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勝負の決め手はその朝

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2001年1月]
 糖質は身体を動かす大切なエネルギー源です。特にスポーツ選手は食品の種類や摂取するタイミングが勝負の分かれ目であるとされるほど重要です。試合の数日前から糖質の摂取を徐々に減らしていき、1〜2日前から糖質中心の食事に切り替えるグリコーゲン・ローディング法により、当日一気にパワーを全開させ試合へ臨み、グリセミック指数に基づいた食事メニューで最もパワーを発揮できる時期を計算。
 今回はスポーツドクター平石クリニック院長の平石貴久氏にスポーツ選手における試合直前の食事の取り方を執筆していただきました。

平石クリニック院長 平石 貴久


はじめに
3大栄養素
  1.糖質   2.脂質   3.たんぱく質
試合1週間前の食事
  試合前日からの食事
スポーツ選手の飲料水
  1.ジュースについて   2.スポーツドリンクについて
スポーツ選手にとってのお菓子
効率的なエネルギー摂取方法
食事メニュー
  レシピ作りの基本原則   〔柏レイソルお薦めメニュー〕


はじめに

 スポーツはプロ化の波や健康ブームを受けて、広く私たちの生活のリズムになろうとしています。いつも世界中のどこかで国際大会や競技会が開かれ、記録への挑戦や厳しい勝負の世界が繰り広げられています。
 今やスポーツは単にレクリエーションやストレス解消の手段だけでなく皆さんの健康向上やより逞(たくま)しくより強い肉体や精神の鍛練として広く利用され、またお互いの友情や深い信頼を生み人生をどれだけ色付けることでしょう。
 スポーツ医学も単なる外傷や緊急医療にとどまらず、現場に携わるスポーツドクターやトレーナー、インストラクターは、選手1人1人の健康管理や体力作りから試合や練習中の生理状態、精神集中、パフォーマンスの向上に至るまですべてを選手とともに戦っています。
 今回は様々な種目の選手やスポーツ愛好家のみなさんに広くスポーツの楽しさを知ってもらい、より強くより速く変身!
 プロスポーツ選手の試合直前のコンディショニングを紹介し、その技をみなさんに毎日の仕事や生活に活かしてください。

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3大栄養素

 普段の栄養、何を食べたら元気になるのか、何を食べなかったら健康を維持したりがんにならないかなどあまりにたくさんの情報があるので困ってしまったり、諦めたりしている方はいらっしゃいませんか。食事の「食」の字を良く見ますと「人」に「良い」と書きます。いずれにしてもみなさんにとって身体に良い物を食べてくだされば結構でしょう。
 ここでは3大栄養素とはどのようなものか糖質を中心として紹介しましょう。

1.糖 質
 筋肉や肝臓に蓄えられて、身体を動かすエネルギー源です。
 筋肉や内臓に栄養素や酸素、そして病気にかかってやむなく飲んでいる薬も実は赤血球に乗って身体中のすみずみにまで運ばれます。この赤血球を運搬するトラックに例えれば、糖質は車を動かすガソリンの役目を果たします。ガソリンの無い車はどんなに速くてもどんなに大きくてたくさん運べるトラックでも1mも動きません。
 私たちの生活にとって仕事もスポーツもすべて糖質を摂ることで、初めて働くことができるのです。
 もう1つ大切な役目は、脳を働かせる唯一の栄養素です。ふだんはあまり甘いお菓子など食べないお父さんも仕事や残業で疲れきって帰ってきたら、食卓に甘い羊かんやおまんじゅうを見てつい食べて一息つく。これは神経が疲れ切って少しでも速く栄養を補給したい自然現象です。糖質はまさに脳の唯一のエネルギーです。
 ところで1日にどの位食べたら良いでしょうか。成人で1日に最低150g以上食べる必要があります。1日の総エネルギーの約60%を糖質で補ってください。
 平石クリニックでは外来診療で患者さんによくお茶やお菓子などを御馳走します。「おばあちゃん、今日は時間ある?よかったらおいしい大福があるから、食べて行ってよ」と声をかけるとおばあちゃんは、「先生、何言ってんの、私は糖尿病よ」「糖尿病だって糖質は大切な栄養素、少し位は食べていいよ」と薦めるとお菓子をおいしそうに食べています。小さなお菓子の大きな命の活力です。精神的にもストレスを取り除くほっとする一時を作ってくれます。
 さらに、せっかく糖質を摂るならいっしょにビタミンB1を食べてください。Jリーグの柏レイソルでは試合前の食事におにぎりを出しますが、1個100gのちょっと小さめなおにぎりに海苔を巻いて持っていったり、おもちを海苔で巻いた磯辺焼きも早くエネルギーとして利用できす。
 柏レイソルでは試合の後の食事はよく豚肉料理を出します。これも疲労回復の1つの手段です。

