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インドの砂糖産業の概要について

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最終更新日:2010年3月6日

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海外レポート
[2004年3月]

インドの砂糖産業の概要について

 インドのさとうきび生産量は、年間約3億トンで、ブラジルに次ぐ世界第2位の生産国です。また、インドの砂糖生産量は、以前は年によってばらつきが目立ち、生産量の増減を繰り返してきましたが、99/2000年度以降は、安定してきており、毎年生産量が消費量を上回ってきています。
 こうしたインドの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、調査情報部でまとめたので紹介します。

調査情報部


生産状況
  需給バランス  さとうきび生産  製糖産業
  糖蜜・エタノール産業  異性化糖及びその他の甘味料について  砂糖の消費
砂糖制度の概要
  砂糖産業の現状  販売協定  輸出用砂糖  国内価格
  さとうきび生産に関する政策  農家と製糖業者の関係  国内向け砂糖
  貿易政策  砂糖産業の現在の問題


生産状況

需給バランス
 インドにおける近年の砂糖生産量は、年間約2000万トン(粗糖換算)で推移している。生産量が常に消費量を上回っていることから、常に余剰在庫を抱えている。余剰在庫の解消のため、輸出を行っているが、ここ数年の輸出量は年間100〜180万トン程度にすぎず、2003年9月時点の在庫消化率は、61%と予測されている。
 2000/01年度と01/02年度には、砂糖の消費量が飛躍的に増加した。工場が自由に販売できる砂糖の量は、国別割当によって定められているが、高等裁判所の命令により、Uttar Pradesh州を中心に、多くの工場がこの自由販売数量以上の砂糖を販売することが認められた。これにより、砂糖の国内価格が下落し、消費者の購買力が高まった。
 インドには、オープン・パン(開いた鍋)と呼ばれる伝統製法で作られるグル(gur)及びカンサリ(khandsari)という砂糖があるが、その生産比率は、低下しつつある。グル及びカンサリの製法は、数百年の歴史があり、現在主流になっている砂糖の生産が始まったのは、1920年代のことである。グルの製法は、遠心分離機を使わず、鍋の中でさとうきびの煮汁を煮詰め、固形状もしくは板状にしたものである。カンサリは、搾汁液を清浄化して煮詰めたものである。近年は、さとうきび生産量の約40%がオープン・パンの砂糖の生産に用いられている。

表1  砂糖の需給バランス (単位:1000トン、粗糖換算)
表1

表2 砂糖生産内訳 (単位:1000トン、粗糖換算)
表2
注:03/04年度のデータは予想数字
資料:ISO、LMC予想
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さとうきび生産
 インドのさとうきび生産地は、大きく分けて2つある。1つは、北部の亜熱帯地方で、Punjab、Haryana、Uttar Pradesh、Bihar州である。もう1つは、南部の熱帯地方で、西はGujarat、Mahatashtra、南はKarnataka、Tamil Nadu、Kerala州である。このように生産地は広範囲にわたっているが、生産は主に3州に集中しており、Uttar Pradesh、Mahatashtra、Tamil Naduである。この3州で、インドのさとうきび生産量の70%近くを占めている。
 農家や工場にとっては、気候や農業条件が千差万別であるだけではなく、制度における構造も異なっている。Mahatashtra州では、生産者の大半が協同組合の形態であり、Uttar Pradesh州とTamil Nadu州では、工場の過半数が民間資本である。さらに、州政府によるさとうきびの固定価格制度も、州によって異なっている。
 インドでは、収穫面積は、毎年400万haを超えており、収穫量は3億トンを超えている。収穫量の60%以上が、砂糖生産向けである。消費者の需要がグルとカンサリから砂糖へ移ったため、この比率は上昇傾向にある。
 さとうきびの砂糖向けの生産量は、農業総生産量のわずか3%を占めるに過ぎない。
 インド産さとうきびのショ糖含有率は国際基準よりも低い。この要因は、ショ糖含有率を改善できても、農家への報酬が払えないことによるものと考えられる。さとうきび代金を糖度に応じて農家に支払う方式を実施することは困難である。それは、1工場当たりの供給農家件数があまりにも多いことである。さとうきびの流通量を農家別に把握するのはきわめて難しく、品質を基準とする分配価格制度の導入を妨げている。(1工場当たりの供給農家は5万戸にも達する)
 Uttar Pradeshは、インド北部の州で、国内最大のさとうきび生産地である。この州だけで全国のさとうきび収穫量の約半分を生産している。しかし、砂糖の生産量は全国計の4分の1程度にとどまっている。これは、オープン・パン向けのさとうきびの比率が比較的大きいためである。Uttar Pradesh州の1ha当たりのさとうきび収穫量は全国で最も低く、毎年60トンにも満たない。このため、砂糖生産量も全国平均を大きく下回っている。
 Mahalashtra州のさとうきび生産量は、全国計の15%未満程度であるが、国内の砂糖生産量の3分の1近くを占めている。ショ糖含有率も全国一で、生産量も多い。1haのショ糖生産量も全国平均を上回る11〜12トンである。しかし、さとうきび生産地を耕作限界地まで拡大しているため、近年はこの数字が低下しつつある。
 Tamil Nadu州は、主要3州のうち、さとうきび生産面積が最も小さく、さとうきび・砂糖ともに生産量が全国合計の約10%程度である。この州は、1ha当たりの生産量が特に大きく、100トン以上となっている。これは、水資源が豊富で、気候がさとうきび栽培に適していることによる。砂糖生産量も全国一である。

