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お砂糖豆知識[2007年11月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2007年11月]


「甘み・砂糖・さとうきび」(14)

さとうきびの生産技術あれこれ 〜株出し多収のための新しい栽培技術〜

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 研究管理監 杉本明

はじめに

 長大作物であるさとうきびを、島嶼で、しかも高齢化の進んだ社会で栽培するために開発された小型で性能の良い機械を前号で紹介した。その中でも特筆されるのが収穫、株出し処理に際して使われる機械である。人力刈り取り・歩行型収穫機と所謂ベビー脱葉機・ドラム脱葉機の組合せ、小型ハーベスタ、株出し処理機、排土型心土破砕機等々、世界に誇りうる日本型の軽量、高性能機械がある。しかし、省力化は機械の専売特許ではなく、機械化以外にも道はある。地域の条件に適応した作物の栽培、すなわち無理のない栽培、それこそが省力化の最大の基盤である。品種特性の差異を拠り所にしたさとうきびの省力的栽培技術は、基本的に、機械・設備・労力負担の少ない低コストなものであるし、機械開発への技術的負担を軽減することができる。何よりもまず、さとうきびの生育特性と地域の自然環境の相性の向上と作物の特性に沿った栽培の体系を構築することが大切である。今回は、収穫・株出し処理の省力的実施を念頭に、省力的で環境保全的な生産を進めるために有効な栽培技術、その実現の根拠となるさとうきびの生育特性を紹介する。

1.株出し多収の重要事項
 既に紹介したことだが、重要なことなので、株出し多収の生理的基礎について再度振り返ってみる。株出し多収は、(1)収穫後の株再生、(2)萌芽した茎の生長、(3)多回株出し実現のために必要な萌芽の再現性の確保によって実現する。それぞれを実現するために投入される栽培技術の生理的基礎は下記の通りである。

(1) 収穫後の株の再生
 植物には生長点が活性を失うと頂芽優勢が崩壊して直近の腋芽が生長を始めるという特性がある。さとうきびの場合、原料茎には節があり、その節毎に腋芽が一つ付着している。出穂等で上部茎の腋芽が側枝として生長するのはその発現である。地表近くで茎が刈り取られる場合には土壌中の腋芽が生長を始める。品種によっては、収穫前に土壌中の腋芽が生長を始めていることも多い。
 収穫後の良好な株再生に必要な条件は、高温、多湿、そして十分な栄養である。何よりも健全な腋芽、そして腋芽が付着する茎内部の十分な栄養(糖分・窒素)の存在が必要である。種苗用に収穫した若い茎の刈り株からの萌芽が旺盛なこと、収穫茎の糖度と株出し収量に負の相関関係があること、生産農家において萌芽促進のために追肥をする場合があること等はその表れである。11月や12月に収穫した後の萌芽が最も貧弱で、3月収穫の場合は萌芽が盛んである事が知られる。種子島では収穫後、萌芽促進のためにマルチをする。このことは収穫後の株再生にはより高い温度が必要であることを示唆している。勿論土壌水分も重要である。新植の場合には蔗苗根から吸収された水分による苗内糖分の加水分解が、株出しの場合には、原料茎の根から吸収される水分による加水分解が重要な役割を果たす。

(2) 萌芽した茎の生育の確保と多収の実現
 腋芽の良好な生長に必要な事項には、新植の場合も株出しの場合にも大きな違いはない。十分な養水分の存在、病害虫の不在、健全な生葉の存在である。新植との条件の違いは、生育開始時の腋芽の密度と根量である。新植より株出しが遙に多いのが普通である。新植の場合には10アールに伏せ込まれる腋芽の数は、2芽苗3,000本として6,000芽である。それがそっくり株を形成する場合、各株に3本原料茎があればそれだけで18,000芽で株出し栽培を開始することになる。実際、一口に原料茎は10アールに10,000本と言われる。1茎に2芽以上はあるはずである。必然的に超密植栽培になる。さとうきび栽培の弱点は初期生育、分げつの発生を待って中耕・培土を行うため早期管理が難しい点にある。その弱点の補強、密植・早期管理が株出しでは可能である。新植の場合、初期生育の出発は蔗苗根による吸水に始まるが、蔗苗根は細く、短く、弱々しい。しかし、株出しの出発となる腋芽が付着する茎には萌芽の時点で多量の根が生きている。収穫前に既に腋芽が生長を始め、茎根が発生している場合も多い。さとうきびの弱点である初期生育の遅さを補う栽培技術、株出しはそれに対応する作型である。

