砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > お砂糖豆知識 > お砂糖豆知識[2001年11月]

お砂糖豆知識[2001年11月]

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2001年11月]
●てん菜のあれこれ   ●砂糖のあれこれ


てん菜のあれこれ

てん菜の病害 4

(社)北海道てん菜協会

黒根病について
 黒根病はアファノミセス (Aphanomyces) 菌の感染により根部が黒変腐敗する病害である。しかし、本菌はてん菜の各生育過程において色々な症状を示すので簡潔に紹介するのが難しい。
 幼苗期には胚軸に感染し苗立枯病をおこす。生育初期には胚軸部がくびれ、その部分が糸のように細くなり地上部がもげる 「根くびれ」、あるいは根の先端から黒く水浸状に腐敗する 「先腐れ」 などの症状を示す。生育後半には、地上部、地際部は健全に生育しているのに根が先端より腐敗しているもの、あるいは根面に細かな縦しまの傷が生じ、ざらざらした症状が現れる。これらは 「根腐症状」、「粗皮症状」 と呼ばれている。根腐症状には根表面に黒変した病斑があるものから、冠部を残してほとんどの根が無くなっているものまで、様々のものが含まれている。
 特別な病徴を示さないが、初期生育が著しく阻害される障害、あるいは連作による収量、糖分の低下がアファノミセス菌による細根の感染、枯死により生じることが知られている。
 この様に本菌はてん菜のあらゆるステージに関わり、好適な環境条件になると色々な被害を与えるので、黒根病と言う病名よりは総称してアファノミセス病と呼ぶ方が実態に即している。
 アファノミセス菌による病害はヨーロッパでは苗立枯病を含めて発生、被害も少なくマイナーであるが、アメリカでは苗立枯病の主要な病原として1930年代から研究され、抵抗性品種の育成も行われてきた。
 特に、感染した胚軸が黒色となることから本菌による苗立枯病を他のものと区別して 「黒色の苗立枯病」 と呼んでいる。
 日本においては、アファノミセス菌による苗立枯病、先腐れ症状、あるいは根の腐敗が認められたのは昭和30年代であるが、いずれの症状においても病斑部が黒変していることから1962年に黒根病と命名された。
 本菌の寄主範囲は狭く、畑作ではてん菜、家畜ビート、ほうれん草など近縁のものに限られている。てん菜を栽培すると黒根病の発生の有無にかかわらず菌量が著しく増加する。そのため、連作したほ場で直播栽培をおこなうと苗立枯病が激発して、株立本数が確保できず、廃耕となることもある。
 しかし、寄主植物が無いと増殖しないので、てん菜以外の作物を植えると、菌密度が低下する。これまでの試験によれば他作物を1年植えるだけで苗立枯病の発生は著しく減少した。
 本菌は土壌中では菌糸にて生活することがほとんどなく休眠胞子として存在しているが、極めて堅固で8年以上生存できる。
 てん菜の細根から刺激物質が放出され、それにより休眠していた胞子が発芽し、遊走子を放出する。遊走子は水中を泳ぎ、細根に感染する。感染した部位では菌糸が発達し、多数の遊走子を形成する。これらの遊走子により再感染が生じ短期間のうちに被害が拡大する。本菌は水生菌とも呼ばれるように感染が水中を泳ぐ遊走子により生じるので発病には水分の多い環境が不可欠である。
 アファノミセス菌は幼苗の胚軸では表皮より直接侵入出来るが、苗が大きくなると感染出来なくなる。また、肥大した根の表皮では傷などがあるとそこから感染が生じるが、直接侵入する力は極めて弱い。
 しかし、主根、あるいは側根より生じた細根にはいつの時期でも容易に感染し、これを枯死させる。肥大した根の細根に感染したとき、あるいは感染後に土壌が乾燥したような場合などでは被害が細根に止まり、主根にまで罹病部が拡大していくことがなく、外見的には健全な場合が多い。
 上記した連作障害の場合、移植直後より紙筒内外の細根に感染が認められ、ひどい場合にはその後の生育が阻害され、低収、低糖分となる。また、根腐症状、粗皮症状も生育後半に発生するものであるが、アファノミセス菌の細根への感染は5月末より生じている。
平成10、11、12年と低糖分の年が続いたが、その原因は生育期中の高温、多雨などによる気象的な要因が主であるが、褐斑病、ヨトウガ、根部病害などの被害も糖分を低下させた要因の1つである。
