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お砂糖豆知識[2002年2月]

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最終更新日:2010年3月6日

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お砂糖豆知識

[2002年2月]
●てん菜のあれこれ


てん菜のあれこれ

てん菜の病害 7

(社)北海道てん菜協会

斑点病、斑点細菌病、葉腐病
 葉をおかす病害としては2001年8月号で紹介した褐斑病が最も重要であるが、斑点病、斑点細菌病、葉腐病なども年により多発する。これらの病害は褐斑病のように全道的に発生することは少なく、地域が限られることが多い。また、いずれも1950〜60年代から発生し、病害として認められる様になったもので、褐斑病と比較すると新しい。しかし、葉腐病に関しては昭和10年代に十勝地方で浸潤性褐斑病などと記載されていたものと症状が一致しており、また、斑点病に関しては冷涼な地帯で 「根釧褐斑病」 と俗称されていたものに似ていることから、恐らくもっと古くから発生していたものと考えられる。
 斑点病、斑点細菌病は、名前の通り斑点が生じる病害であり、この点において褐斑病を含め3種の病害は、それぞれの病斑には固有の特徴があるもののよく似ている。また、混在することもあるので病斑のみで各個体の病名を判断することは難しい。そのため、過去においては、これらは 「ちょっと変わった褐斑病」 とみなされていたものと思われる。
斑点病の病斑
写真1 斑点病の病斑
 斑点病はアイルランド、フィンランドなどの北方の栽培地帯においては褐斑病より重要な葉の病害として知られている。北海道においても冷涼で褐斑病の発生が少ない道北 (天北、宗谷)、道東 (根釧、網走) にて発生することが多い。しかし、他の暖かい地域でも気温の下がった9月上旬以降になって急激に発生することがある。
 病原菌は褐斑病菌に近いラムラリア (Ramularia ) 菌であり、感染の機作も褐斑病に似ているが、生活史、発生誘因などに関しては研究事例が少なく、不明な点が多い。
 病斑は円形、または楕円形で褐斑病よりやや大型で、褐斑病が暗褐色であるのに対して、淡黄色から灰褐色で明るい印象を与える (写真1)。
 本病の発生は秋が早く、湿度の高い年に多く、発病時期が登熟期に当たるので、激発すると糖分増加を妨げるだけでなく、根部に蓄積された糖分が葉の修復に費やされるなど根重よりも糖分に悪影響を与える。
子葉にできた斑点細菌病の病斑
写真2 子葉にできた斑点細菌病の病斑
 斑点細菌病は名前が示す通り、細菌であるシュードモナス (Pseudomonas ) 菌によって生じるが、様々な症状を示す。
 その1つは育苗中に発生するもので、早期には子葉に黒褐色の小さな斑点が生じ (写真2)、後期には本葉の葉緑が黒く変色する。曇った日が続き、ハウス内の温度が低く、湿度が高いときに発生する。軽い場合は環境が改善されると進行が止まり回復するが、激発の場合はスポット状に地上部が枯れることがあり、苗歩留りが低下する。
成葉上の色々なタイプの斑点
写真3 成葉上の色々なタイプの
斑点 (斑点細菌病)
 圃場では、葉に褐斑病に似た暗褐色の斑点が生じる場合と一見風により葉が擦れあって葉縁が傷ついた様に黒く枯れる場合がある。両方の症状が同じ葉に生じることもある (写真3)。この様な症状は6月下旬から7月上旬に雨が多い冷涼な年に発生することが多い。葉にできる斑点は褐斑病と同じ形状をしていることが多いが、日照が少なく、湿度の高い環境が長く続くと不定形で、角張った大きな斑点となり、いくつかが融合する。この様な場合は褐斑病、斑点病と容易に区別ができる。移植が遅れ、苗の生育が不十分な場合などに激発すると株全体が枯れて欠株となる。このほかにも葉柄部に黒褐色の条斑が生じる場合があり、根部の維管束の一部が黒変していることもある。
 これらの病害は環境条件によって左右され、常発するものではない。また、褐斑病防除に使用されている農薬の種類によっては斑点細菌病に対する防除効果を示すものがあるため、通常の褐斑病防除によりこれらの病害が間接的に防除されている場合があり、発生が抑制されている。