(3) 多回株出しのために
 「さとうきび経営は株出しによって成り立つ」と前に紹介した。世界的には5年5作程度、すなわち新植後4回程度連続して株出し栽培をするのが望ましい。収量のピークは最初の株出し(1株)、或いは、2株、この場合は新植時より多収になるのが基本である。3株、4株になると収量が減少するので更新する。新植より1株、2株で多いのは、2で記述した通り、実質的な密植、萌芽から初期生育時の豊かな根量、早い萌芽開始で、さとうきびの作物としての生育上の弱点を補っているからである。3回、4回で収量が低下するのは、普通は、所謂「株上がり」による。原料茎の土壌中の節(植え付けた位置より高い、地表に近い所にあるはずであるが)から萌芽が発生するために、理屈上は1株は新植に比べ少し高いところ、2株は1株より、3株は2株より地表に近づくことになる。すなわち、余程の高培土をしない限り、根圏土壌の容量が保てず養分供給が難しくなるためである。勿論倒伏の程度も激しくなるはずである。それが株出し回数の増加に伴う収量低下も理由である。従って、収量減は茎数の増加より1茎重の低下に現れることになる。実際には、そこに不萌芽・欠株の発生が加わるため、茎数と1茎重の双方が低下して急激な収量低下となって現れる。
 日本のさとうきび栽培の特徴は収穫期の地温が低いことである。従って株出しの萌芽が難しく茎数が少ない。地表近くから萌芽することが多いために1茎重の低下も激しい。このため、収量が低く、株出し継続回数も少なく、世界的に見ても低水準にある。実質的には種子島の3年3作、新植に続く2回の株出し継続が日本では最高であろう。
 多回株出し継続の鍵は株上がりの抑制であり、そのための肥培管理上の要点が既に述べた株揃え、すなわち、原料茎の収穫後に土壌表面の下数cmのところで株を再度刈り取る作業である。そして切り口まで土を排除し、太陽光を当てて加温する。種子島ではマルチを施す。そんな複雑な、日本独特のとも言える作業を植え付け作業と並行して実施するために開発されたのが株出し管理機であることを紹介した。勿論、さとうきび自身の力も大きい。新しく開発された飼料用サトウキビKRFo93―1では、生産農家の努力も大きいが、1年に2回収穫を基本とする体系下で数年間株出し多収が継続され、省力的多収栽培として重宝がられている。この特性は、萌芽、分げつが常に土壌中の深いところから発生するという株の形態的生態的特性が関係する。

2.株出し多収に向けたさとうきび生産技術
 土壌中の腋芽の数と活性の確保、収穫後の株の保温・保湿と栄養の補給から成る萌芽促進、さらに、初期生育の促進、そして良好な生育を維持するために必要な台風・干ばつ被害の最小化、株出し栽培の継続に必要な株上がり抑制、これらが株出し多収の要点である。これらの条件を省力・軽労型の肥培管理作業で満足するための技術が株出し多収生産技術であり、以下のような技術が用意されている。

(1) 現在行われている肥培管理
 既に普及している株出し多収技術の内で最も効果的なのは、種子島で実用化されているマルチ処理であろう。収穫直後に畦を透明なプラステイックで覆うため手間がかかるが、保温・保湿効果が高く株出し収量向上への有効性が高い。根切り・排土・施肥・除草剤散布・マルチ処理を一工程で行う機械、生分解性のマルチ資材も開発されており、省力・軽労性への技術的配慮も進んでいる。マルチ処理は多投入型の技術であるが、奄美以南の地域においても有用性は高いはずである。植え付けの周年化をも可能にする有用性の高い技術であるが、今のところ、種子島以外の地域ではマルチ処理を実施する地域は見あたらない。種子島以外の地域において実施される作業の中心は、枯葉除去・株揃え・根切り・排土・施肥・農薬散布である。
 株出し処理は収穫直後に実施されることにより効果が高まるが、収穫作業と並行して行う必要があるため実際には実施できないことも多い。一工程作業機は、株出し処理作業の要点である適期実施を可能にする優れた技術の代表的事例であると言えよう。

