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寄稿文
[1999年1月]

おいしゅうございます〜人生を楽しくする砂糖〜

本稿は、当事業団が平成10年10月3日(土)沖縄県那覇市の「パレット市民劇場」において開催いたしました〈砂糖と食文化セミナー'98〉における岸先生の講演の一部をご紹介するものです。

食生活ジャーナリスト 岸 朝子


 最近、私は「おいしく食べて健康管理」をテーマに講演をしておりますが、「おいしく食べて元気で死にたい。」と申しております。先日、長野県に参りましたが、長野県は沖縄県に負けない長寿県です。沖縄県は日本一の長寿県、特に大宜味村は世界一と言われています。
 一方、 長野県は「PPK」を合い言葉にしているそうです。ピンピンコロリって。なるほどなと思って、私も「PPK」という言葉をこれからテーマにしていきたいと思っております。
 私の父は、大宜味根路銘出身で宮城新昌と申しまして、牡蠣(オイスター)の養殖をしたり、日本からアメリカに種牡蠣の輸出を初めて行った者でございます。母は、首里出身で親泊と申しまして、父も母も沖縄県出身です。ですから、私も100%ウチナンチュウのつもりでおり、沖縄に来れるというのはとてもうれしいことでございます。
 この度、農畜産業振興事業団からお声がかかりましたので、ホイホイと伺いました。本日は、大勢の方がいらして下さいまして、ありがとうございます。私の話の時には、大抵「料理の鉄人」の裏話を期待される方が多いかと思います。「料理の鉄人」の裏話をちょっとした後、「おいしく食べて健康に生きる、その中でお砂糖がどういう役目を持っているか」ということをお話し申し上げたいと思います。
 「料理の鉄人」が始まって9月で満5年で、今月から6年目に入りました。最初は視聴率が7%とか8%なんていっておりましたのが、道場六三郎さんの人気も加わって、一時高い時には22.8%位になりました。そうしますと、テレビというのは怖いものでタレントになってしまいました。ちょうどその時、私は古希を迎えたんですね。それで、「古希の記念に出ましょうか」という感じで出たんですが、それまでずっと料理記者として仕事をして、業界では知っている人が多かったんですけれども、一般の方に知られるようになったのは、その「料理の鉄人」のおかげです。地下鉄に乗っていますと、遠くに座っている奥さんが隣の席に移ってきて、「ねえ、 ほんとにあのお料理おいしいんですか。」なんて質問をされたりしました。それから、新幹線の中で席を探しておりましたら、「岸朝子だ、 岸朝子だ」とさざ波が立つように聞こえるんです。怖いですよ。それから、全然知らない人に声かけられました。おかげでこういう講演会にお招きいただいて、皆様に健康管理のお話ができるということはうれしいことなんですが、講演をしますと、通常、皆様から3つほど質問があります。  その前に、「料理の鉄人」をご覧になっていない方のためにちょっとご説明いたしますが、フジテレビ系列の金曜日の夜11時から始まる番組でございます。鹿賀丈史さんが扮する貴族がいるんですね。この人がとても食いしん坊という設定で、「おいしい物を食べたい」、「新しい料理を知りたい」、「腕のいい料理人を見つけたい」というので、自分の館にキッチンスタジアムを作りまして、和・洋・華の鉄人と挑戦者を一人ずつ闘わせる番組でございます。料理で勝ち負けを決めるのは良くないという批判もいただいておりますが、子供たちをはじめ一般の方たちの食に対する関心が高まったということは事実でございます。
 第一生命が毎年行っている未就学児童を含めて小学校6年生までの780人を対象としたアンケートでは、「大人になったら何になりたい?」という調査の結果、男子の場合は、3位に警察官と並んで食べ物屋さんと出ておりました。女子の場合は1位が食べ物屋さんなんです。女子の場合は、ここ3、4年ずっと食べ物屋さんが1位、2位だったらしいのですが、男子の場合は、7位にコックさんというのもあったそうです。私達の時代は男子は大臣か大将とかで、女子は良妻賢母。私も女が仕事をするなんてとんでもないという時代に、良妻賢母になるよう育てられてまいりました。子供たちが食べ物、食に関する仕事をする人になりたいと言ってくれるのは、「食が命」、「おいしく食べて健康に」ということを一生の仕事にしています私としては、とてもうれしいことです。
