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タイ料理と砂糖

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年10月]
 「甘くて、辛くて、酸っぱい」 タイ料理において 「甘味」 を作り出す砂糖は欠かせない存在です。また、宮廷菓子の発達などタイの歴史上も砂糖はさまざまな役割を果たしてきました。こうした砂糖とタイの食文化との関わりについて紹介していただきました。

タイ料理研究家 酒井 美代子


タイ料理をおいしくする砂糖
日本が輸入している砂糖の30〜40%はタイから
タイ料理における砂糖の歴史
現在の家庭における食卓の様子
タイ料理における砂糖の使われ方、料理における砂糖の効果



 タイ料理は辛いことで有名ですが、それだけではありません。豊富な材料を独特なハーブや、調味料で調理するから [甘み」 や 「酸味」 がはっきりしておいしく、ヘルシーなのです。タイ料理に多く用いられるニンニクが健康増進効果を持つことは良く知られていますし、レモングラスはおなかにいいし、生姜の仲間のカリアンガルは抗ガン物質を多く含むなど、他のハーブも同様に体にとっていいものが多いのです。
 タイ人に料理の特徴を尋ねてみると、“甘くて、辛くて、酸っぱい” という答えが返ってきます。また、“辛くないとおいしくない” とも言います。「辛み」 は、唐辛子を大量に使うからです。市場に行くと赤、緑、黄色、オレンジなど彩りも大きさも様々な唐辛子が山と積まれています。中でも、世界で一番辛いという小唐辛子 (プリッキーヌー)、鷹の爪を大きくしたような干し唐辛子 (プリックヘーン)、粉唐辛子 (プリックボン) を多く使った料理は激辛です。また、胡椒や生の胡椒 (グリーンペッパー) もよく用いますが、これも結構辛いのです。
 「酸味」 は、自然の果実などから摂ることが多いです。最も多く用いられるのが外見がすだちのようなライム (マナオ)、続いて大木になる豆科のタマリンド (マカム)。これらはその汁を調味料として用いますが、マダンのような果実やトマトは材料として細ぎりにして混ぜこんだり、つぶしたりして酸味を楽しみます。
 「甘さ」 は砂糖を多く用いるからです。サトウキビから作ったグラニュー糖 (ナームターンサイ) のほかに、椰子で作ったパームシュガー (ナームターンピップなど) など、砂糖の種類も豊富です。後述しますが、タイの家庭では料理によっていろいろな砂糖を使い分け、味わいを深めているのです。
 砂糖は植物の成分である蔗糖を取り出したものです。サトウキビから作ったものを 「甘しゃ糖」、甜菜から作ったものを 「甜菜糖」 と呼んでいます。ヤシから採ったのは 「ヤシ糖」、「カエデ糖」 はメープルシロップです。タイでは 「甘しゃ糖」 と 「ヤシ糖」 を多く使っています。




 日本の約1.4倍の国土を持つタイ、しかもその8割以上が平野で、チャオプラヤー川 (メナム川) などの肥沃なデルタに恵まれています。市場には日本にあるものの何倍もの種類が山と積まれている果物や野菜、皿の上でピョン、ピョンとはね、山盛となっている活きている海老、海の魚に川魚、牛も豚も鶏もほとんど値段が変わらない肉類が並んでいます。国民の9割以上が仏教徒であるため、食物に対する宗教的禁忌がなく、豊富な材料を多くのハーブや調味料で調理します。東北部など雨の少ない地域や、塩分を多く含む痩せた土地を持つ地方以外の食生活は、庶民の料理も王宮料理に負けないほど豊かです。
 タイは北部、東北部、中部、南部の4つの地域に分けられますが、農地の約半分は稲作で、ほぼ全土で作られています。したがって、世界でも有数の米の輸出国になっているのです。サトウキビはというと、中部と北部、東北タイの一部だけで作られていて、サトウキビ畑は稲作面積の約10分の1ですが、米の輸出額の約半分の外貨を稼いでいます。
 図のように、タイは世界の砂糖生産国ベスト10に入っており、ブラジル、インド、アメリカ、中国に次ぎ、第5位です。また、日本が砂糖を輸入している主要な国の1つです。1999年の資料によると日本の砂糖輸入量は477,542tで、オーストラリアに次いで2位、31.7%です。1996年はタイからのものが1位で706,454t、なんと42.8%も占めていました。
 椰子は中部以南で作られており、砂糖を採るのはほとんど 「砂糖ヤシ」 ですが、他の椰子から作られるヤシ糖もあります。