(2) 今後の技術
 1)栽培体系を気象条件に合わせる
   −温度の高い時期に収穫する−
 株出し萌芽の第一の条件は高温・多湿であると述べた。さとうきびの生育適温は30℃以上である。萌芽・初期生育時にはそれが特に重要となる。ところで、南西諸島のさとうきび収穫期は1〜3月が普通である。1〜2月は低温で萌芽適温には遠いし、3月収穫後の萌芽では、春植の欠点(台風・干ばつへの脆弱性)を克服できない可能性が高い。そこで試みられているのが、より温度の高い時期の収穫、秋収穫である。既存品種を用いた実験では萌芽が旺盛で1年後の収量も冬収穫と比べ多い。しかし、収量だけでは秋収穫可否の判断はできない。収穫時の原料茎の糖度が重要である。糖度が低くては砂糖原料になり得ないし、糖度が低く窒素が多い場合には同じ温度でも糖度が高い場合より萌芽が良いため、秋収穫の有利性を示すことにならないからである。そこで、早期型高糖性が特徴である有望系統、KN91―49やKF93―174、KTn94―88などを用いて試作したところ、沖縄や種子島の10月(11月)収穫で、収穫可能な糖度に達し(甘蔗糖度13.1%程度)、収穫後の株出し収量も冬収穫より高いことが明らかにされた。さとうきびはやはり熱帯作物である。
 秋に生育が始まる場合、翌年の夏までは夏植え栽培に近い生育が期待される。すなわち、夏植えさとうきびの最大の長所である、台風・干ばつへの抵抗力の高さが期待される。「秋収穫栽培」、「夏植え型1年栽培」とも呼ばれる画期的な新技術である。種子島地域の11月収穫に向けて「Ni20」、沖縄地域の11月収穫には「KN91―49」、「RK95―1」が育成されて実用化が可能になっている。10月収穫用系統の試作も行われている。

 2)厳しい環境に適応性の高いさとうきびを開発する
   −不良環境条件下でも株出し多収となる品種の開発−
 南西諸島のさとうきび生産圃場の多くは、耕土深の浅い痩せた土壌が多い。保水力も低い。そこで営まれているさとうきび産業は高コスト体質であると述べた。その主因は、台風・干ばつの被害を受け易く収量が低く不安定であり、さらに株出しの収量が低く継続回数も少ないことである。収穫期間が短いことも要因である。前述の「秋収穫栽培」によって、その一部は改善されるが、さとうきび産業の改善には、「冬収穫」、「春収穫」の改善も必要である。
 「秋収穫」では、「株出しには適するが高糖性さとうきびの生産には難しい季節に収穫すること」を前提に、さとうきび品種の糖度上昇時期の早期化が焦点となった。この技術では、「高糖性さとうきびの生産には適するが株出しの難しい季節に収穫すること」を前提に、そのために必要な形質、すなわち、低温下での萌芽性の改良や夏季に頻発する台風・干ばつに関する抵抗性の改良が試みられている。下記、「甘蔗糖度はやや低いが株出しが多収な」品種の育成、そして、その発展した姿としての「高バイオマス量サトウキビ」を用いた新たなさとうきびの生産・利用技術の開発がそれに当たる。

 ⅰ 普及品種の収量が低い地域でも比較的株出し多収なさとうきび栽培
 「Ni16」、「NiTn18」、「NiTn19」、「NiTn20」、「Ni23」等は、「NiF8」の茎収量が少ない地域でも新植も株出しも比較的多収であることを品種紹介の中でお知らせした。単位面積当たりの砂糖収量は高いが、「NiTn20」を除き、砂糖含有率は「NiF8」より低いのが特徴である。高糖性品種を追求してきた従来の考えでは、品種としての実用化は実現しなかったと思われる。投下労働時間減少とその影響もある株出しの不調、一連の品種は、そのような情勢に対応した安定生産技術として開発されたものであり、砂糖含有率より、単位面積当たり砂糖収量を重視する評価から生まれている。

 ⅱ 高バイオマス量さとうきびを用いた「砂糖+ワン」生産
 不良環境条件下における省力的株出し多収栽培実現への切り札として試みられているのが、高バイオマス量サトウキビを用いた「砂糖+ワン」生産である。この技術は以下の二つの技術を基本に成立している。

 ①不良環境条件下でも株出し多収性を発揮する高バイオマス量サトウキビの開発;製糖用さとうきびとサトウキビ野生種等との交雑で、台風・干ばつに抵抗性の高い株出し多収サトウキビが作出されている。系統の評価に際しては砂糖含有率より株出し多収性が優先され、保水力の低い土壌、干ばつ常発等の条件下での安定多収性を付与するために、系統の評価に際しては地下部特性も重視されている。必要な砂糖含有率を得られない場合は、製糖用さとうきび品種と再度交配され、砂糖含有率と株出し多収性の均衡のとれた系統が作出される。

