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丘のまち美瑛町の土作り支援

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

生産地から
[2006年12月]

札幌事務所  戸田 義久
調査情報部調査情報第1課  高島 宏子
岡田 美乃里
調査情報部調査情報第2課  吉田 由美


はじめに
1 美瑛町の農業概要
2 美瑛町における耕畜連携の取り組み
3 耕畜連携の事例
4 まとめ 〜今後の課題と展望〜

はじめに

 土地利用型農業にとって、地力の維持保全・向上は経営維持のための最も大事なポイントである。従前から、農家はほ場残さ(ワラ、殻もの、茎葉など)や刈り草、落葉などをいわゆる「積み肥え」として腐熟させたものを施用したり、小規模に飼育していた牛馬、豚、鶏などの家畜ふん尿と、敷料として利用していた「ワラ類」によるたい肥を施用して、それなりに「経営内の有機質循環系」を作り上げていた。
 しかし、農業の急速な規模拡大と機械化が進展した昭和30年代後半以降は、家族労働力にも余裕がなくなり、小規模複合養畜部門の衰退により、耕種経営においては無畜化による化学肥料への依存が進む一方、畜産経営においては多頭飼養時代に突入し、それぞれの「経営内の有機質循環系」が崩れていった。
 この結果、ある地域ではたい肥など有機質が極端に欠乏することによって耕地が年々やせてきたり、また畜産専門経営の多い地域では、家畜ふん尿が自己の耕地への還元の限界を超え、畜産環境問題が発生するなどその弊害も指摘され、この両極端の事態が同時に存在することとなった。
 今般、北海道美瑛町における、土壌改良と環境改善を目的とした耕種農家と畜産農家の連携を支援する取り組みを調査する機会を得たのでこの事例を紹介する。


写真1 美しい景観が広がる「丘のまち美瑛」


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1 美瑛町の農業概要


 北海道のほぼ中央部にある美瑛町(図1)は、道内第二の都市旭川市と富良野市の中間に位置する。また、東京23区の面積に匹敵する。旭川空港まで約15キロメートルと交通の便も良く、また、波状丘陵の地勢が、パッチワークのような美しい景観を形成し、「丘のまち美瑛」として知られている。1980年代(昭和55年〜)に放送されたテレビドラマ「北の国から」の素朴なイメージで、現在も国内外から多くの観光客が訪れ、関連する産業の活気は増している。一方で、美しい景観を成しているその丘は、傾斜度が最大で15度もあり、大型の農作業機械による困難な作業が強いられるなど負の要素も含んでいる。また、美瑛地域では、1戸の農家のほ場が5ヘクタールずつの区画が基本になっており、その中には沢地、傾斜地などが含まれ集約されていないことから、ほ場や畑作地として使えないなど、土地の利用効率が悪いところもある。

図1 美瑛町の位置
資料:美瑛町ホームページから

 美瑛の気候は内陸性で、夏は30℃、冬は−30℃と寒暖の差が激しいが、農耕期(5〜9月)の積算温度は2,427℃、降水量は410mmと、農耕に適した恵まれた気象条件を生かし、だいこん、アスパラガスが道内第2位の作付面積を誇っている。
 平成16年の耕地面積は、12,700ヘクタールであり、田2,310ヘクタール、普通畑9,120ヘクタール(うち、てん菜畑1,220ヘクタール)、牧草畑1,230ヘクタールとなっており、耕地面積は、町の総土地面積の約2割を占めている。農家戸数は約600戸で、専業・第1種兼業率93%、平均栽培面積は18.3ヘクタールである。


図2 美瑛町の主要作物の作付状況と農業産出額

 主要作物の作付け状況(図2)を見てみると麦類、豆類、てん菜といった畑作が多いが、平成17年の農業産出額(図2)は、全体の132億円のうち、畜産は32億7千万円、野菜は31億2千万円、畑作は54億5千万円となっており、畑作のうちてん菜(工芸農作物)が13億1千万円となっている。
 美瑛町の農業産出額の割合の推移(図3)をみてみると、耕種が全体の約8割を占め、畜産は約2割となっている。また、農業生産額の割合のうち畜産の割合が微増傾向にある。てん菜は、耕種の中のほぼ1割を占めており、収益が安定的な畑作物として輪作体系の重要な位置付けとなっている。


