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EUの新砂糖制度の内容と利害関係者の動向〜砂糖の過剰問題と生産構造の変化、エタノール生産の可能性〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年6月]

国際情報審査役補佐 平石 康久
特産流通部課長補佐 中司 憲佳

1 EU砂糖制度改革案について
2 各国における製糖工場及び生産者の動向
3 ACP諸国の対応
4 まとめ


 平成18年3月23〜24日にロンドンで開催されたAgra Europe Outlook 2006に出席するとともに、併せて今年2月20日に農相理事会によって正式に合意されたEUの砂糖制度改革案のフォローアップ調査の一環として、英国の主な砂糖関連企業であるBritish Sugar社とTate & Lyle社に聞き取り調査を行ったので、その概要について報告する。あわせてEUにおけるビートからのエタノール生産の展望やACP諸国の動きについても報告する。 


1 EU砂糖制度改革案について

 昨年11月24日に合意されたEU砂糖制度改革案について、今年2月20日農相理事会によって正式に採決され、2006年7月1日より新制度が施行されることが決定された。
 制度改革の内容については、11月の修正案どおりとされているが、当初修正案に無かった生産割当の2006/07年度の一時的な削減が同じく2月20日に発表されると同時に、余剰砂糖の処理についてより詳細な内容が明らかにされている。(11月修正案の内容については砂糖類情報2006年2月号「EU砂糖制度改革案の内容とその影響について」を参照)
 これらのことから、昨年以降、域内砂糖の供給過剰傾向が明白になった事で、砂糖の過剰基調を是正することが優先課題となっている事が分かる。

1.生産割当数量の一時削減について
 EU委員会は2月20日付のプレスリリースにより、EU砂糖制度改革案が農相理事会で最終合意に達したことと同時に、2006/07年度の1年度間の生産割当について全体の13.6%にあたる250万トン相当の生産割当の一時削減を行う事を発表した。
 この措置については、市場への過剰な砂糖の供給が市場を圧迫するのを防ぎ、需給バランスの取れた市場状況において新砂糖制度を開始するのに必要な措置と説明されている。
 削減量を決定するに当たっては、従来利用されてきた係数(reduction coefficients)を利用する削減方法と、新しい共通農業政策に適合する比例的な削減方式(linear cut)の折衷方式で行われる事になった。これらの違いは、係数を利用する方法が従来のB生産枠(補助金付き輸出向け砂糖生産枠)を持っていた生産国に対して多く削減を求める方式である一方、比例的な削減方式は一定の比率により加盟国の生産割当数量を減少させる方式である。
 ただし制度改革初年度に既に生産割当数量を削減する事を決定していた加盟国について、削減数量にその数量を繰り入れる配慮もされるとしている。
 しかしBritish Sugarからの聞き取りによれば、一時削減が行われた生産割当数量に対しても再構築基金のための賦課金が課せられる上、削減に対する見返りが全くなく、企業にとって極めて厳しい措置であるようである。
 各国に対する削減数量は表1の通りである。


表1 各国別砂糖・イソグルコース・イヌリン生産割当の一時削減数量
資料:USDA FAS Attache Report “EU Agrees One-Year Cut In Sugar Quota 2006”
注:−1は生産割当数量、−2は生産割当一時削減後の生産量


