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琉球弧の少収地域、低糖度地域におけるさとうきびの栽培改善

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2002年9月]
 平成13年度において行われた 「さとうきび栽培実態診断調査」 の概要の沖縄編を紹介します。今年1月に沖縄県本島、伊平屋島、南・北大東島、久米島、与那国島において、さとうきび栽培ほ場の実測、地元さとうきび生産者、試験研究関係者、普及・行政関係者、糖業関係者等による現地検討会を行いました。現地の問題点の解消を図るとともに、低単収、低品質ほ場を改善するための改善策等を地域ごとに紹介します。

九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部
さとうきび育種研究室長  杉本 明


はじめに
I 沖縄県下のさとうきび栽培の現状、地域及び栽培型の特徴
  1.総括   2.栽培型の特徴   3.地域の課題
  4.調査地域の栽培状況と高糖多収実現のための対策
    1) 伊平屋島  2) 北大東島  3) 南大東島
    4) 久米島における現地診断  5) 与那国島における現地診断
おわりに



 さとうきびが、付加価値創造性の高さと梢頭部・枯葉・搾汁残さの地域への還元等によって、琉球弧における基幹作物の地位を与えられていること、その持続的発展の第一の要因がさとうきびの安定多収の実現であることを前月号で述べた。さらに、多収の要素は多い茎数(多い株数と多い株当たり原料茎数)と重い1茎重であり、それらが光・ガス・養水分の十分な継続的供給によって保証されること、養水分の供給は根系の大きさと活性、良好な土壌環境、光及びガスの供給は多い生葉と受光態勢の良否に基盤を置くこと、すなわち、適度な降雨・日照・温度と肥沃な土壌の存在が環境の要点であり、立毛自身が具えるべき特性が優れた根系、多い生葉量、優れた受光態勢である事を記した。今回は、前月号に続き、これらの要点を念頭に置いて沖縄県下の島々における低生産性の要因と安定多収への栽培改善の方向を検討する。



1.総括
 1967/68〜2001/2002年期まで18年間の夏植え、春植え、株出しの単位茎収量(10a当たり)、蔗汁ブリックスの平均値と年次間の変動係数を第1表に、蔗汁ブリックスと平均茎収量との関係を第2表に、2001/2002年期の単位茎収量と甘蔗糖度を第3表に示した。

1) 低い単収、低いブリックス
 長期間の統計数値は、沖縄地域の茎収量が鹿児島県下の島々より低いことを示している。伊平屋島、北大東島、南大東島、与那国島は特に低い。年次間の変動も大きく生産は不安定である。沖縄本島北部及び南部、久米島は3作型共に全地域の平均を上回っている。沖縄本島北部、南部は年次間変動が小さいが、久米島では春植えと株出しの年次間変動が大きい。蔗汁ブリックスは概して低く、伊平屋島、沖縄本島南部以外の地域は鹿児島県下の島々(種子島を除く)より低かった。
 茎収量と蔗汁ブリックスとの相関係数は、夏植え中心の宮古島、石垣島、与那国島で負の値を示したが、他の地域では正の値で、鹿児島の島々より大きかった。久米島では有意な正の相関関係が認められた。このことは、これらの地域では、生育不良な年は糖度も低いこと、すなわちそのような年には激しい生育阻害要因が存在したこと、さとうきびを取り巻く気象環境が厳しいことを示唆している。
 2001/2002年期に平均収量が最も高かったのは宮古島で7.6トン、次いで石垣島で7.1トンであった。両島ともに大部分が夏植えである。長期間の統計では比較的少収で年次間の変動も大きい。沖縄本島南部は6.8トンであったが、株出しが中心であり生産性は沖縄の中で第一である。長期間の統計でも平均7.1トンと高く、年次間の変動も14%と比較的小さい。2001/2002年期の沖縄本島北部は5.7トンである。久米島が5.4トン、南大東島4.9トン、北大東島4.2トンと低く、与那国島は4.0トン、伊平屋島は3.8トンと極少収であった。長期間の統計では、久米島は6.6トンとやや多収、伊平屋島は5.6トンであるがこの数年は極端な少収が続いている。北大東島、与那国島、南大東島は長期間の統計でも少収で年次間の変動も大きく、不良な気象の影響を直接受けていることが示唆されている。

2) 収量の低い春植え
 夏植えの茎収量は沖縄本島南部が9.0トンで最高、宮古島、石垣島、南大東島が7トン台でそれに続いた。沖縄本島北部と久米島は6.9トン、北大東島は5.4トン、与那国、伊平屋両島は5.0トン、4.2トンと特に低かった。春植えはどこも低かったが、沖縄本島南部が5.9トン、石垣島5.8トン(鹿児島県の徳之島、喜界島に匹敵)、宮古島が5.3トンで比較的高かった。南大東島は4.6トン、久米島は4.3トン、北大東島は4.0トンと低く、伊平屋島(2.6トン)、与那国島(2.2トン)は極端に低かった。
 株出しは、沖縄本島南部が6.7トン、宮古島が6.2トンで比較的高く(徳之島より高い)、沖縄本島北部(5.8トン)、石垣島(5.7トン)は奄美大島、与論島より少し高い程度であった。久米島は5.0トンで鹿児島の最低である沖永良部島と同等、南大東島は4.6トン、北大東島は4.1トンで低かった。与那国島は3.3トン、伊平屋島は2.5トンと極端に低かった。
 甘蔗糖度は概して高く、北大東島が15.4%、宮古島15.2%、南大東島15.0%、石垣島14.7%、沖縄本島南部14.5%、沖縄本島北部が14.3%であった。与那国島は13.0%、久米島は13.4%、伊平屋島は13.6%と沖縄地域の中では低かった。