 特に平成11年度は湿害を受けたほ場を中心に根が腐敗する個体が全道で多発し、一部の地域では廃耕になるほ場があった。また、廃耕にならない場合でも廃棄個体が多く、著しく減収した。これらの腐敗個体の多くが黒根病によるものであった (写真1)。また、これらの中には腐敗には至らないが、根面に粗皮症状を示す個体が混じっていた (写真2)。平成11年以外の年も地域によっては発生が目立っていた。
 この様に黒根病の発生は近年になって急増し、深刻な被害をあたえているが、これまで、これらの根腐・粗皮症状を示す個体は湿害などの生理的な障害の後遺症あるいは帯状粗皮病と考えられていたので、黒根病との認識がなかった。
 平成8年にこれらの症状がアファノミセス菌により生じることが明らかとなり、それ以降根腐・粗皮症状が黒根病の一症状として認められるようになった。
 それ以前にあっては黒根病は苗立枯病では重要な病気であったが、それ以外の先腐れ症状や根部の黒色腐敗などは水田転作ほ場などの水はけの悪いほ場での特殊な病害と考えられ、一般ほ場での主要な病害としての発生記録がないので、最近になって突然発生したかのような印象を与えている。
 しかし、記録によれば1930年頃でも高温多雨の年には根部病害が多発している。特に根腐病とは異なった根腐れ、粗皮個体の発生が目立っており、これらは帯状粗皮病と呼ばれていた。また、品種試験などにおいて、高温、多雨年には水はけの悪いほ場で根が腐ることが多く、これらを根腐病と区別して 「根腐・粗皮症状」 として取り扱ってきた。これらは、発生年の気象、ほ場条件、および症状が今日の黒根病の場合とよく似ており、推論すれば、黒根病は古くから発生し、年により深刻な被害を与えていたものと思われる。
 アファノミセス菌による病害の少ないヨーロッパにおいても、1991年にベルギーで根腐・粗皮症状が栽培面積の50%のほ場で発病した。これらの個体よりアファノミセス菌が優先的に分離されたことから、症状が似ている粗皮病あるいはそうか病とは異なるアファノミセス根腐病 (Aphanomyces root rot) と命名されている。この年の発生は6月の記録破りの長雨と7月が高温という特殊な気象条件下で起きたもので、その後は発生していない。この時の実態調査によれば、発生は品種による差が大きく、また発病程度は土壌 pH および土壌中のカルシウム含量と関係があり、pH が高い、カルシウム含量の多いほ場ほど少ないことが報告されている。  アファノミセス菌はてん菜の作付けにより菌密度が高まるので苗立枯病などは連作などのほ場で発病が多く、適正な輪作が行われているほ場では発病が少ない。しかし、深刻な被害をもたらす根腐・粗皮症状の発生では必ずしもほ場の菌量が直接発病に結びついてはいない。発病は長期にわたり、地温が高く、かつ湿潤な状態が続くことで誘発され、かつ、この様な条件下ではベルギーに見られるように、過去の発病、あるいは菌量に関係なく発生することが特徴である。
 黒根病はアファノミセス菌が移植直後のような早い時期に細根に感染し、その後の根部肥大に伴い罹病部が側根、あるいは主根へと進行し、生育後半に根腐症状として現れる。菌の侵入が主根の表皮のみで止まったものが粗皮症状である。
この様に本病は土壌中でゆっくりと進行するので薬剤よる防除が難しい病害である。そのため本病を防ぐには品種の抵抗性を高め、ほ場が湿潤にならないように環境を改善し、菌の感染、病気の進行を阻止することが重要である。
 また、窒素が過剰に施肥された場合、あるいはカルシウム欠乏の場合など発生が多くなるので、てん菜を健全に栽培し、個体の耐性を強くすることも大切である。
 これらの観点より北海道てん菜協会技術専門部会においては重要な病害として発生実態の解明と総合的な防除法の確立を目指して、農業試験場、糖業とが連絡を取りながら精力的に研究を行っている。これまでの研究の結果によれば品種間に耐病性に差があることが明らかとなり、新規認定品種の耐病性向上に努めている。発生に関しては、ほ場の水分条件に加え、輪作年次、播種時期なども関係が深いことが明らかとなった。また、石灰資材を条施した場合にも発病が少な
写真1
写真1 黒根病の根腐症状
写真2
写真2 黒根病の粗皮症状 (黄化)

