砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 機構から > 中国の砂糖産業の概要〜国内の需給ギャップと闘う中国政府〜

中国の砂糖産業の概要〜国内の需給ギャップと闘う中国政府〜

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年8月]

国際情報審査役

 中国の砂糖生産は、甘しゃ糖(さとうきび)部門とてん菜糖(ビート)部門から成るが、その主流は甘しゃ糖で、砂糖生産全体の90%強を占めている。また、砂糖の生産量(粗糖換算)は、2000/01年度の670万トンから2002/03年度には1,120万トンと、わずか2年ほどの間に7割近い伸びを示したものの、これをピークに下降を続け、2004/05年度には1,000万トンにとどまっている。中国では砂糖の消費量が年々増加している上、昨年からの国際価格高騰の影響を受け、中国政府は国内市場の供給および価格安定のために国家備蓄砂糖の放出等を行っている。
 このような中国の砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告と当機構の調査で得られた知見をもとに、とりまとめたので紹介する。 



1.中国における砂糖の需給バランス

1993/94年度以降、純輸入国
 中国では1990/91年度以降、国内の砂糖生産量が周期的に増減を繰り返しながらも増加傾向にあった。一方、砂糖消費量は一貫して拡大し続けていることから、生産量のばらつきが国内供給の過不足の原因となっている。 このため、政府が砂糖の在庫調整によって、生産の過剰期と不足期における供給量の調整を図っているものの、砂糖の輸入量にも年度によって著しい変動が見られる。ここ十数年では、消費量が生産量を上回ることが多く、同国は1993/94年度以降純輸入国となっている。


図1:砂糖の生産量と消費量、純輸出量の推移

 中国の砂糖消費量は、1990年代は比較的緩やかな増加傾向を示していたが、2000年に入ってから急速な伸びを見せ始める。この消費の拡大に弾みをつけたのは、砂糖の製造業者等の支援を目的にした、サッカリンを中心とした人工甘味料の生産能力を削減する政府当局の取り組みである。これによって、消費者のサッカリンから砂糖への転換が促されたことで、砂糖の消費量は概算で150万トンから200万トン程度増えている。これは一過性の刺激策に過ぎず、消費量が同様の伸びを今後も見せることができるかどうかは不透明と言える。ただし、中国では食品産業による砂糖の需要が急速に拡大していることから、2004/05年度、2005/06年度の平均増加率は2001/02年度および2002/03年度のそれには及ばないまでも、好景気に沸いた1990年代の年平均2%を上回る見通しである。

国家砂糖備蓄制度−備蓄砂糖の放出−
 政府は、国務院が1991年11月に公布実施した「国務院の砂糖調整経営管理関連政策通知について(原文:()」および財政部が1996年1月に公布実施した「国家備蓄砂糖財務管理方法(原文:)」に基づいて、国防上の突発的事件、自然災害時における砂糖の重要性はもとより、国内砂糖市場のコントロールと価格安定のために、砂糖を備蓄したり緊急時に放出したりする国家砂糖備蓄制度を設けた。
 例えば、2001/02年度および2002/03年度のように余剰砂糖が生じると、政府は在庫を積み増して(あるいは、生産者にそれを命じて)、余剰砂糖を市場から隔離し、価格の支持を図ってきた。
 また、これとは逆に、2004/05年度のように砂糖不足に陥ると、政府(国家発展改革委員会、商務部)は、一連の入札を実施し、備蓄砂糖の競売、放出を行うことで、砂糖価格の急騰を抑えてきた。


表1:砂糖の需給バランスの推移


表2:国家備蓄砂糖放出状況

 2005/06年度も、再びこうした政策が取られ、今年1月に入札が実施され、国家在庫から18万4,000トンの砂糖が放出されている。しかし、在庫の放出が行われたにもかかわらず依然として砂糖価格の高騰を抑えることができなかったことから4月、5月にも合計36万8千トンの砂糖が放出された。
 4月の2回目に行われた国家備蓄砂糖の放出は、2006年に行われた他の放出と異なる売り方をした。それは、買い手の対象を最終ユーザーである大手食品企業としたことである。その結果、売り渡した砂糖が在庫されることなく市場に流通し消費され、この政策は市場の需給ギャップをうめ、砂糖価格の上昇を抑制するなど積極的な効果をもたらしたとされている。

