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お砂糖豆知識[2000年6月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2000年6月]
●てん菜のあれこれ ●砂糖のあれこれ


てん菜のあれこれ

省力栽培への道(2)

(社)北海道てん菜協会 前専務理事 秦 光廣

〔540m直線のビートの畝〕
 十勝南部のS村は、1戸平均の経営耕地が広く、数年前に訪れたHさんの所も借地を含め70haの畑を夫婦2人で耕作していました。
 まっすぐな畝の向こう端が陽炎にゆれていた直播のビート畑は、長さが300間(540m)もあるそうで、広い畑を見慣れているはずの目にも長いと感じさせるほどでした。
 輪作はビートと小麦、じゃがいも、スイートコーンですが、ビートを播種する畑はとりわけ土づくりに気を配り、作付けの間隔は6年に1度ほどといいます。
 Hさんは、ビートの茎葉は勿論、小麦もコーンも収穫後の圃場残渣物(ほじょうざんさぶつ)はすべて畑に鋤き込む一方、鶏糞堆肥を本州から大量に購入するなど、有機質をふんだんに投入して地力の増強を図っていますが、この経営方針を知って、畑を貸すから4、5年使ってほしいという隣人もいるそうです。
 直播栽培を続ける理由を問うと「気が弱いので、毎春繰り広げられる移植人夫の争奪戦に巻き込まれるのが嫌だから」と、農民組織幹部で発言力の強そうなH さんは冗談とも皮肉とも取れる物言いをし、「人夫が余りだした頃に延べ60人程を間引作業に雇っている。皆さんが移植の繁忙期は、温泉もすいてサービス満点なので、いつも苦労をかけている母さんの慰安にあてている。」と続け、直播を避ける人達にその理由を反問したそうな口振りでした。
 Hさんの過去8年間の栽培実績は、村平均を100とすると、収量では107、含糖分は99と、移植をしのぐ糖量の成績を残していますし、近くに住む直播仲間のOさんも、収量・含糖分とも8ヵ年平均99と良い成績をあげていました。

〔直播栽培が8割を占める地域〕
 ビート作付面積の96%が移植栽培という現状の中で、直播栽培が8割近くを占める特異な地域があります。稲作の転作作物として最近ビートを取り入れた札幌近郊のE市です。
 紙筒播種の機器・育苗ハウス・移植機械などの投資、育種管理・定植の多労働など種々問題があって敬遠されてきたビートですが、直播栽培に目を向けた地域の生産者が、糖業の指導者とともに試行を重ねながら、狭畦幅栽培に取り組んでいます。
 1999(平成11)年のE市の単位当たり収量は、移植が9割近い近郊他市町村の平均収量を指数で3ポイント上回っており、含糖分は近郊他町村の平均値と同じでした。ちなみに前年は収量で5ポイント、含糖分で1ポイント上回る好成績をあげています。
 ビート栽培の経験が浅い地域のため、ミスを許されない糖業の懸命な指導や、農家の前向きな意欲と研究熱心さが、道央の多雪地帯にもかかわらずこのような成績を残しているものと思います。

〔生産者の半数近くは直播栽培に関心〕
 北海道てん菜協会が、直播栽培について1997(平成9)年に行ったアンケート調査では、移植に比べ一定程度収量減になっても、省力化を前提に直播に取り組みたいという生産者が、全体の半数近い47%を占めました。その多くは移植対比5%程度の減収を想定してのものでしたが、中には10〜15%程度の収量減でも取り入れたいという農家が11%もありました。
 熱心な農家の優良事例は別として、普遍的に5%程度の収量減にとどめるような栽培技術が、ここ暫くの間に確立されることは、客観的にみて無理でしょう。しかし、10〜15%の減収でも許容できるなら、試験研究に携わる方々の意見を承知はしていませんが、条件次第では心待ちできそうな、尋常に手が届く数値ではないかと思えます。
 直播の成功事例やその栽培技術は、限られた中で紹介され注視されてきましたが、諸般の事由により目を背けてきた人達もいて、その広がりは停滞しています。「輪作を維持し経営を守ろう、コストの低減をはかろう」とする生産農家に対し、将来を見据え選択肢を広げるという観点から、積極的に情報を提供する時期がきています。
 農畜産業振興事業団の助成を機に、直播栽培の事例交流の場を設け、興味を持つ農家にこれを公開することによって、直播技術のレベルアップにつなげることは勿論、先々農家が選択をするに当たって、容易に的確な判断が下せる素材を提供できるものと思います。

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砂糖のあれこれ

日本における砂糖有害論形成の変遷(2)

精糖工業会

 前回は、昭和初期からの砂糖有害論形成から、戦後にかけての流れを中心にご紹介しました。今回は、“砂糖バッシング”が最も激しかった1980年代(昭和55年以降)について見ていきたいと思います。

