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お砂糖豆知識[2001年10月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2001年10月]


てん菜のあれこれ

てん菜の病害 3

(社)北海道てん菜協会

そう根病
 そう根病と同じ病害であるリゾマニア (Rizomania) が、イタリアのポー川流域で、その地方特有の風土病として知られるようになったのは1950年代初頭である。原因が解明されたのが1973年で、その間約20年が経過している。このように時間がかかったのは限られた地域の病害として軽視されていたのではなく、本病があらゆる点で特殊な病害であることに起因している。
 1960年代初めには、リゾマニアがイタリアの主要な栽培地帯に拡がり、いくつかの製糖工場が閉鎖されるなど大問題となった。本病はひげ根が異常に増加し、主根が奇形となることから 「根の奇病」 を意味する 「リゾマニア」 と呼ばれていた。最初イヤ地や特殊な栄養欠乏などによる生理的な障害、あるいは種子の退化などが原因ではと指摘されたが、実証できなかった。その他昆虫、あるいは線虫の被害、菌類の感染など多くの仮説が立てられたが、いずれも否定された。
写真1
写真1 葉脈黄化症状
 日本では、イタリアのリゾマニアとは全く別の観点からこの病害が知られるようになった。7月号にて紹介したように1960〜1970年に連輪作の研究が農業試験場、各糖業で行われており、当時てん菜を連作すると生理的な障害 (連作障害) が発生し、それにより収量・糖分が減少するのではないかと考えられていた。日本甜菜製糖株式会社で実施されていた各種の連輪作に関する試験において葉が黄化し、根部が奇形となる異常な症状が発現し、連作障害と考えられていた。また、一部の栽培地帯で原因不明の生育異常が発生した。これらの異常個体のひげ根にポリミキサ菌 (Polymyxa) が共通して認められたこと、発病土で栽培すると同じような症状を示すこと、その中に葉脈が黄化する個体が認められることなどからポリミキサ菌が関与する新しい病害として、連作障害様異常症状と仮称された。その後、葉脈黄化 (写真1) を示す個体は接ぎ木により健全株に感染することが分かり、ポリミキサ菌が主因ではなく、この菌が媒介するウイルス病として、細根が異常に叢生そうせいすることから「そう根病」と名付けられた。また、葉脈黄化部より分離されたウイルスが、新種として 「テンサイえそ性葉脈黄化ウイルス」 (学名 Beet necrotic yellow vein virus:BNYVV) と命名された。これらの研究は(社)北海道てん菜協会の前身である北海道てん菜技術推進協会の土壌病専門部会のメンバーが中心となって得られた成果であり、1973年のリゾマニアに関する国際的なシンポジウムで紹介され、当時原因が明確でなかったリゾマニアとの関連が注目を浴びた。その後、リゾマニアから分離されたウイルスも BNYVV であることが分かり、これらは同一の病害であることが判明した。(Rizomania はイタリア語であり、原因が究明されて以降英名の Rhizomania が一般的に使用されている。)
 植物の病害は主として菌類によるものとウイルスによるものに大別されるが、てん菜の場合、日本では菌類によるものが多く、主なウイルス病はそう根病、西部萎黄病のみである。
 菌類による病害は斑点や腐れなど直接加害された部分に症状がでるに対して、ウイルスの場合は黄化、萎縮、モザイク、奇形など全体的な症状を呈することが多い。また、アブラムシやヨコバエなどの昆虫により媒介されるものが多く、一度感染すると治療法がなく、壊滅的な被害を受けることが多い。
 そう根病は土壌中に住む菌 (Polymyxa betae ポリミキサ ベタエ) により媒介されるウイルス病である。菌類が媒介するウイルス病は種類も少なく、比較的最近になって見つかったものが多いので、ウイルス病の中でも特殊な部類に属している。
 菌類は通常菌糸が伸びることにより成長するが、ポリミキサ菌は菌糸を作らず、人工培養もできない特異的な菌類である。これらの特殊性が原因究明を遅らせた要因の1つと言える。
 ポリミキサ菌は土壌中で増殖することはないが、休眠胞子として15〜20年近く生存している。また、寄主範囲はてん菜の仲間のみに限られており、根が刺激を与え胞子を目覚めさせる。休眠胞子が発芽すると中から2本の鞭毛を持つ遊走子が放出され、これが水中を泳ぎ、細根に感染する。感染すると細胞内にとけ込み菌本体は消え失せる。その後細根中に休眠胞子ができ、この根とともに土中に戻っていく。このとき、ポリミキサ菌がそう根病ウイルスを保毒しているとそう根病となる。無毒の場合は無症状である。ポリミキサ菌は条件が整えばいつでも細根に寄生しウイルスを感染させることができる。
写真2
写真2 根部の症状
