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米国におけるバイオエタノール政策・需給動向

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2006年10月]

【調査・報告〔生産/利用技術〕】

農林水産省 農林水産政策研究所国際政策部   主任研究官 小泉 達治

1.はじめに
2.バイオエタノール政策の展開とバイオエタノール需給動向
3.今後の政策の展開方向
4.今後のバイオエタノールおよびとうもろこし需給の展望
5.おわりに(ブラジルとの比較)

1.はじめに

 米国では1970年代後半から、エネルギー、環境問題そして余剰農産物問題への対応から、とうもろこしを主原料としたバイオエタノール1)の生産およびガソリンへの混合が実施されている。特に、1990年以降は改正大気浄化法施行やMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)2)の代替によりバイオエタノールの需要が増加した。2005/06年度では、とうもろこし生産量の17.6%がバイオエタノール需要量に仕向けられており[3]、今後、この仕向け割合は増加し、とうもろこし需給にも影響を与えていくことが見込まれる。本稿では、米国における最近のバイオエタノール政策・需給動向(平成18年8月現在)について紹介したい。
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2.バイオエタノール政策の展開とバイオエタノール需給動向

 米国におけるバイオエタノールの開発の歴史は、ヘンリー・フォードが開発した1919年製T型フォードにまでさかのぼるが、1973年の第1次オイルショックを契機とする原油価格の高騰を契機に、バイオエタノールは、ガソリン代替燃料として脚光を浴びることとなった。
 1970年に施行された「大気浄化法」(Clean Air Act)は、1977年に改正され、同法により含酸素燃料であるバイオエタノールの使用を米国政府が初めて認可した。1978年には「エネルギー税法」(Energy Tax Act)が成立し、バイオエタノール10%以上を混合したガソリンに対し連邦税が減免された。1990年には改正大気浄化法(Clean Air Act Amendments)の施行により、連邦政府の環境基準のうち、オゾンの基準値が達成できていない地域を対象に、EPA(環境保護局)から含酸素燃料の添加(2.0〜2.7%)が義務付けられた。この動きにより、米国ではオクタン価向上、一酸化炭素排出削減効果のあるバイオエタノールおよびMTBEのガソリン添加剤として需要が拡大した。しかし、MTBEは、ガソリンのほか水への親和性が高いという化学的性格から、地中に埋められたパイプラインやガソリンタンクの亀裂によって漏れたMTBEが地下水を汚染し、そのMTBEが混入した飲料水には発癌性の疑いがあることが、カリフォルニア州の調査で判明した。このため、1999年3月カリフォルニア州は、ガソリンへの添加物であるMTBEの使用を禁止する決定を行ったことを契機に、2006年7月現在、25州がMTBEの使用を禁止することを表明している。
 米国では、連邦政府によるバイオエタノールをガソリンに混合した燃料に対するガソリン税を控除する優遇税制措置、小規模バイオエタノール生産者に対する所得税控除、商品金融公社(CCC)によるバイオエタノール製造業者に対する補助措置等がある。また、連邦政府とは別に州政府でも、イリノイ州をはじめ10州ではガソリン売上税の減免措置を行っているほか、ミネソタ州をはじめ17州ではバイオエタノール製造業者に対する補助措置を行っている。このように、米国におけるバイオエタノール生産・流通においては、連邦および州政府からの税制優遇措置、助成措置が充実していることが大きな特徴である。
 米国におけるバイオエタノール需要量は、1992年に720百万ガロン(272万KL)から2004年には2,357百万ガロン(892万KL)へと拡大している(第1表)。一方、MTBE需要量は1992年には、1,176百万ガロン(445万KL)から1999年には3,405百万ガロン(1,289万KL)へと拡大したが、2002年以降は下落傾向にあり、2004年は1,816百万ガロン(687万KL)となった。米国におけるバイオエタノールについては、2000年以降はMTBE使用禁止によるバイオエタノール代替の動きから急速に増加している。F.O.Licht社によると2005年は、米国はこれまで最大の生産国であったブラジルを抜いて世界最大の生産国となった[4]。
 また、2006年における米国におけるバイオエタノール生産能力は43億ガロン(1,600万KL)であるが、バイオエタノール製造施設の拡張・新設の建設が行われており、2007年には21億ガロン(790万KL)の製造能力が追加されることになる[6]。
 バイオエタノール製造には、ドライミルとウェットミルという製造法に別れるが、2005年時点では79%がドライミルにより製造されており、21%がウエットミルにより製造されている[6]。ドライミルは、胚芽を除去して粉砕する「製粉」工程であり、燃料用エタノール製造時に澱粉が吸収されるが、残りの副産物としてDDG(ジスチラーズ・ドライド・グレイン)が発生する。一方、ウェットミルでは、澱粉、バイオエタノール、コーングルテンフィード、コーングルテンミール、コーンオイル等が生産される。ここで得られた澱粉はそのまま水飴、ぶどう糖、異性化糖等の糖に転換される。

