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てん菜生産の優良事例 その1

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


今月の視点
[1999年12月]
北海道てん菜協会
技術部長  菅原 寿一



低コスト・高品質生産を目指したてん菜づくり(斜里郡清里町 岡本勝道氏)
 はじめに   輪作体系の確立   てん菜の高収量   コスト削減
 土づくり   高収量をもたらすてん菜の栽培技術   今後の取り組み
輪作体系の確立と排水対策・土づくりによる安定多収生産(帯広市 福田国夫氏)
 はじめに   経営の概況   てん菜の生産実績   輪作の確立
 排水対策   土づくり   多収をもたらす栽培技術   今後の取り組み


低コスト・高品質生産を目指したてん菜づくり
(斜里郡清里町 岡本勝道氏)

はじめに
 清里町は網走支庁管内の東部に位置し、オホーツク海沿岸からおよそ20km内陸に広がり、北は斜里町に、西は小清水町に接している。農地面積は9,200haと網走管内では大規模で、麦類・ばれいしょ・てん菜の3作物で農作物全体の約80%を占める畑作地帯である。
 気象はオホーツク高気圧の影響が極めて強く、夏期はしばしば低温に遭遇することがある。全国有数の寡雨地帯で雨量は年間630mmと少ない。一方、春期には斜里岳から吹き下ろす南東の風が強く、乾燥した土砂を巻き上げてしばしばてん菜・ばれいしょに大きな風害をもたらす。

輪作体系の確立
 岡本氏(51歳)は畑作専業経営で、昭和40年代にはてん菜40%、ばれいしょ40%、麦20%と根菜類主体の作付けで、てん菜は連作または短期輪作を余儀無くされ、ほ場は火山性土壌のため肥料成分の保持が良くないため、多肥気味の栽培で肥料コストは高く、地力の低下も感じられる状態であった。
 この様な短期輪作による地力低下・高コスト化から脱却し、単収及び根中糖分をアップさせるために、昭和50年代には菜豆、60年代にはスイートコーン、平成6年にはヒマワリを順次導入しこれらを合わせて第4の作物とし、4年輪作体系の確立を目指している。最近の経営耕地面積の内訳は表1に示すとおりである。

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てん菜の高収量
 表1に示すとおり、岡本氏のてん菜作付面積は、9.47haと網走地区平均の6.80より大きく、てん菜の全体に占める比率も網走地区平均の32.5%を上回る35.8%であり、てん菜中心の畑作経営を行っている。このようにてん菜の占める比率が高いことから、単収などは農協平均を下回ることが度々あったが、4年輪作体系の確立を目指し、土づくりを徹底したことによって単収、根中糖分ともに上昇し、農協平均を上回るようになった。単収は6カ年平均で5%多く、糖分は2%高い。糖分は平成5年を除く5カ年では全ての年で、単収は6カ年全ての年で農協平均より優った。

表1:岡本氏の作付け状況(平成10年)
作物名てん菜ばれいしょ麦 類
(大正金時)
スイート
コーン
ヒマワリ
面積(ha)9.477.217.050.861.200.6526.44
比率(%)35.827.326.73.34.52.5100


表2:岡本氏の生産実績
項   目平成5年平成6年平成7年平成8年平成9年平成10年平  均
10a当たり収量(kg)
同上農協平均対比(%)
5,568
105
6,454
112
6,256
106
5,570
109
5,445
101
5,635
100
5,821
105
根 中 糖 分(%)
同上農協平均対比(%)
17.9
99
16.2
101
18.1
105
18.2
103
18.4
102
17.5
102
17.7
102

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コスト削減
てん菜生産における基本的な考え方として経費削減を目的として、近隣農家と2戸で共同作業を行い、できるだけ機械・設備の有効活用を図るため共有化し、個人による設備投資を極力抑えている。また、後述する土づくりにより化学肥料の使用を抑えてコスト減を図っている。

土づくり
 地力の維持増進に堆肥の投入は不可欠で酪農家と牛糞・麦稈の交換を行い、堆肥盤を設置し、牛糞・麦稈・でん粉粕・てん菜遊離土・豆殻などを混合し年間3回切り返し、1年かけて完熟させた堆肥をてん菜栽培時に施用している。
 麦作の後には緑肥としてキカラシ「サーバル」を栽培している。この緑肥畑にでん粉廃液を10a当たり4トン散布し肥料を削減している。また、スイートコーン・ヒマワリの残さもこの畑に鋤き込み地力向上に役立てている。
 土壌改良としては、てん菜栽培で重要な調整として苦土炭カルを10当たり60kg程度を全層施用している。土壌分析は毎年は行っていないが、前年の生育を見て問題がありそうな場合に実施している。