2.その他明らかになった変更点について
 その他、11月の案の段階では不明であったポイントで、明らかになった点については下記の通りである。

1)余剰砂糖の処理方法についての詳細
 砂糖の生産割当の削減が進まない事態に備えて、いくつかの余剰砂糖の処理方法について2006年2月20日に発表されたEU規則の中に具体的な方策が記載されている。
 11月の案でも、(1)余剰砂糖を翌年度の生産割当にカウントする「持ち越しメカニズム」、(2)市場から一定期間、事業者の負担により砂糖を隔離する「隔離メカニズム」、(3)市場価格が参考価格を下回った時にEU委員会の負担により発動される「民間貯蔵システム」等の市場管理措置が導入されていた。
 それに加え、
 A)2010年度に再構築援助が終了した際に「欧州委員会は割当数量を調整し、持続可能な水準に維持できるようにしなければならない」という条文が明記された。これにより2010年度終了時に生産割当に余剰があるとみなされる場合、委員会による強制的な削減が行われる可能性が明らかにされている。(EU規則318/2006前文(11)、第10条)
 B)加盟国独自による生産割当の削減を認めた。再構築援助に各企業が申し込む数量を考慮に入れるとしながらも、06/07−07/08年度には全体の割当数量の25%まで、2008/09年度以降は10%の削減を加盟国が行う事を認めている。(同第11条)
 C)化学薬品生産等(エタノールを含む)に利用される砂糖が製造企業に国際価格で提供される状況でない場合は、生産払戻金が給付できるとした。これにより食用以外の用途への利用が促進されるものと思われる。(同前文(15)、第13条)
 D)移行的な措置として残された介入制度について、介入機関により基準価格の8割の価格で買い上げられた砂糖については、放出されるときは基準価格を上回る価格でないと販売できない原則となっている。しかし、家畜飼料用や輸出向砂糖または輸出向砂糖製品の用途に販売される場合、基準価格を下回る価格で販売できるとしている。このことから過剰な砂糖については政府の負担により処理される事が可能である。(同前文(21)、第18条)
 E)域内加工軽減措置(EU域外からの砂糖輸入が専ら輸出用産品に利用される場合、無関税で輸入できる措置)をEU委員会が禁止できる権限も盛り込まれた。域内砂糖を強制的に利用させる道を作ったと思われる。(同前文(25)、第24条)

2)再構築援助の用途
 製糖工場のもつ生産割当に対する賦課金(生産賦課金)によってまかなわれる再構築援助及び後述の多様化援助については、当初は砂糖生産から撤退もしくは砂糖生産を減少させる製糖企業のみが想定されていた。
 その後11月の合意案ではそのうち少なくとも10%を生産者や機械のオペレータに対して留保する事が付け加えられていたが、輸入粗糖を精製する精糖企業への援助についても再構築援助から支出される事が明らかになった。
 さらに、生産割当の減少幅に応じて再構築援助に上乗せされる多様化援助についても再構築援助から支出されるとともに、受け取り主体は各加盟国政府であることも判明した。多様化援助を受け取るにあたっては加盟国は当該地域で実施する再編プログラムを策定し、EU委員会に報告する義務があるが、実際ビート栽培者に多様化援助資金を給付するか否かは加盟国が決定するとしている。(EU規則320/2006号、前文(10)、第7条)
 このことから一部関係者から、多様化援助の実態は砂糖改革案に対する各国加盟国の反対を抑えるための見返り措置であったとする指摘もあった。

3)製糖工場による粗糖精製の許可
 従来、伝統的供給割当メカニズムにより精糖企業にのみ認められていた粗糖の精製について、2009/10年度から製糖企業(ビート糖製造企業)にも認められる事になった。(EU規則318/2006号、第29条)
 ただし実際に製糖工場による精製糖の生産が行われるかは議論が分かれており、British Sugar社によると、ビートの製造期間が限られている事から、ビート糖生産が行われていない時期に精製を行う事は、操業期間の延長による操業コストの低下につながり、可能であるとの見通しを述べている一方、Tate & Lyle社によれば、内陸部にある製糖工場まで粗糖を運搬するコストや、精製にかかるランニングコストが一時期にしか精製を行わない製糖工場と、専門に精製を行っている精糖工場で大幅に差があるため不可能であるとの見解を示しており、実行する工場があるかどうかは不明である。


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2 各国における製糖工場及び生産者の動向

 各国のビート糖生産割当の削減について現時点で予測するのは難しい。これは顧客との取引をぎりぎりまで続ける必要があるため、撤退直前まで発表しない傾向があるためである。再構築資金の単価については2年目まで一番高い単価により資金が提供されるが、この申請の締め切りは2007年1月である。そのため、締め切り間近になるまではどの企業が砂糖生産から撤退あるいは大幅な縮小を行うかはっきりした事はわからないが、現在までに収集できた情報によると次のようになっている。