図 世界の砂糖生産国ベスト10
世界の砂糖生産国マップ&グラフ
資料: 事業団パンフレット 「さとうのあれこれ〜お砂糖Q&A〜」

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 タイ王国は13世紀初頭のスコータイ王朝に始まり、現国王はチャクリー王朝 (1782年−) の9代目、プーミポン・アドンヤデート殿下です。アジアの他の国々が欧米の支配下に置かれる中で、独立した王国を守りとおしてきたタイ、周辺の国々の影響を受けながらも独特の食文化があります。それぞれの時代ごとに見てみましょう。

〈スコータイ時代(1238−1438年)〉
 建国以前からサトウキビはあった

 紀元前から中国の四川省や雲南省辺りに部族国家を形成していたと言われているタイ民族は、7、8世紀頃、南詔国(なんしょうこく) から次第に南下してきました。その頃現在のタイ国の土地は、北西部はドヴァラヴァティ王国 (モン人)、南東部はクメール帝国 (カンボジア人)、そして南部はマレー半島からインドネシア一帯を支配していたシュリビジャヤ王国の支配下にありました。これらの人々を征服し、同化しながら13世紀の初めチェンマイとスコータイに王朝を築き、現在の地に住むようになったのです。食文化もそれらの国々の影響を受けたことは容易に想像できます。
 砂糖の歴史は古く、BC 327年、アレキサンダー大王がインド遠征を行った時、「インドには蜂の力によらずして蜜を作る葦がある」 と伝えられております。また、砂糖の歴史年表によると、“AD285年扶南国(ふなんこく) (シャム東部からカンボジア西部) から普の武帝にサトウキビ一丈三節献納” とあります。シャムはタイの旧名ですから、この頃からサトウキビが存在していたようです。
 スコータイ王朝を築いたシー・イントラテット王の三男で第三代王ラムカムヘンは領土を拡大し、タイ文字を作り、石碑を作った理想的な大王だったと伝えられています。タイ文字はクメール語やサンスクリット語を参考にしただろうと言われています。
 シュガーという英語の語源は、サンスクリット語のサルカラという言葉にさかのぼるともいわれており、サトウキビを絞って煮詰めて甘しゃ糖を作る技術は、BC2−3世紀頃にインドで開発されたといわれています。
 タイでは砂糖のことを 「ナームタン」 と呼びますから、砂糖として用いたのはヤシ糖が先だったのかも知れません。というのは、「タン」 と言うのは砂糖ヤシのことで、ヤシ糖は花序の花軸を切り、流れ出る甘い液 (ナーム) を切り口に結び付けた竹の筒に集め、それに石灰を加えて煮沸して作ります。その製法は現在も田舎では自家製の砂糖を作るのに用いられています。これに対してサトウキビから作る砂糖はナームタンサイと呼びます。

〈アユタヤ時代(1350−1767年)〉
 砂糖をたくさん使う宮廷菓子が発達

 1350年ウートンの王は領土を拡大し強力となり、都をアユタヤに移し、スコータイに変わってアユタヤ王朝が始まりました。
 庶民の食事と区別する宮廷料理はこの頃に確立したのではないかと思われます。宮廷料理は甘い味付けで知られています。甘くて小さくてかわいい宮廷菓子もたくさんつくられました。
 アユタヤの町は国際的となり17世紀にはそのピークを迎えました。人口100万を超え、その中にはラオス人、カンボジア人、中国人、日本人、インド人、ペルシャ人、オランダ人、ポルトガル人、イギリス人、フランス人もいたそうです。ギリシャ人であるファルコンの奥さんは日本人で 「まり」 さんといいお菓子を作るのが上手で、日本の白玉団子からカノムブアロイというタイのお菓子を考えたと伝えられています。また、アユタヤ王朝は1511年にポルトガルと国交を樹立しました。砂糖と卵黄で作るタイのお菓子はポルトガルやインドから伝わったものでしょう。結婚式などのおめでたい時には必ずといっていいほど出されるフォイトーン (金の糸) という卵黄の甘いお菓子はポルトガルから伝わったものです。日本にもポルトガルから伝わったフォイトーンとほとんど同じ “鶏卵素麺” があり、長崎名物となっているのは興味深いものです。砂糖の歴史年表を見ると “1592年朱印船貿易開始、中国、シャム (タイの旧名)、カンボジア等から日本への砂糖輸入が盛んになる。” とありますから、砂糖の生産も多くなされていたのでしょう。お砂糖をたっぷり使ったカノムブアロイとフォイトーンの作り方を紹介しましょう。簡単ですのでぜひ作ってみてください。