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 ゆっくりした運動のエネルギー源(脂肪酸)ですが、摂りすぎたり夜遅い時間に食べたりすると皮下脂肪や肝臓に中性脂肪として蓄積されます。
 皮下脂肪は身体の線を作り女性らしい身体やケガの予防、風邪の予防などに大切ですが、最近は食べ過ぎて高脂血症や高コレステロール血症、肥満などの原因になってしまいます。
 日本人は1日の総エネルギーの約25%、65〜75g位が必要でしょう。

3.たんぱく質
 たんぱく質は身体を作る材料といってよいでしょう。脳や肝臓、心臓、腎臓、腸や筋肉、髪の毛、爪、皮膚、白血球や赤血球、血小板などすべての血液の材料、そしてホルモンを作る大切な栄養素です。不足すると筋力アップはもちろん駄目、貧血になったり骨粗鬆症などいろいろな疾病の原因となります。
 人にはたんぱく質を構成する約20種類のアミノ酸が必要ですが、そのうち8種類は、人の身体の中で合成できない、食事として外から摂取しなければならないアミノ酸で「必須アミノ酸」として重要です。
 8種類補うのは大変ですが、納豆は7種類含んでおり、不足しているメチオニンが卵の黄身に入っているので納豆+卵黄で完璧に補うことができます。
 日本人は1日の総エネルギーの約25%、体重1kg当たり約2g、トップアスリートは3gのたんぱく質を摂取しています。たんぱく質は摂るタイミングが大切です。
 その他に私たちに毎日必要な栄養素は、ミネラル、ビタミン、食物繊維、乳酸菌などがあります。
 それぞれバランスの良い、必要な栄養素は多いのですが1日30種類以上の、食品を摂ることによってある程度は満たされるでしょう。
(参考)
ミネラル……
 特に重要なのがカルシウム・鉄
 カルシウムは骨や歯の材料となり、イライラを抑え筋肉のけいれんを抑える
 鉄は血液、ヘモグロビンの大切な源
ビタミン……
 風邪の予防や疲労回復、コンディションづくりをする栄養素
 糖質や脂肪などエンジンを燃やすエンジンオイルの役割

 ところでスポーツしている学生やスポーツで身体を鍛えている人は全体のエネルギー摂取をまちがってはいけません。図1のように動いている分(消費量)を補って下さい。

図1 成長期の1日の食事摂取量(1日に必要なエネルギー量)

日常生活の分+成長する分+トレーニング分
1日に必要なエネルギー量グラフ   『食』の4つのポイント
  1. 競技特性を考慮して実行すること。
  2. 練習の目的、時期を考えること。
  3. 練習の質、量も加味すること。
    常に“糖質”で勝負は決まります。
  4. 性別、体格も差も忘れずに。
    (たんぱく質=2g×体重kg)
3 トレーニング分
2 日常生活で使われる分
1 基礎代謝量
  ○スポーツ選手の食事量は
1日4,500〜6,000kcalも食べることがあります。

