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長寿の島の食と砂糖文化

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年5月]
 日本で長寿県として知られている沖縄。沖縄の食文化は当時の琉球王朝時代、中国との関わりが深いことから、日本料理のみならず中国の影響を多く受けていました。長寿食といわれている沖縄の伝統料理を食材からみると豚肉、豆腐、海藻、緑黄食野菜などあらゆる食材を組み合わせて調理し、栄養のバランスをとっているようです。
 一方、黒砂糖はお茶請けにしたり、お湯に溶かし砂糖水として飲用することが他の地域に比べて多いようです。
 沖縄の食文化に詳しく、栄養、料理、マナー等を指導されている西大学院学院長の西大八重子氏から沖縄の食と砂糖文化について執筆いただきました。

西大学院 学院長 西大 八重子 (ニシオオ ヤエコ)


1.はじめに   2.宮廷料理と庶民料理   3.沖縄料理の特徴
4.長寿食は長い経験の積み重ね 5.砂糖文化
6. 砂糖を使った料理
 (1) ラフテー
 (2) ティビチのパイナップルソース
 (3) サーターアンダギー
 (4) 黒砂糖入りココナツ団子
 (5) あまがし



 日本の最南端にあって、大小40余の島々からなる島嶼とうしょ県沖縄は人口130万人。温暖な気候や海と空の輝きを求めて年間400万人余の方々が沖縄を訪れるようになりました。
 北風が吹きだし島々にさとうきびの穂花が銀色に咲きそろうと、家族、親戚総出での刈り入れのときを迎えます。身の丈以上もあるさとうきびの葉や穂を落し、刈り束ねて車へ積み込みます。さとうきびを刈り取る作業は昔も今も変らない重労働ですが、銀の穂波と刈り入れの作業は甘い砂糖の原初の風景を織り成して冬の風物詩となっています。わが国で唯一亜熱帯に位置する沖縄県の自然の美しさもさることながら、長寿の島としてその食文化に関心を寄せる方が多くなってきました。
 沖縄の独特な食文化を形作ったのは地理的気候的要因のほかに日本や中国との交易が大きく影響しています。15世紀の初めのころから琉球の国王が代わるごとに中国皇帝から冠、親書を携えた皇帝の使者である冊封さっぽう使し ※ がやってきました。その数は400〜500人、滞在期間は半年以上にも及んだといわれます。琉球王朝にとって冊封使の接待は国家の重大行事でありました。そのため王府は、中国貿易を行う進貢船しんこうせんに包丁人を随行させて、中国料理の修得にあたらせました。しかし、1609年、薩摩との慶長の役に敗れてからは、薩摩奉行所役人の接待もまた国の重要行事となり、以後日本料理を学ぶことも必要となってきたのです。このように中国料理だけでなく日本料理をも学んだことがこの後琉球料理の発達に大きな影響を与えることになったのです。
※中国の皇帝が属国の国王に対し、その即位を認める文書を与えることを冊封という。その際、中国から派遣される使者を冊封使という。




 1866年、尚泰王の冊封において催された宮廷での祝宴の料理献立記録によると、ツバメの巣、ふかひれ等の中国産の食材に琉球の食材と思われるジュゴンや海亀、猪などを用いての豪華な中国料理は、小皿から始まって五段の膳まで30品余の料理が出されましたが、中には蕪かぶの黒糖漬けやかまぼこなど琉球在来の料理も取り入れられていました。デザートも果物をはじめ結餅ちっぱん (みかんの砂糖漬け)、氷砂糖、油で揚げた蓮根の砂糖漬けなどの砂糖菓子16種類もありました。
 豪奢ごうしゃな宮廷料理に比べ庶民の食事はとても粗末なものでした。高温多湿で資源に恵まれない小さな島国は台風や干ばつにみまわれることもしばしばで、農作物の被害も甚大なことが多かったのです。その上、米は納税品であったために自分で作った米も食べるにままならなかったのです。1605年、甘藷が渡来したことで庶民は米の代わりに芋を主食とすることになりました。それでも肉食がタブー視されなかったこと、まわりを海に囲まれ魚介や海藻の確保が容易だったことは幸いしました。しかし厳しい庶民の生活環境は自然の産物を最大限に利用する工夫を促して、「土ど産さん土ど法ほう」、つまり土地の産物を使ったその土地にあった調理法を発達させました。さらに外国との交易が、新しい食材や調理法をもたらしてくれたことも相まって、庶民の料理を形作っていったのです。また、明治12年の廃藩置県によって貴族が衰退し下野するにつれ、宮廷料理は裕福な階級へ、さらに庶民へと影響を与えていきました。




