[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 視点 > 社会 > グアテマラの糖業事情と国際甘蔗糖技術者会議第25回大会の概要

グアテマラの糖業事情と国際甘蔗糖技術者会議第25回大会の概要

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2005年6月]

【海外/糖業】

独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
九州沖縄農業研究センターさとうきび育種研究室
  室 長 松岡  誠
研究員 寺島 義文

はじめに
グアテマラの地勢
グアテマラ糖業の概要
グアテマラサトウキビ研究センター
(Guatemalan Sugarcane Research and Training Center; CENGICANA)の概要
国際甘蔗糖技術者会議第25回グアテマラ大会
終わりに

はじめに

 1924年に発足したISSCT(International Society of Sugar Cane Technologists)は、サトウキビの栽培から砂糖製造に至る研究情報の公開、意見交換を主目的とする国際学会であり、3年に1度、主要な甘蔗糖生産国の持ち回りで大会が開催される。本年1月30〜2月4日に、第25回大会が中米のグアテマラ共和国、首都グアテマラ・シティにおいて開催され、筆者らも参加、発表する機会を得た。グアテマラというと日本ではなじみの薄い国であるが、近年におけるその砂糖産業の発展ぶりは驚異的である。1980年代前半にはサトウキビ栽培面積は約8万ヘクタール、砂糖生産量は50万トンほどであったが、2000年以降の栽培面積は約18万ヘクタール、生産量は約180万トン(2003/04年期の砂糖生産量は約200万トン)という大生産国となった。その年間生産量の約70%、130万トン以上を輸出する世界第6位の砂糖輸出大国でもある。本報告では、発展めざましいグアテマラの糖業の概要について、また、同国のサトウキビ試験研究機関、国際甘蔗糖技術者会議グアテマラ大会における育種、分子生物学分野の発表内容について紹介したい。

図1 グアテマラの概略図
ページのトップへ

グアテマラの地勢

 グアテマラはメキシコからパナマ地峡にかけて続く細長い中米回廊に位置する中米7ヶ国の一つである。北緯14°から18°の間に位置し、メキシコ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルと国境を接している。北東部でカリブ海に、南西部は太平洋に面している(図1)。グアテマラは国内に多くの活火山、休火山があり、その最高峰は4,220mである。内陸の多くは高原、山岳地帯が占め、海岸沿いとメキシコとの国境、ユカタン半島方面、ホンジュラス、エルサルバドルとの国境方面に低地が広がっている。内陸部の高原地帯では標高が高いため、緯度が低いにもかかわらず年間を通して気温は低く、常春の国と呼ばれている。首都グアテマラ・シティは内陸の高原地帯にあり、標高は1,500mである(年平均気温は20℃)。太平洋沿岸地帯など標高の低いところは熱帯性気候で年間を通してかなり暑くなる。雨季と乾季があり、雨は5月から10月の雨季に集中し、11月から4月にかけての乾季には極めて少ない(表1)。
 国土の総面積は10万8,889平方kmで、日本の国土面積の約1/3である。総人口は約1,080万人で、このうち約200万人、1/5近くが首都グアテマラ・シティに住んでいる。国民の民族構成比率は、マヤ系の先住民が42%、白人が8%、これらの混血であるメスティーソが50%となっている。公用語はスペイン語であるが、先住民の間ではマヤ系の諸言語も使用されている。16世紀初頭、スペインの軍隊に征服されるまで、この地には紀元前からマヤ系先住民による文明が栄え、いくつもの都市国家があった。そのため、ティカル遺跡に代表される多くのマヤ文明遺跡群があり、毎年多くの観光客が訪れている。また、アンティグア旧市街など、スペインによる植民地支配の時代に栄えたコロニアル建築の都市遺跡もある。


グアテマラ糖業の概要

 グアテマラでは現在17の製糖工場があり、そのサトウキビ圧搾能力の合計は1日当たり12万6千500トンである。このうち5工場では1日当たりの圧搾量が1万トンを越えている。製糖期間は11月から翌4月にかけて、およそ140日前後である。サトウキビはそのほとんどが、太平洋沿岸の低地(標高300mくらいまで)、北緯14°付近で栽培されており(図1)、製糖工場もこの地域に集中している。この地域の年間の降水量は1,500〜3,000mm、年平均気温は27℃程度である。
表1 グアテマラ・シティの気象平年値


