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砂糖需給要因特別調査事業実施報告

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

事業団から
[2000年6月]

シリーズ・農畜産業振興事業団助成事業の結果報告

 農畜産業振興事業団の助成事業も3年を経過し、その事業内容及び成果についての広報が各方面から求められています。ついては、助成事業実施主体からの各事業の実施報告をシリーズで掲載することとし、先月号では技術開発等推進事業についてご紹介しました。今月号では、砂糖需給要因特別調査事業について、(社)糖業協会から報告していただきます。

社団法人 糖業協会

I. 目的及び背景
II. 調査研究課題の選定
III. 研究成果の開発と成果
 (1) 砂糖を原料に用いた有用原材料 (糖酸、配糖体、新規糖類など) の生産
 (2) 砂糖を原料に用いた有用製品 (生分解性プラスチック、レジンなど) の生産
おわりに

I. 目的及び背景

 我が国の食生活において、砂糖は様々な面において重要な役割を果たしているが、近年、国民が砂糖について誤解していたり、砂糖の持つ機能・効用について十分理解していないこと等から、砂糖の需要が大幅に減少している。
 砂糖の需要拡大を図るため、砂糖の新規用途の様々な利用の可能性を明らかにすることを目的として、「砂糖の多目的利用調査研究事業」を実施した。
 本調査研究は農畜産業振興事業団助成事業の一環として、平成10年度から平成11年度にかけて行われたものである。
 砂糖は光合成によって炭酸ガスと水から効率よく多量に生産される物質である。この自然の恵みである炭素源を原料として、食品分野のみならず、医薬品、工業用品 (例えばプラスチック) などの新規物質を創り出す調査研究を有機化学的、酵素化学的方法を用いて行ったものである。



II. 調査研究課題の選定

 上記の目的を達するため、本事業を実施するに当たり、次の調査研究課題を選定した。

(1) 砂糖を原料に用いた有用原材料 (糖酸、配糖体、新規糖類など) の生産
a) 「糖質を原料にした機能性食品、医薬品原料の開発」
 春見隆文、小野裕嗣 (農林水産省食品総合研究所)
b) 「二糖類ホスホリラーゼ系酵素反応の組み合わせによる砂糖からのセロビオースの実用的生産法の開発」
c) 「砂糖を原料に用いた有用ウロン酸及び配糖体の合成」
 北畑壽美雄、中野博文、村上洋 (大阪市立工業研究所)
d) 「砂糖からの有用デキストランの合成と食品素材としての新規有用オリゴ糖の製造」
 木村淳夫、森春英 (北海道大学農学部)
e) 「サイクロデキストラン合成酵素 (CITase) を利用した、ショ糖からの新規糖質の合成」
 金子隆宏、高橋砂織、小林幹彦 (秋田県総合食品研究所)
f) 「特に砂糖よりデキストラン多糖の効率的生産と食品並びに飼料としての高度利用に関する基礎的研究」
 日高秀昌 (常磐大学短期大学部生活科学科)
g) 「納豆菌 (levansucrase) を用いて砂糖からレバンを大量合成し、食材としての機能を検討する」
 飯塚勝 (大阪市立大学理学部)、山口英昌 (同 生活科学部)
h) 「ショ糖資源を活用する高機能糖質高分子の開発」
 碓氷泰市、村田健臣 (静岡大学農学部)

(2) 砂糖を原料に用いた有用製品 (生分解性プラスチック、レジンなど) の生産
a) 「放線菌のポリヒドロキシアルカノエート生産系に関する基礎研究」
 坂野好幸 (東京農工大学農学部)
b) 「砂糖のエステル結合伸長による有用物質生産」
 萬代忠勝、奥本寛 (倉敷芸術科学大学)
c) 「有機合成化学手法による砂糖を用いた生分解性プラスチックの開発」
 山田哲也、寺西克倫 (三重大学生物資源学部)