 話を「料理の鉄人」についての3つの質問に戻しますと、1つは「材料をほんとに知らされていないのか?」ということです。答えは、「知らされてません。」最初は本当に何にも知らさないでいましたので、何がテーマになるのだろうと、鉄人も挑戦者もイライラしておりました。挑戦者の方はそうでもないでしょうが、鉄人は毎回毎回ですからなおさらです。そこで、2、3年前から5つだけヒントを与えています。10月ですと松茸も盛り、キノコもいろいろ出回る。お魚は秋サバや秋ナスがおいしくなる。果物もリンゴ、栗、柿。山も秋も物皆熟す時などと言いますが、おいしい物がいっぱい出回る時です。その中からテーマが出されます。
 皆さんご覧になって面白いのは、鹿賀丈史さんが「きょうのテーマはこれ。」と赤い布を外します。その時の挑戦者と鉄人の顔をご覧になるのが面白いと思います。ヤマをかけてきて当たった人はにっこり笑ってうなずきますし、陳建一さんみたいに、触ったこともないタコなんかだったらプーっと膨れて、非常に困った顔をします。それから、坂井さん(フレンチの鉄人)が、一度、栗でオードブルからデザートまで考えてきたら、出たテーマがリンゴだった。栗で考えたメニューはリンゴじゃ無理ですので、「頭の中が真っ白になったよ。」なんておっしゃっていました。
2つ目の質問が「ほんとに1時間で作るんですか?」です。これもほんとに1時間で作ります。鹿賀さんが「料理開始」と言います。それから段取り良く2人の助手を指揮して5、6品、多い人は、神田川さんはいつか7、8品作りましたが、1時間以内で作り上げるというのはさすがプロだと思います。それから、ただ作るだけじゃなくて、それを器に盛りつけてソースをかけたり、日本料理ですとポン酢とか、からし酢味噌とか、つけて食べるものまできちんと用意しないと完全な作品とは認められません。
 そのために、3つ目の質問と関わってくるんですが、3つ目の質問は「本当においしいんですか?」です。私が「おいしゅうございます。」と言うのは本当においしいのですが、中にはおいしくないものもございます。その時は「おいしくない。」とは言えませんので、まず盛りつけを褒めます。「デザインがいいですね。」とか。器はスタジオにあるものを使いますが、和食の鉢みたいなのに陳建一さんはよく和え物などを入れたりしますし、ニューヨーク在住で3代目和の鉄人の森本さんは、西洋皿に日本料理を盛りつけたりもします。このように器もボーダレスというのが、この頃のはやりとなっております。
 盛りつけも器も大したことない時には、2つ目は「シャリシャリした歯ざわりがいいですね。」とか「香りがいいですね。」とか「ひんやりした喉ごしがいいですね。」とか、そうして褒めます。
 それも大したことない時は、もう3つ目の苦し紛れに言うことが、「随分思い切った挑戦をなさいましたね。」、「思ってもみなかったような調理法をなさいましたね。」と言います。そして、挑戦者が若い人の時には、「21世紀が楽しみな調理人です。」とか言って、決して味には一言も触れません。皆様どこかにご招待されて、何とも言いようがない物を食べさせられた時も、そういう表現でお褒めになると良いと思います。
 また、助手は2人ずつそれぞれについています。スタジオにいる助手なんです。特別の時だけは、例えば、国際試合の時には自分たちの助手を連れて行きます。香港にも北京にも自分達の助手を必ず2人は連れて行きました。ところが、通常はスタジオにいる助手で、その助手にも出来、不出来がありまして、というよりもとっても上手な人がいるんです。その人を取り合うために、神田川さんは経験でよく知っているものですから、挑戦者と鉄人がジャンケンして、勝った方がそのよくできる助手を使うというようなこともございます。1時間であれだけの料理を作り上げますから、さすがプロだと思います。
 「料理の鉄人」の裏話はこの辺にしまして、本題の「おいしく食べて健康に。」、「おいしく食べて元気で死にたい。」というお話を砂糖を含めてしたいと思います。お砂糖というのは本当にかわいそうなことに、「お砂糖を食べると太る。」、「糖尿病になる。」と言われます。食べ方さえ考えれば、そんな簡単に病気にはならないです。というのは、私、自分自身が75歳で、大正12年、1923年の生まれなんです。その年に、関東大震災がありました。それで、五黄の亥なんです。五黄の亥の年というのは非常に荒れる年だそうでございまして、阪神大震災がそうでしたね。私はその時、満で72歳、数えで73歳でした。70歳過ぎるまで全く健康だったんです。お酒は4合位をほとんど毎晩飲みますし、たばこは今軽いのに減らしましたが結構吸っていますし、編集者という仕事はとても厳しいもので、締切りがありますからどうしても徹夜もする。70歳過ぎまで徹夜してたんですが、そういう激しい仕事をしていても全く健康でいられたということは、食べ物にちょっと注意してきたからなんです。
