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オーストラリア糖業事情調査

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最終更新日:2010年3月6日

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海外レポート
[2000年7月]
 オーストラリアは、タイと並びわが国に輸入される砂糖の2大供給国であり、オーストラリアの原料糖生産量の95%を占めるクイーンズランド州では、近年急速に規制緩和が推し進められている。当事業団では、この度、オーストラリア(クイーンズランド州)の糖業事情、特に、規制緩和の状況と関係業界の動向等について調査を行ったので、その概要を報告する。

農産振興部長 加岳井勇
宮崎出張所長 真弓正展


1.オーストラリア砂糖産業に関する規制緩和の状況
 (1)規制緩和の経緯等   (2)規制緩和の状況
2.オーストラリア砂糖産業の位置付け
3.さとうきび生産及び砂糖の需要動向
 (1)さとうきびの生産   (2)砂糖の需給
4.砂糖の消費拡大キャンペーン
5.バルクシュガーターミナル等の現状
 (1)ブリスベンバルクシュガーターミナル   (2)マッカイバルクシュガーターミナル
 (3)レイスコース製糖工場及び周辺農場

1.オーストラリア砂糖産業に関する規制緩和の状況

(1)規制緩和の経緯等

 a.クイーンズランド州政府は州法である「1991年砂糖産業法」(Sugar Industry Act 1991、第一次産業庁所管)を制定し、クイーンズランド州砂糖公社(QSC)を同年7月15日に設立した。これによって、QSC はさとうきび生産者に対する作付割当と出荷量の制限、出荷先工場の指定と製糖工場に対する製糖量の制限、さとうきび買上価格の決定等広範な規制管理を独占的に実施することとなった。
b.1995年、連邦政府は財政赤字を解消するため、国家競争政策の下で全ての規制を見直すこととなり、砂糖産業については連邦政府と州政府により砂糖産業審査委員会(SIRWP)を設置し、見直し検討を行うこととなった。
c.1996年11月、同審査委員会は、広範にわたる74件の勧告を行い、それを受け次の改革がなされた。
・原料糖及び精製糖関税の撤廃
・国内販売窓口の民間(QSL)への移管(QSC の輸出独占権は維持)
・原料糖のNo.1プール価格とNo.2プール価格との格差の解消
 価格差は1997年6%、1998年4%と低下し1999年には単一のプール価格となった。
・さとうきび作付面積及び製糖量制限における地域自主性の増大等




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(2)規制緩和の状況

a.砂糖輸入関税撤廃
 関税は1989年7月、粗糖、精製糖ともに115豪ドル/トンに設定され、1991年3月には76豪ドル/トン、1992年7月に55豪ドル/トンに引き下げられが、1997年7月には原料糖及び精製糖の輸入関税は撤廃された。
b.国内販売窓口の民間(QSL)への移管
 砂糖産業界の要望もあり、QSC の輸出独占権を維持しつつも規制緩和を推進するため、輸出の窓口となっていた CSR(オーストラリア最大の製糖会社であり、QSC のエージェントとして砂糖の輸出マーケティング業務を委託されていた。)の砂糖マーケッティング部門と国内販売の窓口であった QSC の販売部門を統合し、2000年1月クイーンズランド砂糖有限会社(QSL)が設立された。これに併せ、従来 QSC が担当していた国内販売窓口が民間会社である QSL に移管されることになっている(実際、活動が開始されるのは8月頃とされる)。
c.生産農家と製糖業者間でさとうきび 価格等の決定
 さとうきび生産農家と製糖工場で構成される地域交渉団(委員は州知事の任命による)で、さとうきび納入条件、価格を交渉決定するほか、原料糖の年間生産量の決定も QSC との委託契約によるのではなく、同交渉団において柔軟性を持って決定できるようになった。
d.規制管理権限の分離
 1999年12月「1991年砂糖産業法」に代わり「1999年砂糖産業法」が制定され、これまで QSC によるほぼ全州一括の中央集権的規制管理から、地域(各製糖区域)の実状を反映する地域レベルの規制管理に移行するとともに、QSC に代わり新たに砂糖産業コミッショナー(Sugar Industry Commissioner)が設立され規制管理権限は同コミッショナーに引き継がれることとなった。同コミッショナーは、州知事によって任命され、任期は5年以内、機能は、 a.耕作地利用の承認と登記簿の管理 b.製糖区域の管理 c.さとうきび生産局の補佐 d.さとうきび分析システム移行計画の推進と承認 e.砂糖産業内の紛争の仲裁、などである。また、事務局は QSC 内に設置され、運営資金は QSC が支給するが、権限は独立したものとなる。