 沖縄の料理には、このように宮廷料理と庶民料理の流れがあるのですが、近年長寿食として注目されるようになった料理は体裁に構うことなく実質が求められた庶民料理にあるといえましょう。
 長寿食といわれる沖縄の伝統料理を食材と調理法からみますと、チャンプルー (豆腐の入った野菜炒め) に代表されるように食材の組み合わせに特徴があります。単一の材料のみを調理することは少なく、数種の材料を取り混ぜて組み合わせることを基本としており、特に日常の副食にその傾向が顕著に表れます。
 副食として、(1) チャンプルー:豆腐と季節野菜を油で炒めた物、(2) ンブシー:野菜と豆腐の味噌炒め煮;ヘチマや冬瓜等の野菜と豆腐、豚肉を味噌で煮込んだ汁物風煮物、(3) 汁物:豆腐に野菜、卵、豚肉等の入った実だくさんの汁、がよく食されますが、チャンプルー、ンブシー、汁物のどれをとっても数種の材料が幅広く組み合わされており、動植物性たんぱく質、ミネラル、ビタミン等をお互いが補い合って、料理一品で栄養バランスがとれるのが特徴です。そのうえ肉、鰹、昆布、椎茸などのだしをたっぷり使用しますので、コクのある旨味の強い料理となります。次に多くの食品の中から沖縄で利用頻度の高い食材のうち豚肉、野菜、海藻、沖縄豆腐について調理法について見てみましょう。

(1) 豚 肉
 沖縄では豚一頭のすべてが利用されます。たとえば豚肉の顔皮 (チラガー) や耳は酢味噌にピーナツバターを加えて和えた耳皮 (ミミガー) さしみに、皮つきの肉 (三枚肉) は泡盛、砂糖、醤油で煮込んでラフテー、内臓は丁寧に洗って中身の吸い物、豚足は昆布や冬瓜と煮込んでティビチ汁にという具合です。このように豚の頭からつま先、内臓にいたるまで一頭丸ごと食べることで部位ごとに異なる栄養素が摂れることになるのです。

(2) 豆 腐
 沖縄の豆腐は、1丁の重さが約1kgと並みの豆腐の3丁分はあろうかと思われる程大きく、栄養価 (たんぱく質) も普通の豆腐に比て高く、また、固くてしっかりしているので様々な調理法に適しており、汁物、煮物、炒め物、和え物にと毎日のように使われます。

(3) 海 藻
 昆布は北の海でしか採れないにもかかわらず、沖縄県の昆布の1人当たり消費量は全国一です。しかも、沖縄では昆布がだし用としてではなく野菜感覚で用いられます。特に豚肉の料理には欠かせません。また、昆布と同じ海藻であるモズクもよく食されます。これらの海藻類には鉄分、カルシウム、ヨードなどのミネラルが豊富で食物繊維も多く含まれていることはよく知られていますが、最近は癌や生活習慣病に効果があるフコイダンという成分が見つかりました。

(4) 緑黄色野菜  沖縄ではフーチバー (よもぎ)、ウンチェー (遠菜)、ハンダマ (水前寺菜) のような葉野菜類や薬草を庭先に植えてオーファ (青葉) と称してよく使ってきました。最近の研究によると沖縄の強い紫外線を浴びて育った野菜は癌や生活習慣病に予防効果のある抗酸化酵素が多いことが分かってきました。




 長寿食として関心が持たれている沖縄の伝統料理の特徴は次のとおりです。

 (1) 肉、魚、野菜、海藻など食物を片寄りなく取り入れている。
 (2) 大豆製品 (豆腐) をよく利用する。
 (3) 肉や魚、昆布等を複合的に使って旨味を出すことにより塩分の摂取量を抑えている。
 (4) 薬草その他薬効のあるといわれる食物を適宜利用している。

 しかしながら、沖縄の伝統料理は十分に研究がなされていません。なかにはいまだに解明されていない成分や薬理作用があると思われます。そのような成分や作用の複合的な働きが体に良い作用をもたらしているのでしょう。先人たちが長い歴史の中で経験と知恵によって食物を取捨選択して伝えてきたおかげなのです。