表3 さとうきびの農業生産
表3
資料: インド砂糖ジャーナル、インド砂糖技術者協会、LMC予想、IMF
注:1.さとうきび生産額は、砂糖に加工されたさとうきびの量に農家が受け取る1トンあたりのさとうきびの
    価格をかけたもの
注:2.産糖量は粗糖換算

表4 地域別さとうきび歩留り、ショ糖含有率、ショ糖歩留りの推移
表4
資料: インド砂糖ジャーナル、インド砂糖技術者協会、LMC予想

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製糖産業
 インドの工場に共通する特徴は、小規模な工場が多いことである。これは、工場の生産性を左右する重要な要素のひとつで、かつて政府許認可制度(現在は廃止)によって生じたものである。この制度は、1日当たりの原料処理能力が2,500トン以内の工場には生産奨励金を支払い、それ以上については、奨励金が支払われないという制度であった。
 多くの砂糖製造先進国に比べて、インドでは工場従業員が非常に多い。砂糖産業の工業部門の就業者は38万人以上で、工場1件当たりでは約800人となっている。各工場の原料処理能力平均は1日当たり約3,500トンで、従業員が過剰状態となっている。
 また、インドでは、エネルギーの調達はほぼ自給自足で、外部調達している燃料は、毎年操業開始時に工場のボイラーを稼動させるのに必要な分だけとなっている。多くの工場では、自給自足で自家発電した電力を使いきれず、余剰分を州の電力会社に販売している。
 インドの工場の経営形態には、協同組合、州営、民間資本の3種類ある。民間工場は全て国内資本である。インドの砂糖産業では、農家の事業費の一部を工場が負担しているため、外国資本の参入が難しいようである。01/02年度には、450工場が操業しており、うち220件が協同組合、190件が民間、40件が州営である。
 国内のさとうきび生産地にある製糖企業は、それぞれ異なる経営形態で発展してきた。全国随一の生産地であるUttar Pradesh州では、工場は協同組合、民間、州営の3つに均等に分かれている。隣のBihar州では、工場は民間と州営のみで、協同組合工場は1件もない。Mahatashtra州では、協同組合工場が圧倒的に多い。
 インドには精製糖企業が存在しない。砂糖の種類は、色価を基準にすると、2種類あり、粒子の大きさを基準にすると3種類に分けられる。品質等級は、29等級と30等級があり、生産量の約9割強が30等級のものである。29等級の砂糖は、色価が高く(ICUMSA値150以上のもの)、再溶糖によって品質を高めている工場が多い。30等級のものは、通常はICUMSA値が150未満で、家庭用、工業生産用の標準的な等級の砂糖である。
 ロンドン白糖先物取引の契約条件であるICUMSA値45未満を満たす品質の砂糖はごくわずかしか生産されていない。ICUMSA値が100未満の砂糖を生産する能力を持つ工場は7件ある。そのうちの5件は、糖蜜を洗浄することによってICUMSA値60〜80の砂糖を生産している。Uttar Pradesh州には、非常に高品質な砂糖を生産している工場が2件ある。うち1件はRozagoanにあり、再溶糖によってICUMSA値25〜60の砂糖を生産している。もう1件はDaurulaにあり、イオン交換技術を用いてICUMSA値10〜60の砂糖を生産している。