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2.オーストラリア砂糖産業の位置付け

(1)オーストラリアにおける99/2000年度の農業粗生産額は、約285億豪ドルであり、主要産品は a.牛肉(約44億豪ドル)、以下 b.小麦 c.生乳 d.羊毛 e.鶏肉〜 h.さとうきび(約9億豪ドル)となっている。
 また、同年度の農産物輸出総額は約224億豪ドルであり、主要品目は a.小麦(約33億豪ドル)、以下 b.牛肉 c.ウール d.乳製品 e.綿花 f.ワイン g.砂糖(約12億豪ドル)となっており、砂糖はオーストラリア経済に大きく貢献している。


(2)砂糖生産量は516万トン(うちクイーンズランド州は95%)で世界第5位(シェア4%)であり、輸出量は424万トンでブラジルに次ぐ第2位(シェア11.4%)となっている。数年前までは、世界第1位の砂糖輸出国であったが、安価で高品質なブラジルの原料糖に押され、従来のオーストラリア市場へも輸出が増加している。
 なお、クイーンズランド州の砂糖生産量の80〜85%は輸出されている。
(3)輸出先国は韓国、マレーシア、日本、カナダ等17ヵ国に及んでいる。なお、日本は、輸入量約155万トンのうちタイ約67万トン(43%)、オーストラリア約64万トン(41%)と両国からの輸入が8割以上を占めている。


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3.さとうきび生産及び砂糖の需要動向

(1)さとうきびの生産

a.さとうきびの生産は、オーストラリアの7州のうち3州(クイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州及び西オーストラリア州)において栽培されており、主な栽培地域は、北東クイーンズランドから北ニューサウスウェールズに及ぶ2,100kmの海岸地帯に広がっている。これらの地域は、オーストラリアのさとうきび及び砂糖の約99%を生産し、クイーンズランド州だけで約95%に及ぶ。
b.99/2000年度においては、さとうきび収穫面積は約42万ha、収穫量は約4,200万トンであり、近年、規制緩和等により漸増傾向にある。最近、NY粗糖相場が大幅に低迷しており、この相場が続くようであれば今後生産は減少する恐れがあるが、他作物への転作等については市場が小さい等により困難である。なお、原料糖ベースで約250万トン相当の作付面積余力はあるが、製糖能力が限界であるため増やせない現状にある。
c.さとうきび農家数は約6,500戸であり、その大部分がきび専業で家族労働が中心である。近年、農業従事者の高齢化(平均約60歳)が進んでおり、収穫時は必要に応じ共同組織による支援が行われる。
 収穫は、1979年からすべてハーベスターにより行われ、工場への搬入は全土で4,000kmに及ぶ鉄道網により、原則16時間以内に搬入される。製糖工場は1編成150〜200両の貨車を提供し、農家は集積場で貨車への積み込みまでの経費を負担することとなっている。
 なお、農家の経営はさとうきび価格が低迷する中で高額な農機具の維持管理など厳しい環境にある。
d.農家きび代金は NY 粗糖相場に連動することから大幅な下落に伴い受取額は22豪ドル/トン(約1,600円)と過去5年で3割減少している。
 クイーンズランド州では、原料糖の販売による収益はQSCがプールした上で製糖工場の経営者に対し原料糖生産に応じ支払いを行い、製糖工場は農家から引き渡しを受けたさとうきびに係る代金の6〜7割を翌週に支払い、毎年7月初めに前シーズンの砂糖最終販売価格が決定され差額精算の上残金の支払いが行われる。
 

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(2)砂糖の需給

a.原料糖の生産は97/98年までは規制緩和及び良好な気象条件により連続過去最高を更新してきたが、98/99年は温暖多雨により激減した。99/2000年は約545万トンと推定されているが、本年2月、クイーンズランド州北部の豪雨被害により減産が見込まれている。
b.砂糖の国内消費量は約100万トン余りであり、クイーンズランド州で生産された原料糖の約20%、ニューサウスウェールズ州の95%、サウスオーストラリア州のわずかな割合が国内消費に回されている。
c.輸出量は400万トン強と安定的に推移しているが、輸出額は NY 粗糖相場の下落に伴い厳しい状況に直面している。政府は欧州を中心に新しい市場を開拓するとともに、現在の輸出先との関係を強固にする方針をとっている。
d.甘しゃ糖工場は全部で30工場であり、うちクイーンズランド州に26工場がある。製糖期間は6月〜1月(平均160日)となっている。
 1工場平均原料処理量は年間約140万トンと極めて大規模(日本の1工場当たり平均年間処理量は約8万トン)である。設備は老朽化が著しい状況にある。原料糖の製造経費については、コストのうち原料代が約3分の2、製造経費約3分1となっており、わが国の甘しゃ糖と同程度の割合である。
 精製糖工場は6工場あり、年間平均溶糖量は約21万トンであり、操業率は65%と低い状況にある。
 なお、小袋は大都市近郊に専門工場を設置し、専用船により原料糖を輸送して集中生産を行うなど最大限の合理化が行われているが、経営環境は厳しい状況にある。
 

