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糖蜜

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2000年11月]
 さとうきびやてん菜または原糖から砂糖を作る際に副産物として生ずる糖蜜は、普段私達の生活の中で目にすることはほとんどありません。しかしその糖蜜はアルコール発酵用、製パン用イースト、うま味調味料など私達の食生活の中で深く関わっているものです。
 輸入糖蜜懇話会、笹田敬介事務局長から生産・流通・需要など糖蜜市場の概要について紹介していただきました。

輸入糖蜜懇話会 事務局長 笹田 敬介


糖蜜の生産及び流通
1. 概 要  2. 糖蜜の種類
3. 糖蜜の品質  4. 糖蜜の生産及び需要地域
5. 価格形成  6. 貿易の形態
7. 国産糖蜜の生産と流通  8. ハイテスト・モラセスの生産と流通
9. 日本における糖蜜の需要状況


 糖蜜の名称で流通しているものは、甘しゃ糖蜜、てん菜糖蜜、精糖蜜、ハイドロル(澱粉類)、各種の発酵廃液及び残糖類、ハイテスト・モラセス等ですが、本稿では、わが国で一般的に流通している甘しゃ糖蜜、てん菜糖蜜、精糖蜜及びハイテスト・モラセスについて取り扱うこととします。


1. 概 要

 糖蜜とは、甘しゃ(Cane)の糖汁から原糖(粗糖)を製造、または原糖を精製する際やてん菜からてん菜糖を生産する際に発生する副産物で比重の大きい(1.4)粘着性のある茶褐色の液体である。砂糖製造の副産物とはいえ、その中には40〜60%の糖分が含まれている。この残存糖分は、通常の方法ではこれ以上糖分を結晶させることが困難なものであり、この糖分が発酵工業の原料として、または家畜の飼料として利用されている。

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2. 糖蜜の種類

(1) 甘しゃ糖蜜 (Cane molasses または Black strap molasses)
 甘しゃから砂糖(分蜜糖)製造の際生産される糖蜜で、わが国の輸入糖蜜はこれである。
(2) てん菜糖蜜 (Beet molasses)
 てん菜から砂糖(分蜜糖)製造の際生産される糖蜜
(3) 精糖蜜又は精製糖蜜 (Refiner's molasses)
 甘しゃからできた粗糖を精製する際に生ずるもの。

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3. 糖蜜の品質

 糖蜜の成分は糖分、各種窒素体、灰分、水分等から成り立っているが、品質の基準として全糖分(Total sugar content)と固形分(Brix)の含有率が重要である。
(1) 全糖分 (Total sugar content)
 糖蜜の糖分はしょ糖(Sucrose)と還元糖(Reducing Sugar)の2種の糖を含むが、これを合計して含有率を全糖分として示す。
(2) 固形分 (Brix)
 糖蜜には通常20%程度の水分を含むが、この水分を除いたものを固形分として示す。

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4. 糖蜜の生産及び需要地域

 糖蜜の生産は当然砂糖の生産地と一致するものだが、甘しゃ糖蜜はブラジル、キューバ、タイ、インドネシア、フィリピン等熱帯及び亜熱帯の年間平均気温が20℃以上の地帯で生産される。一方、てん菜糖蜜は EU、東欧、ロシア等、比較的冷涼な地帯で生産される。糖蜜の生産時期は、北半球で11月〜5月頃、南半球では7月〜12月頃となっている。
 糖蜜の生産は砂糖の生産なしには考えられない。現在世界の砂糖生産は、1億3,200万トン程度になっているが、国際砂糖価格の動向等により、その作付けが増減し、また豊凶により生産量が変動する。一方、消費は着実に増加しており、1億2,800万トン程度とみられる。
 英国リヒト社の資料では、1999/2000年の世界の砂糖(粗糖ベース)生産予想は1億3,226万トンで、一方、糖蜜の生産は4千816万トンと見込まれ、砂糖生産の36%程度に相当している。原料である甘しゃとてん菜の違い、または原料作物の豊凶等による品質の相違、さらに製造技術の優劣等により、粗糖と糖蜜の生産割合に差ができる。一般に粗糖生産に対し、20〜50%、平均して36%程度の糖蜜が生産されている。
 この糖蜜の主要需要地域は (1) 英国・ドイツ・オランダ等を中心とするEU、(2) アジア地域の日本・韓国・台湾等、(3) アメリカの3ブロックに大別され、推定年間総需要量は、およそ、EU 780万トン、アジア310万トン、アメリカ300万トン、合計1,390万トンであり、そのうち720万トン程度が貿易対象数量となっている。世界の糖蜜貿易量は糖蜜生産量の16%程度の750〜800万トン程度とみられており、前述の3ブロックの輸入量が世界の輸入量の大部分を占めている。
 ちなみに、3ブロックにおける主要用途は、EU及びアメリカでは家畜の飼料としてまたアジア地域では発酵工業の原料として使用している。

