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エクアドル共和国のさとうきび生産と糖業

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2006年10月]

【調査・報告〔海外/糖業〕】

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センターバイオマス・資源作物開発チーム
重点研究支援協力員 福原 誠司
主任研究員 伊禮 信
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
  生物系特定産業技術研究支援センター
研究リーダー 永冨 成紀

1.はじめに
2.エクアドルの地勢・産業
3.エクアドル糖業の概要
4.現地視察
5.おわりに

1.はじめに

 2006年5月1日からの5日までの5日間にわたり、エクアドル共和国のグアヤキル市において、国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT:International Society of Sugar Cane Technologists)の第8回育種・遺伝資源ワークショップが開催された。
 研究発表のためワークショップに参加した筆者らは、さとうきびの研究に関する情報だけでなく、エクアドルのさとうきび生産と糖業に関する情報も得ることができたので、本報で紹介する。

図 エクアドル全体図
(赤い円はグアヤキル)

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2.エクアドルの地勢・産業

 エクアドルは赤道直下、南米大陸に位置し、ペルーとコロンビアと国境を接する国である(図)。国土は南北に連なるアンデス山脈により、太平洋に面した海岸地方(コスタ)、中央アンデス地方(山岳地帯のシエラ)、東部熱帯低地(アマゾン地域のオリエンテ)およびガラパゴス(太平洋上)の4つの気候区に分けられる。コスタ地方は寒流であるフンボルト海流とパナマ海流の影響により、熱帯地域に位置するにもかかわらず、比較的穏やかな気候と降雨に恵まれている。
 エクアドルは地理的には比較的小さな国であるが、変化に富んだ地形、様々な気候に恵まれ、多様な植物、鳥類、野生動物にあふれる国である。ジャングル・熱帯雨林からアンデスの山岳地帯、太平洋岸、さらに動植物の宝庫であるガラパゴス諸島まで、一両日のうちに横断することが可能である。この間の気候帯として、熱帯湿潤、温帯、寒帯、熱帯乾燥、砂漠性気候まで、幅広い気候のレンジを一度に体験できる。
 エクアドルの農業は、その気候の多様性を反映して多様な形態があり、生産される食物もまた多彩である。バナナ、コーヒー、さとうきびやエビ等、エクアドルの輸出品のほとんどは海岸地方で産出する。
 エクアドルの国土は283,560km2で、日本の約4分の3に相当する。人口は13,212, 742人である。
 2005年の国内総生産(GDP)は320億USドルで、成長率は3.9%である。農林水産業の生産額はGDPの9.6%で、バナナ、エビ、コーヒー、カカオ、麻、材木、生花、砂糖などが代表的な輸出品である。地下資源も豊富であり、天然ガスと原油はエクアドルの収入の50%以上を占めている。農林水産物を含めた主な輸出先は、ラテンアメリカ(約35%)、アメリカ(約35%)、EU(約15%)、アジア(約5%)である。

3.エクアドル糖業の概要

 エクアドルのさとうきび栽培地帯は、台風・強風もなく雨季と乾季が明瞭でさとうきびの登熟には好適であるが、急峻なアンデス山脈と太平洋岸の谷間に挟まれた地域に発展しており、大陸の栽培地帯と比べると、必ずしも恵まれた条件にあるとは言えない。
 エクアドルは、世界第22位の産糖国で、砂糖は国内農業粗生産額の第17位にある。1960〜1970年代にかけて、砂糖はエクアドルの主要な輸出品目であったが、1980年代には社会的不況の影響もあって生産が落ち込み、国内の需要を満たせなくなったため輸入を開始した。砂糖生産増加への取り組みもあり、1990年代には作付面積が40,000余ヘクタールから70,000ヘクタールに届くまでに増加し、2000年の産糖量は45万トン、生産額は1億5〜6千万USドルで、GDP(115億USドル)の1.4%、農業生産額(12億USドル)の12%を占めるに至っている(表1)。

表1 年次と収穫量、産糖量、生産額およびGDPに占める割合

表2 エクアドルと日本の分蜜糖生産量(単位:粗糖換算、トン)

