[1999年12月]
ウクライナは、生産量が消費量を上回りわずかではあるが輸出国となっている。しかし、現在の政治、経済情勢が続けば近い将来輸入国となる可能性もあり、また一方では、今後外国資本等の投入が行われ生産状況が改善すれば、輸出国ともなり得る潜在能力を有することから注目に値する。こうした、ウクライナの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC International Ltd.からの報告をもとに企画情報部で取りまとめたので紹介する。
なお、この報告は、1999年4月に報告されたものを使用しているため、巻末資料編に掲載されている最新データを参照されたい。
旧ソ連の崩壊以降、政治的及び経済的問題により、ウクライナは崩壊の危機に瀕している。インフレ率は3,000%に達し、経済指標は全体的にも部門別にも悪化しているため、ウクライナの砂糖産業が危険的な状態にあるのも当然である。生産は大幅に減少し、需要は停滞し、市場の運営が正常に機能しないため、製糖業者は原料代を現物支払いすることを余儀なくされている。こうした状況を考慮すると、砂糖産業という特定産業に関して信頼できる統計を得ることは困難ではあるが、可能な限り報告するものとする
【砂糖産業に関する全般的な情報】
国内需給バランス
グラフ1は、1990年以降のウクライナの砂糖生産、消費及び輸出の動向を示しており、表1は、最近の数字を示している。
生産量は常に消費量を上回っているため、砂糖の純輸出国であった。しかし、1990年以降の特徴は、砂糖の生産量と消費量の急激な減少であった。さらに、生産量は消費量より速い速度で減少しており、輸出量は、98/99年には35万トンまで減少している。これは、600万トン弱の砂糖を定期的に生産していた1990年代初頭の約300万トンの輸出量と比較するとかなり減少している。
中央ヨーロッパと東ヨーロッパの諸国とは異なり、ウクライナ政府は、砂糖産業を支持するために経済的、制度的にほとんど何の政策も実施しておらず、この状況が改善される見通しはほとんどない。このまま砂糖の生産量が減少し続ければ、ウクライナは近い将来に砂糖の純輸入国になることも考えられる。
表1によれば、ウクライナはわずかの粗糖を輸入しており、2ヵ所のビート工場で精製を行っている。また、白糖もわずかに輸入されている。
グラフ1:砂糖の生産量と消費量
生産量等の実績
ウクライナは、ヨーロッパでもビートの栽培条件が整った地域である。土壌は良質、農地は平坦、農場は大規模である。しかし、経済的運営を誤ったため、砂糖生産実績はその潜在能力にはるかに及ばない。さらに、ウクライナの現在の経済的及び政治的状況は、外国企業の投資を誘引するものではないが、砂糖産業の維持、発展のためには、資本の投入は必要不可欠である。
主に、大規模な集団農場が、製糖工場へ原料ビートを供給しており、平均規模は約300haである。1980年代後半には、単収は1ha当たり約30トンであった。しかし、旧ソビエト連邦の崩壊以来、肥料等が徐々に不足し、費用が価格統制の緩和によって高騰したため、化学肥料と農薬の利用が減少した結果、単収は低下している。過去4年の単収は、1当たり平均して18.8トン(EU平均50トン強)であった。
単収の低下と品質の悪化のために、西ヨーロッパと比較して1ha当たり砂糖生産量は極めて低い。EUが1ha当たり平均約9トンであるのに対して、ウクライナは1ha当たり3トンを下回っている。
表2が示すように、栽培面積も転作により減少し続けている。栽培面積は、1990年代半ばの約150万haから110万haに減少しており、99/2000年のビート栽培面積は100万haを下回るものと思われ、これに伴い収穫面積も減少している。1996年と1997年には、10万ha強が資金不足及び天候不順のために収穫されなかったと推定されている。
単収及び栽培面積の減少は、1980年代半ば以降、ビートの生産量の急激な減少を招き、ビート生産量は97/98年度には1,800万トンを下回るまで半減し、製糖工場は原料不足に直面している。原料ビートを確保するため、農場を買収し集団農場とさらに密接に協力する工場もあると聞く。しかし、これは当面の対応策であり、問題の多くは根が深く、より根本的な改革と外国企業の投資がなければ解決しないものと思われる。
表1:砂糖の需給バランス |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
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1994/95年 |
1995/96年 |
1996/97年 |
1997/98年 |
1998/99年 |
生 産 量
消 費 量
輸 入 量 合計
粗糖
白糖
輸 出 量 合計
粗糖
白糖
在庫量の変化 |
3,643 2,361 78 34 45 1,705 ― 1,705 △345 |
3,744 2,155 316 232 85 1,944 6 1,938 △38 |
2,885 1,965 324 274 50 1,282 10 1,273 △39 |