お砂糖というのは、私達の生活に非常に潤いを持たせるものだと私は思っております。
 また、お砂糖にはさまざまな効用がございます。女子栄養大学の出版部が出しています「砂糖」という本があります。足立己幸さんが監修していてとてもおもしろい本ですが、ほとんどこれに書いてあるのでこちらの方から申し上げます。
 「糖質はエネルギー源となるもので大事なものだ」と安本先生(セミナーの講師)はおっしゃっていました。お砂糖は、北海道や鹿児島県、沖縄県で作られるもの以外は、ほとんどが輸入品でございます。8世紀位にはちょっとありましたけれども、それまではお砂糖はほとんどございませんでしたから、日本の食文化で甘みというのは果物でした。そのために、干し柿とか甘草とかがございますね、これをお砂糖の代わりに使ってきたんです。
 誰もが一般的に使えるようになったのは江戸時代ぐらいでした。朝日新聞の天声人語に「太郎冠者と次郎冠者が出てきて、主人が留守をする。大事なお砂糖の入った壺を、それを食べられてしまうといけないというんで、これには毒が入っているから食べちゃいけないよと言って出かけていく。毒があると聞くと、食べちゃいけないと言われると食べたいのが人情で、出かけた後そっとなめてみたら甘くておいしい。これは砂糖だ砂糖だというんで1瓶全部食べてしまった。」という話が出ていましたけれども、砂糖は毒だと主人が言っていたことに続けて、「今、砂糖が毒だということをみんなが言われて、この頃お砂糖を食べる量が減ってきている。」若い1,000人の主婦(20〜40歳代)に調査したところ、コーヒーにお砂糖を入れるか入れないかというところで、お砂糖は入れないという人が半数いました。
 考えてみると、この頃、若い人は本当にお砂糖を入れませんね。私が『栄養と料理』の編集長をしていた昭和45〜46年頃の原稿にありましたが、「砂糖の消費量は文明のバロメーター」というタイトルで特集したことがありました。日本では、戦後、お砂糖が無くて貴重品だったという経験もありましたが、アメリカとかイギリスなどは、その当時もお砂糖が飽和状態になっていましたが、日本ではやっとお砂糖が自由に買って食べられるようになったという時代の話なのです。
 エネルギー源として人間がお砂糖を求めた時代もあったと思います。しかし、お砂糖の甘さは、先程の安本先生のお話でも「赤ちゃんが喜んで飲む。あれは、お乳に含まれている乳糖を楽しんでいる。」というお話もございましたが、甘い物は疲れをいやしますね。お砂糖の重要性は、そうした人間の精神的な満足感を与えるものではないのかなと思っております。
 昭和20年の戦争中は主婦でしたけれども、お砂糖の配給が無いので、お豆を煮る時に切り干し大根と一緒に煮た経験があります。切り干し大根の甘みでお豆に甘味をつけたということです。それから、干し柿を使ったお菓子を作るとか、もっぱらそういうことを経験しておりますので、お砂糖が非常に貴重であった時代も経験しております。昔、コーヒーを頼むと大きい角砂糖が2個つきましたね。角砂糖1個は5gだったんです。2個で10gのお砂糖をとる。そうしますと、お砂糖は1g が4kcal ですから10gで40kcal、コーヒーにお砂糖を2個入れると40kcal になるとよく言っていましたが、お砂糖もだんだん小さくなって3gのお砂糖になってしまいました。パウダーは袋入りが10gだったんです。それが、6g になって、最近のスティックシュガーは、3g が中に入っていますね。
 このようにして、お砂糖が使われなくなったのは、「お砂糖を食べると太る。」とか、「虫歯になる。」ということで、子供たちに飴を食べさせない親が増えてきたことなどが原因ではないでしょうか。お母さんが「食べちゃいけない」といつも言っていて、ある時、子供が電車の中で落ちた飴を拾って食べていた。子供は自然には飴が食べたいんです。「飴とムチ」という言葉がございますが、人を働かせるのにムチを使ったり飴をしゃぶらせたりするということなんですが、そういうふうな形でむやみに子供の欲求を抑え込むと子供がいびつになるんじゃないかなと私は思っております。