 ②砂糖含有率の低いサトウキビからの砂糖とその他有用物質製造技術の開発;繊維分が高く、砂糖含有率の低いさとうきびから、これまでと同等以上の砂糖を回収し、その上でエタノール、アミノ酸等の有用物質を生産するための加工技術の開発が進められる。現在は砂糖とエタノールの同時生産技術の開発が試みられている。

 高バイオマス量サトウキビとして登録された品種は今のところ無いが、茎数が多い多収系統、深い根系を具える系統、砂糖含有率が比較的高い系統等、多数の有望系統が作出されている。今のところ、面積当たり砂糖収量は目標に達していないが、茎収量が既存品種の2倍程度を示す系統や還元糖を含めた全糖収量が多い系統が得られている。現在、砂糖含有量と株出し多収性の均衡のとれた後代の作出に向け、雑種第1代を用いた高糖性さとうきびへの戻し交雑が実施され、砂糖含有率が改良された多数の後代が作出され、南西諸島の数カ所で評価が行われている。
  今後、①可製糖量を飛躍的に高めた品種の開発、②収穫期間を200日程度確保しうる栽培技術(複数品種を用いた肥培管理技術)の開発、③機械化栽培技術の開発、④梢頭部の飼料化、畜産系有機質資源の圃場還元を基本とした地力改良型作物生産技術の開発、これらの一体的開発が進められる予定である。
  加工技術については、ここでは省略する。現在の焦点は「砂糖+エタノール」であるが、今後、「砂糖+アミノ酸」生産等についても検討が進められると予想される。

3.今後に開発が期待される未来型さとうきび生産技術
(1) 周年収穫・多段階利用に向かう道
 株出し多収を如何にして実現するかの視点で筆を進め、(1)温かい時期に収穫すること、砂糖含率を適切な高さに保ちつつ萌芽特性を高めること、(2)さとうきびの加工技術を開発して新類型のさとうきび「高バイオマス量サトウキビ」を利用することが有効であること、実用技術の開発が進められていることを紹介した。しかし、株出し多収であればそれだけで産業が安定するわけではない。産業の持続的発展には、さとうきびから取り出す価値総額の増加が必要である。勿論費用対効果の観点においてである。現在は「砂糖のみ」を目的に技術開発が始められ一定の達成を見た段階である。そして極近い将来の産業の姿が「砂糖+ワン」であろう。さらにその先、その次の段階は、「カスケード(多段階)利用」技術を基本とするサトウキビの総合利用、糖質総合産業としての発展であろう。

(2) 周年収穫・多段階利用の可能性
 黒砂糖、酢、乳酸発酵製品の製造技術の一環として、さとうきびにおける機能性成分の探索と解明が始められている。糖蜜の利用、発酵残さの利用、副生物の利用に関する技術開発も細々ながら始められている。多用途s利用を目指した、ケーンセパレーションシステムの利用、ワックス等高価値製品の製造技術、高価値物質の探索が進められている。多段階利用の実用化には、機械・システム開発が必要である。多段階利用の場合、現在の製糖システムのような短時間における大量処理は容易ではないと思われるが、その際に求められる長期間収穫が秋収穫さとうきびの開発による製糖期間の前倒し的長期化で実現可能になろうとしている。また、工場規模での製造への適応には一定量の生産規模確保が重要となるはずであり、そのためには原料生産の増加が重要となるが、高バイオマス量サトウキビの開発により飛躍的多収に向けた基本的技術の開発が進んできた。このように、この数年、「利用の多様化」に必要な技術と「作業の周年化」に必要な技術の双方が同時的に進められ、一定の成果が得られている。
 収穫早期化の先にある「周年収穫」、砂糖生産の先にある「多段階利用」、さとうきび産業が危機にあり、将来への展望が拓き難い現在こそ、本気でそれを目指すべき時であると思う。

おわりに
 さとうきび産業の振興に必要な原料生産、とりわけ株出し栽培における収量向上への貢献を求めて、秋収穫栽培、可製糖率がやや低いさとうきび、さらに、高バイオマス量サトウキビの開発が進められていることを紹介した。いずれも、これまでの高糖性さとうきびの追求から脱却し、気象条件への適応性を第一に、砂糖含有率、可製糖率の低下を容認する代わりに大幅な安定多収化を得ようとするものである。原料品質の低下は製品製造コストを高めることに繋がるため、そのままでは実用技術にはなり得ない。新しいサトウキビには新しい利用技術が必要である。今号で、「砂糖+ワン生産」、そして「多段階利用」の大枠を紹介した。次回は、黒糖、酢、エタノール等、さとうきびの利用技術を紹介する。




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