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缶詰と砂糖の関わりについて

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


今月の視点
[1999年10月]

社団法人 日本缶詰協会 業務部長
沼尻 光治


缶詰産業の発祥から現在まで    果実缶詰の国内生産は漸減傾向
ジャムびん詰の生産は増加     缶・びん詰と砂糖の関わり
おわりに


缶詰産業の発祥から現在まで

 金属缶やガラスびんの中に、食物を入れて密封し加熱殺菌して保存する缶詰製法の原理は、今から約200年前の1804年にフランス人のニコラ・アペールによって初めて考え出されたもので、その時の皇帝ナポレオン1世が公募した食物の長期保存方法論に応募し、受賞した技術論であった。アペールは、この受賞で12,000フランの賞金を得ている。その頃のヨーロッパでは、ナポレオンが各国に戦線を広めていった時期であり、フランス軍の食糧としてアペールのびん詰が携行されることとなった。
 現在のような缶詰(ブリキ缶容器)は、1810年にイギリスでピーター・デュランによって発明され、まもなく缶詰工場が誕生している。その後、1821年にアメリカにわたって缶詰の製造が本格化し、1861年に南北戦争が始まってからは、軍用食糧としての缶詰の需要が急増し、当時年間約4,000万缶の生産をみるようになった。こうして、アメリカの缶詰産業は広い国土と豊かな果物や野菜の原料資源に恵まれて、近代的な食品工業として大きく発展することになった。
 わが国の缶詰は、今から約130年前の1871(明治4)年に長崎で松田雅典という人がフランス人の指導でイワシの油漬缶詰を作ったのが最初である。まもなく1877(明治10)年には、北海道で日本初の缶詰工場(北海道開拓史石狩缶詰所)が誕生し、同年10月10日にサケ缶詰が初めて商業生産されている。その後、缶詰が工業的に生産されるようになり、昭和の初期には、サケ、カニ、マグロ、イワシ、ミカンなどの缶詰が重要な輸出品として海外へ輸出されていたが(特に昭和20年代は、缶詰が生糸とともにわが国の重要な輸出物資であった。昭和30〜40年代においても、缶詰は世界の130カ国以上に輸出されていた。)、昭和30年代後半以降は、国内向けに仕向けられるものも増加するようになり(昭和40〜60年代のスーパーマーケット等の小売店には、どこの店も缶詰の専用が設けられており、その売り場スペースは常温流通加工食品売り場の過半を占めていた。)、さらに、昭和50年以降は輸入品が続々とわが国市場に流入して、今や輸入品が国内市場の過半を占めるに至っている。一方、小売店の売り場構成は、冷蔵品や冷凍品主体にシフトしてきており、缶詰など常温流通加工食品の売り場が縮小する傾向にある。いきおい、缶詰などは常設のでの販売から徐々に締め出され、ゴンドラやバスケットに入れられて特売されるケースが増えてきている(1個100円売り等)。このような小売店の販売戦略に価格で対応できるのは、安価な輸入品であるため、国産品の生産販売がますます苦しくなってきているというのが現状である。

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果実缶詰の国内生産は漸減傾向

 缶詰の世界総生産量については、正確な統計はないが、年間約800億缶(2,300万トン。20億函(はこ))に達していると推定され、その種類は1,200種に及ぶといわれている。アメリカ、タイ、中国、ギリシャ、イタリア、南アフリカ、インドネシア、フィリピン、チリなどが主要生産国であり、消費大国はアメリカ、EU各国、日本などである。
 日本の缶・びん詰生産は、1998(平成10)年で57万4千トン(7,599万函。飲料の缶・びん詰を除く)に達している。近年の缶・びん詰生産は年々減少しており、1998年の生産数値は10年前の1989年対比で65.6%と約35ポイント低下している。他方、1998年の輸入量は65万1千トンと、国内生産の1.13倍に達している。
 表1、図1に、1998年の分野別缶・びん詰生産量を1989年対比で示した。この10年間で缶・びん詰生産量は35ポイント低下したが、この中で果実缶詰の生産量は58ポイント減と落ち込みの幅が他分野製品に比べても非常に高くなっている。果実缶詰のほとんどはシラップ漬製品であり、当然砂糖の使用量も多い。果実缶詰では、生産減が必然的に砂糖の使用量減少に結びつくわけである。

