[1999年8月]
タイ国は、オーストラリアと並びわが国に輸入される砂糖の2大供給先であり、1984年に制定されたさとうきび・砂糖法による収益配分の仕組み等が確立している。当事業団は、平成10年度に同国の糖業事情調査を行ったので、その概要を紹介する。
【1】 タイ国の農林水産業
1.国民経済に占める農林水産業の地位
工業化の進展に伴い、農林水産業の経済全体に占める相対的地位は低下し、農業のGDPに占める割合も1981年の21.4%から1994年には10.3%まで低下している(表1)。また、総輸出額に占める農林水産物の割合は、1985年の40.7%から1995年には16%、加工品を含めて24.7%となっているが、依然として農林水産物はタイ経済を支える主要な外貨獲得源であることには変わりなく(表2)、1995年における全農産物・農産加工品輸出の約25%が日本向けであり、日本が最大の輸出先となっている(表3)。
また、農林水産業の就業人口は、1981年の71.9%から1995年には53.3%へと低下してきているものの、依然として高い比率を有している(表4)。
表1:タイ経済に占める農林水産業 |
(単位:10億バーツ) |
|
1981年 |
1985年 |
1990年 |
1991年 |
1992年 |
1993年 |
1994年 |
G D P (A)
農林水産業 (B)
農 業
畜 産 業
水 産 業
林 業
一次加工品
そ の 他
|
760.2 163.0 105.8 15.8 10.6 9.6 14.6 6.6
|
1,014.4 169.9 105.2 15.0 12.8 9.0 20.5 7.4
|
2,158.6 274.7 160.5 32.9 32.2 6.8 31.5 10.8
|
2,507.0 316.8 183.2 37.4 43.1 6.0 36.2 10.9
|
2,827.2 348.0 198.8 34.9 55.7 5.7 41.6 11.3
|
3,163.9 322.7 170.7 32.3 58.8 5.2 44.8 10.9
|
3,600.9 369.1 203.3 37.2 60.8 4.6 51.4 11.8
|
構 成 比 (B/A) |
21.4% |
16.7% |
12.7% |
12.6% |
12.3% |
10.2% |
10.3% |
|
出所:国家経済社会開発庁(NESDB) |
表2:タイの輸出に占める農林水産物 |
(単位:百万バーツ) |
|
1985年 |
1990年 |
1991年 |
1992年 |
1993年 |
1994年 |
1995年 |
総 輸 出 (A)
農林水産品 (B)
加工食品 (C)
|
193,366 78,728 24,384
|
589,813 130,826 70,864
|
725,449 149,571 80,716
|
824,643 167,558 86,495
|
940,863 160,873 83,067
|
1,137,602 191,333 99,216
|
1,406,310 224,759 123,078
|
構 成 比 (B/A)
構成比 ((B+C)/A)
|
40.7% 53.3%
|
22.2% 34.2%
|
20.6% 31.7%
|
20.3% 30.8%
|
17.1% 25.9%
|
16.8% 25.5%
|
16.0% 24.7%
|
|
出所:商務省産業経済局 |
表3:タイの主要輸出先(1995年) |
|
表4:タイの産業別就業者構成比 |
(単位:10億バーツ) |
|
|
1995年 |
構成比 |
日本
------------------
うち農水産物・加工品
------------------
ゴム
冷凍エビ
冷凍チキン
冷凍いか・たこ
その他の水産品
粗糖
その他
|
263.1
-------
87.8
-------
20.6 18.6 7.6 5.4 4.4 4.0 27.2
|
16.8%
-------
25.2
-------
5.9 5.4 2.2 1.5 1.3 1.1 7.8
|
アメリカ
------------------
うち農水産物・加工品 |
250.7 ------- 52.7 |
17.8 ------- 15.2 |
EU
------------------
うち農水産物・加工品 |
212.2 ------- 48.4 |
15.1 ------- 13.9 |
ASEAN
------------------
うち農水産物・加工品 |
279.8 ------- 43.5 |
19.9 ------- 12.5 |
その他
------------------
うち農水産物・加工品 |
427.5 ------- 115.4 |
30.4 ------- 33.2 |
計
------------------
うち農水産物・加工品 |
1,406.3 ------- 347.8 |
