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お砂糖と日本人の甘い関係

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2000年2月]
 平成11年11月10日(水)に福岡市天神ソラリアステージビル「西鉄ホール」において、当事業団が開催いたしました〈砂糖と食文化セミナー'99〉における山際氏の講演内容をご紹介するものです。
 最近、太るからと敬遠されがちな砂糖。しかし、甘い物が与えてくれる幸福感、至福感は、現代社会にとっては大切な役割を果たすことでしょう。また、適度な砂糖の補給は仕事の能率を上げてくれますし、料理においても様々な役割を果たします。山際氏のお話は、太ることなど怖がらず、取り方を工夫し適度に砂糖を摂ることが大切なのだということを改めて考えさせる興味深い内容でした。

料理研究家 山際千津枝


絶対悪い食品、完璧な食品はない
甘い物はおいしい
肥満予防には、ゆっくり食べ、頭を使うことが一番
料理における砂糖の効用


 こんにちは、「愛情手抜き料理研究家」の山際です。本日は、皆様の貴重な時間をいただくわけですから何かひとつでもお役に立つお話ができたらと思っております。
 さて健康と長寿は誰にとっても重要な関心事です。今までいろいろな健康法がはやっては消えていきました。例えば、ぶらさがり健康器やヨーグルト茸等の健康法。まだ実践なさっている方がいらっしゃったらずいぶん辛抱強い方ですね。最近の健康に対する人々の興味も驚く程です。私の友人にも、青汁に酵素、ビタミン剤、ココア、それだけでお腹がじゃぶじゃぶになるのではないかと思う程毎朝飲んでいる人がいます。今はやりの健康法はすべて実行していて、もちろんジョギングもしているのですが、体調が少し悪くても、小雨が降っていても決して休もうとしません。「あなた命よりも健康が大切なの」と聞きたくなります。
 先日、町を歩いている時、彼女は目的の建物が道路の向こう側にあると分かるといきなりさっさと渡ってしまいました。私にも早く渡れと手招きするのですが、車の間を通り抜けて行く度胸は私にはありません。信号の所まで歩いて行って渡りました。
 毎朝の健康法はこの人にとって何なのでしょう。生身の人間である自覚に欠けるような気がします。健康は幸せに生きるための手段ではあっても目的ではないのです。どんなに健康で長生きしても、人から「意地悪で思いやりのない人だった」なんて言われたくはないですものね。
 食べるということを通して良く生きるということもきちんと考えたいと思います。

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絶対悪い食品、完璧な食品はない

 最近、テレビ番組で何々を食べると癌にならないとか、1つの食品を取り上げて効能を説明する番組が人気です。その番組でブルーベリーが良いとか、ココアが良いと紹介されると夕方にはスーパーの棚からその商品が無くなってしまうという現象が起きています。
 私たちが食べ物を食べる目的は今まで2つでした。おいしさや香りや歯触りを楽しみ、お腹を一杯にする。それによって栄養を摂るということでした。ところが最近になって第3の機能が言われるようになったのです。食品、特に植物性の食品は栄養以外に人間をより健康にし病気から守る化学物質を持っていることが明らかになってきました。植物は成長のために太陽光線を必要としますが、過剰になると枯れてしまうので過剰な紫外線から身を守る物質や虫に食われた時のために抗生物質のようなものを出す機能を持っています。それを人が食べても体内で同じように働くという不思議があるわけです。ほとんどの食べ物が人に役立つ物質を持っている。普段、普通に食べているものすべて健康食品と言っても言いすぎではないのです。ゆえにこの番組は永久に種が尽きることはないでしょう。
 反対に『買ってはいけない商品』というタイトルの、からだに害がある食品のことが取り上げられた本がベストセラーになっています。健康のためにあれも食べなければ、これも食べなければと言う一方で、これも危ない、あれも危ない。私たちはどうすれば良いのでしょう。例えば、豚肉は肉類には珍しくビタミンB1が多く含まれているから良いとする人と動物性の脂を含むから悪いと言う人がいますが、この両方を持つのが豚肉なのです。むやみに添加物が使われているものは別にして、絶対悪い食品やそれだけを食べていると完璧だという食品は無いのです。食べ物は程よく食べる限りからだにとってなんらかの良い役割を果たしているのです。
 食べる量や組み合わせやタイミングが大切なのです。もっと大切なのは、おいしく食べる、楽しく食べる、食べ物に感謝して食べることだと思います。