国家備蓄砂糖の問題点
 中国では砂糖の生産コストが比較的高いため、在庫の調整は少なくとも部分的に必要となる。国内生産が過剰となった場合、在庫の積み増しの代替策としては、砂糖の輸出が考えられるが、生産コストの高さが障害となって、輸出しても収益を上げることはできない。したがって、政府から輸出補助金が給付されない限り、輸出で余剰在庫を解消することは不可能である。しかも、中国は2001年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟したことで、大規模な輸出補助金を給付することは事実上できなくなった。また、中国は、国内の需給状況にかかわらず、年間40万トン前後の砂糖を輸入するという貿易協定を長年にわたって、キューバと結んでいる。このため、キューバ産砂糖が常に、国内在庫をより一層押し上げるといった状況にある。

砂糖の国内消費
−1人当たりの消費量は増加−

 中国の砂糖の国内消費は、家庭用消費が各年度とも全体の20%程度を占めており、それ以外は業務用であり、過去6年間この構造は変化していない。業務用では、飲料が29%、菓子類が12%、パン類が10%で用途の主流をなしている。人口の増加率が鈍化するなか、直近3年間においても消費量が伸びを示した最大の要因は、1人当たりの消費量の増加であり、2005/06年度は9.3kgと見込まれている。


図2:中国における砂糖の流通─生産から消費まで─


表3:砂糖消費の内訳



ページのトップへ


2.その他の甘味料

異性化糖は少く、ブドウ糖が主流
 中国では、でん粉質甘味料の総需要が比較的少なく、でん粉質甘味料で最大の市場占有率を誇るのは、ブドウ糖で、2005/06年度の需要が白糖換算で230万トンを越えるものと予想される。一方、異性化糖(HFS)があまり生産されておらず、販売量も白糖換算で8万トン前後である。中国での異性化糖産業はまだ黎明期にあり、成長する可能性を秘めてはいるものの、現在のところ、需要が飲料ならびにパン類にほぼ限られ、その数量も少ない。

表4:砂糖と異性化糖の生産量、消費量、輸出入量の推移

代替甘味料
─人工甘味料は甘味料総消費量の20%以上を占める─
 政府は2000年、国内の砂糖の製造業者等の支援を目的に、サッカリンの生産を制限する政策を打ち出した。国内販売を規制する当局の断固たる取り組みによって、サッカリンの消費量は1999/00年度から2002/03年度までの3年間に砂糖換算でおよそ150万トン(換算無:5,000トン注)も減少している。その後、政府は、甘味料市場におけるサッカリンの占有率を管理するために、年間の生産量および国内販売量の目標値を定めてきたが、実際の販売量は目標値を越える傾向にある。さらに、この2年間にわたって砂糖価格が上昇したことで、人工甘味料の収益性が高まり、その結果、国内販売の規制が一段と難しくなっているにもかかわらず、人工甘味料全体の国内消費量は増えている。


表5:甘味料消費の推移

 また、中国は、人工甘味料の生産量、消費量ともに世界一を誇る。2004/05年度も人工甘味料使用量が砂糖換算で350万トンを越える見通しであり、依然として、甘味料総消費量の20%以上を占めている。この人工甘味料の中で、最も多いのはサッカリンであり、人工甘味料全体の約55%に上る。他の人工甘味料も使われてはいるが、数量的にかなり少ない。サッカリンに次いで多く消費されるチクロは砂糖換算で120万トン(換算無:40,000トン注)、ステビオサイドは砂糖換算で19万9,000トン(換算無:995トン注)である。


表6:中国の国別サッカリン(中国名:糖精)輸出実績の推移

 中国産のサッカリンおよびチクロは生産量(生産額ではなく)が、世界の人工甘味料市場において圧倒的に多い。中国では、政府の政策によって国内市場向けのサッカリンの生産が縮小されたとはいえ、国内市場向け、輸出向けともにサッカリンとチクロは依然として人工甘味料の主流をなしている。国内市場向けの生産が縮小する一方で、生産コストの低い中国がサッカリンの主要輸出国であることに変わりはなく、2004/05年度には総生産量の80%ほどを輸出した。ただし、低価格の輸出によって米国やインドとの間で貿易摩擦が生じていることも事実である。

 注:人工甘味料の砂糖に対する甘さの度合いは、サッカリンが砂糖(重量による)の300倍、チクロは砂糖(重量による)の30倍、ステビオサイドは砂糖(重量による)の150〜300倍。ただし、純粋なステビオサイドは後味に苦みがのこり一般的には他の甘味料と混ぜて使用されるので一般的なブレンドで砂糖(重量による)の約200倍として計算した。



