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砂糖と健康・東京フォーラム

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

事業団から
[2000年8月]

砂糖業界から

 砂糖は重要なエネルギー源であり、その甘味が人々に好まれている反面、砂糖に対する様々な誤解が巷に広まっています。  こうした状況下、(社)糖業協会、精糖工業会、砂糖を科学する会主催による「砂糖と健康・東京フォーラム」が6月17日(土)、18日(日)の両日、東京で開催されました。フォーラムにおいては、国内外の専門家の講演やパネルディスカッションが行われ、最後に「21世紀に向けて、砂糖が安全で有益な食品である」ことをアピールする東京宣言が採択され、閉幕となりました。  フォーラムにおける講演内容は次のとおりです。

「砂糖と健康」東京フォーラム事務局

砂糖と心の健康
 マサチューセッツ工科大学臨床医学研究所主任研究員 理学修士
 MS RD Rita Tsay
砂糖の代謝とブドウ糖の作用
 女子栄養大学副学長 医学博士 香川靖雄
砂糖と肥満、ストレス
 共立女子大学教授 医学博士 井上修二
砂糖、健康、食習慣・事実と虚構
 ロンドン大学医学部健康と行動研究室特別研究員 医学博士
 Ph. D. Edward L. Gibson
脂質代謝と肥満
 茨城キリスト教大学教授 医学博士 坂倉弘重
肥満の現状
 桜美林大学教授 医学博士 柴田 博
東京宣言

砂糖と心の健康

マサチューセッツ工科大学臨床医学研究所主任研究員 理学修士
MS RD Rita Tsay

 食品の役割は、飢餓感を満足させ、栄養失調を防ぐという基本的なものだけではなく、新しい役割として気分や精神状態の調節に大きく関わっていることが、昨今の栄養科学の研究にて明らかになってきています。特に、神経伝達物質であるセロトニンは、アミノ酸であるトリプトファンから作られ、気分や食欲に大きな影響を及ぼしています。
 臨床研究結果を見ると、肥満や月経前症候群、季節性の情動不全等によって、孤独感や疲労感、倦怠感を感じたり、抑うつ感や気分の落ち込みを感じる人々の多くは、食べることによって満足感を得ようとしています。これは脳内でのセロトニンレベルが不十分であることを示しており、このレベルが不十分であることでストレスを感じ、さらにこのストレスでセロトニンの代謝がより早まってしまっているのです。そのため、これら症状の人達は、炭水化物渇望の症状である甘いもの、でん粉質等の炭水化物を大量に摂取する傾向があります。これは、炭水化物が脳内に多くのトリプトファンを取り込み、その結果、セロトニンの産生を増加させる働きがあるからです。この時に、炭水化物を単体で摂取せず、他の栄養素、特に脂肪と一緒に摂取してしまうために肥満になってしまいます。
 気分の高揚や食欲増進に効果のあるセロトニンは、肉等のたんぱく質に含まれるアミノ酸のトリプトファンから脳内にて産生されますが、トリプトファンが脳内に入っていくためには、ブドウ糖の存在が必要 (ほとんどはインシュリンですが) です。しかも、多くの炭水化物の中でも分子量の小さい砂糖のような炭水化物が有効であると言えます。
 したがって、糖分やその他の炭水化物を摂取することは、脳内のセロトニンレベルを上昇させ、精神的健康 (メンタルヘルス) にメリットがあります。日本の間食という習慣というのは、炭水化物の摂取が多いようですが、これは理にかなっていると言えます。



砂糖の代謝とブドウ糖の作用

女子栄養大学副学長 医学博士 香川 靖雄

 砂糖やブドウ糖は全身のエネルギー源であり、特に脳のエネルギー源として必要です。食事から摂った炭水化物は4時間くらいで全て吸収されてしまいますので、その後は肝臓や筋肉のグリコーゲンを解糖して使います。そのため、糖質の多い食事を運動や試合の前に摂取し、筋肉に貯えるという方法は、マラソン等の持久力を必要とする運動のスタミナ作りにはとても良い方法です。
 現在、朝食を食べないという人が非常に多くなっています。朝食を摂らないと、前夜の夕食で貯えた栄養を消費することになります。脳のエネルギーはブドウ糖だけですので、血糖を維持するために筋肉のたんぱく質を分解して血糖を保とうとします。そのため、朝食を欠食すると午前中の活動が緩慢になるほか、脳へのブドウ糖の供給も不十分になるので学力も低下します。また、このように筋肉のたんぱく質の分解を繰り返していると、高血圧等の生活習慣病の原因になります。
 朝、時間が無ければ、消化吸収の早い砂糖入りの飲料が役立ちます。朝食の欠食は一方で、ノルアドレナリンという交感神経が興奮させ、攻撃性や衝動性を増加します。現在、問題になっている少年の非行は、乱れた食生活が原因であり、糖分だけの問題ではありません。
 砂糖は昔は貴重品でした。皆がそのおいしさに憧れました。生活に潤いを与える砂糖は、脳の機能を高め、筋肉の疲労を速やかに回復させます。砂糖そのものは害ではありませんが、砂糖だけを食べていては健康を保てません。これらの砂糖の有効性を念頭に、栄養や社会文化を考慮し、バランスの良い食事の一環として砂糖と総合的に付き合うことが大切です。