美瑛町における農業産出額の割合
図3 美瑛町における農業産出額の割合
資料:てん菜糖業年鑑

 美瑛町の1戸当たりのてん菜栽培面積(図4)は北海道平均を下回っている。これは十勝・網走地方では平坦地を利用した大規模経営が行われているのに対し、美瑛町は傾斜地が多く、規模拡大が容易ではないが、このことにより野菜との複合経営が進んでいると思われる。

1戸当たりのてん菜の栽培面積
図4 1戸当たりのてん菜の栽培面積
資料:北海道農林水産統計年報

 美瑛町の畑作面積(図5)はてん菜、ばれいしょ、小麦、豆類の畑作4品と野菜が減少傾向にあり、その分、牧草地が増加している。これは、農家戸数の減少、労働力不足のほかに、厳しい農業情勢により耕作不利地(傾斜地・遠距離通作地・粘土地ほか)からの離脱による農地価格の下落が起きていることにより、畑作農家は、コストをかけて作物を作るより、比較的管理の容易な牧草地としての利用が増え、これにより、牧草の自給率に寄与している。


美瑛町における作付面積の割合
図5 美瑛町における作付面積の割合
資料:北海道農林水産統計年報


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2 美瑛町における耕畜連携の取り組み


(1)歴史的な背景
 美瑛町における耕種農家と畜産農家との連携は、農業の機械化により農耕馬などが減少する一方で、畜産農家の多頭飼育化が進む中で行われるようになった。具体的には、昔から地縁的なつながりを持つ畜産農家と耕種農家が、麦稈(ばっかん)とたい肥との交換を行ったことが始まりである。
 昭和2年に北海道では、20カ年にわたる北海道第二期拓殖計画がスタートしたが、この中で、土地改良、有畜奨励と並んで糖業奨励が農業政策の、三本柱として挙げられ、土地改良によるてん菜作付可能地の拡大、ビートトップ※1およびビートパルプ※2の給与による有畜農業の推進、ライムケーキ※3の施用と有畜のふん尿など有機物の土地還元による土地改良・栽培改善の三つが密接に関連していた。
 当時、畜産農家は、てん菜を栽培し、ビートトップと糖業から産出されるビートパルプを牛の飼料として利用していた。なお、ビートトップは現在では、緑肥として畑にすき込んでいる。しかしながら、農業の規模拡大と機械化の進展に伴い、次第にこうした有畜農業は衰退し、耕種、畜産それぞれに経営が特化していくようになった。
 こうした中、昭和40年代には稲作転換事業が始まり、てん菜を生産することにより、農家の収益が上がるようになり、また、丘陵地帯の層厚調整事業により、土地基盤条件が整備されたが、もともと重粘土質でやせた土壌であったため、安定した生産を確保するためには、「地力づくり」が大きな課題であった。

(注)※1 ビートトップ(てん菜の葉部)
   ※2 ビートパルプ(てん菜の根部から糖分を抽出した残りであり、圧搾し水分を除去、乾燥させたもの)
   ※3 ライムケーキ(糖液中の有機物や色素などを吸着除去するため投入される石灰粉末などを含むてん菜の脱水物)


