和菓子業界では、最高級の国産糖と言われる “和三盆” をよく用いる。
というより、和三盆糖の価格が高いということもあって、和菓子業界のみが和三盆糖を用いると言い替えても良いのかも知れないほどである。
徳島県だけの特産物で別名 “阿波和三盆” とも言われる。
この和三盆糖は全て手作りで大変手間のかかるものである。
原料となるサトウキビは、竹糖という在来種で茎の細い品種であり決して歩留りが良いとはいえぬものである。
竹糖を圧搾機にかけて、その搾り汁を釜で煮つめて褐色の “白下” をつくる。
次いでその白下をたたみ一畳分ほどの大きさの “ふね” に入れて、水を加えながら練る。この練る動作を “研ぐ” ともいう。
その練った白下を外側は麻で内側は木綿の袋に詰め搾る。
木製の “押しぶね” に袋ごと入れて、太い丸太棒の先に重石をぶらさげて、てこの原理を用いて圧力を加える。
圧力を加えると白下から糖蜜がでてくる。
その糖蜜ではなく、袋の中に残った白下が和三盆糖になる。
その袋の中に残った搾りカス?というか白下を再びふねにあけ水を加えて練り、又袋に入れて搾る。この動作を三回繰り返すことから “和三盆糖” といわれるようになったというが、実際には五回位は繰り返すようである。
盆とはふねのことを現したものであろう。
遠心分密機などという文明の利器は用いず、あくまでも手づくりで、水を加えて練ることを繰り返すことによって不純物を取り除き、良質な結晶にしていく。
正に研ぐと言う言葉が似合う歴史の重みと良い砂糖をつくるための繊細さが同居した砂糖の王様である。
その結晶はあくまでも細かく、なめらかであり、口に含むと含んだとも思えぬうちに溶けて消えていく。上品な甘さである。
そうしたことから、生で食べると美味しい和三盆糖ともいわれ、驚くなかれ果物にかけて食べたりもする。
和菓子の世界では、通常砂糖の美味しさが命とも言える干菓子、特に型に入れて打ち出す “打ち物類” に良く用いられるが、最近では熱を加えても美味しい(当然のことだけれど)との評価も高まって、最中餡や羊羹などの砂糖として5%位の和三盆糖を加えた商品も目立つ様である。
いうまでもなく、生産には大変手間がかかるので量産はできないため、用いられるとは言っても限りがあることだが、和菓子業界にとっては大切な日本の味である。
歴史の移り変わりを乗り越えて生き続けてきた “和三盆糖” が、これから先も生き続けることを願う。