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お砂糖豆知識[2007年9月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識
[2007年9月]

「甘み・砂糖・さとうきび」(12

さとうきびの生産技術あれこれ 〜株出し栽培とは〜

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 研究管理監 杉本明

はじめに

  先月、先々月の2回にわたり、さとうきびの品種改良についてその概要と日本で育成した品種の特徴を紹介した。品種の開発・導入の方法、その特性は時代の要請を映している。さとうきび栽培開始期の中国細茎種導入に基づく和糖製造の興隆は、その時代では砂糖生産の実施自体が重要課題であったことを示しているし、後年のインドネシア太茎種「POJ2725」の導入には飛躍的な収量向上、すなわち近代的産業としての定着に向けた原料生産の安定化・効率化という意味が伴っている。第2次大戦後にはNCo310が導入され、株出し栽培が行われて大幅な単位収量の向上と省力化が進められたが、それは即ち、定着した近代産業に対する生産性飛躍的向上の要請が強かったことを示している。海外からの品種導入を経験する中、日本人自身による品種育成が始められ、これまでに24品種が育成された。高糖性品種、株出し多収品種、早期高糖性品種と呼ばれるように、育成された品種はそれぞれ特徴を持つ。品種の作り手の中に栽培・利用の像があるからである。栽培・利用の像とは、ある時は、直面する問題の解決であり、ある時は産業の飛躍的発展に繋がる新技術の開発、生産体系の構築である。品種はそのなかで、具体的な個別技術開発の基盤となる素材としての役割を果たしている。前号で述べたように、この豆知識では、これから、さとうきびの新しい生産・利用技術の紹介に移るが、その前に、品種育成のすぐ先にある栽培・利用の像、さとうきびの生産に関わる基本的な技術を紹介したい。今号ではさとうきびの株出し栽培、その概要と特徴的事項を紹介する。

1.さとうきびの株出し栽培と日本の現状
  日本のさとうきび栽培の作型には、2〜4月に植え付ける「春植」、そして7〜10月頃に植え付ける「夏植」があり、どちらも、およそ1年後、あるいは1年半後の1〜4月(冬・春)にかけて収穫が行われる。これは新植と呼ばれている。さとうきびの茎には節があり節には腋芽が着いている。様々な刺激で頂芽優勢が崩れると、その腋芽が生長を始める。収穫時に地上部が刈り取られると土壌中の腋芽が生長を始めるし、品種によっては収穫前でも活発に生長を始める。それを萌芽という。そのようにして再生を始めた株を肥培管理して次の収穫に導くのが「株出し」栽培である。 

  「さとうきび生産では株出し栽培から利益が生まれる」とよくいわれる。新植と異なり、圃場整備、植付けが不要で、省力・低コスト栽培が実施できるためである。種子島では春に植えて、新植の収穫後に2回の株出しを継続する、いわゆる3年3作が定着している。与論島や南大東島等においても株出しが盛んであるが、単位収量は低い。一方、宮古島では、夏に植え1年半後の冬に収穫して株出し栽培を行わず、次に来る夏に再び植え付ける、いわゆる夏植一作型、2年1作の栽培が大部分を占める。石垣島や喜界島も夏植が多く、春植や株出しは少ない。

  「株出しによってはじめて利益が上がる」とは、さとうきびを経済的に栽培するには、新植を上回る収量の株出し栽培を数回継続することが必要であることを示している。世界の主要地域では5年5作程度以上のところが多い。3年3作の種子島を除き、日本ではほとんどの地域でその姿は見えていない。日本におけるさとうきび生産の苦況の最大の要因はここにあるといえよう。

2.株出し栽培の構成要素と各要素に影響を与える要因
  株出しの良否を構成要素として考えると、(1)収穫時の株数・茎数の多寡、(2)収穫後の萌芽・株再生の良否、(3)萌芽した茎の分げつの良否、そして(4)分げつ茎の生長の良否、この4項目に分けられる。(1)は新植に関わる事項、(2)はいわゆる「株出し萌芽性」であり、株出し栽培成否の鍵となる事項である。(3)は基本的に新植時に求められる特性と同様である。(4)には新植にも求められる茎の伸長性に加え、萌芽・分げつ茎の発生位置、すなわち萌芽茎発生の土壌中の深さが影響する。

