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砂糖とパンについて

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


今月の視点
[1999年11月]
 最近、日本人の食生活にすっかり定着してきたパン。いろいろな種類のパンに砂糖を中心とした糖類は使用され、酵母の発酵を促進するほか、パンの柔らかさを保持するなどさまざまな役割を果たしています。また、その使用料によってフレーバーが変化し、さまざまな風味のパンを作り出すことができます。こうした砂糖とパンとの密接で不可欠な関係について執筆していただきました。

財団法人 日本パン科学会
常任理事・研究所長  内田 迪夫


パンの歴史と現状
  1.世界のパン―人がパンを食べるようになったのは?
  2.日本人とパン―日本におけるパンの歴史
パンと砂糖の関わり
  1.パンの種類と生産量
  2.パンの種類と糖類の配合量(パン産業における砂糖の使用量推定資料)
  3.製パンにおける砂糖添加の効用
パン産業の展望と糖類の将来
  1.合理化の追及−省人、省エネの徹底
  2.製品の旨さ、個性化、差別化の追及
  3.糖類の選択利用


パンの歴史と現状

1.世界のパン―人がパンを食べるようになったのは?
 パンの歴史は種実、特に粒の大きい麦類とそれを磨り砕く歴史でもある。紀元前6〜7千年、メソポタミヤにおける小麦栽培がパン作りの始まりにつながると言われている。最初は、草や木の実の粗い混合粉を水で捏(こ)ねて土窯で焼く『平焼きパン』で、野生酵母で発酵したものから無発酵のものまであった。この作り方は、麦の生産と石材の豊かな古代エジプトに伝えられ、パン作りは飛躍的に進んだ。エジプト人は「パンを焼く人」「常にパンを食べる人」と言われる程そのパン作りが評価された。この『平焼きパン』は、現在も中近東から北アフリカに及ぶアラブ諸国で食べられている。インドではこれを『チャパティ(全粒粉)、ナン(精粉)』と呼び、中近東では『ナン』と呼んでいる。
 エジプトでは無発酵生地の大量生産が行われ、余った生地を放置した結果、野生酵母による発酵が発見されたと言われる。エジプトのパンの製法は、ギリシャに伝えられて質的な改良が急速に進み、恵まれた環境でパンは嗜好品としての色彩を帯びることになる。オリーブ油で揚げたパン、果物やレーズン等の乾果物、はちみつ、ミルク、バター、チーズ等を加えた菓子類さえも作られるようになった。ギリシャのパンは更にローマに引き継がれ、その権力を背景に工業的量産化の道をたどり、ポンペイの遺跡からも明らかなように、現在の工業化システムの初歩的段階にまで達していたようである。
 ローマ帝国滅亡後、中世期を通してパン焼きの権利は貴族と教会に独占温存され、庶民の常食は再び無発酵の硬いパンになった。ルネッサンスとともにパンは一般に解放され、庶民もオーブンを築くことが許された。1600年、イタリアのメディチ家の王女が、フランス国王に嫁ぐ際にパン職人を連れて行き、イタリアのパンはフランスに伝えられて、今日のリーンな配合(砂糖・油脂・乳製品等が少ない配合)のコンチネンタル(欧州大陸)系のパンの基礎となった。
 一方、発酵パンは別経路で、古代ローマから海路イギリスに伝えられた。18〜19世紀の産業革命による蒸気機関を利用して工業化を方向付けられたイギリスのパンは、新大陸米国に渡って合理化を進め、機械化量産のパン作りを果たした。同時に、ロシア移民が持ち込んだ硬質小麦の増産によって米国のパンは著しく改良され、今日のリッチな配合(砂糖・油脂・乳製品等が多い配合)のアングロ・アメリカ系のパンが確立した。1870年、圧搾酵母(コンプレスト・イースト、生酵母)の工業化が実現し、機械化製パンは更に急速な前進を遂げた。