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 サッカーやラグビーは大変に激しいスポーツです。また中長距離のランナーなど選手の体力作りやコンディションも同じように調整します。
 基本的には「グリコーゲン・ローディング法」を応用します。
 強化合宿や走り込み時期には高脂肪、高たんぱく食を摂取しますが、試合前1週間にはだんだん糖質に切り替え、さらに低糖質食期には生命維持に必要なエネルギー摂取量に抑え、これに伴いトレーニング量も減らします。この時期に不安が先行して激しいトレーニングをすることは重大な誤りです。遠征中のスケジュールの移動日などこの時期に合わせて行います。もしこのころ練習可能でしたら、セットプレーやサインプレーなどのチェック、イメージトレーニングなど最大限体力温存や回復を図ります。
 ただし、糖質は脳への唯一のエネルギー源ですから、1日最低100g位は摂取してください。あまり制限しますと脂肪代謝に全面的に依存することになり、高ケトン体血症(ケトーシス)になりやすく自家中毒や体調を崩しかねないので、注意してください。

試合前日からの食事
 試合前日や当日には、糖質中心食が理想です。よく選手がパスタやおにぎり・うどんを食べたり、バナナを控室で食べている風景を目にしますが本当に正しい食事メニューでしょうか。
 たしかに糖質中心ですから悪くはありません。しかし柏レイソルではもっとエネルギー効率を考えて選手の腹ごしらえに一工夫しています。基本的には糖質の燃焼時間を示す「グリセミック指数」のデータを基にレシピを考えます。高指数(85以上)の食品のみを食べさせ、選手のお腹の様子で他の食品も追加しますが、やはり消化の良いものばかりは選んで薦めます(表1)。

表1 グリセミック指数

グリセミック指数 穀物 乳・乳製品 芋・豆類 野菜 果物ジュース 砂糖・菓子
高い(85以上)
食べてその日にエネルギー
フランスパン
食パン
コーンフレーク
もち
  マッシュポテト
ベイクドポテト
ゆでじゃがいも
にんじん
スイートコーン
レーズン ブドウ糖
麦芽糖
はちみつ
シロップ
せんべい
中程度(65〜85)
食べて1〜2日後にエネルギーに。
ごはん(精米)
スパゲッティー
全粒粉パン
ライ麦パン1
クロワッサン
ロールパン
  フライドポテト
焼きさつまいも
かぼちゃ
クリーンピース
ゆでとうもろこし
すいか
ぶどう
オレンジ
オレンジジュース
パイナップル
バナナ
パパイヤ
メロン
キウイ
マンゴ
リンゴ
ジェーリービーンズ
ドーナッツ
ワッフル
コーラ
クッキー
ポップコーン
ポテトチップス
アイスクリーム
チョコレート
低い(65以下)
食べて3日以後にエネルギーに。
ごはん(玄米)
シリアル
牛乳
スキムミルク
低糖ヨーグルト
大部分の豆類
ピーナッツ
  リンゴジュース
グレープジュース
グレープフルーツ
 ジュース
あんず
洋なし
さくらんぼ

プラム
 

 日本のマラソンチームはスタート4時間前にもち5〜6個入りのバター風味の雑炊を食べます。おもちは炭水化物で優れた食品です。日本では昔から力持ち(餅)という言葉があるようにここ一番の食品と言えます。
 ここで100%オレンジジュースを飲む方もおりますが、ビタミンCを摂って試合の緊張感などのストレスに備えるつもりでしょうが、あまり飲み過ぎると血糖を上げ運動能力は低下します。オレンジジュースはグリセミック指数によれば飲んで力を発揮するのに3日かかる低指数食品(65以下)です。
 NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)ではフットボール、ラグビー、サッカー、ボクシングや格闘種目では動物性脂肪をあまり減らすと闘争本能が低下し、「絶対試合に勝つ、あいつを倒す!」といった動物本能は減少するのである程度の動物性脂肪は必要と訴えます。消化吸収の時間を考え、あまり体重を重くしないよう考慮してください。
 成長期にある学生の場合は基礎代謝+運動負荷分+成長期に必要な栄養分を合わせて1日5,000〜6,000kcalを必要としています。厚生省が薦める日本人の栄養の必要摂取量は、プロ選手やトップアスリートを目指す方にとっては非常に低いものです。意識をもって自分自身の栄養補給から始めてください。

