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英国の砂糖産業の概要

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/海外情報


海外レポート
[2003年11月]

 英国の砂糖産業は、EU砂糖制度により生産割当、保証価格が設定され、国内価格が維持されています。また、粗糖の輸入についても制限されています。このような状況下において、合理化、コスト削減に取り組み、EU第4位(01/02年度)の生産量となっています。
 こうした英国の砂糖産業について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、調査情報部でまとめたので紹介します。なお、最新のデータについては巻末資料編をご参照下さい。

調査情報部


生産状況
  需給バランス  ビートの生産状況  その他の甘味料
砂糖産業の現状
  ビート糖産業  精製糖産業  砂糖の流通
砂糖産業の現在の問題


生産状況

需給バランス
 英国は砂糖輸入国である。英国の砂糖産業は国内産ビート糖で国内需要の半分以上をまかなっている。残りはACP(アフリカ、カリブ海、太平洋地域)諸国から特恵糖や特別待遇糖として、後発途上国からEBA協定(武器以外の関税の全面撤廃、特恵関税の一種)により輸入される粗糖を精製することで補っている。
 ビート及び輸入粗糖どちらを原料とするかにかかわらず、全ての国産糖は、ロンドンNo.5砂糖契約によって取引される高品質の砂糖である。(英国国内で粗糖は生産されていない。)
 また、毎年50万トン以上の砂糖を輸出している。C糖が輸出量の半分をやや上回り、残りは輸出払い戻し金の支払われるA及びB割当糖である。輸出されるC糖の量はその生産量により大いに変動する。99/2000年度の豊作時にはC糖の輸出だけで53万トン以上となり、その年の全輸出量の約75%になった。
 ビート糖生産量及び砂糖消費量は、ゆるやかな減少傾向を示している。この傾向は 01/02年度の不作によって誇張されており、02/03年度の生産量は粗糖換算で約155万トンと2000/01 、01/02年度を上回ると予想されている。
 2001/02年度のビート糖生産量の大幅な減産の理由は、ビート収量がより少なかったことが挙げられる。これは主として、多雨のために播種が遅れたことによる。
 全体的な消費の傾向は安定しているが、部門ごとにみるとわずかな変化がある。特に飲料部門では、砂糖消費量が13%減少した。他には家庭内消費の減少であり、2%の減少となっている。逆に、非食品部門においては16%と飛躍的な増加が見られた。また、主な用途である焼き菓子及び菓子では7%の増加となっている。
 今後の10年間は砂糖需要の落ち込みが予想されている。その理由として食生活の変化に伴い、家庭内における砂糖消費の減少が挙げられる。また、砂糖と代替甘味料を混合した製品の増加及びフルーツ飲料や水などの健康飲料の占める割合の上昇により、さらに飲料部門で消費量が減少すると予想される。

表1 砂糖の需給バランス (単位:1,000トン、粗糖換算)
表1
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ビートの生産状況
 近年、英国のビート播種面積は縮小している。これには2つの主な理由がある。
 第一に、過去20年にわたる収量増が作付面積の縮小を招いた。ビート作付面積に制限はないが、EU砂糖制度の生産割当により、最終的な砂糖生産量は調整されている。英国の場合にはC糖生産に利益があり、割当の充足に必要な予防的数量を上回るC糖を生産しており、栽培面積の減少は比較的緩やかである。
 第二に、輸出補助金をWTO協定の限度内に収めるためのEU委員会による割当削減が、英国のビート減産に影響を与え始め、ここ数年の縮小が大きくなっている。作付終了後に割当が削減される場合に発生する、ビートの割当糖からC糖への格付変更が、英国生産者の受け取る平均ビート価格を引き下げている。
 1990年代には、英国はEU内で常に良質のビートを収穫する国の一つにまで成長した。これは主に、1999年代後半から2000年代初頭にかけてのビートの品種改良による。今後、気象条件が改良品種のもつ条件に合った場合には、収量の上昇に一層の拍車がかることが予想される。
 99/2000年度から01/02年度までの3年間のビートの糖度の平均は、17%強であった。英国では、ビートを収穫せずに地中に残すことは霜害の危険性があるが、砂糖歩留り及びビートの糖度の上昇につながる。
 歩留りも他のEU諸国と比べて良好であり、ビート生産者はビートのしょ糖含有率やその他のビートの判定基準に対する割増金の支払いを受けている。
 製糖段階での一層のコスト軽減措置として、工場に入荷されるビートの品質改善が奨められており、ビート重量と窒素含有量を削減するために奨励金が出されている。窒素品質褒章金制度は2000/01年度に初めて支払われた。
 ビート栽培面積は156haであり、EU平均の40haをはるかに上回り、EUで最大である。ビートは農家単位で生産しており、その栽培面積は平均約23haである。ビート生産農家の4分の3はビート栽培面積が20ha以上あり、EU平均の6.5haに比べてかなり大きい。また、ビート生産農家の約10%は、40haを越すビート栽培面積を持っており、スケールメリットをもたらしている。
 近年、ビート生産者数は約1,000戸減少し、7,000戸から6,000戸となった。ビート生産を止める農家から生産割当が譲渡されたことにより、大規模農家の増加及びコストの削減へとつながった。