1.EU加盟国におけるビート糖生産及び製糖工場への影響
 British Sugar社及びTate & Lyle社の担当者によると、各国でのビート糖生産の見通しは次の通りである。
 英国の工場数は減少するかもしれないが、製糖能力及び生産割当数量は維持。EUの中の砂糖生産についてトップ7カ国(フランス、ベルギー、オランダ、英国、オーストリア、ドイツ、デンマーク)は引き続き主要生産国であり続ける。その次に位置するスペインでの砂糖生産は灌漑補助(ビート1tあたり10ユーロ相当。隠れた補助金とも言われている)が貴重な水資源を浪費するとの懸念から非難されており、砂糖生産は減少するかもしれない。アイルランドは砂糖生産より撤退、イタリアは来年度の生産量を最低でも半減させることを発表している。さらにギリシャ、東ヨーロッパの一部諸国、スカンジナビアが生産から撤退する可能性があると見ている。
 F.O. Lichts(現在はAgra Europe社の一部門)の2006年5月3日付の専門誌やその他各社による発表や報道による情報では表2のような具体的な工場閉鎖の情報が明らかにされている。
 これらの工場の統廃合の動きに加え、好天に恵まれた05/06年度と違い、平年作を想定すると、06/07年度の砂糖の生産量は、前年度の2100万トンにくらべ20%減の1700万トン台に落ち込むとF.O. Lichtsは推測している。
 また、現在判明している工場の閉鎖だけでも、EU25カ国合計の190工場のうち、30工場が既に砂糖生産から撤退することが明らかである。


表2 現在までに明らかになった砂糖制度改革の影響による工場閉鎖状況
資料:F.O. Lichts “International Sugar & Sweetener Report”May3, 2006 CEFS statistics“Number of factories operating in each production year”他より作成
注:製糖工場数は各国国内の全工場数である


2.精糖企業への影響
 Tate & Lyle社によれば、価格減少によりマージンが半分に減少するとしている。粗糖の輸入価格も域内の白糖価格と同比率低下する事から利益率は変わらないが、利益の総額が減少する事になり厳しい状況であるとのことであった。またEU委員会からの精糖企業への援助も減額される事もマイナス要因である。
 そのため、LDCからの2009年度からの輸入がEBAによる輸入自由化によって増加する事から、LDC諸国から輸入される粗糖精製により操業規模を大きくし、利益を確保する事を期待しているということであった。そのため、それまでの移行期間をどのようにしのぐかが重要であるとしている。

3.EBAによるLDC諸国からの輸入の見通し
 Tate & Lyle社によると、今後のLDCからの予想輸入量は予想する者によって、50−300万トンの幅でばらついている。ただしMauritius Sugar Syndicate(MSS)によると、EUの支持価格の削減が36%と大幅なものであった事から、EUのCIF価格が最終的に1トンあたり400ドル前半になる一方、LDC諸国における砂糖の工場出荷価格は安い国でも375ドル程度ではないかと思われる事から、洪水的な輸出は行われないだろうとしている。
 また、輸出の形態についてTate & Lyle社は、白糖での輸出はフレートや規格、衛生上の規制の問題で難しく、粗糖の輸出が中心になるとの見通しであった。
 更にMSSへの聞き取りによると、LDCとACP諸国の競合については、最初は抵抗感があったが、自らも発展途上国という立場から概念自体は支持せざるを得なかった。また、EU域内の生産削減によってヨーロッパ市場の砂糖の需給バランスが保たれることができれば、ACPとLDC諸国の両方が輸出を行う余地はあるとの見通しから賛成しているとのことであった。

