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「糖質と健康」〜 ILSI Japan シンポジウム 〜

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最終更新日:2010年3月6日

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事業団から
[2002年2月]


 昨年11月20、21日の両日、東京の国際連合大学国際会議場において、日本国際生命科学協会 (ILSI Japan) 創立20周年記念シンポジウム 「糖質 (Glycemic Carbohydrate) と健康」 が (社) 糖業協会、精糖工業会、砂糖を科学する会の主催により開催されましたので、その概要を紹介します。

企画情報部



国際生命科学協会 (ILSI) について
シンポジウムの概要
 第1セッション 糖質と血糖調節
 第2セッション 糖質による生理・認識機能の制御
 第3セッション 糖質と体重管理
全体を通して


国際生命科学協会 (ILSI) について

 ILSI (International Life Sciences Institute) は1978年にアメリカで非営利の科学団体として、健康、栄養、安全性、環境に関する問題を解決し、正しく理解されることを目的として設立され、活動している。また、非政府機関 (NGO) の1つとして、世界保健機構 (WHO) とも密接な関係にあり、国連食糧農業機関 (FAO) に対しては特別アドバイザーの立場にある。
 ILSI Japan は、ILSI 創立の3年後の1981年に日本支部として設立された、特定非営利活動団体である。


シンポジウムの概要

 シンポジウムでは、昭和女子大学大学院の木村修一教授が 「糖質と健康について」 と題して講演した後、国内外の研究者により、「糖質と血糖調節」、「糖質による生理・認識機能の制御」、「糖質と体重管理」 の3つのセッションに分けて研究発表及び討論が行われた。

第1セッション 糖質と血糖調節
 座 長 G. H. Anderson (University of Toronto)
G. Nantel (FAO)
 講演者 G. Nantel (FAO)
T. M. S. Wolever (University of Tronto)
J. Brand-Miller (University of Sydney)
G. Riccardi (Federico II University Medical School)
橋詰 直孝 (東邦大学)
 炭水化物には消化吸収されてエネルギー源となるもの (Glycemic Carbohydrate) と消化吸収されないもの (食物繊維) とがある。炭水化物は、その種類、状態、調理法等によって消化吸収されやすさが異なる。したがって、それぞれの炭水化物がぶどう糖として血液中に入り、血糖値に及ぼす影響も異なる。これらのことを踏まえて、食品中に含まれる炭水化物の性質を示す新たな指標として GI (Glycemic Index : 血糖指標) が提唱されている。(G. Nantel ら)
 GI は、血糖値の上昇に関わる潜在力に基づいて食品を分析するための指標であり、個々の食品を摂取した後、時間とともに変化する血中グルコース濃度曲線下の面積を測定し、同じ質量の糖質を含む基準食品と比較して求められる。基準食品としては、ぶどう糖50gか白パン50gが用いられることが多い。例えば、白パンの GI を100とした場合、ぶどう糖は137、米は97、砂糖は90、羊かんは70、パスタは約60となり、血糖値に及ぼす影響は砂糖よりもむしろパンの方が大きい。(橋詰ら)
 食事管理への GI の導入には、GI の測定法の標準化、測定前後の食事による影響、GI と疾病との関係に関わるデータの蓄積など多くの問題点が残されている。特に測定法に関しては、基準食品が複数存在している現状、調理法の考慮、被検者間での値の違い、血液採取部位の違い等が指摘されている。このことを改善するために、試験管内で食品と消化酵素を混合し、ぶどう糖生成量を測定する方法や、GIと炭水化物量を積算した値、GL (Glycemic Load : 血糖負荷指数) を指標とすることが提案されている。(T. M. S. Wolever)
 生活習慣病1つである2型糖尿病は、インスリン感受性が低下する疾病であることから、低 GI 食はインスリンの分泌を抑え、2型糖尿病の罹患率を下げると考えられている。臨床データによると、低 GI 食により糖尿病合併症の一因とされるたんぱく質への糖鎖付加、2型糖尿病と併発することの多い脂肪代謝の異常等の改善もみられており、この考えが支持されている。また、低 GI 食により大腸ガン、乳ガン等のリスクが低下するというデータも得られている。(J. Brand-Miller)
 また、GI の低い炭水化物には難消化性の食物繊維を多く含むことが多い。食物繊維は、食物の消化吸収を妨げる、腸内の環境を改善する等の利点が認められており、この点からも低 GI 食の有用性が示唆される。(G. Riccardi)
 糖尿病患者では、血糖値の管理が必要であることから、食事管理のために1つの指標として GI を用いることは有用であると考えられている。高 GI 食品については、その GI を引き下げることが生活習慣病のリスク低下に有効であり、商品産業界でそのような研究が進展することが期待される。(J. Brand-Miller)
 砂糖の GI は炭水化物の中では決して高くなく、食品中の炭水化物に占める砂糖の割合が高くなるほど、食品の GI は低下することが多い。ヨーロッパの糖尿病学会の勧告では、糖尿病患者であっても食品中に占める炭水化物の量は55%程度、砂糖摂取量は1日あたり30g程度が望ましいとされている。この趣旨は糖尿病患者でも砂糖を摂取してもよいというメッセージである。(G. Riccardi)