表2 グアテマラのサトウキビ生産、産糖量の推移(年間)


 1960年代前半にはサトウキビ栽培面積は約2万2千ヘクタール、砂糖生産量は11万7千トンであったが、その後大きく栽培面積を増やし2000−03年間の平均の栽培面積は18万4千ヘクタール、産糖量は約182万5千トンであった(表2)。この間、単収も着実に伸ばし、1959年期には53トン/ヘクタールであったが、1980年代前半には73トン、2000−03年間の平均値は87トンである。収穫はほとんどが人力で行われており、ハーベスターによる収穫面積は10%程度である。グアテマラでは、日本と異なり、サトウキビ畑の多くは製糖工場自体が所有、あるいは管理している。国全体のサトウキビ栽培面積の約80%はこの形で、残り20%程度が自作農によって栽培されている。工場によって違いはあると思われるが、訪問したMagdalena工場では、カバーしている面積の98%は工場独自所有の畑で、うち50%は工場独自で管理、残り48%は小作農が管理、その他2%の畑が自作農の畑ということであった(写真1)。
 
写真1 広大な製糖工場保有の圃場
収穫後2、3ヶ月経過した株出し圃場。萌芽、初期生育ともに良好。


  グアテマラでは製糖副産物であるバガス、糖蜜の利用も盛んに行われている。7工場でバガスを利用した本格的な発電を行っており、国全体の発電量の20%以上を賄っている。また、3工場は糖蜜を利用したエタノール工場を併設している。
 グアテマラのサトウキビ栽培、工場についての詳しいリポートは次号に掲載予定であるので、ここでは触れない。

ページのトップへ

グアテマラサトウキビ研究センター(Guatemalan Sugarcane Research and Training Center; CENGICANA)の概要

 今回、国際甘蔗糖技術者会議グアテマラ大会に先立ち、グアテマラの糖業全般を紹介する3日間の現地研修視察旅行が企画され、このうち筆者は、研究所と製糖工場を訪問するコースに参加した(写真2、3)。グアテマラにおけるサトウキビ研究の中心は、サトウキビ研究センター、略称“CENGICANA”である。同研究所はグアテマラの砂糖産業の発展を科学的、技術的な側面から支援することを目的として1992年に設立された。研究所は公立の研究機関ではなく、製糖企業の連合体が出す資金(砂糖の売り上げによって得られた利益の一部を各製糖企業が拠出、年予算は約120万USドル)によって運営されている。研究所の基本理念は、「サトウキビとそこから得られる砂糖、製糖副産物の生産量および生産性を技術開発によって改善・発展させること。また、それらの技術の検証と現場への適用によって、製糖産業の持続的な発展に寄与すること」となっている。研究所は首都グアテマラ・シティから南西方向に90kmほど離れたエスキントラ県(Escuintla)、サンタ・ルシア・コツマルグアパ(Santa Lucia Cotzmalguapa)にある。試験場の海抜は280m、年平均気温は24℃、年間の積算降水量は3,300mmで、敷地面積は約80ヘクタールである。

写真2 CENGICANA本館前

写真3 現地研修視察旅行の1コマ
製糖工場の入り口で説明を受ける。後ろは原料茎を
山積みしたトレーラー。

 現在、研究所の総職員数は60名で、うち14名が修士または博士の学位をもつ研究スタッフ、16名が研究技術補佐職員、総務・事務職員が7名、圃場・実験室における業務担当職員が23名である。研究所は3研究部門と教育・普及部門からなっている。品種育成部門(育種、植物病理、バイテク)、虫害対策部門(昆虫学、作物保護)、栽培部門(植物栄養および土壌、農業気象、灌漑排水など)、および普及・研修部門である。
 品種育成部門では以下の4育種目標(1)高糖多収性、(2)病害抵抗性(さび病、わい化病、黒穂病など)、(3)広域適応性、(4)株出し栽培における多収性、を掲げて交配育種を進めてきた。最近、これに新たに「Adaptability to green cane harvesting system」(“火入れ”をしない収穫に適する形質、要するに収穫調整、脱葉がしやすい形質)という新たな育種目標が加わった。グアテマラにおいても環境汚染という観点から、火入れ収穫に対する圧力が高まってきているものと考えられる。