表2 ビート生産量及び産糖量等の推移
表2

表3 砂糖の用途別消費量 (単位:1,000トン、粗糖換算)
表3
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その他の甘味料
 異性化糖の生産量及び消費量は、砂糖のわずか4%にすぎない。これは、異性化糖の生産がその他のEU加盟国と同様にEU甘味料制度の管理下にあり、生産割当によって規制されているためである。近年、EU委員会はWTO輸出補助金約定超過の恐れが生じたため、砂糖と同様に異性化糖の割当も削減した。
 02/03年度の異性化糖生産割当は、1,843トン削減され、2万5,395トン(固形換算)である。異性化糖の輸出入も少量あるが、EU加盟国間にとどまっている。英国で製造される異性化糖の原料は小麦のみである。
 戦時中の配給物であったサッカリンは、きわめて高い消費量であったが、高甘味度甘味料市場におけるシェアは1990年の75%から2002年には55%にまで落ち込んだが、同時期に、アスパルテームのシェアは23%から31%に、アセスルファムKのシェアは2%から9%に増加した。

表4 砂糖及び異性化糖生産量等の推移 (1,000トン、粗糖換算/固形換算)
表4
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砂糖産業の現状

ビート糖産業
 英国のビート糖産業の特徴は、British Sugar社、1社が全製糖工場を所有していることである。British Sugar社 は、工場の生産性向上のために、工場の統合を行なう一環として1930年代に政府によって設立された。政府はBritish Sugar社の株式の一部を保有していたが、国有化はしなかった。
 1982年に、政府は残っていた株式を売却し、British Sugar社はBerisford International社に譲渡された。しかしながらその後Berisford社も深刻な資金難に陥り、現在の所有者であるAssociated British Foods (ABF)社に売却された。
 したがって、British Sugar社は1991年以降、ABF社の100%子会社となった。同社は、欧州で最も低コストの製糖業者であるとみられ、ABF社全体の収益に貢献していると言われている。British Sugar社はEU第3位の砂糖会社で、英国の砂糖割当の全量を有し、EU全体の7.8%の割当を有している。また、British Sugar社は自国以外でも、子会社であるBritish Sugar Overseas (BSO)を通して砂糖工場を所有し、現在ポーランドにビート糖工場を10工場と中国に甘しゃ糖会社4社を所有している。
 ビート産業は、長年に渡って合理化に取り組んできている。1960年代には約20工場が存在していたが、1993年には10工場まで減少した。工場閉鎖の理由は、1980年代初めの生産割当の削減にあり、生産集中体制を確立することで、コストの削減を図ったからであった。近年においても 一層のスケールメリットを追求して工場の閉鎖が相次いだ。 Kidderminster、Bardney、Ipswitch工場の閉鎖により、工場数は01/02年度には7工場、02/03年度にはさらに6工場にまで減少した。
表5 ビート糖工場の現状
表5
 6工場のビート処理能力は1日あたり6,000〜1万7,000トンの範囲となっている。操業期間は、他の欧州諸国より長く、平均で145日である。比較的暖かい気候を利用し、ビートを長期間貯蔵することにより、長期操業が可能となっている。
 British Sugar社が生産する砂糖は、全て国内で販売される。製糖工場では、白糖(EU1〜2等級)に加え、ペレット状乾燥飼料及び糖蜜を生産している。特定産業用に選別、包装される砂糖は、Bury St. Edmunds包装工場で生産されている。液糖(しょ糖溶液)及び転化液糖はWissington工場で生産されている。中央管理システムが多用されているため、6工場の従業員総数は約750人と少なく、生産期には従業員を増員して対応している。
 また、製糖工場は従来の製糖操業期終了後も、濃縮液糖を貯蔵することにより操業期間を延長している。濃縮液糖の形で砂糖を貯蔵すると、工場全体の生産能力を増大することなく、操業期間の延長を可能にしている。すなわち、多くの工場は多額の投資をせずに砂糖生産量を増加している。6工場全てにおいて濃縮液糖の貯蔵を行っており、操業期間を年間350日以上に延長することを可能にしている工場もある。英国では、ビート浸出液の約50%が貯蔵されている。
 British Sugar社は、ビート重量及びその他の品質変数についての品質試験も合理化している。以前は、各工場ごとにサンプリング及び品質試験を行っていた。しかし、01/02年度には3箇所の試験所で行い、02/03年度にはWissington工場の試験所のみに集約した。
 また、2工場では、電力網への売電と自家発電用に、出力量約50MWのガスタービンによるコージェネプラントを設置した。ほとんどの電力は全国電力網に供給されるが、タービン廃熱で高圧水蒸気を発生させ、その水蒸気で背圧タービンを回して工場給電用に発電している。タービンからでる低圧水蒸気は、工場の乾燥設備の稼動に使用される。
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精製糖産業
 精製糖産業もTate & Lyle1社によって運営されている点において、ビート糖産業に類似している。Tate & Lyle社は、1921年創業でEU最大の精製糖会社である。
 ビート糖産業同様に、精製糖産業も大規模な精糖能力の合理化を行なった。1900年には16の精製糖工場があったが、1976年にTate & Lyle社が最後まで残っていたBritish社のsugar refinerを買収したことにより、操業中の3つの精製糖工場が全て同社の保有となった。1980年のEU加盟により、他のEU諸国との競争が生じたため、Tate & Lyle社は第3工場を閉鎖した。また、1997年にはグリーノックにある第2工場を閉鎖し、テムズにある工場を拡大することで、総生産能力を維持した。テムズ工場の精製糖生産は、過去3年で白糖110万トンである。これは、最大生産能力に非常に近く、年間操業日数は360日に達している。
表6 精製糖工場の現状
表6
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砂糖の流通
 Tate & Lyle社、British Sugar社共に業務用と小売用両方を直接または商社を通して販売している。商社は、概ね業務用に販売しているが、最大手の商社は、砂糖の包装も行い、自社ブランドで小売向に供給している。
 国内に流通している砂糖の約25%は、小売用の包装で販売されている。さらに18%は袋状で需要家向け又は卸売業者に、37%はバラ荷の状態、18%は液糖として流通している。これらの数字には、アイシング粉砂糖(粉砂糖に卵白をまぜたもの)、キャスターシュガー(グラニュー糖をさらに細粒化したもの)等の特殊糖も含まれており、総売上の8%を占めている。
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砂糖産業の現在の問題