 美瑛町では、昔から地縁的なつながりを持つ畜産農家と耕種農家が、麦稈とたい肥の交換を行っていたが、初めて組織的な土作りを始めたのは、昭和59年に設立された北瑛バーク堆肥生産組合である。北瑛地区は、美瑛町の北部に位置する畑作専業地帯である。土質は、腐植の少ない強粘質の灰色台地土と細粒褐色森林土が主体で、土壌物理性が極端に悪いため、土壌改良が大きな課題であった。同組合は、当時19戸2法人490ヘクタールの畑作農家を中心に、長期展望に立った土作りを目標に設立され、たい肥投入により、地力の回復を図り、生産性の向上と所得の増大によって畑作経営の安定を進めていた。また、斜面が多いため、雨などにより有機質の流失も多く、そのために、有機質としてのたい肥の投入が必要であった。
 同組合は、原料であるバーク(広葉樹や針葉樹の樹皮を粉砕した物)の供給を美瑛町森林組合から受け、それを組合員の畜産農家に運んで敷料とし、その後畜舎から排出されたたい肥原料をたい肥盤に運び入れ、たい肥を生産していた。最近は、畜産農家から供給されていた戻したい肥のバークが野菜農家向けの販売に進み、バーク以外に、浄水場の汚泥、鶏ふんなども配合したたい肥生産へと変化しているが、現在も24戸2法人583ヘクタールでたい肥の生産と組合員のほ場への共同散布を続けている。
 この北瑛バーク堆肥生産組合の先進的取り組みは、その後の美瑛の土壌改良の優良事例として町、農協、畑作農家の指標となっていった。
 なお、平成15年からは、町や農協が美観を重視するという観光政策の推進に加えて、利水、ビオトープなどの環境面の配慮から、畜舎やほ場のたい肥盤を整備し、たい肥生産を推進することで、家畜排せつ物の利用を促進し、地域循環型農業を発展させるという動きとなり、たい肥の活用支援に積極的に乗り出している。

(2)美瑛町農業支援センターの土作り支援
 美瑛町農業支援センター(以下「センター」という。)は、町内農業関係機関(美瑛町役場、JAびえい)が新規就農を含めた担い手対策と土作り対策を進めるため、平成15年7月に設置された。センターの組織の構成は、町役場から2人、JAから4人となっている。美瑛町では、平成元年頃から、断続的にたい肥の運搬の助成を行っていたが、北瑛バーク堆肥生産組合の土作りと土壌改良の成果が認知されるようになったことから、美瑛町でのさらなるたい肥の施用を促進するために、美瑛町と農協が協力し組織的に土作りを推進することとし、土作りに対する助成と担い手の育成を業務の柱とするセンターを設置したものである。こうしてセンターは、従来から町やJAがそれぞれ取り組んでいた土作り関連事業の主体となっていった。
写真2 土作り事業の母体である支援センター

 具体的には、土作り推進の取り組みとして、(1)土作りを通じた組織化の推進、(2)各種土作り対策の推進、(3)土作り認証制度の推進などがある。また、たい肥供給者リストを作成し、畜産農家と耕種農家の間の調整や情報提供を行い、たい肥流通の促進に努めている。
 表1でその実績を見ると、センター設立前の平成14年度のたい肥の投入量(面積換算計)は877ヘクタールであったが、平成17年度には2,326ヘクタールに拡大しており、農家によって、施用するたい肥の散布量に違いはあるものの、美瑛町内での有機物の還元量が増加している。これは、特に土づくり関連として取り組んでいる以下の2本の事業の実施によることが大きい。


表1 平成14年度からの土作り関連事業対象面積の実績
注:10アール当たり5立方メートル(=4トン)のたい肥を投入することで面積換算している。

 1本の柱は堆肥運搬員支援事業である。センターでは、たい肥の直接運搬者(耕種農家又は畜産農家)、あるいは運搬業者に対して運搬に要した経費の一部助成を「堆肥運搬費支援事業」として行っている。例えば、耕種農家が直接畜産農家からたい肥を運搬すると、1立方メートル当たり252円が直接運搬費として支払われる。この負担額の内訳は、表2のとおりで、中山間等地域対策助成金126円(50%負担)、農協50円(20%負担)、実需者である耕種農家76円(30%負担)となっている。


表2 たい肥運搬費支援事業の概要
資料:美瑛町農業支援センター
直接運搬とは、耕種農家又は畜産農家自らがたい肥運搬すること
業者運搬とは、運送業者によってたい肥を運搬すること