2,280 1,900 150 140 10 400 ― 400 130 |
2,040 1,850 180 180 ― 350 ― 350 20 |
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出典:ISO、LMC推定 |
表2:生産量等の実績 |
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1994/95年 |
1995/96年 |
1996/97年 |
1997/98年 |
収穫面積(1,000ha)
ビート生産量(1,000トン)
単収(トン/ha/年)
砂糖生産量(1,000トン、粗糖ベース)
1トン当たり必要原料(TB:TS)
ビート生産量(100万US$)
農業生産総額(100万US$) |
1,490 33,717 22.6 3,643 9.3 ― 8,367 |
1,470 29,650 20.2 3,744 7.9 ― 7,359 |
1,360 23,000 16.9 2,885 8.0 ― 5,721 |
1,140 17,700 15.5 2,205 8.0 ― 6,460 |
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生産量及び消費量
表3は、国内ビート白糖の生産量と過去4年間にわたって輸入された粗糖からの精製糖の生産量を示している。表が示すとおり、ウクライナはビートから砂糖の大部分を生産しているが、少量の輸入粗糖が国内の2カ所のビート工場で精製されている。1997年までは、 Tate & Lyleが一部投資するオデッサ精製糖工場が操業していた。しかし、1997年に同工場が閉鎖されたため、粗糖の輸入は減少している。
表3:砂糖の生産量の内訳 |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
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1994/95年 |
1995/96年 |
1996/97年 |
1997/98年 |
砂糖生産量
―ビート糖
―精製糖 |
3,677 3,643 34 |
3,971 3,744 226 |
3,149 2,885 265 |
2,345 2,205 140 |
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出典:ISO、LMC推定 |
粗糖からの精製糖を除いて、ウクライナで生産されているビート糖の平均品質は、あまり高くない。製糖期の開始時には、約80 ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位の色価であるが、これは製糖期の終わりまでに約120 ICUMSA単位まで品質が落ち込む。
家庭消費が最大の消費量であり、総消費量の約3分の2を占めている。工業部門における最大のユーザーは、製菓業と製パン業であり、両者で約32万トンである。
全体的に1990年代の厳しい経済情勢を反映して、減少傾向を示している。ウクライナの経済成長は、1990年代には毎年マイナス傾向で推移し、1994年だけでも22%のマイナスとなった。これに加えて、国内産糖の消費量は、砂糖菓子や小口の砂糖など、輸入砂糖含有製品の増加によって打撃を受けている(注1)。自家製アルコールにおける砂糖の消費量も減少している。これは、安価なアルコール飲料の輸入増加が影響したものである。
注1:ウクライナは、小口の砂糖を規制する関税法をいまだに制定していないため、統計的に記録されない砂糖の輸入が莫大なものとなっている。
1人当たり消費量は、1990年代初頭から年間7%強も減少しており、1997年には1人当たり32kgとなった。これは、1994年の42kgと比較すると大きな減少である。
ウクライナの人工甘味料の市場は未開発状態であり、少量のサッカリンが家庭、飲料及び加工フルーツ部門で利用されるようになったのは、ここ数年である。国内砂糖産業の縮小に伴って、安価な砂糖代替品としてのサッカリンの消費量は、増大する可能性がある。しかし、砂糖も同様であるが、その利用者が比較的小規模経営であることが、サッカリンやその他の人工甘味料の利用量増加に対する障害になるものと思われる。
表4:砂糖の消費量の内訳 |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
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1995年 |
1996年 |
1997年 |
| (%) | | (%) | | (%) |
家庭消費量
工業用
飲 料
製パン
製 菓
乳製品
果物及び食品
その他の利用(食品以外の利用も含む)
合計
1人当たりの消費量(kg/人) |
1,286 738 93 177 195 106 122 45 2,024 39.2 |
63.5 36.5 4.6 8.8 9.6 5.2 6.0 2.2 100.0 |