第1表 米国におけるバイオエタノール需給の推移

 米国では元々、澱粉加工業を主とする業者がバイオエタノールを作っていたが、現在、米国で新規に建設されているバイオエタノール工場はほとんどが、ドライミルであり、全体の工場に占めるドライミルの割合は2004年の75%から2005年には79%と増加している。このドライミルの割合の増加に伴い、今後全体のエタノール工場に占めるウェットミルの割合は縮小することが予想される。エタノール製造業者は、ドライミル製法の方がウェットミルよりも工程が少なく、建設コストが低いことから、ドライミルを採用している。このため、今後、さらに全体のバイオエタノール工場に占めるドライミルの割合は拡大することが予想される。
 米国におけるバイオエタノール生産コスト0.25ドル/リットル[7]は、ブラジルのさとうきびを原料とするバイオエタノール生産コスト0.20ドル/リットル[5]に比べると割高である。現在のところ、バイオエタノールに0.14ドル/リットルもの関税を賦課しているため、米国国内ではブラジル産バイオエタノールに比べて価格面で優位性はあるものの、将来的に関税引き下げが行われた場合は、米国が生産コスト引き下げ努力を行わない限りは、米国国内における価格優位性は保てない。

3.今後の政策の展開方向

 米国におけるエネルギー政策全般の中期的な政策指針を定めた「2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)」は2005年8月8日に成立した。バイオエタノールとの関連では、バイオエタノールを主とする再生可能燃料の使用量を義務付ける「再生可能燃料基準(RFS, Renewable Fuel Standard)」が盛り込まれた。再生可能燃料基準では、自動車燃料に含まれるバイオ燃料の使用量を2006年の40億ガロン(1,514万KL)から2012年までに年間75億ガロン(2,839万KL)まで拡大することを義務化した。また、再生可能燃料使用に際しては、130億ドルもの連邦税の控除も認められた。2013年以降は、2012年までの導入状況を踏まえ決定されることになっている。米国エネルギー省や全米再生可能燃料協会(Renewable Fuel Association)によるとバイオエタノールを中心とするバイオ燃料の使用量は早期に2012年の義務量をクリアできるとの認識を有している。2013年以降の義務設定量は、義務量を早期にクリアすることにより、さらに高い義務目標が設定される可能性もある。
 また、同法では施行後270日以内に改正大気浄化法において定められている改質ガソリンの含酸素燃料の添加要件を廃止することが定められた。EPA(環境保護局)では2006年5月に含酸素要件を廃止し、これに替わる規制として2006年に米国で販売されるガソリン消費量の2.78%を再生可能燃料で賄うことを義務付けている。
さらに、同法では、MTBEの免責事項が削除されたたため、MTBE製造業者は、MTBEを国内向けに供給した場合は、多額の損害賠償訴訟に発展しかねないと判断し、5月上旬までに国内向けのMTBE製造を自主的に中止している。このため、MTBEの規制を行わない州は残存しているものの、MTBEは2〜3年以内に完全に米国の市場から淘汰される見通しである。
 ブッシュ米国大統領は、2006年1月31日、1年間の内政・外交全般にわたる施策指針を上下院に表明する一般教書演説を行った。この中で、同大統領は米国の石油依存度を下げる重要性を示し、この対策として、2012年までにバイオエタノール燃料を実用化する等石油代替エネルギーの技術開発を重点項目として示した。具体的には、バイオエタノールについてはとうもろこしのみならず、木材チップ、わら、干し草等セルロースからのバイオエタノール製造に関する技術開発を強化し、2007年度会計予算として1億5千万ドルを計上した。しかし、木材等から抽出したセルロースからバイオエタノールを製造する技術は、現在のところ実験段階であり実用段階には至っていない。このため、今後、セルロースからのバイオエタノール生産がバイオエタノール生産の主原料となるかは今後の技術開発次第である。
 最近では、連邦政府による再生可能燃料基準とは別に各州が独自にバイオエタノールの最低使用基準を設定する動きがある。ミネソタ州では2005年からE103)のバイオエタノール最低使用基準を定め(2012年からはE20も決定)、モンタナ州でも2005年からE10の最低使用基準を、2006年からハワイ州でもE10の最低使用基準を、ミズーリー州では2008年からE10の最低使用基準を、ワシントン州でも2008年からE24)の最低使用基準を定めている。また、アイダホ、コロラド、カリフォルニア、アイオワ、イリノイ、オハイオ、ルイジアナおよびテネシーの8州において、バイオエタノールの最低使用基準を定める法案が州議会に提出されている。このバイオエタノールの最低使用基準の設置の動向は今後、さらに拡大していく傾向にある。このように、連邦政府の再生可能燃料基準とは別に州政府が独自に最低使用基準を設置している動向は今後さらに拡大が見込まれ、今後のバイオエタノール需給に、大きな影響を与えることが見込まれる。

