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第2回さとうきび・甘蔗糖関係検討会の開催について

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最終更新日:2010年3月6日

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事業団から
[2002年12月]


 10月22・23の両日、那覇市自治会館において、産学官の幅広い関係者80余名が一堂に会し、独立行政法人九州沖縄農業研究センター主催による 「第2回さとうきび研究会」 と当事業団主催による 「第2回さとうきび・甘蔗糖関係検討会」 が開催されました。
 これらの会合は、産学官の幅広い関係者が、さとうきび栽培から甘しゃ糖製造までを通じた諸問題について、幅広く意見交換し、共通認識の醸成を図ることを目的として昨年から開催されているものです。
 本誌では、当事業団主催の 「第2回さとうきび・甘蔗糖関係検討会」 (23日開催)について紹介します。

企画情報部


1. 挨拶
2. 「さとうきび栽培実態診断調査」の実施結果(中間報告)
3. 検討
  (1) 担い手農家の育成  (2) 地域の実情に即した機械化体系の確立
  (3) 春植・株出体系及び夏植・株出体系の推進等による収穫面積の増大
  (4) 総括討議
まとめ


1.挨拶

山本理事長の挨拶
山本理事長の挨拶
 本検討会の開催にあたり当事業団山本理事長は、「前回の検討を踏まえ、具体的な数値目標を示しながら、今後のさとうきび生産振興に向けた鹿児島・沖縄両県に共通した問題である担い手農家の育成、機械化体系の確立、収穫面積の増大に検討課題を絞って議論をしていただき、食料・農業・農村基本計画に示された収量1割増、労働時間6割減、生産コスト3割減の目標数値の実現に向けた実のある検討会にしたい」 旨の主催者挨拶をした。
 続いて、農林水産省生産局特産振興課山路課長から、「食の安全に対する国民の関心の高まり及び砂糖を巡る情勢に触れつつ、国民の理解を得ながら砂糖制度を守っていくには、一層の生産性向上の努力が必要であり、そのためには関係者の共同した取り組みが不可欠であるとし、その意味からもこの検討会は意味がある」 旨の挨拶があった。
 また、沖縄県天願農林水産部長からは、「さとうきび生産地である鹿児島・沖縄両県を代表して、さとうきびの生産振興については多くの課題があるが、関係者の共同した取り組みによって、重要な基幹作物であるさとうきび及び糖業の振興に努めたい」 旨の挨拶があった。
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2.「さとうきび栽培実態診断調査」の実施結果(中間報告)

 前回の検討会をきっかけとし、事業団の調査事業の一環として九州沖縄農業研究センターの杉本室長に調査願った 「さとうきび栽培実態診断調査」 の実施結果(中間報告)について、同室長並びに沖縄県農業試験場宮城室長から報告された。
 本調査は、杉本室長を中心に両県並びに現地関係者の協力を得、鹿児島県奄美大島・沖永良部島・与論島、沖縄県本島・伊平屋島・南大東島・北大東島・久米島・与那国島の低単収、低品質ほ場を実態診断し、地域ごとの改善策を提案し問題点の解消をするというものである。(調査結果の詳細については、本誌2002.8月号及び9月号を参照)
 調査報告後の質疑において、改善対策の提言を実行すればどの程度単収増になるのか、糖度は栽培管理努力によってアップすることは可能かとの質問に対し、現在確立されている技術を実行すれば、その島の平均値までは収量は上がる。糖度のアップに関しては、現在の栽培環境下においては収量ほど栽培管理努力による差が顕著に出難いが、一方では収量を上げても糖度は落ちないと回答された。
 また、出席者から、低収量ほ場や地域の問題は、基盤整備等の関係もあるが、基本的な栽培技術や管理ができていないことが大きいとし、これら基本的栽培管理の指導及び励行が必要であるとともに農家の意識の問題でもあるとの意見があった。
 最後に杉本室長は、今年も事業団並びに関係機関等と日程調整しながら引き続き同様な観点から調査を実施するとし、昨年調査できなかった地域を中心に、収穫期に多くの島において地元主導で実施したいとし、関係者の協力を要請した。
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3.検討

検討会の模様
検討会の模様
 当事業団和田理事の進行により、鹿児島県農政部田中参事並びに沖縄県農林水産部諸見次長から各々の県の「さとうきび・糖業の現状、課題」について、今回の検討項目内容に即した説明がされ、日本甘蔗糖工業会太田会長から「糖みつの需要・販売及びハーベスタ収穫に伴う諸問題」について現状報告があった後、検討に入った。