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 スポーツドクターとしてあらゆる種目のチームドクターや選手の健康管理やコンディショニングに携わって8年、その間多くのスタッフやプレーヤーに出会い、たくさんの指導者から多くの現場サイドの問題点や疑問を聞くことができました。特にジュニアサッカーチームや高校生、大学生チームの生き生きとした練習を見て、また選手の皆さんと話をしますとどうしたらうまくなれるのか真剣に考えている姿に感動さえします。
 さて、ここではジュースとスペシャルドリンクについて述べましょう。

1.ジュースについて
 成長期の子供たちにとって水分の補給は大変に重要なことです。特に活発にスポーツを行っている場合は、身体のエネルギー要求量も増大し、それに伴い水分の要求量も高まっているのでエネルギーバランスには十分注意してください。
 ジュースはその種類によって、ミネラルやビタミンの含有量は大きく異なります。
 特にカリウムは筋肉の活動を維持し、血液内に多過ぎても少な過ぎても不整脈など心臓に影響を及ぼす非常に大切なミネラルです。しかも汗から大量に喪失することがあり、疲労感や脱力感の原因にもなります。果汁にはある程度含まれておりますが、この点では100%のオレンジジュースが最適で、疲労気味の選手(スタミナ枯渇)にはハーフタイムにバナナ1本(バナナもカリウムが多い)にオレンジジュース200cc位を飲みますと有効です。
 ビタミンCは運動や試験などのストレスに対し、ホルモンなど体内の内分泌機能の維持、筋肉の疲労防止、運動中の酸素フリーラジカル(活性酸素)除去に重要な栄養素ですが、グレープジュースやりんごジュース、コーラなどはほとんど含まれておりません。
 人はビタミンCを体内で作ることはできません。マウス、イヌ、ネコ、ヤギ、ウサギなど多くの動物は毎日体内でビタミンCを作りストレスを受けるとさらに大量のビタミンCを作ることが分かっています。現代人は仕事や複雑な社会において少なからずストレスを受け、ビタミンCを必要としていますので補給が大切なのです。

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 最新のあるスポーツドリンクについて考えてみましょう。ビタミンCは天然果汁(100%)に次いで多く含まれており、糖分を抑え(糖度3.5%)果糖のみ使用しています。果糖は腸から吸収される速度はブドウ糖の2分の1ですが、体内でのエネルギー化のスピードはブドウ糖の約3倍ゆえ、トータルで体内でのエネルギー化はブドウ糖の約1.5倍と優れています。
 ここで試合中の水分の補給で最も考えなくてはいけないことは体内への吸収率の点です。汗で失われた成分の補給と喉の渇きをいかに癒すかがポイントです。濃度の浸透圧は等張性かそれよりやや低めの低張性水分を作り、選手に提供してください。1回に飲む量は約200ccが最適で、それ以上を1度に飲むことはかえって運動能力を低下させます。普段の練習時から1度に飲む量を200ccと体に覚えさせ、この少ない水で喉の渇きを癒し、再び活気を取り戻す習慣を付けてください。水温は6〜13℃が良いでしょう。暑く乾いた日にはなるべく冷たく冷やした飲料水を準備してください。糖度は3.5%前後(市販のスポーツ飲料の約半分)が理想です。
 柏レイソルでは試合用の飲料水は「平石クリニック特製ジュース」と称して私が試合前にその日の暑さや選手の疲れの具合で多少の変更をしながら基本的には表2のような成分で控室で作ります。ウォーミングアップが済んで試合用ユニフォームに着替える際に選手全員約200cc飲んでもらい、いざ試合に臨みます。味は選手によって個別に作る場合もあり、甘い物好きの選手にはややはちみつを多め、ジュースも少し多めに入れて好みに合わせます。汗で失われたナトリウムの補給用に食塩を入れずに重曹で補います。ビタミンCは市販のビタミンC製品を使用しています(表3参照)。

表2

〈平石クリニック特製ジュース〉
ハチミツ100g、100%オレンジジュース100cc、
重曹3〜5g(その日の気温で調整)、ビタミンC製品10g
上記に水を加えて全部で1,000ccへ調整+氷を適量

