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お砂糖豆知識[2006年10月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識
[2006年10月]

「甘み・砂糖・さとうきび」(1)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究管理監 杉本 明
〜さとうきび・あ・ら・かると〜


 珈琲・紅茶の友砂糖。角砂糖は、白黒テレビ時代の人気番組の中で、人間の言葉を話す「エド」という馬の大好物でもあった。いわゆる白砂糖は各種料理・菓子作り、黒砂糖は葛切・黒みつとして生活を豊かに育てる。讃岐三白で有名な和三盆は世界に誇る和糖を今に伝える日本の銘菓である。もちろんさとうきびはそのままかじってもおいしい。糖度の低い、生長途中のさとうきびは栄養も豊かで、南の国々では、日常生活の重要な食糧そのものであったという。戦後、高度成長前期あたりまでは、日本本土各地でもそのような光景が見られたはずである。さとうきび・砂糖は、「蛍来い」とうたわれるように、アリ、カブトムシ、イヌ、サル、ヒト、誰もが好きな甘味の主役である。
 もちろん、砂糖ばかりが作られるわけではない。ヘミングウエイの愛用で有名な「ダイキリ」はラム(さとうきびの汁、あるいは、結晶砂糖を採取した残りの糖みつを発酵させた酒)ベースのカクテルである。ラムは沖縄県南大東島、鹿児島県徳之島でも製造される。琉球弧で酒と言えば、沖縄では泡盛、種子島ではサツマイモ焼酎であるが、与論島から奄美大島・喜界島に至る地域では黒糖焼酎が愛飲される。そのほかの発酵製品として、沖縄本島最南部の玉城、奄美大島の南に浮かぶ加計呂間島、琉球弧の北の入り口種子島等では、さとうきびのジュースあるいは黒糖をベースに、「さとうきび酢」が作られ、機能性の解明により人気が上昇している。
 変わり種を紹介しよう。燃料エタノールと調味料である。変わり種と言っても、ラムが飲料エタノールであるので、燃料エタノール製造は珍しいことではない。広大なほ場のあるブラジルの生産量は大きく、広い国内をガソリンとエタノールの各種混合比、時には全量エタノールの自動車が走り回る。原油価格高騰の昨今、再生可能で二酸化炭素排出抑制に有効な燃料として注目を集めている。もう一つ、日々の食卓、そして加工食品の隆盛に欠かせないもの、「○○はさとうきびから作られます」とうたう調味料は、蔗汁あるいは糖みつ(もちろんほかの糖質でも良い)のアミノ酸発酵により製造する。
 副産物に目を向けてみよう。さとうきび産地の製糖工場を訪ねると分かるが、工場敷地内に山積みされたさとうきびは、まず、細断され、動く道路のようなベルトに乗せられ、坂道を登るように工場内に向かい、大きな鉄製ローラで搾汁される。そこでは、バガスと呼ばれる絞りかすが大量に発生する。製糖工場では、それはまず、製糖用の熱源や電気設備を稼働するためのボイラー燃料として使われる。大量に発生するため、さとうきびからの砂糖製造、製糖工場の運転・操業には、多量の石油燃料を使わなくて済む。南太平洋やインド洋の島々で長年にわたりさとうきび・製糖業が続けられる秘訣は、このような、石油に多くを依存しない体質と、枯葉等の未利用部分が有機質としてほ場に多く残り、消耗の激しい条件下での地力維持に貢献しているためと考えられる。余剰のバガスは、畜舎の床(敷料)に用いられ、糞尿と共に処理されて堆肥としてほ場に戻されることが多い。先述の事項に加え、南の地で基幹作物とされるゆえんの一つであろう。さとうきびの大産地では製紙パルプの原料にもなる。圧延処理されてボードとなる事例も多い。沖縄県下では、ケーンセパレーションと呼ばれる新しい製糖システムを用い、バガスから衣料用繊維を取りだして「かりゆしウエア」と名付けた県の特産衣料を生み出している。そのほか、製糖システム・処理法によっては、食品素材をはじめとするより多様な製品の原料となる可能性を秘めている。糖みつも同様である。エタノールのほか、さまざまな化学製品が作られる。


写真1 さとうきびを原料とする食品
(各地から収集)
写真2 さとうきび染め、さとうきび釉の陶器達
(種子島にて)

 非原料部分も重要である。糖度の低い茎の先端近くの茎と生葉は、「さとうきび梢頭部」と呼ばれる。琉球弧は子牛生産を中心とする畜産業が盛んだが、梢頭部は、それを支える重要な粗飼料である。生草、半乾燥の状態、あるいはサイレージ調製されて供与される。梢頭部は飼料、バガスは畜舎の床にされ、さとうきびは琉球弧の畜産業を支えている。一方、畜舎からは有機物が処理されてほ場にもどされ、畑作物の持続的生産を支えている。
 以上はさとうきびの王道の利用である。しかし、さとうきびは「南の島の緑の宝」、その利用はほかにもある。関わり方によって、多様な姿を私達の前に見せてくれる。私は今、焼き物の手習いをしている。さとうきびの葉を燃やしてその灰を釉薬に使うのだ。土の種類、焼き方、さとうきび灰と釉の鉱石との組合せでも発色が異なるという。今のところ、長石、木灰との組み合わせで、灰色と青と緑の混ざった、くすんだ青色を出しているが、時にほんの少しエメラルド色に輝く。これから沢山の色出しを試行するつもりだ。
 さとうきびの茎葉は草木染めの染料としても格好の素材だ。夏の学会、講演、各種会議には、さとうきびの葉で染めた半袖シャツを着ることにしている。媒染や繊維種により、黄、緑、利休茶色等の柔らかな色が出る。鮮やかな黄、これは藍との染め分けが似合う。初夏と初秋は、利休茶色あるいは緑色のジャケットが定番である。秋が深まると、さとうきびと柿渋で染め分けた裏地付きのジャケットを着る。
 甘味としてのさとうきびはおよそ1万年前に人間の生活と出合い、長く深い付き合いを始めた。甘味の前にはさらに長い付き合いがあったはずである。これから連載の予定の「甘味・砂糖・さとうきび」について、第1回はその利用の姿を紹介した。次回からは、育種、栽培、利用、歴史、地理、砂糖の作り方、最近の技術開発等々について述べようと思う。少しの間お付き合い下さるようお願い申し上げる。