表5 製糖工場の技術的能力指標
表5
資料: インド砂糖ジャーナル、インド砂糖技術者協会、LMC予想

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糖蜜・エタノール産業
 砂糖産業の重要な収入源に、糖蜜とエタノールの生産がある。これらの売り上げは、すべて工場の収入となる。ここ数年は、糖蜜の生産量が毎年800万トンを超えている。輸出量は、年間500〜700トンで推移しており、世界有数の輸出量を誇っている。
 糖蜜の主な用途は、エタノールの生産で、インドでは、エタノールのほぼ唯一の原料となっている。動物用飼料への糖蜜の使用はごくわずかである。
 エタノールは、主にアルコール飲料と工業用生産に用いられているが、政府は、燃料用エタノールの生産・消費拡大に力をいれている。普及計画によると、2004年初めまでに、全国で販売されるガソリン中のエタノール混合率を5%にすることを目標にしている。その後、この目標値を10%にまで引き上げる予定である。
 しかし、5%の目標値は短期間で達成することは難しそうである。例えば、混合用エタノールの価格をめぐって石油会社と製糖関係者が対立していることや、州によっては、飲料用アルコールと燃料用エタノールの生産から得られる利益率に相当の差があることが挙げられる。現在のところ、燃料用エタノールによる糖蜜市場への目立った影響は特に見られない。

表6 糖みつ及びエタノール生産量等の推移
表6
資料: F.O.Licht、LMC予想

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異性化糖及びその他の甘味料について
 インドでは、消費量の大部分を砂糖で占めているが、代替甘味料については、サッカリンの消費量が目立つ程度である。98/99年度以降の砂糖消費の増加に伴い、異性化糖及び代替甘味料の生産量が伸びている。02/03年度の年間消費量は約43万4,000トン(白糖換算)となっている。また、ブドウ糖、ソルビトールもわずかではあるが、毎年生産されている。

表7 代替甘味料の消費量の推移 (単位:1,000トン、白糖換算)
表7
資料: LMC予想
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砂糖の消費
 砂糖消費については、毎年家庭向けが全体の30% 前後を占めている。工業生産用で消費量が最も大きいのは飲料用で、次いで菓子類・パン類となっている。
 国民1人当たりの年間砂糖消費量は、16.3kgから18.9kgへ増加した。これは主としてグルとカンサリの消費量が減少したためだと思われる。グルとカンサリの国民1人当たりの消費量は、同時期に13.9kgから9.7kgへ減少している。これは、インドの国民所得が増加したことによるものと考えられている。

表8 砂糖消費内訳の推移 (単位:1,000トン、粗糖換算)
表8
資料: LMC予想
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砂糖制度の概要