III. 研究成果の開発と成果

(1) 砂糖を原料に用いた有用原材料 (糖酸、配糖体、新規糖類など) の生産

a) 糖質を原料にした機能性食品、医薬品 原料の開発
 砂糖などのフラノース骨格を有するヘキソース類は、加熱することにより、脱水と縮合が起こりヒドロキシメチルフルフラール (HMF) を生成することはよく知られている。今回、砂糖とクエン酸を混合、加熱して得られる反応混合物から4種のHMFの有機酸エステル類を単離した。いずれの成分も梅肉エキスの中に含まれており、試験管内の試験で血流改善効果のあることが認められた。これら HMF 関連化合物は砂糖から安価に製造でき、食品添加物や医薬への利用の可能性のある物質である。

b) 二糖類ホスホリラーゼ系酵素反応の組み合わせによる砂糖からのセロビオースの実用的生産法の開発
 砂糖に3種の酵素シュクロースホスホリラーゼ、キシロースイソメラーゼ及びセロビオースホスホリラーゼを2:1:4の比率で作用させることにより、効率よくセロビオースを製造した。また、原料の砂糖とセロビオースの水に対する溶解度の差を利用することにより、高純度のセロビオースを安価に調製できることも明らかにした。セロビオースは生体内の酵素で分解されず、ビフィズス菌選択増殖活性を有し機能性食品として期待されていたが、今まで安価な製造方法がなかった。本研究の成果によりセロビオースの実用的な製造方法が確立され、今後の用途開発が待たれる。

c) 砂糖を原料に用いた有用ウロン酸及び配糖体の合成
 糖エステル及び糖アミドなどの工業材料の合成原料として利用することを目的に、ショ糖をウロン酸に変換する微生物を検索した。その結果、ブドウ糖と酢酸あるいはプロピオン酸からなる糖脂肪酸エステルを合成することはできたが、目的としたショ糖骨格を含む糖エステルを合成するには至らなかった。
 有機化合物に糖が結合したものを配糖体という。一般に有機化合物は配糖化することにより溶解性、安定性及び安全性などが増すことが知られている。砂糖とヒドロキノン、及び砂糖とエピカテキン、エピガロカテキンガレートなどのカテキン類 (お茶の葉に含まれている有効成分) の混合液に、β-フラクトシダーゼを作用させ配糖化し、それぞれヒドロキノンβ-フラクトシド及びカテキンフラクトシドを合成した。両物質の美白活性をチロシナーゼ阻害活性 (チロシナーゼ活性を阻害する能力) を指標として、もとのカテキン類及び美白剤として化粧品に利用されているアルブチンと比較した。阻害活性は配糖化することにより若干減少したが、アルブチンとほぼ同程度の阻害活性が認められた。配糖化することにより溶解性、安定性などが増加し、皮膚に対する刺激性が低下するなど有用性が向上することより、今後、化粧品への用途開発が期待される。

d) 砂糖からの有用デキストランの合成と食品素材としての新規有用オリゴ糖の製造
 デキストランは砂糖より合成されるグルコース分子がα-1, 6結合した多糖類である。このデキストランを加水分解して効率よく三糖類、イソマルトトリオース (IM3) を生成する酵素及び四糖類 (IM4)、五糖類 (IM5) を蓄積する酵素を見出し、これら酵素を用いてIM3、IM4、IM5を生産した。これらイソマルトオリゴ糖は生体内の酵素で分解されにくく、ビフィズス菌選択増殖活性などの機能を有しているオリゴ糖である。しかしながら、今まで高純度なオリゴ糖の製造法が確立していなかった。今回の新規な酵素を用いた効率のよい製造法の開発により、高純度のオリゴ糖が安価に、安定的に供給することが可能になり、新たな用途が広がるものと期待される。

e) サイクロデキストラン合成酵素 (CITase) を利用した、ショ糖からの新規糖質の合成
 最近、デキストランからグルコース7〜9分子が、α-1, 6結合で環状に連なった環状デキストラン (CI ) を合成する酵素が見出された。今回、デキストラン合成酵素及び CI 合成酵素を用いて、砂糖から安価に CI を製造する方法を開発した。この CI はでん粉から合成される。α-1, 4結合のサイクロデキストリンに比べて水溶性が高く、また強い抗う蝕活性を有していることが分かっており、今後、機能性オリゴ糖としての用途が期待される。

f) 砂糖からのデキストラン多糖の効率的生産と食品並びに飼料としての高度利用に関する基礎的研究
 現在、デキストラン多糖は、分子量数10万〜数100万の高分子のものが製造され、医薬用途に用いられている。食品用途への利用には分子量1万前後のものが良く、その製造法を現在検討中である。
 砂糖からの発酵産物であるデキストランは、医薬用途に血漿増量剤として使用されている。今回、食品への用途開発を目指して、その生理機能を調べた。その結果、デキストランは食物繊維としての機能を有し、少量投与で便通改善効果及び整腸作用が認められ、機能性食品素材として、あるいは飼料としての用途開発が期待される。

