[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 視点 > 社会 > モーリシャスの糖業概況とサトウキビ研究

モーリシャスの糖業概況とサトウキビ研究

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2003年12月]


国際農林水産業研究センター 沖縄支所  松岡 誠
九州沖縄農業研究センター さとうきび育種研究室  杉本 明

はじめに
モーリシャスの地勢と歴史
モーリシャスの製糖概況
モーリシャス糖業研究所
雑感

はじめに

 2003年5月10日から13日まで、インド洋に浮かぶ小さな島国モーリシャスに滞在する機会を得た。南アフリカのダーバンで開催された国際サトウキビ技術者会議の育種・遺伝資源ワークショップに参加し、その帰途に立ち寄ったものである。美しい海、サンゴ礁、また自然豊かな山岳と峡谷をもつこの島は「インド洋の貴婦人」ともよばれ、欧米諸国、日本からも多くの観光客が訪れている。また、この島にはもう一つ別の「糖衣をまとったインド洋の真珠」という呼称もある。その名前の示す通り、近代には砂糖産業で発展した島でもある。しかし、我が国においては、距離的に遠いということもあり、モーリシャスの糖業およびサトウキビに関する情報は極めて少ないのが現状である。そこで、モーリシャスの糖業とサトウキビ研究の概況について紹介したい。
ページのトップへ

モーリシャスの地勢と歴史:

写真1
写真1. サトウキビ畑と山
手前のサトウキビ畑には大きな石がゴロゴロしている。
 モーリシャスはインド洋に浮かぶ小さな島国で、東経57°35分、南緯19°68分と20°15分の間、南回帰線のすぐ上に位置し、アフリカ大陸南東岸からはおよそ2,400km離れている。火山活動によって生じた島で、南部海岸の一部を除き、珊瑚礁によって島の回りは囲まれている。面積は約1,865 km(沖縄本島の面積は1,201km2、沖縄県全体では2,271km2)で、島の中央部には海抜400mほどの高原が広がり、あちらこちらに急峻な山が点在している(写真1)。南部山岳部にある最も高い山の標高は828mである。熱帯性気候で暑く湿度の高い夏(5月〜10月)と、暖かく比較的乾燥した冬(11月〜4月)の二つの季節に分けられる。夏の平均気温は海岸地帯で28℃、中央高原で23℃、冬の平均気温は海岸部で22℃、中央高原で17℃程度である。最も暑いのは2月で、最も涼しい月は7月、1から3月にかけて雨が多い。夏期には熱帯性の暴風雨、サイクロンに見舞われることもある。
 モーリシャス島に最初のヨーロッパの植民が行われたのは16世紀末で、オランダ人が入植した。しかし18世紀初頭には島を去り、その後、ほどなくフランスが入り、本格的に植民地化を開始した。19世紀初頭にイギリスに占領されるが、フランス人入植者の多くはそのまま島にとどまり、独自の言語と文化を守り続けた。その後、19世紀中頃になると、製糖産業が栄え、サトウキビ農場の労働者として多くのインド人が連れてこられ、定住するようになった。独立は1968年で、1992年に現在の共和国体制に移行した。人口は約120万人で、人種構成はインド系が68%、クレオール(混血)が27%、3%が中国系、2%がフランス系である。公用語は英語であるが、クレオール、フランス語もよく用いられ、また、それぞれの人種内では、ヒンディー、中国語も話されている。労働者人口54万人のうち、職業構成は公務員とその関連業種が29%を占め、農林漁業が25%、製造業が24%、その他22%となっている。かつてこの国の輸出額のほとんどは砂糖によって占められていたが、近年の繊維産業など製造業の発展もあって、現在、砂糖は輸出総額の25%を占めるに過ぎない。
ページのトップへ

モーリシャスの製糖概況:

