[2003年9月]
平成15年3月10日から16日にかけて中国の糖業事情調査を行いましたので、その概要を報告します。
農産流通部・企画情報部
1.中国の農業
(1) 人口及び耕地面積
土地状況(2001年) |
(単位:万ha、%) |
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中国はアジア大陸の東部、太平洋の西岸に位置しており、国土総面積は96,000万haである。これはロシアとカナダに続いて、世界第3位の面積であり、日本(3778.8万ha)の約25倍もの面積である。
中国の耕地面積は13,004万haで国土の13.5%を占めており、また、利用可能な草地面積31,333万haと合せると44,337haとなり、国土の46.1%にも達する。
人口は127,627万人で、ここ数年は毎年約1千万人ずつ増加している。農村人口は79,563万人である。総人口は増加しているにもかかわらず、農村人口は1992年に84,996万人(72.54%)、2001年に76,593万人(62.34%)と減少していることを考えると、都市部への人口集中の傾向が見られることがわかる。
就業人口は第1次産業がほぼ半分を占めており、この割合はここ数年変わっていない。
都市と農村の人口割合 |
(単位:万人、%) |
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就業人口の割合 |
(単位:万人、%) |
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(2) 農業政策
〈1〉第9次5ヶ年計画
1996〜2000年までの中国最大の課題は、食料の安定提供であったが、食糧生産量4.9億から5億トンという目標は達成され、農村の低収入人口(年収625元以下)も1995年の6,500万人から2000年には3,000万人に減少した。
安定供給の目標は達成されたが、都市部と農村部との収入格差は拡大している。農村部では、農林業などの本業収入は1998年以降減少し、出稼ぎなどの賃金収入が、現金収入の3分の1を占めるようになった。
〈2〉農業農村経済に関する5ヵ年計画(2001年)
・農業総生産の伸び率5%前後
・農民一人当たりの収入の伸び率5%前後
・農業総生産に占める畜産の割合を33%程度に高める
・2005年までに農村労働力4,000万人の移転
等の目標を掲げ
・戦略的構造調整の強化
・量から質への転換
・委託栽培等による農地規模拡大
・農業法規整備の推進
等の措置を打ち出している。
〈3〉WTO加盟
中国は2001年12月にWTOに正式加盟した。これは長期的には中国にとってはプラスになると見られているが、構造調整の問題(農業、国有企業、金融等)も伴っている。
農業では、経営規模の小さい小麦、とうもろこし等が大きな打撃を受けるとの危機感がある。
〈4〉優良農産品区域配置計画(2003年2月)
WTO対策として地域農業の整備を進め、優勢農産品地域を策定し、農産物の競争力強化を促進し、農業の効率化と農民の所得向上のため、優勢農産品区域配置計画が策定された。
計画は、5年(2003〜2007年)をかけ、比較的競争力のある11品目を重点的に発展させ、世界に通用する優勢農産品地域を形成し、規模が大きく、比較的に安定した優勢農産品輸出地帯を建設し、国内外が認める有名ブランドを育て、優勢農産品の輸出を拡大する必要があるとしている。
具体的な内容としては
・全国に35の優勢生産地域を計画決定し、加工専用小麦、とうもろこし(飼料、加工専用)、高油大豆、綿花、菜種、さとうきび(高生産、高糖質)、柑橘類、りんご、牛乳、牛肉・羊肉、水産品の11品目の優勢農産品を重点的に発展させる。
・11品目の優勢農産品は資源・生産条件が良く、生産量が多く、マーケットの前途が開けており、国内市場においても国外産品との競争にも十分に優位性がある。または、国際市場競争において優位性があり、一層の輸出の拡大ができる農産品である。
・優勢生産地域は、自然条件がよく、生産規模が大きく、産業化の基礎がしっかりしていて、明らかに優位性がある主要生産地である。
・優勢農産品区域配置計画は優位性の有るもの、強いものを助成する不均衡な発展政策である。
2.中国の糖業概況
中国では甘味資源作物であるてん菜、さとうきびの両方が栽培されている。しかし、さとうきびの割合が圧倒的に多く、砂糖生産量の約9割も占めている。