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4.砂糖の消費拡大キャンペーン

(1)オーストラリアにおける1970年代末1人当たり砂糖消費量は年間55kgであったが、1980年代前半には砂糖に対する誤解等により年間49kgまで激減した。このため、砂糖業界は年間約1億豪ドルの予算により「天然の安全な甘味料、防腐剤としての砂糖の役割」を PR するキャンペーンを実施した。
(2)1990年代は、個々の企業が独自ブランドを PR する方向に転換した。これらのキャンペーンの結果、砂糖消費量は1970年代末の水準まで回復した。
(3)現在は、官民一体の広告キャンペーンや医師、栄養学者等専門家を対象にした PR を引き続き実施しているが、50kg台前半で低迷し、最近は微減の傾向を示している。

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5.バルクシュガーターミナル等の現状

 オーストラリアには、7ヵ所のバルクシュガーターミナル(合計200万トン以上の許容量を有する)があるが、今回調査した2ヵ所のターミナル並びにレイスコース製糖工場及びその周辺農場の現状について紹介する。

(1)ブリスベンバルクシュガーターミナル

 ブリスベンバルクシュガーターミナルは1985年に設立された。同施設は幅100m程の入江を約3kmさかのぼった地点に設けられており、収容能力は12万トンと最少であり6人で運営されている。
 原料糖は約40km離れたモートン及びロッキーポイントの製糖工場から搬入される。
 搬入はすべてトラックで行われ、1台ずつタッグ(写真2)を持っており、搬入された原料糖はカードシステムにより製糖工場ごとに管理され、これにより代金精算等が行われる。重量測定後、サンプルは2,000トンごとに500gずつ20カ所から自動的に抽出し5分間混合させて作られる。サンプリングは倉出しの際にも行われ、問題が起こった場合に対処するため消費者及び輸出先に渡るまで保管されている。
 積み出しは1万6,000トン〜2万5,000トン級の船が横付けされ1時間当たり約2,000トンペースで積み込まれる。
 
写真1 ブリスベンバルクシュガーターミナル
粗糖積み出し施設
ブリスベンバルクシュガーターミナル
写真2 ブリスベンバルクシュガーターミナル
生産者識別用タッグ
生産者識別用タッグ

(2)マッカイバルクシュガーターミナル

 1957年に設立され、7基のうち最も収容能力が大きい施設である。
 原料糖は最短10km、最長120km離れた6つの製糖工場から搬入され、原糖倉庫は18万5,000トン収容が4棟あり、総収容能力は合計約74万トンであり、保管料は1日当たり5豪ドル/トンである。なお、搬入はトラック(20トンのバルクタンクを2台連結、B-double road truck と呼ばれている)が3工場、貨車が3工場となっている。
 ここには国内消費用精製糖の輸送専用のターミナルもあり貨車は州政府(Queensland Government Railways)が管理している。
 
写真3 マッカイバルクシュガーターミナル
原糖倉庫
マッカイバルクシュガーターミナル
写真4
レイスコースミル
レイスコースミル

(3)レイスコース製糖工場及び周辺農場

 レイスコース製糖工場は、マッカイの西約6kmに位置している。操業開始は1887年(当時の圧搾能力は150トン/時間)であり、その後1985年に1ライン増設(300トン/時間)し、現在は1時間当たりの圧搾能力は540トンであり年間20〜25万トンの原料糖を生産している。
 また、1994年に精製糖の生産設備を併設し、年間約35万トンの生産を行っている。生産量のうち約25万トン(7割)はマッカイ周辺で消費されるが、残り約10万トンはインドネシアや中国に輸出されている。
 最盛期(6月〜9月)の従業員は約300人であるが、非製糖期は約160人体制で操業しており、うち精製糖部門は5人1交代の4交代制で作業している。
 さとうきびの搬入は、すべて貨車を使用しており、集荷圏内線路は総延長160km、50カ所ある集積場から製糖工場の所有する2,500両の貨車により運ばれる。
 農家のさとうきび平均作付面積は65haで、専業、家族労働が中心になっている。
 周辺農場での栽培品種は5種類で、Q124とQ135の2種類で全面積の約8割を占めている。収穫は全収量の8割以上がグリーンハーベスト(さとうきびを燃やさずそのまま収穫する方法)で行われている。この方式の全国ベースの平均は約60%であり、当地の割合はかなり高い状況にある。一方、 バーンハーベスト(さとうきびの葉を焼いた後収穫する方法)は、歩留りが低下することに加え、環境問題に配慮し減少傾向にある。

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