 生産の内訳は、精製糖が95%、粗糖が5%である。2000年に入ってから数年間の産糖量は50万トン前後であり、日本の総生産量(てん菜糖と甘しゃ糖の合計)の約56%である(表2)。
 製糖は、Vald斯、San Carlos、Troncal、Monterrey、IancemおよびIsabel Mar誕の6つの製糖企業(工場)が行っている。
 さとうきびの約9割は、コスタ地方で大規模(プランテーション)栽培されており、グアヤキル東部の工場(Vald斯、San Carlos、TroncalおよびIsabel Mar誕の4工場)で製糖されている(表3)。

表3 製糖工場と収穫面積、収穫茎重および平均収量(2000-2001年)

 大手三工場(Vald斯、San Carlos、Troncal)の作付面積は約16,000〜27,000haで、このうち約8,000〜10,000haは企業の所有地である。
 収穫は手刈りで行われ、平均収量は1ha当たり約60〜75トンである。
 7〜12月に製糖が行われ、1日当たり8,000トンの処理能力を有する工場もあり、産糖量は年間13万〜15万トンである。
 砂糖生産を通じた再生エネルギーにも力を入れており、製糖企業主導でバガスを利用したバイオマス発電転換プロジェクトが進められている。
 シエラ地方でも小規模でさとうきび栽培が行われており、日本の黒糖に相当するパネラ(panela)と呼ばれる含みつ糖(raw-brown sugar cake)が生産されている。

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4.現地視察

1)品種試験ほ場
 ワークショップの会期の3日目に、現地視察としてグアヤキル市東部にあるVald斯とSan Carlosの製糖工場構内の品種地域試験ほ場を訪問した(写真1)。

写真1 製糖工場

 訪問した時期は、雨期が終わり乾期にさしかかった頃で、さとうきびは登熟を始めようとしており、直立状態で品種の特性を観察できる好機であった。
 コスタ地方の標準品種であるオーストラリア育成のRagnarは、広域適応性品種であり、Vald斯、San Carlos、Troncalの3工場地区における作付率は、それぞれ75、62、84%である(Ragnar以外の栽培品種は、Vald斯ではB76-78が23%、San CarlosではCR74-250が18%、CC85-92が11%であり、Ragnarのみが3地区に共通して栽培される品種、2005年期)。
 Ragnarは、茎長は短いが茎数が多く、また、草型は立葉で葉量が多く、成熟後期においても生育量が多い品種型ではないかと見られた。
 エクアドル糖業研究所(CINCAE)の品種選抜試験は1998年に開始され、5つの選抜段階を経て、2005年には次の3系統が最終評価に選抜され、2007年に品種登録の予定で進んでいる。品種登録が行われれば、エクアドルでは初めての育成品種が誕生することになる。その3系統は、いずれもRagnarよりも茎長は長く、茎径は太く、現時点では多収に見えた(写真2)。
ECSP98-127:わい化病以外の耐病性は強で、粘質土壌に適する。
ECSP98-149:黒穂病の耐病性は中位で、それ以外の耐病性は強。
ECSP98-169:3系統の中ではいちばん長茎で多収。
導入品種としては、ブラジルの多収品種が最終段階まで選抜されていた。
 エクアドルにおいては、さとうきびの重要病虫害として、わい化病、モザイク病(B系統)、黒穂病、メイチュウ(わが国の種と異なるAnacentrinus spp.)があり、品種選抜に当たっては、これらに対する抵抗性、また、土壌酸度に対する適性などについて検定を行っている。

写真2 品種比較試験(左から、Ragnar、ECSP98-127、ECSP98-149)