 また、お砂糖の効果は、安本先生は栄養学的におっしゃっていましたが、私自身が体験的に感じていますのは、次のようなことです。私の母と姉は糖尿病です。母は85歳まで生きて、姉は今78歳になりますが、NHKの「きょうの料理」によく出ていたんですが大変太っていました。糖尿病が発病した段階でコントロールしなければいけない。「分かってるわよ。」と言いつつもちっとも分かってなくて、コントロールが悪かったものですから今腎透析を受けていますが、78歳で元気でございます。ですから、私も糖尿病の体質はあるんです。糖尿病というのは体質が遺伝するので本当は発病するはずなんですが、食をちゃんとコントロールしていると発病しなくて済みます。だけど、やっぱり低血糖症状が時々あらわれます。血糖値と申しますのは血液中のブドウ糖の濃度ですね。それがきっと不安定なんだろうと思いますが、原稿を書いていまして夕方4時とか5時位にさあーっと冷や汗が出たことがあったんです。それは要するに低血糖症状なんです。それで慌ててジュース飲んだり、コーヒーにお砂糖入れて飲んだりして治しますけれども、皆様そういうこと経験なさいませんか。何となくやる気がなくなるというのかしら、黄昏時は何となく悲しくなっちゃう。そういう時はエネルギー源が足りないんですよ。そういう時、私自身の体験でちょっと甘いのを入れると元気が出るということで、それはエネルギーが欠乏している。お引っ越しや重労働した後や、大掃除の後においしいお茶と甘いお菓子を食べると元気が出ますね。それはお砂糖が即効的なエネルギー源になりますから元気になるんですが、原稿を書いててそれでなぜ低血糖になるのかということを不思議に思っておりましたら、先程安本先生がおっしゃいましたように、脳だってエネルギーが要るんです。頭の回転を良くするなんていってマグロの頭ばっかり食べていてもだめなんです。脳のエネルギーはブドウ糖しかないんです。だから、原稿書いてても低血糖になるというのはそういうことなんですね。
 それから、私も一度失敗したんですが、お昼にお寿司かなんかをしっかり食べたから、夜はちょっと軽くなんて野菜とお酒で済ませて、炭水化物をとらなかったんです。そしたら、やっぱりこういう講演中に、汗が流れ出しました。むやみに汗が出ておかしいなと思ったら、「ああいけない、きょうは朝から何にもエネルギー源食べてなかった」という経験もございます。ですから、ある程度エネルギー源になるものはとらなければいけないのです。
 それから、今、アメリカは日本型食生活を推奨しています。総エネルギーの15%をたんぱく質、25%を脂質、60%を穀類でとる。このバランスが一番良いといわれ、日本型の食事がそれに一番近いからということで、アメリカでも日本食が流行っております。
 また、アメリカでは最近パスタが流行ってます。パスタはマカロニ、スパゲッティなどですが、要するに小麦粉です。炭水化物をもっと食べましょうということで、アメリカでパスタ料理が非常に流行って、そのソースも出来合いでたくさん売られています。
 日本では、最近、炭水化物は太るから食べないようにしようということで、目に見えない脂肪、例えば、スナック菓子などを食べて、目に見えるうどんとか、お米とか、お砂糖は太るからやめる。『栄養と料理』で特集したことがございますが、若い人達の栄養失調、繁栄の中の栄養失調ということは、きちんとした食べ方をしないとそういうことになるということでございます。
 それから、先程、お砂糖はコーヒー、紅茶に入れて飲むと言いましたけれど、お料理でも欠かすことができないものなんです。ジャムとかキャンディーなどが腐らないのは、お砂糖が半分(昔のジャムは素材と砂糖が同量) 入っているからです。例えば、イチゴ100gに対してお砂糖100g、同量のお砂糖を使っていました。そうしますと、なかなか腐らない。しかし、砂糖が50%位のジャムですと、1週間位は食卓へ置いても良いですが、それ以上はカビてまいります。お砂糖には防腐作用といいますか、菌の繁殖を許さない効果があるんです。きんとんや煮豆も同じです。同量のお砂糖を使います。いわゆる食品に保存性を持たせるという効果です。