ページのトップへ


3.さとうきびおよびてん菜の生産状況

さとうきび生産の90%は広西チワン族自治区、雲南省、広東省
 中国では、北西部に位置する新疆ウイグル自治区を中心にてん菜の生産拡大が進められているとはいえ、2000/01年度以降、砂糖の生産拡大を主に牽引しているのは、さとうきびの産地である。てん菜の生産量は全体的に見て、農業生産性の低さ、てん菜糖工場の規模の小ささと稼働率の低さ、とうもろこしやトマトなどの代替作物との競合によって、1990年代から減少傾向を示している。


 これに対して、さとうきびは、広東省や福建省などの伝統的な産地で競争が激化しているとはいえ、広西チワン族自治区や雲南省をはじめとする新興産地で生産が急激な伸びを見せている。
 中国農業部が発表したさとうきびなど主要作物の開発を対象とする2001年から2005年の現「5ヵ年計画」には、広西チワン族自治区、雲南省および広東省で重点的に、さとうきび栽培のさらなる拡大を図る計画が盛り込まれている。これら3地域の砂糖生産量はすでに、中国全体の90%を占め る。中国では西部に行くほど砂糖の生産が盛んであるが、これは、これら地域の経済的発展を促す政策を政府が進めていることによる。広西チワン族自治区は現在、国内最大の砂糖の産地で、2004/05年度の生産量(粗糖換算)が概算で、国内全体の半分以上に相当する600万トンに達した。雲南省の砂糖の生産量は190万トンであった。
 てん菜の主な産地は、北西部の新疆ウイグル自治区と北東部の黒龍江省である。これら2地域のてん菜糖の生産量を合わせると全体の75%を越え、2004/05年度の生産量(粗糖換算)は、それぞれ30万トンと15万5千トンであった。

さとうきびの生産実績
─収穫量9,000万トン─
 中国におけるさとうきびの収穫面積は、1999/00年度の130万ヘクタール程度から、2002/03年度には140万ヘクタール近くにまで拡大した。収穫量も9,000万トンに達している。2000/01年度には一旦、7,000万トン台を割り込んだが、これは天候不順の影響による。
 輸出向け砂糖の生産で中心的な役割を果たしているにもかかわらず、さとうきびは、中国の農業総生産額に占める割合が1%にも満たない。
 表7を見ると、さとうきびは平均単収が1ヘクタール当たり65トン程度であることが分かる。これは、世界の主要生産国のそれよりも少ないが、この6年間、幾分改善が見られる。また単収は、広東省が常に1ヘクタール当たり70トンを越える一方で、雲南省が60トン未満など、地域によるばらつきが大きい。
 さとうきびのショ糖含有率は、ほとんどの生産国の標準値が13%前後で、中国産の平均含有率も、ほぼこの水準にあるが、この20年間、ごくわずかな改善しか見られない。
 単収とショ糖含有率が、ゆっくりとではあるが改善している現状を反映し、国内のさとうきびの1ヘクタール当たり産糖量も上昇傾向を示し、1996/97年度以降、2年間を除いて、1ヘクタール当たり6トン以上に達している。


表7:さとうきび生産状況の推移


図3:さとうきび1ha当たりの産糖量の推移


甘しゃ糖工場の実績
─多くの工場は小規模、機械化と自動化が進まず─
 政府は近年、産業合理化プロセスの一環として、不採算経営の砂糖工場を閉鎖する政策を進め、注目を集めている。こうした工場の閉鎖計画を推進する要因となっているのは、業界全体の処理能力を一定の目標レベルに到達させるという政府の方針ではなく、財政的な配慮である。不採算経営工場でなくとも、処理能力をはるかに下回る稼動しかしていない工場は多い。不採算経営工場の閉鎖によって、同政府は、こうした工場の稼働率の向上も目指している。


表8:甘しゃ糖工場の生産実績

 また、中国では、甘しゃ糖部門の生産の拡大が、甘しゃ糖工場の 増加に繋がっていない。むしろ、1990年代後半から工場の合理化が進められ、稼動している工場の数は1999/00年度から2004/05年度の6年間で、16%も減った。さとうきびの供給量の増加に、工場の数の減少が重なった結果、残った工場の平均処理能力ならびに処理量の拡大、そして特に稼働日数の増加が促された。