 モーリシャスにおいて最初に製糖が開始されたのは1696年である。そして19世紀にはいると製糖産業は一段と盛んになり、1862年には年間の産糖量は15万トン、サトウキビ栽培面積は5万2千ヘクタールとなった。現在、モーリシャスのサトウキビ栽培面積は約7万3千ヘクタール、年間の粗糖生産高は約60万トンである(表1)。モーリシャスには、現在14の製糖工場があり、1日の圧搾能力は全工場平均で約3,300トン(一番小さいところは1,500トン、大きいところは6,000トン)、製糖期は通常6月から11月一杯である(2001年には6月13日に始まり、12月7日に終了した、操業日数178日)。今回、島の西海岸、フリッカン・フラック近郊にあるMedine製糖工場を訪れることができたが、残念ながら今期の操業は始まっていなかった(写真2)。14の製糖工場はそれぞれ自分の農場を持っている大規模生産者でもある(写真3、4)。最も栽培面積の大きい工場では、搬入される原料の89%を自農場のサトウキビで賄い、最も栽培面積の小さい工場でも11%の原料を自ら生産している。
 サトウキビ農家はモーリシャスでは大きく3つに区分されている。栽培面積650ヘクタール以上の大規模農場(工場、会社形態のものを含む)、大、および中規模農家(栽培面積は42ヘクタール以上が大、10〜42ヘクタールが中)、そして栽培面積10ヘクタール以下の小規模農家である。それぞれの戸数を見ると、大規模農場が16戸(全栽培面積の50%)、大および中規模農家が187戸(18%)、小規模農家が30,318戸(全栽培面積の32%)である。
 モーリシャスでは通常新植後2〜3回程度の株出し栽培が行われている。2001年製糖期の全島平均の単収は79トン/ヘクタールであった。このうち大規模農場の平均は86トン/ヘクタールと高く、その他の農家は68トン/ヘクタールと農家の規模によって単収には大きな差が見られる。可製糖率の全島平均は11.15%、甘蔗糖度は12.56%、繊維分は14.57%であった。可製糖率、甘蔗糖度についていえば平年の沖縄よりも低い値であるが、単位面積あたりの収量平均は沖縄より高い(写真5)。

表1 モーリシャスのサトウキビ・砂糖の生産実績(2000, 2001年度)
表1
Mauritious Sugar Industry Research Institute, Annual Report 2001より抜粋。
写真2
写真2. Medine製糖工場の建物とヤード
写真3
写真3. Medine製糖工場の車両置き場
オーストラリア製のハーベスターがあった。
写真4
写真4. 製糖工場の農場
巨大なセンターピポットで灌水している。
写真5
写真5. 中規模農家のサトウキビ畑

 気候と土壌の違いから、モーリシャスのサトウキビ栽培地帯は以下の5つの区域に分けられる(図1参照)。
図1
北部地域 : 島の最北部、低い丘陵地帯で標高は175m以下、概ね湿潤で年平均降水量は1,400mm(1,000〜1,900mmの範囲)、平均気温は1月が26.5℃で7月が20.5℃。
東部地域 : 島の東岸から中央部にかけての比較的平坦な地域で標高は350m以下、湿潤で年平均降水量は2,400mm(1,500〜3,200mmの範囲)、平均気温は1月が25.5℃で7月が19.5℃。
南部地域 : 島の南岸地域で、標高は350m以下でなだらか、湿潤で年平均降水量は2,300mm(1,500〜3,200mmの範囲)、平均気温は1月が25.5℃で7月が19.0℃。
西部地域 : 島の西海岸で海岸から標高275mまでなだらかな平地が続く、やや乾燥しており、年平均降水量は1,100mm(750〜1,500mmの範囲)、平均気温は1月が27℃で7月が21℃。
中部地域 : 起伏に富んだ高原で標高は275〜500m、年平均降水量は2,600mm(1500〜3,800mmの範囲)で湿潤である。平均気温は1月が23.5℃で7月が17.5℃と他地域より低い。
 モーリシャスでは、ここに示したそれぞれの地域向けに品種の育成、普及が行われていた。
 現在、モーリシャスは生産コスト削減のために、機械化に向けた取り組みに力を入れている。特にモーリシャスの多くの圃場では、大きな石がたくさん散乱しており、それが機械化の妨げになっているということだった。事実、著者らも島のあちらこちらで大きな石を集めて除去している光景を目にした(写真4)。ハーベスターについてみると、2001年の製糖期には全部で30台が稼働し、全収穫面積の14.6%が機械収穫、残りが人力による収穫であった。ハーベスターによって収穫されたサトウキビの56%は収穫に先立ち「火入れ」を行ったものである。モーリシャスでは全収穫面積の25%で火入れ収穫が行われているということで、普及部門などではパンフレットなどを配布し、火入れをしないよう農家に対して啓蒙活動を行っていた。
ページのトップへ