第1表 夏植、春植、株出し栽培における茎収量と蔗汁ブリックス
単位:kg/ha, %
地域 茎収量夏植 春植相当 茎収量春植 茎収量株出 茎収量平均 蔗汁BX 備考 (品種構成等)
種子島
喜界島
奄美大島
徳之島
沖永良部島
与論島
沖縄北部
伊平屋島
沖縄南部
久米島
北大東島
南大東島
宮古島
石垣島
与那国島
全地域平均
変動係数平均
8,624 (10)
8,772 ( 7)
6,982 ( 9)
7,878 ( 8)
7,293 (14)
8,400 (17)
7,841 (14)
6,069 (23)
8,969 (14)
7,948 (12)
5,509 (26)
7,377 (24)
7,416 (14)
7,371 (13)
5,873 (21)
7,427 (14)
15.6
6,468 ( 94)
6,708 (114)
5,339 (118)
6,024 (109)
5,577 (124)
6,424 (137)
5,881 (106)
4,552 (116)
6,727 (115)
5,961 (107)
4,132 (108)
5,533 (137)
5,562 (136)
5,528 (101)
4,404 (143)
- ( -)
6,903 (12)
5,882 (13)
4,519 (11)
5,540 (12)
4,494 (17)
4,701 (19)
5,529 (15)
3,908 (38)
5,840 (14)
5,557 (21)
3,821 (36)
4,051 (32)
4,102 (21)
5,465 (15)
3,091 (57)
4,824 (21)
22.2
7,129 (13)
6,296 (13)
5,072 (12)
6,137 (11)
5,108 (18)
5,984 (15)
6,357 (14)
4,033 (40)
7,118 (14)
6,414 (18)
4,850 (27)
5,186 (25)
5,125 (21)
5,215 (19)
3,296 (32)
5,516 (19)
18.8
7,072 (13)
7,298 ( 9)
5,629 ( 9)
6,292 (10)
5,938 (16)
5,869 (16)
6,332 (14)
5,626 (23)
7,108 (14)
6,595 (17)
4,781 (29)
5,430 (26)
7,175 (13)
6,993 (13)
5,319 (20)
6,150 (13)
16.1
17.0 (6)
18.9 (4)
18.1 (4)
18.4 (4)
18.2 (4)
18.4 (5)
17.6 (5)
18.5 (4)
18.2 (4)
17.3 (5)
117.0 (7)
17.2 (6)
18.0 (6)
17.7 (5)
17.7 (4)
17.87(3)
5.3
9年NCo310、4年NiF8
6年NCo310、5年F177、2年NiF8
5年NCo310、1年NCo310他、7年F177
6年NCo310、1年複数、2年NiF4、4年F177
8年NCo310、1年F177、4年NiF8
9年NCo310、4年F177
6年NCo310、後7年F177
5年NCo310、6年NiF4、2年F177
全期間NCo310
6年NCo310、7年F177
8年NCo310、5年F161
4年NCo310とIRK67-1、9年F161
3年NCo310、4年IRK67-1、6年F172, 177
6年NCo310、7年F161
7年NCo310、4年NiF4、1年NiF7、1年Ni9

注1) 1984/85〜2001/2002さとうきび年期 (18年間) の成績 (蔗汁BXは〜の17年間) 沖南 (北) 部:沖縄本島南 (北) 部。
注2) ( ) は年次間の変動係数。全地域平均の ( ) は地域毎の全年次の平均値の地域間の変動係数。
  春植相当の ( ) は春植え相当の値を春植えの値で除した値。
注3) 春植え相当は、夏植えと春植えの生育期間の差異を考慮して夏植えの収量を調整した値。
  夏植え収量に、種子島は12/16、奄美大島地区は13/17、沖縄地域は12/16を乗じて算出。

第2表 琉球弧の島々におけるさとうきびの茎収量と蔗汁ブリックスの関係
種子島 喜界島 奄美大島 徳之島 沖永良部島 与論島 沖縄北部 伊平屋島
.007 .254 .071 .354 .156 .169 .378 .494
沖縄南部 久米島 北大東島 南大東島 宮古島 石垣島 与那国島 地域間
.313 .535* .305 .374 -.243 -.143 -.456 .236
注1) 1984/85〜2000/01、18年間の成績 (伊平屋島と与那国島は1984/85〜10年間) で算出。
  *:相関係数が5%の棄却率で有意であることを示す。
  地域間:各地域における茎収量平均値と蔗汁ブリックスの平均値 (全年次平均値) の関係

第3表 琉球弧の島々における2001/02年期の生産実績
  生産量
(t)
収穫面積
(ha)
作型別面積比 (%) 茎収量/10a 甘蔗糖度
(%)
品種構成比
夏植 春植 株出 平均 夏植 春植 株出
種子島
喜界島
奄美大島
徳之島
沖永良部島
与論島
192,603
86,083
38,039
238,248
51,679
32,701
2,501
1,133
591
3,677
870
603
2.6
54.5
43.1
18.1
54.1
5.0
26.4
8.6
19.1
24.1
16.9
19.6
70.9
36.9
37.7
57.8
29.0
75.5
7,701
7,598
6,267
6,479
5,940
5,423
9,032
9,963
7,633
8,639
6,929
7,613
7,553
5,781
4,741
5,969
4,477
4,360
7,707
6,008
5,479
6,015
4,949
5,554
13.22
13.75
13.88
14.44
13.09
13.53
NiF8;100%
NiF8;85%, F177;11%
F177;49%, Nif8;38%
NiF8;59%, F177;33%
NiF8;86%, F177;8%
F177;80%, NiF8;10%
平均値
変動係数
          6,568
13.9
8,135
10.6
5,481
22.2
5,952
15.9
13.65
3.6
 
