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シュガーデコレーションケーキに心をうばわれて

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年8月]
 19世紀のヴィクトリア女王と、 王子王女たちのロイヤルウェディングで一躍有名になったシュガーデコレーション。 シュガーデコレーションの特徴は日保ちがするフルーツケーキを使用していること、 フルーツケーキは香り豊かでリッチな味わいがしておいしいこと、 デコレーションにはシュガーペーストやアイシングで飾ることです。 砂糖を上手に利用した夢いっぱいのシュガーデコレーションケーキ作りを是非1度お試しください。

江崎サロン・プレステージ主宰
料理研究家 江崎 美惠子


はじめに
シュガーデコレ ーションケー キとは?
砂糖の性質を利用して
幸せを運ぶ砂糖
最後に



レッスン風景
レッスン風景
 シュガーデコレーションケーキとは、 どのようなケーキでしょう?と思われる方も多いのではないでしょうか。
 現在私は、 兵庫県の芦屋市で江崎サロン・プレステージというカルチャーサロンを主宰し、 そこでシュガーデコレーションケーキの作り方の教室 (シュガークリエイション講座) を開いております。
 10年程前イギリスで、 初めてシュガーデコレーションケーキに出会い心をうばわれて以来、 その技術を習得することに没頭し、 念願の教室を持つことが出来てから早や5年の歳月が過ぎました。 今では大勢の生徒さんが通ってきてくれます。
 毎日毎日、 お砂糖の甘い香りに包まれて仕事が出来る幸せ…。
 昨年の夏、 私は 「江崎美惠子の幸せのシュガーケーキ」 というエッセイ本を出版致しましたが、 砂糖 (シュガーケーキ) がどのように私の幸せに役立ってくれているか、 少しお話ししたいと思います。




