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「品目横断的経営安定対策」下における先導的農業者の畑作経営展開の意向

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2007年9月]

【調査・報告〔農家経営/利用技術〕】
 
(社)北海道地域農業研究所 常務理事黒澤 不二男

Ⅰ課題の背景

  平成15年度に独立行政法人農畜産業振興機構と(社)北海道てん菜協会は、てん菜糖業各社と関係農協の協力を得て、てん菜作付農家に対して、今後のてん菜生産の指針を得るために「アンケート調査」(有効回答457戸)を実施。その取りまとめに筆者も参画した。その中で、てん菜作に対する経営者の自己評価を検証した。自己評価の主要な尺度として、てん菜作収益に関する「満足度」を設問したが、その結果は、選択肢のうちの、(1)大変満足と(2)満足、の計で見ると、回答総計で42%、道南・道央地域では46%、道東(帯広地域)が44%、同じく道東(北見地域)で36%となった。これとは逆に(4)やや不満と(5)大変不満、の計は、総計で33%、道央・道南地域で31%、道東(帯広地域)30%、道東(北見地域)が37%とほぼ同率を示している。これより、肯定的評価が否定的評価を10%程度上回っていることが明らかとなった。

  このような評価の要因として、(1)糖価調整制度に支えられた、てん菜の生産物価格の安定性、(2)栽培技術の定律化(機械化作業体系の確立と生産力の高位平準化)、(3)輪作体系に占めるてん菜の不可欠性が立証されたのである。

  それから、4年経過した現在、戦後農政の大転換と言われる「品目横断的経営安定対策」(=日本型直接支払い制度)が実質的に始動することとなった。その政策支援対象でコメ以外の畑作4品目の一つであるてん菜は、初めて栽培された明治期から現在に至るまで、幾多の消長を繰り返しながらも、冷害に強く北海道に適した寒冷地作物として、重篤な助成政策等を受け、作付面積を順調に拡大させ、平成18年に作付面積は67,400ha、収量水準も58.2トン/haになり、我が国に不可欠の甘味資源作物として、また、北海道畑作の基幹作物として重要な地位を占めている。

  しかし、新たな政策体系のもとで、てん菜のみならず本道畑作の総体的環境変化が起ころうしている中で、寒冷地畑作の優等生的ポジションにあったてん菜もその渦中の中心的存在となっている。与件が大きく変化した中で、北海道の地域における先導的畑作農業者の経営におけるてん菜作部門の位置づけと問題意識を探ることは有意義であると考え、これら先導的畑作農業者(北海道農業士)への意向調査を実施した。

Ⅱ調査のフレーム

1 調査の構成
  (1)先導的農業者への意向配表
   (調査票は設問数95(A4版4P)で無記名方式、平成19年1月末に郵送配付)
   対象;北海道指導農業士 100戸 (畑作関係)
  (2)抽出農家聴き取り調査 
   対象;上記回答農家のうち5戸(地域、経営形態、規模を勘案)

2 対象選定の考え方
  北海道認定の「指導農業士」を対象としたのは、経営現況の安定性や意識の先見性、地域農業に対する影響力(指導性、波及性)に留意したからである。

3 調査対象の選定
  調査対象の選定は以下のように行った。対象の母集団は北海道指導農業士会で、平成18年度で会員355名(名誉会員を除く現役会員)、そのうち登録営農類型(形態)に畑作部門を含む会員は147名。その中からランダムに100名を抽出(68%)した。

Ⅲ結果の概要

1 回収と有効回答
  回収は70戸分(70%)であったが、その中にてん菜の非作付けを理由に全項目未記入が18戸あったので有効回収は52戸(回収率52%)であった。
  回収52戸を表1により地域・経営形態・営農類型別に示したが、経営所在地は道東地帯が56%、道央地帯(転作てん菜を含む)が33%、道北地帯が12%で、おおむね本道のてん菜生産の地域性をほぼ代表している。
  経営類型では、圧倒的に個別経営が主体で75%、法人は25%。営農類型では畑作専営が39%、次いで畑作・野菜複合が27%で両者併せて65%となっている。
  なお対象者の年齢区分は特に問うていないが、指導農業士の認定要件の下限及び名誉会員規定による上限から、40歳から65歳の年齢帯に属し、まさに経営を中心的・主体的に担っている世代とみることができる。

