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アメリカのてん菜糖業事情

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年8月]

 アメリカの国内砂糖生産は最近急増しており、 これに伴って砂糖価格は低迷しています。 急増する政府在庫を処分するため連邦政府は昨年に引き続き新たなPIK政策を検討中と伝えられており、 また、 製糖工場買収の動きも見られています。 このように変動しているアメリカ砂糖産業の状況について、 5月16日(水)札幌市で行われたアメリカてん菜糖振興財団トーマス・シュワルツ氏の講演の内容を紹介します。

(財)甘味資源振興会


はじめに
アメリカてん菜糖振興財団の活動
アメリカてん菜研究会の活動
アメリカのてん菜糖業事情
アメリカのてん菜糖生産地帯
アメリカてん菜研究



 本日は皆さんにお話をする機会をいただきまして、 大変ありがたく存じております。 アメリカのてん菜糖産業は今非常に大きな再編成を体験しているところです。 アメリカの砂糖価格は最も低いレベルにあります。 価格を押し下げている要因はいくつかあります。 まず第一に挙げられるのは砂糖の供給過剰で、 これはアメリカだけでなく世界的な問題なのです。 過去数年、 アメリカのてん菜およびサトウキビの製糖産業では、 需要よりも多くを生産してきました。 また、 国外からも輸入増大への圧力が高まってきておりました。 私はこのことをできるだけ十分にご説明申し上げたいと思います。
 さて、 次にアメリカのてん菜糖産業に触れてみましょう。




 私はアメリカでてん菜糖振興財団 (Beet Sugar Development Foundation) とアメリカてん菜研究会 (American Society of Sugar Beet Technologists) の2つの機関で仕事をしております。
 てん菜糖振興財団は業界の必要とする調査研究を行うことを目的として1945年に創立されました。 とくにてん菜の栽培と収穫に関する機械装備の開発の成果は、 今やてん菜生産およびてん菜糖製造のあらゆる分野に波及しています。
 一方、 同財団は過去25年にわたり教育にも貢献してきました。 毎年てん菜糖製造とてん菜農業の2種類の学校を開催し、 製糖工場内における砂糖の製造及びてん菜栽培についての実践的な教育を実施しています。
 同財団の会員には、 正会員と準会員の2つの区分を設けています。 正会員は砂糖製造を行う会社であり、 準会員はてん菜糖産業に商品又はサービスを提供する会社、 主として種子会社がこれに該当します。 この会員制度は、 同財団が1950年代初期に、 アメリカ農務省農業研究局 (Agriculture Research Service:ARS) との間で協定を取り交わしたことと関係して重要なのです。 この協定により、 てん菜糖産業が ARS に財政支援することにより、 ARS の研究の進展に貢献することが可能となったのです。 一方、 ARS で開発された新しい育種素材としての生殖質 (germplasm) は同協定に基づき、 登録および普及に関する権利を同財団が占有し、 同財団の会員のみが無料で品種改良等で利用することができます。

アメリカ合衆国の砂糖産業をめぐる最近の情勢
 アメリカ合衆国においては、 2000/01年度の生産量は775万トン、 消費量が934万トンとなっており、 不足分を輸入によって補填するシステムを長年続けてきた。 砂糖関連政策の主なポイントは価格支持制度としてのローンプログラム、 国境措置としての関税割当制度等である。
(1)ローンプログラム
 国内価格を支持するため商品金融公社 (Commodity Credit Corporation:CCC) が実施するもので、 製糖業者は原料糖又は白糖を担保にローンレートで融資を受けることができる制度、 これによって製糖工場は砂糖に対する最低価格を保証されるとともに、 間接的には農家手取り額を保証している。 市中の砂糖価格がローンレートを下回った場合、 製糖業者はローンを返済する代わりに砂糖を引き渡すことができる (質流れ) が、 実施する否かはその時々の状況に応じて決定されている。
(2)関税及び関税割当 (TRQ)
 国内価格を維持するため粗糖、 白糖及び加糖調製品等に対して関税を課すとともに、 関税割当制度を実施している。 今年度の TRQ は粗糖が約111.7万トン、 白糖等が2.2万トンと WTO 約束のミニマムアクセスと同等である。
 しかし、 最近ではビート糖生産量の増加、 NAFTA によるメキシコからの輸入増、 カナダからのstuffed molasses (関税を支払うことなくカナダから流入している液糖) の輸入増等から国内在庫の急増、 市場価格の低迷等の問題を抱え、 政府による市中在庫の購入、 質流れが実施された。 このことにより、 政府在庫が急増したため、 政府は PIK によって政府在庫の処分を行うとともに、 栽培面積を縮小させる等の政策を実施している。