(1) 生産の現状
さとうきびは主に中国華南部を中心とした15の省・自治区で栽培されており、2001年における主な生産省・自治区は表のとおりである。さとうきび生産量が1,000万トンを超える主な生産地は、広西、雲南、広東であり、この3省(自治区)だけで全さとうきび生産量の約84%を占めている。その中でも広西省は半分近く(48.3%)も生産しており、作付面積、作付割合も一番高い。
てん菜は主に中国華北・東北部を中心とした14の省・自治区で栽培されており、2001年における主な生産地は、表のとおりである。てん菜の生産量が100万トンを超える主な生産地は、新疆、黒龍江、内蒙古であり、この3省(自治区)だけで全てん菜生産量の約85%を占めている。その中でも、新疆、黒龍江の2つだけで約72%を生産している。しかし、総作付面積に占めるてん菜の作付面積は低く、新疆で2.5%、黒龍江で1.8%しかない。
(2) 生産の推移
さとうきびの作付面積は、過去10年間では1,100千haから1,400千haの間で増減を繰り返しながら推移している。生産量についても同様に、6,100万トンから8,400万トンの間で推移しており、作付面積、生産量ともにかなりのばらつきがみられる。
てん菜の作付面積は1992年の660千haから少しずつ減りつづけ2001年には406haにまで減少した。この間生産量についても同様に、1991年の約1,630万トンから1,088万トンまで減少している。単収については1992年の22,832kg/haから2001年の26,807 kg/haへと着実に伸びているものの、作付面積の減少が大きく、生産量に結びつかない結果となった。
それぞれの単収を日本と比較すると、さとうきびにおいては差がわずかであるが、てん菜においては日本の約半分ほどしかない。
さとうきびの作付面積と生産量
(注)中国統計年鑑2002
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てん菜の作付面積と生産量
(注)中国統計年鑑2002
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さとうきび・てん菜の生産の推移
(注)中国統計年鑑2002
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単収の比較 |
(単位:トン/ha) |
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(3) 砂糖の生産と消費
砂糖の生産量は600万トン台から900万トン程度で、年による振れは大きい。2002/03年期の砂糖生産見込量は、2003年3月4日に953万トンと発表(中国糖業協会)したが、その後、1,000万トンを超えると予想修正された。
それに対し消費量は、900万トン弱で微増傾向にある。直接消費が40〜50パーセント、加工原料用が50〜60パーセントである。
WTO加盟以降、関税割当や国家備蓄などにより、国内の需給・価格を調節しているが、砂糖の輸入が増加し、国内価格も大きな影響を受けている。
中国では不足分の輸入のほか、再輸出される分も輸入されている。2003年の砂糖の一般貿易関税割当枠は、115万2,200トン、砂糖の加工貿易の割当枠は70万トンとなっている。
輸入先は主にキューバ、オーストラリア、タイで、輸出先は主にインドネシア、マレーシア、バングラデシュである。
中国の砂糖生産 |
(単位:万トン) |
(注)中国農業部ホームページより
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砂糖の需給 |
(単位:千トン ) |
(注)USDA : Sugar : World Markets and Trade
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(4) 糖業政策
〈1〉優良農産品区域配置計画のさとうきび対策
輸入砂糖との競争では、さとうきびの単収、含糖率がともに低く、製糖工場は小規模で技術も遅れており、コスト高になっている。
そこで、優良生産地区を雲南省南西部、広東省西部、広西省の各地に設置し、優良品種の導入、機械化、製糖技術の改善等に取組み、優良生産地区の平均単収を60トン/haから75トン/haに、含糖率13.3%から14.5%に引き上げ、生産コストの削減を目標に掲げている。