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4.今後のバイオエタノールおよびとうもろこし需給の展望

 米国エネルギー省が、2006年2月に発表した“Annual Energy Outlook 2006”[1] のReferenece caseによると、2004年から2030年にかけてバイオエタノールの需要量は、年率5.0%増加することが予測されている。そのうち2025年においても、とうもろこし由来のバイオエタノールは、バイオエタノール需要量の約9割を占めることが予測されている。
 また、米国農務省が2006年2月に発表した“USDA Agricultural Baseline Proje-ctions to 2015”[8]をみてみると、平年並みの天候および現行の農業政策が、米国のみならず世界各国・地域において今後も継続する等の前提において、米国のとうもろこし生産量は、2004/05年度から2014/15年度にかけて年平均0.6%上昇することが予測されている。同期間中、総需要量は1.4%の増加となっており、このうち飼料用需要量は0.4%の減少、バイオエタノール用需要量は7.4%の増加が予測されている。このように、米国農務省の予測でもバイオエタノール用需要量の伸びは、他用途の需要に比べて高い伸び率が予測されている。また、バイオエタノール用需要量の全需要量に占める割合も、2004/05年度の12.6%から2014/15年度の28.4%に拡大し、とうもろこし全需要量に占めるバイオエタノール用需要量は、今後も拡大することが予測される。

第2表 米国におけるとうもろこし需給予測(米国農務省)  (単位:1,000トン

 米国では、1990年以降、改正大気浄化法による含酸素燃料添加の義務付け、MTBEからの代替等によりバイオエタノール需要量・生産量が増加した。今後は、2005年エネルギー政策法による「再生可能燃料基準」の早期達成とこれに伴うさらなる義務量の設定の可能性、各州のバイオエタノール最低使用基準の設定の増加、国際原油価格の上昇等に伴い、今後、バイオエタノール需要量が増加することが見込まれている。需要量増大が見込まれるバイオエタノール需要量に対して、今後、とうもろこし生産がキャッチ・アップできるかがとうもろこし需給動向の鍵を握る。米国がとうもろこしの輸出や他の用途を拡大する際には、確実に増加することが見込まれるバイオエタノール需要の増大は今後の米国におけるとうもろこし需給の制約要因と言える。
 米国は今後も増大が予想されるバイオエタノール需要量を満たしていくとともに、世界最大のとうもろこし輸出国として輸出量を維持していくために、今後もとうもろこし生産量を高水準に維持していくことが必要である。米国農務省では、遺伝子組み換え品種の作付け比率の増加、栽培技術の向上、大豆からとうもろこしへの作付け比率の増加に伴い、今後も着実にとうもろこしの生産量および輸出量は増加していくことを予測している[8]。しかしながら、この予測は天候等を平年並みを前提としているため、今後の天候動向(特に7月の受粉期における干ばつ)等により生産量が停滞する場合は、生産量が需要量を下回り、輸出量が減少する可能性もある。この世界最大のとうもろこし輸出国における輸出量の減少は国際とうもろこし需給にも影響を与え、国際とうもろこし価格の上昇を招く可能性があるため今後、注視が必要である。

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5.おわりに(ブラジルとの比較)

