[1999年9月]
神戸大学 名誉教授
河本 正彦
1.ショ糖化学(スクロケミストリ)
1・1 生物資源の工業的利用
石油化学工業では、石油を原料として多種多様の物質を分離・合成し、衣料、建材、包装材、薬品等の生活資材を生産し、現代社会を支えている。現代社会は石油化学を抜きにしては考えられない。現代はまさに石油化学の時代である。
第2次世界大戦後、化石資源、特に中近東におけるおびただしい石油資源の開発とともに、従来のバイオマスの生産及び利用システムが根本的に変化した。例えば、羊毛、麻、綿の如き生物資源は合成繊維に、木材・木炭の如き伝統的燃料は石油、ガスにとって代わられた。
しかし、石油化学工業には長期的にみると大きな致命的欠点がある。10年、20年の短期間は別として100年単位で考えると、再生産のできない石油資源が先細りのものであることは論を待たない。しかも石油化学工業は、しばしば毒性の生分解性のない廃物、副産物を排出し、最終的に環境を汚染する。
これに対し、太陽エネルギーのある限り、再生産の可能な生物資源に人類の将来のエネルギー及び生活資材の供給を託しようとすることは当然のことではなかろうか。
地球上の年間2,000億トンにのぼる再生産可能のバイオマスの約95%は、炭水化物であるが、人類に燃料、食料、諸種材料として利用されるのは3%以下で、残りは未利用のままである。
工業原料として、石油に代わり得る潜在能力をもつ生物資源としてセルロース、でん粉、砂糖を挙げることができる。中でも、砂糖はセルロースやでん粉に比し、分子量が遥かに小さく、多様な化学的機能をもっている。また、砂糖は高純度のものを大量に適当な価格で生産できる利点をもっている。
1・2 ショ糖化学の誕生
砂糖と人類のつきあいが始まって約2,000年になるが、初期には生産地が限られ、生産量も少なかったため、砂糖は、まさに王侯貴族専用の貴重な食べ物であり、万能の医薬でもあった。しかし、新大陸の発見、産業革命、ビートの発見等とともに砂糖の生産量は増加を続けたが、特に1850年から1900年の50年間に世界の糖業は大発展した。
このことと、この時代の大衆の生活水準の向上とが一緒になって、砂糖の消費量も急増した。第1次世界大戦後、米英をはじめ多くの欧米諸国の1人当たり砂糖年間消費量は30〜50kgに達したが、この水準は第2次世界大戦後の今日でもあまり変化がない。いわゆる発展途上国と呼ばれる諸国では消費増の傾向が続いているのに対し、欧米等のいわゆる先進国と呼ばれる諸国では製糖産業は成熟の段階に入っていると考えられる。欧米の製糖メーカーが砂糖消費の停滞、生産過剰、糖価の下落といった問題に対処するため、砂糖の利用面の拡大と開拓に力を入れ始めたのは第2次世界大戦直後のことである。
1943年にアメリカの製糖業界の指導者らは、SRF(Sugar Research Foundation砂糖研究財団)を設立した。SRFの指導者Hass氏は、石油を原料とする化学製品を製造するための化学が石油化学と呼ばれているのにあやかり、砂糖(ショ糖)を原料とする化学製品をショ糖化学製品(Sucrochemicals)、それを製造するための化学をショ糖化学(Sucrochemistry)と命名した。
SRFは発足以来、ショ糖化学に関連するテーマで活動する研究者らに助成金を提供した。1968年にSRFをISRF(International SRF)に拡大したが1978年にこれを廃止し、世界砂糖研究財団(World Sugar Research Organization)に業務を引き継いだ。
1・3 ショ糖化学の進歩
第1図 スクロース(ショ糖)の構造式
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砂糖は、第1図のようにグルコース(ぶどう糖)(左側の6角形)とフルクトース(果糖)(右側の5角形)が酸素(O)を介して結合した2糖類(2つの単糖が結合したオリゴ糖)で、非還元性である。8つの水酸基(OH)をもつため非常によく水に溶け、各種の誘導体(ある化合物の分子内の小部分が変化した化合物)を与える。
第1図のような構造をもつことが分かったのは、比較的新しいことである。1747年にドイツのMarggrafがさとうきびから作られた砂糖と飼料用ビートから分離した結晶状の甘味物質がどうやら同一物質らしいことに気付いた。しかし、両者の構造は全く不明であった。