図4:1工場当たりの甘しゃ糖生産量の推移

 図4を見ると、工場の減少によって、1工場当たりの甘しゃ糖の生産量が近年、増加傾向にあることが分かる。とりわけ、大豊作であった2001/02年度および2002/03年度の増加は著しい。
 中国では、近代的な製糖技術が導入されていない甘しゃ糖工場が多い割には、ショ糖の抽出率と洗糖工程(boiling house)での回収率が良い。この一因としては、農家がさとうきびの梢頭部と葉の部分を家畜の飼料用として使うため、砂糖原料としては不要な、これらの部分が除去された後のさとうきびが工場に納入されることが挙げられる。
 また、500名から600名の従業員を雇用する工場が多数を占めており、従業員数は国際的な標準に比べて多い。一方、その状況には、工場によって極めて大きな開きが見られる。
 機械化が進み、高レベルの労働生産性を実現する大規模な工場もあるとはいえ、機械化と自動化があまり進んでいない小規模な工場が大多数を占めている。その上、従業員数の多さを、平均賃金の低さが相殺する形となって、砂糖の生産量1トン当たりの人件費は、世界で最も低い部類に入る。
 現在でも、甘しゃ糖工場の多くは石炭を使って蒸気を発生させており、バガス(さとうきびの絞りかす)が製紙工場やパーティクルボード注工場に販売されることが少なくない。実際のところ、多くの甘しゃ糖工場には、そのバガスを利用する製紙工場やパーティクルボード工場が隣接している。しかし、工場の拡大と改修が徐々に進んで、エネルギー効率の良い設備が導入されつつあるため、今後、省エネルギー化が図られるとともに、バガスを発電用燃料として販売する可能性が高まるのは確実と言える。
 注:細かな木片や削りかすを合成樹脂で固めて熱圧成形した板であり、建築材なやテーブル板・音響用キャビネットなどにも使用される。

てん菜の生産実績
─この2年間の収穫面積は半減─
 中国では、てん菜の収穫面積は、1999/00年度の34万ヘクタール近くから2004/05年度には19万ヘクタールにまで縮小した。てん菜は同じ時期、単収が改善したものの、収穫量が1999/00年度に比べて300万トン近く(率にして32%)減少している。2004/05年度の収穫量は600万トンにも満たない。中国の農業経済にとって、てん菜の重要度は非常に低く、その生産額が農業全体に占める割合は0.1%程度にとどまっている。


表9:てん菜の生産状況の推移
※:てん菜の生産額は、各年の砂糖の生産に使われたてん菜の数量に、農家が受け取る、砂糖に加工されたてん菜1 トン当たりの代価をかけたものである。
資料:LMC、中国統計年鑑

 この表9を見ると、てん菜の平均単収は1ヘクタール当たり27トン前後であることが分かる。これは、世界のてん菜糖産業の平均に比べて著しく低い。この3年間のうちの2年間、てん菜の単収が改善されて30トンを超えたが、これが今後も続くかどうかは不透明である。単収は、黒龍江省がこの6年間、平均で1ヘクタール当たり15トンにとどまり、世界で最も低い部類に入る一方で、栽培地の拡大が進められる(かつ、灌漑の整備が進んだ)新疆ウイグル自治区が平均で50トンを超えるなど、地域によって非常に大きなばらつきが見られる。
 てん菜のショ糖含有率は、さとうきびに比べても改善のペースが鈍く、1999/00年度から2004/05年度の6年間の平均が14.8%前後で、1994/95年度から1998/99年度の5年間の14.2%をわずかに上回る程度である。1ヘクタール当たり産糖量の上昇も緩やかではあるが、極めて低い水準から、2004/05年度には1ヘクタール当たり3.0トンに達した。ただし、この点でも、中国産てん菜は世界で最低水準にある。


図5 てん菜1ha当たりの産糖量の推移


表10:てん菜工場の生産実績


てん菜糖工場の実績
─生産激減により、工場の稼働日数はピークの半分─
 てん菜糖は、甘しゃ糖とは異なり、続けて生産量が2001/02年度と2002/03年度に続けて増えたものの、再び減少に転じて、結局、2000/01年度の水準をも下回った。その一方で、数多くの工場が閉鎖されたことで、1工場当たりの平均処理量と処理能力が拡大している。2004/05年度には、工場の数が1999/00年度に比べて33%強減ったが、閉鎖された工場は、ほとんどが、それまで休眠状態にあった施設であるものと考えられる。稼働日数は、2002/03年度に160日を超えるまでに回復したが、この2年間、てん菜の収穫面積が半減したことが響いて、同年度をピークに激減している。