モーリシャス糖業研究所

写真6
写真6. MSIRIの交配温室
写真手前は育種部門の責任者、
K. Ramdoyal氏。
氏はISSCT育種・遺伝資源分科会の
代表委員でもある。
 モーリシャス糖業研究所(Mauritious Sugar Industry Research Institute、MSIRI)は製糖産業の発展を試験研究によって技術的な側面から支援することを目的に設立され、サトウキビの栽培から製糖まで、その全般にわたって試験研究を行っている。本部が島の中部地域レデュイにあり、北部地域、中部地域、南部地域にそれぞれ支場をもっている。現在、研究職員と技術職員を合わせた職員数は150名、その他に180名の支援業務を行うスタッフを抱えている。モーリシャスでは1893年に小規模なサトウキビの試験研究が始まった。そして1930年には正式な政府機関としてサトウキビ研究所が設立された。1953年には形態を改め、政府機関としてではなく、製糖産業界が独自に出資して運営する試験研究機関としてモーリシャス糖業研究所が設立された。研究所の予算(1998年度は約750万USドル)のほとんどは製糖産業により得られた利益により賄われ、ごく一部、政府予算からの収入もある。
 組織は所長以下大きく4つの部、作物生産、生物、農業工学、資源管理に区分されている。今回の訪問では、このうち生物部のバイオテクノロジー、サトウキビ育種、病害の3研究室と、作物生産部の化学研究室、資源管理部の普及科を中心に視察した。
 バイオテクノロジー研究室では、組織培養技術を用いた種苗の大量増殖に関する研究を行うと同時に、新品種の種苗増殖においては、この技術を実用化して使っていた。この他、葉片赤班病抵抗性遺伝子にリンクするAFLP (AFLP法は制限酵素で断片化したゲノム・フラグメントを選択プライマ−で増幅・検出するフィンガープリント法。この方法は再現性が高く、また多くの多型を同定することが可能)、マイクロサテライトマーカーを明らかにするための研究や、除草剤バスタ抵抗性サトウキビを作出するための形質転換の実験を、主にパーティクルガンを用いて進めていた。
 サトウキビ育種研究室では室長のK. Ramdoyal氏が案内してくれた(写真6)。同研究室ではここ30年以上にわたり、毎年1品種を出している。モーリシャス育成品種の略号は「M」で同国育成品種の頭にはすべてこの略号がついている。例えば栽培品種M574/62, M3035/66といった具合で、前の番号は系統番号、後ろの2桁の番号が交配・採種した西暦年号の下二桁である。現在の主な育種目標としては、高糖、多収、株出し適応性、主な重要病虫害に対する抵抗性、そして機械化適応性(易脱葉性など)である。この他、同研究室では遺伝的基盤の拡大を目的に野生種、エリアンサス属植物と栽培品種、高貴種などとの交配を進めていた。交配は5月から7月にかけて行われる。今回、我々が訪問した5月初旬は交配のための準備が急いで行われている時期であった。例年、400〜500組合せの交配を行い、実生約10万個体を選抜に供試している。実生選抜における選抜率は約14%で(沖縄県農試では5%)、初期の実生選抜においてふるい落とす個体数を少なくしていることが分かる。表2には現在モーリシャスで栽培されている主要なサトウキビ品種を示した。これまでモーリシャスは多くの国との間で積極的に品種の交換を行ってきた。所長のJ. C. Autrey氏も前向きなことから、今年中に日本とモーリシャスの間でサトウキビ遺伝資源の交換を実施したいと考えている。
 モーリシャスのサトウキビの重要病害としてはgumming disease(和名不明、ゴム病?)、白すじ病、葉片赤班病、さび病、黒穂病、黒腐病等がある。病害研究室ではこれら病害の発生や感染、防除法に関する研究を行うとともに、育種研究室と連携して選抜の過程でこれら病害に関する抵抗性の検定も行っている。また、海外から導入した品種・系統の検疫も同研究室で行っている。
 化学研究室では、サトウキビ圃場の土壌や水分全般に関する研究を行っている。また、大規模農家、製糖工場に付属する農場を中心に、土壌やそこで栽培されているサトウキビの成分分析を行い、分析結果を基にして、施肥に関するアドバイスを行っている。近年は環境と調和しながら持続的にサトウキビ栽培を維持していくという観点から、HPLC等を用いて地下水や、河川水に含まれる硝酸態窒素濃度(いくつかの場所では濃度がすでに基準値50ppm近くに達しているという)、除草剤などに含まれる有害化学成分のモニタリングも実施していた。
ページのトップへ