(ひげ根が増殖して土塊を形成)
 病徴は感染時期、感染量により異なるため、正確に説明することが難しい。一般的に言えば感染時期が早いほど地上部に多様な症状が現れ、根が奇形化する。生育後期に感染した場合には根形は正常で、地上部の症状としては黄化が主である。最初の症状は感染した場所で細かな短い根が無数に増加することである。ポリミキサ菌は主根や側根には感染できず、成長中の細根に感染する。そのため、生育後期の感染は主根から離れたところで生じ、主根は正常な場合が多く、感染場所を見つけることが難しい。生育初期は主根の周りで細根が発育しているので、感染すると異常に増殖したひげ根と土が混じり合って土塊を形成し、本病の最も典型的な病徴となる (写真2)。
 次の症状は維管束 い かんそく (シダ植物と種子植物にそなわっている通道組織) の褐変である。最初は感染した部位を中心に褐変が生じるが、時間が経つにつれて側根から主根へと拡がっていく。激しい場合には主根の維管束の大半が褐変し奇形となる。また、一部の個体は腐敗し、木質化する。感染時期が遅いか、量的に少ない場合は維管束の褐変は側根、または根部の先端に止まり、根か奇形化することはない。
 地上部の症状は根部症状の後に現れる。幼苗期に激しく感染すると生育が止まり、葉も奇形となって枯死する。あるいは、一部の葉の葉脈が黄化し、葉面が縮緬状 ちり めんじょうに萎縮する。このような激しい症状は1970年代には実際のほ場で散見されたが、最近ではそう根病に対して基本的な対応がなされているので、このような激発はなくなった。
 普遍的な葉部症状は縮葉と黄化である。生育前半、あるいは多肥条件、乾燥したときに発病するとしおれることが多く、葉面に凹凸あるいは縮れができる。このような症状を縮葉と呼んでいる (写真3)。生育後半、あるいは湿潤な場合には黄化症状となる。黄化は色々な原因により生じるが、そう根病による黄化の特徴は退緑黄化である。また、葉柄が伸び、葉身が細くなる (写真4)。また、窒素欠乏の場合は、肥料を与えると回復するのに対して、そう根病による黄化は元に戻らない。
写真3
写真3 地上部の症状 (縮葉)
写真4
写真4 地上部の症状 (黄化)
そう根病の被害は感染時期が早いほど根重、根中糖分ともに著しく減少するが、移植栽培において、ほ場で感染した場合は根重の被害が軽減される。根中糖分の低下はあまり軽減されず、基準糖度帯の下限を下回ることが多い。茎葉、あるいは冠部の被害は軽く、根部の大部分が腐敗しても、冠部は健全な形で残ることが多い。
 ポリミキサ菌は土壌中で長期間生存できることから一度汚染させると本菌を完全に死滅させることは困難である。そのため、汚染地域の拡大を阻止することが防除の基本となる。本病の伝播は発病土、発病個体の移動により生じることが多いので、収穫した菜根、遊離土などの取り扱いには細心の注意が必要である。また、本病は土壌pHが7.0を超えると発病が促進されるので、過度の石灰資材の投与は避け、6.0を目標に管理することも発病を抑制する点で重要である。
 発病が懸念されるほ場での対策としては、耐病性品種の栽培が基本である。
 ヨーロッパにおいては、一般に土壌pHが高いため、薬剤、あるいは耕種的な方法で発病をコントロールすることが難しく、耐病性品種の育成と普及が意欲的に進められている。耐病性は年とともに向上し、収量特性も一般品種と変わらなくなってきた。作付け割合も年々増加しており、近い将来品種の大半がそう根病耐病性品種に置き換わると言われている。
 日本においても、これまでエマ、リゾール、リゾホート、シュベルト、モリーノがそう根病耐病性品種として栽培されてきたが、13年度の優良品種としてそう根病耐病性品種 「きたさやか」 が新たに認定された。本品種はそう根病耐病性は「強」で発病ほ場での収量、糖分が高いことは当然であるが、健全ほ場でも根重が高く、糖量においても一般品種並の性能を有している。この様にそう根病耐病性品種の特性は著しく向上しており、色々な特徴を保つ品種が開発されているので、今後それぞれの地域に適した品種が認定されていくことを期待している。
 北海道てん菜技術推進協会が設立された目的の1つがそう根病の解明と防除法の確立であり、官学民が一体となって全道的な分布調査をはじめ多くの共同試験を行ってきた。北海道てん菜協会発足後も研究活動を続け、これらの成果を基に本病の特性と防除法のまとめたパンフレット「てん菜のそう根病」を全生産者に配布するなどの活動を行ってきた。当初発生が拡大し、糖業に深刻な影響を与えるのではと危惧されたが、被害を最小限に留めることができた。
 しかし、そう根病の特性から見て潜在的な危険性は残されているので、今後とも汚染地域の拡大防止、ほ場pHの管理などの基本はしっかりと守っていくことが肝要である。
参考資料 てん菜のそう根病 (北海道てん菜協会1988年)

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