4.ビートからのエタノール生産への取り組み
1)ビートからのエタノール生産状況
 現在ビートからのエタノール生産を行っている工場はほとんどがフランス国内で稼動している。
 この状況についてEuropean Bioethanol Fuel Associationの関係者より事情を聞く事ができたが、エタノール生産に当たって原料であるビートを安価に調達する必要があるが、それができるのはビートの生産費が安価なフランス等の一部地域のみであるとの説明であった。
 現在建設中のBritish Sugar社の工場についてもビートの調達について英国のFarmers Unionと特別の契約を交わしているといわれており、下記の表の通り、全ての工場が、安価にビートが調達できる製糖関連企業により操業されている。
 しかし近年ではギリシャ、英国、オーストリア、ベルギー、チェコにおいても工場について、建設が予定または開始されてきている事が新しい動きとして注目される。



表3 ビートからエタノール生産を行う工場一覧(建設中や計画中も含む)
資料:http://www.ethanolmarketplace.com/plant/list/1他より機構が作成


2)エタノールの生産コスト
 2002年5月の報告であるが、Institute for Prospective Technological Studiesという機関がEU委員会との共同研究により、既存の研究結果を元にエタノールの技術的・経済的な分析を行っている。この中でアイルランドの研究・普及機関であるTeagasc.が行った小麦、ビート及びセルロース原料として麦わらを利用したバイオエタノールの生産費に関する調査結果を掲載している。

 この生産費の計算については次のような前提に拠っている
● 2000年時点での計算である。
● コスト計算の要因は原材料費と加工費及び副産物による収入である。
● 重要な要素として、原料費の計算には生産性(単収)と農作物の価格、加工費は工場の規模とスタイル、労働費、エネルギー費を考慮に入れている。これらの前提の変化によって計算結果は変化する事に留意が必要である。
● 小麦の原料費は120ユーロ/トンとし、1トンの小麦から350リットルのエタノールが製造できる前提(high)だが、休耕補助金が支給された場合の生産費も計算されている。(low)
● ビートの原料費はEUで定められているビートの最低生産者価格(B割当)である32.42ユーロ/トン(4,539円/トン)とし、1トンのビートから100リットルのエタノールが製造できる(high)としている。なお、この分析年(2000年)では休耕地でのビート生産に対しては補助金が支給されなかったため、休耕補助金の受け取りを前提とした計算は行われていない。ただし、より世界市場価格に近いビート価格20ユーロ/トン(2,800円/トン)の条件を想定(low)して生産費を計算している。また、加工については既存の製糖工場の流用を前提としている。
● 麦わらの原料費は240ユーロ/トン(33,600円/トン)と想定している。
(円:ユーロは140円で計算)


表4 原料別エタノール生産コスト

単位:ユーロ/1000L

資料:“Techno-economic analysis of Bio-alcoho production in the EU: a short summary for decisionmakers”
Institute for Prospective Technological Studies (Joint research centre, European
commission)