図6 1工場当たりのてん菜糖生産量の推移

 図6を見ると、工場の減少によって、1工場当たりの砂糖の生産量が近年、2002/03年度までは増加傾向にあったことが分かる。とりわけ、大豊作であった2001/02年度および2002/03年度の増加は著しい。
 この5年間、てん菜糖工場が減少したことで、設備稼働率が向上したとはいえ、ショ糖の回収率は77%程度にとどまり、ほとんどのてん菜糖生産国が通常達成する水準にはるかに及ばない。この要因としては、製糖技術ならびに栽培品種の品質の低さ、そして、場合によっては、てん菜の貯蔵期間の長さが挙げられる。ショ糖の回収率が低い要因には他に、ディフューザー(浸出塔)以外にほとんど海外の技術が導入されていないこともある。また、甘しゃ糖部門とは異なり、てん菜糖部門には外国との合併企業が1つもないことなどが挙げられる。
 理論上は、多くのてん菜糖工場が9月末から翌年の4月いっぱいまで稼動できる。冬は寒さが厳しく、気温が零下まで下がるため、地面が長期的に凍結する前に収穫さえ行えば、てん菜を冷凍状態で保存、裁断でき、その結果、収穫期以降も稼動が可能となる。
 しかし、それにもかかわらず、ここ数年、稼動日数を著しく短縮しているてん菜糖工場が多いように見受けられる。黒龍江省では、一部の工場の稼動日数がわずか60日にとどまる地域もある。とりわけこの2年間、稼働日数が大幅に短縮された背景には、深刻なてん菜不足がある。てん菜を充分に確保するために、黒龍江省の工場は、農家から購入するてん菜の提示価格の大幅な引き上げを余儀なくされている。しかし、農家側は、それまで工場の支払いが期日までに行われることが少なかったため、そうした工場との取引にあまり前向きではない。
 また、てん菜糖工場では、甘しゃ糖工場と同様に、従業員数が国際的な標準に比べて多い。この一因は、工場の平均規模が小さいことにあり、そのために、労働力の利用でスケール・メリットを生かすことができない。また、賃金が低いために、工場の多くの工程で機械化および自動化が図られておらず、これも、てん菜糖の工場部門を労働集約型にしている要因の1つである。賃金が低い水準にとどまる限り、工場に従業員の数の縮小を促す誘因はほとんどない。

砂糖工場の現状と品質
 公式な統計資料が乏しいため、中国では白糖と精製糖の正確な内訳を把握することは難しい。現在、稼動中の306工場のうち、甘しゃ糖(さとうきび)工場は266ヵ所で、そのほとんどが耕地白糖を生産している。残りの40ヵ所は、てん菜糖工場である。てん菜糖工場で生産される白糖は、品質にばらつきがあるが、最高級品質の砂糖を求める顧客の要件を満たすことができる精製糖を生産する能力を持つてん菜糖工場はほとんどない。甘しゃ糖は、その大半が耕地白糖として生産される。
 中国産の砂糖では、糖度が99.6度前後、色価が150から200 ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位の「グレードA」が最も多い。これは、広西チワン族自治区の南寧や雲南省の昆明の国内砂糖現物卸市場と、広東省の湛江の小規模な砂糖現物卸市場において、国内価格の基準となっている等級である。少ないながらも、色価が60から80 ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位の、質の高い砂糖を生産する工場もある。また、EUの上から2番目の品質に匹敵する、いわゆるプレミアム砂糖を生産できる、イオン交換設備を整備した工場も、一握りではあるが存在する。
 また、2006年1月6日から10年以上停止していた白糖の先物取引が河南省鄭州商品取引所において再開された。この取引開始により全国砂糖市場体系と砂糖価格体系の整備、関連企業のリスク低減などが期待されている。

工場の所有者
 266の甘しゃ糖工場と40のてん菜糖工場の所有形態や、これら工場に対する管理体制は複雑である。1990年代に産業再編が進められた結果、甘しゃ糖部門では、国営工場の大部分が外国との合併企業か、株式会社(政府を過半数株主とする)、もしくは民間会社となった。このため、所有形態ならびに管理体制を一口に説明することは難しい。現在、中国に製糖施設を所有する外資系の砂糖会社は、英国のBritish Sugar 社とタイのMitPhol 社の2社で、工場をそれぞれ4ヵ所と5ヵ所、いずれも広西チワン族自治区に所有している。