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5. 価格形成

 糖蜜は穀物や粗糖のように先物の価格変動に対するヘッジ機能を利用する仕組みを有していない。したがって、糖蜜の価格は売主と買主との個々の商談によって取り決められるのが一般的であるが、米国農務省(USDA)で公表されている糖蜜価格を一応の指標とする場合もある。

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6. 貿易の形態

(1) 糖蜜取扱業者
 世界の糖蜜取扱業者の詳細については残念ながら判然としないが、ユナイテッド・モラセス社(英国)、SVG(オランダ)等がある。一方、わが国では戦前は、三菱商事と三井物産の2社で台湾及びフィリピンから糖蜜を輸入していた。戦後、昭和23年糖蜜の輸入が再開され、その数量が増大するにつれて幾多の業者が進出したが、現在では、三菱商事、三井物産、丸紅、伊藤忠商事、組合貿易、東食の6社が、日本向け及び第三国間の貿易に従事している。
(2) わが国の輸入
 わが国に輸入されている糖蜜は年間約20万トン強で、主な産地はタイ、インドネシア、フィリピン等の東南アジア地域で生産されている。
 糖蜜は一旦製糖工場のタンクに貯蔵され直接船積みされるか、タンク貨車、タンクローリー、または艀はしけで港頭タンクに輸送され、そこから船積みされる。通常、わが国には5,000トン級タンカーで輸入される。日本に到着した糖蜜は、各取扱業者のタンクに一旦陸揚げされ(場合によっては、直接需要家のタンクにも陸揚げされる)、必要に応じて需要家にタンクローリーで納入される。

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7. 国産糖蜜の生産と流通

(1) 概 要
 現在、わが国では鹿児島県南西諸島や沖縄県で甘しゃ糖が、北海道でてん菜糖が生産されており、その副産物として甘しゃ糖蜜とてん菜糖蜜ができ、また国内精製糖工場での輸入粗糖の精製の際に生ずる精糖蜜がある。各々の生産量は甘しゃ及びてん菜の生産量、輸入粗糖の溶糖量等によって毎年変動しているが、甘しゃ糖蜜は4.5〜5万トン前後、てん菜糖蜜は1万トン前後、精糖蜜は5.5〜6万トン前後の生産量である。
 これらの糖蜜の全糖分は輸入糖蜜の55%前後と比べて低く、甘しゃ糖蜜は40〜45%、てん菜糖蜜と精糖蜜は50%前後である。
 需要は輸入糖蜜とほぼ同様で、発酵工業の原料、家畜の飼料、または食品工業等で使用されている。
 その生産量は国内需要を賄うにはほど遠く輸入糖蜜が主体となって各種原料に使用され、国産品は補助的立場にある。
(2) 価格形成と流通形態
 価格は、輸入糖蜜同様、売主と買主との個々の商談によって取り決められるのが一般的であるが、全糖分が輸入品より低いので、価格も輸入品に比べ安くなっている。
 これらの糖蜜は、製糖メーカーからその販売店を経由して末端需要家に販売されており、大口取引先にはタンクローリーで、小口取引先にはドラム缶、または5ガロン缶で販売されている。
 ただし、鹿児島県南西諸島や沖縄県で生産される甘しゃ糖蜜の場合は、現地で一部消費される以外は、内地に船で転送され取引業者のタンクに陸揚げされてから、タンクローリーで需要家に納入されている。

生産および輸入

1.
年次
項目     
1995/1996 1996/1997 1997/1998 1998/1999 1999/2000
世 界 (単位:千トン)
生 産 46,603 43,936 44,979 47,473 48,159
日 本 (単位:トン)

甘しゃ糖蜜 40,591 39,218 37,508 51,480 45,477
てん菜糖蜜 7,440 13,413 14,872 12,291 11,571
精 糖 蜜 61,635 56,733 58,966 56,725 55,186
109,666 109,364 113,346 120,496 112,234