 また、他の事例として耕種農家が、運送業者に委託して畜産農家からたい肥の運搬を行う場合は、1立方メートル当たり672円の助成金が支払われる。この時の負担内訳は、中山間等地域対策助成金315円(定額)、農協126円(定額)、残りは耕種農家負担となっている。業者運搬の基本単価については、運搬距離などを勘案して、遠方になるほど基本額が高くなるよう672円、714円、787.5円の3段階の料金区分が設定されている。直接運搬と業者運搬の基本額が大きく異なるのは、直接運搬が一般的に近隣農家同士の授受となるためである。
 たい肥運搬者は、畜産農家と耕種農家、双方の証明を得た後、センターにその証明書を提出し了承されると、センターと農協からそれぞれ助成を受け取れる仕組みとなっている。
 直接運搬の場合、大型の運搬車を所有するのは大抵畜産農家となるが、大規模な耕種農家では、たい肥盤、マニュアスプレッダー、ダンプトラックなどを所有していることから、麦桿ロール1個と中熟たい肥1トンの物々交換が、一般的であるとのことであった。しかし大規模な牧場では、多頭飼育化に伴い、家畜排せつ物の量が増加していることからたい肥の販売も行っている。このようなことから、農家同士の直接運搬だけでは有機物の還元が難しくなり、業者運搬で離れた農家間でのたい肥の運搬、還元も増えたという経緯がある。
 従来行われていた地縁的なつながりの物々交換に加え、センターによる運搬費の助成が行われるようになったことで、より燃料費がかかる離れた農家間へのたい肥の運搬が進むなど、美瑛町内のたい肥の利活用が活性化してきたといえる。

表3 緑肥作付けに要した経費の一部助成する事業

 次に、もう1本の柱として緑肥対策事業がある(表3)。
事業の仕組は、例えば、えん麦を播く場合10アール当たり2,950円が助成の対象とされ、この負担内訳は、中山間等地域対策助成金1,480円(50%)、農協300円(10%)となっている。1,170円(40%)は耕種農家の自己負担額となっている。
 生産者の負担を軽減するため、種子の価格が高いものほど助成率が高く設定されており、種子代の安いえん麦の中山間の助成率が50%であるのに対し、サイヤーは70%となっている。また、緑肥として推進している種子や、観光地である美瑛にとってプラスになる景観作物(キカラシ、ヒマワリ)の種子も高い割合での助成が行われている。中山間等地域対策助成金が増加したことで、緑肥作付けに際した経費の負担を組織的に行うことができるようになったという。
 このほか、センターではたい肥散布組織化モデル事業、全ほ場土壌診断事業が行われており、土作り支援が積極的に行われている。

(3)美瑛町における野菜生産の推進
 美瑛町における野菜生産の概況は、表4のとおりである。野菜は主に稲作との複合経営として注目され、特に付加価値の高いトマト、メロン、百合根の栽培に力を入れていて、百合根は台湾への輸出も行われている。
 トマトは平成16年に農薬・化学肥料を削減した北海道クリーン農業推進協議会の認証基準である「YES!Clean」を取得し、部会を挙げて生産に力を入れ、作付面積、収穫量ともに伸びている。

 ばれいしょについては、カルビー製菓(株)の工場があることから20年以上前からJAとの契約栽培が行われている。現在、カルビーとの契約農家は123戸となっており、市場向けとは別に指定された加工用品種を栽培している。
 JAびえいにはフリーズドライ工場もあり、主にスイートコーン、ばれいしょ、えんどう豆などが加工されている。
 アスパラガスについては、かつてはホクレンの運営する、国内用のホワイトアスパラガスの缶詰工場が町内にあったが、安価な輸入の缶詰が入ってきたことなどから、10年ほど前に閉鎖され、現在はグリーンアスパラガスの生産が主力となっている。
 このうち特に耕畜連携と関係が深いのはアスパラガスとトマトで、これらの品目についてはたい肥の施肥マニュアルを使ってJAびえいが指導を行っている。


表4 美瑛町における野菜生産概況
資料:北海道農林水産統計年報


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3 耕畜連携の事例

 美瑛町の耕畜連携の代表例として、(1)地縁的なつながりを持つ畜産農家と耕種農家が、敷料の供給と家畜排せつ物の還元を目的に麦稈とたい肥との交換を行う伝統的な連携形態の事例、(2)アスパラガスや施設野菜のトマトなど、新たな導入品目の生産に伴い、たい肥の施用を始めた事例、(3)循環型農業を実践しようとしている大規模農場の事例を紹介する。