沖縄本島北部
伊平屋島
宮古島
石垣島
与那国島
沖縄本島南部
北大東島
南大東島
久米島
73,190
2,982
233,223
87,645
4,282
113,601
18,328
58,142
62,719
1,290
78
3,087
1,237
108
1,664
441
1,185
1,144
11.9
78.2
89.6
71.5
81.5
9.1
6.3
12.7
27.4
21.2
2.6
6.7
12.3
1.9
13.0
20.0
19.9
15.6
66.9
19.2
3.7
16.2
16.7
77.9
73.7
67.3
60.0
5,672
3,823
7,556
7,083
3,953
6,827
4,157
4,910
5,414
6,946
4,179
7,843
7,609
4,992
9,046
5,373
7,140
6,899
4,896
2,555
5,297
5,846
2,237
5,865
4,001
4,590
4,286
5,806
2,543
6,213
5,696
3,269
6,729
4,095
4,570
4,989
14.3
13.6
15.2
14.7
13.0
14.5
15.4
15.0
13.4
F177;61%, NiF8;21%, Ni9;16%
F177;77%, Ni9;14%
NiF8;70%, F172;11%, Ni9;10%
Ni9;58%, NiF8;26%, F161;8%
Ni9;80%, NiTn10;12%
Ni9;35%, NCo310;34%, F172;8%, NiF8;6%
Ni9;55%, F161;32%
F161;86%, Ni11;7%
F177;74%, Ni9;20%
沖縄平均
変動係数
          5,488
25.6
6,670
23.1
4,397
29.6
4,879
28.5
14.3
5.9
 
注) 品種構成比の数字はおおよその値。

2.栽培型の特徴
 2001/2002年期の茎収量の平均は、夏植え6.67トン、春植えは4.40トン、株出しは4.88トンであった。 夏植えの春植え相当茎収量(夏植えの茎収量を春植えの生育期間で調整し、12/16を乗じて算出)は5.00トンであり、他の作型が少収なため、株出し萌芽性が改善されれば、実態的には春植え、株出しに比べ生産性が高いといえる。地域間の変動係数は、夏植えでは23.1%と比較的小さかったが、春植えでは29.6%、株出しも28.5%と大きかった。 各地域における年次間の変動係数も夏植えが比較的小さく春植え及び株出しでは大きかった。鹿児島では夏植えの地域間差異が小さかったが、沖縄では夏植えでも地域間差異が大きいのが特徴である。長期間の統計でも同様な傾向が認められ、沖縄地域のさとうきび栽培が地域の自然条件・管理状況等による生育環境の差異の影響を強く受けていること、春植えではそれが顕著であり、現状では春植えは少収かつ不安定な作型であることを示していた。

3.地域の課題
1) 沖縄本島北部
 沖縄本島北部はどの作型も比較的少収であるが甘蔗糖度は14.3%と比較的高い。長期間の統計では安定多収である。株出しが中心であり、春植え・株出しの栽培改善が課題である。
2) 伊平屋島
 伊平屋島は最近数年の収量低下が著しい。統計数値からは何れの栽培型も極少収であり抜本的な栽培改善が必要である。長期間の統計数値では比較的安定多収である。
3) 沖縄本島南部
 3作型共に沖縄県下最高である。鹿児島県を含む全体の中でも、夏植えは最も高く、株出しは種子島に次いで高い。長期間の統計数値でも安定高糖多収である。春植えの一層の改善が重要である。
4) 北大東島
 甘蔗糖度は高いが何れの栽培型も少収で、収量向上にむけた抜本的な栽培改善を必要としている。長期間の統計数値でも平均収量が県下で唯一4トン台と少収で不安定である。厳しい自然条件に適応性の高い栽培技術の導入が必要である。
5) 南大東島
 春植え、株出しの収量が低い。長期間の統計数値では、平均収量が北大東島より0.7トン程度高い。不良気象の回避に繋がる技術の導入が重要である。
6) 久米島
 何れの栽培型も少収である。春植え、株出しが特に少収である。長期間の統計数値では比較的多収であるが年次間の変動が大きい。蔗汁ブリックスと平均茎収量が有意な正の相関係数を持つ唯一の地域であることは、不良気象の影響が強いことを示唆している。気象害回避に繋がる春植え、株出しの栽培改善が生産性向上の鍵である。
7) 宮古島
 高糖度栽培が特徴である。かっての低糖度状況からはすっかり脱皮している。春植え及び株出しの収量の安定と向上、株出し面積の拡大が課題である。
8) 石垣島
 課題は宮古島と似ている。春植え・株出し収量の向上と株出し面積の拡大が課題である。
9) 与那国島
 3作型共に極少収で甘蔗糖度も低い。長期間の統計数値では、平均収量は南大東島と同程度であるが、夏植え中心であることを考慮すると極少収である。年次間の変動は南大東島より小さい。抜本的な栽培改善と気象災害の回避に繋がる技術の導入が必要である。

4.調査地域の栽培状況と高糖多収実現のための対策
2002年1月に調査した伊平屋島、久米島、北大東島、南大東島、与那国島の調査結果を第4〜8表に示した。

1) 伊平屋島
(1) 栽培の概況
 主要な品種は77%を占めるF177である。その他Ni9が14%程度栽培されている。夏植えが主流で78%、春植えは3%で少ない。株出しは約19%である。2001/2002年期の成績は、10アール当たり収量で夏植え4.2トン、春植え2.6トン、株出し2.5トンであり、何れの作型も極端に低い。平均甘蔗糖度は13.6%とやや低い。全圃場が大型ハーベスタによる収穫である。
(2) 生育の概況
 欠株が随所に見られるが沖永良部島ほどではない。茎の伸長は中以上だが、倒伏が激しく枯死茎、障害茎の発生が多く、原料茎数は少ない。少収は生育不良のみによってもたらされるものではなく、障害茎の多発の影響が大きいと思われる。もともと欠株の多い圃場において、茎の伸長・倒伏により障害茎が多発した場合に極少収になるのであろう。また、全量が中型ハーベスタによる収穫であり、徒長・倒伏・細茎化による収穫ロスも収量低下に輪をかける要因であろう。

第4表 伊平屋島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
圃場の属性 作型 仮茎長
(cm)
茎数 (本/a) 茎径
(mm)
節間長
(cm)
生葉数
(枚/本)
圃場BX
(%)
備考
収穫 原料 枯死
1. 低糖少収
2. 高糖少収
3. 低糖多収
4. 低糖多収
5. 高糖多収
6. 高糖多収
7. 高糖多収







