスプレイ用散乱層、磁気記録材料、細胞培養用基材など、用途への応用が検討されている。

おわりに

 砂糖を炭素源にして、発酵して得られる物質は、石油や石炭から得られる化学中間原料の多くを代替する可能性を秘めている。そして、発酵により得られる、例えば、ポリ乳酸や微生物セルロースのような素材は生分解性であり、土壌中で分解し、土に帰り、環境への負担が低減される。バイオエタノールの場合にはヒトが食する食料を炭素源とすることから、物議を呼んでいるが、地球温暖化との関係で化石資源の利用を制限することが、ますます必要になれば、いかに化石資源に変わる原料を確保するか問題になる。そうなると、単位面積当たりの生産量が多く、かつ栽培が比較的容易なさとうきびから生産される砂糖が化石資源に代わる植物起源の原料として、非常に高い適性を持っているのではなかろうか。また、さとうきび(C4植物)に比べ投入される肥料の量は多いものの、C3植物注としては光合成速度が高いてん菜から生産される砂糖にも期待したい。
  ここでは、主な発酵と生産物を示しただけであるが、この他にも多くの発酵があり、多種多様な生産物が得られている。今後は、さらなる研究が進み、砂糖を化学原料としての発酵生産物が得られ、その用途の研究が進むものと期待している。


表3  発酵により砂糖から得られる主な中間化学原料


(注)  光合成の初期産物として炭素数3の化合物を作る植物をC3植物、炭素数4の化合物を作る植物をC4植物と呼ぶ。
 C4植物は特定の条件下で、C3植物に比べ高い光合成(炭素固定)能力を示すことが知られている。(詳細については、砂糖類情報2007年2月号お砂糖豆知識「甘み・砂糖・さとうきび」(5)を参照。)



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