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砂糖摂取の体重増加とストレスへの影響

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2002年7月]
 生活習慣病の原因には、過食等の食生活の乱れや運動不足による要因が重なった 「肥満」 が最も大きな原因とされています。なかでも砂糖の摂取が肥満の原因といわれていますが本当でしょうか。また、ストレスを感じたときに甘いものを好んで食べることがありますがどうしてでしょうか。動物実験の結果、同じ摂取エネルギーならば砂糖の摂取は決して肥満を助長させることはないことが分かりました。また、砂糖を含んだ甘い食物は、精神的ストレスに対して抵抗性があると推測されるストレス蛋白の出現により、ストレスを和らげる効果があることが分かりました。

共立女子大学 家政学部教授
医学博士 井上 修二


はじめに
1.生活習慣病と肥満
2.高砂糖食飼育のラット体重への影響
3.砂糖摂取のストレス負荷に対する影響き
おわりに



 糖尿病、高血圧、高脂血症や動脈硬化にもとづく狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など生活習慣病と呼ばれる病気が大変増えてきて、医療の中で大きな問題になっている。肥満はこのような生活習慣病の最も重要な原因であり、「砂糖を摂ると太る」と言われ、砂糖摂取は肥満の元凶のように呼ばれている。この小論では第1に、この考え方が正しいかどうか検討する。
 強いショックやストレスを受けるとうつ状態になったり、胃潰瘍になったりして食欲がなくなってしまう。一方、一定程度までのストレスに対し人間は食べることでそれを解消することがある。気分がむしゃくしゃすると、むやみに甘い物を食べたくなることがある。大食症、やけ食い症候群あるいは気晴らし食い症候群と呼ばれる病気ではストレスを感ずると、むやみやたらに大食いする。このようなストレスが引き金になって大食いすることをストレス誘導性過食という。面白いのは、このような時にも、甘い物が好んで食べられることである。このような現象は甘い物を食べることがストレス解消に役立っている可能性があることを示唆している。この小論では第2に甘い物を食べることがストレスとどのような関係があるのかを検討する。

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 生活習慣病とは今まで成人病と呼ばれてきた病気の中で、食生活、運動習慣、喫煙、飲酒、休養などの生活習慣が発病や病気の進行に深く関与している病気のことである。
従って、生活習慣病と成人病の関係は図1のようになる。典型的な成人病とみなされる病気は年齢が加わるとともに発病が多くなる病気で、老人性白内障、老人性難聴、老人性痴呆などがある。典型的な生活習慣病とみなされる病気は飲酒によるアルコール性肝障害や喫煙による肺がんなどがある。今日、生活習慣病とみなされる代表的な病気は加齢の因子と生活習慣因子の両方の影響が加わった病気で、U型糖尿病(注)、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、循環器病(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)、がん(肺がん、大腸がんなど)、歯周病などが代表的なものである。
図1 成人病と生活習慣病
図1 成人病と生活習慣病
 このような病気は家族が同じ病気にかかっているという遺伝的背景をもつ患者が多いことや、がんを除いて、長い間症状がないので放置され、脳卒中、心筋梗塞による急死や脳卒中による半身不随、失語症、糖尿病合併症の網膜症による視力低下、腎症による腎不全から人工透析など重大な合併症に陥る患者が多いことが特徴である。
 生活習慣病の原因としては過食、夜食、朝食欠食、どか食い、早食いなどの食生活の誤りと自動車、エレベーター、エスカレーター、家庭電気製品の多用による運動習慣の不足という2つの要因が重なって起こる肥満が最大の原因である。生活習慣病の最大の対策は肥満対策と言われる由縁である。

(注) 糖尿病には膵臓のインスリンを分泌する細胞が破壊されて、ほとんどインスリン分泌が無くなるT型糖尿病とインスリン分泌細胞は破壊されずインスリン分泌はあるのに、インスリンの血糖降下作用が足りなくなるU型糖尿病がある。インスリンの血糖降下作用を足りなくさせるのが、肥満、過食、運動不足、加齢、ストレスなどである。


