[2000年2月]
鹿児島県南西諸島及び沖縄県におけるさとうきびは、農業者の高齢化、農業離れ並びに肉用牛、野菜、花き等への転換等によって、その収穫面積は近年急速に減少しつつあります。収穫面積を維持増加させ、必要原料を確保するためには、収穫作業の省力化が不可欠と言われています。こうした状況下、近年営農集団を組織しケーンハーベスタ等の収穫作業機を共同購入することによって、規模拡大を実現している事例が多くみられます。鹿児島県におけるこうした営農集団の状況を鹿児島県糖業振興協会の松元幸男事務局長に紹介していただきました。
社団法人鹿児島県糖業振興協会 事務局長 松元幸男
はじめに
鹿児島県のさとうきびは、昭和33年、徳之島に国内初の大型分みつ糖工場が建設されて以来、熊毛、奄美の各島に大型工場が進出し生産の拡大が図られ、昭和40年には収穫面積は12,800haに達した。
昭和40年代後半には、出稼ぎ者の急増や生産価格の低迷などで収穫面積が10,000ha前後に減少する等深刻な原料不足が起こり、いくつかの製糖工場が閉鎖される事態もあった。しかし、その後、生産者価格が引き上げられたことや奄美地域での米の生産調整対策に係る転作奨励事業で、水田へのさとうきびの作付けが政策的に進められたこと等で昭和50年以降は拡大基調となり、収穫面積は12,000haまで回復した。
このような状況は、昭和60年代前半まで続いたが、その後再び減少傾向となり、平成10年度の収穫面積は9,000haを割り込む状況となり、現在、さとうきび・糖業ルネッサンス計画等で生産拡大に向けた努力がなされている。
近年におけるさとうきび収穫面積の減少は、担い手の高齢化や農業離れ等の他に、若い担い手を中心に肉用牛・野菜・花き等への転作といったこれまでにない農業構造上の問題としてとらえられ、単に生産者価格の引き上げ等で解決できない問題を含んでいるものと思われる
このような状況の中で、工場操業に見合った原料を確保していくための方策として、機械化、省力化による低コスト生産が重要な課題となってきた。
中でも収穫作業の省力化は、とりわけ重要であり、これまでケーンハーベスタをはじめいろいろな作業機の開発が進められ実用化されてきたところである。
平成4年、M(ミニ)型ケーンハーベスタが開発され、農業公社等のさとうきび収穫受託組織で性能が認められたことで、平成5年以降は、これを基軸とする営農集団が結成され、安定した運営がなされる事例が多くなってきた。
ここでは、現在鹿児島県の南西諸島において、結成されつつあるケーンハーベスタを基軸とする営農集団について、集団結成の動機、運営等についての概要を紹介し、さとうきび作における営農集団の課題と展開について考察してみたい。
M型ケーンハーベスタ(MCH-15) |
中型ケーンハーベスタ(UT-170-A) |
営農集団結成の状況
鹿児島県では、昭和50年当初、さとうきび収穫作業の画期的な省力技術としてドラム型脱葉機が開発され、それを基軸とする営農集団が、数多く結成された経緯がある。
これらの中には、結成当時と同一メンバーで、現在も存続する集団もあり、さらに、ドラム型脱葉機の更新期にM型ケーンハーベスタを導入した事例も見られる。
ケーンハーベスタは、これまでいろいろな機種が開発されてきたが、型や重量が大きく小区画ほ場での作業が困難なことや、接地圧が大きいために収穫後の株傷みが甚だしく、次年度に株出栽培とする作型ほ場への利用が困難なことなど、収穫可能なほ場が限定されることのほかに、価格、取り扱い等において営農集団での導入は困難とみられていた。
平成4年、小型で軽量のM型ケーンハーベスタが開発されるに至り、価格も補助事業を活用すれば営農集団でも導入可能と判断され、平成5年以降種子島を中心に、これを基軸とする営農集団が次々と結成されている。
それは、ドラム型脱葉機をさらに上回る「さとうきび収穫作業のキーテクノロジー」として、画期的な省力技術となり、集団の収穫面積も一層拡大することとなった。
平成5年以降の営農集団結成の状況を表1に示した。
営農集団は、種子島を中心に急速に増加しており、この傾向は奄美地域にも徐々に浸透しつつある。
このように、ケーンハーベスタを基軸とする営農集団が結成されるに至った理由は、
(1)M型ケーンハーベスタは、これまでに開発されてきた機種に比べて、極めて小型軽量で接地圧が小さく、次年度の作型が新植株出栽培などいずれの作型でも収穫が可能である
(2)故障が少なく取り扱いが容易であり、これまでの機種に比べて価格が安く、補助事業を活用しての取得が容易である
(3)1台当たり収穫面積が年間15〜20、収穫量1,200〜1,500トンが見込め、極めて経済性の高い技術であるとの確信が農家に浸透した
こと等があげられる。
表1 ケーンハーベスタを基軸とする営農集団の結成状況 |
地区 年次 |
種子島 |
奄美大島 |
喜界島 |
徳之島 |
沖永良部島 |
与論島 |