 以上の計算で明らかなように原材料費(Feedstock cost)が小麦で6〜7割程度、ビートでも5〜6割を占め、これらのコスト削減がエタノールのコスト削減にきわめて重要である事が明らかとなっている。
 またセルロースからのエタノール生産は、原料費は比較的安価であるが、セルロースをエタノールに転換するコストが高くなっており、実用化に向けてはセルロースからのエタノールへの効率的な発酵技術の開発が待たれるところである。
 さらにEU域内のガソリン価格を330ユーロ/1000 l(Euro-super 95,税金を含まない価格)とし、税金を500ユーロ/1000 lとしたときの、様々な税金の控除及び賦課のパターンを考えて、ガソリン、小麦由来のエタノール、ビート由来のエタノール、セルロース由来のエタノールのコスト比較を行ったのが次の表になる。
 このシナリオによると、ガソリンには500ユーロの課税が掛けられた状態、エタノールにはその10%相当額の課税のみかけられるシナリオでおいて、ガソリンより有利になる計算となっている。
 しかしU.S. Energy Information Administrationの統計によると、ヨーロッパにおけるスポットの石油のFOB価格は2000年の28.66ドル/バレルから2005年には54.57ドル/バレルと1.9倍に上昇しており、(やや想定しづらいが)今の価格水準にその価格水準がそのまま反映(330ユーロ×1.9=627ユーロ)されたとするとガソリンに対する課税が行われなくてもlow cost生産でのエタノール価格であれば小麦及びビート由来のエタノールでも価格競争力を持つ事になる。
 また、2000年当時に比べ、小麦の支持価格の引き下げが行われている事や、ビートの単収が上昇していること、エタノールの生産技術が技術革新により向上されているとすると、エタノール生産コストは想定より安くなっていると推察される。
 加えて新しいEUの砂糖関連の規則の中にある「化学薬品生産等に利用される砂糖が製造企業に国際価格で提供される状況でない場合は、生産払戻金が給付できる」とする条文のとおり、エタノール生産用のビートに対してなんらかの生産払戻金の制度が創設されるならば、ビートからのエタノール生産は一層有利になる事と思われる。
 更に新しい砂糖制度においては、エタノール原料用ビートに対する休耕補助金45ユーロ/haの給付が行われることになったため、ビートの単収を60トン/haとすると、1トンあたり0.75ユーロ(105円/トン)の補助金が支給される事も価格競争力の向上につながることになる。
 ただしBritish Sugar社によれば、休耕補助金によるエタノール用ビート生産の補助金については、額が小さい上、利用に当たっての条件(筆者注:補助金の利用にあたっては環境面での配慮等のCross complianceの遵守が求められる)が厳しいため、利用率は高くない見込みであるとのことであった。
 以上の通り、現在の高騰した石油価格や、エタノール用ビート生産に対して補助が行われることを前提とすると、EUの砂糖制度改革による砂糖支持価格の低迷や砂糖生産数量の減少の埋め合わせのための代替収入源を捜し求めているEUの製糖企業の戦略及びEU指令によるバイオエタノールの利用目標の達成への圧力も相まって、ビートからのエタノール生産は今後伸びる可能性がある。そして、それを見越した形での近年の製糖企業によるエタノール生産工場への進出が行われているものと推測される。

表5 一定の税を課した場合のガソリンとエタノールの価格の比較

ユーロ/1000L

資料:“Techno-economic analysis of Bio-alcohol production in the EU: a short summary for decision-makers”Institute for Prospective
Technological Studies(joint research centre, European commission)
注:エタノールはガソリンに比べて3割程度燃費が悪くなるので、同燃費になるよう換算


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3 ACP諸国の対応

1.経緯
 ACP諸国とはAfrican Caribbean and Pacific countries(アフリカ・カリブ海・太平洋諸国)の頭文字の略であり現在18カ国がこの国々に分類されている。
 ACP諸国はSugar Protocolと呼ばれるEUとの間で結ばれた貿易協定によって、いままで特恵的な砂糖の輸出に関する権利を与えられてきた。Sugar ProtocolではEUが、無期限でACP諸国より一定の数量をあらかじめ保障した価格で輸入する事を義務付けている。ACP諸国にとってはEUの砂糖制度改革案はEUの域内の事情により行われるもので、これにより一方的に条約で定められた権利を侵害するものとの認識が強く、今回の制度改革案の中でACPの利益について充分な配慮をするように強く求め続けている。
 このほか、Special Preferential Sugar Agreement(SPS)とよばれる協定もあり、EUの砂糖精製企業が粗糖の数量が不足した際、特別の関税割当数量をACP諸国に対して認めることを定めている。