 私が教室を始めた頃は、 シュガーデコレーションケーキを知る人はあまりいらっしゃいませんでした。 が、 年に一度開く作品展示会や洋菓子展、 ブライダルフェアなどの展示会で私たちの作ったオリジナルウェディングケーキやアニバーサリーのケーキをご覧になった方々から、 「まぁきれい、 友人が作り方を習っていると言っていたわ。」、 「先日誕生プレゼントに頂いて食べました。」、 「親類の結婚披露パーティにシュガーデコレーションのウェディングケーキが飾られていました。」 などのお声を聞くようになりました。 それでもまだ写真でしか見たことがない、 食べたこともない方も大勢いらっしゃいます。 私たちの心をうばったシュガーデコレーションケーキをもっともっと多くの方々に知ってもらいたい、 味わってもらいたいと熱望しております。 そのためにシュガーデコレーションとはどのようなものか、 簡単に説明致します。
 シュガーデコレーションケーキ (私たちは略してシュガーケーキと呼ぶこともあります) は、 イギリスに伝わる伝統的なケーキです。
ユリの花
ウェディングケーキ「ユリの花」
 歴史の本によりますと、 「1662年当時の英国王チャールズ2世に嫁いだポルトガル王の娘キャサリンが、 持参金の一部として紅茶といっしょに7隻の船にいっぱいの砂糖をイギリスに持ち込んだ」 とあります。 その頃貴重品だった砂糖を使って、 まだあまり製菓技術が発達していなかったので今程は洗練されていない、 素朴なシュガーケーキを製作して、 王侯貴族の間で食されていたようです。 そして1840年のヴィクトリア女王とアルバート公の結婚式、 その後お2人の間に出来た王子、 王女たちのロイヤルウェディングのケーキで一躍有名になりました。 美しく繊細なそのケーキは人々を感激させ、 イギリス連邦諸国を中心として瞬く間に広まり、 今日に至るまで盛んに作られています。
 シュガーデコレーションケーキと一般のデコレーションケーキとの違いは、 土台のケーキがスポンジケーキではなくフルーツケーキを使っていることです。
 この利点は、 まず第一に日持ちがすること。 季節によって、 また保存方法によっても違いますが、 湿気の少ないところ (冷蔵庫には入れないで下さい) 涼しい所では、 3ヵ月以上保存できます。 ですからお部屋に飾って、 眺めて楽しんでから食べることができる訳です。
 第二に、 フルーツケーキは香りが豊かで、 リッチ (濃厚) な味わいがしてとても美味しいということです。 普通のデコレーションケーキが生クリームやバタークリームで被ったり飾ったりしているのに対して、 シュガーデコレーションケーキは、 砂糖が主原料であるシュガーペーストや、 あるいは砂糖と卵白で作ったロイヤルアイシングという生クリーム状のもので飾ります。 このシュガーペーストやロイヤルアイシングが乾くと固まって重くなるので、 それを支えるためにも中身が柔らかいスポンジではなく、 しっかりしたフルーツケーキが土台として適しているのです。
 それではフルーツケーキの作り方を簡単に説明しましょう。
 主材料は、 小麦粉、 卵、 バター、 砂糖、 そしてブランデーやラム酒などたっぷりの洋酒に浸したドライフルーツです。 まずボウルにバターを入れクリーム状になるまでかき混ぜ、 砂糖を入れさらにかき混ぜます。 よく溶いた卵を少しずつ入れていき、 ドライフルーツを入れた後、 小麦粉を入れてざっくり混ぜ合わせます。
ケーキ断面
ケーキ断面(中身)
 これをケーキ型に入れて焼きますが、 普通のケーキと異なる点は温度と時間です。 直径12cmくらいの丸型ケーキでしたら、 140度のオーブンに160分くらい入れてじっくり焼きます。 焼き上がったら表面に洋酒を塗り保存します。 焼き立てでも美味しいのですが、 1〜2週間くらい経つと、 その間熟成しますのでさらに美味しくなります。
 そうして出来上がったフルーツケーキに、 アプリコットなどのジャムを塗り、 まずマジパンペーストでカバーします。 さらに、 洋酒を刷毛 は け で塗り、 シュガーペーストで再びカバーします。 そのケーキの上や周囲に、 砂糖で作った様々な美しい飾りをつけたものが、 シュガーデコレーションケーキ (シュガーケーキ) なのです。
 この様に手間暇かけ、 心を込めて作ったケーキは、 おもてなしや贈り物にピッタリ。 お友達と一緒のティータイムに楽しむのはもちろんのこと、 バレンタイン、 雛祭り、 子供の日、 母の日、 父の日、 敬老の日、 ハローウィン、 クリスマスなど季節の行事の時に作ったり、 またバースデー、 赤ちゃんの誕生、 卒業・入学祝い、 結婚記念日などのお祝いに贈ると、 とても喜ばれます。
 それらのケーキは、 例えばハート、 お花、 チョウチョウ、 リボン、 子供の好きな自転車や飛行機、 赤ちゃんの靴やよだれかけなど、 さまざまなモチーフで飾られます。
 季節の行事の時に作るケーキの中でもっとも楽しく、 ポピュラーなものは、 クリスマスケーキ。 最近は以前のような赤、 緑、 黄、 白だけでなく、 シックな臙脂 えん じ 色やピンク、 ブルーなどでも飾られます。 モチーフとしては、 ポインセチア、 サンタクロース、 雪だるま、 ヒイラギの葉、 トナカイ、 雪の結晶、 ベル、 星などがあり、 楽しい創造の世界が広がります。
 そしてシュガーデコレーションケーキの中でも最高のものは、 何と言ってもウェディングケーキ。 バラ、 百合、 カトレア、 胡蝶蘭などの豪華なお花や、 デイジー、 スイートピー、 スズランなどの可憐なお花を、 白鳥、 ベル、 エンジェル、 リボンなどのブライダルモチーフでまとめて、 幸せな2人の門出をお祝いします。
 このようにシュガーデコレーションケーキは、 美しく繊細な飾りが多いので作るのが大変!と思っていらっしゃる方が多いようですが、 現在では、 やさしく作るために様々な器具が考案されていますし、 私どものシュガークリエイションのアトリエでも、 簡単により美しく作るために原材料にも工夫を凝らしています。 ですからどなたでも基礎をきっちり学び、 練習する意欲さえあれば、 楽しく作ることができるのです。
◎楽しく作って 幸せ
◎贈って贈られ 幸せ
◎美しく可愛いものを眺めて 幸せ
◎香り高く味わい深いケーキを食べて 幸せ
 そこで私たちは、 このケーキのことを 「幸せのシュガーケーキ」 と呼んでいます。
(江崎美惠子著 「幸せのシュガーケーキ」 より)