1,257 725 92 173 191 106 121 44 1,982 37.8 |
63.4 36.6 4.6 8.7 9.6 5.3 6.1 2.2 100.0 |
1,184 625 79 147 164 92 105 37 1,809 32.7 |
65.5 34.5 4.4 8.1 9.1 5.1 5.8 2.1 100.0 |
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異性化糖の位置
ウクライナは、異性化糖を生産しておらず、輸入もしていない。
【砂糖制度の主要な特徴】
旧ソビエト連邦の崩壊後、ウクライナの砂糖産業が直面した主な課題の1つは、(収益性ではなく生産高が産業の実績を測定する目標値または基準としてしばしば使用されていた)中央計画政策制度を、市場原理を導入した制度に変更することであった。しかし、適正かつ一貫した政策の立案は、困難でもあり、時間を要するプロセスである。実際、ウクライナ砂糖産業の現在の問題点を克服することができる明確な政策を立案し、実行することは困難である。
生産規制
ビートまたは砂糖の生産量に関する政府の制限は存在しない。
国内の価格支持
ウクライナ政府による国内砂糖価格の直接的な支持は存在しない。しかし、輸入関税の利用を通した間接的な支持は存在する。
表5は、97/98年のビート農家の平均手取り価格及び砂糖生産者の収入の推定値を示している。ビート農家は、納入したビートに対して、砂糖(現物)で支払われているため、ビート1トン当たりの換算価格を導いて示している。農家は、生産された砂糖の価格の60%を受け取っている。したがって、販売された場合の砂糖1トン当たりの収益の60%を受け取っていると仮定している。つまり、ビート1トン当たりの価格は、卸売価格に0.6を掛け、その数値をTB:TS比率で割ることによって計算されている。これによれば、農家は約42USドル/トンを受け取っていることとなる。
表5ではウクライナの通貨(グリブナ)を1USドル当たり1.75グリブナで計算した。しかし、為替レートは、1998年10月以降、急激に下降し3.75グリブナまで落ち込んだ。このことによって、国内卸売価格は、実質50%ダウンして286USドル/トンに下降することとなる。農家手取り価格も21USドル/トンに下がることとなる(1999年1月:1USドル=4.04グリプナ、11月:1USドル=4.99グリプナ)。
表5:ビートと砂糖の平均価格(97/98年) |
(USドル/トン) |
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ビート糖 |
精製糖 |
ビート価格
卸売価格
―国内自由市場価格
―輸出平価
小売価格
―国内自由市場価格(税別) |
42.3
─ ─
─ |
―
597.2 250.8
─ |
|
表6は、ウクライナの輸入政策に関する情報である。1996年に、政府は、輸入砂糖に50%の輸入関税を課していた。1998年には、30万トンの粗糖が輸入されたが、関税を50%から15%に引き下げた。この条件は、1998年8月1日以前に発生した輸入に適用され、これ以降の関税は50%に戻された(注2)。
注2:この政策変更の理由は、ウクライナの砂糖産業が98/99年のビート収穫期以前に国内市場向け精製して販売される粗糖を輸入することによって、輸出義務を果たすことができるようにするためであった。
ウクライナは、オブザーバーであるため、GATTまたはWTOの義務を遵守する必要はない。GATTに拘束される義務がないため、政府は、時と場合により、適切であると判断した通りに、貿易政策を自由に変更することができる。
表6:現在の中国における貿易政策 |
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粗 糖 |
精製糖 |
現行関税 |
50%(0.3Euro/kgを最低) |
50%(0.3Euro/kgを最低) |
GATT約束 |
なし | なし |
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注) 1Euro=4.65グリプナ(1999.1)、1Euro=5.15グリプナ(1999.11) |
販売方法
中央計画政策からの切り換え以来、政府は国内の市場にはいかなる規制も行使してはいない。製糖業者は、希望する者に、希望する価格で、砂糖を販売することができる。
しかし、実際には、製糖業者は、生産された砂糖のほとんどを原料代金を支払うため(現物支払い)に使用しているため、砂糖の多くはビート農家と原料納入仲介者によって販売されている。このことによって、他の国とは異なり、正常な流通経路で販売されない状況をもたらしており、販売制度は混乱し、無秩序になっている。
農家と製糖業者の関係
製糖業者は、原料代金を即支払わなければならないため、原料代の大半を砂糖で支払っている。一般に、農家は生産された砂糖の60%を受け取っている。政府は、原料代金の決済方法を金銭ベースに戻す試みを行っているが、製糖業者の財源不足のために、現物支払いはいまだ定着している。事実、政府のこれに関する試みよって、支払いに関する不確定性が増し、ビート栽培面積の更なる減少を招いている。