2.ACP諸国の被る不利益
 表6で明らかにされるように、輸入される粗糖に対するEUの支持価格の引き下げによってACP諸国は5年度間で約4億5千万ユーロ(約630億円)の不利益を被る事になる。
 また表7のとおり、各国にとっての砂糖の持つ重要性はトリニダードトバゴのGDPに占める割合が、0.6%に過ぎない国から、セントキットネイビスのように28%を占める国までそれぞれ違っているが、農業に占める割合は各国とも非常に高い比率となっており、砂糖産業による雇用人数も鑑み、重要な産業である事が見て取れる。また砂糖産業の持つインフラの維持や他産業の振興のための原資を供給するなどの外部経済性についても無視することができない。
 また砂糖の生産量に占める輸出量の割合が高く、重要な外貨の獲得品目である事も推察される。


表6 ACP諸国における支持価格削減による収入の減少
資料:CTA(Technical Centre for Agricultural and Rural Cooperation ACP−EU) “Executive brief”より
注:一部粗糖価格を最新のものに修正し、再計算を行っている。


表7 ACP諸国における砂糖生産の重要性

単位:トン、%、人

資料:African, Caribbean and Pacific Sugar Group“Sugar Facts & Figures”
注:一部計があわない


3.EUからの援助とその問題点
 2006年度に4000万ユーロ、2007年度以降に年間1億9000万ユーロ〜1億3000万ユーロ(額については引き続きEU委員会で検討が行われている)を提供する予定としている。
 しかしACP諸国に対する砂糖価格引下げにかかる援助については、ACP諸国が計画を立てEUより承認を得ないと受ける事が出来ない上、期間当初に支出できる金額が限られていることや、いまだに援助額が決定できずACP諸国の対応も遅れ気味であることから、価格削減が終わる2009/10年度までに援助が間に合わず、効果的な対策にならない懸念がある。

4.砂糖支持価格の削減に対応したACP諸国の取り組み
 以上のようなEUの価格削減に伴う収入の減少に対処するため、各ACP諸国は各対応策を打ち出している。一口にACP諸国といっても多様な背景を持っていることから、対応策については多岐にわたるが、概ね次に整理したような対応となっている。
 ただし、いまだEUからの援助額も不明の段階であり、その額の多寡や各種情勢の変化によって全く違った対策に変更される事も充分予想される。更にこれらの情報については、正式の発表でなく新聞報道等によるものも多く、正式な情報源より確認が取れていないものが含まれている事にも留意いただきたい。

1)他産業の振興による砂糖依存度の減少
 全ての国について当てはまる対応である。一例としてモーリシャスについて、Mauritius Sugar Syndicateのロンドン事務所の説明によると、今までにも繊維、砂糖、観光産業を発展させてきたことに加え、IT、金融、医療、水産業の振興を目指す予定である。例えば日本の援助やインド洋に経済水域を持っている強みを生かして、養殖、水産加工業の振興を図ることや、EUにフリーアクセスがあるとともに、協定により無税もしくは低関税でアフリカ諸国へ輸出できることから、それらの国向けの輸出産業を育てる。また、高い教育水準や英語やフランス語が公用語である事を生かして、Knowledge hubとしての大学を誘致。また専門医療の拠点や製薬産業の発展を目指すとしている。
 しかし一方で国土の大部分を占めるさとうきび畑の重要性や、引き続き砂糖が主要な産業・外貨獲得手段である事、砂糖産業によるインフラの維持の必要性、砂糖産業に従事していた非熟練労働者の他産業への転職の困難性を鑑み、今までの砂糖産業を生かした計画が各国で考慮されている。