(1) 担い手農家の育成
ア.農業生産法人・農作業受託組織の育成
○農地集積は現場の農家が意識を持つか否かが問題であり、どのように現場のやる気を引き出しているのか。具体的な方法は何かとの質問に対し、
・鹿児島県は、例えば徳之島ジャンプ会等のような経営目標を持った組織に関係機関が協力している。今後もこのような組織を支援していきたいとした。また、さとうきび作農家は、さとうきびプラス園芸作物、畜産の複合農家とさとうきび専業農家との二つに分かれるが、複合農家は園芸作物や畜産で所得を上げようとすると、さとうきびが手薄になる。このため、さとうきび専業農家が複合農家の手がまわらない作業を手助けできるような、地域ぐるみの補完組織の形成と作業補完実施のためのシステム作りが重要とした。
・沖縄県は、新R事業の推進機関として、各地区に17のさとうきび生産振興協議会がある。製糖工場、JA等も加入しており、各地域ごとにこの協議会を有効に活用していきたい。また、今年4月に沖縄県の28JAが統合し単一JAが発足した。JAは5地区にさとうきび営農センターを発足させる予定であるが、17のさとうきび生産振興協議会と協力して、地域一体となった生産振興への取り組みが重要とした。
○作業補完は、受託組織、あるいは生産法人のどちらがやりやすいかとの質問に対し、
・鹿児島県は、集落ごとに話し合いをして解決するように指導している。この場合、中心となるのは、リーダーとなっている担い手農家である。どちらかといえば、受託組織がやりやすいと思う。
・沖縄県は、基本的には農業機械銀行が行うのが良いと思う。しかし、農業機械銀行育成は重要だが、生産法人とのバッティングがあるので行政として難しい面がある。生産法人、農業機械銀行をともに育成していきたいが、地域の実情を見てバッティングを避けながら行いたいとした。
イ.遊休地の農地利用の推進
○都市部周辺は資産保有意識が強く第3者に貸さずに耕作放棄の状況になっている。遊休農地の利用を増進する方法についての質問に対し、
・南西諸島の耕作放棄地は減少している。基盤整備を進めているが、耕作放棄地減少はこれと連動しているように思えるとした。
・沖縄県は、個人には農地を貸さないが、経営体には貸す傾向が強いので、生産法人化を進める中で、しっかりとした経営体作りを支援し、農地の貸借を安心して行えるように環境を整備したいとした。
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(2) 地域の実情に即した機械化体系の確立
この検討項目について、次のような意見等があった。
・機械化に対しては、メリット、デメリット論があるが、これについては地域によって捉え方も異なる。デメリットに関しては随分前から整理されている面もある。今はデメリットを横に置いておいても、生産振興、生産拡大を図っていくべきである。収穫面積は下げ止まりの状況にあるが、農家の年齢構成をみると機械化は避けられない。今は機械化による生産振興が先決である。
・10a当たり100時間の労働時間は長い。機械化の推進等により現行の6割程度にもっていきたい。
・今後は機械化を進めるに当たり、コスト(収穫委託費)ダウンを図る必要あり。現行の収穫委託賃は割高である。
・機械の大型化が進むと単収が減少するとの意見もあるが、作業の手抜き等人間サイドに起因するものもある。人間との兼ね合いも考えて機械開発にあたってもらいたい。
・沖縄県農業試験場において、多機能ロータリー装着型の全茎植付機を開発した。今後、普及させていきたい。これまでにない植付機で、砕土、畦立て、苗切断、施肥、殺虫剤散布、覆土、填圧、除草剤散布の全ての作業が一工程で可能。畦幅、植付け深度の調節可能。中型から大型までのトラクタに装着可能。全茎無脱葉のまま植付けるため、調苗作業の必要がなく省力化、低コスト化が可能1時間当たり10aの植付け能力などメリット大である。
・大型機械体系が現状であるが、大規模から小規模まで、それぞれに合った体系が必要。高齢化した農家には、小規模体系の確立が重要であり、小さな面積でも積み上げれば大きいものとなる。
・沖縄県のハーベスタ収穫率は3割強であるが、今後はもっと伸びると予想される。製糖工場としては、トラッシュの増加が懸念される。トラッシュの増加で工場歩留りが低下している。
・トラッシュは技術的な問題とシステム上(畜産農家への還元等)の問題があると思う。究極は原料なので、農家と工場との取り決めの問題。
・機械化が進む現状において、トラッシュ除去の具体策はない。島ごと、地域ごとの話し合いは、利害が対立して進んでいない。農業団体との話し合いが必要。
・良質な飼料である梢頭部の減少は、畜産農家にも影響している。トラッシュ対策の一つとして、鹿児島県農業試験場徳之島支場で行っている水流式のトラッシュ除去方式が良いのではないかと思っている。関係者が互いに知恵を出し合って解決策を見いだしたい。
・日本のさとうきびの機械開発は世界標準に達している。また、トラッシュへの育種的な対応として、多収化して原料茎の比重を大きくすることにより、結果として梢頭部の比重を小さくするような品種改良に取組んでいる。
・秋収穫品種は、梢頭部を畜産飼料として考え、畜産から期待される品種としても開発に取り組んでいる。収穫期間の長期化を図れば、ハーベスタ稼働期間が伸びコスト低減につながる。
・トラッシュは手抜きによるものかどうなのか、よく調べてから機械化を進めるべき。畜産農家へ商品として売るならば、ほ場で処理するのか、工場で処理した方が良いのか細かい検討が必要。
・オペレーターの技術向上も大事なファクターである。
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(3) 春植・株出体系及び夏植・株出体系の推進等による収穫面積の増大
○春植は灌漑設備が整備されているなど、条件の良いところに向いている。また、夏植は干ばつ常襲地域など自然条件の厳しい地域に向いている等、地域の実情に即して作型を選定すべきとの意見であるので、そのような方向で、普及センター等も指導していくべきと思うがいかがかとの質問に対し
・地域に合った体系を作っていくべき。面積が限られているので春植・株出の発想はあるが、1月〜2月の植付けは他作業との競合が多く、機械化体系ができていないと無理。多様なファクターを考慮して判断していくべきである。今回のさとうきび栽培実態診断調査は示唆に富んでいる。島ごとに実態が異なる。品種構成も含めてキチッと分析し判断していくべきである。また、品種を短期間に切り替えるのは側枝苗が有効。診断調査を踏まえて判断していきたいとした。
○秋収穫は現存の品種でも可能かとの質問に対し、
・九州沖縄農業研究センターは、現存の品種では対応できない。現在は研究段階。近い将来実現できる。なるべく多くの方々に栽培試験等に参加して頂ければ、より早期に実現できると思うとした。
○株出ができれば収量が増える。株出は何回可能か。また、株出を良くするには何を集中して行えばよいかとの質問に対し、
・九州沖縄農業研究センターは、NCo310は、30年間株を出し続けた農家もあると聞いている。平均的に株出しは5回程度可能であり、日本は極端に株出し回数が少ない。世界はもっと多いとした。
○春植は労働力の関係で限界があると聞いている。このことが夏植を増やす要因となるのかとの質問に対し、次のような意見等があった。
・石垣島は灌漑設備があり、土壌条件も良い。春植移行は可能。南・北大東島は機械化が進んでいるが、台風、干ばつで春植への移行は難しい。地域によってファクターが異なる。
・灌漑設備がある地域での春植推進は、側枝苗を機械移植して初期成育を強くする方法もある。
・春植と夏植の比較優位性の研究では、労働力3人、2〜3haでは春植・株出が優位であり土地生産性が高い。それ以上の規模では夏植・株出が良く、労働生産性も高い。今後、夏植・株出に優れた品種が開発されれば、さとうきび栽培は有利になると思う。
・種苗管理センターは、需要に応じた適切な品種の供給が大切であり、これらの実施には需要量を正確に把握する必要があるとし、同センターから関係機関への協力要請があった。
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(4) 総括討議
○総括討議に代えて、両県から目標達成に向けての意見が求められた。
・鹿児島県は、昨年策定した「鹿児島農業・農村ビジョン21」の目標に向けて努力していく。単収の目標達成が一番大事とした。
・沖縄県は、島ごとに対応していきたい。例えば南大東島は干ばつ対策、緑肥を鋤き込み深耕する等。各地区さとうきび生産振興協議会を中心に関係者一体となって、目標達成に向けた取り組みを実行したいとした。
・また、内閣府沖縄総合事務局から、沖縄県の生産目標100万トンは力強い。ある程度のボリュームを確保することは大切。このような会議を持てるのもある程度の量があるからこそ。関係者が力を合わせて収量増に努力すべき。さとうきびは、国際価格に比べて大きくコスト高。北海道ビートよりもコスト高。もう少し工夫がいるとの意見があった。
○山本理事長は、「さとうきび生産振興に具体的議論がなされた。今後においても数値目標に向けた進捗状況を検証できる。内外価格差が大きい現状において、できるだけ効率的な営農方法でコストダウンを図り、収量を増加させていくべきである。これによって需要がふえることが望ましい。消費拡大は当事業団の業務のひとつ。農家の取り組み指針は、現段階での知見をもとに、現場指導のフレーム作りも大切にして行ってほしい。現場指導員の苦心や努力も大変なものがあると思うが、今日の議論が現場で具体化されることを期待するとともに、農家が希望と勇気を持って取組めるよう、皆様とともに仕事に取り組んでいきたい」 として議論を総括した。
○和田理事は、来年の検討会は鹿児島で行いたいとし、日程や議題等具体的ことは、両県等と相談しながら決めたいとした。
○最後に、当事業団樋口副理事長は、今回の検討会は、昨年に比べて大きく人数が増え、来年の開催目処もついたということは、皆様の関心がそれだけ高いということだと思う。生産量等が大きく改善することはうれしいことである。検討会を継続して、毎年レベルアップを図っていきたいとしながら検討会を閉めた。
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まとめ

