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さとうきび新品種「農林22号」、「農林23号」の特性

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2007年2月]

【調査・報告〔生産/利用技術〕】

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター バイオマス・資源作物開発チーム 上席研究員
松岡 誠

はじめに
株出し栽培で多収、早期高糖性の新品種「農林22号」(Ni 22)
茎の伸長が優れる多収の新品種「農林23号」(Ni 23)
今年度の新品種候補系統「KN91-49」
九州沖縄農業研究センターにおける品種育成の現状
おわりに

はじめに

 さとうきびは沖縄県および鹿児島県南西諸島において、栽培農家数割合で約7割、畑作における栽培面積割合で約6割を占める基幹作物であり、地域経済においても極めて重要な役割を担っている。平成7年期にはさとうきび収穫面積は2万4千ヘクタール、生産量は162万トン、単収67トン/ヘクタールであったが、平成16年期には、収穫面積2万3千ヘクタール、生産量が119万トン、単収51トン/ヘクタールと史上最低の水準にまで落ち込んだ。さとうきびは、イネなど他作物と比較すると、生産量、単収ともに年次間での変動の幅が大きい作物である。しかし、全体としてみると近年、生産量と単収は低下傾向にあり、また作付面積も減少している。
 この状況を改善するために、平成17年10月「さとうきび増産プロジェクト会議」が発足し、生産者、糖業者、行政等関係者が一体となって、さとうきび産業の活性化、増産に向けた諸施策に取り組んでいるところである。具体的な問題解決に向けた取り組みとしては、農業生産法人等の生産組織の育成や、畑地かんがい施設等の基盤整備、地域の実情に応じた農業機械の活用による機械化一貫体系の確立等々がある。加えてさとうきび栽培技術対策の一つとして地域に適応した品種の選定と普及、株出しを重視した新しい栽培方法の導入の必要性についても示されている。このような状況の中、今年度、当九州沖縄農業研究センターさとうきび育種ユニットでは、二つの新品種を育成、命名登録した。すでに鹿児島県で奨励品種として採用され、本格的な普及を急いでいるところである。これら2品種ともに株出し栽培での収量に優れる高糖性の品種であり、鹿児島県下、南西諸島のさとうきび単収増、増産に貢献するものと期待されている。
 本報告では、これら新品種の特性と、その有効な利用法について解説するとともに、現在、さとうきび育種ユニットが取り組んでいる品種育成の現状と今後の方向性についての概要を述べる。
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株出し栽培で多収、早期高糖性の新品種「農林22号」(Ni 22)

 鹿児島県熊毛地域では、現在、12月から4月にかけてさとうきびの収穫が行われている。主導品種である「農林8号」(NiF8)が収穫面積の95%以上で作付けされているが、この品種は12月収穫では糖度が低く、収穫後の萌芽が不良で株出し栽培の収量が不安定であるという問題を抱えている。奄美地域でも、「農林8号」が多く作付けされており、さとうきび収穫面積の61%を占めているが、やはり同様に株出し栽培では収量が低いという問題を抱えている。そこで、鹿児島県南西諸島全域のさとうきびの生産性向上を図るため、株出し栽培でも多収、かつ早期高糖で12月初旬からの収穫にも対応しうる品種の育成を進めた。その結果、品種として選定したのが「農林22号」である。
 「農林22号」(旧系統名:KY96-189)は、平成7年に「KF89-66」の自然受粉により種子を得、実生選抜を実施して以降、早期収穫適性、萌芽性を重視して選抜、育成した品種である。発芽、萌芽、分げつが優れ、生育初期から茎の伸長が良いという特徴を持つ(表1)。茎は「農林8号」よりも長く、茎径は「農林8号」よりも細い(図1)。重要病害である黒穂病には中程度の抵抗性を持っている。鹿児島県南西諸島地域において、可製糖量は、春植えでは「農林8号」と同程度、株出しでは多くなる(表1)。甘蔗糖度は、熊毛地域では「農林8号」を上回り、徳之島では同程度である。早期高糖で12月収穫でも可製糖量が多く、その後の株出しの収量も多い。新植の12月収穫においても収量、糖度を十分に確保したい場合には、夏植え型での植付けが望ましい。

表1 さとうきび新品種「農林22号」の特性概要
注)( )内は標準品種農林8号に対する比率(%)を示す。育成地の春植えは1月初旬、株出しは12月初旬の調査結果である。徳之島支場の春植えは1月中旬、株出しの2003年度は12月中旬、2004年度は1月初旬の調査結果である。

図1 さとうきび新品種「農林22号」の草姿
(撮影は平成17年11月、育成地・種子島の圃場にて)

図2 さとうきび新品種「農林22号」の糖度の推移
(育成地・種子島における春植えのデータ)