雑感

 モーリシャス糖業研究所は実験設備・機器、スタッフともに充実し、研究のレベルも高く、着実に島のサトウキビ産業を支えるための研究を行っているようにみえた。フランスのCIRAD(国際農業研究センター)、オーストラリアのBSES(糖業研究所)とも積極的に共同研究を進めており、研究の国際協力に前向きな姿勢もみてとれた。モーリシャスでは土壌浸食、流出やそれに伴うサンゴの生育への影響など、同じく亜熱帯の島嶼である沖縄、石垣と類似した問題も抱えており、それらの問題を解決するための研究にも取り組んでいる。今後、こういった分野で、我が国、南西諸島の諸研究機関との研究協力も可能ではないかと思われた。
 モーリシャス糖業研究所の所長J. C. Autrey氏は、現在、国際サトウキビ技術者会議の幹事会の議長、いわば学会の会長である。国際サトウキビ技術者会議の本部事務局はここモーリシャスにあり、その他の研究スタッフも国際サトウキビ技術者会議の中で重要な役職についている。小さな島国であるにも関わらず、その研究所をあげて、自国のみならず世界のサトウキビ研究の発展に貢献しようという積極的な姿勢には頭が下がる思いである。我々日本のサトウキビ研究者も、これまで以上に海外へ情報を発信するとともに、積極的に海外の試験研究機関と交流を進めていく必要があると深く感じた今回の訪問であった。

引用文献
1. Mauritious Sugar Industry Research Institute, Annual Report 2001.
2. 地球の歩き方「マダガスカル・モーリシャス・セイシェル・レユニオン・コモロ」、ダイヤモンド社、2001.

表2 モーリシャスの主要サトウキビ品種(2001年現在)
品種名 作付面積割合(%) 主な特性
R 570 * 33.4 中・晩熟性(8月中旬〜11月一杯)、葉片赤班病に弱、耐干性あり。
M 3035/66 15.8 中・晩熟性(8月中旬〜11月一杯)、ゴム病に弱、多雨地帯の作付け推奨。
M 695/69 11.4 早熟(6月中旬〜8月一杯)、葉片赤班病、黒穂病に弱。
M 52/78 7.5 早熟、高糖(6月中旬〜8月中旬)、黒穂病に弱。
M 1176/77 7.4 中熟性(8月中旬〜10月一杯)、葉片赤班病、黒穂病に弱、耐干性強。
* 「R」はレユニオン育成の導入品種。
ページのトップへ

「今月の視点」 
2003年12月 
さらなる食品の安全性の確保に向けて
 −新たな食品安全行政の展開と食品安全委員会−
 内閣府食品安全委員会 委員長  寺田 雅昭
モーリシャスの糖業概況とサトウキビ研究
 国際農林水産業研究センター沖縄支所 松岡 誠
 九州沖縄農業研究センター さとうきび育種研究室長 杉本 明


BACK ISSUES




このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.