砂糖と肥満、ストレス

共立女子大学教授 医学博士 井上 修二

 砂糖は味が良く、非常に吸収しやすく利用されやすい栄養素です。また、ブドウ糖は脳にとって唯一のエネルギー源です。ですので、低血糖のような状態が2時間続くと植物人間になってしまいますし、5時間以上続くと死亡してしまいます。
 このような長所を持つ砂糖も一方では、肥満の原因であると言われています。ラットを使用した新しい実験結果を見ますと、仮に砂糖を60%使用した高砂糖食でも、摂取カロリーが適切であれば肥満にならないという結果が出ています。しかし、このような食事に高脂肪食を混合すると肥満になってしまいます。では、何故脂肪が悪者にならないか。これは脂肪が食事の主食に取り込まれているためだと思われます。一方、砂糖は味付け以外では、デザートや間食等、既にいっぱい食べた後に付加する形で食べることが多いので、カロリー過剰となり、その時に食べるのが砂糖なので、砂糖は太るという概念が定着したと考えられます。ですから、砂糖を食べても与えられたカロリー、これだけ食べたら太らない、という食べ方をしていれば太りません。また、砂糖はストレスの影響を弱める作用があるということも分かっています。ストレスを感じると脳内にストレスタンパクという遺伝子が発現します。高砂糖食を食べることで、このストレスタンパクが和らげられます。ですので、ある程度の軽いストレスであれば、食べすぎないような形で甘いものを摂るということはストレスの影響を和らげる効果があると言えます。
 日本における肥満の程度は軽いですが、肥満に関連する合併症や生活習慣病の問題は欧米と同じように重要な社会問題になってきています。ボディ・マス指数 (BMI、体重 (kg) ÷身長2 (m)) が25以上になると、肥満を起因とする疾病を引き起こしやすくなりますので予防が必要です。



砂糖、健康、食習慣・事実と虚構

ロンドン大学医学部健康と行動研究室特別研究員 医学博士
Ph. D. Edward L. Gibson

 生まれたばかりの赤ちゃんでも、生まれたばかりのネズミでも、甘いものを与えれば好んで欲しがり、苦いものを与えれば嫌がります。つまり、甘いものは本能的に生物に好ましい感覚を与えます。
 肥満は急激に世界中で増加しつつある問題で、糖尿病や胆石、高血圧、心脈関連の疾患に大きく影響を及ぼしています。肥満は砂糖が原因ということではなく、車の所有率の増加や1日のテレビを見る時間数の上昇、歩かなくなったとか、運動をしなくなったというライフスタイルの方がより深く関連しています。事実、総摂取エネルギー量は減少しているのにもかかわらず、肥満率は増加しています。このことからも肥満と砂糖の関連がないことは明らかです。
 また、砂糖は分子が小さいため、他の炭水化物のパン等に比べて吸収されやすく、そのために急激に血糖値が高くなり、糖分ラッシュ (糖分による興奮状態) を引き起こしやすいと言われていますが、血糖がどの位高くなるかという指標 (血糖インデックス) によると、パンを100とした場合、砂糖や甘いチョコレートは70〜80という数値にすぎません。それに比べて、ベイクドポテトやニンジン、パスニック (カブの一種) 等の根菜類は100を超えてしまいます。これらの炭水化物食品の方が、糖分を含む食品よりも血糖を上昇させる働きを持っているのです。
 砂糖は精神を安定化させる作用があります。これは中枢神経系にて、内因性のオピオイド系物質が分泌されるためで、味覚の喜びや快感が産出されることでストレスが軽減されるのです。また、この砂糖の鎮静効果はかなり長時間持続するということも分かってきています。
 砂糖は肥満を起こすのではなく、逆に脂肪摂取を減らし体重増加を防ぎ、糖尿病をはじめとする疾病のリスクを減らすことにつながります。また、一般的に言われている砂糖が、糖分ラッシュやその後の低血糖症を引き起こし、気分がうつ状態になるようなものを引き起こす証拠はないと言うことができます。砂糖を恐れる必要はありません。