 沖縄県では黒砂糖を他の地域に比べて多く使っているように思います。
 私の小さかった頃は黒砂糖が子供のお使いのお駄賃代わりにもなりましたし、朝起きるのをぐずる子にはミークファヤー (おめざ) にもなりました。
 今でもお年寄りのいる家庭では縁側やちゃぶ台にはサンピン茶がなみなみと入った大ぶりの急須と黒砂糖が用意されています。お年寄りはお茶請けにはクルジャーター (黒砂糖) が一番良いといってクルジャーターとサンピン茶だけで昔話を楽しんだり、たまには地漬け (黒砂糖漬け) の大根やパパイアが出されて漬物談義が始まったりします。
 お年寄りの話では、若い頃の野良仕事にはこのサンピン茶と黒砂糖を持って行くかサーターユー (黒砂糖をお湯で溶かした砂糖水) を持って行ったといいます。
 昔の人はさとうきびを煮詰めたままの黒砂糖には甘味以外にも多くの栄養成分が含まれていることを長い経験による生活の知恵として身につけていたのです。子供の甘いミークファヤーは眠っていた脳の活動を促し、お茶請けの黒砂糖は老化によるカリウム等の不足を補い、あるいは畑仕事での肉体労働では消費するエネルギーの補給とともにそのエネルギー消費を助けるミネラルとビタミンを摂取していたのです。
 また、沖縄のお盆にはさとうきびがお供えものとして欠かせないものの1つとなっています。30cmほどに切りそろえたさとうきびの茎15、6本を三角形に束ねて仏壇の左右に飾り、1mほどの長さに切った茎も左右に立てかけて飾るのです。子供のころはこのお供えものを作るのが父の役目でした。
 私たち姉弟は父が切るさとうきびを押さえたり、束ねる紐や飾りの色紙を用意したりとさとうきびの切れ端しをもらうために手伝ったものでした。もらったさとうきびの皮をむくとミルク色のさとうきびの芯が現れて来ます。それをじっくりと噛み締めると青い香りの汁がジュワーと口の中に広がっていきます。飴玉やその他の甘いお菓子にはないさとうきびの爽やかな甘さはお盆の楽しみの1つでもありました。
 しかし、最近の子供たちは軟らかい物を好み、硬いものを食べないせいか顎の発達が悪く歯並びの悪い子が多いようです。さとうきびの硬い皮を歯でむくのにはそうとうな歯と顎の力が必要なので、さとうきびは子供たちの歯や顎を丈夫に発達させるための最適なおやつだと思います。数年前、本の出版に際し子供の食卓風景の撮影でおにぎりやコロッケ等とともに20cmほどの長さに切ったさとうきびを並べたことがあります。棒状のさとうきびでは食べにくいのですが、芯の部分を歯でギュッと噛み締めたときに口いっぱいに広がる自然な甘さを今の子供たちにも味覚としてしっかり覚えていて欲しいと思ったからです。
 さて、沖縄での砂糖製造は琉球5偉人の1人である儀ぎ間ま真常 しんじょうが中国福洲からその製法を学び、1623年に製造したのが始まりといわれてます。原料のさとうきびはそれよりだいぶ以前に中国を経由して入って来たようですが、はじめのころは水菓子として扱われていたようです。琉球王朝は当時としては贅沢品であった砂糖を専売制とし、後には生産高やその耕作地域をも制限しました。納税品としての農産物では米や麦等が他の作物で代納することができたのに対し、砂糖だけは代わりの作物や金銭での納付は許さず、過剰に生産された場合でも市場に出すことを制限しました。それほどに厳しい管理がなされたのは、生活に必要な米や麦などの食料のための農地を確保することに併せ、輸出品として、また、薩摩への貢糖の必要があったからでもありました。
 このような厳しい管理下にあって、庶民は砂糖を口にすることも少なかったであろうことは想像されます。それでも旧暦12月にムーチー (月桃の葉で包んで蒸した餅) を作ったり、5月5日にアマガシ (緑豆と押し麦でつくるぜんざい) を作るなど節目節目の行事で黒砂糖を使ったお菓子が作られて今に伝えられて来ました。




1. ラフテー
 調理の前に充分にゆでて余分な脂を抜いた豚肉を使用し、やわらかくて甘味のあるこってりとした旨味が身上の肉料理です。
<材料>
豚三枚肉250g
肩ロース200g
豚のゆで用に8カップ
泡盛100ml
にがうり1/2 本
鰹だし汁200ml
泡 盛100ml
上白糖大さじ4
中ざら糖大さじ3
醤 油80ml
針しょうが少々
ラフテー

