[2005年4月]
茨城県の農林水産物、食文化などへの理解と愛着を深めてもらうとともに、地産地消をはじめとした食と農の連携による地域活性化を推進することを目的に、平成17年2月1日(火)、水戸市において(水戸京成ホテル)茨城県、うまいもんどころ食彩運動推進協議会、独立行政法人農畜産業振興機構の主催により「うまいもんどころ食彩フォーラム」を開催した。当日は生産者や一般消費者、流通・販売、栄養指導関係者など約550人が参加し、講演やパネルディスカッションを通じ、茨城県の地産地消の推進を図るための取り組みについて理解を深めた。
ここでは、フォーラムの概要を紹介する。
1 基調講演の概要
「うまいもんから地域の活性を考える」
東京農業大学教授 小泉武夫(こいずみたけお)氏
(1)「食」と「農」による地域活性
基調講演を行う小泉氏 |
全国各地で地域の活性化の取り組みが行われているが、その中で、大分県大山町の例を紹介する。大山町の大山農協は15年前にプロフェショナル農業集団と名乗り、より高いレベルの農業に取り組んだ。独自の栽培マニュアルづくりや土づくりにこだわり、良質の農作物を生産するようになった。大山農協は作るだけではなく、自ら販売に取り組み、うまく展開している。例えば良い麦が採れるのでパンを作って売り、パンが売れると、次はパンに塗るジャムを作るという具合である。昨年、最も売り上げが多かったのは、大消費地である福岡で開いた農民食堂である。大山産のおいしくて安心、安全な農畜産物を使っており、行列ができるほどの大繁盛となっている。大山の農家のおばあさんたちが、1週間交代で福岡へ行き、料理を作っている。平均年齢は70歳を超えているが、楽しそうに作っている。このような成功例から、大切なことは、地域経済循環システムであることがわかる。大山町の農家の収入は地元の商店街に流れ、町の商店街も活気を取り戻していく。お金は地元銀行に集まり、地元銀行は大山町の企業に融資する。このサイクルが地域の活性化をますます進める。この結果、大山町では、地域の食料自給率が上がり、農業は楽しいものであり、かつ高収入を得ることができることがわかると、若者が農業に戻ってきた。また、子供たちが地産地消で地元で採れたものを食べることにより、地元を愛するようになった。これが繰り返され、素晴らしい町づくりができた。町づくり、地域づくりは農林水産業をおいては考えられない。地方の時代とは、農林水産業を中心とした地域の活性化なのである。
(2)「食育」と「地産地消」の大切さ
現在、日本の食料自給率は、40%を下回り、海外への食料依存度は高まるばかりである。食料を持たない国ほど危険なものはなく、このままでは日本の将来が憂慮される。今、必要なのは地産地消を実践し、自分たちの食生活を守ることである。これを地方から行っていくべきである。また、地産地消とともに食育が重要である。今の子供たちはどこで誰が作ったのかわからないものを食べていることが多く、地元に愛着がわかない。食育を考えるとき、何を食べさせるかではなく、子供たちに食べ物のありがたさを教えることが大切である。
福島県西会津町を事例に紹介する。この町は、7年前の町民1人当たりの医療費が、全国ワースト2位だった。そこで5年間、町ぐるみで食生活の改善に取り組んだ。近年、日本人は、[1] 海藻を食べなくなった、[2] 根茎(ごぼう、さといもなど土の中にあるもの)を食べなくなった、[3] 魚を敬遠するようになった、[4] 大豆を食べなくなったと言われている。いずれも地産地消でできるものであり、昔から日本人が食べていたものである。西会津町は、これら4つを積極的に食べ、特にミネラル分の摂取を図った。海藻はひじきやわかめを、ごぼう、さといもは煮物で、魚は西会津は海から離れているため、昔からのスローフードの棒ダラ、身欠きニシンを、大豆は煮豆にし、これらを徹底的に食べた。その結果、一昨年、画期的なことに、全国で最も医療費がかからない町のベスト2になった。これを「西会津の奇跡」と呼んでいる。食育とは何を食べるかではなく、子供たちのために何ができるかである。地域の人たちが地産地消を実践することがいかに大切であるかがわかる。地方には、やる気になればできることがたくさんある。
2 パネルディスカッションの概要
テーマ:「地産地消の県民運動を推進します」〜うまいもんどころ食彩運動推進協議会宣言〜
パネルディスカッションの様子 |
中島紀一茨城大学農学部教授をコーディネーターに、「食と農の取り組みについて」、「地産地消の県民運動をどのように進めていくのか」などについてパネルディスカッションが行われ、4人のパネリストがそれぞれの立場、視点から意見交換を行った。
(1)学校栄養士の立場から