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高収量をもたらすてん菜の栽培技術
 健苗が高収量の第1条件とのことで、健苗育成に努めている。  床土と肥料の混和は前年秋に行い、育苗肥料・熔燐・過燐酸石灰・フミトップをマニュアスプレッダーで床土と混合している。
播種は3月10日を目処に行い50日苗とし、5月1日頃移植する。風霜害などの障害に備えて50冊程度予備苗を作っている。
 発芽に重要な潅水は播種直後に1冊当たり15リットル程度行い、発芽後の潅水は徒長しないように表面が乾いたら数mm浸透させる程度とし極力控えている。
 発芽始めから発芽揃いまでは温風ボイラーを使用し、ハウス内の最低温度を5℃に設定し、マイナス温度にならぬように注意している。本葉が展開したらボイラーを停止し、夜間はラブシートを1枚掛け寒気を防ぐ。本葉2枚になるとビニールハウスの側面を開け、移植1週間前に全開して外気に慣らす。
 秋にサブソイラーを施工し春にトラクターで耕起している。また、土壌が乾き過ぎないように整地は施肥前日に行っている。施肥量は10a当たり窒素要素量16.5kg(平成10年)と町平均より少ない。
 移植の目処は5月1日〜10日、栽植密度は畦幅66cm、株間24cm、栽植株数は10a当たり6,300本。平成10年に4畦全自動移植機を導入。オペレーター1人、補助1人で1日当たり4〜5ha移植できたので作業効率が向上し労力が軽減した。
 除草剤の1回目の散布は移植3週間後にツユクサに効果があるメトラクロール乳剤を散布し、2回目には6月上旬に広葉・イネ科雑草を対象にフェンメディファム乳剤、レナシル・PAC水和剤を散布。
 中耕は深耕ツメを付けて、1回目は移植後7〜10日目、2回目は畦がふさがる直前に実施。除草は手取り除草、種草取りの各1回。病害虫防除は病害虫の発生状況を良く観察して実施し、病害虫の発生し易い場所や発生した場所を中心に薬剤散布を行い農薬の節減を可能としている。

今後の取り組み
 以上述べた様に、岡本氏は現経営の中で輪作・土づくりの実施、種々のてん菜栽培技術の駆使などにより高品質と安定生産を獲得し低コスト栽培に努めているが、さらなる低コスト化を図るには、さらに効果的な肥料の施用方法、さらに効率的な農薬、除草剤の散布方法、4年輪作確立を図るための畑作3品以外の作物の作付増加等が必要と考えている。また、経営全体の所得維持のため、食用ばれいしょの栽培増加・ヒマワリ無農薬栽培の販路開拓に取り組みたいとしている。
 以上の課題などを述べた後、岡本氏は「私の事例は決して優良事例とは思っていない。私より多収をあげている方はたくさんいると思います。しかし、てん菜は網走地域における畑作の基幹作物であり経営の中心となるものと考えて、てん菜生産に改善意欲を持ち、低コスト生産を目指してきましたが、今後も一層の低コスト・高品質を目指したい」と結んだ。

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輪作体系の確立と排水対策・土づくりによる安定多収生産
(帯広市 福田国夫氏)

はじめに
 帯広市は十勝平野のほぼ中央に位置し、北は十勝川に接し、耕地の多くは比較的平坦な火山性土の段丘地である。
 耕地面積は21,600ha、農家戸数は約910戸を有し、その80%以上が専業農家である。経営形態は畑作・畜産・野菜などで、主な作物の面積はてん菜3,600ha、小麦5,940ha、ばれいしょ3,800ha、豆類2,900ha、野菜(スイートコーンを含む)1,200haなどである。

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経営の概況
 福田氏(49歳)は帯広市の北西部に位置する豊西町で営農している。ほ場は平坦で黒色湿性火山性土である。福田氏は昭和42年に就農し58年に経営を移譲された。耕地面積は37.24haで作付状況は表3のとおり、畑作4品目を主体にスイートコーンも取り入れているが、労力が少なくて済む小麦を多く作付けている。
 労働力は本人夫妻と息子の3人の家族労働。

表3:福田氏の作付け状況(平成10年)
作物名てん菜ばれいしょ小 麦小 豆大 豆スイート
コーン
その他
面積(ha)6.297.2013.982.492.245.000.0437.24
比率(%)16.819.337.56.76.013.40.1100.0

てん菜の生産実績
 過去7カ年の生産実績は表4のとおり。平成8年は多雨による湿害が発生した低収年で、帯広市の平均収量は10a当たり4トン台と低かったが福田氏は6トン近くの高収量であった。7カ年平均では市の平均収量より16%も多い。糖分は市平均よりやや高く、7カ年平均では市の平均糖分に比べ実数で0.2%高かった。

表4:福田氏の生産実績
項  目平成4年平成5年平成6年平成7年平成8年平成9年平成10年平  均
10a収量(kg)
市平均比(%)
5,454
(107)
5,605
(128)
6,580
(115)
6,688
(120)
5,829
(120)
6,550
(115)
6,914
(109)
6,231
(116)
根中糖分(%)
市平均比(%)
17.5
(99)
17.6
(100)
15.5
(101)
17.6
(102)
18.1
(103)
17.2
(99)
16.6
(101)
17.2
(101)