表1:1998年の缶・びん詰分野別生産量
単位:トン
  丸缶(A) 大缶(B) びん詰(C) 合計(A+B+C) 98/89(%)
1998年 1989年 1998年 1989年 1998年 1989年 1998年 1989年
水産 150,709 226,734 285 10,590 15,343 161,299 242,362 66.6
果実 67,696 178,089 28,460 54,692 3,208 4,758 99,364 237,539 41.8
野菜 75,865 107,735 14,441 45,711 17,314 25,286 107,620 178,732 60.2
ジャム 1,477 2,288 12,961 15,848 31,499 34,012 45,937 52,148 88.1
食肉 14,146 23,152 46 13 55 66 14,247 23,231 61.3
調理特殊 117,866 117,729 5,906 9,438 22,229 15,003 146,001 142,170 102.7
合計 427,760 655,727 61,814 125,988 84,895 94,467 574,469 876,182 65.6

図1:分野別缶・びん詰生産変化
分野別缶・びん詰生産変化

 そこで、果実缶詰に絞って生産減少に至った背景をみてみたい。結論から先に言えば、輸出の減少と輸入の増加が生産減をもたらしている。果実缶詰の生産量が最も多かったのは1980(昭和56)年で36万トン(2,824万函)であるが、この数量を1998年の数値と比較すると3.63倍になる。1980年の缶詰生産で最も生産量が多い品目はミカン缶詰であり、その数量は18万7千トン(1,496万函)となっている。すなわち、ミカン缶詰1品目で1998年の果実缶詰全体の1.9倍に達していることになる。1980年の輸出量は3万8千トン(ほとんどがミカン缶詰)で全体生産量の1割強を占めている。また1980年の輸入量は5万7千トンと1998年の22%弱でしかない。1998年の果実缶詰輸入量26万5千トンのうち、ミカン缶詰は4万5千トンと全体の17%に達している。かつての輸出品目であるミカン缶詰が今や主要輸入品目に数えられるようになっているという事実がわが国の缶詰生産環境の劇的な変化を如実に物語っている。
 表2、図2に主要果実缶詰の品目別生産量、輸出量、輸入量、みかけ消費量を1998年と1989年との比較において示した。表及び図でも明らかなように、この10年間における消費量水準は全体ではほとんど変わりない。しかし、この間、生産量が大幅な減少、輸出量が激減、輸入量が倍増しているので、消費財の構成が国産品中心から輸入品中心へと劇的な変化をみている。

表2:主要果実缶詰の生産・輸出・輸入・国内消費量
単位:トン
  生産量 輸出量 輸入量 消費量 98/89(%)
1998年 1989年 1998年 1989年 1998年 1989年 1998年 1989年
ミカン 26,747 102,760 81 7,830 45,003 1,027 71,669 95,957 74.7
11,714 23,240 1 14 54,731 46,463 66,444 69,689 95.3
パイナップル 3,762 18,222     47,363 24,941 51,125 43,163 118.4
混合果実 10,407 20,526   11 14,629 9,401 25,036 29,916 83.7
その他 46,734 72,791 348 612 103,224 42,662 149,610 114,841 130.3
合計 99,364 237,539 430 8,467 264,950 124,494 363,884 353,566 102.9

図2:主要果実缶詰の生産・輸出・輸入・消費量
主要果実缶詰の生産・輸出・輸入・消費量

 国産果実缶詰の生産が減少するに至ったもう1つの大きな要因は、透明容器のプラスチックカップ詰製品(フルーツゼリーや混合果実等)の伸長である。プラスチックカップ詰製品は透明容器であるがゆえに、光線が容器内に浸透する(容器が光性をもたない)ので、中身が光線と反応して1年程で酸化褐変(果肉が黒ずむ)してくるが、加工食品の販売期間が従前とは比べものにならないほど短くなってきている今日では決定的な弱点とはいえない。むしろ、中身が見え消費者に安心感を与えるというメリットの方が大きい、との見方が多い。これらの性質から賞味期間は1年以内と缶詰(3年程度)に比べて短く設定されているが、この短い賞味期間を逆に「鮮度管理が行き届いている」と受け取る消費者も多い。プラスチックカップ詰果実加工品の製法は、缶詰とほとんど変わりないので常温流通が可能であるはずだが、このような消費者意識を捉えた小売店側の売り方も商品を冷蔵ケースに入れて販売、鮮度を強調するようになっている。なお、カップ詰果実加工品に使用されている原料果実の多くは、輸入缶詰(3kg容量などの大型缶詰)である。果実缶詰の国内消費水準(みかけ消費量)がこの10年間、ほとんど変化していないと前述したが、輸入缶詰の中にはこのように一時加工原料としての位置づけで再加工されるものもある点を考慮に入れるなら、最終製品としての缶詰国内消費量は10年前との比較で、減少していることになる。