砂糖政策の機関
砂糖産業において実施されている体系的な政策はほとんどない。どのような政策を実施するかについては、IMFや西欧の資金供給者によって立案された経済改革政策に基づき決定されている。
砂糖産業は、政府機関(Ukrzukor)によって監督されているが、その管轄権と影響力は、1990年代に大きく縮小している。
【砂糖産業の現状】
加工と精製産業の構造
ウクライナにはビート工場が192工場あるが、98/99年度に操業したのはわずかに176工場であった。192工場の総原料処理能力は、1日当たり約47万トンである。平均能力は、1日当たり約2,420トンであるが、規模は様々である。126工場は1日当たり2,700トン弱の処理能力しか持っていないが、11工場は1日当たり5,500トン強の処理能力を持っている。表7は、ウクライナ砂糖産業の原料処理能力の分布と生産量の平均規模を示している。
表7:ビート砂糖工場と加工能力(98/99年) |
工場数 |
稼働率(%) |
原料処理能力(トン/日) |
126 39 8 8 11 192(合計) |
65.6 20.3 4.2 4.2 5.7 100.0 |
3,000未満 3,000〜3,800 3,800〜4,500 4,500〜5,500 5,500以上 2,420(平均) |
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出典:Ukrzukorデータ |
製糖は、通常9月の第2週に始まり、12月の第2週頃終了する。稼働期間は、最大でおよそ90〜100日である。ビート工場は、冷凍ビートを保存することができないことから、製糖期間を冬まで延長することはできない。
工場の多くは、老朽化しているため、改修の必要がある。140工場は、1917年以前に建設されているが、政府に資金はほとんどない。民営化政策の奨励にもかかわらず、進捗は遅く、オデッサ精製糖工場のTate & Lyleの資本参加を除けば、外国の投資は皆無である。その代わり、工場の職員とビート農家に対する工場のリース、または市民に無料で配布された民営化「証明書」と引き換えに工場の株式を販売することであった。ほとんどのビート工場は、現在、主に工場従業員によって所有され、国はほとんどの工場で10%未満の株式を保持しているにすぎない。
ウクライナのビート工場は小規模であるために、再編成と合理化を必要としている。しかし、利用できる財源と所有権の明白さの欠如は、この障害となっている。
ウクライナには、他の国と異なり、精製糖産業は存在しない。オデッサには独立系精製糖工場があるが、他の工場は、そのビート製糖期間以外に、白糖部門のラインを利用し輸入粗糖を精製している。そのうち2工場のみが白糖部門のラインを増設している。
精製糖の生産量は、この部門での適正な収益を得ることがますます困難になっているため、過去5年間で大きく減少している。この問題は、1997年にオデッサ精製糖工場を閉鎖したTate & Lyleの決定によって強調されている。
砂糖の流通
砂糖は通常50kg袋で販売され、その後、様々なサイズのバケットで販売されている。小売レベルでは、砂糖は1kgの紙袋で販売されている。以前は、一部の砂糖は1kg未満の小型バケットで、角砂糖として販売されていた。しかし、現在は、角砂糖は全く生産されていない。
砂糖は、現物支払として砂糖を受け取っているビート農家、原料仲介業者、その他によって流通されている。ウクライナの政府機関(Ukrzukor)も一部の砂糖を販売しているが、流通プロセスにはほとんど介入していない。
砂糖産業の現在の問題点
砂糖産業が直面している問題は、ウクライナ経済全体の危機を反映している。それらの問題の主要な側面には、次のものがある。
明白で一貫した政策的枠組みの不在。これが、砂糖産業の経営及び計画を困難にしており、新たな投資家に対する障害となっている。
これは、経営と投資に対する貸付の欠如というもう1つの大きな問題を含む。政府には、砂糖産業に資金供給する財源がなく、商業金融機関は過去に返済の焦付きがある債務の蓄積した企業に貸付をすることには消極的である。
これらの問題は、ウクライナの砂糖産業が生き延びるために解決せねばならない根本的な問題である。この問題に派生し、低水準の技術力と高い生産コストもある。農地部門では、単収とビートのショ糖含有率を向上させるためには、莫大な投資が必要である。また、収穫時と収穫後の損失を低減するためには、収穫と輸送にも設備投資が必要である。工場内では、設備を交換し、技術改良する必要がある。さらに、砂糖産業界全体としては、工場数を抜本的に減らし、工場の平均規模を拡大する必要がある。
また、砂糖が生産された後の体系的な販売制度の欠如が、資金繰りを悪化させ、次年度の生産に影響を与えている。
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