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甘い物はおいしい

 さて本題の甘い話ですが、最近甘いという言葉の使い方が変わってきたと思いませんか。「あら、このケーキ甘くなくておいしい」と言う。甘い物が食べたくてケーキを買ったはずなのに、「甘さが強くないからと2個も3個も食べたらかえって肥るよ」と注意したくなりますが、「甘さ控えめ」「甘さすっきり」といううたい文句でジュースやお菓子が売られています。甘い物は肥る、健康に良くないという現代の風潮がそういう矛盾した言い方をさせるのでしょう。しかし、果物は「甘ければ甘いほど良い」という傾向は一貫して変わりません。現代人は好みだけでなく情報によっても味覚が支配されるのです。
 また、テレビの食べ歩き番組で若いレポーターさんが名水を一口口に含んで「あま〜い」と叫んでいますが、横で見ていた男性が「水がそんなに甘いわけないだろう。この人分かっているのかな」と怒っていました。そう言えば、豆腐を食べて「甘い」、霜降りの肉を食べて「甘くて柔らかい」という言い方が定番になっています。みなさんも「おいしい」「以外とさっぱりしている」「柔らかい」「甘い」という言葉を言えると食べ歩きのレポーターになれますよ。
 「うまい」は味が良いこと、甘いことの意味でやはり古くは甘いとうまいは同じ言葉だったのです。「おいしい」は「いし」に接頭語が付いたものだそうです。「いし」を辞書で調べたら「よし」とありました。甘い物はやはりおいしいのです。
 味には基本の味「甘み、酸味、鹹味(塩味)、苦味」というものがありますが、動物は苦味や酸味をおいしいと感じるようになるためには、ある程度の訓練が要ります。苦味は腐ったもの、酸味は未熟なもの、腐ったものであるという認識があり、甘い物は果物や穀類が良く熟し甘くなってエネルギーを提供するもの、命を維持するものという目印になっているからです。赤ちゃんにお乳を含ませると笑ったような顔をします。もちろんお母さんに抱かれている安心感もあるのでしょうが、お乳の中の乳糖の持つ甘さが赤ちゃんを幸せにしているのだそうです。楽しいという言葉は「手のし」手を伸ばすということからきていて、向田邦子さんの講演テープで聞いたものの受け売りですが、赤ちゃんがお乳を飲む、嬉しいから手を伸ばす、するとお乳が押されてもっとどんどんお乳が出る、すると赤ちゃんはもっと嬉しい、もっと手をのばす、嬉しい嬉しいと太陽に向かって手を伸ばす。お祝いの時の「ばんざい」にも同じ意味があるのでしょうか。
 私たちがおいしいと思うと、脳内に一種の麻薬様物質が出てくることも確認されています。すぐにキレる子供がいる時代ですね。会場にいらっしゃる方の中にお孫さんに甘いお菓子をあげようとして「うちの子は甘い物は食べさせません」とお母さんに叱られた方もおいでではないですか。おじいちゃんやおばあちゃんの優しさを無にしたり「ありがとう」も言わないことを子供に見せることがどんな意味を持つか考えないのでしょうか。 私は、あまり良い母親とは言えず、放し飼いで子育てをしましたが、子供が何となく元気がなかったりぼんやりしている時、プールで泳いだ後などは、必ず葛湯(くずゆ)を作って飲ませました。葛に少しのお砂糖を入れて、少々のお水で溶き、熱湯を注いでお箸で良く混ぜてトロリとさせ、熱々で食べさせました。これで大抵の場合、子供は元気になったようです。私の母はお水の代わりに焼酎を使っていましたが、からだが温まり血糖値が上がりしゃんとしたのと母親がかまってくれたことで子供は元気になったのでしょう。甘い物が程よく与えられる環境で育つ子供の方が幸せではないでしょうか。一日中スナック菓子の袋を持っているようなおやつの食べ方は問題です。