2)エタノール生産への転換
 多くの国でさとうきびからのエタノール生産の可能性を検討している。特に米国やEUに特恵的なアクセスを持つ国にとっては重要な選択肢となっている。米国にはCaribbean Basin Initiativeを利用した無関税でのアクセスが期待されており、米国内でのガソリンの添加剤MTBEからエタノール添加への転換の動きを背景として、エタノール輸出へのための投資が計画されている。EUについてもEU加盟国の旧植民地に対する特恵的なアクセスと、EU指令によるバイオ燃料の利用目標を達成するために輸入が増加するとの観測からエタノール生産に期待が集まっている。
 一番大規模な計画を明らかにしているのはバルバドスであり、1億5千万ドルの資金利用を前提とした多目的工場の創設を発表している。新聞報道によると年間30メガワットの電力、12000トンの国内市場向けの精製糖、10000トンの輸出向けバルバドスブランドの特別糖、5000トンの国内向け特別糖、1400万リットルのエタノール、9500トンの高品質ラム酒製造や輸出用の糖蜜を一時に供給できる能力を持つとされている。
 ジャマイカにおいてもエタノール生産は有力な候補である。既にブラジルからバガス等の原料供給及びブラジルのCoinex社とのジョイントベンチャーにより、米国向けエタノール製造が行われているが、更にブラジルのAracatu of Brazil等を始めとする海外の投資家からジャマイカ政府所有の5つの製糖工場の買収の申し出が行われている。これにより、エタノール生産のほか、コジェネによる電力供給、国内市場向け精製糖の生産が期待されている。また、英国の投資家グループによる製糖工場のエタノール製造工場への転換についての計画もある。
 ギアナも国営企業であるGuyana Sugar Corporationによる1億2000万リットルのエタノール生産を計画し、米国やEUのカリブ海諸国に対する無税無枠の特恵を利用したエタノール輸出機会をうかがっているとの報道がある。
 ドミニカ共和国もベルギー資本であるAlco Groupの援助を得て、5800万ドルを投じてエタノール製造工場を建設し、次年度より1億2000万リットルのエタノールを供給し始めるとしている。同時に英国投資家グループであるEthanol Dominicaに借金を抱えた3つの政府所有の砂糖工場をリースし、エタノール製造工場に転換する話し合いがされている。
 同様に輸出もしくは国内のガソリン代替利用としてのエタノール生産を計画している国として、スワジランド、モザンビーク、モーリシャス、フィジー、ベリーズ等でもさとうきびからのエタノール生産について検討が行われており、このうちいくつかの国はブラジルからの技術的支援を受けているとされる。(表8)
 ただし米国では近い将来予測されるエタノール需給逼迫に対応して、エタノールに対する輸入関税を一時的に撤廃するとの観測も流れており、その時には特恵的なアクセスを持つカリブ海諸国の優位性は失われる事になる。


表8 ACP諸国におけるエタノール生産計画
資料:各種報道等により機構が作成

3)さとうきびの用途の多様化や砂糖等の最終製品の付加価値化
 エタノール生産の項目で説明されたような、コジェネによる発電、特別砂糖や精製糖、ラム酒の製造によるさとうきびの用途の多様化、付加価値化が進んでいる他、ジャマイカではさとうきびの増産のための単収向上のために、従来のドリップ式の灌漑方式から、生産性が高く、省力的なセンターピボット方式による灌漑方式への切り替えも提案されている。
 ドミニカ共和国では自由貿易ゾーンを自国に設定し、無関税で砂糖を輸入し、ココナツミルク等の加工貿易を行っている。
 ケニアではMumias Sugar Company社が、さとうきびの生産拡大によるコスト削減を図るとともに、バガスによる発電、エタノールや糖蜜、パン製造用の砂糖などを製造するとしている。また、破砕能力の向上やさとうきび運送用の道路整備、乳業や家禽、食用作物の生産も進めるとしている。