181
152
274
280
207
203
272
753
807
810
1152
723
806
823
728
551
569
955
625
750
742
7
256
241
197
98
56
81
21
24
24
25
21
22
22
11.1
7.8
8.9
12.3
12.2
12.5
10.9
4.0
2.5
5.3
4.6
2.0
4.2
4.0
18.1
21.7
17.9
21.3
18.4
17.2
17.7
NiF8、135cm伸極不、数並、ヤヤ細茎、BX並
F177、130cm、伸極不、数極少、(枯死多)、中茎、高BX
F161、140cm、伸並、数極少、(枯死多)、中茎、ヤヤ低BX
Ni9、110cm、伸並、数少、中太茎、高BX
   136cm、伸不、数多、(枯死多)、ヤヤ細茎、BX並
Ni9、120cm、伸不、数並、中細茎、ヤヤ低BX
Ni9/F161、124cm、伸並、数並、中細茎、ヤヤ低BX
島平均
変動係数 (%)
  224
22.8
837
17.3
703
19.7
134
72.6
22.7
7.1
10.8
16.8
3.8
30.5
18.8
8.7
 

(3) 低生産性の要因と当面の改善策
 欠株の発生による茎数確保の失敗と乱倒伏による障害茎・枯死茎の多発生が少収・低糖度の大きな要因であると思われる。発芽不良は排水不良と台風時の大雨による畦の崩壊による過覆土に、乱倒伏は浅植え・過分げつ・不良な培土(株中に土壌が投入されない)によると思われることから、植え付け深度・根域の確保と発芽の促進を同時に実現することが伊平屋島における栽培改善の最大の課題である。
 深耕による圃場の水分環境改良、作畦の工夫による深溝栽培の確立、大雨の回避・出芽の促進に有効な植え付け時期の分散に対応しうる優良種苗生産態勢の構築、さらに、基肥の実施、中耕・培土の早期化等が有効である。初期管理の改善による適切な茎数管理と立毛支持力の改良、減肥による伸長の抑制・倒伏抑制による受光態勢の維持や枯死茎発生の最小化により、収量向上と糖度改善を一挙に実現することが可能であろう。また、RK91-1004のような耐倒伏性の優れた株出し多収系統の利用も有効であろう。生産者の生産意欲は旺盛で技術水準も低くはないため、技術投入の効果は大きいと思われる。
(4) 中・長期的対策
 大雨による発芽不良やその回避のための植え付けの遅れ防ぐためには植え付け期間の大幅な拡張が必要である。低温条件下での発芽の優れる品種、収穫早期化を可能にする夏植え型1年栽培の導入、健全種苗の生産・配布態勢の構築等についての検討を早期に始めることが重要である。
写真


2) 北大東島
〈1〉 栽培の概況
 主要品種はNi9(55%)とF161(32%)である。北大東島は長い間F161が寡占してきたが、台風・干ばつに比較的強く株出し能力も高いNi9が育成され、この数年の間に急速に普及して収量の向上と安定に貢献した。現在は黒穂病の発生が問題である。
 台風・干ばつの厳しい地域であるが夏植えは少なく6%、春植えが20%、株出しが約74%、ハリガネムシの被害がないこともあって多回株出しを特徴としている。2001/2002年期の成績は、10アール当たり収量で夏植え5.4トン、春植え4.0トン、株出し4.1トンであり、何れの作型も少収である。夏植えも他地区の春植えと同程度の収量であり、夏植えの有利性が発揮されていない(より厳しいところに栽培されている可能性も考えられる)。平均甘蔗糖度は15.4%と高い。大型ハーベスタによる収穫が前提であるため、畦幅は150cm〜160cmと他の地区と比べて広い。
 気象変動の影響を直接受ける生産不安定地域である。特に幕上と呼ばれる島の周縁部は、耕土深が浅く、潮風害をまともに受けるためその傾向が強い。一戸当たりの栽培面積が広いのが特徴であり、干ばつ・台風の多発で生産者の意欲低下が危惧されたが、基本的には生産意欲は旺盛で肥培管理の状況も比較的良好であった。
〈2〉 生育の概況
 北大東島のさとうきびはおしなべて伸長不良である、春植えではその傾向が顕著である。欠株は比較的少なく、畦幅が広いにもかかわらず茎数はやや多かった。茎はやや細く、ブリックスは何れの圃場でも高い。倒伏した茎でも高いのは茎が短いためであると考えられる。
 幕上と呼ばれる島の周縁地域においては灌水しない場合は生育が極不良である。茎は伸長不良で細く、Ni9でもその傾向は免れ得ない。春植えは特に短く、欠株が中程度以上ある圃場では極少収になることが必至である。中耕後に畦間の深土を砕き土壌の透水性と根系の発達を促すことによって生育を促進する試みが一部の生産者の間で進められている。
 幕下と呼ばれる島の内部低地では生育が比較的良好である。特に幕元と呼ばれる周縁台地直下の低地では生育旺盛であることが多い。このような圃場では倒伏も少なく、高糖多収になる例が多い。どの地域でも点滴灌漑は極めて効果的である。また、夏植えの圃場は比較的立毛が豊かである。

第5表 北大東島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
圃場の属性 作型 仮茎長
(cm)
茎数 (本/a) 茎径
(mm)
節間長
(cm)
生葉数
(枚/本)
圃場BX
(%)
備考
収穫 原料 枯死
1. 少収
2. 少収
3. 少収
3株
3株