第1図IIに示す立体配座(コンホメーション)に到達するまでには数多くの分析法の利用と多くの年月が必要であった。
このように砂糖の構造に関する知見が長い間不十分であったため、砂糖の誘導体に関する研究はそう多くない。例えば、1965年までに合成された誘導体は15種で、1994年までのものも300種位にすぎない。ショ糖化学の本格的研究はまだ始まったばかりであるとも言える。
2.砂糖の工業的利用
現在、結晶砂糖は大部分が食用に供されており、非食品利用は今後に期待するところが多い。
砂糖の非食品的利用のための原料として、安価な廃糖蜜が飼料、エタノール、ブタノール、アセトン、アミノ酸などの製造に用いられている(詳細は浜口、河本「糖蜜ハンドブック」参照)
結晶砂糖の非食品的利用に関しては、十分に知られていないが、日本におけるデータを第1表に、ECにおけるものを第2表に示す。
以下、表に記載されたショ糖化学製品について主なものをピックアップ、解説してみる(詳細は第一インターナショナル発行、「新甘味料技術資料集」、河本13〜36頁参照)。
第1表 わが国における工業用砂糖の消費量 |
(谷口学;糖業資報、2号.9頁、昭58) |
品 名 |
糖 種 |
昭55 |
昭56 |
焼酎乙類 |
第1種甲(黒糖) |
1,451t |
1,391t |
シュガーエステル |
砂糖第2種(精製糖) |
950 |
1,000 |
ブラストサイジンS |
〃 |
146 |
80 |
カラメル |
〃 |
4,000 |
4,000 |
デキストラン及び その誘導体 |
〃 |
100 |
100 |
イタコン酸 |
〃 |
3,000 |
3,000 |
ペニシリン |
糖水第2種(液糖) |
2,665 |
0 |
ポリオキシアルキレン スクロース (硬質ポリウレタン用) |
砂糖第2種(精製糖) |
2,100 |
2,600 |
昭57 2,400 昭60 2,500
昭58 2,600 昭61 2,500
昭59 2,600 |
養蜂飼料 |
〃 |
100 |
100 |
界面活性剤が脂肪酸系の ものから成る洗剤 |
〃 |
176 |
102 |
たばこ |
〃 |
4,600 |
4,700 |
合計(固形分) |
|
18,489t |
17,073t |
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第2表 ECにおける化学工業用砂糖の消費量 |
(Zuckerind, 110, 1007, 1985) |
品 名 |
1978/79 (t) |
1981/82 (t) |
カラギーナン |
585 | 362 |
か性ソーダ |
300 | 3 |
けい酸ソーダ |
214 | 50 |
マンニット及びソルビット |
12,741 | 8,994 |
シトラコン酸(イタコン酸) |
5,438 | 2,687 |
乳酸、その塩とエステル |
5,619 | 6,022 |
クエン酸 |
4,049 | ─ |
アミノ酸 |
693 | 831 |
ビタミンB12 |
─ | 3 |
果糖 |
5,670 | 10,861 |
ペニシリン |
25,804 | 14,885 |
他の抗生物質 |
5,591 | 665 |
医薬品 |
450 | 200 |
合成有機色素 |
469 | 231 |
センイ光沢剤 |
32 | ─ |
透明石けん |
61 | 99 |
有機界面活性剤 |
37 | 398 |
各種にかわ |
642 | 628 |
酵素 |
─ | 39 |
殺菌剤、殺虫剤、除草剤、殺そ剤 |
585 | 325 |
鋳物用 コアバインダ |
381 | 67 |
ソルビット(上のソルビットと税法上別扱い) |
118 | 85 |
ソルビットのクラッキング製品、 コンクリート型枠剤、セメント固化減速剤 |
1,645 | 2,895 |
フェノールプラスチック |
814 | 48 |
アミノプラスチック |
178 | 1,060 |
ポリアルキレングリコールエーテル (ポリウレタン用) |
7,927 | 8,886 |
デキストラン及びヘテロ多糖 |
2,229 | 1,778 |
合 計 |
82,272 | 62,102 |