 鹿児島県は南西諸島全域を対象に「農林22号」を奨励品種として採用した。「農林8号」の糖度が低い地域、株出し栽培での収量が不安定な地域を中心に、熊毛地域で600ヘクタール、奄美地域で2,000ヘクタール、計2,600ヘクタールへの普及を見込んでいる。同品種は早期高糖で、早い時期から糖度が高くなる(図2)。低温条件下での萌芽にも優れていることから12月収穫後の株出しでも収量は高く、12月からの収穫はもちろんのこと、さらに早い11月収穫にも対応できる品種であるというデータも得られている。普及予定地域において、収穫期間の前進的拡張と株出し収量の向上、安定に役立つものと期待している。
茎の伸長が優れる多収の新品種「農林23号」(Ni 23)

 鹿児島県奄美地域では、5つの島(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島)で分蜜糖工場向けにさとうきびの栽培が行われている。奄美地域の主要品種は「農林8号」(61%)、「F177」(26%)であるが、「農林8号」は干ばつ条件下で、「F177」は株出し栽培や台風・干ばつ条件下で収量が低くなりやすいという欠点がある。2003年から萌芽性が良好で、風折抵抗性に優れる「農林17号」の普及を進めているが、この品種も干ばつ条件下では収量が低くなりやすい。そこで、同地域におけるさとうきびの生産性の向上を図るため、夏季に干ばつに見まわれた年でも一定程度の収量が確保できる株出し多収品種の育成を進め、選抜したのが「農林23号」である。
 「農林23号」は早期高糖で多収の「NiF8」を種子親に、萌芽性、分げつ性に優れる多収の「Ni9」を花粉親にして1994年に交配を行い、1996年に実生選抜を実施して以降、株出し萌芽性と高糖性を重視して選抜した品種である。発芽、萌芽、茎の伸長が優れ、奄美地域において春植え、夏植え、株出しの三作型ともに「F177」よりも原料茎重は重い(表2)。奄美地域における甘蔗糖度は春植え、夏植え、株出しのいずれの作型でも「F177」より高く、「農林8号」との比較では同程度以上であることから、可製糖量はこれらの品種より多い(表2)。茎は「農林8号」よりも長く、ほぼ同程度の太さである(図3)。7、8月に干ばつが発生した年でも既存の品種より生育が良く、「NiF8」、「F177」、「Ni17」より原料茎重が重く、可製糖量が多くなる。
 鹿児島県は奄美地域を対象に「農林23号」を奨励品種として採用した。与論島など干ばつが発生しやすい地域での「F177」の代替として、1,000ヘクタールの普及を見込んでいる。「農林23号」を奄美地域の干ばつが発生しやすい地域に普及させることにより、同地域における株出し栽培の収量が向上し、さとうきび生産の安定化が進むものと期待されている。普及においては黒穂病抵抗性が弱いということ、風折抵抗性もやや弱いということに留意する必要がある。黒穂病が多発している地域、台風等で風折の被害を受けやすい圃場への作付けは避けた方が良い。

表2 さとうきび新品種「農林23号」の特性概要
注)( )内は標準品種 農林8号に対する比率(%)を示す。育成地の春植えは1月収穫、株出しは12月収穫、その他 は1月収穫。

図3 さとうきび新品種「農林 23号」の草姿
(撮影は平成17年11月、育成地・種子島の圃場にて)

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今年度の新品種候補系統「KN91-49」 

 今年度、新品種候補系統として「KN91-49」を選定し、品種・命名登録申請に向けた手続きを進めているところである。同系統は沖縄本島南部地域への普及を見込んでいる。極早期高糖で、11月収穫においても既存の品種より甘蔗糖度が高く、11月からの収穫にも十分に対応することができる。また11月収穫後の株出しの収量も優れることから、「夏植え型秋収穫栽培」での活用が特に有効である。夏植え型秋収穫栽培は、気象災害に強く多収であるという夏植えの利点を生かし、さらに、現在の収穫時期(12月〜4月)よりも気温の高い秋(10月〜11月)に収穫することにより、引き続き行われる株出し栽培での収量をも改善できるという新しい作型である。この新品種候補「KN91-49」と夏植え型秋収穫栽培をセットで導入・普及することにより、沖縄本島南部地域における収穫期(現在は12月中下旬から)の前進と株出し収量の向上が実現できるのではないかと期待している。