210
161
148
940
832
932
809
790
878
131
42
54
21
20
24
11.6
10.8
10.1
4.7
4.3
4.8
20.8
18.6
22.1
Ni9/Ni6、140cm、幕下、点滴、低培土、伸不ヤ節間短、数ヤ多、ヤ細茎、高BX、枯死多、少収
ハテルマ (Ni9)、160cm、幕上、点滴無、中低培土、伸極不、数並、細茎、BX並、極少収
F161、145cm、伸極不、数ヤヤ多、中茎、極高BX、枯死ヤヤ多
4. 多収
5. 多収
4株
3株
165
204
1021
955
969
929
52
26
20
21
16.9
13.1
7.4
4.9
20.9
19.5
Ni9、150cm、幕下、点滴無、深溝/管良、群良、伸極不、数多、細茎、高BX、枯死ヤ多、中収
Ni9、150cm、幕上、中培土、伸不、数ヤ多、ヤ細茎、ヤ高BX、根浮倒伏、生葉少、少収
6. 少収
7. 少収
8. 少収
9. 少収
10. 少収





200
171
155
154
167
952
977
655
1066
966
857
914
644
1039
927
95
63
11
27
39
19
22
24
21
21
13.7
12.3
13.1
17.9
16.7
6.3
5.7
8.1
6.0
7.5
22.1
20.4
22.2
21.7
21.1
Ni9、140cm、幕上、点滴無、伸不、数ヤ多、細茎、極高BX、枯死多、黒穂多、極少収
Ni9、150cm、伸極不、数ヤヤ多、中細茎、高BX、枯死ヤヤ多
F161、150cm、伸極不、数少、中茎、極高BX
F161、150cm、伸極不、数多、ヤヤ細茎、高BX
Ni9、150cm、幕上東、点滴無、平培土ヤ不良、伸極不、数ヤ多、ヤ細茎、高BX、黒穂多、少収
11. 多収
12. 多収
13. 多収
14. 多収
15. 多収
16. 多収






211
200
180
168
158
197
832
904
921
777
1043
1043
801
821
910
766
1029
1043
31
83
11
11
14
0
21
21
23
25
23
25
7.7
12.7
14.8
15.6
12.3
13.6
8.1
5.2
6.2
6.5
5.3
8.3
20.3
21.5
22.1
22.2
23.0
22.6
Ni9、160cm、幕下、点滴、深溝低培土、群良、伸ヤ不、数並、ヤ細茎、高BX、中収
F161、140cm、幕下、ヤ低培土、畦間砕土、伸不、数ヤ多、ヤ細茎、高BX、枯死多、ヤ多収
Ni9、150cm、伸極不、数ヤヤ多、中細茎、極高BX
F161、150cm、伸極不、数ヤヤ少、中茎、極高BX
Ni9、150cm、伸極不、数多、中細茎、極高BX
Ni9、150cm、伸不、数多、中茎、極高BX
17. 多収

232
1143
1127
16
22
16.3
5.8
21.7
Ni11、150cm、伸ヤヤ不、数極多、中細茎、高BX
島平均
変動係数 (%)
  181
13.8
939
12.5
897
13.6
42
84.7
21.9
8.2
14.1
17.0
6.2
21.0
21.3
5.6
 

〈3〉 当面の改善
 幕下であることと点滴灌漑の実施が多収の要点である。土壌の透水性を高めるための深耕の実施も多収の要点である。畦間のサブソイルを実行した結果生育が改善した圃場もある。
 幕上ではまず茎の伸長に過度な期待をせず、茎数を増やすのが効果的である。そのための第一は畦間方向への栽植位置の拡大である。最良の方法は畦幅の縮小であるが、大型ハーベスタの許容範囲があるため、2、3条植をも視野に入れた新しい作付けの工夫が必要である。また、少しでも伸長を良くするためには、夏植え型の栽培が有効であるので、夏植え型の早期収穫栽培を導入することが効果的であると考えられる。現在一部生産者の間で試みられている中耕時に行われる畦間の心土破砕も検討の価値が高い。
 幕下あるいは点滴灌漑を実施する圃場における栽培改善の要点は、欠株の抑制による茎数の確保と、伸長の一層の促進である。多回株出しが前提であるため、深溝、低い培土による発芽・分げつ・伸長の促進が求められる。地力改良の他、出来る限りの深耕、さらには株上がりのし難い品種の利用が有効である。その1つであるNi9に黒穂病が多発しているため、株出しの栽培改善の1つは黒穂病防除の徹底(すなわち、罹病株の抜き取りと健全種苗の配布態勢の強化)である。
 平成13年度に沖縄北部向けの新品種候補となったKR91-138はNi9と比べ黒穂病に強く、適応性の検討を進める意味が大きい。経営規模が比較的大きいため、生産意欲は高くても初期管理の十全な実施には困難が伴うと思われる。その際にまず有効なのは、発芽の良い品種の採用と良質種苗の多量投入である。出芽・初期分げつの促進には基肥の施用は不可欠である。大規模経営という観点からは省力的な施肥法としての緩効性肥料の同時施肥も試みられてしかるべきであろう。
〈4〉 中・長期的対策
 灌水施設がない圃場では、夏植え型1年栽培の推進が有効である。特に幕上の圃場では有効であろう。春植えとの均衡を考慮した場合、幕下圃場及び灌水可能圃場を春植え、他は夏植えにするのが有効である。夏植えは出来る限り早期型高糖性を具えた品種を用い、株出し栽培の台風・干ばつ抵抗性が高まる秋季収穫型栽培体系の導入が有効であろう。
写真
北大東島・幕外圃場F161
写真
北大東島・幕元圃場Ni9の春 (3月) 植え
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3) 南大東島
〈1〉 栽培の概況
 主要品種はF161で全圃場の86%を占める。北大東島に多いNi9は少なく、干ばつに比較的強く多収性を特徴とするNi11が約7%普及している。北大東島と同様、台風・干ばつの厳しい地域であるが夏植えは13%、春植えが20%、株出しが約67%である。ハリガネムシの防除に努めながら多回株出しを実施しているが収量は少ない。2001/2002年期の成績は、10アール当たり収量で夏植え7.1トン、春植え4.6トン、株出し4.6トンである。春植え、株出しは少収であるが北大東島よりは多収である。北大東島と比べ、幕下の面積が大きく、夏植えの割合が高く、他の作型に比べ夏植えが多収であるのが特徴である。平均甘蔗糖度は15.0%と高い。大型ハーベスタによる収穫が前提であることや、台風・干ばつの常襲地域であること等さとうきび栽培の環境は基本的には北大東島に似ている。
〈2〉 生育の概況
 南大東島のさとうきびもおしなべて伸長不良であるが、北大東島よりも伸長は良好である。欠株は比較的少なく、畦幅が広いにもかかわらず茎数は中程度である。茎は中〜細程度である。ブリックスは何れの圃場も高い。
 水供給の良い幕元、幕下には多収圃場も見られるが、平均的には中収である。欠株はあるが多くはない、分げつは中程度で、培土は高く株中にも土が入っており、茎も比較的太く長い。生葉も多く多収であると思われる圃場も多い。株出し回数の多い圃場では、株上がりが進行し、茎の長さの割に倒伏が激しく、茎も細い。根腐病の多発圃場も認められる。幕上で点滴灌漑がない場合には少収である。茎は伸長不良で細い。春植えは特に短く、欠株が中程度以上ある圃場では極少収になることが必至である。幕上、幕元、幕下の生育状況は基本的に北大東島と似ている。