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2・1 あらかじめ化学的変化を与えない利用法
2・1・1 飼料
多くの家畜にとって砂糖はすぐれた栄養素で、また多くの家畜は砂糖を好むので、安価な糖蜜が飼料として大量に利用されている。結晶糖も全世界で約100万トンが、主として幼畜用に消費されている。飼料用砂糖は、税法上、フスマ、魚粉、食塩などで不可飲食処理される。ドッグフードにも砂糖が加えられている。
2・1・2 医薬品(特に傷薬)
その希少性と相まって砂糖は古来、万能の医薬品として尊重されたという。薬効はともあれ、白糖及び精製糖は、今でも日本薬局方に収載された1137医薬品に含まれるれっきとした医薬品で、甘味剤、シロップ剤、トローチ剤、糖衣剤として利用されている。
砂糖は、傷薬としてハチミツとともに古くから用いられており、今でもアルゼンチンでは牧童の常備薬とされている。1979年に始まるソ連軍の侵攻に伴うアフガニスタンの内戦で、ソ連軍の埋設した地雷により多くの人々が死傷した。医薬品の欠乏に苦しんだ当時の人々は、傷口を結晶糖で被うだけで生命をとりとめた人も多いと伝えられている。
ドイツの古い文献(1883年)によると、19世紀後半に砂糖とナフタリンの等量混合物及び砂糖50%とヨードホルム10%の混合物が傷薬として利用されていた。1981年のアメリカにおける56カ月の臨床試験の結果、砂糖とポビドン・ヨードを含有する軟膏が傷薬として有効なことが発表されている。わが国でもこの軟膏がひどい床ずれの治療に卓効を示すことが複数の大学病院で確認されている。
2・1・3 切花保存剤
ある研究者は、1912年に、カーネーション、バラ、キク等の切花は、それぞれ濃度10〜15%、7〜10%、15〜17%の砂糖水溶液に挿すことにより保存期間が約2倍に延長されることを報告している。この現象は、1800年代にすでに知られていたことであるが、現在は砂糖を主成分とした切花保存剤が商品化され、わが国でも数社が類似品を市販している。切花出荷の約10日前に立毛のまま上白糖の1%水溶液を噴霧して、切花の寿命、品質を改善する方法が実施されているという。
切花の延命は、いかなるメカニズムによるのか不明の点が多いが、Nakamura(Bioci.Biotech.Biochem.62,49-53(1988))は、ショ糖が呼吸基質(呼吸に関与する物質)及びミトコンドリアの保護の役目を果たし、各組織の浸透性の電位を向上させるためと考えている。
2・1・4 植物栄養剤・土壌改良剤
第2次世界大戦前に糖蜜の肥料としての効果を検討する多くの研究が行われた。
最近、山土の採取跡地の法のり面めん保全のために、跡地に糖蜜希釈液を散布する方法が検討されている。これは糖蜜散布により土中のミクロフローラ(微生物群)の繁殖、植生の成長が促進されるとの考えに基づいている。また、ゴルフ場の芝生の刈り込みの後に、洗糖蜜などを散布することが、アメリカ、日本でかなり広く実施されている。この処理法は、多くのグリーン・キーパーにより支持されているので、実効のあるものと考えられる。第2次世界大戦後、尿素肥料の発展のめざましい頃、表面散布という技法が喧伝された。これは尿素水溶液を作物の葉面に散布することにより施肥しようとするものである。ただし尿素水溶液だけでは、「葉焼け」障害が起こるので、尿素水溶液に砂糖を溶かし込まねばならなかった。
以上、砂糖には何らかの「力」が秘められているように考えられる。しかし「力」の有効性の確認、メカニズムの解明なしでは、例えば、植物栄養剤としての市場性の確立は困難である。
Cookseyら(Science,220,1398(1983))は、砂糖がフイトアレキシン誘発物資であることを実証している。フイトアレキシンとは、微生物が植物体内に侵入した時に、植物体で合成される抗菌性物資の総称である。
Cookseyらの研究を糖液散布によるゴルフ場芝草の成長促進の場合に当てはめてみよう。刈り取り機により傷だらけになった芝草は、外敵(微生物)の脅威にさらされるが、糖液の散布により生まれた力強い援軍「フイトアレキシン」のおかげで、順調な傷口の回復、再成長が可能となるのではないか。切花の砂糖による保存にも類似のメカニズムが働いているのかも知れない。
2・1・5 ワサビと砂糖
第2次世界大戦前に糖蜜の肥料としての効果を検討する多くの研究が行われた。
