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甘味資源作物生産流通合理化事業報告

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最終更新日:2010年3月6日

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事業団から
[2000年11月]
シリーズ・農畜産業振興事業団助成事業の結果報告

 さとうきび生産においては近年、単収が低水準で推移しておりこれは、かん水に必要な水資源の確保が不十分、さとうきび農家の方々のかん水に対する意識の低さなどにより、かん水作業が十分に行われていないことも一因であると考えられることから、かん水チューブ等の整備を中心とした事業を平成9年度から3ヵ年を目途に実施しております。この事業について (社)沖縄県糖業振興協会から報告していただきます。この事業を契機として、さとうきび農家のかん水に対する意識が喚起され、限られた水資源を有効に活用したかん水チューブ等の整備が行われ、かん水ほ場面積が拡大され、さとうきびの増収が図られることを期待します。

社団法人沖縄県糖業振興協会


I. 事業の目的と背景
II. 事業の内容
III. 定期的かん水による効果
  1. かん水の必要性  2. 点滴かんがいの特徴
  3. 実際に使用している農家の声
  4. さとうきび栽培におけるかん水の必要性
  5. 収量調査結果  6. 増収による点滴かんがいの経営試算
IV. 今後の課題

I. 事業の目的と背景

 本県におけるさとうきび生産は、毎年恒常的に発生する台風、干ばつ等の自然災害により単収や甘しゃ糖度等品質の面で乱高下を繰り返す悪循環で推移している。
 単収、品質向上のためには、植付時の耕起、整地、優良種苗の選定、栽植密度、植付時期及び密度、補植、施肥・培土の時期や方法、除草、干ばつ対策、さらには剥葉、台風時の手入れ等の要素が様々に起因するが、特に、土壌水分(かん水)が生育収量に大きな影響を及ぼす最も重要な要因である(沖縄県農林水産部「さとうきび栽培指針より」)。
 このような中、沖縄県農林水産部では、平成11年2月に「農林水産業振興ビジョン・アクションプログラム」を策定し、「重点品目の生産振興に向けた流通加工対策と人づくり・基盤づくり」に「経営体質強化に向けた生産基盤の整備と農地の有効利用」を挙げ、かんがい施設の整備を進めているところである。
 このような中で、国や県では土地基盤整備事業や土地改良事業等の導入により、I型(ほ場内にスプリンクラー・レインガン等設置)、II型(ほ場周辺にかん水口が設置されている。)、III型(ダム・溜池等に隣接し給水口から車載のタンク等へ接続する。)に区分して、それぞれの地域にあった、かん水施設を整備・推進しており、平成11年度現在のほ場整備率は48%、農道整備率73%となっている。しかし、かんがい施設整備水準は、ほ場整備を優先的に推進したこと、大規模な河川が少ないこと等から水資源整備率45%、畑地かんがい施設の整備率は18%と、極めて低い整備率である。
 そこで、本会では、さとうきびの生産性を向上し、生産農家の経営の安定及び農業所得の向上に寄与するため、さとうきび農家のかん水に対する意識啓発を図るとともに、限られた水資源の有効活用を推進するため、砂糖類生産流通合理化等助成対象事業を活用し、農林水産省国際農林水産業研究センター、沖縄県糖業農産課、沖縄県農業試験場、地区農業改良普及センターの支援・協力を得て、平成10年度から11年度までの2ヵ年間「さとうきび生産安定推進事業」を実施してきた(事業終了は12年度)。
 同事業は、「さとうきび安定生産条件整備事業」と「さとうきび安定生産推進指導事業」の2本から構成されている。

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II. 事業の内容

さとうきび安定生産条件整備事業の実施状況
 さとうきび安定生産条件整備事業では、730.8haの整備状況で、整備内容別にみると、点滴かんがい施設が495.0ha (68%)、機動性のある動力ポンプ+簡易散水機の導入が235.8ha (32%) であった(表1)。

表1 事業実施主体別機器等導入状況

(単位:ha)
機器名等 実施主体名 H10年度 H11年度
点滴かんがい
(点滴チューブ+サーニーホース+
ディスクフィルタセット)
JAやんばる
JA糸満市
JA南大東村
JA北大東村
JA宮古郡
JA伊良部町
JA下地町
JA与那国町
波照間土地改良区
5.0
1.5
160.0
203.7
45.5
2.8
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0.3
50.7
25.2
5.0
1.5
160.0
203.7
45.5
2.8
0.3
50.7
25.2
小計 9地区 418.5 76.5 495.0
動力ポンプ+簡易散水機セット JA宮古郡
JA下地町
波照間土地改良区
135.9
0
0
0
18.9
59.6
135.9
18.9
59.6
小計 3地区 135.9 78.5 214.4
動力ポンプ+ポリ管セット JA伊平屋村 18.6 0 18.6
かん水用サニーホース、レニーホース JA伊良部町 2.8 0 2.8
合計 延べ14地区 575.8 155.0 730.8