平成5年 | 2 | ― | ― | ― | ― | ― |
6年 | 3 | ― | ― | ― | ― | ― |
7年 | 7 | ― | ― | ― | ― | ― |
8年 | 11 | ― | ― | 4 | ― | ― |
9年 | 2 | ― | ― | 4 | ― | ― |
10年 | 3 | 1 | 1 | 4 | 2 | ― |
11年 | 4 | 1 | 2 | 5 | 2 | ― |
合計 | 32 | 2 | 3 | 21 | 4 | ― |
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営農集団の事例とこれまでの経過
ケーンハーベスタはいずれも補助事業を活用して進められており、農業公社、機械管理組合等による広域受委託組織と3戸以上の農家からなる営農集団に導入されている。
ケーンハーベスタを基軸とする営農集団は結成の動機、運営等においていろいろな特徴が見られる。
ここでは、種子島と喜界島の事例を紹介しながら、鹿児島県における結成の動機と運営、これまでの経過について紹介したい。
(1) 種子島の事例
O営農集団の結成年次は昭和52年である。
さとうきび収穫機として開発されたドラム型脱葉機の普及に伴い結成された集団である。構成員は8名で、収穫作業を人力とする集団結成以前からのユイ仲間であった。
従来、人力作業による個別経営では、収穫面積が1戸当たり1.0〜1.5haが限界であったことから、ドラム型脱葉機の導入で、収穫作業の大幅な省力化を図る目的で集団を結成している。
結成当時の集団構成員は8名で、いずれも規模拡大を志向する専業農家であった。
集団結成後、構成員個々の収穫面積はこれまでの2倍程度に拡大され、また、単収の増加も確実なものとなった。
昭和60年にドラム型脱葉機を更新し、3台目の更新期となる平成5年に、M型ケーンハーベスタを導入している。
導入当時は、周辺地域の農家の収穫作業受託を実践してきたが、構成員の農用地の集約による規模拡大が進み、現在は構成員以外の収穫作業受託は行っていない。
構成員8名のうち、2名が高齢化と死亡により離脱したが、残る6名は結成当時のメンバーであり、そのうち3名は後継者による世代の交代を果たしている。
ケーンハーベスタの他にトラクタ、ロータリ、ケーンプランタ、株出管理機等も導入し共同利用している。
収穫作業は構成員の夫婦全員で当たっており、男子6名は収穫作業、女子6名は収穫前の梢頭部除去作業を行っている。
平等出役、平等利益配分が原則で、賃金は男女別に同額としている。
構成員間の合意の形成を図りながら20年間営々として持続する集団である。
(2) 喜界島の事例
F営農集団のリーダーは、昭和56年にUターンし、父親から経営移譲を受けている。
その後、さとうきび専作農家として面積を拡大し、平成2年には収穫面積13、生産量828トンに達している。
今後、さらなる規模拡大を進めるには、収穫作業の省力化と、これと時期が競合する株出管理並びに春植作業の分業化が重要と考え、平成10年にリーダー主導の営農集団を結成するに至っている。
集団の構成員は、リーダーを含め3名で、リーダーはさとうきび専作で、今後さらなる規模拡大を企図している。他の2名は「ハウスマンゴー+さとうきび」、「さとうきび+ハウスメロン」の複合経営である。
これまで、さとうきびの収穫作業は、小型脱葉機(ベビー脱葉機)あるいはドラム型脱葉機の体系としており、複合作物との労働競合に常に悩まされていた。
老朽化した収穫機の更新を機会に、ケーンハーベスタの導入を果たし、集団内における農作業の補完、補合を可能とする集団を結成するに至った。
集団内での作業の役割分担は、リーダー夫婦がさとうきび収穫作業に専従し、構成員2名は複合作物へ集中的に労力を投入する一方、リーダーのさとうきび春植え並びに株出管理作業を担っている。
このことで、リーダーは個別経営では、さらなる規模拡大が困難であったが、集団内の分業化で一層の拡大が図られ、さらに地域の広域受委託組織との連携による周辺農家のさとうきび収穫作業受託をも可能としている。また、春植えを可能としたことで、株出栽培への移行率が高くなり、単収向上と一層の低コスト化が実現されることとなった。
構成員の2名は、複合作物の管理徹底による生産量の増加と計画出荷が図られることとなった。
以上の2事例のほかに種子島では、さとうきび専作の大規模農家が核となって、小規模または兼業農家等と結合する事例(Y集団)が見られる。
これは、核となる農家がリーダーとなり、自己の規模拡大を目的に結成するものである。さとうきび収穫に関わる一連の作業を唯一の共同作業とし、役割分担は、収穫及び収穫補助作業をリーダー夫婦が専従し、収穫補助作業の補完並びに梢頭部カット作業を小規模または兼業農家の主婦らが担当している。
この集団は、収穫作業と時期が競合する株出管理や春植作業への対応ができないことが問題となっているが、現在はこのような作業を農業公社等の広域受委託組織に委託している。
