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大正土壌診断プロジェクトチームの活動(酸性土壌改善策の一環として)

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[1999年7月]
 北海道十勝地方は、馬鈴薯(じゃがいも)、豆、小麦、てん菜(砂糖の原料となるビート)の4作物を順番に栽培していく4作物輪作地帯として知られている。最近、馬鈴薯の大敵である「そうか病」を防ごうとするあまり、土壌を酸性にしすぎてしまい、他の作物、特にてん菜の生産に悪影響を及ぼしていると指摘されている。帯広大正農協では、関係者と一体となったプロジェクトチームを結成し、その対策に取り組んでいるので、最新の状況を紹介していただいた。

大正土壌診断プロジェクトチーム事務局
帯広大正農業協同組合 営農振興部営農振興課
鳥居 祐児


はじめに
1.低phの現状と対策
2.てん菜実証展示ほ場調査結果の概要と考察
3.今後の取り組み(展望)


はじめに

JA帯広大正位置図  JA帯広大正は、北海道帯広市の中心から南17kmに位置し、管内には十勝の空の玄関である帯広空港があり、夏は暑く冬は寒い大陸性気候で、年間を通して十勝晴れといわれる澄みきった青空の晴天が全国で最も多い地域である。
 地形は平坦であり、耕地は一部が沖積土の他は大部分が火山性土である。
 大正地域は「大正メークイン(馬鈴薯)と大正金時(豆)のふるさと」として知られており、基幹作物は、小麦、てん菜、馬鈴薯、豆類であるが、近年野菜の作付けも伸びてきており、特に長いもが馬鈴薯、豆類に並び当地域の特産となっている。野菜を含んだ畑作酪農地帯である。

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1.低 ph の現状と対策

 当地域では古くから食用馬鈴薯(メークイン)の生産が盛んであり、その反面食用馬鈴薯の天敵であるそうか病との戦いでもあった。そうか病は土壌の酸性度合(pH)の高低が影響し、pHが高いほど罹病する可能性が高くなるといわれている。そのため、土壌の中性化を図る石灰質資材の施用も、他の地域から比べると少ない状況であった。このような状況が長年にわたり続き、近年の各作物の収量が伸び悩んでいるため、平成9年度から全額農協負担により、管内約3,000筆あるほ場を3ヵ年で全て分析する土壌分析診断事業を開始した。
 その結果、平成9年度の約1,000筆の分析結果のうち約7割がpH5.5(かなり強い酸性)を下回り、作物の生育には不適当なpH5.0に満たないほ場も2割あるという深刻な状況にあることが明らかになった。この緊急を要する問題解決を行うため、当農協は、十勝中部地区農業改良普及センター、帯広市、帯広市農業振興公社、十勝農業協同組合連合会に協力を要請し「大正土壌診断プロジェクトチーム」を結成した。
 平成10年度の事業として、 a)約900点の土壌分析を実施したほか、 b)生産者に現地ほ場をみて実感してもらうために、てん菜ほ場において石灰施用の効果を確認する実証展示ほを管内生産者ほ場12ヵ所に設置し、 c)現地での青空研修会のなかで技術改善講習を行った。その他に、pHの高低による馬鈴薯への影響、小麦のタンパク含有量調査及びアンケート調査を行い、懇談会、講習会等で生産者に周知することで、営農技術の改善を図ってきた。

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2.てん菜実証展示ほ場調査結果の概要と考察

(1) 気象経過と生育の概要
ア) 平成10年は、移植直後に強風と降霜を受け、一部再移植や直播ほ場が見られたが、当実証展示ほにおいては影響のなかった場所で調査を実施した。
イ) 移植後、気温はやや高めに経過し活着は良かった。
ウ) 6月に入り低温となり、生育はやや停滞した。
エ) 6月下旬から7月上旬は、天候が回復し高温となったが、7月中旬以降再び低温傾向で経過したものの生育は順調であった。
オ) 9月に入り気温はかなり高く経過し、また、8月下旬からの多雨は、根部の肥大を良くしたが、根中糖分の上昇を妨げた。
(2) 生育調査結果の概要
生育調査結果/畑 生育調査結果/ビート

ア) 草丈、根周は、移植時の土壌pHの影響が大きく、土壌pHが低い(酸性が強い)ほど生育は劣った(図1、2)。
イ) また、慣行区と比較して生石灰施用による改善区は、土壌pHが低いほど効果が高かった(図3)。

図1:土壌pHと草丈 図2:土壌pHと根周
図1:土壌pHと草丈 図2:土壌pHと根周
図3:収穫時の根周囲
図3:収穫時の根周囲

(3) 収量調査結果の概要(図4、5)
ア) 根重は、移植時の土壌pHが適正か(pH5.5〜6.0)やや低いほ場では、生石灰施用による増収効果は見られなかった。しかし、低いほ場では増収効果はかなり高かった。
イ) 糖分は全体的に低く、特に根部の肥大が良いほ場は低い傾向であった。
ウ) 糖量は、根重とほぼ同様の傾向であった。

図4:土壌タイプ、移植時土壌pHと収量
図4:土壌タイプ、移植時土壌pHと収量
図5:土壌タイプ、移植時土壌pHと糖分
図4:土壌タイプ、移植時土壌pHと糖分

(4) 土壌pH調査結果の概要
ア) 畦間の土壌pHは、全体的に移植後65日頃にやや高くなる傾向が見られ、その後一時移植時の土壌pHに戻ったが、収穫時には再び高くなる傾向を示した。
イ) 株間の土壌pHは、慣行区と比較して改善区で施肥による土壌pHの低下を抑える傾向にあり、これが生育、収量の改善に結びついたものと考えられる。

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3.今後の取り組み(展望)

 平成9、10年度に取り組んだ事業、特にてん菜実証展示ほにおいては、生産者に土壌管理の必要性を理解してもらうことができた。また、一時的な処置ではあるが、てん菜における石灰施用の効果も実証できたことは、今後の収量及び所得の確保に大きな影響を与えると思う。
 しかし、当管内の食用馬鈴薯の主産地という位置付けはこれからも変わることはなく、てん菜ほ場に石灰を施用した場合の次年度馬鈴薯作への影響がないといわれていることについては、生産者の間にまだ定着していない。そのため、当プロジェクトでは11年度事業において、 a)てん菜実証ほ後の馬鈴薯ほ場での生石灰による影響を調査し、実証するとともに、 b)農協主体で行ってきた土壌分析・管理を生産者個々で行うため、ほ場管理台帳を作成、配布する。今後、当地域の作物収量・品質及び所得の向上を図るため、より一層の土壌管理の必要性を訴えていきたい。

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●1999年7月 大正土壌診断プロジェクトチームの活動
(酸性土壌改善策の一環として)

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