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お砂糖豆知識[2006年11月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識
[2006年11月]

「甘み・砂糖・さとうきび」(2)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究管理監 杉本明
〜ホタルこい 甘味と人間〜


 さとうきびのことを、製糖・砂糖原料と言う。「甘味資源」とも言うように、さとうきびは甘み、砂糖の源である。そこで、今回は、さとうきびの重要な特徴の一つである「甘さ」、そして、「甘さと人間との関わり」について述べる。

甘さと動物
 「ホッホッ・ホタルこい こっちのみずは あまいぞ」の歌は、蛍の甘いもの(想像の世界では砂糖水)好きをしのばせる。甘い物が好きなのは蛍だけでない。蟻、蝶や蛾、カブト虫、クワガタ等、多くの昆虫類が砂糖水を好むのは子供の頃の昆虫採集の経験が教えてくれる。ほ乳類も同様であり、サル、犬等多くの動物種が砂糖、糖蜜を好んで摂取する。人間もまた同じであるが、全ての動物・生物種が同じと言うわけではなく、動物・生物種によって、甘味への反応が異なる事も知られている。甘味であれば良いというわけでもなさそうだ。例えば、バクテリアは各種の糖に誘引されるがショ糖(砂糖)には反応しないとか、ミツバチやハエ等の昆虫は各種の糖類溶液を好んで吸うがヒトが感じる甘味より幅が狭く、人工甘味には反応しないとか、魚は糖に反応しない、等々の事実が知られている。
 一方、サルは甘味タンパク質を含め人間の感じる甘味のほとんどを好む。「サル学」の発展がさとうきびによる餌付けの成功に始まったことは良く知られていることである。筆者等は飼料用さとうきびの開発を試みているが、もし、牛が甘いものを好むのなら、暑い夏、食欲が落ちる時期の餌として最適であり、暑熱に苦しむ南西諸島の畜産には福音である。しかし、牛はルーメン動物であり、「甘味」の持つ意味が少し異なる。口の中でも分解してブドウ糖になると言われるほど近い、砂糖からブドウ糖への距離から見たらどうであろうか。牛の味覚を知りたい気がする。

写真1 ミルクを飲む幼児
写真2 誰もが好きな砂糖(角砂糖)

甘さという味覚
 人間の味覚は、「甘味」、「酸味」、「苦味」、「塩味」、「渋味」、そして「旨味」の6種類が基本とされ、甘味はその中でも代表的な地位を占める。味覚は出生時には既に存在することが知られている。赤ちゃんが苦いものを吐き出す姿、母親の乳房を含み満足そうに眠る姿、スプーンの砂糖水を美味しそうに含む姿は子育てのなかで経験することであるし、その経験が無くとも想像に難くない。聖書にも甘味・蜜の味の快楽がしばしば登場する。味は食べ物自体にあるのではなく、舌にある感覚器「味蕾」が砂糖の「甘い成分」を捉え、神経細胞を経て、脳が「甘い」と認知する。「甘い」が、「美味しい」の代表的なものであり、出生時に既に味覚があることからは、甘さを好むということは、「糖」と言う生きることに欠かせない「エネルギーの素」を感じとる能力であり、先祖代々身体に伝わる「秘訣」であることが想像される。フルクトース(果糖)=スクロース(ショ糖=砂糖)>マルトース>ガラクトース>ソルボース>キシロース>グルコース(ブドウ糖)と続く甘さの序列、これは犬の舌に各種糖を与えた時の反応の強さであるが、人間もほぼ同様な反応を示す。「砂糖」はその糖質の中でも際だった甘さを持つものである。

砂糖は必須のエネルギー
 糖質は単糖類にまで分解され、小腸から吸収され、体内で速やかに代謝されてエネルギーとして利用される。砂糖はブドウ糖と果糖に分解される。小腸から吸収されると門脈を経て肝臓に取り込まれる。血液中のブドウ糖(血糖)は、インシュリンにより細胞内に取り込まれ、必要に応じて分解されてエネルギーを放出する。脳は必要なエネルギーのほとんどをブドウ糖に依存していると言われるし、赤血球の主要なエネルギー源もブドウ糖である。このように、血糖の重要な任務は脳や赤血球に安定してエネルギーを供給することであり、そのために、血糖濃度は常に一定に保たれている。
 多くの糖質はゆっくり分解されブドウ糖になるが、砂糖は食べてから数十秒以内にブドウ糖となって血液中にあらわれる。口の中で分解されてブドウ糖になる事も多い。このことは、かつて砂糖が「薬」として用いられたことや、子供の頃、風邪をひくと砂糖湯を飲んだ記憶の意味を説明してくれる。起床後、砂糖入りの紅茶や珈琲、牛乳を飲むと元気がでるのも、砂糖のそのような性質によるのであろう。パンと砂糖入り紅茶の朝食が産業革命時のイギリスで定着したということも理解しやすい。

「糖質」の種類
 砂糖は二糖類に属する「糖質」である。「糖質」には、砂糖の他に以下のものがある。
(1)単糖類;
 一般に水に良く溶けて甘い。リボース、デオキシリボース、キシロースなどの5炭糖。グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの6炭糖がある。
(2)オリゴ糖類;
 ラクトース、マルトース等の二糖類と、ケストース等のフラクトオリゴ糖が良く知られる。
(3)多糖類;
 多数の単糖が結びついた高分子化合物で、デンプン、グリコーゲン(以上糖質)や、セルロース、マンナン、ガラクタン(以上繊維)などがあり、味が無く水に溶けやすいのが特徴である。
 人間が摂取する糖質の大部分は多糖類(デンプンとグリコーゲン)でこれに少量の二糖類(砂糖、乳糖、麦芽糖)と単糖類が加わる。糖質の多くは消化吸収されやすいのが特徴である。

糖質以外の「甘味」物質
 砂糖、ブドウ糖、果糖等の糖やグリシン、アラニンなどの甘味アミノ酸が代表的な甘味である。「甘味分子」と呼ばれる甘さを伝える物質があり、水素供与基(AH)と水素受容基(B)が結合したものである。甘味を感じる側(甘味受容体)にも同様のAH基とB基があり、AH基とB基、B基とAH基の間に水素結合が形成されて甘味刺激が引き起こされると考えられている。
 そうであるから、砂糖やブドウ糖等の糖質以外にもいわゆる「甘いもの」は沢山ある。甘草はマメ科植物Glycyrrhiza glabaの根で、甘味剤、薬用として用いられる。さらに、羅漢果(中国南部のウリ科植物Momordica grosvenoriの実)や、ステビア(南米パラグアイ原産のキク科植物Stevia rebaudianaの葉)等も良く知られる。甘味タンパク質としては、モネリン(Dioscoreophyllum cumminsii Dielsの実)やソーマチン(Thaumataococcus daniellii Bethの実)等が比較的良く知られている。
 どうやら、私達が、甘いもの・甘さを好むのは、個人個人の好き勝手な嗜好ではなく、人類が誕生したばかりの頃、さらに前の、動物種の誕生の頃からの必然であるらしい。大切な、人類・動物のパートナー、「甘味」、その代表的存在で世界を変えた「砂糖」。次回は「砂糖は誰が作る?」を主題に、砂糖を作る植物、砂糖の抽出法、製造法等について紹介したいと思う。