写真4 CENGICANAの交配温室

写真5 育苗中の実生苗

糖類情報2005.6 5
写真6 選抜途中のCENGICANA育成系統

 同研究所では約1,300点のサトウキビ遺伝資源(主として海外から導入した経済品種系統)を保存しており、これらを交配に用いている。これらの多くはメキシコ、オーストラリア、モーリシャス、アメリカなどの諸国から導入したものである。現在、年間160組合せの交配を行い、8万の実生個体を選抜に供試している(写真4、5)。自国における交配育種は、近年始まったばかりで、CG(グアテマラ、CENGICANA育成の品種には“CG”が冠せられる)を冠した自国育成新品種は、まだリリースされていない。しかし、CG96−40、CG96−59などの有望系統が選抜の最終段階(現地での生産力検定)にあり、間もなく、品種になるということであった(写真6)。グアテマラではこれまで海外からの品種の導入、導入育種が盛んに行われてきた。グアテマラにおける現在の主導品種はアメリカ、フロリダにあるUSDA, Canal Point Sugarcane Field Stationで育成された「CP72−2086」で、2002−03年期の収穫面積の75%を占めている(この品種は1987年ころに普及が始まり、1995年には作付け面積は50%を越えた)。その他、「CP73−1547」などCanal Point育成品種、メキシコ育成の「Mex68P23」などが作付けされているが、いずれもその比率は小さい。グアテマラにおける品種育成の最大の関心事は、いかに早く、収量その他で「CP72−2086」に優る新品種を育成、普及させ、品種の分散化を図るかということである。
 この他、虫害対策部門では、メイチュウなどによる虫害を効果的に防除するための農薬散布法について研究するのと平行して、寄生蜂など天敵を利用した生物的防除法の開発に力を入れている。栽培部門では、効果的な施肥法、窒素固定菌の利用、効率的な灌水方法、気象データの収集とその有効利用などを中心に研究を進めている。
 同研究所の研究で最も興味深かったのは、天敵利用による野鼠の駆除である。詳しい種類、名称は分からないが、フクロウの仲間である鳥を増殖、放鳥し、それに野鼠を捕食させることで、鼠害をコントロールしようという試みである。すでに畑での実験も開始されており、点々と高さ5、6メートルほどの“止まり木”が立ててあるサトウキビ畑が見られた。わが国南西諸島にも「リュウキュウコノハズク」というフクロウの仲間が生息しているが、これはサトウキビ畑の野鼠を捕食しないものであろうか。もし、捕食するということであれば、生物的防除法の一つの選択肢としてその利用も考えられる。

写真7 会場に展示された立派なサトウキビ


ページのトップへ

国際甘蔗糖技術者会議第25回グアテマラ大会
 大会は、首都グアテマラ・シティの中心部にある高級ホテルを会場に、グアテマラ甘蔗糖技術者会議(Guatemalan Society of sugarcane Technologists)の主催で開催された。大会には世界51ヶ国から計813人が参加した。大会期間中、同じホテル内の別会場において大会のスポンサー企業48社が出展する産業展示会も同時開催された(写真7)。日本からの参加者は計6名(九州沖縄農研センター2名、琉球大学農学部3名、沖縄県農試1名)で、発表も6課題と近年になく多く、日本にも製糖産業があり、サトウキビの研究者がいるということを広くアピールすることができた(写真8)。