第2セッション 糖質による生理・認識機能の制御
 座 長 木村 修一 (昭和女子大学大学院)
D. Benton (University of Wales Swansea)
 講演者 山本 隆 (大阪大学)
D. Benton (University of Wales Swansea)
C. E. Greenwood (University of Tronto)
武田 弘志 (東京医科大学)
井上 修二 (共立女子大学)
 脳は体重の約2%の重量であるにもかかわらず、エネルギー全体の約18%が脳で消費される。さらに、脳ではぶどう糖の貯蔵量は少ないが、通常、ぶどう糖のみをエネルギー源として消費するため、そのぶどう糖が常に供給されなければならない。
 ラットに迷路を記憶させる実験では、実験開始から時間が経過するにつれて記憶力が低下すること、ぶどう糖を脳に注入すると記憶力が上昇することが示され、ぶどう糖と脳の機能との関係が確認され、ぶどう糖を消費したために低下した記憶力は、ぶどう糖の摂取により回復することも認められている。また、血糖を早く上昇させる炭水化物 (RAG)、上昇の遅い炭水化物 (SAG) の摂食と記憶力との関係を調べたところ、摂食後30分では RAG と SAG の間に違いはほとんど見られなかったが、摂食後210分では SAG の方が記憶力が良く、記憶力を維持することが示された。(D. Benton)
 ラットを用いた実験では、ストレスによって生じる諸症状がぶどう糖を摂取させることで抑制されることから、ぶどう糖の摂取により健常な血糖値レベルを維持することがストレスの発現を抑制することが示されている。また、高ショ糖食では、ストレスに対し、防御機能として発現するヒートショックたんぱく質が顕著に増加し、ストレスホルモンの1つであるコルチコステロンの上昇が抑制される等、ストレス耐性を高めることが示唆された。(井上ら)
 また、中高年齢者ほど午後に脳機能が低下することから、午後よりも午前中の会議の方が良く、午後に行う場合にはカフェインと糖類の事前摂取が効果的ともいえる。(C. E. Greenwood)


第3セッション 糖質と体重管理
 座 長 小林 修平 (和洋女子大学)
W. H. M. Saris (Maastricht University)
 講演者 W. H. M. Saris (Maastricht University)
G. H. Anderson (University of Tronto)
M. Deurenberg-Yap (Health Promotion Bord, Singapore)
鈴木 正成 (筑波大学)
 肥満が、2型糖尿病、心疾患等の罹患率を向上させることが知られており、世界中で肥満の増加が問題となっている。肥満には、遺伝子が関与するとも言われているが、他にも運動量、食事等の要因が複雑に絡み合って関与している。
 肥満と食事との関係を調べた研究により、高 GI 食は BMI (Body Mass Index : 肥満指数) 値を低下させるというデータが得られている。また、砂糖などの単純な炭水化物 (Simple Carbohydrate : SCHO) が体重増加や肥満につながると一般的に考えられていることから、欧州5ヵ国の研究所で EU 委員会及び欧州砂糖産業の支援を得て大規模に CARMEN 調査が実施された。SCHO とでんぷんなどの複雑な炭水化物 (Complex Carbohydrate : CCHO) の肥満へのリスクを比較した結果、体重増加、体脂肪率、脂肪代謝異常において、両者に明確な差は認められなかった。このことは、砂糖の摂取は肥満に結びつかないことを示している。(W. H. M. Saris)
 炭水化物と食欲の関係を調べたところ、炭水化物の摂取により血糖値が上昇すると、満足感によって食欲を抑制し、摂取エネルギー量を調節するという結果が得られている。砂糖の摂取ではこの機能が働くが、代替甘味料の摂取は、甘みを感じるものの血糖値を上昇させないので、摂取エネルギー量の調節が働かず、過食や肥満につながる恐れがある。(G. H. Anderson)
 なお、現在、BMI 25 以上を肥満としているが、この値は欧米人向けであり、生活習慣病の罹患率等を考えるとアジア人についてはより低い値が適当と思われる。(M. Deurenberg-Yap)


全体を通して

 シンポジウムでは、炭水化物と血糖の上昇及び健康との関係を中心として討論されており、砂糖そのものが対象となることは少なかったが、最新の研究状況が幅広く発表され、興味深いものとなっていた。また、食品に GI を表示する考えには、GI が絶対的な指標として用いられることを懸念する反対意見もあったが、全体的には、血糖の上昇が健康に深く関わっており、食事において GI を考慮することは有意義であるとされたと思われる。



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