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ジャムびん詰の生産は増加

 ジャムは、果実シラップ漬缶詰とは比較にならないほど単位当たり砂糖使用量が多い。そこで、1998年と1989年の比較において生産量、輸入量、消費量の動向を見てみたい。表3、図3、図4に主要品目の動向を示した。この10年間でジャム類の生産は、12ポイント減少しているが、減少しているのは学校給食やジャムパン用等の業務用に仕向けられる大缶(18リットル缶)と丸缶(1個1kg〜3kg容量品が中心)の容器分野製品であり、小売用が主体のびん詰はむしろ増加している。品目別では、主力のイチゴジャムをはじめ、ほとんどの品目が減少しているが、アントシアニン効果で目によいことが各種媒体を通じて喧伝されているブルーベリーは、ここ数年伸長を続けている。輸入量は、この10年間ほとんど変化していないが、国別にはスイス、フランス、イギリス、アメリカなどからの有名ブランド品がむしろ減退しているのに対して、1kg容量などの大型容器品が主体のエジプト品の伸びが目立っている。

表3:ジャム類の生産、輸入、消費量
単位:トン
  1998年 1989年 98/89(%)
イチゴ 21,587 25,716 83.9
マーマレード 5,320 7,636 69.7
アンズ 1,722 2,624 65.6
ミックス 1,402 3,288 42.6
ブルーベリー 1,845
その他 14,061 12,884 109.1
国内生産計 45,937 52,148 88.1
輸入量 6,946 6,959 99.8
みかけ消費量 52,883 59,107 89.5
注:ブルーベリーは、98年、89年ともその他にかなりの量が含まれる。

図3:ジャム類の国内生産量
ジャム類の国内生産量
図4:ジャム類の国内消費量
ジャム類の国内消費量
 ジャムのおいしさは、適度なゼリー状の中に織り成される酸味と甘みにある。この状態は果物に含まれているペクチンと酸、それに加えられる糖によって醸し出される。ペクチン、酸、糖の3要素の絶妙なバランスがジャムの品質を決定づけるが、時代とともに食物に対する人の好みも変わり、品質の基準が砂糖の量(比率)からフルーツの量(比率)へと価値転換するようになってきている。消費性向を反映するために、ジャム製品を定義する規格も改正されている。従前の日本農林規格(JAS)では、ジャムの糖度は65度以上と規定されていたが、昭和63年4月の規格改正により、40度以上と糖度範囲が広げられている。現在の市場では、糖度55度程度の低糖ジャム製品が主流を占めている。そして、最近時点では糖を添加せず、果実本来のフレーバーを生かした「オールフルーツ」ジャムが徐々に増えてきているのが実情である。ちなみにジャム消費の多い欧米各国では糖度65度以上の製品が主流を占めている。この10年間、わが国へのジャム輸入が増加しなかった理由の1つとしてこのような糖度対応要因もあげられるであろう。