砂糖制度の現状
 インドの砂糖政策は、非常に複雑である。国と州がそれぞれ砂糖政策を設けていることや、州によって政策が異なり、また、民間資本、協同組合、州営等生産者の事業形態によって政策が異なる。国と州がそれぞれ独自の政策を持っていることで、農家への補助金、さとうきびの価格、国内市場への砂糖供給量など、生産や消費の面に影響が及んでいる。
 国の砂糖政策は、国内市場において、手ごろな価格と十分な供給量を確保することにより、消費者を保護することを目的としている。これによって、「公共流通制度」(PSD:Publication Distribution System)が設けられ、工場生産者自らが生産した砂糖を販売できる量が決められており、価格も低価格に固定されている。しかし、州レベルでは農家が力を持っており、農家に支払うさとうきび価格を高く設定している州も数多く存在する。このため、工場生産者が得る生産利益率は、非常に低いのが一般的である。
 国や州政府がさとうきびの生産について、監督や指導を行うことはほとんどない。さとうきびの生産、生産者、生産量等にも特に条件は設けられていない。
 国と州政府は、化学肥料の使用に対する補助金を農家に支給している。そのため、化学肥料の不適切な使用や過度の使用を招くこととなった。また、農家に支払うさとうきび生産地の100%近くが灌漑農業を行っている。ポンプから水を供給する際に電力を要するが、この費用についても国が補助金を支払っている。
 農家から各工場へのさとうきび供給体制については、従来から地域別管理が行われている。州の政府機関が生産区域を分類し、各工場に対して供給元となる生産区域を指定している。区域ごとのさとうきびの供給に関しては、各工場が独占権を持っており、工場間の競争はない。製糖工場とグル・カンサリ工場の競争についても、州政府による規制管理は行われていない。ただし、遠心分離機がない工場は、原則として製糖工場から半径5km以内には設立してはならないという規制がある。
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販売協定
 各工場は、砂糖の取引を自由に行っている。約220の協同組合工場では、全国協同組合砂糖工場連盟(NFCSF:National Federation of Co-operative Sugar Factories)を通じて販売している。かつては、政府機関以外の者が砂糖の輸入を行うことは認められていなかった。しかし、1997年以降、民間業者も砂糖の輸入及び輸入砂糖の国内販売を行うことが認められた。この年、砂糖の一般自由販売(OGL:Open General Release)が開始された。また、同年9月には、砂糖の輸入量を監督する目的で、全ての輸入糖について「農業・加工食品輸出開発局」(APEDA:the Agriculture and Food Processed Food Products Export Developments Authority)への届出を行うよう要請された。
 2001年4月、輸出業者に対するAPEDAへの届出義務と輸出に対する数量制限が撤廃された。これ以前は、工場が砂糖を輸出する際には、APEDAへの輸出承認申請が義務付けられており、年間輸出可能数量が決められていた。
 2003年7月、インドでは砂糖の先物取引がオンライン取引で開始された。政府から砂糖先物取引の営業許可を取得した会社は、3社ある。Esugarindia社、Mumbaiにある「オンライン商品販売」(e-commodities,Ltd)、Hyderabadにある「NCSインフォテック」の3社である。
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輸出用砂糖
 輸出用砂糖の価格は、さとうきび・砂糖委員会が販売するB割当の砂糖(粗糖)の価格をもとに一律に設定される。粗糖を輸出する場合は、全てこの価格が適用される。一方、精製糖及び白糖については、B割当の価格に約12%を上乗せした価格が適用される。この価格は、国際市場価格の動向とは関係なく決められる。


国内価格
 砂糖の国内価格は、自由価格と徴収価格を加重平均したものである。徴収価格は、97/98年度は、自由価格の80%であったが、02/03年度は、110%前後にまで上昇している。これは、ここ数年自由価格が大きく低下しているためである。最も高い価格を示しているのが、EU 向けの2万トンの輸出時とアメリカ向けの7〜8千トンの輸出時である。
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さとうきび生産に関する政策
 さとうきびの価格は、国と州が決定している。理論上、インドのさとうきび価格制度の骨子となるのは、さとうきびの法定最低価格(SMP:Statutory Minimum Price)である。これは、毎年さとうきびの収穫開始前に、農業費用価格委員会と協議した上で、国が定め、公示している。農業費用価格委員会とは、全国の主要農産物の生産コストを監督する機関である。法定最低価格の設定に当たって国が考慮するのは、さとうきびの生産コストと、代替農産物の生産コストである。さとうきびと砂糖の生産量が最適水準になるような価格設定を行うためである。最低価格は、農家への最低支払い価格を定める意味を持つだけでなく、徴収砂糖(levy sugar)に対する工場への支払価格も目安にもなる。
 最低価格の他に、「州勧告価格」(SAP:State Advised Price)という、州政府が決める価格も存在する。州指導価格は、法定最低価格より常に高く設定されており、州勧告価格が優先される。ここ数年、砂糖の価格は下落しているが、州勧告価格は上昇している。Uttar Pradesh州では、98/99年度〜02/03年度の間に、州勧告価格が22%上昇した。同時期に砂糖の国内価格は、13%下落している。
 現在、州勧告価格を公示しているのは、国内北部のさとうきび生産地のみで、Uttar Pradesh、Haryana、Bihar、Uttaranchal、Punjabの5州である。また、これらの州では、州政府の勧告価格設定権に対して、民間工場が裁判所に異議を申し立て、「工場は、州勧告価格を支払う義務はなく、法定最低価格だけを支払えばよい」と州勝訴の判決となった。しかし、現実に民間工場が支払うのは、結局は州勧告価格である。その理由は、2つあり、1つは、州政府と良好な関係を維持するためである。もう1つは、近隣の協同組合工場や州営工場が州勧告価格でさとうきびを購入しているからである。十分な量のさとうきびを確保するためには、州勧告並みの価格で購入せざるを得ないのである。
 州勧告価格は、砂糖の市場価格よりもかなり高い価格で設定されることが多く、農家へのさとうきび代金の支払いは、工場にとっては頭の痛い問題になっている。02/03年度は、砂糖の価格が著しく低下したため、この問題が深刻となった。Uttar Pradesh州では、工場から農家への代金支払いが砂糖の現物で支払われていたとの報告がある。
 州勧告価格に対しては、常に工場からの反対があり、裁判所で州勧告価格に違法判決が下されたにもかかわらず、さとうきびの価格制度は依然として改革が進んでいない。州勧告価格を公示している州では、農家の大部分がこの固定価格の恩恵を受ける状況が今後も続くと思われる。さらに、最近は法定最低価格も年々上昇し、州勧告価格に近づきつつある。従って、州勧告価格が撤廃されたとしても、工場は、その後も高いさとうきび代金の支払いに苦しむことになる。
 政府は、工場の生産量については、規制を行っていない。しかし、国内市場への供給量については厳しい規制が設けてある。砂糖の国内価格が一定以上の水準に保たれている要因は、この規制と高関税率にあると考えられている。
 グルとカンサリの生産者が支払うさとうきび代金は、分みつ糖用に出荷されるさとうきびとの競合状況によって決まる。さとうきびの供給量が不足しているときは、伝統製法を行っている生産者は、砂糖生産者と同等の価格でさとうきびを購入しなければならない。しかし、さとうきびの供給に余剰が生じているときは、生産者は価格交渉を行って低価格でさとうきびを入手することも可能である。 この他、工場が生産した砂糖のうち毎月国内市場で販売できる量を規制している「流通管理制度」が「必需品法」に直接準拠することになった。これにより、工場にとっては「自由販売数量を超える砂糖の販売は可能」と裁判所から認められるのが難しくなった。