g) 納豆菌 (levansucrase) を用いて砂糖から大量生産されるレバンの食材としての機能の検討
 レバンはフラクトース分子がβ-2, 6結合した多糖類で、砂糖にレバンシュクラーゼを作用させることにより合成される。納豆菌の酵素を用いて低分子レバン (平均分子量1万) と高分子レバン (平均分子量200万) を合成し、食材としての機能をラットを使って調べた。その結果、いずれのレバンも血中コレステロール低下効果が認められ (高分子レバンが効果大)、機能性糖質素材としての用途開発が期待される。

h) ショ糖資源を活用する高機能糖質高分子の開発
 プロテアーゼのエステル交換反応により、砂糖から活性化砂糖エステル誘導体 (シュクロースアクリレート) を合成し、次いでこれを単独あるいはアクリルアミドとの共重合により、糖含量の異なる2種類の砂糖を側鎖に結合させた高分子を合成した。その高分子中の砂糖分子はレクチンに対し、特異的に識別する能力を有し、かつ、本物質は各種の固体表面に強くコーティングできる特性を有していることが分かった。有害生物や病原菌などを特異的に誘引あるいは吸着することによる環境改善システム、あるいはアワビなどの栽培システムの構築に利用できるものと期待される。



(2) 砂糖を原料に用いた有用製品 (生分解性プラスチック、レジンなど) の生産

a) 放線菌のポリヒドロキシアルカノエート生産系に関する基礎研究
 細菌が砂糖などから生産するポリヒドロキシアルカノエートは、生分解性プラスチックの素材として期待されている。本研究では、異なる細菌起源のポリヒドロキシアルカノエート生産系の酵素を人工的に組み合わせ様々な性質のポリヒドロキシアルカノエートの生産を目指した。本研究では、通常のα-アミラーゼでは分解できない多糖プルランに作用する酵素を生産する特徴ある放線菌を材料として、本酵素を含むポリヒドロキシアルカノエート生産系に関連する一連の酵素遺伝子を取得・解析することにより、有用酵素の取得を行うことを検討した。
 初年度では、Thermoactinomyces vulgaris R-47が生産するプルラン分解α-アミラーゼであるTVAT及びTVAUの発現時期の解析、TVA I及びTVA II遺伝子の周辺領域の取得、及び塩基配列の解析を行った。2年度目では、初年度の塩基配列の継続及び本解析で得られた遺伝子による有用タンパク質発現系の構築を検討した。
 その結果、プルラン分解α-アミラーゼTVA Iの発現時期の解析及び本遺伝子近傍の塩基配列の解析を行い、A.eutrophus の3HB-co-4HBコポリマー代謝系と本プルラン分解α-アミラーゼの構成する代謝系が関連するものであることを明らかにした。また、TVA IIは、菌体内で大腸菌のマルトース代謝系やKlebsiellaのサイクロデキストリン代謝系と類似したオリゴ糖代謝系を構成する酵素であることが判明した。次に、本研究で得られた一連の遺伝子のうち、その遺伝子産物の一次構造が UDP-グルコース4-エピメラーゼ及びマルトース結合タンパク質に相同性が高い ORF-a 及び ORF-3に着目し、発現系の構築を行った (図1−1)。また、糖結合タンパク質については、大腸菌における発現ベクターの構築を行った。
 本研究で得た一連の新規タンパク質を用いることによって新規な素材の開発や糖のセンサーなどの開発につながることが期待される。
図1−1