 肥満の二大原因のうち過食は重要な要素である。「砂糖は太る」 と言われているが、砂糖の含有エネルギーは1g当たり4kcalで、米、パンやいも類などに含まれている炭水化物である澱粉の含有エネルギーも1g当たり4kcalである。従って、砂糖摂取が過食につながるのか、それとも砂糖のなかに肥満につながる物質が含まれているかどうかが生活習慣病の予防を考えるうえで重要な問題になる。そこで、過剰な砂糖を摂取すると非肥満者が肥満になるのか、また、肥満者は一層肥満が助長されるのかということを明らかにするために、ラットを使用して高砂糖で飼育すると太るかどうか検討した。
 動物の肥満モデルにはいくつかあるが、その中に高エネルギーの食事を与えて作成する食餌性肥満がある。食餌性肥満の作成方法としては、通常高脂肪食と高砂糖食を一緒に与えて好きなように食べさせるのが最も効率的である。この食事は以前はカフェテリアやスーパーマーケットからケーキ、クッキー、チョコレートのような脂肪が多くてその上、甘い食物を購入し、それらを多量に与えたためにカフェテリア食とか、スーパーマーケット食という呼び方をされていた。食餌性肥満は高脂肪食だけ与えて飼育しても作成することができる。
 しかし、高砂糖食で飼育しても太るかどうかということについては、太るという報告、太らないという報告、あるいはかえってやせるという報告などがあり、はっきりしたことは分かっていないのが現状である。
私たちはこの成績の不一致はそれぞれの研究における摂取エネルギーの差にあるのではないかと考え、摂取エネルギーを考慮して、肥満動物と非肥満動物を普通食を食べさせて飼育する一群と、その中の澱粉部分の60%を砂糖と入れ替えた高砂糖食を食べさせて飼育する一群の2つの群に分けて2週間飼育して体重増加を比較する実験を行った。なお、比較のために、澱粉部分の60%を脂肪と入れ替えた高脂肪食を食べさせて飼育する一群も加え、3群間で実験を行った。
 左側の肥満群ラット、右側の非肥満群ラットとも60%の高砂糖食で飼育した群は普通食で飼育した群と2週間後の体重に差はみられなかったが、60%の高脂肪食で飼育したラット群は60%の高砂糖食飼育ラット群、普通食飼育ラット群よりも体重の増加が大きかった(図2)。言い替えると60%の高砂糖食で飼育しても、普通食で飼育した場合と比較して、肥満ラットの体重増加をより多く増やすこともなく、非肥満ラットを肥満にする体重増加を示すこともなかった。一方、60%の高脂肪食で飼育したラットと普通食で飼育したラットを比較すると、肥満ラットでは、体重の増加をより多く増やし、非肥満ラットでは肥満をきたす体重増加を示した。
図2
図2 肥満ラットと非肥満ラットの体重に対する食餌の影響
(Xue C Y rt.al.International Journal of Obesity
25巻;434-438頁2001年より引用)
 実験期間中に食べた摂取エネルギーを3群間で比較すると左側の肥満ラット群、右側の非肥満ラット群ともに、60%の高砂糖食で飼育したラット群は、普通食で飼育したラット群と比較して、摂取エネルギー量は同じレベルで、摂取エネルギーに差がなかった。それに対して、60%の高脂肪食で飼育したラット群は肥満ラット、非肥満ラットとも、普通食で飼育したラット群と比較して摂取エネルギーは高かった(図3)。
図3
図3 実験期間中の摂取エネルギー量の比較
(図2と同じ論文より引用)
 従って、両方の成績によって、摂取エネルギーが同じならば高砂糖飼育は60%もの高い砂糖食で飼育しても非肥満ラットを肥満にすることもなく、肥満ラットの体重増加を一層助長することはないことが明らかになった。このような摂取エネルギーを同じにすれば高砂糖食で飼育したラットの体重増加は普通食で飼育したラットの体重増加と変わらないという実験成績は、日本人の戸井田らが非肥満ラットを使って、米国のRusselらが肥満ラットを使って以前に報告している。
 この成績を人間にあてはめると、砂糖を含んだ食品を食べても、摂取エネルギーが適切であれば、すなわち過剰でなければ太ることはないということになる。砂糖を含んだ食品は食事のデザートや間食として摂取されることが多いので、食事における摂取エネルギーの過剰にさらに上乗せする結果になり、「砂糖は太る」 という誤った考え方が定着してしまったものと思われる。
 砂糖を含んだ食品(砂糖はブドウ糖と果糖で構成されているので、果糖の多い果物も含まれる)を食べる場合は、他の食品の摂取量を減らし、1日の摂取エネルギーを適切にすれば太ることはないと結論できる。なお、砂糖は代謝される過程で血糖値や血中中性脂肪値を上げやすい食品なので、1日に摂取するエネルギー量が適切でも、一度にたくさんの量を摂取することは控えるべきである。また、高脂肪食は普通食と同一エネルギーで飼育しても太るという動物実験成績が多くの研究で報告されているので、脂肪の摂り過ぎは肥満予防のためには避けるべきである。