 価格、数量等についてはEU砂糖制度に規制されており、2006年までは現状の制度が維持されるが、それ以降については、政策の転換が英国砂糖産業にとって最大の課題となることも考えられる。
 現行の砂糖制度は、改革の圧力に直面している。改革の圧力としては、WTOドーハラウンド交渉、ブラジル及び豪州によるEU砂糖制度への批判、EU内部の政策転換(第3国からのアクセスの上昇、栽培作物に関する政策の調和、予算改革を含む)がある。「2006年からの支持価格の減額」「生産割当の削減」「粗糖のアクセスの増加」によって、採算性が脅かされる可能性もある。
 現在、ビート糖産業は砂糖制度により高い収益を収めてきており、なお一層のコスト削減と収益源の多様化を求めている。British Sugar社は、ビートからの濃縮液糖と飼料用小麦を使用する蒸留工場の建設を検討している。しかし、エタノール生産は商業的には引き合わないため、EUのバイオ燃料法案が採択され、英国政府から補助金が支払われることが望まれている。政府は、最近、バイオ燃料の使用促進のために物品税を1リットルあたり0.20英ポンド(0.30ユーロ)減税する税制上の優遇措置を発表した。しかし、エタノール生産を奨励するためには、1リットルあたり0.26〜0.30英ポンド(0.3〜0.46ユーロ)の減税が必要とされている。
 精製糖産業は構造改革を行ってコストの低減を図り、精製効率の上昇を実現した。Thames精製糖工場は世界最大級の工場となり、ほぼ1年中の稼動が可能となっている。しかし、精製糖産業では、優遇措置で輸入される粗糖の品質が問題となっている。協定では輸入量は規定されているものの、粗糖の品質については規定されていない。さらに、最大供給必要量(MSN)で規制されているため、世界市場からより良い品質の粗糖を購入することもできない。そのため、低品質の粗糖を輸入することになり、結果的に精糖コストの上昇を招くことになる。
 精製糖産業にとっては、2006年以降に支持価格が引下げられたとしても、粗糖介入価格も削減されるため収益への影響は少ないと思われる。また、生産割当てが削減されたとしても、MSNの削減はわずかであり、影響は少ないと見られる。
 しかし、粗糖輸入アクセスの増加は、精製糖産業に大きな影響を及ぼすと考えられる。
 第一に後発途上国(LDC)との協定が劇的な変化をもたらすと見られる。協定ではLDC49ヵ国に、01/02年度から粗糖に対する関税割当(TRQ)によるEUへの免税アクセスが認められている。このTRQは、08/09年度までは毎年15%増加し、2009年7月1日からはLDCに対して無制限に免税アクセスが認められる。さらに、06/07年度から08/09年度については、割当外輸入に対する関税率もLDCに対して段階的に軽減される。このために、精製糖業界は、今後10年間に生産量を拡大する可能性がある。しかし、英国にはEBA糖の品質を規定する法律がないため、粗糖だけでなく白糖も免税で輸入できることになる。英国の精製糖産業は粗糖の調達に影響を受けると予想される。EBA協定によるLDCからの輸入数量は予測できないが、増加することは間違いないものと見られる。
 EBA協定に加えて、砂糖議定書(Sugar Protocol)の改革も粗糖アクセスに影響を与えると見られる。現在、ロメ協定を延長したコトヌ協定の砂糖覚書に基づいて、130万5,000トンの特恵糖がACP諸国及びインドから輸入されている。コトヌ協定は2008年に失効するが、その後も協定は延長されると見られる。しかし、内容についてはEBA協定に準じたものになる可能性もあり、その場合には、ACP諸国及びインドにも無制限の免税アクセスが拡大されることになる。
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