2 回答結果の解析
  回答者の属性を概括的に表2に示した。労働力関連で自家労働力(家族)をみると、総体平均では3.2人で、本道の一般的家族労働力保有状況の水準を上回っているが、理由として推測できるのは、営農の安定性等に起因する後継者充足率の高さ等であろう。また、地域別で道央が3.8人で他の2地域より有意に多い。また、農期間の常雇いが1.4人と際だって多いが、これは対象の中の2つの法人がそれぞれ8.0人と7.0人の常雇いがいるためである。法人構成員家族を常雇いとカウントしているからで、それを除外すると0.5人となる。それでも基幹的労働力が相対的に多いのは、営農類型が集約的な野菜作部門や稲作部門を含むウエイトが高いためと考えられる。
  さて次は、回答結果の中から、解析の視点を以下の6項目に絞って検討してみることとする。

表1 アンケート調査有効回答の対象経営


(1)てん菜栽培の規模及び生産力と経営内の位置づけ
  表2にみるとおり、てん菜の作付けは総体平均[てん菜非作付け農家7戸を含む]で7.6ha(うち移植7.2、直播0.4ha)と作付規模は必ずしも大きくはない。それぞれてん菜作付農家のみの平均面積では8.7ha(うち移植8.3ha、直播0.4ha)となる。それでも直播を行っている農家は4戸のみで、その作付面積は4.4haである。この4戸の中で直播面積最大は道東部(網走管内)で自作地50.0haと借地43haによる大規模畑作(小麦主体)を行っている法人が5.3haのてん菜を直播している。移植てん菜も12.6ha作付けし「てん菜作比率」は20.0%と標準的で、休閑緑肥の作付けもあり輪作体系を順守しているのが注目される。

  次に、てん菜の生産力に関してみれば、現在までの、てん菜生産の拡大に寄与した最大の要因としては、それまで主流であった「直播栽培」に替わり、昭和36年に画期的な安定多収技術として「紙筒移植栽培法」(以下は「移植栽培」)が開発され、急速に普及したことが挙げられる。優良品種の導入、施肥・病害虫防除技術の向上とともにてん菜関連の農業機械の開発や輸入とその利用によって機械化栽培体系も定着し、労働生産性も著しく向上してきた。本調査対象における生産力(単収水準、糖分含量)も良好な水準を示している。ちなみに、同じ18年産の北海道平均(農水省「作物統計調査」)の単収は10アール当たり5,820kgなので、これを約5%上回っている。

  また、経営内のてん菜の位置づけを総体粗収益に占めるてん菜収益の割合でみると総平均で20.0%、道東では26.9%、道北で22.7%とほぼ1/4、道央では15.9%と作目構成を反映してやや低くなっているが、総じて基幹的なポジションを占めている。

表2 対象経営の概要


(2)現況のてん菜栽培に関する条件整備の課題
  現在、てん菜栽培が内包する課題は種々あると考えられるが、まずここでは、てん菜栽培に関わる機械化問題について検討してみよう。まず、移植機の現行利用機種は半自動・2畦用が主体で32戸が利用、次いで全自動・4畦用が7戸、半自動・4畦用が4戸となっいる。この利用移植機に対する評価とニーズを聞いた結果を表3に示した。「ほぼ満足」が22戸、42%、「より高速化・精度向上」、「半自動より全自動」、「より多畦化」を希望するというのが総体で21戸、40%となっている。また、収穫機に関しては、牽引式・1畦用が41戸、78%と圧倒的で、現在一部地域に導入・利用されている自走式・2畦用は1戸のみの利用となっている。

  同様に、収穫機でも評価とニーズを表4でみると、「ほぼ満足」が37戸、71%と高く、「より高速化・精度向上」、「より多畦化」を希望するというのが総体で7戸、13%と低い。これは現状肯定的ということもあるが、高性能機に関する具体的イメージが少ない、すなわち情報が乏しいということもあるのではと考えられる。これらと面談調査の中から、移植にしろ直播にしろ機械装備・栽培技術等に対する評価として、「安定的で大きな不満はない」ことと、規模にかかわらず「労働制約をあまり感じていない」、したがって「高性能の大型機械」や「新しい生産組織(コントラクタ的機能)創設」に関する直接的ニーズは必ずしも高くはないことが傾向として明らかとなった。

