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お砂糖豆知識[2007年12月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2007年12月]


「甘み・砂糖・さとうきび」(15)

さとうきびの利用技術あれこれ〜黒糖、砂糖の製造法概要〜

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究管理監 杉本明

はじめに
 前回は、さとうきび産業の振興に必要な事項の第一が、省力的な管理を前提とした収量の向上と安定であると考え、秋収穫栽培、さらに、高バイオマス量サトウキビの開発が進められていることを紹介した。新しいさとうきびには新しい利用技術が必要であると述べ、「砂糖+ワン生産」、そして「多段階利用」の概要を紹介した。今回は、さとうきびの利用、その基本中の基本である、分蜜糖、黒糖の製造技術の概要を紹介する。

1.黒砂糖と白砂糖
 種子島から波照間島、与那国島から南大東島、南西諸島の多くの島にはさとうきび畑があり製糖工場がある。種子島、喜界島、奄美大島、徳之島(2ヶ所)、沖永良部島、与論島、沖縄本島、伊是名島、久米島、南大東島、北大東島、宮古島、石垣島には分蜜糖の工場がある。そこで生産された砂糖(原料糖)は、白砂糖の原料として、日本本土の精製糖工場に出荷される。一方、波照間島、与那国島、西表島、小浜島、多良間島、伊平屋島等、比較的小さな島にある製糖工場では含蜜糖が作られる。黒色をしていることから黒糖(黒砂糖)とも呼ばれる。徳之島、喜界島、奄美大島、種子島等、鹿児島県の島々でも黒糖は作られているが、沖縄のそれと比べると遙かに小規模であり、工場というよりは作業場と言った方がその像が喚起しやすい。
 分蜜糖は、サトウキビを搾って煮詰め、結晶させて結晶だけを取り出したものをいう。結晶させたあとで、糖蜜(ブドウ糖や果糖が沢山含まれている)を分離するので分蜜糖という。砂糖の結晶は、無色透明である。白く見えるのは光が乱反射するせいである。蔗汁が煮詰まってきたときに、小さな砂糖の粉(種子;シードという)を混ぜて核にすると、その周りに溶けている砂糖(ショ糖)が凝集して結晶が育つ。結晶が大きく育った後で非結晶部分を取り除く。
 糖蜜を分けずに結晶砂糖と一緒に固めるのが含蜜糖である。分蜜糖工場とよく似た工程で砂糖を煮詰め、結晶化させる、程よく結晶化したところで糖蜜と共に冷やして固める。結晶を育てるときに結晶の種子を入れない点、糖蜜を分離せずにそのまま固める点が分蜜糖と違うところである。香りも豊かで美味しい。腸内の善玉細菌と言われるビフィジス菌の増殖に良いとされるフラクトオリゴ糖等が多く、健康食品としても人気がある。葛きりの黒蜜等、高価な食品として世に出る場合が多い。
 表1に様々な砂糖を示す。①〜⑦までがいわゆる分蜜糖、(10)が含蜜糖である。和三盆は、徳川吉宗の奨励策によって発展した和糖(分蜜糖と言えよう)、和糖製造が今に続く香川・徳島、讃岐三白の一つに数えられる名品である。表2には黒砂糖と白砂糖の栄養成分を載せた。蔗糖は黒砂糖では80%ほど、白砂糖(グラニュー糖)では100%で、両者の間に約20%の差があるが、黒砂糖には蔗糖の他にブドウ糖、果糖などが含まれているため、エネルギーではあまり差はない。黒砂糖にはほかにも、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、さらに、ビタミンB群やナイアシンなどのビタミン類が含まれている。現在、我が国においてその摂取不足が骨粗鬆症など引き起こし問題になっているカルシウム、高血圧予防に効果のあるカリウム、心臓疾患の予防に必要なマグネシウムを豊富に含んでいる点が注目に値しよう。

表1 いろいろな砂糖

表2 黒砂糖と白砂糖の栄養成分の比較

2.さとうきびの部位・利用と収穫
 図1にさとうきびの部位による利用法の概要を示した。さとうきびは大まかに、①原料茎、②梢頭部、③枯葉・葉鞘、の三つの部分に分けられる。梢頭部は家畜の粗飼料として有用である。サイレージ調製によっても嗜好性の良い粗飼料になることが知られている。繊維分の消化性が悪いこと、粗蛋白含量が少ないことが特徴であり、単独給与ではなく、TMRとして給与するのが良い。枯葉や葉鞘は家畜の敷き料として重宝がられている。
 原料茎は工場に運ばれ、図2に示す、搾汁、清澄化、濃縮、結晶化、分蜜の工程を経て分蜜糖になる。普通はその状態で船積みされ精製糖工場に移されて製品としての様々な砂糖になる。結晶化、分蜜工程を含まず、結晶ショ糖と糖蜜が分離されずに固められるのが含蜜糖である。分蜜糖の場合、製糖の過程で、最初にバガス、次にフィルターケーキ、最後に糖蜜が排出される。バガスは、製糖の熱源として、また、家畜の敷き料として重用されている。国によっては、木質資源として、ボード、製紙の原料とされている。糖化を経ればエタノールの原料としても用いられる重要資源である。茎内部柔組織のバガスは食物繊維としても有用である。フィルターケーキは肥料としての有用性が高く需要が多い。この中には茎表皮や葉鞘に付着しているケーンワックス成分が含まれているが、有用性が高いために、効率的な回収方法の開発が待たれている。最後に排出される糖蜜は、肥料、飼料、飲料酒、食酢、燃料エタノール、グルタミン酸ソーダ、リジン等有用製品製造の重要な原料であるが、思いの外、実際の利用は進んでいないのが現状である。
 人力収穫の場合、生産者はさとうきびを鍬または斧で株元から刈り倒す。刈り倒す前あるいは刈り倒した後に、生葉の着いた糖分の少ない部分(梢頭部)を切除する。家畜の飼料にする場合には梢頭部として集積される。茎の本体部分は、鎌(人力)やベビー脱葉機(耕耘機の動力を利用)等の簡易な装置で葉鞘・枯葉を取り除く。そのように綺麗に裸にされた茎が原料茎である。全茎無脱葉収穫の場合には、枯葉や葉鞘は工場内等に設置された集中脱葉装置で取り除かれる。
 ハーベスタ収穫の場合、①事前に梢頭部を切除し、家畜飼料として集積しておく場合と、②梢頭部を付けたまま収穫する場合がある。後者の場合は別に設置された脱葉施設で梢頭部が分離され集積される。ハーベスタ原料は30cm程度に切断されるために、ショ糖の分解が速いのが特d徴である。ショ糖の分解を避けるために、長茎原料に優先し、収穫した日に圧搾工程に入れられのが普通である。