 現在私たちが日常的に使用しているのは、 サトウキビやテンサイから作られる砂糖ですが、 製糖法 (精製法) の違いによっていろいろな種類 (形状) があり用途もさまざまです。 代表的なもので上白糖、 グラニュー糖、 三温糖、 和三盆、 黒砂糖、 双目糖ざらめとう、 氷砂糖、 角砂糖などです。 製糖法によってこれだけ異なったものが出来る上に、 加工法 (料理法) によって、 また違ったものが出来ます。 例えば、 白砂糖と水を足して加熱すれば白蜜、 黒砂糖であれば黒蜜。 白蜜を煮つめればアメ細工が出来ますし、 もっと煮つめれば、 こうばしいカラメルになり、 カスタードプリンに使ったり、 アイスクリームやチョコレート菓子に使います。
 私たちは、 砂糖をそのまま利用する場合、 例えばクリスマスケーキを作るとき、 ケーキの上面に粉砂糖をふりかけて粉雪、 グラニュー糖をふりかけてキラキラ光る雪を表現します。 またケーキの上にハードシュガーペーストで作った貝がらをたくさん並べ、 黄褐色をしている三温糖をふりかけると 「砂浜」 をモチーフとしたケーキが出来ます。
 フルーツケーキを焼く時は、 味にこくを出すために、 白砂糖は使わず主に三温糖と黒砂糖 (黒蜜) を使います。 焼き上ったケーキをカバーするのに使うソフトシュガーペーストは粉砂糖、 粉ゼラチン、 水、 白水あめが原料です。 また見た目が生クリームをホイップしたクリームと同じで、 使い方も口金の入った絞り袋に入れて飾り絞りをするものに、 ロイヤルアイシングというものがありますが (乾くと固くなります)、 これは純度の高い (コーンスターチが入っていない) 粉砂糖と卵白で作ります。
 私は、 製法により、 そして加工法により、 これ程までに違った形態をする物質 (食品) を砂糖の他に知りません。 毎日砂糖を使ってケーキを制作しているわけですが、 「お砂糖って、 本当に不思議な食べ物ね!」 と感心しています。




 私は子供の頃、 どういうわけか甘いものがあまり好きではありませんでした。 母は時々お菓子を手作りしてくれましたし、 家族は (父以外)、 甘いものが大好きでよく食べておりましたが、 私は果物の方が好きでした。 その私がお菓子会社の人 (現・江崎グリコ株式会社 社長 江崎勝久) と結婚するとは、 不思議な運命だったような気がします。 お見合いの話があった時、 江崎グリコの製品はほとんど知りませんでしたので、 急いでお菓子屋さんに走って買い求めて食べてみたものです。 それからでしょうか、 甘いものを食べるようになり、 今では大好きです。 そして私の方も砂糖をたくさん使う仕事をしているのですから、 結婚してから文字通り甘い生活が始まったのです。
 このようにお砂糖は私に幸せを運んできてくれたのですが、 「太る、 虫歯になる、 生活習慣病になりやすい。」 といったことをイメージして 「砂糖は体によくない。」 と思っている人が多いのではないでしょうか。
 人間そしてあらゆる生き物は、 生命を維持するために栄養素が必要です。 人間に必要な栄養素 (食品と働き) は皆様よくご存知の通り以下となっています。

1群:魚・肉など:たんぱく質
    (骨や筋肉等を作る)
2群:乳製品・小魚など:カルシウム
    (骨歯を作る)
3群:緑黄色野菜:カロチン (機能調整)
4群:淡色野菜・果物:ビタミン (機能調節)
5群:穀類・砂糖など:炭水化物
    (エネルギー源)
6群:油脂類 (エネルギー源)