また全国に占めるこの優良生産地区の占有率を、栽培面積で54%、さとうきび生産量で60%、砂糖生産量で65%とすることも目標にしている。
〈2〉砂糖の関税割当
WTO加盟時の合意により、砂糖は関税割当で管理しており、内容は以下のとおりである。
・160万トンの輸入砂糖の割当(1999年)を毎年5%増やし、2004年までに194.5万トンまで拡大する
・割当枠内の関税粗糖20%、白糖30%は、2004年までに15%に引下げる
・割当枠外の関税は76%から2004年までに50%に引下げる
〈3〉国家備蓄
備蓄数量は120万トン規模で、備蓄により需給と価格をコントロールしている。
〈4〉マクロコントロールの実施
1999年終わりから砂糖産業に対して、マクロコントロールを実施している。その内容は
・生産能力の劣る工場を閉鎖し、優良な工場の統合等を進める
・製糖用原料の不足する地域においては、段階的に製糖業から撤退させる
・主な砂糖生産地で、経営状態が悪く、改善の見込みのない工場を、廃業・倒産させる
これらの措置により廃業・倒産させた製糖工場は150(2000年から2001年の間)にのぼった。
・サッカリンの生産・販売を制限し、監督を強化して砂糖の需要の拡大を推進している
(5) 砂糖産業の現状
北京市内において現地糖業関係者に砂糖産業の現状を尋ねたところ、以下のとおりであった。
〈1〉製糖工場
中国の製糖工場はすべて耕地白糖を生産している。てん菜糖工場はすべて炭酸法を、甘しゃ糖工場の大部分は亜硫酸法を使い白糖の製造を行っている。精製糖工場の一部は、イオン交換樹脂などの先端技術を装備しているところもある。てん菜糖工場で最大のものは、処理能力が3,000トン/日、甘しゃ糖工場は10,000トン/日である。
最近は色々な業種において外資系企業の進出がめざましい。糖業界も同様で、外資との合弁大規模精製糖工場が設立されてきている。また、昔からあるかなりの数の製糖工場が閉鎖されているようである。
〈2〉砂糖消費量
食用砂糖の年間消費量は810万トン程度である。直接消費は330〜400万トン、加工用砂糖は410〜480万トンである。一人当たりの消費量は6.7キロである。
〈3〉品種
てん菜の生産が増加しないのは、品種に問題があり、次いで栽培技術の未熟が挙げられる。
品種についてはヨーロッパと協力し、中国の風土に合うものを開発しているところである。
〈3〉その他
中国には砂糖の法律制定がなされていない。現在諸外国の砂糖制度を勉強しており、中国としても参考にしたいようであった。
3.工場調査
工場全景 |
北京において中国全土の甘味資源作物の栽培状況、砂糖産業の現状等の聞き取り調査を終えたのち、珠海市郊外にある甘しゃ糖製造工場を訪れたので紹介する。
珠海市は広東省の南部に位置し、東は水域を隔てて香港とつながり、南はマカオと陸続きである。気候は亜熱帯性気候で、最高気温は38.5℃、最低気温は2.5℃、年平均気温は24℃である。4月から9月の降雨量は年間の80%を占め、5月から8月は雨季である。
(1) 工場の概要
訪れた甘しゃ糖製造工場は、国営農場の付属工場として、1959年に操業を開始し、現在では砂糖以外にも、製紙、発電、建設材料、食品などの事業も行っている。社員は6,000人でそのうち800人が砂糖部門に属している。
設立当初は処理能力350トン/日の小さな工場であったが、80〜90年にかけて増設し、現在では4,000トン/日の処理能力である。工場の敷地面積は13万m
2で、製糖工場のほかに発電施設などがある。
工場は品質第一をモットーとしており、その技術の維持・向上のためにも専門的な知識を持つ大学卒の人を優先的に採用している。
(2) 甘しゃ糖の製造
製糖期間は10月から3月の間である。今年は3月11日に製糖終了しており、残念ながら工場内部の見学はできなかった。今年のさとうきび処理量は50万トンで白糖5.5万トンの製造であった。前年の処理量は33万トンであり、さとうきび処理量が増加したのは、工場周辺だけでなく、他の地域からも原料の搬入があったためである。
亜硫酸法を使った耕地白糖の品質は中国でもトップクラスだと自負していた。実際、コカコーラの製造工場(中国)に白砂糖を納品しているようであった。
(3) 工場周辺のさとうきび畑
大型トラクターでの耕起 |