図1 サトウキビの部位と主な用途

図2 サトウキビの加工法 ―原料サトウキビから原料糖(分蜜糖)ができるまで―

3.砂糖の製造法概要
 図2に原料サトウキビが分蜜糖、あるいは含蜜糖になるまでの製造過程を示す。
 ①できる限りきれいな蔗茎を原料に用いる。上から5番目程度の展開葉の葉鞘の付け根から上、梢頭部と呼ばれる部分は糖分が少なく不純物が多いのであらかじめ切除する。②原料を細裂し鉄製のローラーで圧搾する。細裂に用いるシュレッダーのカッター、圧搾のためのローラーは鉄製である。③蔗汁の回収率を高めるため、2番目のローラにおける圧搾では蔗汁を細裂試料にかける。数回(4〜5セットのローラで4〜5回程度)の圧搾工程の最後には熱水を加注して圧搾し糖分を抽出する。残さとなるバガスの糖度は2%程度である。③−ⅱ;細裂圧搾による搾汁のほか、テンサイの場合と同様、浸漬によって糖分を析出させる方法もある。④蔗汁中の不純物を除去するために真空濾過を行う。その前処理として、蔗汁を加熱し(105℃程度)、PH.が7になるよう石灰(水酸化カルシウム)を添加する。不純物を沈殿させた後、上澄みを真空濾過して清澄な糖汁を得る。除去された不純物はフイルターケーキ(水分75%)とよばれ、堆肥として圃場に還元される。⑤加熱・減圧によりブリックス60%程度になるまで濃縮する。濃縮が進むにつれて糖液を別の濃縮缶に移すため、4〜5個の濃縮缶を用いることが多い。⑥作られた濃縮液(シロップ)を結晶缶の中でブリックス82%程度になるまで濃縮し、種砂糖(シード)を混入し、56〜58℃、4〜5時間程度で結晶化を進める。結晶化の程度は糖液をガラス板に採取し、熟練した職員が肉眼で判定する。⑦結晶化が進んだら遠心分離機を用い、4分間程度遠心して糖蜜と砂糖を分離する。このようにして作られる薄茶色の砂糖が原料糖(分蜜糖)である。
 含蜜糖についても基本的には同じ工程をたどる。異なる点は以下の通りである。含蜜糖の場合に、製品の品質には原料の品質が影響するため、原料の選定には黒糖の美味しさ等の品質条件を加味することが必要である。①〜⑦の工程の内、②搾汁工程について、小規模な黒糖製造の場合は蔗茎を細裂しないで直接ローラーで圧搾することが多い。このような場合、4重のローラを使わない場合も多い。④について、小規模な黒糖製造の場合は加熱濃縮の過程において、表面に浮き出た不純物を網で繰り返しすくい取って除去する。⑤について、黒糖製造の場合は種砂糖は用いず、濃縮を進めて冷却固化させて製造する。小規模な黒糖製造の場合にはガスや薪で鍋に入れた蔗汁を煮詰める。最初の釜で100℃程度、約1時間濃縮したあと次の釜に移しやはり100℃程度で約40分煮詰め、最後に120℃程度で30分程度煮詰めて濃縮が完了する。冷却の際、良く攪拌し空気に均等に触れさせることが重要である。こうして作られるやや濃い茶色の砂糖が黒糖(含蜜糖)である。
 和三盆の場合には、黒糖製造と類似の過程で製造した白下糖を麻袋に入れ、「研ぎ」と呼ばれる重石による押圧と手もみの反復で糖蜜を分離して製品を得る。

おわりに
 前回、新しいさとうきび産業のあり方、南西諸島の厳しい自然環境に適応性の高いさとうきびを用いた「砂糖+ワン」生産、そして「多段階利用」、「周年収穫」の概要を紹介した。今回はその理解を進めるために、現在の製糖産業、分蜜糖と黒砂糖の製造法の概要を紹介した。次回はその周辺、機能性の活用、食品としての利用の概要を紹介したい。


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