 それらの栄養素を摂るために色々な食物を食べるわけです。 残念ながらこの世にはただ1つの食べ物ですべての栄養素を含むものはありません。 ですから片寄った食生活をしていると必ず障害が出てくるのです。
 野菜類はミネラルを含み植物繊維が豊富なので体によいといっても、 野菜ばかり食べていては元気な健康体を保つことが出来ないでしょう。 近頃、 お魚のたんぱく質、 脂分が良いとさかんに言われていますが、 毎日お魚だけ食べていても栄養素は充分ではありません。
 炭水化物や油は太るといっても、 1日に適量は必要なのです。 すべての栄養素は毎日バランスよく適量を摂らなければならないのです。 どの食品も1つだけ摂り過ぎると体に弊害があるのに、 どうしてお砂糖だけがやり玉に上りやすいのでしょうか。 それは、 特に甘いものがおいしいので食べ過ぎてしまうからではないでしょうか。
 私は先程も申しました通り、 今では甘いものが大好きです。 一口含むだけで身も心もとろけるようで幸せいっぱい! でも食べ過ぎません。 他の食品もバランスよく食べます。 バランスが大切なのは食べ物だけではないでしょう。 人間いくら働き者だといっても仕事ばかりしていてはいけません。 休息も必要です。
 勉強もそうです。 1つの科目ばかり勉強していては知識が偏り、 立派な人格が出来上りません。 基礎的なことはひと通り学び、 その上で専門分野に進むべきです。
 それではバランスよく食品を食べた時、 砂糖はどのようなよい働きをするのでしょう。
 先程も書きましたとおり、 大切なエネルギー源となります。 消化吸収が早いので、 疲れた時に口にするとすぐに体や心が軽くなり元気になるのが分かります。
 成長盛りの子供たちは栄養素が充分に必要ですが、 3度の食事では足りない分おやつで補給します。 お菓子などに多く含まれている糖質が子供の体の発育や脳の発達に役立つのです。 吸収の早いエネルギー源を得て体を活発に動かし、 栄養素を体のすみずみまでゆきわたらせることによって、 肉体的な効果ばかりでなく心理的な効果も絶大。 疲れてイライラしている時、 きげんの悪い時、 甘いものを食べさせると目に見えて幸せそうな、 心安らいだ顔をするのがわかりますし、 よく眠れるようにもなります。
 ただし私が自分の子供たちを育てる際には次の4つの点には特に注意をしておりました。

(1) バランスのよい食生活をさせる


(2) お菓子は適量を守る
 3度の食事が栄養の基本で、 それを補うため、 そして精神的に安定させるためにおやつを食べさせる。
(3) おやつの時間を決める
 食事、 おやつの時間はなるべく決めて、 規則正しい生活をさせる。
(4) 食べた後は歯をみがく
 虫歯の原因は甘いものだけでなく、 すべての食べ物が原因になります。 食事、 おやつの後は歯をみがくことを徹底しました。

 子供たちはすでに全員成人しましたが、 今私は、 甘いものを1日1回おやつやデザートとして頂いており、 適当な運動も欠かしません。 それと同時に私の年令の女性はカルシウムがとても大切と聞いておりますので、 毎朝果物にヨーグルトをのせ、 その上から脱脂粉乳をかけて頂いております。
 仕事と家事に忙しい毎日ですが、 シュガーケーキの甘い香りに包まれた幸せ気分の、 健康的な生活を送っております。



 シュガーデコレーションケーキについて少しはご理解頂けましたでしょうか。 これから新しい食文化、 食芸術としてこのシュガーデコレーションケーキが広まって来る予感が致しております。




「今月の視点」 
2001年8月 
アメリカのてん菜糖業事情
〜トーマス・シュワルツ 氏の日本における講演〜
(財)甘味資源振興会

シュガーデコレーションケーキに心をうばわれて
江崎サロン・プレステージ主宰
料理研究家   江崎 美惠子

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