2.日本人とパン―日本におけるパンの歴史
 日本人が初めてパンに出会ったのは、天文12(1543)年、種子島にポルトガル船が漂着した時で、鉄砲とともに伝来したと言われている。パンはポルトガル語の“Pao”に由来する。幕末、日本の防衛意識が高まり、保存と運搬に便利な兵糧としてのパンの価値が注目され、蘭学者・伊豆韮山の代官江川担庵は、邸内の窯でパンを試作した(天保13年4月12日)。このパンは無発酵パンであった。この日を記念して、パン業界では、毎月12日を『パンの日』と定めている。
 徳川幕府の開港に伴い各国のパンが作られた。徳川幕府が軍隊の洋式訓練と造船所建設をフランスに依頼したこともあり、フランスパンがまず登場した。その後、明治政府を支持したイギリスの影響により、イギリスパンが主流となる。また、外国人向けホテルの建設により主食用のホテルパンが作られたが、パンが大衆に親しまれるようになったのは、明治3年、木村屋の開店による。『酒種』を発酵源とした『あんパン』の開発が有名である。
 第1次世界大戦のシベリア出兵でロシアパンを知り、ドイツ人捕虜からドイツパンの製法を習った。その後、米国の影響が大きくなり、アメリカパンが支配的になった。第2次世界大戦後は、食糧難、特に米の絶対量不足を補う政策及び米国の占領政策もあり、栄養改善の第1目標は粉食の奨励であった。パン食による食糧栄養構成の改革に期待して学校給食パンが発足した。
 第2次世界大戦後、昭和30〜40年代には米国の機械化合理化製パン技術の習得を果たし、昭和40〜50年代は機械化製パン製品の質的革新と欧風パンの導入による製品のバラエティ化に進み、平成年代に入って、冷凍生地利用による省力合理化の導入と発酵種利用による発酵風味志向の追及が模索され、更に、手作り志向の新業態への発展が散見されるに至った。不況に苦しんでいるとはいえ、成熟社会の仲間入りを果たし、豊かな食生活を享受している現在、日本の製パン技術・パンの種類と品質は、恐らく世界のトップクラスにあると言ってよい。

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パンと砂糖の関わり

1.パンの種類と生産量(表1)
 昭和56年に、従来の最高生産量121万1千トン(小麦粉重量換算、以下同じ)を記録して以来、パン類の生産は頭打ち或いは微減傾向が続いたが、平成6年には122万1千トンを記録した。しかし、これは米の不作による結果だと言われたが、平成7〜9年もこれとほとんど同量の122〜123万トンを、そして平成10年には史上最高の123万2千トンを生産した。本来ならば喜ぶべき現象であるにもかかわらず、パン産業を取り巻く状況は依然として景気低迷が続き、その一因は価格破壊によると言われている。食糧庁の「米麦加工食品動向調査」は、パン類を食パン、菓子パン、その他のパン、学校給食用パンに分類している。その他のパンとは、食パン・菓子パン以外のパン類全てを含む。
 食パンの大部分は、1〜1.5斤単位でスライス包装して売られている。配合はどちらかと言えばリッチであるが、生地の糖配合は対粉10%以下である。生地の糖配合が10%以上の製品は菓子パンとして分類される。食パンのクラム(内相)構造は細かい「すだち」を有し、比容積は角形食パンで3.5〜4.5、山形食パンでは4〜6である。食パンは従来からパン類全生産量の大きい部分を占め、昭和56年のピーク時には70万3千トンであったが、その後、量・比率ともに微減の傾向にあり、平成10年は60万9千トンであった。
 菓子パンには日本式と欧米式が含まれる。日本式の代表はあんパン、ジャムパン及びクリームパンであり、欧米式の代表はスイートロール(スイートドウ)(アメリカ式菓子パン)とデニッシュペストリー(油脂折り込み菓子パン)である。昭和47年に23万5千トンという最低を記録して以来、横ばいないしは微増を続け、平成10年は37万9千トンであった。
 その他のパンはフランスパン、ハードローフ(硬焼きパン)、ハード(硬焼き)及びソフトのロール類、クロワッサン、イングリッシュマフィン、ベーグル(ユダヤのドーナツ形硬焼きロール)等を含み、生産量は20年程前までは総生産量の数パーセントを出なかったが、その後一時は急速な伸びを示し、平成10年は19万9千トンにまで増えた。
 学校給食用パンは、食パン、コッペ及び多様化パン(主としてバターロール等)を含み、一部一等粉を除いていずれもビタミンB1とB2をエンリッチ(強化)した学校給食用強力小麦粉で作られる。学校給食用穀物食品としてパン類のみが給食されていたピーク時は25万トンを記録し、パン類総生産量の4分の1を占めたこともあった。最近20年間に米飯・麺類の導入や学童数の減少によって著しく減少し、平成10年は僅か4万5千トン、総生産量3.7%弱にまで減ってしまった。