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肥満予防には、ゆっくり食べ、頭を使うことが一番

 大人においても自殺者が年間3万人にものぼり、50代の男性の自殺者が前年より2千人も増えています。世の中で一番たくさん生産されているお薬は風邪薬かと思っていましたが、そうでは無く抗鬱剤(こううつざい)だそうです。そう言われれば、ここに来るまでの間にもあまり幸せそうな顔の人に会わなかったような気がします。こういう時代にこそ、砂糖のもたらす至福感を大切にしたいものです。
 無意味に砂糖を怖がって、朝のコーヒーに入れるひとさじの砂糖を我慢することの意味は何なのでしょう。3時の甘いコーヒーが午後の仕事の能率を上げることは証明されています。のべつ缶コーヒーを飲み続けるような、めりはりのないコーヒーブレイクの取り方の方がずっと問題です。
 もうひとつ問題は肥満ということです。肥るのは入ってくるカロリーと出ていくカロリーのバランスがとれていないということです。ただ、食べすぎないようにすれば良いのです。あまり無理をしないで肥りすぎないようにするには、最低20分以上かけて食事をすること、食べ物が消化され血液中にブドウ糖が入って脳に「満腹になったよ」と伝えるのに20分。急いで食べるとすでに満腹になっているのに気付かないということになってしまうわけです。テレビを見たり新聞を見ながらも同じこと。私はお酒を少しいただきながら和風の物をいただくのが一番ゆっくり食事ができます。満腹感は血液中のブドウ糖で感じるので、料理に砂糖を全く使わないフランス料理等は、どんなに脂肪がたっぷり含まれていても満腹感を感じにくいのでデザートを食べる習慣があるわけです。
 また、J.アショフという人が実験をした面白い結果があるのですが、人間の皮膚と筋肉の合計は全体重の50%あまりですが、そこに消費されるエネルギーは20%にすぎず、一方、脳の重さは2%程度ですが、消費するエネルギーは20%もあるというものです。頭を使うことはスポーツをするより効率が良いということになりますね。肥っているのは頭を使っていないと言われているようで嫌ですけれど。頭を使わないと心に脂肪がたまりそうですね。
 つまり、和食をテレビ等を消して20分以上かけてゆっくりいただき、頭を使うということが肥満予防の第一歩です。

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料理における砂糖の効用

 私の本職は料理研究家ですが、砂糖の料理における最も一般的な役割は酸味を和らげることです。梅干しにちょっとだけ砂糖をのせてみてください。グレープフルーツに砂糖をかけるのも同じ理由です。また、コーヒーの苦味を和らげます。他にも、でん粉の老化を防ぐ役割があります。お砂糖を入れたお団子はなかなか固くなりませんね。砂糖には水分を抱え込んで離さない性質があるのです。また、卵白に砂糖を入れると泡が消えません。その性質があるおかげで、私の作るケーキはほとんど膨らし粉を使わなくてもふっくらと焼きあがります。また、砂糖の濃い溶液には酸素が溶け込みにくいので、酸化を防ぐ役割があります。腐敗や酸化を防ぎます。イースト菌の発酵を助けるのも砂糖です。上手に砂糖を使うことは添加物を減らすことにもつながるのです。
 焼き鳥やウナギの蒲焼きがおいしいのも 砂糖がアミノ酸と反応してメイラード反応が起こり香りや美しい褐色を作ったからです。
 最後に付録として、おいしいジャムの作り方をお教えしましょう。リンゴと人参の茜色のジャムです。500g(約2個)のリンゴの皮をむいて薄く銀杏(いちょう)に切り、おろした人参100gと砂糖150g、レモンの絞り汁大さじ1杯を鍋に入れてトロッとするまで煮詰めてできあがりです。程よく甘くておいしいジャムです。程よくというのが一番大切なのです。私も今日を機会にもう一度自分の食事を見直してみたいと思います。

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「今月の視点」 
2000年2月 
お砂糖と日本人の甘い関係
  料理研究家 山際千津枝
惣菜産業と砂糖
  (株)三幸 顧問 山田政弥
さとうきび作における営農集団の運営と課題
  (社)鹿児島県糖業振興協会 事務局長 松元幸男

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