図1−1


b) 砂糖のエステル結合伸長による有用物質生産
 本研究では、砂糖プラスチックが生分解により水と二酸化炭素のみになるように、砂糖分子を炭酸エステルで結合させたプラスチック (図2−1) の化学合成を目指した。初年度では、限定された構造の砂糖モノマー体の化学合成を検討し、2年度目では、初年度で見い出された化学合成法の改善及び重合反応の検討を行った。
 砂糖分子の1級水酸基のみに炭酸エステルを化学結合させるために、1級水酸基以外の水酸基の保護を検討した。その結果、図2−2に示す方法、すなわち、砂糖の2級水酸基のメトキシトリチル化、2級水酸基のベンジル化、1級水酸基のメトキシトリチル基の除去の順に化学反応を行い、目的とするモノマー物質の化学合成に成功した。
 2年度目では、初年度で得られた砂糖モノマーの重合のための化学反応条件の検討を行った。その結果、図2−3に示すポリマーの合成に成功した。
 さらに、シリル化糖の化学合成及びシリル化糖からのカーボネートポリマーの合成を検討し、図2−4に示す合成経路で砂糖プラスチックの合成に成功した。
 これらの結果から、さらに研究を進めることにより、本研究を実用化できるめどを付けた。

図2

図2−4

c) 有機合成化学手法による砂糖を用いた生分解性プラスチックの開発
 初年度では、砂糖が本来持つ親水性の性質と脂質が持つ疎水性の性質を合わせ持つことを特徴とする生分解性プラスチックを設計し化学合成を検討した。このプラスチックポリマーの繰り返し単位分子は−〔砂糖−脂質〕−を規制正しく持ち、砂糖分子単位間に生ずる水素結合を利用した砂糖分子−砂糖分子吸着及び脂質分子単位間に生ずる疎水結合を利用した脂質分子−脂質分子吸着により分子内部に脂質層を、分子両外部に砂糖層を持った3重層構造のポリマー分子である (図3−1)。本構造のポリマーは、これまでには無い独創的な全く新しいポリマーであり、生分解性をはじめ多くの機能を有するものと期待された。初年度前期では、図3−1の分子構造を有するプラスチックを効率よく化学合成するために、砂糖の選択的化学変換法の検討を行い、後期では、選択的に化学修飾された砂糖モノマーに脂肪酸を化学結合させ〔砂糖−脂質〕繰り返し構造を持つポリマーの化学合成を検討した。
 2年度目では、初年度とは異なった砂糖プラスチックを開発するため、砂糖分子の化学反応性に関するこれまで常識を打破した砂糖分子の他分子への化学変換法について検討した。
 砂糖分子の最も反応性の高い 6, 6′位の水酸基はコンピュータ計算により、同方向を向いた配座をとっていることが判明した。これらの反応部位に疎水性かつ直線性の脂肪酸を共有結合すれば、その疎水性により疎水結合し、秩序ある堅い分子が形成されるものとし分子設計を行い、化学合成を検討した。その結果、6, 6′位の水酸基のヨウ素化反応、アミノ化反応、脂肪酸との縮合反応の順に化学変換を行い、目的とする〔砂糖-脂質〕ポリマーの化学合成に成功した (図3−2)。
 2年度目では、砂糖分子を2級水酸基側の分子構造に着目し、2級水酸基のスルホニル化を検討した。コンピュータ解析の結果、砂糖分子では、2位、4位、1′位、3′位の水酸基によるキレート効果が観測された。そこで、反応条件を種々検討した結果、砂糖、トシルイミダゾール、モレキュラーシーブスとをN, N-ジメチルホルムアミド中で反応させると、2位選択的にトシル化が生じることを見いだした。この方法はトシル化のみでなく他のスルホニル化にも適用でき、6位、6′位、1′位を無保護で2位水酸基を各種スルホニル化できるため有用な反応であり、この反応を開始点に砂糖の3位、4位水酸基の変換も可能と思われる。本反応を用い図3−3に示すスチレンスルホニル化反応を行い、目的とする2位スチレンスルホニル体の得ることに成功した。この化合物は、プラスチックポリマーのモノマー原料となると期待される。
 これらの成果によって、砂糖の新規化学変換法が見い出され、また、新規砂糖プラスチックが開発され、今後、砂糖を原料にした生分解性プラスチックに推奨できる。


図3−1

図3−2
図3−3
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おわりに

 平成10・11年度の本事業において、砂糖の新規用途の様々な利用可能性に関して多くのことが明らかになった。これにより今後、さらなる砂糖の新規用途の開発・実用化が期待される。
 砂糖の新規用途開発は、単に砂糖の需要増進を図るだけでなく、カーボンサイクルの非常に短い砂糖を化石炭素源の一部と置き換えることで地球環境保全に役立ち、社会に大きく貢献することもできるといえる。今後とも本事業の結果をもとに砂糖の新たな可能性を探り研究を続けたい。

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