表3
〈ビタミンC製品/1包15g中〉
ビタミンA 2,300IU ビタミンB2 1.0mg 葉酸 0.45mg
ビタミンC 500mg ビタミンB6 1.0mg クエン酸 390mg
ビタミンP 1.5mg ナイアシン 9.5mg
ビタミンB1 1.5mg バントテン酸ナトリウム 1.2mg

 スポーツのように一過性の脱水に対して水分の補給はただの水でも十分という意見もありますが、Jリーグではスピードと高い運動能力を要求されるので、私たち裏方スタッフは少しでも選手のためにと考えています。グランドに置く水は氷を入れた真水を入れておきます。この場合も運動能力の落ちた選手にはチャンスがあれば水を飲むようにアドバイスします。
 高校サッカー選手権などでは、グランド用飲料水の特製ジュースを作って配置したところ、審判から高校生に色の付いた飲物はいけないと言って普通の水に変えるよう指示されます。これはテーピングもいけないといったレベルの話です。ケガの予防、選手の活躍のために新しい技術はどんどん取り入れて欲しいものです。  テニスの国際試合などテレビ中継されているのを観ても、それぞれの選手が工夫しているではありませんか。
 大学や高校生のチームでは、精神論重視のチームも少なくないようです。たしかにある程度の根性教育(忍耐力強化)は必要な場合があるかもしれませんが、水も飲まないで練習を続けることはナンセンスです。科学的なデータばかりに頼ることも良くありませんが、自分たちのチーム事情にあった新しい技術はどんどん取り入れてください。ほとんどの高校以上のチームに見学に行きますとウォーミングアップにブラジル体操を取り入れ、Jリーグの良い反響を見るようです。最近では野球部や陸上部の選手、ラグビー部等からもこれらに関する質問を受け、改めてスポーツを愛する選手の真剣な姿に涙します。彼らは「よく強く、より早く、より高く」に一生懸命打ち込んでいます。

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 サッカー選手に限らず、スポーツ選手の常識に、「4S禁止」という言葉があります。
 Snack(スナック菓子)・Stress(ストレス)・Smoking(喫煙)・Sleepless(不眠)の4種の禁止事項です。アマチュア選手には喫煙している方は以外と多いのですが、私が知る限りJリーガーで喫煙している選手は野球選手などに比べ非常に少ないようです。スタミナとスピードが要求されるサッカーという種目の特性でしょうが、喫煙などしている余裕は無いのでしょう。Stress(ストレス)とSleepless(不眠)はコンディション作りであってはいけないのは皆さんもお分かりでしょう。
 では、スナック菓子はすべていけないのでしょうか?実はお菓子の種類で意見が変わります。一般にいうスナック菓子(コーンチップスやポテトチップス類)は油で揚げたお菓子をいいますが、これらはたしかに油で揚げてから時間が経過しいるので酸化している可能性が高く健康面からも良くないでしょう。例えばピーナッツなども古くなると表面にエンドトキシン(外毒素)が発生、発がん物質となり、古いピーナッツや落花生などを食べることは薦められません。
 少年たちにとってお菓子は大好物ですし、ブラジル人選手にはお菓子大好きという選手もたくさんいらっしゃいます。
 健康面だけでなくお菓子類はスポーツ選手の栄養面から、すなわちコンディション作りにおいてのお菓子を含めた副食類は、いつ、何を食べたら良いのでしょう。柏レイソルでは試合当日の食事メニューや夜食メニューにショートケーキやクッキー、パイ、チョコレートやキャンディを並べています。食事はすべてバイキング方式ですから、選手は好みに応じて食べたいおかずやごはん、うどん等麺類を選んで食べ、お腹の具合によってケーキやフルーツ、さらにホイップクリームも好みに応じてデザートとして食べています。
 選手の皆さんは、スポーツや試合のエネルギーとして糖質が最も大切であることはご存じでしょう。糖質はごはんや芋類に含まれるでんぷん質とお砂糖などのショ糖の2種類があります。エネルギーは、1g当たり4kcalの熱量を発生、スポーツはもちろん、仕事や生活のエネルギー源になるからです。