水戸市立赤塚小学校主任 井上幹枝(いのうえみきえ)氏
栄養士として学校給食に携わっている。平成14年度から学校の近くの農家から野菜を調達し、給食に取り入れている。また、地元生産者と交流し、学校、家庭、地域が連携して食に関する活動を実践している。毎日、給食に使う野菜を職員室前に展示して、生産者の名前、写真を掲示し、子供たちが今日食べる野菜は誰がどこで作ったのか、わかるようになっている。
また、生産者を学校に招き、一緒に給食を食べる招待給食の実施、子供たちが生産者を訪ねる体験学習など、生産者と交流の機会を持っている。
さらに親子料理教室の開催、野菜を使ったわが家の自慢料理の募集など、学校と家庭とのつながりを深めるための活動も行っている。参観日には、父母に学校給食の試食や、生産者と父母との交流の場を設けている。父母たちからは、地元産の野菜は、生産者も明らかで安心感があると評価し、子供たちが入学してから野菜を良く食べるようになったなどの声が上がっている。
将来を担う子供たちの食を取り巻く環境、農業について、私たち一人ひとりが意識を高めていく必要がある。
(2)食材を料理する立場から
(有)五鐵 代表取締役 繪幡惠治(えばたけいじ)氏
水戸市内で料理屋を営み、地元茨城の食材、アンコウ、奥久慈のシャモなどを使った料理を提供している。茨城は山のものも海のものも食材が豊富である。旬のものが一番おいしいと言われるが、同じ食材でも、出始め、盛り、終わりの時期があり、その時期なりに味付けや用途を工夫し、食材のおいしさを引き出すのが料理人の腕の見せ所である。茨城は、観梅の時期に県外からの客が集中するが、アンコウと納豆ばかりが有名になりがちである。今後さらに研究して美味しいものを作り、観光客に対し茨城には1年中おいしいものがあることを広くアピールしていきたい。
(3)生産者の立場から
JAつくば市谷田部産直部会会長 桜井一男(さくらいかずお)氏
昭和59年から地元の生協をはじめ首都圏の生協へ野菜、菌茸類の供給を行っている。安全・安心についての関心を背景に使用農薬の制限など、生協側の厳しい安全基準に応えなければならない。大切なことは、消費者との信頼関係を築くことであり、この信頼関係によって今日まで続けることができた。
環境保全型農業を実践し、畜産農家から牛ふんの供給を受けるなど環境に配慮した農業に取り組んでいる。また、地産地消の取り組みとして、農協で直売所を設け、地元産の安全・安心な野菜などを提供している。このほかにも、地元の中学校と体験学習を通じて「ふれあい農園」を作り、消費者との交流事業に取り組むなど、消費者に生産者のことを理解してもらうよう努めている。さらに、直売所の売り上げが順調に伸びており、今後は、さらにこだわりのある農産物の提供を行うなど充実を図っていきたい。谷田部農協における今後の課題は、後継者の育成である。若者がやる気を持って農業に取り組むために大切なことは、農協による支援であると考えている。
(4)消費者運動の立場から
食育推進ボランティア(下妻市在住) 横島幸子氏(よおしまさちこ)氏
下妻市は人口4万人弱、水と緑に囲まれた田園地帯である。特産品としては、水稲、大豆、ナシ、養豚、野菜など恵まれた環境からおいしいものが作られる。生産する喜びと健康の結びつきに魅せられ、子供たちに地元産のものを食べさせたいとの願いから、「下妻食と農を考える会」が発足した。会員が県農業センターの指導の下、みそ、漬物やハム、クッキー作りなどを勉強し、下妻温泉内の加工施設で生産を始めた。地元産のナシから作るジャムや万能たれは特にお勧めである。商品は、並べておくだけでは売れないことから、道の駅の直売所では、対面販売にも力を入れている。どの商品もお母さんたちの愛情がいっぱい詰まっており、最高の品質と自賛している。これからも会員一同、力を合わせて地域における食と農の取り組みの向上に努めていきたい。
(5)うまいもんどころ食彩運動について
中島紀一(なかじまきいち)氏
基調講演では、小泉先生から食と農が結びついて地域が元気になる話しがあり、パネルディスカッションでは、食と農の具体的な取り組みについて学んだ。茨城県は、たくさんの農水産物が採れるという条件を生かして茨城県民の食卓を豊かに彩りながら、地域の文化や子供たちが健康に育つ地域社会を作るため「うまいもんどころ食彩運動推進協議会」を平成13年に発足させた。同協議会では、県内の食と農にかかわる方たちに広く参加してもらい、さまざまな取り組みを行い、それを踏まえて「うまいもんどころ食彩運動推進協議会宣言」を平成16年3月末にまとめた。
今日のフォーラムでは地産地消、食育の大切さについて理解を深めることができた。これからも茨城県の食と農を考えていきたい。