ページのトップへ


4.砂糖制度

 中国砂糖産業の管理体制と主な役割
国家発展改革委員会
 一般的には、中国の経済・社会の発展政策を総合的に研究・策定し、全体バランスを保ちながら経済全体の体制改革を指導する部門である。
 ここでは、砂糖産業の長期計画、戦略目標、政策の策定などを行う。
 主な役割は、次のとおりである。
(1)大規模な砂糖産業のプロジェクトの審査許可
(2)国内砂糖市場の需給バランスと市場のマクロコントロール
(3)砂糖の輸入割当の統一的な管理
(4)国家砂糖備蓄制度の計画・提案・実施
(5)製糖業界の全体の分析と生産管理
(6)製糖業界の構成と区域の構造の調整
(7)化学合成甘味料(サッカリンなどの人工甘味料等)の生産と販売の管理など

商  務  部
(1)砂糖の流通地域の調和と管理
(2)砂糖市場の供給状況の監視、抑制、分析
(3)砂糖の輸入割当の計画、発給などの管理
(4)国家砂糖備蓄制度の管理
(5)砂糖の加工貿易の審査許可など

農  業  部
(1)製糖作物(さとうきび及びてん菜)栽培農家の管理
(2)製糖作物優良品種の基地の建設
(3)製糖作物栽培農家の機械化の推進
(4)製糖作物栽培農家の企業化と社会サービスの体系的整備など
資料:河南省鄭州先物商品取引所作成「()」等


砂糖制度の主な特徴
 中国政府は、上記関係機関とともに国内の砂糖市場ならびに市場価格の調節を目的に、需給調整を行っている。需給調整のために政府が講じることができる方策としては、次のとおりである。

(1)輸入砂糖を対象とした関税割当および輸入許可の分配の制限(数量および企業別)
「農産物輸入関税割当管理暫定方法(原文:()」等に基づき、小麦、トウモロコシ、米、砂糖、綿花、羊毛など8品目の45税目の商品に対して関税割当管理が実施されている。
 同方法は、WTO加盟後の農産物の輸入管理体制に関する重要な改革として、国家発展改革委員会(旧国家発展計画委員会)のより制定された。主な内容は次のとおりである。
 (1)国家発展改革委員会および商務部は、毎年年明けまでに次年度の関税割当量と申請条件を公布し、国家発展改革委員会および商務部から委託を受けた各省や自治区、直轄市の国家発展改革委員会等が企業からの割当申請を受け付ける。また、期限内に実行されなかった分については再配分される。
 (2)輸入農産物関税割当額は、一般貿易による輸入割当(加工貿易の以外の一般貿易、バーター貿易、国境の少額貿易、援助、寄付など)と加工貿易による輸入割当に分けられる。さらに、保税区、輸出加工区内の加工貿易は、輸入関税割当管理に含まれるが、農産物の輸入関税割当額の証明を申請することは免除されている。
 (3)申請者は、次の条件のうち1つを満たさなければならない。「2003年重要農産物の輸入関税割当額実施細則(原文:()」の砂糖関係部分
 ・国営の貿易企業
 ・国家備蓄機能がある中央の企業
 ・前年度に一般貿易の輸入実績がある企業
 ・原糖の日産600トン以上の精製能力のある企業