 それから、お砂糖は香りがつくというのは変な言い方ですが、照り焼きをご存知ですね。この頃は網で焼くよりも鍋照りといってお鍋やフライパンで焼くのが流行っていますが、お砂糖とお醤油で香ばしい香りがします。メイラード反応という作用ですが、プリンにかけるカラメル、あれもそうです。香ばしさが出てくる。
 それから、一番肝心なのは、やはり甘味ということです。料理をおいしくするということです。これは不思議なことに茶会席、懐石のお料理ではお砂糖をあまり使いません。隠し味程度にちょっと使う程度です。なぜかといいますと、懐石の茶会席、お茶事の料理というのは、一番最後に飲むお濃茶をおいしくいただくためのもの、それからお濃茶というのは非常に強いですから、空腹のところにいただくと胃を痛めます。ですから、その前に軽く胃袋を満たして、なおかつお酒もちょっと飲んで、ほろ酔い加減のところでお濃茶をいただく。お濃茶をいただく前に主菓子という甘いお菓子が出ます。主菓子をいただいてお茶を飲む。ですから、本当の懐石ではお料理の中に砂糖はあまり使われません。
 日本料理は、お料理にお砂糖を使います。先程のきんとんや伊達巻き、煮豆、黒豆、喜ぶというので昆布のようなお正月料理にもお砂糖がたっぷり入ります。そして、お砂糖を使うから、食後に甘いのを食べるという習慣はあまりなかったのです。
 ところが、フランス料理とかイギリス、イタリア料理もそうですが、ヨーロッパの料理はお砂糖を料理に使いません。ですから、デザートがなくてはならないものなのです。イタリアの人はコーヒー、エスプレッソというこんな小さなカップ、100ccも入らないんじゃないですかね、3口位で飲む量にお砂糖を3杯位入れて飲む。それで、かき混ぜて最後に残ったお砂糖をなめるというのが習慣です。これほんとおいしいですよ、私もエスプレッソを飲んだ後にお砂糖をなめるというのが好きです。このように甘味をきちんととることは、コース全体から考えたらバランスがとれていることなんです。
 お砂糖は、料理に味をつける時に先に入れます。例えば、すき焼きが、東京風のすき焼きは割下を使いますからそうは言えないんですが、関西、京都、大阪ですき焼きを召し上がると驚きますよ。牛の脂でお鍋を拭いて、そこにお肉を広げて並べて、雪が降るみたいにお砂糖をたくさんかけるんですよね。外国人は、真っ青になっちゃうんです。お砂糖を先に入れた方が肉が柔らかくなります。その後、そこにお醤油を入れる。それで、煮物を作る時も、お寿司の具に椎茸とかかんぴょうを煮る時も、お砂糖を先に入れて煮て、十分味を含んだところでお醤油を入れる。なぜならば、お醤油を入れますと身が締まりますので、先にお砂糖を含ませておいてから締めます。
 お砂糖は、お豆を軟らかくする働きがあります。その場合は、徐々に浸透させていかないと、いきなりお砂糖をいっぱい入れると身が締まってしまいます。私は、お正月は自慢じゃないですが、黒豆は1升(1.8リットル)を煮ますし、きんとんは大きい業務用の缶で栗を4kg、お砂糖を2kg位入れます。サツマイモももちろん入ります。仕上がりが5kg〜6kgぐらいになります。サツマイモは熱いうちに裏ごしすると楽なんです。冷めると裏ごししにくくなりますよね。ですから、ゆで汁の中にお砂糖を入れて、ちょっとサツマイモを煮て、軟らかくなってからお砂糖を入れなければいけません。いきなりお砂糖を入れると固くなりますから。軟らかくなったところでお砂糖を入れて、それで裏ごしして、それに今度はまたお砂糖を足して、それで栗を入れてきんとんを作ります。お砂糖には、このように物を軟らかくするという働きがあります。
 それから、味をなだめるという言い方はおかしいですけれども、酸っぱいものにちょっとお砂糖をかけるとおいしいですね。温泉旅館に泊まると、梅干とお砂糖が2段になった入れ物になって出てくる。梅干しにお砂糖をかけると、ちょっと酸味が和らいでおいしくなる。それから、私は隠し味によく使いますが、スパゲッティのトマトソースを作る時もちょっとお砂糖を入れます。日本の場合、隠し味程度にお砂糖を入れた方がお味が締まりますし、いただきやすくなります。お醤油とお砂糖をよく煮物に使いますが、関西はダシを濃くとって良いダシで煮るから、関西では煮物はお砂糖をあまり使いません。どっちかといったらみりんを使っています。けれども、関東の料理は、お砂糖をよく使います。私、沖縄の郷土料理であるラフテーもよく作りますが、ラフテーの場合も先にお砂糖を入れて煮込んでおいて、半ばからお醤油を3回位に分けて入れるという使い方をしています。