第6表 南大東島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
圃場の属性 作型 仮茎長
(cm)
茎数 (本/a) 茎径
(mm)
節間長
(cm)
生葉数
(枚/本)
圃場BX
(%)
備考
収穫 原料 枯死
1. 少収
2. 少収
3. 少収
4. 少収
2株
5株
2株
2株
149
198
163
180
955
1077
822
833
904
1037
682
777
51
40
140
56
20
19
22
21
10.1
12.2
12.6
12.0
6.1
5.5
6.4
4.9
22.5
19.7
22.3
21.3
F161、150cm、幕上、点滴無、中高培土、伸極不、数ヤ多、細茎、極高BX、土硬化、雑草多、極少収
F161 (Ni6)、150cm、幕上、防風林下、無培土、べた倒、伸不、数多、細茎、ヤ高BX、地力高、少収
F161、160cm、幕上、点滴無、低培土、伸極不、数並、中細茎、極高BX、枯死(立枯)多、雑草多、極少収
F161、150cm、幕上北、点滴無、低培土、不良、伸極不、数並、ヤ細茎、高BX、株上り、少収
5. 多収
6. 多収
7. 多収
8. 多収
2株
2株
2株
1株
249
222
200
272
1132
611
952
1021
934
600
845
928
198
11
107
93
20
26
18
24
15.3
12.9
13.7
15.6
5.8
7.3
6.3
5.6
20.5
21.0
22.1
22.1
F161、150cm、幕上、点滴、培土無、伸並、数多、細茎、高BX、べた倒、枯死多、ヤ多収
F161、150cm、幕元、点滴無、培土中、良、伸ヤ不、数少(培土早)、中太茎、高BX、雑草ヤ多、中収
F161、140cm、幕元、ヤ高培土、良、伸不、数ヤ多、枯死多、極細茎、極高BX、群良、多収
F161、150cm、幕下、浅溝、高培土、伸ヤ良、数多、中茎、極高BX、倒伏多、枯死多、ヤ多収
9. 少収
10. 少収
11. 少収
12. 少収




211
152
214
231
932
737
657
946
701
676
657
886
231
61
0
60
23
22
25
24
11.8
11.3
12.3
14.0
4.8
5.9
6.3
4.9
19.4
21.4
21.5
22.3
F161、150cm、伸ヤヤ不、数ヤヤ多、中細茎、ヤヤ高BX、枯死極多
F161、165cm、伸極不、数ヤヤ少、中細茎、高BX、枯死ヤヤ多
F161、165cm、伸ヤヤ不、数少、中茎、高BX
F161、160cm、伸ヤヤ不、数ヤヤ多、中茎、極高BX、枯死ヤヤ多
13. 多収
14. 多収
15. 多収
16. 多収




282
214
171
182
899
811
811
788
877
738
769
788
22
73
42
0
24
23
23
23
14.3
14.4
11.3
10.4
6.4
6.1
5.5
6.5
20.1
21.1
20.6
21.0
F161、150cm、伸ヤヤ良、数並、中茎、高BX
F161、160cm、伸ヤヤ不、数ヤヤ多、中細茎、高BX、枯死ヤヤ多
F161、160cm、伸極不、数並、中細茎、高BX
F161、150cm、伸不、数ヤヤ少、中細茎、高BX
17. 多収

309
774
726
48
24
13.2
6.8
18.9
F161、140cm、伸良、数ヤヤ少、中茎、BX並
18. 多収

253
943
834
109
20
13.1
7.0
20.0
F161、145cm、伸並、数ヤヤ多、細茎、高BX、枯死多
島平均
変動係数 (%)
  214
21.3
872
15.7
798
14.5
75
85.3
22.3
9.9
12.8
12.5
6.0
11.7
21.0
5.2
 