写真8 ポスター発表会場の日本人参加者6名

写真9 大会開会式、会場の風景
左下写真壇上でスピーチしているのは、グア
テマラ共和国大統領。

 大会の開会式にはグアテマラ共和国のバーガー(Oscar Berger)大統領が農業省大臣とともに出席、参加者への歓迎スピーチを行い、この国において製糖産業がいかに重要な位置を占めているかということを、あらためて印象付けた(写真9)。
 大会では、前回と同様にAgronomy(栽培・生産技術全般)、Biology(生理・育種・作物保護・分子生物学)、Co-Products(副産物)、Factory(製糖技術)の4分科会に別れて進められた。筆者は主としてBiology分科会の育種、および分子生物学セッションに参加したので、ここでは同分科会での研究報告を中心に紹介したい(次号では琉球大学、沖縄県農試からの参加者が、Agronomy分科会などについて紹介する予定である)。
 大会2日目には、Biology分科会関連のトピックスとして「Breeding for a better industry(より良い製糖産業を目標とした育種)」というテーマで全体シンポジウムが開催された。ここでは、オーストラリアのD. M. Hogarthが、サトウキビ交配育種法の研究進展について、南アフリカのM. K. Butterfieldが、育種における分子生物学的手法の利用の現状と課題について、そしてバルバドスのA. J. Kennedy が、バイオマス利用を目的とした新たなサトウキビ育種の可能性について報告した。
 Biology分科会での発表総数は64課題(うちポスター発表24課題)で、このうち育種セッションの発表は24課題(ポスター発表9課題)、分子生物学セッションの発表は10課題(ポスター発表3課題)であった。育種セッションの発表においては、とりたてて新しい育種手法開発に関する発表はなく、各国の育種研究機関がいかに従来の手法を改良しつつ、効率的に早期高糖性、収量性、病害抵抗性などの育種目標を達成しつつあるかというものが多かった。そういった中で、Biology分科会で最優秀論文賞(今大会からの新しい試み)を獲得したのは、モーリシャス糖業研究所、A. R. Nayamuthらの早期収穫向け高糖性品種育成の研究であった。従来、サトウキビの登熟性は、登熟前期の圃場Bxや蔗汁Bx、蔗汁糖度などの値で判断する場合が多い。この研究で彼らは、茎の全乾物重に占めるショ糖の割合で登熟性を評価し、交配母本のグループ分けを行うと共に、選定した早熟性交配母本を交配に利用することによって、後代集団の早熟化が可能であることを明らかにした。これらの知見は、日本における早期高糖性品種の育種にとっても非常に示唆に富むものであり、今後検討していく必要がある。
 分子生物学セッションでは、品種育成に分子マーカーを利用するという試み、量的形質に関する遺伝子の解析(QTLまたはQTA)研究が、南アフリカ、モーリシャスのグループから報告された。また、サトウキビの遺伝子組換えに関する研究報告が4課題あった。このうち2課題はアグロバクテリウムを用いた形質転換に関する報告であったが、発表予定者が2課題ともに欠席し、残念ながら発表は聞けずじまいであった。この他、モーリシャスのグループは、パーティクルガンによる遺伝子導入方法の改良について、また、コロンビアのグループはパーティクルガンによるウィルス病抵抗性(sugarcane yellow leaf disease)サトウキビの作出と、形質転換体の病気抵抗性検定の結果について報告した。このように、パーティクルガンを用いた手法では、サトウキビ形質転換体の作出は各国で行われつつあるが、いずれも隔離温室、隔離圃場における試験栽培にとどまっており、実用的な栽培となるとまだまだ先は遠いという印象を受けた。

終わりに

 今ISSCT大会は、地理的に非常に遠い中米での開催で、旅費も高くつくという事情にも関わらず、日本から6名という多数の参加者があった。サトウキビの研究や製糖技術は年々進歩しており、このISSCT大会や各ワークショップに参加し、世界の最新情報を得るということは、わが国のサトウキビ、糖業関係者にとっても意義深いことと考えられる。ISSCT;甘蔗糖技術者会議はその名の通り、広く糖業に関係する技術者のための団体である。そのため、大会参加者も研究者だけでなく、製糖工場関係者、農業機器、資材メーカー関係者、砂糖行政関係者など、多種多様である。今後、日本からもこういった分野の方々の参加者が増えることを期待したい。ちなみに次回、26回大会は南アフリカ共和国のダーバンで2007年7月に開催される予定である。

引用文献
1.地球の歩き方「中米」03-04、ダイヤモンド社、2004.
2.Informe Annual, 2003-2004, CENGICANA, Guatemala, 2004.

ページのトップへ


BACK ISSUES




このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.