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九州沖縄農業研究センターにおける品種育成の現状 

 農林8号は1991年に命名登録、同年、鹿児島県の奨励品種に採用された九州沖縄農業研究センターの育成品種である。平成16/17年期の資料では、農林8号の作付面積は全さとうきび栽培面積の44%(鹿児島で68%、沖縄県で27%)を占めており、南西諸島全域で広く栽培されている。早熟、高糖、多収、主要病害虫抵抗性などの優れた特性をもつ優良品種で、言い方を変えれば農家好みの品種であるといえる。しかし、農林8号の優良性がよく発揮されるのは、肥沃地での栽培においてであり、不良な土壌、気象条件下ではその能力は十分には発揮されない。品種構成という面から考えた場合、南西諸島全体でさとうきびの生産性を向上させるためには、現在、適地とは思われない地域、圃場に作付けされている品種を、そこに適する品種に置き換えていくことが効果的であると考えられる。また、適度な品種の分散は、病虫害や、気象災害による被害を軽減させるという緩衝効果もある。
 このような観点から、九州沖縄農業研究センターでは、これまで優良な新品種の育成に取り組み、近年では、各地域のそれぞれ厳しい環境条件下でも株出しで多収となる農林16号(沖縄本島北部)、農林18号(鹿児島県熊毛地域)、農林19号(沖縄本島北部、八重山)、農林20号(本島南部、八重山)などを育成してきた。これらの新しい品種は、まだ普及が緒についたばかりであり、作付面積はそれほど広くない。今後、本格的な普及と、適正な品種の選択、作付けが進めば、単位面積当たりの収量は増加するものと思われる。
 現在、九州沖縄農業研究センターのさとうきび育種ユニットが取り組んでいる育種研究の主な目標を以下に掲げる。
1.低温下での発芽、萌芽が優れ、痩せ地でも安定して株出し多収となる高糖性品種
2.夏植え型秋収穫栽培向けで、10月収穫に使える株出し多収、極早期高糖性品種
3.砂糖・エネルギー等の多用途利用を目的とした高バイオマス量さとうきび品種の開発
(1) 病虫害抵抗性に優れる多収の家畜飼料用さとうきび
(2) 砂糖・エネルギーの利用を目的とした高バイオマス量さとうきび
4.機能性を強化した高品質・食品原料向けさとうきび品種の開発
 これらの育種目標の中で、現在、特に1,2,3の目標について重点的に力を入れて新品種の開発に取り組んでいるところである。

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おわりに 

 さとうきびはバイオエタノールの原料として極めて有望なこともあり、近年、世界的に注目を集めている。現在、わが国においてもさとうきびは世間の注目を集め、期待されていることは間違いないが、バイオマスエネルギーとしての利用についての取り組みは世界的にみても遅れている。さとうきび生産、製糖産業、農政に関わる関係者の間でも、さとうきびのバイオマス利用について自由な議論ができるようになったのはつい最近のことである。研究においても、ようやく実用化に向けた本格的な研究が始められた段階であり、伊江島、宮古島においては、パイロットプラントでの実証試験が進められているところである。当さとうきび育種ユニットにおいても、これまで、高バイオマス量さとうきびを利用した砂糖・エタノール複合生産技術の開発に取り組んできた(杉本ら、2006)。これは、南西諸島におけるさとうきび作の置かれた不利な条件(島しょという限られた狭い耕地面積のなかで集約的な栽培を行わざるを得ない、また、さとうきびの生育にとっては厳しい環境条件下で栽培されている)を打破し、低コストで環境保全的機能も生かしつつさとうきび生産を持続していくためには、単位面積当たり収量の飛躍的な向上と製糖副産物の高度な利活用、および他作目、畜産との連携は欠かせないとの考えに基づいている。さとうきび育種ユニットでは、今後もこの方向性に沿って、高バイオマス量さとうきびの実用品種育成と利用技術の開発に取り組んでいく予定である。もちろん、先に示した育種目標にもあるように、当育種ユニットでは、これまでと同様に今後も、南西諸島各地で行われている製糖システムに適したさとうきび(収量・糖度の両立を目指した)の育種も進めていく。そして、この従来型の製糖用さとうきび品種の育成においては、台風や干ばつ、低温での萌芽性など不良環境適応性に間連する形質の一層の強化と、株出し栽培の収量向上に重点を置いて進めていきたいと考えている。
 当さとうきび育種ユニットは、これまでに世に出した品種、また、今後あらたに育成する品種が、広く生産現場で活用され、南西諸島のさとうきび作、製糖産業の低コスト化、持続的発展の一助となることを願って育種研究に取り組んでいる。生産者、糖業、農政など関係者各位には、今後とも引き続き、品種の育成に対するご理解とご協力をお願いしたい。

参考文献
1. 杉本明・寺島義文、2006.砂糖類情報 No. 116
2. 伊禮ら、2006. 九州沖縄農業研究成果情報 第21号、59-60
3. 氏原ら、2006. 九州沖縄農業研究成果情報 第21号、57-58

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