 この検討会を通じて、鹿児島県農政部や沖縄県農林水産部をはじめ、各機関がさとうきび糖業発展のため、明確な目標を持ち、その達成のためにお互いに連携しながら、各々の機関が積極的に取り組んでいる様子をうかがい知ることができました。
さとうきび生産量増大の問題点として、現在ある品種、栽培技術、機械等が必ずしも地域の特性に即した形で農家に浸透していないとの指摘があった。例えば、各地域において品種や作型の選択ミスや適切な栽培管理、機械の使用が充分に行われていないことによって、単収や糖分が思ったように上がっていない状況が見受けられる。しかし、今後は地域ごとに、行政、試験研究機関、農協、製糖企業等が連携しながら農家を指導し、適切な栽培方法を普及することによって生産量の拡大を図っていくとの方向が示され、地域ごとに適した栽培方法等については、さとうきび栽培実態診断調査事業での提言も大いに活用したいとの意見が出されました。
また、今後の高齢化に対応した機械化の推進についても、畜産農家との協力(共存共栄)や、機械化を前提とした品種改良の面でも、新たな方向が示されました。
さらに、秋収穫を前提とした品種改良など今までにない新分野でのさとうきび糖業の概念も示されました。
今後は、生産目標等の実現に向けて関係機関が連携しながら取り組んで、早期に目標達成されることが望まれる。