(2)在庫の買い上げによる備蓄と売却により、国内市場のコントロール
 「国家砂糖備蓄制度」を参照

(3)サッカリンの生産と国内販売に関する規制をはじめとした代替甘味料の使用制限
 中国では、1992年の「サッカリン等の人工甘味料の生産およびその使用制限の通知(原文:()」を各省、自治区等関係者あてに通知し、サッカリンの生産およびその使用等を国内の年間生産量10,000トン以下、年間使用量6,000トン以下と制限した。
 しかし、制限したにもかかわらず、近年、地方と企業における急激に拡大するサッカリンの生産能力と生産量の現状、サッカリンの使用制限を超えた食品の存在、サッカリン生産時における環境汚染などの問題が頻繁に起ってきたことを考慮し、サッカリンの生産能力を厳密に制限するために、1998年の「サッカリンの生産能力を厳密に守るための生産量と国内販売量を制限する通知(原文:()」を各省、自治区等関係者あてに通知した。
 その主な内容は、
(1)2000年からの生産能力
 2000年からの全国のサッカリン生産量の総合計は、24,000トン以内で制御するべきである。国内販売は8,000トン以内で、サッカリンを使用する国内の企業への販売も制限する。
(2)輸出と非食品工業への研究開発
 サッカリンの輸出と非食品工業への研究開発を大いに拡大する。輸出では、極端な価格競争を避け、税関等関係部署の指導に従う。
(3)監視管理体制の整備
 輸出するサッカリンを国内に転売することは許さない。また、各地の税関は、人工甘味料が輸入されることの監視管理を強める。サッカリン生産企業を検査するための組織を設ける。
などである。
 さらに、2000年には、「サッカリン生産・販売の使用管理規程(原文:「()」を各省、自治区等関係者あてに通知した。
 その主な内容は、
(1)生産企業の指定
 中国政府は、ある製品を生産する企業を特定する「指定(定点)生産」と呼ばれる方法を採り、サッカリンの指定生産企業を指定し企業名を公表し、指定が外れればサッカリンの生産ができないこととした。
(2)生産・販売・品質管理等監視体制の強化
 サッカリンの指定生産企業は、計画生産と販売を厳格に課せられ、輸出するにも監視がついた。サッカリンの輸出価格も審査され、輸出入には税関の許可が必要。指定生産企業は、製品の品質(質量)を確保するとともに出荷の製品の包装等にも厳密な管理が求められ、製品の品質(質量)や衛生等に関しても監視・監督される。
(3)生産・販売等データの把握
 指定生産企業は、毎月生産する量を省と直轄市へ届ける。企業のサッカリン生産量、在庫量と国内販売、輸出納品量などのデータを把握する。
(4)使用基準の設定
 乳幼児用の食品に使う、サッカリンなど合成甘味料の製造を厳禁する。使用基準を厳密に定めるとともに、食べ物にはサッカリンその他の合成甘味料の名称と含有量を明記する。
(5)罰則規定
 規定に違反して、計画を超えるサッカリンを生産あるいは国内販売したものは当年度と次の年度の生産と国内販売の計画を削減する。
 さらに、2000年には、サッカリンの指定生産企業5社とサッカリンの販売企業6社を指定し、生産と販売に制限を加え現在に至っている。

国内価格支持
 理論的には、前述した方策によって、砂糖の国内価格が、国際市場における価格の動向の影響を受けることをある程度防止できる。しかし、政府は、目標価格を設定していないばかりか、価格政策自体を整備しておらず、その代わりに、需給を調整するという政策を講じているため、砂糖の国内価格は実際には国際価格と概ね連動しているのが現状である。
 輸入価格とは、関税を含む砂糖の輸入価格であり、輸出価格とは、砂糖の国際市場における販売価格から工場出荷から輸出港渡しまでに要する費用を差し引いた価格である。
 こうした政府の方策は、価格を輸入価格とほぼ同じ水準に維持する上では有効と言える。国内が供給過剰に陥っている時期でさえ、政府による在庫の積み増しによって、いかに長期間であっても、価格が輸出価格を下回る水準にまで下落することを防いできた。


図7:中国における砂糖価格の推移


市場アクセス
 政府は、価格支持策として、輸入割当制度及び輸入許可制度を採っており、世界貿易機関(WTO)加盟時の約束にしたがって、2005年の輸入関税割当(TRQ)を194万5,000トンに設定した。ただし、輸入量はこの5年間一貫して、割当枠を下回る水準で推移している。
 当該期間の大半において、割当数量内の輸入は、適用される関税率が低いにもかかわらず、低迷する国内価格を輸入コストが上回ってしまうため、採算が取れていない。毎年、輸入割当のうち一定の比率が、精糖後に再輸出される(いわゆる委託精糖用)粗糖に当てられる。
 TRQ数量内の輸入砂糖に対しては関税率15%が適用されるが、この割当を超えて輸入された砂糖には、50%の関税が課せられる。
 TRQ数量内の輸入とTRQ数量を超えての輸入はともに、輸入許可制度による規制の対象となる。これによって、少数の国営貿易会社が割当枠の70%を利用できるのに対して、それ以外の会社は残りの30%しか利用できない。 輸入許可制度は、国内生産量だけでは国内消費を満たすことができず、これを補うために砂糖の輸入が必要となる場合を除いて、割当数量を超えた輸入を規制するとともに、これを防ぐ役目を果たす。また、輸入が必要となる場合には、国営貿易会社に必要な許可が与えられるものと思われる。
 中国政府は近年、国内砂糖市場のさらなる支援策として、サッカリンの国内における生産と販売に制限を加えてきた。こうした制限は、砂糖価格の高止まりが人工甘味料の収益率を押し上げ、その国内販売が政府の定める上限を超える状況が続くここ1、2年、強化されている。