フォイトーン
材 料 卵黄 5個
砂糖 2カップ
バニラエッセンスを数滴加えた水 400cc
フォイトーン
作り方
1) 鍋に水と砂糖を入れて煮溶かし、シロップを作り煮立てる。
2) 1によく溶いた卵黄をビニール袋のコーナーに穴をあけ、鍋に糸状に流し入れる。固まったら引き上げ、皿に盛る。

カノム ブアロイ
材 料 白玉粉 1カップ
ココナツミルク 1カップ
砂糖 1/2 カップ
水 1カップ
カノム ブアロイ
作り方
1) 白玉粉は水を少しずつ加えながら耳たぶの固さに練り、1cmのボールに丸め、湯に落として、浮いてきたら冷水にとる。
2) ココナツミルク、砂糖、水に1を加え、温めたら、出来上がり。色粉を用いてもよい。

〈バンコク時代(1782年−)〉
 世界各国の料理に砂糖を使うことが多くなる

 1767年、ビルマに滅ぼされたアユタヤに変わったトンブリ王朝をへて、チャオプラ・チャクリがラーマ1世として即位し、都をバンコクに移しました。
 世界各国との貿易が盛んになり、食文化もそれらの影響を受けました。特に米の輸出などに実際に関わる華僑の経済力が強くなるに従って、中国との関わりが多くなり、食べ物も影響を強く受けます。砂糖の輸出も盛んに行われました。ラーマ5世は近代化を推し進め、欧米の食文化も受け入れました。伝統的なお菓子に加え、ケーキや飲み物など、お砂糖を使う機会はますます増えました。
 1963年日本の粗糖輸入自由化に伴い、商社などとの合弁会社もでき、ますます盛んに輸出されるようになり、現在に至ります。




 数年前のテレビのクイズ番組でタイのラーメン屋の卓上調味料を4つ当てる質問が出されました。日本の醤油に当たるナンプラー、粉唐辛子、唐辛子を浮かせた酢、もう1つは何でしょうというクイズでしたがなかなか答えが出ませんでした。答えはお砂糖です。日本人はラーメンにたっぷりお砂糖を入れるなんて想像できなかったのでしょう。
 わたし自身も初めてタイの町の食堂に入ったとき、卓上の白い顆粒が一体何なのかしばし考えました。うま味調味料にしては粒が大きいし……塩かしらと、「お砂糖」 と知ってびっくりしたことを思い出します。よく見ると、真っ白ではないのですが確かにグラニュー糖です。お料理にかけるものをイメージした場合、砂糖は浮かばなかったのですね。
 タイのめん類は薄味に仕上げてあり、卓上で調味します。タイ人の友人は汁ビーフンにたっぷりかけておいしそうに食べます。わたしも真似てみると、これまたびっくり、味わいがとても深くなるのです。チャーハンにも焼きそばにも驚くほどたくさんの砂糖を入れますが、しっかりした味でとてもおいしいのです。
 調味料のなかにも砂糖の効いたものが多くあります。90%以上が砂糖のシーユダム (黒醤油)、ナームチムボエ (甘い梅ソース)、ナームチムガイ (甘くて辛いソース) など、オイスターソースも他の国のものより甘みが強いです。タレをつけて食べる料理も多いのですが、これにも砂糖を多く用います。簡単にできる揚げ物のタレを紹介しましょう。

甘くておいしい揚げ物のタレ
材 料   砂糖 1/2カップ
酢 大さじ3
水 大さじ3
梅干しの果肉 1/2個
塩 少々
作り方
1) 梅干しは洗ってみじん切りにして、砂糖などの材料とともに鍋にいれ、火にかけ、かきまぜながらトロリとするまで煮る。
2) 春巻き、唐揚げ、てんぷらなどのタレに。いつもの揚げ物がグッとエスニックに。