 事例(1) 菅野牧場(酪農)
 美瑛町の留辺蕊にある菅野牧場は、菅野夫妻、後継者で4代目となる息子さんの3人で経営を行っており、開拓から90年の歴史を持つ。現在、飼養頭数は100頭(うち成牛60頭、育成牛40頭)で、平成17年の年間生乳生産量は600トン、経営面積は38ヘクタール(デントコーン10ヘクタール、畑作10ヘクタール(てん菜、ばれいしょ、小麦、小豆)、牧草(チモシー)13ヘクタール、傾斜が強い区画には放牧利用5ヘクタール)、粗飼料は完全自給されていた。濃厚飼料はJAから購入している。平成18年は、生乳の生産調整のために、乳量で前年比10%減の495トン前後を見込んでいる。


写真3 菅野牧場の外観

 また、初産牛には黒毛和種をかけたF1生産や初妊牛販売も行っている。
 菅野牧場のたい肥は、代々、地縁的なつながりのある近隣の三つの畑作農家と、麦稈とたい肥の交換を行い、また自家ほ場へ施肥も行っている。
 菅野牧場は、昭和53年に牛舎とともにたい肥盤を建設し、平成16年には家畜排せつ物法の完全施行に伴い、畜産環境整備リースなどを利用して、新たに屋根付きのたい肥盤と貯留槽を建設した。 牛舎から出る排せつ物のうち、尿は貯留槽へ、固形物はバーンクリーナーで集積し、その後ダンプによってたい肥盤へ集められ、生あるいは中熟状態で畑作農家に運搬される。
 麦の刈り取りは畑作農家が担当し、麦の反転、集草、ロールベーラーによる梱包、運搬は菅野牧場が行うなど、それぞれの役割分担がなされている。
 菅野牧場のたい肥は、発酵の速度が遅いおがくずなど他の副材は使わず、畑作農家から供給を受けている麦稈のみを使用するという約束を、畑作農家と決めているという。おがくずの配合されたたい肥は散布後に流出しやすく、耕種農家にとって使いにくいために、あまり好まれていないという。


写真4 菅野牧場、搾乳を終えた牛舎、
搾乳牛舎に利用される麦稈
写真5 平成16年に建設した搾乳牛舎の
バーンクリーナーで集積される
たい肥(屋根付きたい肥舎)

 菅野牧場と畑作農家3戸は、1年に4トントラック約150台分のたい肥と、麦稈ロール400個程度の交換(たい肥1トンに対し、麦稈1ロールというのはあくまでも目安で、地縁的つながりからどんぶり勘定的なところもある)を行っており、畑作農家は、農協が所有しリースしているダンプでたい肥を運搬し、それぞれのほ場へマニュアスプレッダーを使って散布している。3つの畑作農家は、春、夏、秋とそれぞれ違う時期にたい肥をたい肥盤から運んでいく形になっており、冬の間は、自家たい肥盤にたい積し、菅野牧場により切り返しが行われている。季節ごとに耕種農家が引き取りに来てくれるため、菅野牧場にとってはたい肥のたい積が偏らず、良い供給バランスを保っているという(図6)。

図6 菅野牧場の耕畜連携事例(フローチャート入れ)

 同牧場と畑作農家3戸の間に、金銭のやり取りはないが、前述の直接運搬で、たい肥の運搬費としてセンターからの助成を受けている(表2参照)。


 このような、畑作農家との耕畜連携により、菅野牧場では(1)自家ほ場だけでは処理しきれない家畜排せつ物を還元できる、(2)麦稈交換により安定的に敷料を確保できるなどのメリットを感じているという。

写真6 酪農経営について語る3代目の菅野氏
写真7 隣接するてん菜とアスパラガス畑


事例(2) アスパラガス生産農家(藤原氏)
 白金アスパラガス生産部会長を努める美瑛町美沢地区の藤原氏の経営形態は、畑作(ばれいしょ、豆、てん菜、小麦)主体で総面積25ヘクタールの畑のうち、10分の1の2.1ヘクタールでグリーンアスパラガスを生産している。