マーケティング
 1990年から、砂糖の国内取引が自由化されたことを受けて、製糖工場は自ら生産した砂糖の販売に責任を持つことになった。これは現在も続いているが、国営の商社が未だに存在し、砂糖を工場から買い付けて、最終消費者に販売する「仲買人」として重要な役目を担っている。中国には、国としての砂糖のマーケティングプログラムがない。中国砂糖協会(China Sugar Association)が、業界と政府の間の連絡窓口となるとともに、近年、マスコミで発表される記事を通じて砂糖の消費の促進を図ってきた。

さとうきびおよびてん菜栽培農家と工場の関係
 中国では、甘しゃ糖部門およびてん菜糖部門ともに、砂糖販売によって得た収益を分配する正式な仕組みが整備されていない。その代わりに、政府が毎年、その年のさとうきびおよびてん菜の「指導価格」を発表する。だが実際には、こうした価格は、製糖業者に対する原料価格設定の指針としての役目を果たすに過ぎない。同政府は、栽培者に実際に支払われる価格と、この指導価格の間にプラスマイナス10%の差が生じることを認めているが、こうした限度は、市場の状況にそぐわない場合、無視される傾向にある。
 さとうきびの価格設定における近年の新しい動きとしては、その年度の砂糖とさとうきびの価格を連動させるシステムの導入が挙げられる。このシステムでは、砂糖価格が所定の限度価格を超えて上昇すると、さとうきび価格もそれに連動して引き上げられる。この新たなシステムは、砂糖価格が所定の最低水準を下回っても、さとうきび価格が引き下げられることにはならないため、完全なる利益分配制度とは言えないが、こうした制度の利点に対する「暗黙の了解」の上に成り立つ。

さとうきびおよびてん菜生産者と製糖企業の管理
─製糖用作物管理暫定方法の制定─

 政府は、さとうきびおよびてん菜生産者と製糖企業の利益を共有し、リスクを共同で分担し、製糖作物と砂糖の産業的経営を促進するとともにその産業を管理するために、2002年「製糖用作物(さとうきびおよびてん菜)管理暫定方法(原文:()」を制定した。
 この主な内容は、製糖作物の生産地区の設定、製糖企業を核心にした管理体制、製糖企業と生産者との買い取り契約の締結や、輸送、栽培指導、先に述べた原料価格設定の指針などがあり、また、生産地区での各省など地方政府の役割・責任などについての内容も含まれている。


表11:さとうきびとてん菜の平均価格(2000/01年度から2004/05年度)


表12:貿易政策の現状


ページのトップへ


5.砂糖産業の現状と今後

  冒頭に述べたとおり、中国では2003/04年度〜2004/05年度、国内消費量の伸びに対して生産が停滞し、再び供給不足の状態に陥っている。2000年代初めに生産が大幅に拡大したとはいえ、現状を見る限り現在及び予想される今後の需要に対応できない可能性もある。
 都市化にともなう土地不足の深刻化、代替換金作物との競合の激化、並びに穀物の自給政策の強化などを考えると、砂糖の生産が2000年代初期に見られたようなペースで拡大するとは考えにくい。このため、政府にとって、在庫調整は引き続き重要な価格安定対策となるだろう。
 現在、人工甘味料の製造業者が、政府の定めた国内販売量の上限を超えて販売を行っているが、国による厳しい規制が今後も続けば、砂糖の輸入拡大の他に、供給不足分を補う上で効果を発揮できるのは、異性化糖(HFS)などでん粉質甘味料の生産拡大である。
 異性化糖のメリットは、とうもろこしの主要な産地が東部沿岸の大都市圏に比較的近いために、輸送費が少なくてすむ点にある。ただし、加工費が高いので、こうした地理的メリットが薄まることと、中国において、飼料用はもとより、バイオエタノール用への需要が今後どの程度拡大するか等も考慮する必要があろう。
 いずれにしても、中国政府の打ち出す施策と合わせて、同国のでん粉質甘味料生産と砂糖等の甘味料輸入の動向には注目する必要がありそうだ。 

ページのトップへ