4)砂糖生産の拡大
 ACP諸国+LDC諸国のステータスを持つ国にとっては、今回のEUの砂糖制度改革やWTOにおけるLDC諸国向けの無税無枠の輸入機会の拡大はチャンスであり、砂糖生産の拡大を志向する動きもある。また、域内での利益低下を補うためにEUの砂糖関連企業によるLDC諸国への投資が行われていることも、この動きを後押ししている。
 報道によると、LDCであるモザンビークでは、フランスのビート糖メーカーのTereosの子会社であるBerneuilが3000万ドルをかけてモザンビークの主要精糖企業であるSena companyの株式を2倍に増加させ、そのうち50%を取得するとともに、1000万ドルのローンも追加で提供するとしている。また、EUからの援助を利用したプランとして、さとうきび栽培の拡大を行うとともに、製糖工場や港湾での保管施設の改良、エタノール生産などを行うとしている。これらのことから、モザンビークにとっては、現在の関税割当数量よりも今後輸出向数量が大幅に増加するため、EUの砂糖改革の悪影響は他国に比べ少ない見通しである。
 また南アフリカの最大手の製糖会社であるIllovo社のBritish Sugarの親会社であるABF社による買収交渉も伝えられている(Tereosも買収に名乗りを上げたが、条件が折り合わず断念した)。ABFはIllovo社の51%の株の取得を申し出ている。Illovo社は南アフリカの他、マラウィ、タンザニア、ザンビア、モザンビーク、スワジランドで操業を行っているため、LDC諸国からの砂糖輸出の自由化の恩恵を受ける事から今回の株式取得交渉につながっている。株式の取得が成功すると、これらのLDC諸国にある製糖工場への投資が行われるものと予想されており、EUでの砂糖製造・販売ノウハウを生かした経営が行われるものと見られる。

5)砂糖生産からの撤退
 上記のような対策を講じても砂糖生産が維持できないと判断した国は砂糖生産より撤退することを発表している。
 カリブ海の島国であるセントクリストファー・ネーヴィス(Saint Christopher and Nevis)の政府は、輸出向けの砂糖向け生産から撤退する事を明らかにしている。職を失う砂糖労働者に対しては、起業のためのノウハウの提供、特別レートのローンの提供、農業就労希望者へ91.5エーカーの土地の提供を行うとしている。これらの土地ではかぼちゃ、ピーナッツ、さつまいもが栽培されるとの見通しがされている。
 事情は違うがフィジーにおいては、同国の砂糖生産が先住のフィジー民族から土地をリースされていたインド系移民によって行われていたが、EUの砂糖価格削減と同時期にそのリース期限が切れ、その後の更新に支障が生じている事からアジア開発銀行の推計などによればインド系移民の砂糖生産からの大幅な撤退とともに、砂糖生産量の減少が心配されている。


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4 まとめ

 EUは次第に明らかになってきた域内の砂糖過剰問題に真剣に向き合う必要に迫られており、WTOのパネル判決によりC糖の輸出機会を失った今、強制的な250万トン相当の砂糖生産割当の一時削減を行う事を余儀なくされた。また、自発的な生産割当の削減に頼る新砂糖制度で砂糖の過剰問題を解決できない可能性があることから、新制度の期間中においても様々な削減方法を準備せざるを得なくなっている。
 各国の製糖企業では、条件不利国の砂糖生産からの撤退や大幅減少だけでなく、生産効率の悪い工場を統廃合する事によって、C糖として輸出されていた割当外の砂糖生産を減少させようと動き始めている。ただしそれらによる収入の減少を補うための海外への製糖事業への進出やエタノール生産の展開を目指している。
 ビートからのエタノール生産については高い原料価格等の課題も存在するものの、原油価格の高騰や政府の支援により拡大する可能性がある。
 ACP諸国においても支持価格の削減により各種の対策を講じ始めているが、EUからの援助額も未定であることや、今後の事業の見通し等先行きは不透明である事は否めない。
 例えば英国では、一説によると今回の砂糖制度改革により、従来の3−4割の農家数で同量のビート生産をすると予測されていることや、CAP改革による輪作の他作物の価格削減もあって、大規模農家への土地の賃貸が進んでいることなど、EUの砂糖生産者のみならず農業構造へ大きな影響を与えるインパクトを持っている。
 更に今後のWTO交渉の結果や、業界関係者にFarmers Unionの主張ではなく、環境保護団体の主張がそのまま反映されるとまで言わせる共通農業政策の見直しの経緯如何では、更なる制度改革も否定できない状況にあり、引き続きEUの砂糖生産は大規模な変化に直面する事を余儀なくされると思われる。


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