信州は松本のソバ屋さんでの体験である。松本のソバ屋さんでは机上に小さなおろし金とグラニュー糖ポットが置かれていた。生ワサビの茎をグラニュー糖に押し付け、ワサビを砂糖と一緒に磨ると非常にききがよい。こうした知見の積み重ねが砂糖の新しい用途の開拓につながっていくのではないか。
2・2 あらかじめ生化学的または化学的変化を与えた利用法
砂糖、糖蜜、糖汁を原料として生化学的または化学的方法により、ほとんどすべての石油化学製品を作り得る。しかし、これらショ糖化学製品の採算性は、砂糖と石油の価格次第である。1バレルの石油価格が40ドル(30ドルという説もある)を超して、はじめてショ糖化学製品が石油化学製品と競合可能とされる。現在、石油価格は約15ドルであるから、当面石油化学製品の優位は続くだろう。
2・2・1 発酵法
2・2・1・1 エタノール(エチルアルコール)
多くの国で、製糖工場副産物の利用法の1つとして、古くから廃糖蜜を原料としたエタノール生産が行われてきた。これに対し、さとうきび搾汁を直接原料として、大規模のエタノール生産を20数年間実施している国がある。ブラジルである。同国は、1973年の第1次石油ショックで輸入石油価格が急騰し、貿易収支が悪化した時、燃料自給度向上の必要性を痛感させられた。1976年に「国家アルコール計画」を発足させた。この計画は、将来砂糖価格は下がり、石油価格は上昇するという前提に立ち、さとうきび畑の面積を1976年現在の197万haから将来400万ha以上に増反するが、増反分により生産されるさとうきびは優先的にアルコール生産原料に廻し、生産されたアルコールを自動車燃料に利用することを目的としていた。1995年現在のブラジルのアルコール生産量は126.7億リットルで、世界生産量の50%以上である(栄田剛;「糖業資報No.139」,1998)。
無水アルコールは、ガソリンに混入して普通自動車の燃料に用い、含水アルコール(アルコール分96%)はそのままフォルクス・ワーゲン社の開発したアルコール専焼車の燃料にしている。アルコール専焼車は、ガソリン専焼車より環境汚染度の小さいことも分かってきている。ブラジルの「国家アルコール計画」は壮大な夢である。
2・2・1・2 デキストラン
デキストランは、さとうきびの茎の切り口、製糖工場のタンク、パイプ等に生成する。砂糖の生産歩留りを下げるだけでなく、ろ過、晶析等の工程を困難にする厄介な物質である。砂糖をもとに細菌等の酵素の作用で生成する。
この厄介者も今では砂糖を原料とした発酵法により量産され、血漿増量剤として広く利用されている。
デキストランの誘導体は、血脂低下用経口剤、鉄欠乏性貧血症用薬、抗血液凝固剤、生化用ゲルろ過剤等に広く利用されている。この他、キャンディ、アイスクリーム等の安定剤としての用途もある。
2・2・1・3 その他の多糖類
砂糖またはグルコースを基質とした発酵法により、得られる多糖類としてキサンタンガム、細菌アルギン酸、プルラン等があり、食品以外に化粧品、増粘剤、医薬、プラスチック等に利用されている。
2・2・1・4 その他の発酵生産物
ほとんどすべての発酵生産物が砂糖をもとにして生産できるが、結晶糖は高価であるため、砂糖を基質としなければならない場合を除けば一般に糖蜜、イモ、穀類、キャッサバ等が原料とされている。
2・2・2 酵素法(特に糖転移反応)
糖転移反応とは、ある化合物(供与体)のグリコシル基を他の化合物(受容体)に転移して別種の化合物をつくる反応である。この反応を触媒する一群の酵素が糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)である。
ショ糖(スクロース)から糖転移酵素α−グルコシルトランスフェラーゼの作用で生成の可能性のあるα−グルコシルフルクトースは第2図の如く6種類になる。
第2図:糖転移酵素によりスクロースから生成する糖類
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ともあれショ糖を唯一の原料とした場合でも、酵素的糖転移反応により多数の新物質を得る可能性が残されている。これらの新しい糖は、単なる栄養甘味料としてでなく、整腸作用、抗う蝕性、低カロリー等の種々の機能をそなえたものが少なくない。