  しかし図1で、てん菜関連生産組織に関する意見を見ると、「組織の必要性は感じない」は16戸、31%と「利用可能な組織はあるが未利用」が6戸、12%と消極的なように見えるが、「既に利用している」7戸、14%、「新しい組織を創設すべき」7戸、14%、「畑作総体の共同化・法人化が必要」7戸、14%、併せて21戸と積極・肯定派もほぼ同率で拮抗しているのである。面談調査等の結果からも、作業受委託システムの定着の要件として、(1)妥当な料金水準、(2)作業適期の順守、(3)信頼関係の構築、(4)核となるハード(高性能・大型機)導入に関する公的支援、などが提言されている。

表3 移植機に対する評価
表4 収穫機に対する評価

図1 てん菜関連生産組織に関する意見


(3)てん菜栽培の計画
  てん菜の当面の作付に関しては、「18年実績を踏襲」が36戸、69%と圧倒的だが、「周囲の生産縮小農場枠で拡大」という積極派が4戸、「縮小する」が3戸あった。基調としては抑制的な意向であるが、「作付拡大をする場合はどのくらい面積を増やせるか」という設問に対して、「5〜10ha」が首位、次いで「3〜5ha」と「2ha未満」が同数であった。首位の5〜10haという答えから、潜在的な生産能力と意欲はかなり高いことがうかがわれるのである。それは、労働制約をあまり感じていないという前述の傾向とも符号すると考えられる。それではなぜ当面は前年踏襲なのかというと、新しい政策・制度が現実的に自己の経営にどう影響するかが読み取れないという危惧があるからだと言えよう。直播に関しては『発芽期のリスクが大きく導入は困難。しかし、てん菜価格(政策支援があったとしても)の下落があるようであれば、直播も選択肢として考えたい』という声が聞かれたが、これは必ずしもマイナーな見解ではないと考えられる。

(4)政策・生産環境の変化に関する評価と対応
  逆にデメリット(複数回答)を聞くと、「生産向上意欲を低下させる」が33件、33%、「農地流動化を抑制」が29件、29%。「農業者の自立心を低下させる」が15件、15%、「不作付地・耕作放棄地が増加」、「コスト低減の意欲低下」が全く同数で6件、6%となっている。メリットの設問とは異なって、「デメリットは特にない」という答えは僅か2件、2%に止まっている。この評価をみると、緑ゲタの具体的メリットがイメージし難いのに対して、デメリットはイメージしやすいということが回答件数の差、69件対100件にも表れているように感じられる。

  次に緑ゲタによる支援水準に関わる「4品ごとの面積あたり支援単価の決め方」については、表6に示したように、「複雑過ぎて制度本来の趣旨に合わない」という批判と「地域別、農場別の単価区分は経営努力の及ばない条件格差を肯定するので問題」という批判がほぼ同数で両者で87%に達している。支援単価の水準や決定の仕組みに関しては農業者のみならず農業関係機関からも改善要求の声が高い。その他、毎年の生産量・品質に基づく支払い(黄ゲタ)については、表7に示したように「品質・等級別ランクに対する不満」が大きく、収入減少影響緩和対策(ナラシ)については、大幅変動時の効果や基金の運営面に関する懸念が提起されている。総じて言えば、緑ゲタや黄ゲタ政策についても一定の安定感を与えるものとして歓迎もしているが、生産に対するインセンティブ低下を懸念する声も強い。現在まで、地域において生産力向上や営農改善に先導的役割を担ってきた「指導農業士」という責任感や自負も影響しているのではと感じた。

表5 条件不利補正対策(緑ゲタ)に対する評価

表6 面積支援単価の決定方式に対する意見

表7 数量・品質払い(黄ゲタ)と変動緩和対策(ナラシ)に対する意見

表8 てん菜作指標面積の意見


(5)てん菜生産に関わるシステムの変化への対応
  緑ゲタは、過去のてん菜生産実績(平成16年産〜18年産)に交付対象比率94.6%を乗じた期間内生産量(支援対象数量)を、面積に換算して交付が行われる。17、18年産は、JA別に基準産糖量を設定し、交付金対象数量に上限が定められていたが、19年産からは、各JAへ基準産糖量の設定はせず、交付金の対象となる支援対象比率も全道共通の比率となる。このような情勢変化を受けて、生産の調整等に関わる考えを聞いたのが表8である。

  「農協系統による指標設定とその遵守」と「政策支援の前提として指標面積を遵守」という答えが、ほぼ同一内容だとすれば、この両者で24戸、46%となるが、次いで「新しい生産コントロールシステムを検討(創設)すべき」が19戸、37%となっている。