 しかし、褐斑病に使用されている農薬がすべてこれらの病害に対して効果があるとは限らないので、発生が懸念されるような場合には効果が認められている農薬にて褐斑病防除に併せて実施するとよい。
葉腐病の症状 (重症)
写真4 葉腐病の症状 (重症)
 葉腐病は病名が示す様に葉が腐る病害であり、症状的には斑点が生じる褐斑病、斑点病、斑点細菌病とは異なっている。しかし、最初の病斑は1〜3mm程度の肉眼では見分けにくい小さな斑点である。この斑点が拡大し、3〜4cm以上の不定形、黒褐色の病斑となる。これらの病斑は互いに融合し葉肉部が葉脈を残して枯れ落ちる。また、主脈が侵されるとその部分で折れ、垂れ下がる (写真4)。激発の場合には葉柄を残し、すべての葉が朽ちる。
 褐斑病、斑点病、斑点細菌病で枯れた場合は、葉がかさかさして乾いているのに対して、本病では、葉がしっとりと湿っているのが症状の特徴である。浸潤性褐斑病と言う名称も、小さな斑点より周囲に向かって腐っていく感じをよく表していると言える。
 1980年代になって本病の生態が解明され、有効な防除法が確立したことにより発生は少なくなったが、1970年代には十勝、道南地方を中心に激発する年が続き、その被害は褐斑病を上回っていた。特に、7月〜8月にかけて気温が高く、雨の多い年には激発した。
 当時の表現としては、褐斑病がゆっくりと進行するのに対して、葉腐病は一夜にして葉が枯れると言われていた。もちろん一夜にして全葉が枯れることなどは起こりえないが、1週間ほどで全葉が枯死するような激発の年もあった。
 葉腐病はリゾクトニア菌 (Rhizoctonia solani ) の第2群2型、あるいは第1群によって生じる。本菌は土壌中に棲息しており、これまで紹介した様に苗立枯病や根腐病の病原菌である。また、多くの作物に感染する多犯性の菌で、主として根や茎を腐敗させるが、ダイズ、インゲン、ダイコン、ホウレンソウなどでは葉も腐らせる。
 本菌の感染機作は菌糸が直接侵入するタイプであるので、発生生態が解明されるまでは菌糸が葉柄をつたわって行き侵入するか、あるいは葉面に飛散した土などに含まれている菌糸が伸張して侵入するものと考えられていた。確かに第1群による葉腐病はこの様な感染をする。この群による葉腐病は早い時期にごく限られた範囲で発生するが、圃場全体に拡がるようなことはない。
 一般的に知られている葉腐病は根腐病を起こす第2群2型により生じており、根腐病個体周辺で作られた胞子が飛散して、葉に到達して斑点性の病斑が生じる。その後はこの斑点より菌糸が伸張して葉の表皮より直接侵入して葉を腐らせ大型の病斑を形成する。この病斑上に多数の胞子が形成され、これが飛散し次々と伝播して行く。
 リゾクトニア菌は分類学上胞子を形成しないグループに属しているので、この様な胞子による感染は極めてまれなものである。
 本病が短期間に蔓延するのは、この胞子感染による伝播の早さとその後の菌糸での表皮感染による進展の早さが重なり合っているためである。
多数の葉腐病による斑点(2次感染)
写真5 多数の葉腐病による斑点
(2次感染)
 根腐病個体の周辺でできた胞子より生じた感染を1次感染、病斑上にできた胞子からの感染を2次感染と呼ぶが、一次感染により生じる斑点の数は1葉あたり数個に止まるのに対して2次感染により生じる斑点数は十数個から数十個で、時には100個以上となる (写真5)。この様に2次感染では一度に多数の斑点ができるので、条件が整えばこれより伸展した菌糸が表皮より侵入し一斉に腐敗させるので数日の内に全葉が朽ちる。そのため一夜にして枯れると言った印象を与えてきた。
 現在では根腐病の発生は少なく、防除も行われているので、葉腐病の発生源となる第2群2型の胞子も少なく、また、葉腐病も適期防除が行われているので、この様な激発は見られなくなった。
 葉腐病の発生生態の解明と防除法の確立にはてん菜技術推進協会土壌病害専門部会における長年にわたる根腐病、葉腐病に関する取り組みが基礎となっている。
 病害防除においては、各病害について発生生態を明らかにすることが基本であり、それに基づく総合的な対策により、効果的な防除が可能となる。特に土壌病害においては、新しいものが多いので基礎的な研究が必要となる。この様な観点から、(社) 北海道てん菜協会技術専門部会においても品種、栽培と並んで病害に関する課題を重要なものとして取り組んでいる。


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