  収穫時の株数・茎数の良否(1)には、新植における株数、原料茎数の確保、すなわち欠株の最小化と有効分げつの確保が重要である。(2)萌芽の良否には土壌中の腋芽数の確保と収穫前後における腋芽の生長の良否が影響する。この段階が株出し栽培成否の鍵である。腋芽数の確保には新植における土壌中の節数・腋芽数の確保と土壌害虫の食害からの防衛が重要である。腋芽の展開には、腋芽自体が健全であることに加え、保温と保湿、茎内の栄養確保が影響する。このことは、原料茎の糖度と株出し収量の負の相関が報告されていることや、若い茎を収穫した後の萌芽が盛んであること、夏植に用いる苗の収穫後の萌芽が極めて旺盛なことなどに想像が届くと理解しやすい。(3)萌芽した茎の分げつの良否には、新植時の分げつの良否と類似の生理・生態、すなわち、さとうきび自体の生育特性に加え、生育初期における圃場でのさとうきびの生態的優位性確保(病害虫・雑草の不在やそれらとの競合の克服)が重要である。要するに茎数と茎の生育勢確保が重要であるということだが、その意味では、新植時の母茎数に比べ株出し時の萌芽茎の数の方が多いことや、土壌中の茎に蓄積された養分量が多いこと等、株出しには新植と比べて大きな利点がある。本来的に、新植に比べて株出しが多収であるのはこの特性による。(4)の萌芽茎発生位置・土壌中の深度の確保には、新植における培土の高低、収穫位置の高低、収穫後の株揃え作業の有無、品種の低温条件への適応性等が影響する。

3.株出し栽培の促進を阻害する様々な要因
  さとうきび生産の現場、さとうきび圃場は、数え切れないほどの数の生物種の棲む複雑な生態系である。その中では生物種同士の協調とともに、異種の生物種間の激烈な競争、寄生・被寄生の関係が繰り広げられているはずである。さとうきび生産技術とは、いわば、さとうきびを中心として、その協調関係を育て、競争関係にあってはさとうきびに有利な条件を整備することである。その具体的なありようが肥培管理技術である。1)〜3)に、さとうきびの株出し栽培の阻害要因である、害虫、病気、雑草について紹介する。

  1)土壌害虫;株出しを阻害する土壌害虫で最も重要なのはカンシャクシコメツキ類の幼虫のハリガネムシである。コメツキムシ類の幼虫は針金のように細長く、赤茶色をしており、その姿から「ハリガネムシ」と呼ばれている。成虫は3月上旬から6月上旬にかけて地上に出現し、産卵のために飛翔する。春植えより成長が大きい夏植えに産卵が集中するため、春植えの圃場に比べ夏植え圃場にハリガネムシが多い。孵化した幼虫は1年半〜2年半程度を幼虫、即ち土壌中でさとうきびの腋芽を食害して株出し萌芽を阻害する重要害虫として過ごす。琉球弧にはさとうきびの土壌害虫としてのハリガネムシが地域ごとに複数種いることが知られている。主な種の分布としては奄美諸島、沖縄諸島および南大東島のオキナワカンシャクシコメツキ、沖永良部島、宮古諸島、八重山諸島のサキシマカンシャクシコメツキ、両種が混在する地域もあり、同属には20種類以上の種及び亜種が含まれている。殺虫剤は何れのハリガネムシにも同様に使用可能だが、性フェロモンを利用する場合には誘引性が種によって異なるため、それぞれの種に応じた性フェロモンを利用する必要がある。現在、効果的な薬剤としてアドバンテージ粒剤、TDエース粒剤、オンダイア粒剤等がある。また新しいタイプの防除法として、餌(ベイト)で誘引し、食毒で防除する新製剤プリンスベイトの使用、あるいは性フェロモン等を用いた交信攪乱による防除技術が確立されようとしている。
  ドウガネ類も重要である。奄美諸島にはアマミアオドウガネ、沖縄諸島にはオキナワアオドウガネ、宮古諸島及び八重山諸島にはサキシマアオドウガネ、与那国島にはヨナグニアオドウガネが分布している。アオドウガネの幼虫は9〜11月に3齢幼虫となり、根を食べてしまうので、さとうきび生育旺盛期後半〜成熟期に立ち枯れ被害をもたらすこともある。宮古島及び伊良部島では局所的にミヤコケブカアカチャコガネによる立ち枯れ被害も報告されており、アオドウガネと同様に9月から、翌年3月まで根茎部を食害する。
  カンシャノシンクイハマキやイネヨトウ等、メイチュウ類も株出しに影響する。出芽後の芯枯れにより欠株が発生するため、さとうきび生育初期(食入初期)の幼虫を対象に防除を行う。ある程度生長した後、土壌中に腋芽が形成された後であれば芯枯れは新たな分げつを促進するために欠株には至らない。