近年のインドの砂糖政策の推移
時期 砂糖政策に関する出来事 砂糖政策に関する出来事に対する
対応策・備考等
1997年10月 Uttar Pradeshの州勧告価格には法的正当性がないとの司法判断が下され、さとうきびの価格制度及び砂糖産業全般の問題を検証する委員会の設置の命令が裁判所から下される Mahajan委員会が設置(砂糖産業の代表者と官僚で構成)
1998年 Mahajan委員会がさとうきびの価格制度について複数の改革案を提出 許認可制度の撤廃、徴収制度の改革、関税障壁による保護の強化、輸出自由化等、現在既に実施段階
1998年9月 工場の開業や設備拡張に対する政府の許認可制度が撤廃 各工場へのさとうきび供給確保を目的とする
2002/03年度
(4月〜3月)
砂糖産業に対する政府の規制管理が全廃されるとの見方が大勢を占める(流通管理制度の廃止) 「流通量管理制度に基づく割当数量を超える量の販売を認める」命令を多くの工場が受け、これが砂糖価格の低下を招くこととなった
2003年3月 政府は規制管理撤廃の実施延期を決定 少なくとも2004/05年度末までは、規制管理を撤廃せず、2005年10月に制度の見直しを行う予定

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農家と製糖業者の関係
 Uttar Pradesh、Haryana、Bihar、Uttaranchal、Punjab等の9州の工場では、州勧告価格を農家に支払っている。価格は一律に定められ、砂糖再生率に応じた調整は行われない。Andhra Pradesh、Tamil Nadu州では、甘しゃ糖度が低く、この地域の工場は、無償で農家にさとうきびの苗を提供している。さらに、工場は化学肥料や工場で作った圧縮堆肥などの生物肥料も農家に与えている。農地への除草剤散布も行っているが、農家はこの費用を一切負担していない。
 Mahatashtra州とTamil Nadu州では、原料の輸送は工場が行っているが、輸送費のごく一部を農家が負担している。Mahatashtra州では、協同組合工場がさとうきび代金から輸送費を差し引いた額を支払っている。Uttar Pradesh州は工場への輸送はさとうきび協会が行い、さとうきびの価格の一定割合を輸送費として農家に請求する仕組みである。

国内向け砂糖

表9 さとうきび及び砂糖の平均価格
(98/99〜02/03年度、単位:US$/トン)
  さとうきび 白 糖
さとうきび価格 18.5 -
卸売価格
 国内価格