工場周辺は縦横無尽に水路が走っているが、海に近いこともあり、淡水と海水が混じっている。そのため、土地に塩分が強く、畑の地力があまり高くないようである。
さとうきび収穫は10月頃から始まり、収穫したさとうきびの梢頭部は水に浸され二芽苗が調苗され、植付けられる。収穫後、すぐに大型トラクターで耕起し、収穫日から15日ぐらいで植付けが行われる。畝幅は1.1メートルと日本に比べると狭く、千鳥植えにされている。
寒い時期に植付けしたものはマルチ(ビニールの覆い)をし、寒さと雨からさとうきびを保護して発芽を促進させている。通常3月下旬に覆いをはずすが、その時々の気象条件で時期は調整される。
栽培体系としては、株出しが15%、残りは収穫直後の植付けである。株出しは、畑に地力がないためあまり行われず、また工場としても奨励はしていない。株出し回数は1回だけであり、複数回は行われていない。
工場周辺からのさとうきびの搬入は水路が使われている。収穫されたさとうきびは、工場まで小船で搬送される。一部はトラックで工場に搬入される。全てをトラック搬入とするにはコストがかかるため、考えてないようである。
(4) 工場の将来
工場周辺の地域は、地方政府が工業特区に指定している。香港、マカオと同じ優遇で外資系企業を勧誘しており、外資系企業の工場の建設が大々的に進められている。そのため地価が上昇し、農地を手放す農家やさとうきびを作らない農家が増えており、製糖工場は原料確保が問題となってきている。そのためか、昨年まではこの地域に5、6個の工場があったが、今年稼動したのはこの工場だけであった。
広東省の将来の糖業、会社の展望について聞いたところ、「広東省のほとんどの砂糖会社は、西へ資本を移動させようとしている。そのため、糖業の拠点は広西、雲南へと移動するだろう。また、この工場も耕地白糖から、海外から原糖を輸入し精糖する方法に変えることを検討中である。しかし、原糖の購入をどのようにするか、社員の合理化など問題は多い」ということで、この地での糖業が大きな曲がり角に来ているように感じられた。
マルチをしたさとうきび畑 |
水路(小船)での運搬 |
4.最後に
中国が工業化したとはいえ、農村人口は6割を超えており、所得格差など農業、農村は大きな問題を抱えている。WTOに加盟し、農産物も世界との競争にさらされることになり、零細な農業経営は存続が難しくなってくるだろう。このような中で、「農村土地請負法(2002年8月29日全人代常務委第9回可決)」が制定され、農民に長期にわたる土地使用権が与えられ、転貸、交換、譲渡、抵当等も認められるようになった。今後、自由意志・有償原則のもと土地請負経営の流動化が進み経営規模の拡大が進むことを期待しているようである。農民の自由度が増したと考えられるが、反面、自己責任による競争原理に則った農業経営をしなければならなくなってくるといえる。
農民のリスク分担という面では、積極的に甘味資源作物の価格と食用砂糖の価格を連動を推進させ、市場の変化に基づいて栽培を調整させることを促し、盲目的な栽培を止めることを目的としている「製糖用作物管理暫定規則(2002年7月;国家発展計画委員会、農業部、国家商工総局の4部門共同発布)」が制定されている。こうした面でも農家は自己責任で栽培作物を選定しなければならなくなってきた。自己責任・競争原理の流れのなかで、農業農村経済5カ年計画では農民の収入増加、農村の税制改革による農民の負担の軽減を打ち出して農家の環境改善を目指している。農家にとって大きな転換期がやってきたといえる。
製糖企業についても、 社会主義国家といいながら、競争原理をはたらかせ経済合理性を優先させている。広西チワン自治区中南部、雲南省南西部、広東省西部にさとうきびの優勢生産地区を特定し、合理的な、世界に太刀打ちできるようなさとうきび生産地帯を形成し、併せて近代的な製糖工場を配置する構想を持っている。すでに、新しい動きとして、外資導入による合理化された合弁工場がいくつかできているという。
製糖工場は、国営企業、または、国が関与している企業がほとんどなので、政府の方針が決まれば再編合理化のスピードは早いのではないかと思われる。
農業も、製糖企業も大きな転換期にあり、中国砂糖業界がどうなるか落ち着くまで何とも予測し難いが、13億人の人口を抱える中国の砂糖の市場規模は大きく、また、国民の生活水準の向上や食生活の改善による国内消費量が増加する潜在力も大きく、その市場規模が大きいだけに気になるところである。