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III. 定期的かん水による効果

1. かん水の必要性
 さとうきびの成長は6月〜9月の期間が生育旺盛期であるが、この時期の降水が、その年の生産量に大きく影響する。本県では、年間平均雨量は2,000mm程度あり、雨量の不足はないといえるが、実際には雨量や降雨分布の年次変動が激しく、特に、土壌保水性に乏しい島尻・国頭マージ地域(全土壌の約80.5%)では、毎年のように干ばつ被害が出ている。したがって、干ばつ時におけるかん水対策を行うことによって、干ばつの被害を軽減し、安定的な生産量の確保が可能である。

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2. 点滴かんがいの特徴
 さとうきび安定生産条件整備事業の中で、最も事業導入が多く、またかん水効率に優れていると思われる「点滴チューブかんがい」の特徴はおおむね次のとおりである。
○ 少量のかん水で、さとうきびの吸収できる適量かん水が可能である。
○ 距離に関係なく吐出水量の均一性が保てる。
○ 根へ直接かん水するため、短時間で効果的かん水が行える(水の蒸散が最低限に抑えられる)。
○ 土壌にホースを敷設するため、風の影響を受けない。
○ 施肥とかん水を同時に行うことにより、省力化が図れる。
○ 土壌に直接かん水するため、水の蒸散が最低限に抑えられる。
○ 勾配や地形、かん水距離による影響を受けにくい。

参考資料 かん水方法と効果
(沖縄県農林水産部「さとうきび栽培指針より」抜粋)

4 干ばつ対策
 ほ場からの蒸発散量は高温期で、1日当たり7mm、低温期では3mmである。干ばつ被害を回避するには、生育旺盛期では、1日当たり5mmのかん水量が必要である。また、耕種的干ばつ対策として、以下のことが挙げられる。
ア) 耐干性品種を植え付ける。
イ) 植付前に深耕し、有機物を十分に施してから水分維持に努める。
ウ) 軽い中耕・除草を行うこと。
エ) 梢梁雑草等で畝間を覆うなどして、地表面からの水分蒸散を防止する。
5 かん水方法
 土壌水分は、生育収量に大きな影響を及ぼす最も重要な要因である。生育期に水分不足になると、成長が抑制され、収量は低下する。また、登熟は抑制され、品質は低下する。具体的かん水方法を表11に示す。
 なお、節水型の点滴かんがいを行う場合は、1回12.5mmの4日間断とする。

表42 生育時期別かん水効果
生育時期別 原料茎重
(トン)
指数 ブリックス
(度)
可製糖量
(kg)
指数
分けつ期 11.4 116 19.34 1,572 123
生育旺盛期 11.5 118 19.63 1,608 126
全期 13.1 134 18.91 1,692 132
無かんがい 9.8 100 18.54 1,279 100
*農試業務年報 (1965〜1970) 宮古支場

表11 時期別土壌別かん水方法
土壌方
生育期   
ジャーガル土壌 島尻マージ及び
国頭マージ
備考
植付期 40mm 30〜35mm 最終かん水時期は
9月下旬
発芽期 25mm 15〜20mm
分けつ期 30mm 20〜25mm
生育旺盛期 40mm 35〜40mm
間断日数 9日 7〜8日

点滴チューブ敷設ほ場 点滴チューブ敷設ほ場
写真1 点滴チューブ敷設ほ場

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3. 実際に使用している農家の声(良い点・問題点・意見・要望)
(1) 良い点
a. 苗を新植するとき、発芽が良好で、補植が少なくて済む。
b. 節水型であるため、夏場の雨が少ない時期でも気にせず植付作業が計画的にできる。
c. 均等に水を撒けるので、生育にムラがなく、さらに雑草の抑制にもなっている。
d. 労力が軽減され、農業経営の安定が図れる。
(2) 問題点
a. 資材のコストがかかる。
b. 耐久性に難点がある。
c. 巻き取り作業に手間がかかる。
(3) 意見・要望
a. チューブ巻取機の改良
b. 資材コストの低減
c. 埋設型の点滴チューブがキビ栽培には適している。