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 サトウキビから作った 「甘しゃ糖」 はグラニュー糖 (ナームターンサイ)、ブラウンシュガー (ナームターンサイデーン) として、袋に詰められ売っています。町の屋台ではサトウキビを絞ってジュースにして売っています。ヤシから採った 「ヤシ糖」 (ナームターンピップ) は饅頭の形に固めてあるものや、どろどろのものをビニール袋や入れ物に入れて売っています。堅いものは黒砂糖のように砕いておやつとして食べたりします。椰子の種類は多く、そのほとんどから、前述のように簡単に砂糖が作れます。ほとんどが砂糖ヤシからのナームターンピップですが、ココヤシ (マプラオ) から作ったものはナームターンマプラオと言うようにそのヤシの種類の名前がつきます。上白糖は、日本独特のものでタイにはありません。アメリカにも住んだことがありますが、グラニュー糖でした。
 タイの家庭でもメインはグラニュー糖ですが料理によっていろいろな砂糖を使い分け、味わいを深めているのです。ヤシ糖はカレーに使うと旨みが増しますし、グラニュー糖はケーキを作るのにいいと言います。後は好みでいろいろ使い分けています。砂糖を煮詰めたナムチュアム (いわゆるガムシロップのようなもの) を台所に常備し、いろいろな料理やタレに使ったりもします。
 グアッバのような淡泊な果物には砂糖に塩と唐辛子をミックスしたものをつけて食べます。ジュースなどの飲み物にもお砂糖をたっぷり入れて甘くして頂きます。コーヒーのようなオーリアンには練乳をたくさんいれます。
 タイ料理に砂糖を多く用いるのにはおいしいだけでなく、理にかなっています。砂糖は、ご飯と同じ糖質 (炭水化物) で、生命を維持し、健康に活動するためのエネルギー源として利用される食品です。糖質の中でも砂糖はすみやかに消化吸収されるため、暑さで疲労しがちなタイの人々の栄養補給に高い効果を発揮します。また、高温多湿の気候では、砂糖の持つ防腐効果や脂肪の酸化防止効果にも役立っています。
 私は 「王様と私」 のモデルになったラーマ4世のお孫さんに当たるプリンセスに料理を習いましたが、使う調味料の銘柄も吟味されていました。一般に売られている砂糖に比べると真っ白できれいです。ヤシ糖はナームターンマプラオ (ココヤシ糖) を使っておられました。
 タイから帰国して翌月から料理を教え始め、もう13年目になりますが、タイカレーの味見をするたびにナンプラーやお砂糖の威力に感心します。味見のしかたはプリンセス・シーダのお教室で習った方法を踏襲しています。つまり1人1人がスプーンを持って味を見るのです。手作りのカレーペーストにココナツミルクと具とナンプラーを加え味見をするのですが、最後の大さじ一杯のお砂糖がうまみを倍増するのです。砂糖ってスゴイ!
 参考までにどの料理にどんな砂糖が使われているかタイ料理の本 「amazing THAILAND CULINARY ART W2000」 を調べてみました。英語ですと単に SUGAR とだけしか記載されていなくても対訳のタイ語を見ると、種類が書いてあるのもあります。

●アーペタイザー
ナームターンサイ (サトウキビから作るグラニュー糖) ……2
ナームターンピップ (ヤシ糖) ……1
ナームターン (どちらでもいい) ……2
●サラダ
ナームターンサイ (サトウキビから作るグラニュー糖) ……3 内1つは蜂蜜もプラス
ナームターンピップ (ヤシ糖) ……2
ナームターン (どちらでもいい) ……2
●ご飯
ナームターン (どちらでもいい) ……4、1カップも入れるレシピあり
●アントレー
ナームターンサイ (サトウキビから作るグラニュー糖) ……2
ナームターンピップ (ヤシ糖) ……1
ナームターン (どちらでもいい) ……4
●カレー
ナームターンピップ (ヤシ糖) ……4
ナームターンオーイ (ブラウンシュガー)
●デザート
マプラオナームターンサイ (サトウキビから作るグラニュー糖)
  ……6 内1つは蜂蜜もプラス
ナームターンマプラオ (ココヤシ糖) ……1
ナームターンサイ ライエッグ (グラニュー糖の細かいもの)
ナームターン (どちらでもいいのでしょう) ……2

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「今月の視点」 
2001年10月 
タイ料理と砂糖
タイ料理研究家 酒井美代子

北大東の点滴かんがい事情
北大東さとうきび糖業振興会 前会長 新里泰久

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