 関東の場合ですと、例えば、煮っころがしも甘辛いし、お魚の煮物も甘辛い。その時は、お砂糖とお醤油が同量です。同量とは同容量、大さじ1杯のお砂糖を入れたらやっぱり大さじ1杯のお醤油を入れるとちょうどバランスが良くなる。ですから、あまりお砂糖を入れると、今度はお醤油が多くなって味が濃くなる。これはまた、高血圧の原因で良くないですが、お砂糖とお醤油を同容量にすると、味つけは間違いありません。
 私は、「岸さんの一番お得意な料理はなんですか?」と聞かれて、「酢豚」と言うと皆さん唖然としますが、私の酢豚は絶対においしいです。そのコツは、お醤油と水、水は本当はダシが良いのですが、椎茸の戻し汁でも良いです。酢豚に干し椎茸が入るのがおいしいのです。お醤油と水、お酢を同容量にしてお砂糖だけは山盛りにします。例えば、おたまじゃくし1杯入れたらお砂糖は山盛り1杯入れる。大さじ1杯ずつ入れたら、お砂糖は大さじ1杯山盛り入れる。この後、片栗粉でとじると間違いない味になりますから、これを覚えておかれると良いと思います。このように、味にはバランスというものがあります。昔からお塩とお酢の塩梅といいます。というのは昔から、お砂糖がまだ日本で自由に使われる以前から塩と酢の料理はありました。そこに、お醤油が加わってきて、それからお砂糖が使われるようになった。だから、お砂糖はどちらかといえば、比較的最近になって使われるようになった調味料ですが、お砂糖とお醤油はいつも同容量を使っていれば間違いない味つけができるということです。酢豚の場合は、お酢の酸味を和らげるためにお砂糖が多くなる。それで、お砂糖は山盛り1杯でお作りになると間違いないということです。
 それから、ケーキなどは、お砂糖でコーティングすることによって、防腐効果を上げていますし、長く置いといてもしっとり感が残ります。メレンゲは、つやが出てきれいになります。このように、お砂糖は、上手に使えば人間に役に立つもの、生活を楽しくするものだと私は思っております。
 お砂糖の話が長くなってしまいまして、おいしく食べて健康管理、長生きする食べ方といたしましては、何を召し上がっても良いけれども食べ過ぎない。ココアだけ飲んでいれば、血圧が下がるなんて夢にも思っちゃいけないとか、そういうことだけは申し上げておきます。
 沖縄の人が、なぜ健康なのかといったら、やっぱり食生活が良いからです。肉、魚を食べて豆腐等の良質なタンパク質をとる。それから、海草を食べるし、フウチバという緑黄色野菜を日常食べるし、サツマイモも食べるという、元々が健康な食生活なんです。それに加えて温暖な気候もありますが。私、この間、東京の草月会館で平良敏子さんの芭蕉布の展覧会を拝見しましたが、素晴らしかったです。それで、縁戚になるもので敏子さんにお会いして、「元気でね」と言ったら、「大宜味は健康、長寿の村ですから、70歳、80歳働き盛り」とおっしゃいました。皆様もお忘れにならないで、「70歳、80歳働き盛り」。ポッコリ死んじゃう。私も、100歳位になったらポッコリ死んでも良いと思います。また、沖縄県が長寿県である大きな理由は、年寄りを大切にすることです。1人1人が生きがいを持つということだと思います。私もこうやって皆様に話して歩いているのが私の生きがいですし、今日、こういうチャンスを与えていただいたことを感謝いたします。


BACK ISSUES
●1999年5月 食育のすすめ〜現代人の食生活を問う
 学校法人服部栄養専門学校理事長・校長 服部幸應
清涼飲料と砂糖
 清涼飲料相談センター 前センター長 水内武男
●1999年4月 子どもをむし歯にしないために
 大阪大学歯学部小児歯科学講座 大嶋隆、祖父江鎮雄
砂糖の誤解を解く〜健康な脳を作るために〜
 浜松医科大学教授 医学博士 高田明和
●1999年3月 適量の砂糖で健康に
 女子栄養大学客員教授 東畑朝子
和菓子へのこだわり
 株式会社虎屋 社長室広報課課長 川口達也
●1999年2月 「食と健康」 〜砂糖と健康の関わり
 京都大学名誉教授・椙山女学園大学教授 安本教傳
●1999年1月 おいしゅうございます〜人生を楽しくする砂糖
 食生活ジャーナリスト 岸 朝子

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