  この、「新しい」というイメージは明確ではないが、改訂されたてん菜及びてん菜糖に関する仕組みの永続性に関して抱いている漠然とした危機感が反映していると受け取るべきではなかろうか。

  また、てん菜・砂糖をめぐる需給環境や制度変化に対して受容せざるを得ないという認識もがうかがわれるが、注目すべき見解として『砂糖が不足しているという情報もある。砂糖の消費低迷もさることながら、流通体制に問題があると思う』や『代替甘味料、ソルビトールの利用急増や加糖あんの輸入増大が国産糖を圧迫している』という声も聞かれた。 

(6)新たな事態・バイオエタノール生産に対する評価
  政府は、京都議定書で定められている二酸化炭素等の温暖化ガス削減目標の達成のため、「バイオマス・ニッポン総合戦略」をかかげ、石油代替としてのバイオマス輸送用燃料の国内生産の拡大をめざしている。「JAグループ北海道」でもバイオエタノールなどカーボンニュートラルであるバイオ燃料の製造は地球温暖化防止と農産物の燃料用需要を拡大して需給調整をはかる効用が認められることから、国の全面的支援のもとに平成18年から検討を続けてきた「バイオエタノール生産」実施に踏み切り、19年7月には新会社を発足させた。ホクレン清水製糖工場に隣接して年産1.5万キロリットル規模の工場を建設し、交付金対象外てん菜8万トンの糖みつと規格外小麦2.25万トンを主原料とするアルコールを醸造、ガソリン添加剤のETBE用に供給することとなった。なお、本「アンケート調査」時点では、構想は論議されてはいたが、現地の生産者サイドに詳細な情報は伝わってはいなかったことに留意する必要がある。設問は「てん菜原料のバイオエタノール生産」に対する見解を聞いたもので、表9にその結果を示した。

  「生産コストが引き合うならてん菜の原料仕向けを推進すべき」が18戸、35%、「てん菜のバイオエタノール原料仕向けは国策として推進すべき」が13戸、25%でスタンスに若干差異はあるものの両者併せた推進派は31戸、60%を示し、これに対して「低食料自給率のもとで農産物を原料とするのは問題」という反対派が8戸、15%。「実証プラントの稼働実績を見て判断」という慎重派が9戸となっている。てん菜の需給調整という側面から止むなしという苦渋の選択とむしろ国策として積極的に推進すべきという推進派でも、面談すると『実証プラントの実績、特に経済性が保証されるかどうか、また生産者に支払われる原料代金などを見定めるまで最終判断は保留したい』との意見が大勢を占めたことを付言しておきたい。

表9 バイオエタノール生産とてん菜

まとめ

  北海道におけるてん菜糖生産は、てん菜糖業3社の8工場によって担われてきたが、その意味において、てん菜耕作者とは不即不離の関係にある。この糖業各工場の現行体制(配置、操業規模、糖区構成等)に対する評価の大勢では、地域のてん菜生産を支える拠点としての機能を評価し、その体制を堅持すべきだとエールが送られているが、一部には再編・統合や施設拡充等により生産コスト低減に一層努めるべきだとの厳しいコメントがあったことを付言しておきたい。

  本調査から明らかになったこととして、現段階では、てん菜作の新たな高性能な機械や生産技術の導入は、実態的(認識を含めて)に想定していたような深刻なレベルにはなく、保有労働力、現下の技術体系(機械装備等も含めて)の成熟度で対応可能な範疇にあるという認識が支配的であることが明らかとなった。その論拠としては、直播栽培への志向、作業委託等へのニーズ、法人化(協業化)意向、高性能機械の共同所有・共同利用意識等が想定していたレベルより希薄であったことを挙げたい。しかし、面談した農業者のコメントや自由記述欄に表明されているように、集落における担い手の減少が招来している不作付地や耕作放棄地の増加、今後の農業展開の展望が明確に見いだせないと悩んでいる農業者の存在によって、いま焦眉の課題となっているWTO農業交渉や日豪FTA交渉の帰結いかんに関わらず、関係者一体となって現状肯定的な認識を厳しく点検し、新たな対応が必要となっていることを確認させられた次第である。

  新政策体系のもとで、てん菜以外の畑作品目も、新たなシステムに移行することから、中・長期的には4品を基幹とする畑作経営も総体的に見直さざるを得ない事態も予測されるので、単なる個別経営の見直し・点検のレベルを超えてJA等の先導による地域農業の再編・強化が求められているのである。

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