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 選手がよく試合中に「集中!集中!」と声掛け合いますが言葉だけで集中するようだったら苦労はしません。ずーとテープでお経のように「集中!集中!集中!…」を繰り返せばいいのです。高校野球の甲子園大会、テレビやラジオのアナウンサーはしばしば「甲子園の8回には魔物が住んでいます」と強調しますが、もし本当に住んでいたら阪神タイガースは大変でしょう。実は選手の低血糖発作が突然の乱丁を来すのです。
 柏レイソルでは試合直前メニューを含め、ごはんやデザート、お菓子などいつどんな糖質を食べるといつごろ自分のエネルギーになるのか「グリセミック指数」を利用しています。表1のようにグリセミック指数は糖質を食べてどの位の時間が経つとエネルギーとして利用できるかを示したものです。高いグリセミック指数(85以上)は食べてその日のうちにエネルギー化します。試合当日はこの食品を主に利用します。柏レイソルお薦めはレーズンパンやフランスパンにバターやはちみつをつけて主食にします。ポテトはゆでた状態が好ましくマッシュポテトに人気がありますし、コーンポタージュや温野菜のにんじんなどもエネルギーを生んでくれますが、お菓子はせんべいが最高です。マラソン選手はよくレース前にもち入りの雑炊を主食にしています。大学サッカーの入れ替え戦や天皇杯など真冬の試合には、私はもち3〜4個入りおしるこを作って選手にたべさせます。身体も温まるし、エネルギー源としてはちょうど良いと思います。
 グリセミック指数中程度(60〜85)は食べて翌日か翌々日にエネルギーに利用できます。クロワッサンやロールパン、スパゲッティーなどがここに入ります。ほとんどのお菓子(ワッフル、マフィン、ポテトチップス、ポップコーン、クッキー、チョコレート、ドーナッツ、アイスクリーム等)は食べて1〜2日後のエネルギーを生んでくれます。試合直前に食べるには適していませんが、練習がきつくあまり疲れすぎて食欲が無い場合、これらのお菓子を食べて次の日のエネルギーを作るならスナック菓子を食べることは悪くありません。ただし油の新鮮度を忘れないでください。
 グリセミック指数の低い(60〜85)食品は、食べて2日以上経たないとエネルギーにならない物。毎日食べて効果のあるものです。柏レイソルは試合後のメニューとして利用し、定番の食品としてむしろ試合用のエネルギーより身体作りの食品として日常に使っています。また体重別種目やダイエット中の選手も利用すると良いでしょう。意外なところでリンゴジュースやグレープフルーツ、バナナケーキやスポンジケーキなどエネルギー化されるには時間がかかることを覚えておいてください。
 お菓子でエネルギーを摂るとすれば、食べてすぐという点ではせんべいや大福、おしるこなどです。あまりにも過労で食事も取れない場合、あるいは普段の食事ではカロリー不足の時にお菓子を利用すると良いでしょう。ただポテトチップスやドーナッツ、マフィン、ポップコーンといった類は食べ過ぎたり、食べた時間によって例えば夜9時以降は中性脂肪として身体に蓄積する傾向にあり、できれば早い時間に食べると良いでしょう。お菓子を食べないと落ち着かないという少年たちも食事を主にしなければなりません。直前に食べすぎて肝心の食事が食べれないことではいけません。景気付けみたいな食べ方にとどめ、あくまでも副食という考えを持って下さい。

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 スポーツ選手のコンディショニングの基本である食事メニュー作りは意外と難しいものです。普段からの食事が大切であることは言うまでもありませんが、しかし毎日のことでもあり、作る側の基本方針と実際に食べられるメニューは考える以上に大変です。選手やお子さんはスタッフやお母さんの努力を十分に理解してあげてください。