 アメリカてん菜研究会(American Society of Sugar Beet Technologists) は ASSBT の略称で知られています。 ASSBT は1937年頃非公式にスタートいたしました。 ASSBT の目的は科学的な情報の交換です。 このため、 「てん菜研究雑誌」 (Journal of Sugar Beet Research) の刊行と2年に1回の研究会が行われております。 「てん菜研究雑誌」 は研究者間の論議、 論評のための科学雑誌であり、 学会会員と非会員のいずれも研究成果の公表手段として利用できます。 この雑誌はすべての ASSBT 会員と、 それ以外の図書館を含む80購読者に配付されております。 また、 研究会は奇数年に開催され、 口頭およびパネル発表が行われます。 この3月に第31回研究会をブリテイッシュコロンビアのバンクーバーで開催したばかりで約375人が出席し、 およそ120の論文が発表されました。 次回は2003年に2月27日から3月1日にかけてヨーロッパ姉妹学会である 「国際てん菜研究学会」 (International Institute for Beet Research) との共同で開催されることとなっています。




 2000年にはてん菜はアメリカ全体で63万3千ヘクタール播種され、 55万7千ヘクタールを収穫しました。 播種面積より低い収穫面積について不思議に思われることでしょう。 すでに述べましたように、 供給過剰は私たちの最大の問題点であり、 その解決の一助として、 アメリカ政府は2000年、 PIK 計画を提案しました。 PIK は現物による支払い (Payment in Kind) を意味しています。 この計画に基づきてん菜生産者に、 播種面積のおよそ10%を廃耕するための支払いが行われました。 通常播種面積の1%相当は降霜や病害で失われるものです。 なお、 アメリカの平均収量はヘクタール当たり53トン、 根中糖分はおよそ17.5%でありました。



 アメリカは次の4つの生産地帯に分けられます。
(1)ミシガン、 オハイオ州を含む五大湖地帯
(2)ノースダコタとミネソタ州を含む北中西部地帯
(3)コロラド、 ネブラスカ、 ワイオミングおよびモンタナ州を含む大平原地帯
(4)カリフォルニア、 アイダホ、 オレゴンおよびワシントン諸州を含む極西部地帯

五大湖地帯
 五大湖地帯では2000年には、 7万7千ヘクタールに播種され、 6万7千500ヘクタールが収穫対象で、 平均収量はヘクタール当たり46.0トンでした。 生産上の主な問題点には、 黒根病 (注:アメリカの場合、 種立枯病を含む病害。 以下同じ)、 根腐病の両病害とネアブラムシ類があります。
 ここには、 南アフリカサトウキビ製糖会社 (South African Cane Sugar Company) が所有するモニターシュガー (Monitor Sugar Co.) と現在インペリアルシュガー (Imperial Sugar Co.) が所有するミシガンシュガー (Michigan Sugar Co.) の2社5工場があります。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
モニターシュガー ミシガン ベイシティー 7,300
ミシガンシュガー ミシガン
ミシガン
ミシガン
ミシガン
キャロー
キャロトン
クロスウェル
セウェイング
3,285
2,790
3,330
4,995

 ミシガンシュガーの原料生産者は事業協同組合を設立し、 インペリアルシュガーから工場を買い取ることを検討しています。
北中西部地帯
 北中西部地帯はアメリカで最も大きい生産地で、 2000年には、 30万2千700ヘクタールに播種、 26万7千900ヘクタールを収穫しました。 平均収量はヘクタール当たり48.7トンでした。
 主な病虫害には、 褐斑病、 root maggot と黒根病などがあります。
 この地帯には3つの製糖会社がありますが、 それらはすべて原料生産者が所有する事業協同組合です。 最も大きいのはアメリカンクリスタルシュガー (American Crystal Sugar Co.) で下記の5工場を所有しています。 またミンダック農民協同組合 (Minn-Dak Farmers Cooperative) と南ミネソタてん菜糖協同組合 (Southern Minnesota Beet Sugar Cooperative) がそれぞれ1工場を所有しています。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
アメリカンクリスタルシュガー ミネソタ
ノースダコタ
ミネソタ
ミネソタ
ノースダコタ
モアヘッド
ヒルズボロー
クルークストン
イーストグランドフォークス
ドレイトン
4,860
6,930
4,860
8,100
5,400
ミンダック農民協同組合 ノースダコタ ワプトン 6,750
南ミネソタてん菜糖協同組合 ミネソタ レンビル 9,900