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缶・びん詰と砂糖の関わり

 缶・びん詰に使用されている糖類は、果実缶詰及びジャム類主体に1998年で5.5万トン(砂糖換算)程度と推定される。この内訳は、果実缶詰2.5万トン(うち、クリ甘露煮用1.3万トン)、ジャム用2万トン、その他用(ゆで小豆、各種味付け製品等)1万トンである。前述したように、砂糖使用製品の生産が漸減傾向にあり、かつ、製品糖度を引き下げる傾向にあるので、糖類の使用は減少傾向をたどっている。使用糖類は砂糖(ジャム、豆類、クリ、各種味付け品主体に使用)、異性化糖(ミカンなどの果実缶詰主体に使用)、水あめ(ジャム等のこく味をつけるために一部使用)、各種オリゴ糖(各種製品に使用する機会が増加傾向にある)である。
 缶詰業界と甘味料、ということになるといまだに語り継がれている「チクロ事件」がある。チクロは、昭和44年10月、アメリカで発ガン性の疑いがあるとして使用が禁止された。この頃の果実缶詰の多くにはチクロを甘味料として使用しており、ニュース(米国での使用禁止。わが国でも禁止不可避)の流れた時期がミカン缶詰の生産開始期にあったことも加わったので、業界では大問題になった。その後1年間は、チクロ使用の市場在庫品回収など予想外の出費もあったことから、この頃、倒産を含めて果実缶詰製造業から撤退するメーカーが相次いだ。
 チクロ騒動の後、果実缶詰のラベル(印刷缶)には「全糖」の文字がかなり大きな活字で表示されるようになり、5年間ほどこの全糖表示製品が市場に流通した。
 全糖表示製品が流通していた昭和48年、今度はオイルショックに襲われ、砂糖の価格が暴騰した。オイルショックを期にして、コスト的な問題から果実缶詰のシラップ用の糖は徐々に砂糖から異性化糖にシフトしていき、現在流通している多くの果実缶詰に異性化糖が使用されている。そして今、異性化糖の功罪(?)がちょっとした業界の話題になっている。
 昔から食物を「砂糖漬け」にして保存食としていた、ということが示しているように、食物に一定量以上の砂糖を加えておけば、水分活性が抑えられ、自由水を失った細菌が繁殖できないため、食品を長期間保存できるという効果がある。初期のジャムや甘露煮もこの機能を使ったものである。もちろん、糖類が貴重な栄養源になっていることは論を待たない。これに加えて、果実缶詰などの加工食品が好例なのだが、糖分が果肉の「テリ」を際立たせ、見た目のおいしさを強調するという効果がある。これらの効能を上回って強調されるのは、糖類(砂糖)が食品のうまみを引き出すという最大の機能であろう。
 実は、輸入量の多い中国産果実缶詰に使用されている糖類は、異性化糖ではなく砂糖である。(中国産果実缶詰の多くは、果実の熟度管理に問題があるが)熟度管理が行き届いた果実缶詰製品と、異性化糖を使用した同種原料の日本産果実缶詰とを官能検査にかけたところ、検査パネラーの半数以上が中国産のほうがうまい、という判定を下した例がある。差異を決定づけているのは「糖」だと見る関係者も少なくない。このようなことから国産果実缶詰に異性化糖から砂糖に切り替える機運も出てきている。
 果実缶詰の甘味度は、果実本来の糖度9〜11%に比べれば幾分甘く感じられるように調整している。人が感じる甘さは、果実に含まれる酸の多少により変わってくるので(糖酸バランスにより変化する)、酸の多いパイナップル缶詰などは糖の添加量を多くして製品糖度を高めている。一般的にミカン缶詰の製品糖度は14%(ライトシラップ)、モモ及びパイナップル缶詰は18%(ヘビーシラップ)を基準として作られている。ところが、社会環境の変化に伴い「甘さが気になる」という人が増えてきているのも事実である。そこで糖度をかなり抑えた製品を上市するということになるが、減糖によりうまみも減殺されることになり、どうしても用途がヨーグルト用などと限ったものになる。甘味度を抑える傾向にあるとはいえ、果実加工品の“うまみ”の根源は「糖酸バランス」の妙にあることを考慮に入れるなら、糖分添加を極端に減らしたような製品は果実缶詰の主流にはなりえないと思われる。

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おわりに

 わが国の缶詰産業の歴史、砂糖との関連を果実缶詰、ジャム類の生産販売現状とからめながら振り返ってみた。果実缶詰については、輸入品と透明プラスチック容器製品の増加で、生産減を余儀なくされているが、プラスチック容器詰製品等の新タイプ品においても、その製法は殺菌・密封、水分活性コントロールを組み合わせたものであり、製造原理的には缶詰と変わりない。今後も新容器の採用などで製品スタイルが変わることはあれ、砂糖が加工食品の保存性、食品のうまみ引き出し等の主幹であることは変わることがないであろう。それぞれがもっている機能をどのように組み合わせて、いかに消費者の要求するものに応えることができるかがテーマであり続けるであろう。

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「今月の視点」 
1999年10月 
第6次改定日本人の栄養所要量−食事摂取基準−について
  厚生省保健医療局地域保健・健康増進栄養課生活習慣病対策室 栄養調査係長 河野美穂
缶詰と砂糖の関わりについて
  (社)日本缶詰協会 業務部長 沼尻光治
ビートファイバー
  日本甜菜製糖(株)総合研究所 研究員 菊地裕人/主席研究員 有塚勉
養液栽培におけるさとうきび側枝苗大量増殖技術の開発
  農林水産省国際農林水産業研究センター沖縄支所 業務科長 勝田義満


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