レシピ作りの基本原則
 プロスポーツ選手として1日の総エネルギーや各栄養素のバランスから次の点を重要視します。
1)シーズン中の練習日(午前、午後練習として)のエネルギー総カロリーを、
 1日総カロリー4,500〜5,500kcal
2)栄養バランスが大切であること。特にたんぱく質とカルシウムを重視、そこでトッププレーヤーとして最も必要なたんぱく質摂取量を中心に考えます。
 1日のたんぱく質摂取量を体重1kg当たり3g
 例えば、体重70kgの選手は210gのたんぱく質を必要とします。多いと考える方もあるでしょうが、中高校生でも体重1kg当たり1日2.5gのたんぱく質は摂取した方が、筋肉作りやケガ、貧血予防に重要です。
 しかし、1日210gのたんぱく質は大変に多い量ですからサプリメントによる補助供給が必要です。
 1日に40gの補助食品(プロテインパウダーを使用)を飲むことを基本にします。中学生以上なら私はサプリメントによる特にたんぱく質による補助栄養を薦めます。
 たんぱく質の残りの必要量は180g。これを3回または4回の食事で摂る必要があります。
 基本になる朝食を表4のような標準朝食としてカロリーを計算します。

表4

トースト2枚
バター・はちみつ各10g
牛乳500cc
卵料理(2個)
温野菜
ハム・ソーセージ(例えばウィンナーソーセージ100g)
フルーツ
たんぱく質約50g、総カロリー1,500kcal。

 ここではちみつをジャム代わりに利用、総エネルギーを稼ぎます。また、卵料理や牛乳を必ず取り、和食の場合は納豆や豆腐を、洋食の場合はハムエッグやソーセージでたんぱく質を稼ぎます。また、カルシウムは、必要不可欠食品です。ゴマをかけたり、小魚やごま牛乳も意外とおいしいのでトライしてください。昼食や夕食も、各2,000kcal、たんぱく質60g、夕食70gを一応の目安にします。
 新宿駅などターミナル駅のホームで、朝食代わりに牛乳を飲んでいるサラリーマンを見ますが、時間のない朝食スタイルとしてはこれは間違いです。エネルギー的にもまた、牛乳に含まれる糖質で午前中の仕事をこなすのは無理です。ここで牛乳やコーヒーだけではなく、あんぱんやトーストを食べてもらうと素晴らしいメニューになります。ですから、10分早起きして、ファーストフードや喫茶店のモーニングセットや立ち食いそばやうどん屋さんで朝食を取ることが大切です。
 さて、「柏レイソル試合当日のお薦めメニュー」です。
 これは、試合4時間前の食事です。スポーツ選手は消化と吸収を考えると、4時間前には食事を済ませるのがベストでしょう。

〔柏レイソルお薦めメニュー〕
スープ: コーンポタージュ
温野菜: にんじん(甘くゆでたもの4〜5個)
マッシュポテト
軽く炒めた緑黄色野菜(ブロッコリーやいんげん、アスパラガスなど)
韓国人選手が多いので、すべての遠征にキムチは柏から送って食卓に並べます。
肉料理: 鶏肉のグリル(外人選手は手羽先を好むが、皮の部分は食べていない)
主 食: レーズンパンやフランスパンにバターとはちみつを付ける。
おにぎりを食べたい選手は、1個100g程度の小さめですが、選手がふと食べようかなという手を出せることに気を使っています。
うどん好きな選手は具にかまぼこ(5切れ以上:関節を強化)、ゴマ(大量:筋肉のけいれん防止)、油揚(きつね)、ほうれん草など緑黄色野菜をふんだんにのせて食べます。
副 食: ショートケーキや軽いパウンドケーキ、パンケーキ、フルーツ(5種類程度)

 常にバイキング方式で選手は好きなだけ、自分で調整しながら各自目的に応じて食べてもらいます。ただし、選手は血液検査を受けて何が不足しているのか、コンディショニングを常に把握しています。
 カルシウムを次の試合までにこれだけ食べてこいなど細かく私たちチームドクターから指示されています。基本的には、1食で糖質150g以上ぺろりと食べています。柏レイソル上昇の秘密は食事時の糖質摂取です。

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「今月の視点」 
2001年1月 
年頭所感
  理事長 山本 徹

砂糖の多様な機能性
 〜新しい食品への展開と健康への寄与〜

  女子栄養大学 教授 吉田企世子

勝負の決め手はその朝…
 〜プロスポーツ選手に学ぶコンディショニングの決め手、
  糖質摂取のタイミング〜

  平石クリニック院長 平石貴久

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