写真8 アスパラガス生産者部会長の藤原氏

 JAびえい管内のアスパラガス部会員は150名で、収穫は年に1回、5月中旬から6月いっぱいまで行われ、管内の総収量は、約330トンである。
 藤原氏がたい肥の施用を始めたのは換金作物であるアスパラガスを新たに痩せ地であった畑地に導入したことがきっかけである。
 たい肥は物理的改良の目的で施用されることが多いが、アスパラガスに対しては肥料としての効果も高いといわれている。なお、アスパラガスは肥料を施用すればするほど収量が増えることから『畑の豚』という異名を持つ作物である。
 アスパラガスは多年草で定植から2年間育成し、3〜5年目から収穫が始まる。最も施用量が多いのは定植前で、10アール当たり30トンのたい肥投入がJAのマニュアルにより指導されており、これは畑の表面を6センチメートルもの厚さで覆うほどの量になる。
収穫後の畝間へのたい肥の施用については賛否両論だが、増収につながるという報告もある。
 藤原氏のほ場では、マニュアスプレッターで、たい肥のほかに、アミノ酸系化学肥料(100キログラム/10アール)、等も散布布している。
 藤原氏は全ほ場の約3分の1にあたる8ヘクタールで麦を生産しているが、同氏の畑のある美沢地区は美瑛町内のほかの地区に比べて畜産農家が少ないため、麦稈ロールとたい肥の交換という伝統的な物々交換を15キロ離れた酪農家と行っている。麦稈は藤原氏が刈り取りをした後、酪農家に運搬してもらい、運搬にかかる経費に対しては、センターから助成を受けている。(表2の直接運搬に該当)
 麦稈とたい肥の交換比率は各農家で違うが、一般的には麦稈1ロールにつきたい肥1トン(1立方メートル)で交換している。
 たい肥の施用により土壌が改良され、18年前のアスパラガスが未だに収穫できるとのことであった。
 このように、たい肥の施用には大きなメリットがあるが、その一方で課題もある。すなわち、たい肥利用は、その運搬費用もさることながら、麦稈の集草作業もコストと手間がかかる。他の農家や作業の兼ね合いで麦稈を運搬しきれなかったといったケースもあり、すき込むだけで土壌の改良につながる緑肥に魅力を感じているという。実際、耕作条件の不利なほ場から休閑地のための緑肥播種も始まっている。しかし、緑肥が増えることによる、たい肥の利用量減少にどう対応するのかも今後の課題と言えよう。また、未熟なたい肥を散布することによる病害発生の誘発や、ばれいしょのそうか病など減収の要因につながる場合もある。さらに、たい肥は運搬や撒布に燃料費と人件費がかかることから収益性の高い農産物にしか使えない上、撒布時期が雪のない時に限られるために他作業との作業時間の競合もある。

事例(3) 有限会社ファームズ千代田
 美瑛町内にある有限会社ファームズ千代田は、6,500頭を飼養する巨大肉牛農場である。91年の牛肉自由化を機に、米国に対抗して「アメリカと同じ規模で牛を飼ってみよう」という意気込みから多頭飼育を始めたという。「おいしい牛肉を作る」「エコロジー」が同農場のテーマであり、肥育牛舎11棟、農地230ヘクタールを保有するほか、牧場直営レストラン、乗馬クラブ、親子で羊、ヤギなどの動物とふれあうことができるふれあい農場、農業体験、といった幅広い事業を展開しており、観光地である美瑛町の観光資源の一つとなりつつある。


写真9 ファームズ千代田

 ファームズ千代田では、F1、ホルスタイン去勢牛を肥育しており、餌には近隣の農家からの稲ワラと自家牧草、購入した濃厚飼料を給与している。
 牛にとっての快適な農場を目指し、ストレスを与えないよう整備された牛舎で30カ月ほどかけて肥育した後、旭川のホクレンや東京の芝浦市場に出荷している。同農場からは毎月約120頭の肉牛(F1)と、ホルスタインの肥育素牛として480頭が出荷されている。その品質は、肉牛出荷量の約55〜60%が、枝肉のB3以上にランクするなど安定している。
さらに、今後は出荷量の70%以上をB3以上にすることを目指しているという。また、ファームズ千代田では、和牛の繁殖(受精卵移植)にも着手しており現在約200頭の黒毛和種も飼養していた。
 一方、同農場では美瑛の銘柄牛である美瑛牛の生産も行っている。美瑛牛は、和牛とホルスタインをかけたF1で、その特徴は、日本酒や料理酒を製造したときに産出される酒粕を、牛の基礎飼料の中に8%程度配合していることにある。これにより、酒粕の中に含まれる酵母が牛の胃の中にある微生物を活発にすると共に、酵母の持つアミノ酸が牛の体内に入り、肉質を良くすると言う。美瑛牛は高値で取引されており、100グラム当たり760円で道内のデパートや東京の一部百貨店などで販売されているとのことである。
 また、上述の美瑛牛は、牧場直営のレストラン「ビーフイン千代田」でもメニューの一つとして提供されている。同レストランでは、安全な食品をより多くの人に安心して食べてほしいという想いから、美瑛牛のほかに、自家ほ場で生産した有機野菜と美瑛町産のお米を使っている。レストランで使われる野菜はすべて自社農場で生産されたものに限り、シーズンオフは冷凍していた野菜を使うなどこだわりを持って取り組んでいる。
写真10 もどしたい肥牛舎