 ストレスとは生体内のひずみの状態をいう。すなわち体外から加えられた有害因子(ストレス要因)と、それによって生じた防御反応の両方を指している。ストレス要因としては、物理的(寒冷、放射線、騒音)、化学的(薬物、ビタミン不足、組織の酸素欠乏)、生物的(細菌感染)なもの以外に、精神的(受験、手術、失恋)なもの、いわゆる情動ストレス(emotional stress)も含まれる。生体にストレス要因が加わるとそれに対して、生体を防御する反応が起こる。ストレス蛋白の出現も生体防御反応のひとつである。
 ストレス蛋白は発見当初、火傷になった組織に出現して火傷の修復に働く蛋白として火傷ショック蛋白と名づけられた。その後、火傷だけでなく、外傷、手術、異常寒冷、異常高温、放射線、騒音などの環境ストレスを受けた場合にも出現し、細胞修復の手助けをする蛋白と考えられるようになり、若い貴婦人が社交界にデビューする時の介い添え人役割を果たすことと同じ働きのたとえとして、介い添え人(chaperon)とも呼ばれるようになった。
 この蛋白は脳がストレスを受けた時にも出現し、脳組織の損傷の修復にも関与することが分かってきた。脳におけるこの蛋白の出現は心理的あるいは精神的なストレスに対する抵抗反応ではないかと推測されるようになってきている。ストレス蛋白には種々の種類があるが、最も細胞修復に関係ある代表的なものはヒートショック蛋白70と呼ばれるもので、脳内に多くある物はヒートショック蛋白27(分子量の大きさによって名付けられている)と呼ばれるものである。
 砂糖摂取が脳内のストレス軽減に影響を与えるかどうかを調べるために、ラットを60%の高砂糖食と普通食で飼育する2群に分けて1週間飼育後、1時間の四肢を拘束するストレスを与えて脳のなかで大脳、視床下部、小脳におけるストレス蛋白(ヒートショック蛋白70と27)の出現を検討した。
大脳では普通食飼育ラット群は拘束ストレスにより、ヒートショック蛋白70は少し出現が上昇したが、意味のある上昇ではなかったが、高砂糖食飼育ラット群では拘束ストレスにより、意味のある上昇を示した。ヒートショック蛋白27は普通食飼育ラット群、高砂糖飼育ラット群とも拘束ストレスにより、少し出現が上昇したが意味のある上昇ではなかった(図4)。
図4
図4 大脳における拘束ストレスによる
ストレス蛋白の出現
(Kageyama H et.al.Biophysical Research Communication
274巻;355-358頁、2000年より引用)
 視床下部、小脳においては普通食ラット群はヒートショック蛋白70,ヒートショック蛋白27とも拘束ストレスにより意味のある変化がなかったのに、高砂糖食ラット群では意味のある出現の上昇を認めた(図5、6)。
図5
図5 視床下部における拘束ストレスによる
ストレス蛋白の出現
(図4と同じ論文より引用)
図6
図6 小脳における拘束ストレスによる
ストレス蛋白の出現
(図4と同じ論文より引用)
 以上の結果は拘束ストレスに対して、高砂糖食飼育はストレスに対抗して、ストレスをやわらげようと働いたことを示していると考えられた。従って心理的あるいは精神的ストレスに対して、砂糖を含んだ甘い食物はストレスをやわらげるように作用するものと考えられる。
 ストレス下におかれた時に過食するストレス誘導性過食において甘い物があると一層過食が進むことは、ストレス解消のための代償行為が増強するためと考えられる。また大食症、やけ食い症候群あるいは気晴らし食い症候群のような食べ方も、この場合は病的ではあるが、ストレス解消の代償行為になっている可能性が強い。しかしながら、ストレス誘導性過食は肥満の原因になるので、ストレス解消のためには上手に小量の甘い食品をとる配慮が必要である。



 砂糖摂取は砂糖を含めた1日全体の摂取エネルギーが適切ならば肥満にならないことを解説した。また、砂糖摂取にはストレスをやわらげる作用があることも指摘した。しかしながら、砂糖摂取には血糖値や血中中性脂肪値を上昇させやすくする作用があり、またストレス解消のための食べ過ぎは肥満の原因にもなるので、砂糖含有食品の賢い食べ方が求められる。

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2002年7月 
砂糖摂取の体重増加とストレスへの影響
 共立女子大学 家政学部教授 医学博士 井上 修二

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 (社) 北海道てん菜協会 技術部長 黒沢 厚基


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