大平原地帯
 2000年には10万9千800ヘクタールに播種され、 8万9千ヘクタールを収穫しました。 平均収量はヘクタール当たり49.0トンでした。
 先ほど申し上げた2つの生産地帯と違ってここはかんがい地帯であり、 先の2地帯は乾燥地域か、 あるいは降雨に依存しています。 主な病虫害は、 根腐病、 カーリートップウイルス、 そう根病とシスト線虫などです。
 この大平原地帯はロッキー山脈地帯と呼ばれることもあり、 2つの製糖会社があります。 現在は英国の Tate and Lyle 社が所有するウエスタンシュガー (Western Sugar Co.) と、 インペリアルシュガーが所有するホーリーシュガー (Holly Sugar Co.) です。 ウエスタンシュガーは6工場を所有していますが、 ここ数ヵ月のうちにウエスタンシュガーの原料生産者が事業協同組合を設立し、 これら工場を買い取ることとしています。 この事業協同組合は、 コロラドのデンバーに本拠を置くこととされています。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
ウエスタンシュガー モンタナ
ネブラスカ
ネブラスカ
ワイオミング
コロラド
コロラド
ビィリングス
スコットブラフ
ベイヤード
ラヴェル
グリーリー
フォトモーガン
4,500
4,500
2,700
2,700
3,600
5,400

 ホーリーシュガーはこの地域に下に示す3工場を所有していますがワーランド工場の原料生産者もまた事業協同組合の設立と工場の買収をしようとしています。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
ホーリーシュガー モンタナ
ワイオミング
ワイオミング
シドニー
ワーランド
トーリングトン
6,300
3,240
4,860

極西部地帯
 ここでは2000年に14万3千500ヘクタールに播種され、 13万3千300ヘクタールを収穫しました。 平均収量はヘクタール当たり67.8トンでした。 この地帯もかんがいを行います。 この地帯ではいろいろな病害問題があり、 そう根病、 カーリートップウイルス、 シスト線虫および根こぶ線虫 (root knot nematode)などが挙げられます。
 ここにも製糖会社が2社ありまして、 アイダホとオレゴンにアマルガメーテドシュガー (Amalgamated Sugar Co.) が、 またカリフォルニアにスプレッケルシュガー (Spreckels Sugar Co.) があります。
 アマルガメーテドシュガーは原料生産者による事業協同組合の所有であり、 4工場を持っております。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
アマルガメーテドシュガー アイダホ
アイダホ
アイダホ
オレゴン
ミニカシャ
ツインフォール
ナンパ
ニサ
10,800
5,580
10,620
8,100

 スプレッケルシュガーはカリフォルニアにあり、 現在操業中の2工場があります。 ブラウリー工場区域の全ビートは秋に播き晩春に収穫する冬季生育のものです。 メンドータ工場のビートには冬季生育と夏季生育の両方のタイプがあります。 極西部には実はワシントン州のモースレイクにもう1つ工場があり、 原料生産者所有のものです。

会社名 工 場 1日当たりの処理量(トン)
スプレッケルシュガー カリフォルニア
カリフォルニア
ブラウリー
メンドータ
3,780
7,560

 さて、 すでにお分かりのように、 アメリカのてん菜糖産業は次第に原料生産者所有の事業協同組合形式になってきております。 これは将来も続くと思われます。

アメリカ合衆国州別地図
(アンダーラインは講演で示された州名)

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 次に、 アメリカのてん菜研究に話題を転じたいと思います。 基本的にこの研究計画には、 連邦政府、 州、 民間レベルの3つのタイプがあります。