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輪作の確立
 てん菜→大豆・小豆・スイートコーン→ばれいしょ→スイートコーン・小麦→小麦の5年輪作が確立されている。比較的長期輪作のため根腐病などの土壌病害や褐斑病などは少なく地力も安定的に維持されている。

排水対策
 福田氏のほ場は湿性火山性土で排水はやや不良なので排水対策を重視している。20年前にほとんどすべてのほ場で暗渠を施工し、4〜5年前から更新している。また、ほ場均平と併せて排水不良の低みに客土を行い、ほ場の表面停滞水を排除している。春先の作業開始は通常土壌水分が低くなってから行うが、排水対策を行うことにより早期にほ場に入ることが可能となっている。
 耕起の深さはてん菜・ばれいしょの場合は30cm以上にしている。てん菜作付けの前年秋に耕起した後に心土破砕を実施している。また、「心土犂」(簡易サブソイラー)をプラウに取り付け全作物に施工し耕盤層を破壊している。

土づくり
 堆肥は肉牛農家から購入し毎年てん菜畑に10a当たり3トンを施用している。また、小麦作付けの際、緑肥赤クローバーを栽培し、秋耕を行い鋤き込んでいる。融雪促進を兼ねて、10a当たり30kgの防散炭カルや秋耕後に10a当たり100kgのカルフミンなど土壌改良剤を施用している。土壌地力の状況を把握するため土壌分析を行っている。ほ場のpHは5.5〜6.0とpHの動向はほぼ一定している。

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多収をもたらす栽培技術
 福田氏は「特別なことはしていない」と言われたが、健苗も高収量要因の1つと認識し健苗育成に努めている。床土は前年秋に自分の畑から採取し育苗ハウス予定場所に運びシートを掛け春まで保管する。播種は毎年3月17日頃から行い昨年は5日間、家族労働のみで行った。播種後の潅水は播種2〜3日後に2回に分けて充分行いその後はできるだけ潅水は控える。発芽するまではトンネルで保温し、夜はシルバーシートを加えて二重にする。発芽後も冷え込みの強い時は、シルバーシートを使用する。発芽率が約50%となった頃にヒドロキシイソキサゾール液剤とバリダマイシン液剤を散布し、早めに立枯病防除を行う。播種後約14日頃に除草を兼ねて間引きを行っている。除草剤は使用していない。苗ずらしは4月7〜8日に1回目、その10日後に2回目を実施している。苗の徒長防止に苗ずらし2回は不可欠とのことである。アセフェート水和剤は育苗期に、ペンシクロン水和剤は移植前に潅注する。
 前作が小麦で秋耕を行っている。てん菜の移植前にばれいしょを先に植付けするのでてん菜畑はやや乾燥気味になるため整地にはロータリーハローをかけずにパワーハローを2回かけている。昨年の移植は4月26日から5月1日の5日間に実施、栽植密度は畦幅60cm、株間23cmで株立本数は10a当たり7,000本以上を目標としている。風霜害などの被害を受けた場合の補植はできるだけ早期に行うように努めている。
 肥料は当地帯の土壌に適合した「すずらんS158」(N:P2O5:K2O:Mg=11:15:8:6)を10a当たり180kg使用している。
 1回目の中耕・除草は5月中旬にカルチで行う。その後10日間隔で3〜4回行う。うち2回は自走式株間除草機、みのる式三輪カルチにより除草を行う。手取り除草は5月下旬から6月上旬にかけて1回行う。この様にカルチによる除草を主体としているので除草剤使用は中耕処理後の7月上旬に根際散布機によるレナシル・PAC水和剤10当たり200gの1回施用のみとしている。
 病害虫防除は適期防除に努め、絶えずほ場観察を行っており、害虫は初発を確認してから防除している。また、少量散布スプレーヤーを導入し散布水量を10a当たり80リットルとし、一般の10a当たり100リットルの約20%の減としコスト低減に役立てている。

今後の取り組み
 福田氏は農業機械の効率的運用を図るため、今後さらに経営面積の拡大を図り、小麦を縮小してん菜を増やしたいと意欲満々でいる。また、平成10年から就農した息子さんをどのような形で経営に参加させるかを考えており、息子さんの得意なパソコンを活用し経営管理を行いたいと将来の抱負を語った。

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「今月の視点」 
1999年12月 
女子学生における低糖・無糖商品の購入に関するアンケートについて
  滋賀大学名誉教授 金城学院大学講師 岡部昭二
飴と砂糖の話
  全国菓子工業協同組合 理事長 中西信雄
てん菜生産の優良事例 その1
  北海道てん菜協会 技術部長 菅原寿一


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