表1 パンの年次別生産量
単位:小麦粉使用千トン
  食パン 菓子パン 学校給食パン その他のパン
年次 生産量 年次  数量  割合(%)  数量  割合(%)  数量  割合(%)  数量  割合(%)
昭和40
45
50
55
56
58
60
62
平成1
2
4
6
8
10
865
970
1,062
1,189
1,211
1,194
1,178
1,176
1,188
1,193
1,180
1,221
1,230
1,232
昭和60
61
62
63
平成1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
653
648
651
656
663
661
657
636
629
644
623
611
597
609
55
55
55
56
56
55
55
54
53
53
51
50
49
49
291
294
299
307
310
321
327
334
342
355
368
379
388
379
25
25
26
26
26
27
27
28
29
29
30
31
32
31
101
93
84
77
71
66
62
59
55
53
51
50
48
45
9
8
7
7
6
6
5
5
5
4
4
4
4
4
133
140
141
141
144
146
147
151
156
169
178
190
188
199
11
12
12
12
12
12
12
13
13
14
15
15
15
16

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2.パンの種類と糖類の配合量(パン産業における砂糖の使用量推定資料)
 パンの代表的な種類と原材料配合表(対小麦粉)を示せば表2〜表5の通りである。

表2 パンの代表的な種類と原材料配合表
  食パン 菓子パン スイートドウ デニッシュ フランスパン バターロール 学給パン1 学給パン2
砂糖 2〜8 25〜37 10〜25 10〜30 0〜4 8〜14 2〜5 10以下
油脂 2〜12 5〜16 10〜25 5〜15 0〜5 8〜30 6以下 8以下
脱脂粉乳 0〜6 0〜6 4〜6 0〜6 0〜2 2〜4 3〜4 2〜6
0〜6 5〜20 0〜25 12〜35 5〜20
1.5〜2 0.5〜1.5 2〜2.5 0.5〜1.5 1.5〜2.2 1〜1.8 2以下 2以下
イースト 2〜3 3〜5 3〜10 6〜10 2〜4 2.5〜3.5 2〜3 2.5〜3.5
イーストフード 0〜0.1 0〜0.1 0〜0.1 0〜0.1 0〜0.1 0.1 0〜0.1 0〜0.1
60〜50 40〜65 40〜65 40〜55 62〜67 45〜55 57〜67 55〜65
その他       ロール・イン油脂15−100   基準パン 多様化パン

表3 伝統的日本式菓子パン(対小麦粉)及びあんの配合表
  あんパンの生地:あん=5:5〜4:6
砂糖
油脂


イースト
イーストフード
17〜22
3〜6
5〜10
1〜1.5
2.5〜3
0.1〜0.2
適 量
24〜30
3〜6
10〜20
0.8〜1
3.5〜4
0.1〜0.2
適 量
32〜37
3〜6
15〜25
0.5〜0.8
4.5〜5
0.1〜0.2
適 量
「あん」の配合(対小豆あん)
  極上
砂糖
水飴

40
40
0.7
19.2
70

0.6
24.0
80

0.5
28.8
90

0.4
38.4

表4 スイートドウの基本配合(対小麦粉)
  ベーシック リーン ミディアム リッチ ベリリッチ
砂糖
油脂
脱脂粉乳


イースト

スパイス
15
18

18
1.1
6
約48
適宜
10
10
4〜6
0〜10
2
3〜4
50〜65
適宜
12〜16
12〜16
4〜6
10〜16
2
5〜6
45〜55
適宜
18〜20
18〜20
4〜6
18〜20
2.5
7〜8
40〜50
適宜
25
25
6
25
2.5
10
約40
適宜