連邦政府での研究開発
 まずは連邦政府の研究計画をお話ししましょう。 アメリカ全体では100以上の ARS の研究所があります。 これらのうち次の5研究所がてん菜の研究に関係しています。 カリフォルニアのサリーナス (Salinas)、 コロラドのフォートコリンズ (Ft. Collins)、 ノースダコタのファーゴ (Fargo)、 ミシガンのイーストランシング (East Lansing) とメリーランドのベルツビル (Beltsville) です。
 サリーナスでは、 育種とウイルスの研究を行っています。 Lewellen と Yu の両博士は遺伝学者で主にそう根病、 萎黄病と線虫を扱い、 Wintermantel と Liu の両博士は萎黄病、 そう根病とカーリートップのウイルスの研究を担当しています。
 フォートコリンズでは3人がチームを組んでいます。 遺伝学者の Panella 博士が根腐病、 褐斑病とカーリートップを主とする育種計画、 病理学者の Hanson 博士は根腐病のような病害の生物防除を含む研究計画、 生理学者の Martin 博士は品質に関する要因に取り組んでいます。
 ファーゴでもフォートコリンズのように3人でチームを組んでいます。 Campbell 博士は遺伝学者でてん菜の root maggot 抵抗性を、 Weiland 博士は病理学者で黒根病および褐斑病と、 それらとてん菜の基礎的なゲノム学上の関係を、 また Klotz 博士は長期貯蔵に関与する生理学的要因を研究しています。
 イーストランシングでは2人の遺伝学者がおり、 McGrath 博士は基礎的なてん菜のゲノム学的研究を、 また Saunder 博士と一緒に黒根病抵抗性および根部の平滑性の育種を行っています。 Halloin 博士は黒根病と褐斑病の防除に関する病理学的研究計画に関与しています。
 ベルツビルは ARS 中で最も大きな研究センターで、 ワシントンDC に非常に近い位置にあります。 ここでの研究はより基礎的な色彩を帯びています。 Kuykendall 博士は遺伝子工学的手法を用いて、 褐斑病などで形質転換技術と病害抵抗性を研究しています。 微生物学者の Smigocki 博士もまた遺伝子工学研究に参画し根中糖分の上昇やてん菜 root maggot などの害虫防除等を研究しています。
 以上はてん菜研究に参加している連邦政府の研究者であります。

州レベルでの研究開発
 アメリカではさらに州予算によりてん菜研究が行われています。 これらの研究は、 国有地賦与大学といわれる大学で行われています。 このような大学はアメリカの各州にあり、 ここで農業研究計画が実施され、 てん菜が栽培される各州ではすべて、 何らかのてん菜の研究を行っています。
 以下、 大学名とそのてん菜研究分野を列挙しましょう。

カリフォルニア大学 Davis 校=てん菜に関する栽培学、 昆虫学および雑草防除研究。
アイダホ大学=てん菜に関する病理学、 線虫学および雑草防除研究。
ワシントン州立大学=雑草防除研究。
オレゴン州立大学=てん菜に関する病理学的研究。
モンタナ州立大学=病理学的研究。
ワイオミング大学=雑草防除研究、 昆虫学および病理学的研究。
コロラド州立大学=てん菜病理学的研究。
ネブラスカ大学=雑草防除研究、 昆虫学、 病理学および農業工学的研究。
ノースダコタ州立大学およびミネソタ大学= Red River を除く地帯で共同で雑草防除研究、 昆虫学、 土壌学、 病理学および作物栽培学的研究を行っており、 これらの研究計画は最も大きいものです。
ミシガン州立大学=雑草防除研究、 土壌学および作物栽培学的研究。

民間レベルでの研究開発
 民間レベルの研究開発は製糖会社、 てん菜種子会社で行われています。 各製糖会社と種子会社はそれぞれ各種の研究計画を組んでおり、 その多くは部外秘研究でありますが、 一部はそうではなく、 ASSBT の研究会で発表されています。
 以上、 アメリカてん菜糖産業の概略を説明させていただきました。




「今月の視点」 
2001年8月 
アメリカのてん菜糖業事情
〜トーマス・シュワルツ 氏の日本における講演〜
(財)甘味資源振興会

シュガーデコレーションケーキに心をうばわれて
江崎サロン・プレステージ主宰
料理研究家   江崎 美惠子

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