時代背景に乗った有害論の流布
 この時期には、「砂糖有害論」を唱える何人かの学識者が現われました。まず、某私立大学教授は、前回ご紹介した“カルシウム欠乏説”や“心臓病説”を基本に、砂糖を食べると「虫歯、骨折、近視、心筋梗塞、糖尿病、さらには異常興奮、集中力の欠如、自閉症、登校拒否、非行」につながるとし、砂糖がまるで万病のもとのような説を展開しました。また、2人の某国立大学教授も、砂糖の摂取が犯罪・家庭内暴力・非行の原因であるという説を展開し、これらの説は、全国ネットのTV番組(ニュースやワイドショー)や全国紙の新聞、女性誌や健康雑誌等、ありとあらゆる中央のマスコミでセンセーショナルに取り上げられました。
 ここで、「砂糖と非行、登校拒否、家庭内暴力」という新たな有害論がクローズアップされました。これは当時、中学生の校内暴力、家庭内暴力が急速に増加したという時代背景があったため、非常にタイムリーで、かつ、分かりやすいこれらの説がもてはやされたものと思われます。
 ここでのポイントは「砂糖と低血糖症」の関係です。血液中のブドウ糖の量はインシュリンというホルモンによって調節されていますが、「砂糖を過剰に摂取すると、血糖値が急に上昇するため、これを下げるためにインシュリンが大量に分泌される。すると、血糖値が必要以上に下がって低血糖の状態になり、脳にエネルギー源たるブドウ糖が不足して、暴力などの異常行動を起こす」というのが彼らの説です。また、この説を唱える人達の中には、少年院や刑務所の受刑者の、受刑前と受刑後の食事を比較し、「規則正しい食事を摂るようになってからは精神的に安定した」として、自らの説の正当性を主張する人もいました。

米国 FDA が総合的に検証
 ちょうど時期を同じくして、米国の厚生省にあたるFDA(米国食品医薬品局)が、砂糖と健康についての包括的な検証を行いました。これは、砂糖が原因であるといわれていた様々な疾病(肥満、心臓病、糖尿病、虫歯、高血圧、異常行動など)と砂糖摂取の因果関係について、それまでに発表された研究・文献を包括的に検証したものです。この結果が1986(昭和61)年に「砂糖類の健康面における評価(EVALUATION OF HEALTH ASPECTS OF SUGARS CONTAINED IN CARBOHYDRATE SWEETENERS)」として発表されました。
 それによれば、虫歯については、唯一因果関係が認められるとの結論に達しましたが、それ以外の疾病については、直接的な因果関係は認められないと結論付け、さらに現状の砂糖摂取量で健康に影響を及ぼすことはない、としています。FDAでは、この発表のあとも定期的に検証を続けていますが、この結論は変わっていません。
 また、最近では、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同専門家のグループが、1997年、ローマにて炭水化物に関する会議を開催し、「人の栄養と炭水化物(CARBOHYDRATES IN HUMAN NUTRI-TION)」という報告書を発表していますが、この中でも、砂糖の摂取と肥満や生活習慣病及び砂糖の摂取と異常行動の間には直接的因果関係は認められないと結論付けており、先のFDAの検証と同じ結果となっています。
 精糖工業会でも、当時は各マスコミに対して抗議文を提出したり、場合によっては直接面会してこれらの説の誤りと、砂糖に対して正しい認識をもっていただくように訴えました。その結果、中央マスコミにおいてこれらの説が取り上げられることはほとんどなくなりつつありました。

「キレる」 話は繰り返す…
 ところが、つい最近(平成10年)になって、「砂糖と異常行動」の関係が再び取り上げられました。これは中学生等による凶悪犯罪が多く発生したことがきっかけになったようです。
 ある女子大の教授が中心となり、以前登場した某国立大学の教授も加わって、「砂糖を摂りすぎると子供がキレる」といった説をTV、新聞、雑誌等で展開しました。特に女子大の教授は、街頭等で学生に食事についてのアンケート調査を実施し、その結果として、「行動に問題のある生徒の食事には大量の砂糖が含まれている」として、前述した低血糖症の理論により、砂糖の摂取が子供の異常行動の原因であるとし、さらには前回ご紹介した「カルシウム欠乏論」まで持ち出して、砂糖を摂取するとカルシウムが奪われ、イライラの原因になるとまで言い出しました。
 砂糖摂取と異常行動については、先ほど述べたように、公的機関の検証でも直接的因果関係は否定されています。また、脳生理学が専門の高田明和教授(浜松医科大学)は「いわゆる低血糖症(反応性低血糖症)は、インシュリンを分泌する細胞の異常増殖によって起こる極めて稀な病気であり、一般の健常者が砂糖を摂取したからといって起こるものではない」と述べられています。また、食に関する情報のあり方について研究されている高橋久仁子教授(群馬大学)は、「もし、砂糖の大量摂取で“キレる”のであれば、1度に75gものブドウ糖を摂取する糖負荷試験(糖尿病の検査)は成り立ちません」と、この説の矛盾点を指摘しています。
 また、先ほど刑務所の受刑者の話をしましたが、ここでなぜ、食事だけが取り上げられるのかについて疑問が出てきます。受刑前と受刑後では、食事だけでなく、生活習慣全てが変わっているはずで、それらを総合的に判断するべきです。中学生の問題でも全く同じことが言えます。もし、食事に問題があるとしても、それは特定の食品に責任を転嫁して解決する問題ではないはずです。生活態度を全般的に見直すことが最も重要かつ必要なことではないでしょうか。

最 後 に
 「砂糖はいくら食べても大丈夫」などと言うつもりは毛頭ありませんし、個人の味覚の嗜好に口を挟むつもりもありません。ただ、本当は甘いものが好きなのに、もし誤解によって砂糖を敬遠している人がいるとしたら、それは悲しいことですし、不幸なことです。その人達に安心して甘いものを楽しんでもらえるよう、これからも地道な活動を続けていかなければならないと思っています。

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