〈3〉 当面の改善
 この島も北大東島と同様、厳しい自然環境に生産性が規制される島である。個々の圃場に対する改善策も基本的に北大東島に準ずるはずである。すなわち、幕上の極少収圃場では伸長不良を補う茎数の確保、すなわち畦間方向への分布の拡大と、欠株の最小化のための発芽力の強い良質種苗の多投入が有効である。夏植えにより茎伸長を促進することも有効であろう。
 夏植えの場合には覆土をやや厚めにして発芽後の乾燥による枯死を予防することも重要である。蔗苗根発生の多い品種の登用も検討の価値があろう。幕下における株出し収量の維持には株上がりの抑制が重要であり、深溝栽培の実施と、茎数型の栽培を前提とした高培土の抑制、培土時期を早期化することによる株中への着実な土壌の投入が有効である。KR91-138のような株出し多収性系統の導入も検討が必要である。
〈4〉 中・長期的対策
 南大東島の少収は、広畦(茎数少)・浅溝(伸長不良)によるところが大きい。干ばつ常襲の同地域では、多収実現にまず求められるのは茎数の確保と気象災害への抵抗力の獲得である。具体的には、畦幅の縮小による栽植密度の向上・茎数の確保と夏植え型1年栽培の導入による気象災害の最小化である。畦幅の縮小にはハーベスタの小型化が必要であり、そのためには収穫期間の拡張が必要である。根系の優れる株出し多収性品種の選定も緊急の課題である。
写真
南大東村幕内点滴灌漑見本園
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4) 久米島における現地診断
〈1〉 栽培の概況
 F177が主導品種で普及割合は74%、Ni9も20%程度普及している。夏植えが27%、春植えが16%、株出しは約60%である。2001/2002年期の成績は、10アール当たり収量で夏植え6.9トン、春植え4.3トン、株出し5.0トンと、何れの作型も少収であるが、春植え、株出しは特に少収で南大東島と同程度である。久米島は台風の通り道であり、この数年はその被害が顕著である。圃場の位置によって生育の差が大きく、具志川村では干ばつが問題であり、仲里村では過湿が問題である。今季は仲里村側が比較的多収であった。長期間の統計では石垣島や宮古島より3作型共に安定多収であり、この数年の不作は、不良気象の頻発と、気象の変化に対応し得ていない栽培技術の限界を示すものと考えられる。
〈2〉 生育の概況
 全体的には欠株が少なく発生茎数は多いが、台風の影響で枯死茎が多く原料茎数が少ないのが特徴である。伸長はやや不良な程度で、枯死茎の発生が無ければ中程度の収量になると思われる。株中への土壌の投入は少なく、倒伏で根が浮き枯死に至る茎が数多く認められる。台風による倒伏や生葉の損傷でブリックスはほとんどの圃場で低かったが、高ブリックス圃場も認められた。
 少収圃場は欠株が多いために茎数が少なかった。伸長良好な圃場も多く見られ基本的には多収になりうる素地が大きい。
 多収圃場では濃密な管理、高培土の実施で良好な伸長を保っているが、倒伏が激しく、野鼠害等の発生が多い。

第7表 久米島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
圃場の属性 作型 仮茎長
(cm)
茎数 (本/a) 茎径
(mm)
節間長
(cm)
生葉数
(枚/本)
圃場BX
(%)
備考
収穫 原料 枯死
1. 少収
2. 少収
3. 少収
4. 少収




230
192
185
228
1045
1024
961
1148
954
992
860
1121
91
32
101
27
19
22
22
21
14.5
11.9
12.9
11.8
3.8
5.2
5.2
4.8
16.8
14.8
18.9
15.1
Ni9、110cm、伸ヤヤ不、数多、細茎、低BX、ヤヤ枯死多
F177、130cm、伸不、数多、中細茎、極低BX
Ni9、125cm、伸不、数ヤヤ多、中細茎、BX並、枯死多
F177、125cm、伸ヤヤ不、数多、ヤヤ細茎、極低BX
5. 多収
6. 多収
7. 多収


3株
315
256
207
643
848
806
572
792
755
71
56
51
71
56
51
23
23
22
14.2
13.9
13.3
15.0
15.9
13.8
F177、140cm、伸極良、数少、中細茎、極低BX、枯死ヤヤ多
F177、120cm、伸並、数並、中細茎、極低BX
F177、130cm、西北斜面、風折多、培土低、伸不、数並、中細茎、極低BX
8. 少収
9. 少収
10. 少収
11. 少収
12. 少収
13. 少収






211
241
235
212
142
229
1024
733
1029
768
1073
922
973
700
1029
755
998
871
51
33
0
13
75
51
22
23
22
24
22
23
13.4
14.0
15.0
15.6
12.5
13.4
5.3
3.2
4.8
4.4
2.5
4.1
19.1
16.4
17.9
17.3
14.5
14.4
Ni9、130cm、伸ヤヤ不、数多、中細茎、BX並、枯死ヤヤ多
F177、150cm、伸並、数ヤヤ少、中細茎、低BX
Ni9、120cm、伸ヤヤ不、数多、中細茎、ヤヤ低BX
Ni9、130cm、伸ヤヤ不、数ヤヤ少、中茎、ヤヤ低BX
F177、115cm、伸極不、数多、中細茎、極低BX、枯死ヤヤ多
Ni9、130cm、伸ヤヤ不、数ヤヤ多、中細茎、極低BX
14. 多収
15. 多収
16. 多収



263
274
260
940
965
987
921
912
908
19
53
79
24
22
22
10.3
12.6
13.7
4.4
4.6
6.0
15.9
19.8
20.8
NiTn10、140cm、伸並、数ヤヤ多、中茎、極低BX
Ni9、95cm、伸ヤヤ良、数ヤヤ多、中細茎、ヤヤ高BX
F177、120cm、伸並、数ヤヤ多、中細茎、高BX
島平均
変動係数 (%)
  230
17.5
932
14.7
882
15.8
50
56.8
22.3
5.4
13.3
9.8
4.5
20.0
16.7
12.6
 

〈3〉 当面の改善の要点
 新植における欠株の最小化が最重要事項である。欠株の最小化は株出し栽培の改善にも有効である。茎の伸長は概して良好なためこれ以上の特別な管理は不要である。多回株出しを前提にした株出し栽培の改善、安定高糖度の実現には、茎数の確保による収量の維持と茎伸長の抑制を通した受光態勢の改良が必要であろう。具体的には、発芽の優れた品種の良質種苗の多投入、深溝・浅覆土、減肥と低い培土を一体化することが重要である。
 台風対策には、収穫期間調整が有効であると思われる。Ni9の圃場は黒穂病が発生しており、黒穂病の防除対策が必要である。黒穂病防除対策が伴えば、耐倒伏性の株出し多収性系統RK91-1004の有効性が一層高まるであろう。
〈4〉 中・長期的対策
 台風常襲地域であるため、夏植え型1年栽培による台風への抵抗力の高い栽培型の普及が必要である。生葉の障害には回復期間を確保するための収穫期間調整が有効である。防風林の早期仕立てが重要なことはいうまでもない。