  2)病害;白条病や黒穂病は株出し栽培での発病が多く、その蔓延は株出し栽培成否への影響が大きい。南西諸島における発生は認められていないが、タイ東北部では白葉病が株出し継続の大きな阻害要因と考えられている。

  3)雑草;さとうきび栽培にとって雑草の影響、特に出芽期、出芽後の分げつ期、分げつ茎の生長初期の生育阻害への影響は大きい。春植、収穫後の株出しでは雑草対策が栽培の基本である。春植や株出し萌芽の季節は冬、もしくは春である。即ち、一年の中でも比較的低温の時期である。さとうきびは熱帯作物であり生育適温が30℃以上であるが、世代を繰り返す雑草は地域・季節に適応している場合が多い。この両者の勝負、ほっておけば雑草が勝つのは想像に難くない。しかし、ひとたびさとうきびの株が定着し、生長を初め、雑草の上に出ると、後はさとうきびの勝ちである。さとうきびが独占的に光を受け、雑草の葉に届かないためである。生育旺盛期以降の鬱閉したさとうきび圃場では、畦間に雑草が見られないのはそのためである。

  沖縄県は雑草が周年で生育できる環境にあり、一年生、多年生ともに各地域共通の雑草が多い。主な雑草として、宮古・八重山地域ではオヒシバ、メヒシバ、イヌホオズキ、ハマスゲなど、南・北大東島ではアワユキセンダングサ、ノアサガオ、沖縄本島地域ではベニバナボロギク、アワユキセンダングサ、ムラサキカッコウアザミ、オヒシバ、メヒシバ、ツノアイアシ、タチスズメノヒエ、ヤブガラシ等がある。鹿児島県では奄美地域と熊毛地域とで雑草の様相が若干異なる。奄美地域ではメヒシバ、オニノゲシ、アワユキセンダングサ、ノアサガオ、熊毛地域ではメヒシバ、ヤエムグラなどがある。この他にも、春植えや株出し後、さとうきびと生育競合する主ものとして、ベニバナボロギクやムラサキカッコウアザミ、アワユキセンダングサなどがあげられる。一方、さとうきびの生育途中にも影響をあたえるものとして、ノアサガオやヤブガラシなどがある。このような他種の雑草に対し、とりわけ萌芽期、生育初期のさとうきびを効率的に助けるのが雑草防除の基本である。除草剤の散布、中耕による機械除草、マルチ処理によるさとうきびの初期生育促進等の技術が開発されている。

4.株出し栽培が多収に至るための具体的条件
  実際の栽培では、3の阻害要因を回避し、2.で述べた条件を具体的に実現することが株出し多収の必要条件である。(1)〜(4)それぞれに必要な要件があるので、それぞれ下に示すが、その条件を肥培管理によって投入するとともに、品種改良による作物自身の特性改良で投入量を最小化することも忘れてはならない重要事項である。

  (1)株数と原料茎数の確保には欠株の最小化がまず必要である。その要点は第一に健全で元気の良い苗を十分な数量投入すること、湿害や乾燥害、ドウガネ類等の食害を避けることである。原料茎数を確保するには、母茎からの分げつを促進し、有効茎を確保することである。そのために重要なことは、発生した母茎の生態的優位性を確保すること、すなわち養水分と日照・熱エネルギーの供給、雑草・病害虫の防除であり、これは基肥や枯葉除去、マルチ処理等で実現される。