 2005年に米国は、これまで最大のバイオエタノール生産国であったブラジルを抜いて世界最大の生産国となった。今後も、2005年エネルギー政策法による「再生可能燃料基準」の早期達成とこれに伴うさらなる義務量の設定の可能性、各州のバイオエタノール最低使用基準の設定の増加、国際原油価格の上昇等に伴い、今後、バイオエタノール需要量が増加することが見込まれている。
 米国ではドライミル製法によるバイオエタノール生産割合の比率が増大しているが、ドライミル製法の増大は、安価で効率的にバイオエタノールを生産できるメリットがある。その一方で、ドライミルでは、バイオエタノールの他には副産物としてDDGを生産するが、DDGの市場が途上段階にある状況下、ウェットミル製法のように市場価格に応じて工程の途中で柔軟に他の製品に生産配分を変えることができない構造にある。この米国の生産構造は、ブラジルにおいて、さとうきびから砂糖・バイオエタノールへの配分を両者の相対価格に応じて柔軟に変更できる工場の割合が全国の約8割を占め、今後、その割合がさらに増加していくことが見込まれているブラジルのバイオエタノール生産とは対照的な動きである。
 また、米国におけるバイオエタノール生産コストはブラジルのさとうきびを原料とするバイオエタノール生産コストに比べると割高である。現在のところ、米国ではバイオエタノールに0.14ドル/リットルもの関税を賦課しているため、国内ではブラジル産バイオエタノールに比べて価格面での優位性はある。しかし、国内でも関税の引き下げが検討されたことがあるように、今後、バイオエタノール関税が引き下げられた場合は、米国が生産コスト引き下げ努力を行わない限り、国内における価格優位性は保てないものと思われる。
 米国は「カリブ海経済復興法」により、カリブ海諸国を対象に年間23万キロリットルか米国のバイオエタノール需要量の7%のうち、いずれか大きい方を上限としてエタノールの関税が無税となっている。このため、ブラジル等のバイオエタノールがジャマイカ、コスタリカ、エルサルバドル等を経由して、米国に無税で輸出されている。また、米国はこれを上回る量については、13万キロリットルまでカリブ海諸国由来のエタノールが最低50%含むことを無税の条件として義務付けているものの、十分な対策が行われていない。米国はこのブラジルからのバイオエタノール「迂回輸出」を問題視しており、0.14ドル/リットルものエタノール関税の賦課を正当化している。一方、ブラジルはこの関税を問題視しており、両国でバイオエタノール貿易をめぐり対立が生じている。
 以上のように、世界最大のバイオエタノール生産国となった米国のバイオエタノール生産構造には課題もあり、ブラジルに比べた場合の国際競争力は低いと言えよう。しかし、米国のバイオエタノール需給は急速に拡大しており、世界のバイオエタノール需給においてもその影響力を高めてきている。米国ではとうもろこしから、ブラジルではさとうきびからバイオエタノールを生産しているが、米国のバイオエタノール需給動向が今後、ブラジルのバイオエタノールの需給を通じて砂糖需給にも影響を与える可能性があるため、今後、注視が必要である。

注(1) 本稿における「バイオエタノール」の定義は、とうもろこしを中心とする農産物から製造するバイオマスエタノールを対象とし、石油および天然ガス由来の合成エタノールは対象としない。
 (2) MTBEは含酸素添加燃料としての機能のほかに、オクタン価向上剤としてガソリンに添加して使用
 (3) E10とはガソリンに対して、バイオエタノール10%混合を意味する。
 (4) E2とはガソリンに対して、バイオエタノール2%混合を意味する。
〔引用文献〕
[1] Energy Information Administration, U.S. Department of Energy(2006), Annual Energy Outlook 2006, DOE/EIA−0383.
[2] Energy Information Administration, U.S. Department of Energy(2005), Annual Energy Review, DOE/EIA−0384.
[3] Foreign Agricultural Service, U.S. Department of Agriculture(2004), Price Supply & Distribution Views, http://www.fas.usda.gov/psd
http://sugar.alic.go.jp/japan/view/  /intro.asp.
[4] F.O.Licht(2006), F.O.Licht World Ethanol & Biofuels Report.
[5] Mecedo(2005), メSugar Caneユs Energyモ, Sao Pailo Sugar Cane Agroindustry Union, pp185−190.
[6] Renewable Fuels Association(2006), From Niche to Nation: Ethanol Industry outlook 2006, http://www.ethanolrfa.org/resource/outlook/.
[7] U.S. Department of Agriculture(2006), The Energy Balance of Corn Ethanol: An Update, Agricultural Economic Report Number 814.
[8] U.S. Department of Agriculture(2006), USDA Baseline Projections to 2015, OCE-2006-1.

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