脂質代謝と肥満

茨城キリスト教大学教授 医学博士 坂倉 弘重

 私達の食生活では、脂質エネルギー量が年々増加傾向にあり、それに対して、糖質エネルギー量は減少の傾向にあります。このことは、日本の三大死因の、がん、脳血管障害、心臓病の原因と言われる動脈硬化に影響を及ぼしています。動脈硬化は、血管の壁に結合組織や平滑筋細胞、コレステロールの血漿等がたまって内腔が狭くなった状態で、血液中にあるコレステロール、中でも LDL コレステロール (悪玉コレステロール) が非常に大きな役割を果たしています。このことを考えますと、脂肪摂取量の増加は、体内のコレステロールの量を増加させるので、三大死因をはじめとする生活習慣病の増加の原因になっていると考えられます。また、砂糖の摂取量は1940年をピークに年々減少していますが、糖尿病の患者さんは年々急激に増加しています。これは比較的低脂肪食だった日本人が、ここ数年急激に脂肪の摂取量が増え、インシュリン感受性、外から入ったエネルギーに対する糖細胞への取り込みをコントロールする場所の感受性を低下させているため、糖尿病を起こしやすくなる方向に動いているのではないかと思います。また、もう1つの原因としては、相対的な運動量の不足、低下があげられます。これらの要因が相まって糖尿病の患者さん数が増加しているのであって、砂糖の摂取や消費量ではとても説明できないと思われます。
 人間は地球上に生まれてからずっと長い間飢餓状態が続いたので、効率的にエネルギーを摂取し、それを体に貯めようとしてきました。この体質を現代の私達も引き継いでいるのですが、現代社会での飽食、食べようとすれば手近で何でも食べられるといった現況では、余分なものを体のあちこちに貯めていくということになります。血管の壁に貯まれば動脈硬化、内臓や皮下脂肪として貯めると肥満になります。適正な全エネルギー摂取のためには、適量のバランスの良い食事が非常に重要です。

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肥満の現状

桜美林大学教授 医学博士 柴田 博

 日本人の肥満分布は、肥満は増えているし、痩せも増えているので広がってきています。太りすぎの害も一部にはあると思いますが、同じ割合で痩せすぎの害も生じているのです。それから、日本人の平均的な摂取エネルギー量は、ここ20数年間で10%落ち込んでいます。日本では飽食の時代だ、食事の欧米化だと騒いでいますが、実際には栄養失調の子供達を作り出しているのです。  それではどうして肥満ばかりが問題になるのでしょうか。これは肥満の専門家10人に対して、拒食症の専門家が1人だからです。専門的な観点から、ものを見るのではなく、総合的な指標で見ていくことが大切であると思います。ですので、脂肪の摂りすぎが問題視されていますが、脂肪の中には重要なビタミンが全部溶けています。また、骨粗鬆症の問題から見ても脂肪は必要です。そこには中庸という大切さがあるわけです。  さて、砂糖に関してですが、砂糖もこの25年間で消費量が3分の2に減っています。小中学生の栄養状態を調べた資料を見ますと、給食の無い日の栄養状態は、総エネルギーを含めて、全ての栄養が所要量の90%〜80%台で非常に悪いという結果が出ています。砂糖の所要量というのはきちんと決まっていないと思いますが、この資料では、砂糖の所要量に関して、小学生の場合はほぼ100%であるが、中学生になると約50%しか充足していないとの結果が出ています。コメントでは、お菓子か何かで砂糖を摂取していると書いてありますが、これを見る限りでは、最近の子供は砂糖を摂りすぎたからキレやすいといったことは、事実の逆になっています。また最近では、食の第2機能としておいしさが注目されています。人間の第1次本能で分かるおいしさというのは甘味しかありません。栄養的には他の糖質から摂取することは可能ですが、おいしさという面では、味覚の発達が不十分で他の味が楽しめない子供達から甘味を取り上げるということは問題であると言えると思います。砂糖は脳内でセロトニンを産生し、精神を安定させる働きがあることも分かっています。このようなことを総合しても、最近の子供達から甘いものを取り上げることが逆に子供達をキレさせているのではないかと思います。



東京宣言

<スローガン>「砂糖は笑顔のエネルギー」
 自然の恵みの産物である砂糖は、古くから私たちの食生活にとって欠くことのできない食品として生き続けています。「甘さ」は、人間の本能的に求める味覚であり、砂糖の天然の甘さは、私達の心を癒し、生活は豊かで潤いのあるものにしてくれます。
 また、砂糖は私達の身体と脳のエネルギー源として、大切な栄養素であり、脳内のセロトニンを増やすことで、精神を安定させます。
 ところが昨今、砂糖と健康に関する様々な誤った俗説が流布されていましたが、幸いなことに近年、FDA や FAO/WHO の権威ある専門機関による科学的な検証に加え、昨日と本日の2日間に渡るフォーラムにおいて、それらの俗説が科学的に誤りであることが、より明らかにされました。
 私達は、本日のフォーラムの結論として、21世紀に向けて、砂糖が安全で有益な食品であることをここに宣言いたします。




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