-

281
特恵価格 - 416
世界市場価格 - 185
小売価格
 国内価格

-

407
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貿易政策
 政府による国内価格保護政策として、流通量管理制度のほかに、輸入制限がある。2000年2月、政府は、砂糖の輸入関税を60%に引き上げ、さらに1トン当たり850ルピーの相殺関税を課すようになった。さらに、輸入品にも国内産の砂糖と同様に一定量を出荷する義務が課される。これにより、2000/01年度以降、輸入はごくわずかしか行われていない。
 輸入糖の関税率は60%で、これは、ガット・ウルグアイラウンドにおいてインドが譲許した最終関税率である150%よりはるかに低い。さらに、インドの譲許税率達成時期が2004/05年度であることから、それまでの期間内であれば、政府は関税率を150%にまで引き上げることも可能である。政府がWTOの譲許税率水準まで関税率を引き上げないのは、政府が砂糖生産者に対してよりも消費者への保護政策に重点を置いているからである。インドは、輸出補助金を削減するという公約を行っていない。すなわち、ウルグアイラウンド実施当時に補助金支給を行っていなかった。インドは、WTO による農産物輸入義務の免除を主張している。WTOの規定上、外貨保有残高(交換可能通貨流通量)の確保を目的として、各国が輸入制限政策を行ったり、非関税障壁を設けることを容認している。

表10 輸出入関税
  粗糖 白糖
 現行関税率 60% 60%
 GATT譲許
 関税
 基本税率
 最終税率


150%
75%


150%
75%
 最低輸入量(100万トン) 該当なし 該当なし
 輸出補助金引き下げ
 輸出量(1,000トン)
 輸出費用(%)

該当なし
該当なし

該当なし
該当なし
 最終移行期間 2004
資料:LMC、WTO、EUマーケット・アクセス・データベース
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砂糖産業の現在の問題
 インドの砂糖産業は、国際市場で他の低コスト生産国と競争していくために、多くの課題を克服していかなくてはならない。
 まず、インドでは、多くの余剰在庫を抱えているため、在庫の解消方法を検討しなくてはならない。しかし、近いうちに余剰在庫が解消される見通しは立っていない。政府は、国内市場への砂糖供給を締め付けており、また、国際価格より国内価格の方が高いため、輸出も割に合わない。2003/04年度もさとうきびの収穫量は多くなる見込みで、さらに在庫を抱えるとの見方が強まっている。このため、砂糖産業は、新年度に大規模な輸出を行うことも検討している。
 以前から砂糖市場を開拓するため、白糖の代わりに粗糖の生産・輸出を推し進めるべきとの指摘があった。しかし、白糖の直接生産から粗糖生産に切り替えるためには、設備投資が必要となり、白糖と粗糖の輸出した場合、粗糖は白糖よりも低価格になると思われる。生産コストは節減されるであろうが、現在行っている白糖の輸出よりもリスクが高くなる可能性がある。また、砂糖を大量に貯蔵・受け渡しできる施設もインドにはなく、現段階では大規模な粗糖の輸出を行うことは困難と見られている。
 インドの砂糖政策の目的は、消費者に砂糖を安価で提供することと農家に支払うさとうきび代金を高い水準に保つことである。砂糖産業は、この相反する2つの目的のバランスをとる必要がある。しかし、この2つのバランスをとるための政策は現在ほとんど成果が見られない。政府は、徴収条件を緩和したが、これは消費者側からすると、逆に厳しい措置になっている。また、ここ数年は、州勧告価格を公表する州が減少してきており、農家へのさとうきび代金を固定価格で支払っている州は、現在5つしかない。
 甘しゃ糖度に応じた価格を農家に支払う方式や、市場の実態を反映した価格制度が実現するのは、時間を要するようである。
 また、従来の砂糖政策の主要分野について砂糖産業の問題点を検証する目的で、97年10月に「マハジャン委員会」が発足した。しかし、2003年3月に砂糖産業への管理撤廃案の無期限延期が決定し、改革計画が後退した。
 インドの砂糖産業は改革の妨げになっている問題は2つある。ひとつは、政府がさとうきびの価格決定を行っていることであり、もうひとつは、「流通量管理制度」である。03/04年度はじめには撤廃されるとの見方が大勢を占めていたが、それまでに国内価格が下落し、制度の導入によりさらに価格が下落する懸念があったため、政府の判断により、撤廃計画が凍結され、現行の制度を04/05年度末まで延長することとなった。
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