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4. さとうきび栽培におけるかん水の必要性に関する調査結果の概要
 かん水に対する農家の意向を把握するため、平成11年12月〜12年3月にかけて、これまで2年間の「さとうきび安定生産推進事業」により点滴かんがい施設等を導入した農家を対象に、各事業実施主体を通して実施した。概要は以下のとおりである。
(1) さとうきび栽培において「かん水は当然必要である。」という回答は98%あり、かん水に対して高い意識を持っている。
(2) かん水作業を行う際の水源池に「溜池、池、貯水槽、井戸を利用」という回答が全体の54%を占めており、その多くの農家がスプリンクラーや給水栓を望んでいる。
(3) 本事業で点滴かんがいを導入していないものの、点滴かんがい敷設のほ場をみて「効果がある。」という回答は80%以上、また「キビ栽培に点滴かんがい施設を取り入れたい」と回答した農家も70%おり、点滴かんがいを導入し単収を上げたいという意識がみられる。また、取り入れない理由に、経費がかかるため導入しないという回答が90%あり、資材コストの低減化が望まれる。
(4) 点滴かんがい導入で一番の課題が、チューブの収納(巻き取り)作業に手間取ることであり、農家敬遠の一面となっている。しかし企業の努力により巻取機も改良されつつある。
(3.4.はさとうきび安定生産推進指導事業「平成11年度実施農家意向調査」結果から)

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5. 収量調査結果
 同事業により点滴かんがいを導入した事例を下表により紹介する。
 当該地区は従来、低単収地域であるが、点滴かんがい実施ほ場と未実施のほ場の単収比較をみると、夏植2.3トン(134.8%)、春植3.8トン(188.3%)、株出4.3トン(200.0%)、合計で3.0トン(151.7%)と大きな増収効果がみられ、地域から高い評価を得た。

表2 与那国町における点滴かんがいによる増収効果
(H11/12年産収穫実績)

  作型例 夏植 春植 株出 合計
点滴実施ほ場 面積(a) 1,266 32 15 1,314
収量(トン) 1,121 27 14 1,162
単収(トン/10ha) 8.9 8.1 8.6 8.8
点滴未実施ほ場 面積(a) 5,836 293 2,470 8,599
収量(トン) 3,812 125 1,051 5,023
単収(トン/10ha) 6.6 4.3 4.3 5.8
実施と未実施の単収差異(トン) 2.3 3.8 4.3 3.0
地区の5年平均単収(トン) 5.5 3.5 3.1 5.1
実施と5年平均単収差異(トン) 3.4 4.6 5.5 3.7
5年平均単収は沖縄県「糖業年報」より

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6.増収による点滴かんがいの経営試算
 表2からさとうきびの価格がトン当たり20,430円とすると、平均で10a当たりから3トン程度61,290円の増収が見込まれる。10a当たり点滴かんがいに要する年間経費49,466円(表3)を差し引いても十分に点滴かんがいへの投資効果が得られる。

表3 点滴かんがいの経費

(10ha当たり:円/年)
エンジンポンプ 12,705
かん水チューブ 7,385
配管ホース 21,000
ディスクフィルタ 8,192
燃料代 184
合計 49,466
注1. メーカー試算より算出
 2. かん水チューブは隔畦設置
 3. エンジンポンプは9馬力

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IV. 今後の課題

 県では、農林水産振興ビジョン・アクションプログラムに基づき、さとうきびを安定品目として位置づけ、ほ場整備、農道整備、かんがい施設設備を進めている。これら面整備としてのハード部門の充実・強化、さらに農地の流動化対策、病害虫防除対策等行政の支援体制は重要であるが、併せて、生産農家の営農上の対策として、適期肥培管理の徹底(深耕、高培土の徹底、かん水の励行、客土)、と単収、品質向上に対する意識改革も重要なファクターである。一方「新たな砂糖・甘味資源作物大綱」の下で、平成12年10月には、平成12年及び平成13年産のさとうきび最低生産者価格が決定されたが、今後は、さらにコスト低減等市場原理が導入された価格形成が予測されるところである。
 本県のさとうきび振興を図る上で、夏場のかん水対策は重要な課題であり、農家の生産性向上・経営安定のため、今後とも地域に合ったかん水対策を推し進めていく必要がある。

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