すぐれた甘味と抗う蝕性がセールスポイントのパラチノース、甘味度は低いが、オリゴ糖のビフィズス因子としての特性をもち、特に飼料などに使用されるフルクトオリゴ糖、すぐれた甘味をもつだけでなく、ビフィズス因子であり、整腸作用、抗う蝕性、血清脂質改善、血圧低下等の機能をもつ乳果オリゴ糖などがこの酵素法によってわが国で製造される。
2・2・3 純化学的方法
2・2・3・1 エステル
エステルとは、酸とアルコールの脱水反応により生ずる一連の化合物群を指す。酸とアルコールの種類に応じ多種多様のエステルが得られる。その内の工業的に利用されているものとして、酢酸エステル、リン酸エステル、安息香酸エステル(SOB)、ショ糖・酢酸・イソ酪酸エステル(SAIB)、リノレン酸エステルがある。
2・2・3・1・1 高級脂肪酸エステル(シュガーエステル)
1952年、SRF(砂糖研究財団)のHass会長は、親水性化合物であるショ糖と親油性のトリグリセリド(油脂)または高級脂肪酸を反応させて高級脂肪酸エステルをつくり、それを非イオン性、無毒性の界面活性剤として利用するというアイディアを提示した。当時、既にグリセリンまたはソルビトールと脂肪酸とのモノエステルが、界面活性剤として市場に出ていたが、Hassは界面活性剤に詳しいF.D.Snel社に協力を求め、1956年にHass-Snel法を開発した。
この方法はショ糖と脂肪酸メチルを共通の溶媒であるDMF(ジメチルホルアミド)に溶解、触媒(K2CO3)の存在下、真空下でエステル交換を起こさせ、モノ〜ジ・エステルを作ろうとするものである。
2・2・3・1・1・1 モノ〜ジ・エステル
2・2・3・1・1・1・1 ニットーエステル
ニットーエステルは、1959年に大日本製糖(株)が食品添加物として厚生省の許可を取得し、1960年に世界にさきがけ工業化、市販を開始したショ糖の脂肪酸モノ〜ジエステルである。
ニットーエステルは、非常に広範囲の食品に添加されるだけでなく、化粧品、洗剤等にも利用されている。
2・2・3・1・1・1・2 Celynol
フランスのRhone-Poulene社が1963年から製造している。ニットーエステルと同じHass-Snel法を用いるが、脂肪酸メチルの代わりに獣脂またはパーム油を用いる。飼料に用いられる。
2・2・3・1・1・1・3 Nebraska-Snell法による製品
1966年から工業化され、わが国では第一工業製薬(株)で製造され、界面活性剤、化粧品、洗剤等に利用されている。溶媒としてプロピレングリコールを用いる。
2・2・3・1・1・1・4 TALエステル(無溶媒法)
イギリスのTate&Lyle社の開発した方法で、溶媒を用いずにショ糖、獣脂の混合物から作られ、飼料添加物、洗剤、ローションに用いられる。
2・2・3・1・1・2 ポリエステル(Olestra)
Olestraとは、ショ糖と脂肪酸エチルエステルから作られるショ糖ポリエステルである。アメリカのProcter&Gumble社(P&G)の開発した食用油代替品の商品名である(US Patent 3600,186(1968))。食用油と同様の物性をもち、食用油と同様に利用できる。1996年にFDAから使用が許可された。
Olestraは、人間の消化液(スイ・リパーゼ)により加水分解されず、摂取後、吸収、消化されないので全くノーカロリーである。
Olestraの問題点は、摂取後、軟便を呈する人のあること、及び脂溶性ビタミンの吸収が阻害される恐れのあることである。
2・2・3・2 高甘味度の塩素置換体(Sucralose)
Sucraloseは、ショ糖の約650倍の、ショ糖によく似た甘味をもつ物質である。イギリスのTate&Lyle社の開発したもので、1998年にFDAで使用が認可され、28カ国で使用が認められている。ノーカロリーで、熱及び酸に対しても安定である。
2・2・3・3 合成樹脂硬質ポリウレタン
ショ糖を原料とする合成樹脂としてフェノールホルマリン樹脂(硬質ポリウレタン)等があり、自動車の内外装材、保温・保冷剤、人工木材等に利用されている。
昭和61年のわが国における硬質ポリウレタン用の砂糖消費量は、約2,500トンであった。
「今月の視点」 1999年9月 |
●食と健康 農林水産省食品総合研究所 企画連絡室長 鈴木建夫
●砂糖は甘いだけのものではない―化学工業原料としての砂糖― 神戸大学 名誉教授 河本正彦
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