|ページのトップへ|



砂糖のあれこれ

古くて新しい問題・虫歯と砂糖の関係

精糖工業会

 砂糖と健康については様々なことが言われていますが、一番古く、かつよく言われているのが、虫歯 (う蝕) との関係でしょう。そこで今回は改めてこのことを整理してみたいと思います。

砂糖が「原因でない」とは言えない
 以前お話したように、砂糖と健康についての公的機関の検証の原点は、1986年の FDA (米国食品医薬品局) によるものです。ここで、虫歯との関係については以下の通り述べられています。
・虫歯の病因は 「口腔バクテリア (虫歯菌)」、「宿主要因 (虫歯に対する抵抗性、歯の表面の固さ)」、「食物要因」、「滞留時間及び歯垢pHへの影響」 が4大要因である。
・砂糖 (ショ糖) と発酵性炭水化物の消費は、歯垢、虫歯、歯周病の発生を助長する。
・多くの食品が、虫歯発生の可能性に影響し、食品の糖類含有量と虫歯発生の間の関係は単純なものではない。
・米国の虫歯発生率は減少している。これには予防法の発達が貢献し、虫歯の減少は進むと予想される。
・糖類の消費と虫歯発生率の間に定量的な関係があると証明することはできない。しかし、現在の証拠からいって、現在の糖類の平均的消費水準は、虫歯の発生に関与するという結論は支持できる。
 基本的には、ショ糖 (砂糖) 及び炭水化物が、虫歯発生の要因になることについては否定していません。このことは、その後の検証でも変わっていないことから、「砂糖は虫歯の原因ではありません」と言うことはできません。
 しかし、砂糖の摂取が即、虫歯の発生に結びつくわけではなく、砂糖の摂取量と虫歯の発生率の間に相関関係があるわけでもありません。また、現実的な問題として、砂糖を含めた糖類や炭水化物を食事で全く摂らないことはできません。ここで重要になるのが、4大要因の1つとされている“滞留時間及び歯垢 pH への影響”をどう小さくするかという問題です。これらに気を配ることで、虫歯の予防は充分に可能になってきます。

口内のサイクル
 人間の口の中は、食べ物を食べると発酵により酸が産生され酸性になります。これが唾液で中和されるというサイクルを繰り返すわけですが、このサイクルが崩れ、食べ物が停滞しますと、口内は常に酸性状態のままになり、虫歯菌が発生・増殖しやすくなるわけです。ですから、食事やおやつは時間を決めて節度よく摂る事が大事です。特に、小さい子どもの場合、おやつなどをダラダラと食べがちになりますので、充分注意する必要があります。このことに注意し、食事と食事の間に口の中を休ませ、空っぽにする状態を作り出せば、虫歯菌自体の数も少なくなり、そうなると飴など、比較的口腔内に残りやすいものを食べても、虫歯になりにくくなります。

口腔衛生
 虫歯は、口の中に残ったままになっている食べかすと虫歯菌が結びついて酸を発生し、歯の表面を溶かすことによって発生します。ここでは虫歯菌を減らす、「口腔衛生」 について触れます。
 虫歯菌は歯の表面に住み着くと、砂糖やデンプンなどの糖分の食べかすにより、最近の住みかとなるブラーク (歯垢) をつくり上げ、これが虫歯の温床になるわけです。言い換えれば、このブラーク (歯垢) を取り除くことが、虫歯菌の繁殖を抑えることにもつながります。小さい頃から食後の歯磨きを励行することが大切ですし、歯間ブラシの使用等、歯科医に相談して、正しい歯磨きの方法を身につけることが大切でしょう。

最近の研究等
 事業団の助成事業 「砂糖消費拡大推進事業」 の活動において、今年度、専門家及びそれを目指す学生を対象に、専門家による講演・質疑応答等を行う「砂糖学術会議」がスタートしましたが、9月に行われた第1回の会議では 「虫歯」 が取り上げられ、東北大学歯学部の高橋信博教授を初め、専門家による講演が行われました。
 この中では 「砂糖に限らず、ほとんどの糖質が口腔内で発酵により酸を産生し、pH が低下して虫歯 (う蝕) の原因になる。ただし、砂糖の場合には、酸の産生に加え、粘質性のグルカンという多糖類が形成されることが虫歯 (う蝕) にとって好ましいことではない。」 という指摘がありました。
 しかし、一方で、「砂糖を含めた炭水化物はエネルギー源として重要な食品であり、摂取しないわけにはいかない。従って、虫歯だけを避けるためにいたずらにこれらを遠ざけることはかえって別の面で健康を損なうことにもなりかねない。」 との見解も出されました。
 虫歯は、人が食物として栄養を摂取する際、最初の入り口の時点で発生する疾患です。それだけに重要だといえる一方、「虫歯にならなければ健康」 というわけでもありません。当会議でも 「最終的には他の健康問題同様、何を食べるか (What to Eat) ではなく、どのように食べるか (How to Eat)、そしてどのようにケアするかが大切だ」 という指摘がなされました。



BACK ISSUES
「お砂糖豆知識」インデックスへ