2)エクアドル糖業研究所(CINCAE)
 現地視察では、CINCAEも訪問した。CINCAEは、1997年に設立された育種、病理、害虫、土壌肥料、分析の5つの研究室からなる総合的な研究所である。
育種研究室は、同研究所の要とも言え、十分な施設、設備を備えている(写真3)。
 交配育種を行うのに有用な日長処理を行う施設は3室からなり、それぞれ独立した日長処理が可能なものであった(写真4)。  
 交配材料は一般的な手法に準じ、ポットに植付けられ、トロッコ上で維持されていた。生育期間中はトロッコ内に水を張っており、さとうきびの生育の面からは改善の余地があると考えられた(写真5)。
 この点について育種研究部門を統括するCastillo氏に質問したところ、コストを加味したうえで改善策を考えているとのことであった。
 交配施設は、日よけを目的とした屋根のみを備える軽装のものであり、熱帯地域でよくみられるランタン式(父本の花粉が効率的に母本にふりかかるよう、また、花粉が離散して他の交配組合せに影響を及ぼさないよう、穂の部分を目の細かい布袋で覆って交配する手法)で行われていた(写真6)。
 交配から約1ヶ月を経ると、交配穂は除湿機能を持つ乾燥施設で乾燥され、採種される。日本ではさとうきびの出穂、交配の時期は冬である。交配父母本の維持、受精や採種効率の向上に保温、加温が有効なことから、重装備の温室で交配を行う。そのような状況と比べると、簡易な施設で交配を行うことができるCINCAEの状況を羨ましくも思った。

写真3 CINCAEのエントランス
写真5 日長処理トロッコの中
   
写真4 CINCAEの日長処理施設
写真6 CINCAEの交配施設


3)エクアドル糖業研究所の研究概要
 育種研究室では、エクアドルの独自品種の育成を目指した研究を行っている。
 現在エクアドルで栽培されているさとうきびの品種は、Ragnar、B76-78、CC85-92、CR74-250であるが、いずれも導入品種である。これら品種は、近年、収量が伸び悩んでおり、CINCAEは、導入品種依存からの脱却を目指している。
 このため、1998年からCopersucar(ブラジルの糖業研究所)より交雑種子の分譲を受け選抜を重ね、現在いくつかの有望系統が最終的な検定試験に供試されている。また、交雑育種法による優良品種の育成にも取り組んでおり、日長処理による開花調整により、交配組合せを大幅に増加させている。この他に、遺伝資源の遺伝的背景の解析、ウイルスフリー苗の増殖を行っている。
 病理研究室では、育成品種の病害抵抗性検定や、導入品種の検疫を行っている。
 害虫研究室では、総合害虫管理の一環として、天敵利用による害虫防除を研究している。
 土壌肥料研究室では、適切な施肥、かん水を解析している。
 分析研究室では、栽培技術へ応用するため、さとうきびの生長と土壌、水質などとの関係の分析、火入れ収穫(さとうきびの葉を焼いた後に収穫する方法)による糖分ロス(歩留り低下)の調査やさとうきび副産物の肥料への利用について研究している。
 また、CINCAEでは、現地実習や情報誌を通して、農家や学生、製糖工場の技術者らに技術指導を行っている。

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5.おわりに

 エクアドルのさとうきび生産は、わが国とはすべて対照的な条件下にある。このかけ離れた条件を軸に実施するさとうきびの比較研究は、新たな発見が期待できる。エクアドルにおいては、さとうきびの花成、出穂に絡む要因もまだ明確になっていないので、検討の機会があれば意義深いものと思われる。
 エクアドルとわが国のさとうきび栽培条件で共通した点を考えると、雨期における多雨は急峻な山岳を降下し洪水や土壌流亡の問題を起こすことである。エクアドルのさとうきび栽培ほ場を取り囲む素堀の排水溝と排水網のシステムは、さとうきびの湿害を回避し、増産を図ろうとするわが国でも学ぶべきではないだろうか。
 エクアドルはさとうきびの育種の点からは新興地であり、今後わが国に多目的な利用や遺伝資源の交換などの技術提携が求められることがあれば、協力することも必要であろう。
参考文献・URL
・ 中南米におけるCDMの取り組み.ジェトロ(JETRO)海外調査部中南米課.(2005年)
・ ポケット砂糖統計.株式会社精糖工業会館.(2004年)
・ Informe Anual.CINCAE.(2005年)
・ FAO(http://www.fao.org/
・ SICA(The Agricultural Census and Information System Technical Assistance Project,
  http://www. sica. gov. ec/ingles/
・ US Department of State(http : //www. state. gov

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