<作り方>
(1) 豚三枚肉と肩ロースはたっぷりの水に泡盛を入れ40分〜1時間ほどまるごとゆで、汁ごと冷ます。肉が冷めたら取り出して幅5cm厚さ2cmの大きさに切る。
(2) 鍋に分量のだし汁と泡盛、上白糖、中ざら糖を加えて煮たて(1)の肉を入れてじっくり煮込む。
途中、醤油を2〜3回に分けて入れ、味を含ませる。
(3) にがうりは薄切りにしてかるく塩をふり、しんなりしたら水気を切る。
(4) 器に (2) の肉を盛りつけ (3) のにがうりを添え、針しょうがを天盛りにする。



2. ティビチのパイナップルソース
 十分にゆであげてから調理する豚足には良質のコラーゲンをたっぷり含んでいて老化防止に効果があります。
<材料>
豚 足1.5kg
豚のゆで用に13カップ
泡盛1カップ
パイナップル (生)1個
ブイヨン5カップ
A 豆板醤1/4 カップ
醤 油1/3 カップ
少々
黒砂糖 (粉)50g
泡 盛50ml
ティビチのパイナップルソース

<作り方>
(1) 豚足はたっぷりの湯をくぐらせて湯洗いし、泡盛 1/2 カップをふりかけて30分ほど置く。
(2) 鍋に (1) の豚足を入れてかぶるほどの水を加え、残りの泡盛を入れてやわらかくなるまでゆでる。(途中、臭みをとるため一度ゆでこぼす)
(3) パイナップルは皮をきれいにむいて縦半分に切り、芯を除き、その半量と芯はミキサーにかけてジュースにする。
(4) 鍋に (2) の豚足、(3) のパイナップルジュース、ブイヨンと分量Aの調味料を入れ、汁を半量に煮詰める。仕上げに半月切りにした残りのパイナップルを乱切りにして加える。



3. サーターアンダギー
 ドーナツの沖縄版、サラダ油の変わりにラードを使えばいっそうおいしく仕上がります。
<材料>
小麦粉 (薄力粉)300g
ベーキングパウダー小さじ1
3個
サラダ油大さじ1
上白糖1カップ
少々
揚げ油
サーターアンダギー

<作り方>
(1) 小麦粉はベーキングパウダーを加えてふるっておく。
(2) ボールに卵を割りほぐし分量の上白糖を加えて泡だて器で混ぜる。上白糖がなじんだらサラダ油と塩を入れてさらに混ぜる。次に(1)の小麦粉を加えザックリと混ぜる。
(3) 鍋に油を入れ、160℃くらいまで熱しておく。
(4) 手を水で濡らし(2)をピンポン玉ほどの大きさに丸め、静かに揚げる。生地が独りでに回転し花が開くように割れてきたら竹串などで火の通り具合を確認して取り上げる。



4. 黒砂糖入りココナツ団子
 伝統菓子ではありませんが黒砂糖とココナツの風味が調和した手軽でおいしいお菓子です。
<材料>
もち米1カップ
ココナツミルク1/2 カップ
黒砂糖 (1口大)12個
少々
刻みココナツ
黒砂糖入りココナツ団子

<作り方>
(1) ボールにもち粉、ココナツミルク、塩を入れて練り合わせ (ココナツミルクの分量は加減して加える)、12等分して丸める。
(2) (1) の団子の中央をくぼませて黒砂糖を入れ、口をしっかりとあわせて包み込む。
(3) 鍋に湯を沸かし (2) の団子を1個ずつ離して入れ、浮き上がってくるまでゆでる。
(4) ゆであがったら水気を取り、刻みココナツをまぶす。



5. あまがし
 旧暦の5月5日に子供の成長を祈って作られる沖縄の伝統のお菓子 (ぜんざい) で、緑豆と押し麦に黒砂糖の香りと甘味がおいしい。
<材料>
緑 豆1カップ
金時豆1/2 カップ
押し麦100g
適量
黒砂糖 (粉)1/2 カップ
小さじ 1/2
白玉粉適量
あまがし

<作り方>
(1) 緑豆は洗って3〜4時間水に浸けた後、火にかける。沸騰したら一度湯をこぼし、新しい水を入れてやわらかくなるまで煮る。金時豆も同じように煮る。
(2) 押し麦は別鍋でやわらかく煮ておく。
(3) 鍋に緑豆、金時豆、押し麦を入れ、黒砂糖、塩少々を加え、弱火で甘味を含ませる。とろみがでたら火を止める。
(4) 白玉粉に水を少しずつ加減して加え、手でよくこねる。次に団子に丸めながら沸騰したお湯に落とし、浮き上がって2〜3分したらすくいとって水で冷やす。
(5) (3) を冷やして器に入れ、(4) の白玉団子を浮かせる。



「今月の視点」 
2001年5月 
長寿の島の食と砂糖文化
  西大学院 学院長 西大 八重子

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