 同農場は大規模な飼育であることから、家畜排せつ物量も多い。そのため、以前は、たい肥を耕種農家にお願いして使ってもらっていた状況であったが、そのたい肥の影響でそれらの農家で土壌改良が進み、ほ場が安定するようになってからは、喜んで利用してもらえるようになったという。
 ファームズ千代田のたい肥生産量は1日当たり200立方メートルで、性状は、土に近い粒状の完熟たい肥で、耕種農家には非常に使い易いと言われている。これは、牛の餌の中に、米国から輸入している発酵促進剤(イースチャーE)を混合し、牛が排せつした時から発酵が始まり、微生物の繁殖がしやすい団粒構造を作っているからだという。副資材としては、バーク、おがくずが利用されていた。
 ファームズ千代田では、エコたい肥事業部で有機たい肥の販売も行っており、センターで支援する運搬費の助成も受けているいる。(表2の業者運搬、大規模肉用牛肥育経営を参照)さらに、ファームズ千代田にとって、たい肥の生産は、自家農場で有機野菜を生産する上でも不可欠となっている。今後は、肉牛、野菜に次ぐ、材料の原産地がすべて表示できる加工商品を作っていきたいという抱負を持ち、食品加工工場の建設も予定している。




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4 まとめ 〜今後の課題と展望〜

 以上、美瑛町における代表的な耕畜連携事例とこれらを支援するための町と農協によるたい肥利用促進の取り組みについて紹介した。
 これら耕畜連携の取り組みの効果として、畜産農家にとっては、自家処理能力を超えるたい肥の効果的な処理が可能となり、敷き料の安定的な確保に繋がっていた。
 一方、耕種農家では、低農薬・化学肥料の認定を取得し、ブランド化に繋がる高付加価値の農産物生産が可能になり、増収効果も期待できた。
 たい肥と麦稈などの効率的な相互利用による循環型農業の推進は、持続的な農業と農村の発展につながる有効な方策である。このためにも単独農家間による取り組みでなく、財政面や技術面の支援を含む地域レベルでの組織的な取り組みが期待されている。
 今後、これらを円滑に推進していくためには、(1)農家の組織化や町、農協などの財政面を含む支援、(2)たい肥の散布、麦稈の集草・運搬作業の協同化、(3)たい肥施肥マニュアルの浸透、(4)たい肥処理施設などの整備などの課題が挙げられる。
 また、美瑛町では、今後の展望として、「土作り認定農産物」ガイドライン作成を目指しており、同町で生産する各作物に対して、たい肥の施用量・方法をマニュアル化し作物のブランド化を推進しようとしている。来年の春には、「土作り認定農産物」としてグリーンアスパラガスとトマトの出荷が予定されており、その後はホームページなどを通して「土作り認定農産物」のPRをしていくことも検討されている。流通段階で、土作り認定農産物とそうでない物を選別するという負担があるものの、ブランド化に成功すれば、より付加価値をつけて農産物の販売を振興することができる。これにより、美瑛町内でのたい肥の活用による土作りがさらに活性化され、循環型農業が推進されていくことが望まれている。
 最後に、この調査を実施するに当たり美瑛町農業支援センターの北村所長、JAびえい近藤部長、菅野牧場、アスパラ生産者の藤原氏、北瑛バーク堆肥生産組合組合長の村形氏、(有)ファームズ千代田 高橋代表取締役に多大なご協力をいただいた。この場をお借りして厚くお礼申し上げる。


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