異性化糖の自己紹介
図 果糖・ぶどう糖等の構造式 |
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「異性化糖」と聞いて、食品関係以外の人々にはあまり馴染みがありませんが、砂糖と同じ天然甘味料で、主な原料はとうもろこしから作ったでん粉(コーンスターチ)です。
まず、でん粉を加水分解してぶどう糖を作り、その一部を酵素で果糖に「異性化(変換)」したものがその中身で、砂糖のように粉の形ではなく、液糖として使用します。「異性化」とは、化学的には「分子の原子数を変えないで、分子内の結合状態を変える」ことをいいますが、専門家以外に分かるはずもなく、異性化糖の理解が一般化しない大きな理由となっています。
果糖やぶどう糖等の構造式をご覧いただきますが、念のために申し添えますと、果糖とぶどう糖が異性化糖の主な「成分」であって、両者が化学的に繋がっているのではありません。ちなみに、ショ糖(砂糖)を分解すると果糖とぶどう糖になります。(図参照)
異性化糖のサンプル |
また、「異性化」には各種の「酵素」が重要な働きをしますので、ご参考までに酵素名とその働きをお示しいたします。(表1参照)
異性化糖は天然甘味料として多くの食品に利用され、ジュース缶や清涼飲料缶の原料欄に「異性化糖」と表示されることもありますが、多くは「ぶどう糖果糖液糖」または「果糖ぶどう糖液糖」と表示されていますので、機会がありましたら確かめて下さい。
表示の「ぶどう糖」と「果糖」の並び順のちがいは、1980年(昭和55年)に日本農林規格(JAS規格)で果糖が50%未満を「ぶどう糖果糖液糖」に、50%以上を「果糖ぶどう糖液糖」と決定したためです。
異性化糖の成分は、ぶどう糖と果糖とごく少量のオリゴ糖ですので、その表記は成分の多い方からするという、ごく当たり前の命名法でしょう。
また、後年、90%以上を「高果糖液糖」として新たにJAS規格に追加され、その他にも異性化糖を上回らない量の砂糖との混合液糖(「砂糖混合ぶどう糖果糖液糖」と「砂糖混合果糖ぶどう糖液糖」)も多く製造されています。(表2参照)
「ぶどう糖を果糖に異性化」して名付けられた「異性化糖」ですが、その歴史が浅いことと、使用先のほとんどが食品メーカー向け原料であり、消費者が直接に使うことがないため馴染みが薄く、そのためか何か変な物質のように思われ、ときたまですが「心配だから、どんなものか教えろ」とのご質問の電話があります。あくまでも一般的なことですが、原料欄に各種用途用として表記されている物質名はときに長ったらしくて難しくて、代替できる適訳の日本名もないこともあって、何か体に良くないもののように誤解されがちですが、製造者側としては、できるだけ正確に表記して正しく理解していただきたい結果なのです。
ちなみに、アメリカでは異性化糖の原料は全部コーンスターチですから、HFCS(High-fractose corn syrap)と称しています。
異性化液糖の良さは「キレのよい味質」で、温度が低くなるほど甘みが強くなる性質から、冷菓・乳飲料・清涼飲料等に幅広く使われています。(表3参照)
その他の長所としては、高濃度でも結晶性が少なくて安定であり、さらに浸透圧が高くて防黴効果が大きく、また、吸湿性が高いので保水性や保湿性が求められる製品向きであります。
それに、粘性が少なくサラッとしているために取り扱いが容易で、タンクローリーで大量に運送したり、タンクに保存できることも大きな長所です。
異性化糖は低温での利用に向いていますが、反対に成分の果糖が熱に弱く、加熱調理すると着色するのが欠点です。(勿論、この着色性を利用することもあります)
そのほかに果糖には果物、特に柑橘系の香りを引き立てる効果もあり、このため果物の缶詰やジュース等に多く利用されています。
高果糖液糖は、アスパルテーム(現在、テレビCMで有名なアミノ酸から作られた合成甘味料)やステビア(ステビアの葉から抽出した甘味料)などの甘味料と併用して低カロリー飲料に利用され、やはり味質の良いのが好まれています。