(参集範囲)
農林水産省生産局、農林水産省農林水産技術会議事務局、農林水産省九州農政局、内閣府沖縄総合事務局農林水産部、鹿児島大学、琉球大学、鹿児島県農政部、沖縄県農林水産部、鹿児島県農業試験場、沖縄県農業試験場、鹿児島県糖業振興協会、沖縄県糖業振興協会、日本甘蔗糖工業会、日本分蜜糖工業会、独立行政法人種苗管理センター、独立行政法人農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター、鹿児島県・沖縄県甘しゃ糖企業、農畜産業振興事業団他

なお、本検討会に先立って行われた 「さとうきび研究会」 (22日開催)では、さとうきび研究に関する新たな提案、問題提起として、下記の研究テーマにより各々発表が行われ、質疑応答が活発に行われた。これらの研究は、今後のさとうきびの生産振興に向けた取り組みに欠くことのできない内容であり、これらの研究成果が早期に具体化されることが切に望まれた。

(1) 南西諸島農業の持続的発展におけるさとうきびの役割
[1] 農業・地域産業高度化に向けたさとうきび産業の在り方
  真武 信一
  (沖縄県農林水産部糖業農産課糖業企画係長)
(2) さとうきび育種の到達点と今後の推進態勢
[1] 不良環境地域に適応性の高い株出し多収性品種の育成
  宮城 克浩
  (沖縄県農業試験場・さとうきび育種研究室長)
[2] 収穫期間拡大に向けた品種開発と今後の方向
  杉本 明
  (九沖沖縄農業研究センター・さとうきび育種研究室長)
[3] 品種育成の推進のための育種態勢の構築
  杉本 明
  (九沖沖縄農業研究センター・さとうきび育種研究室長)
(3)低コスト・高収益化のためのさとうきび生産・利用技術の開発
[1] サトウキビ梢頭部畜産利用のための梢頭部回収機の開発
  溜池 雄志
  (鹿児島県農試徳之島支場研究員)
[2] 産業高度化と生産力向上のための未利用部分利用技術の開発
  川満 芳信
  (琉球大学農学部講師)
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