表5 デニッシュペストリーの基本配合
材料名 リーン リッチ 材料名 リーン リッチ
砂糖
油脂
脱脂粉乳
16
16
7
16
24
24
6
24

イースト

ロール・イン油脂
2
8
30
26〜53
3
12
24
29〜58

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3.製パンにおける砂糖添加の効用
 小麦粉パンがあのようにフックラと膨らむためには2つの要素が必要である。その1つは、パン生地中の発酵性糖類が酵母によって嫌気性発酵されて生成された「二酸化炭素」であり、もう1つはこのガスを逃がさずにパン生地中に保留蓄積する成分、即ち、小麦粉に含まれる「たんぱく質」が水と結合して形成される「グルーテン」である。
 では、砂糖を加えないフランスパン生地や中種生地法における無糖中種が膨らむのは何故か? これは、小麦粉中に2%弱含まれる発酵性糖類及び小麦粉中の損傷でん粉にアミラーゼが働いて生成される麦芽糖による。砂糖を添加しなくても、あるタイプのパンを作ることはできるが、現在一般に市場に出回っているほとんどのパン類の安定した製パンを行うためには、糖類の添加は必要不可欠である。砂糖添加の効用を箇条書きにすれば次の通りである。
(a) パン生地中の酵母に発酵源を供給して生地発酵が促進され、パン生地の安定性が得られる。
(b) 一般にパンの芳香を強調する物質として揮発性の酸やアルデヒドが考えられるが、それらの化合物を生成する可能性が高い。
(c) カラメル化とメラノイジン(メイラード)反応によってクラスト(表皮)の着色が促進され、フレーバー付与に貢献する。
(d) その結果、焼成温度の低下と焼成時間の短縮が可能になるので、クラム(内相)内部に保持された水分が多くなり、次のような多くのメリットが得られる。
(e) 糖の保湿性によって、パンの内部により多くの水分が保持されるので、老化遅延、即ち、保存性が延長される。
(f) 糖の添加及び水分の増加によってパンの歩留りが増加する。
(g) でん粉の糊化遅延とたんぱく質変性の遅延によって、クラム、すだち等内相全体がより滑らかに、よりソフトに、より白くなる。
(h) パン製品に望ましい甘味を付与し、食味を高める。
(i) パン製品のトースト性を改良する。
(j) 機能性糖類の使用によって、種々の機能性パン製品を作ることができる。

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パン産業の展望と糖類の将来

 パン類総生産量の3分の2以上を生産する日本パン工業会所属の大手企業が、生き残りをかけて行っている技術的な努力の一端を簡単に紹介すれば次の通りである。

1.合理化の追及−省人、省エネの徹底
(a) 自動化の徹底
 パン類の大量生産において、自動化と製品品質は互いに相反するファクターである。パン生地の物理的(機械的)な損傷を最小限に止め、製品の美しさを回復するために、原材料・生地に関する温度と時間条件・製造工程条件の巧みな組み合わせについて各企業はノウハウを持っている。

(b) 多品種少量生産の自動化から多品種大量生産へ
 自動化の原則は少品種大量生産であり、多品種生産と自動化は相反するファクターである。更に、少量生産にあっては製品品目変更所要時間が鍵となる。ここにR社開発のノンストレス・システムが真価を発揮するのである。

(c) 合理化生産計画
 多品種の合理化生産のもう1つの方向は、日々少品種大量生産を、1〜2週のサイクルで多品種を生産する計画である。ここに生地及び製品の凍結貯蔵による多品種のセット出荷システムが提案される。

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2.製品の旨さ、個性化、差別化の追及
(a) 鮮度供給
 配送回数を増加することが最も単純な方法で効果的であるが限界がある。サンドイッチ等ライフの短い製品に対しては必要不可欠であるが、ライフの長いパン類については必要度が低い。特に、一部のコンビニエンスストアーで行われているような、未だ十分に賞味価値を有しているにもかかわらず、一定時間後は廃棄する等資源の浪費は考え直さねばならない。
 現在の量産・広域流通下において、パン類製品をできるだけ新鮮な状態で提供するとともに、深夜早朝労働排除、週休2日制を徹底させる有効な手段として、製造から流通の種々の段階における冷凍がある。