広域受委託組織との連携が強く、株出管理や春植作業を委託する一方、受委託組織を窓口として委託を受けた周辺農家の収穫作業を受託している。
営農集団の性格と運営
県内における営農集団結成の動機、運営等について紹介したが、いずれもM型ケーンハーベスタの開発、普及を機に発展してきたところである。
最初に紹介した種子島の事例パターンは、下図に示すO並びにKaのような集団である。
この集団の課題として、
(1)経営規模、労働構成、経営内容等が類似し、ケーンハーベスタの普及以前に結成された集団も少なくない
(2)収穫と競合する株出管理や春植作業時は、ケーンハーベスタを休止するため、農業公社等地域の受委託組織よりケーンハーベスタの稼働率が低くなる
(3)下図の通り収穫面積は、20haをピークに、それ以上の面積拡大が図れない
(4)ケーンハーベスタの収穫能力に限度があるため、規模拡大志向農家の面積が抑制されている
こと等があげられる。
現在この対策として、規模拡大農家に対しては、出役負担の増加(経営主夫婦とその両親の出役)を課すこと等の対応策をとっている。
最近は、肉用牛(子取り用めす牛)との結び付きの中で、粗飼料として梢頭部確保も集団維持の効用として評価できる。また、構成員の労災保険の加入や研修を兼ねた慰安旅行、忘年会、花見、収穫終了祭等の親睦会を年中行事とする等集団維持の努力がみられる。
喜界町の事例は、図に示すF集団である。
この集団は、経営構造、内容等の経営形態の異なる複数の農家が、個別経営では困難となる作業を、集団内で分業化することによって補完、補合を進め、経営目標を達成しようとするものである。
最後の種子島の事例は、図に示すY集団である。
さとうきび専作で核になる農家が存在し、自己の規模拡大を図る目的で集団運営を図ろうとするものである。
これは、さとうきび専作で規模が突出する農家をリーダーとして、兼業または小規模農家等で構成されている。そして、リーダーとなる農家は、他の構成農家の収穫作業を消化することが必要であるが、これをクリアして余りある時間は自己の面積拡大を自由にすることができることから規模拡大が急速に進むことになる。
図1 集団の構成員別収穫面積(平成10年期)
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図2 集団のハーベスタ導入前後の収穫面積の動き
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営農集団によるさとうきび作りの展開にむけて
鹿児島県の南西諸島におけるケーンハーベスタを基軸とする営農集団事例を紹介してきたが、最後にこれら集団の課題と今後の展開について述べたい。
最初に、規模、構造、内容等の経営形態が等質的な専業農家で構成する集団は、集団結成の一般的なパターンであり、結成後10〜20年来の組織も見受けられ、現在でも同じ性格の集団が新たに結成されている。
これらの集団は、ケーンハーベスタの収穫能力に規制され、平等出役を原則とすることから、規模拡大を志向する農家の面積拡大が規制されている。現在は相応の出役負担を課すこと等で対応しているが、長期的な対策の検討が課題となる。
種子島においては、収穫前の梢頭部カットが恒常化しており、梢頭部を粗飼料として利用する畜産(子取り用めす牛)農家との結び付きが大きく、今後の集団展開の一方向として期待できる。
次に喜界町の経営形態が異なる複数の専業農家によって構成される集団であるが、最近この事例が散見される。
これまで個別経営で、競合する作業の一部を農業公社等の広域受委託組織に委託する事例があったが、定着に至っていない。
それらの解決策として集団を組織し、組織内分業化で、経営の目的を達成しようとする極めて合理的な実践事例として評価できる。
また、地域の広域受委託組織が行う収穫作業再委託方式の受け皿として、地域への貢献度の高い集団として評価されているが、今後は組織内での作業分担上の平等性確保が課題になるものと思われる。
最後に、規模が突出する農家をリーダーとして、兼業または小規模農家等で構成される集団については、種子島で恒常化している梢頭部カット作業員の確保対策として、また、小規模、兼業農家の収穫コスト低減対策の効用としての評価ができる。
収穫作業と競合する春植えや株出管理作業が、組織内での対応が困難なため、広域受委託組織に委託する一方、受委託組織からの収穫作業の再委託を受けるなど、地域との結び付きは極めて強くなっている。また、担い手の高齢化、若者のさとうきび離れ等の中にあって、さとうきび作りは、変化する産業社会に対応していくことが大切で、今や個別完結的な対応が困難な状況にある。組織の結成にあっては、集団内で分業化を進めることで経営の目的を達成する組織育成が重要である。また、組織運営に当たっては、常に問題解決型集団組織としての持続が重要と思われる。