糖 蜜 378,248 267,394 262,055 186,128 221,193
ハイテスト・
モラセス
5,225 6,915 11,859 10,229 7,566
注: 世界: 英国リヒト社の発表数量 (9月/8月)
日本: 生産数量は農林水産省の資料 (4月/3月)
輸入数量は大蔵省の輸入通関資料 (4月/3月)
ハイテスト・モラセスを糖蜜換算する場合は1.43倍にする。

2. 日本の用途別需要 (単位:トン)
日本の用途別需要
注: 国産品については農林水産省の資料
その他には工業用の食品用ソース菓子類が含まれる
上段はハイテスト・モラセス

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8. ハイテスト・モラセスの生産と流通

(1) 概 要
 ハイテスト・モラセス (Hi Test molasses) は甘しゃから砂糖製造を行わず搾汁を直接濃縮し、塩酸またはイーストを加えて甘しゃ糖分を非結晶性のブドウ糖、果糖に還元したものであり、砂糖製造の際に生じる副産物でなく、意図的に生産する最終製品である。したがって、ハイテスト・モラセスは糖蜜に比べ糖分含有量が高く、糖蜜の全糖分40〜50%に対し75〜80%の糖分を含んだ茶褐色の液体である。ハイテスト・モラセスは通常、砂糖の生産が過剰の場合とか糖蜜の需要が供給を上回る場合に製造される。
(2) 生産地域
 キューバ、豪州、ブラジル、南アフリカ等である。
(3) わが国の輸入
 わが国への輸入は昭和42年頃より糖蜜の供給が不足したことから開始され、豪州をはじめブラジル及び南アフリカから発酵工業の原料として15〜30万トン前後輸入された。その後、砂糖需要逼迫を背景としてハイテスト・モラセスの生産は中止されたが、昭和53年頃より必要に応じ輸入され、今日では年間1万トン程度がタイ国より発酵工業の原料として輸入されている。
 価格取り決め、流通形態は輸入糖蜜と同様である。

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9. 日本における糖蜜の需要状況

 わが国における糖蜜利用は、戦前は主にアルコールやイーストの製造に芋類等の農産物と併用して使用されていた。
 終戦後の食糧危機により農産物の入手が困難となり、また、国産糖蜜も皆無の状態にあり、まずは、イーストやアルコール用原料として糖蜜輸入の要望がなされ、昭和23年、糖蜜輸入の道が開かれてからは、日本経済の発展とともに糖蜜使用用途も拡大の一途をたどったが、国産品の供給は微々たるもので増大する需要を賄うには、輸入品に依存する以外に方法がなく、昭和40年代に入ると糖蜜(含むハイテスト・モラセス)の輸入量は100万トンを超え、最盛期の昭和46年には年間使用量が139万トンにも達し、その主要用途としては、酒類原料用67万トン、飼料用37万トン、アミノ酸関係19万トンとなったが、これに対する国産品の供給はわずか16万トン程度で、不足分は輸入に頼らざるを得なかった。
 しかし、昭和40年代後半より環境規制の強化に伴う公害規制から、発酵工業は発酵廃液の処理に苦慮し、公害を伴わない原料への転換、または生産拠点の海外移設を図り、糖蜜への依存度は年々減少していった。また、飼料についても、経済性の低い糖蜜から代替品への切り替えが進み、100万トンを超えていた需要は減少の一途をたどり、昨今での糖蜜輸入量は20万トン前後まで落ち込み、国産品と合わせた全需要量も30万トン強となり、昔日の面影はなくなった。
 ちなみに、最盛期に67万トンの糖蜜を使用した酒類は、平成7年に糖蜜からのアルコール発酵を中止し、代替原料として糖蜜、または穀類から作られる発酵粗留アルコールを海外から輸入して精留し、従来同様、日本酒、焼酎、またはウイスキーの原料として使用、また専売アルコールは工業用として、食品工業、医薬品業界等で使用されている。
 19万トンの糖蜜を使用したアミノ酸関係は、うま味調味料、家畜飼料の添加剤であるリジン等の原料として使用していたが、主産拠点の海外移設等で海外から製品、半製品の輸入に切り替えが進み、今日での消費量は3万トン前後になった。
 発酵工業において、従来同様、糖蜜を使用している業界は、製パン用イーストを製造しているイースト業界のみであり、昭和23年、糖蜜使用が再開されてから多くの用途に使用されていた糖蜜は、経済性、代替原料の進出等により使用用途も次第に限定されてきている。
 糖蜜自体は、我々の日常生活に直接関係がないが、上述のようにその姿を変えて日常生活に深く関わっている商品なのである。

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