  (2)土壌中の腋芽数の確保と収穫前後における腋芽展開の促進には、新植における土壌害虫の防除、茎の健全性維持、収穫直後の窒素施肥、マルチ処理による保温・保湿等が有効である。土壌害虫の生息密度や土壌中の腋芽や根系の健全性維持の観点からは夏植に比べ春植が優位であると考えられる。また、温度維持の観点からは冬収穫におけるマルチ処理、より暖かい季節に収穫することの有利性が示される。さとうきび品種に低温萌芽性を与えることも同じ意味を持つはずである。日本で常識とされる収穫直後の株出し処理が熱帯地域の圃場では行われることが少ないのはこのこと、高温期収穫の萌芽促進効果、さとうきび品種の萌芽特性と気象条件の適合性の高さによると思われる。

  (3)萌芽茎の分げつ促進には新植と同じ手だてが有効である。(2)で示す萌芽の促進に加え、萌芽した茎の初期生育促進のための肥培管理、すなわち早期施肥・中耕、そして病害虫の防除が有効である。

  (4)萌芽・分げつした茎の十分な生長量確保には、健全で豊富な根系の誘導と根圏土壌容量の確保、そして、台風や干ばつの影響の回避が重要である。根圏土壌容量の確保とは、いわゆる「株上がり」の抑制がそれに当たる。それらは、肥培管理作業の面では、萌芽茎発生深度の維持、すなわち、新植時の深い植溝と低い培土、低い位置での刈り取り、刈り取り後の株揃え等の有効性に繋がる。萌芽、分げつに関する形態的、生態的特性には品種間の差異があるため、品種特性として「株上がり」し難い特性を具えることも重要である。勿論、(2)(3)で述べる萌芽・初期生育の確保は重要であり、それは萌芽適期での収穫、早期の肥培管理実施により達成される。

5.株出しを促進するために実行される省力的技術の概要
  根切り、排土、株揃え、基肥、除草剤散布、マルチ処理の早期一体的実施が株出し多収を特徴とする種子島における株出し管理の要である。収穫後の速やかな肥培管理(株出し処理の実施)の重要性は琉球弧のさとうきび作地域全体の共通認識であるが、その実行は容易ではない。実際の実施には、収穫・株出し処理作業の省力化に有効な機械および機械化栽培技術の開発、そして収穫作業と株出し管理作業を並行的に進める作業体系の確立が必要である。そのために、日本独特の小型ハーベスタ、株出し処理の全工程を一貫作業で行う小型機械が開発され利用されているし、収穫期間中に操業・収穫を休止してその期間を株出し処理、春植に充てる等の工夫も始められている。また、株出し多収性に関わる特性には品種間の差異が大きいことが知られており、株出し栽培に適応性の高い品種として育成されたNi15、Ni16、Ni17、NiTn18、NiTn19、NiTn20、Ni22、Ni23等の品種を、地域への適応性に合わせて選択することも有効である。収穫期間を長期化して生産者の作業分散を可能にすることも重要な課題である。

おわりに

  さとうきび栽培における最重要技術とも言える株出し栽培について、その概要、阻害要因、株出し多収に至る肥培管理上の要点を紹介した。どれも公知の情報であるが、それが実現できずに低い収量に苦しんでいるのが現状である。台風、干ばつ、冬の低温、寡照条件の中で、高糖多収栽培を前提に株出し栽培の改善を実現するには、あらゆる角度からの技術の見直し、省力的に実行しうる技術の開発が必要である。そのためにも、今回紹介した情報の再認識は有効であると考えている。この号では、株出し多収のために開発されている技術の概要、株出し処理作業の省力化に有効な機械開発の一端、品種選択の重要性にも触れた。次号では、この間の進展の目覚ましい、さとうきび栽培における機械開発の概要を紹介する。株出し多収の実現に向けた新たな技術開発については稿を改めて紹介する予定である。
  なお、今号の内、3.1)害虫は沖縄県農業研究センター外間氏、3.3)雑草は同センター伊禮氏からの情報に基づいている。