5) 与那国島における現地診断
〈1〉 栽培の概況
 品種はNi9で普及割合は80%、次いでNiTn10で約12%である。台風が頻繁に来襲する地域であるため大部分は夏植えで82%、春植えは少なく2%、株出しは約17%である。2001/2002年期の成績は、10アール当たり収量で夏植え5.0トン、春植え2.2トン、株出し3.3トンと、何れの作型も極端な少収である。甘蔗糖度も低い。町の積極的な支援もあり生産意欲は旺盛であると思われる。
〈2〉 生育の概況
 与那国島は少収圃場と多収圃場の差異が大きい。夏植えのため、伸長は良好で比較的安定している。高培土が実施されているが何れの圃場も乱倒伏が激しい。植付け後の畦山崩壊による過覆土の影響が大きいといわれる発芽不良による欠株が多く、初期管理の遅れによる分げつの不足から茎数は少ない。雑草の繁茂は多い。発芽・初期生育を維持できれば多収になる圃場が多いと思われる。茎の太さは中〜細である。ブリックスは中程度である。
 少収圃場は2つの類型が認められる。第一は、伸長は並であるが欠株が多いために茎数が少ない事例であり、他方は、欠株が中〜多で、地力が低く、分げつが少なく伸長も不足しているために極少収になっている例である。
 多収圃場では欠株が少なく、茎の伸長が良好である。しかし、倒伏が大きく受光態勢が悪いため、糖度は低い。地力が高く水分も多いために雑草の繁茂は大きい。収量が中位以上の圃場は、いずれも培土が高い。株出しを考えた場合には過剰な高さの培土である。

第8表 与那国島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
圃場の属性 作型 仮茎長
(cm)
原料茎数
(本/a)
茎径
(mm)
節間長
(cm)
生葉数
(枚/本)
圃場BX
(%)
備考
1. 少収
2. 少収


222
279
500
881
23
21
11.5
11.3
4.3
4.3
19.3
18.7
Ni9、伸ヤヤ不、数極少、中細茎、BX並
Ni9、伸ヤヤ良、数並、ヤヤ細茎、BX並
3. 少収
4. 少収
5. 少収
6. 少収




230
313
291
364
797
655
666
536
22
23
22
22
11.6
12.7
11.6
12.1
3.8
6.1
3.9
4.9
19.5
18.7
18.1
17.6
Ni9、伸ヤヤ不、数ヤヤ少、ヤヤ細茎、ヤヤ高BX
Ni9、伸極良、数少、中細茎、BX並
Ni9、伸ヤヤ良、数少、ヤヤ細茎、BX並
Ni9、伸極良、数極少、ヤヤ細茎、ヤヤ低BX
島平均
変動係数 (%)
  283
18.7
673
21.8
22.2
3.6
11.8
4.2
4.6
17.4
18.7
3.7
 

〈3〉 当面の改善の要点
 最も重要な事項は欠株の最小化である。与那国島の欠株の特徴は大きな欠株ではなく小さな欠株が散在している点である。このことは、良質種苗の多投入が有効であることを示唆する。多湿圃場では作畦用リッジャーを改良し、排水溝の付随した深畦を適用することも重要である。概して覆土量が多いため、深溝・浅植えの実行を可能にする機械の普及を図ることも有効である。また、初期管理の遅れが目立つ圃場も見られる。初期管理の実施による分げつ促進・茎数の確保も有効である。水分条件の良い圃場では移植苗栽培の利用も有効であろう。高培土・茎伸長に頼りすぎないよう、茎数を増やして茎長の抑制を図り受光態勢を改良して茎径の改良・倒伏の抑制を図ることが重要である。
 一部には茎の伸長が不良な圃場も見られた、そのような圃場は深耕・堆肥投入等の土作りを行う一方、当面は、茎の伸長に頼らず一定の収量を得る方法、すなわち、ここでも欠株の最小化と分げつ促進による茎数の確保が重要である。具体的には、基肥の実施、良質苗の多量投入、浅い覆土、中耕・培土の早期実施が有効であろう。倒伏による受光態勢の悪化は低糖度の重要な要因であるるため、根系の確保と伸びすぎ防止の双方が必要である。具体的には、深溝・浅覆土・適期培土・減肥料等の実行が有効であろう。
〈4〉 中・長期的対策
 今後、根系の深い耐倒伏性の含蜜糖原料用品種の育成が必要である。その意味では、RK91-1004、Ni15等の試作と適応性の検討が必要である。また、痩せ地圃場への深耕・堆肥投入による地力改良も急がれるところである。

写真
与那国島Ni9夏植え
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 昨年12月下旬から本年1月にかけて、低生産性に苦しむ地域を対象に、立毛調査と管理実態の聞き取り調査を実施した。既存品種及び既存技術の効果的な適用についての具体的提案を行おうとしたものである。
 調査は現地に駐在する関係者が問題圃場として選定した対象圃場のさとうきびの個体群を対象に、現地の技術者を中心に1本1本を対象にして実施された。取得された数値の詳細については現在なお解析中である。出来る限り地域毎に解析を加え、学会での公表、すなわち学問的な評価を経て対策として提案する予定である。提案する対策は診断の対象とした現地で報告するほか、地域を管轄する県農試支場、普及センターが行う栽培指導の資料として活用する予定である。各地域の安定多収の実現に向け実行し易い対策が提案されていれば幸いである。


「今月の視点」 
2002年9月 
アメリカ砂糖協会の活動紹介
 糖業協会 理事 橋本 仁

琉球弧の少収地域、低糖度地域におけるさとうきびの栽培改善
〜沖縄県下の島々〜

 九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部 さとうきび育種研究室長 杉本 明


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