(b) 冷凍製パン法
 ベーカリー製品の製造・流通の各段階における凍結の選択利用の可能性は多い。
 A. セントラルベーカリー(CB)で生地を凍結
a 凍結生地を販売
  整形直後凍結(家庭で解凍・ホイロ・焼成)
  ホイロ凍結(家庭で解凍せずに焼成)
b 焼成製品を販売
  CBで焼成(生成合理化、従来通りの流通)
  オーブンフレッシュ(OF)店で焼成
  (ベークオフ・システム)
   ●生地ユニット凍結(OF店で解凍・仕上げ・ホイロ・焼成)
   ●CBで整形後凍結(整形直後凍結:OF店でドウコン利用焼成)
    (ホイロ凍結:OF店でそのまま焼成)
 B. 製品凍結(CBで凍結)
a 凍結製品販売(家庭で解凍)
b 解凍後販売(CBまたは配送中に解凍、従来通りの販売形式)

(c) 種(たね)の利用
 コンプレストイースト(生酵母)の工業的生産が実用化するまでは、ベーカーはおのおの自分で培養したイーストを「たね」という形態で利用していた。現在、この「たね」がフレーバー付与媒体として脚光を浴びている。

(d) 新発酵法の開発
 おいしいパンを作る技法の1つとして、低温長時間発酵が従来から行われている。異なる低温度帯における、おのおの特徴あるフレーバーと旨味が生成されるとして、いくつかの特許出願がある。

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3.糖類の選択利用
 筆者が関わっているパンの新製品開発コンテストがいくつかあるが、おのおの応募作品を特徴付けるために、原材料の選択に苦心の跡が伺える。これら応募作品の配合表に現われた糖類を列挙して、各種の糖のパンへの影響を簡単に述べてみよう。

(a) 糖の種類
砂  糖:グラニュー糖、上白糖、三温糖、液糖、粉糖、黒砂糖
でん粉糖水あめ(未精製水あめ)、グルコース(全糖ブドウ糖)、異性化液糖、還元水あめ
その他:はちみつ、トレハロース
モルト:エキス、シロップ、粉末
(b) パンへの影響
グラニュー糖:くせのない上品な味質が得られる。
上 白 糖:グラニュー糖よりもしっとりソフト感が得られる。
三 温 糖:上白糖よりもしっとり感が強く、特徴ある風味、コクのある甘みを与える。バラエティブレッド、特に、ホールホィート・ブレッドに用いると良い。
粉   糖:アイシング、トッピングに用いる。
黒 砂 糖:特有の風味を与える。
水 あ め:甘みよりもしっとり感を重視する。
グルコース:加糖中種法において、中種の発酵促進のために用いられる。
還元水あめ(糖アルコール):しっとり感は与えるが、非発酵性でメイラード反応を起こさず、インスリン非依存性なので、十分な火通りとクラストの着色を望まない健康志向製品に用いられる。
はちみつ:独特の風味と色択を与え、ブドウ糖よりも果糖の含有率が高いのでしっとり感も大きい。
トレハロース:非還元性なので、メイラード反応を起こさず、発酵性である。イーストの冷凍耐性を高めることで注目されている。
(c) 糖類の選択利用
 通常の食パンは糖配合量が少なく、大部分が生地発酵中に消費されるので、砂糖、ブドウ糖、異性化糖のいずれを用いても食味に大きい差は認められない。しかし、菓子パンのように焼成後の残糖が多い場合は、ブドウ糖や異性化液糖は砂糖に比べて甘味やコクが不足する。これを補うために、砂糖を混合した異性化液糖が使われる。
 糖濃度が低い時は、砂糖を使っても生地混捏(こんねつ)初期にイーストのインベルターゼによって転化されるので、異性化糖と同じ結果になる。糖濃度が高くなると、砂糖はその一部が転化されずに製品に残る。しかし、異性化糖は砂糖より分子量が小さく、浸透圧が高いので、糖濃度が高くなるほど、砂糖を用いた生地との間に発酵状態に差が見られるようになる。
 現在、多種類の糖類が製造されており、その全ての性質を熟知することは困難であるが、このような事実を踏まえて、発酵性、生地物理性への作用、耐熱性、甘味度、風味特徴、吸湿性、カロリー、インスリン非依存性等を調べて、パン製品に目指す性質に合った糖類の巧みな選択利用が必要である。

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「今月の視点」 
1999年11月 
お茶と砂糖とお菓子
  和歌山大学名誉教授 堺市博物館長 角山 榮
砂糖とパンについて
  (財)日本パン科学会 常任理事・研究所長 内田迪夫


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