100.0 ------- 100.0 |
|
|
1981年 |
1987年 |
1993年 |
1995年 |
恒常就業者
農林水産業
製造業
商業
サービス業
建設業
運輸・通信
電気・ガス・水道
鉱業等
|
%
71.9 7.1 8.4 8.4 1.9 1.6 0.4 0.3
|
%
62.2 10.0 10.9 10.8 2.7 2.5 0.5 0.4
|
%
53.0 13.6 12.4 12.0 5.3 3.0 0.5 0.2
|
万人
1,728 448 413 358 171 103 16 7
|
%
53.3 13.8 12.7 11.0 5.3 3.2 0.5 0.2
|
計 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
3,244 |
100.0 |
参考:1995年の総人口は5,940万人
出所:労働社会福祉省(1995年は推定)
|
出所:商務省産業経済局 |
|
2.農家所得
タイ国の農家所得は、全国平均で1戸当たり年間約11,231バーツ(4万円程度)となっており、農外所得を加えた農家所得は年間34,161バーツ(12万円程度)である(表5)。
また、地域別にみると、比較的所得の高いと言われている中央部タイ、南部タイの農外所得を含む農家所得が5万バーツ程度であるのに対し、北部タイは3万バーツ、北東部タイはその半分に過ぎない。
表5:タイの農家経済〔1991/92年〕 |
(単位:バーツ/戸) |
|
北部 |
中部 |
南部 |
北東部 |
全国平均 |
農業粗収益(A)
----------------
耕種作物
畜産
その他
|
33,270
--------
27,262 3,030 2,948
|
79,215
--------
56,318 15,146 7,751
|
36,736
--------
27,258 5,770 3,708
|
19,027
--------
12,959 3,601 2,467
|
35,043
--------
25,208 6,252 3,583
|
農業経営費(B)
----------------
耕種作物
畜産
その他
|
19,135
--------
11,275 2,545 5,315
|
59,915
--------
30,059 17,091 12,765
|
18,157
--------
9,054 5,892 3,211
|
12,964
--------
7,396 2,067 3,501
|
23,812
--------
11,961 5,065 6,786
|
農業所得((C=A-B)) |
14,135 | 19,300 | 18,579 | 6,063 | 11,231 |
農業所得(D) |
17,277 | 35,736 | 31,058 | 19,148 | 22931 |
農業所得((E=C+D)) |
31,412 | 55,036 | 49,637 | 25,211 | 34,162 |
|
出所:農業・協同組合省(MOAC)
注)中部は他表でいう東部と中央部を合わせたものである。 |
3.農業政策
第7次国家経済社会開発計画(1992〜96年年)の農業政策として、農業開発ガイドラインが策定され、農業開発の目標を次の通りとしていた。
1)農業セクターの成長率を3.4%以上で維持する。
2)農民の所得を引き上げ、公正な所得配分を支持する。
3)教育、栄養及び公衆衛生の点における農民の生活の質を改善する。
4)自然資源を次の通り保護・開発する。
|
・森 林 | :全国土の25%以上を保護森林地域に、15%を経済森林地域に指定する。 |
・土 地 | :年当たり400万ライ(64万ha)の農地改革を行う。 |
・水 資 源 | :農地に年当たり500以上の水資源を供給する。 |
・水産資源 | :水産業生産を増加させるため、水産資源を保護・回復する。 |
これに代わり、1996年10月からの第8次国家経済社会開発計画の農業政策は、次の3点に集約されている。
1)世界市場での競争力維持強化。
2)天然資源保護と持続可能な農業開発。
3)人材開発、農業制度確立。
【2】砂糖産業の概況
1.さとうきびの生産
砂糖は、国際価格が大きく変動する商品であるが、その原料であるさとうきびは、製糖工場の製造許認可権限を有する工業省が製糖工場に対し、農家からの最低引き取り価格を設定しており、この価格保証により畑作物におけるさとうきびの相対価格が上昇し、農家は生産を拡大している。特に、北東部においては、EUへのタピオカペレット等の輸出減少によるキャッサバの価格低迷により、キャッサバに替えてさとうきびを作付けする動きが顕著になっている。
さとうきびの栽培面積は、1990/91年当時、中央部と東部を合わせた構成比は約55%であったが、近年は約40%まで減少したのに対し、北東部は約20%から36%に増加してきている。この傾向は今後も続くものと思われる(表6─1、─2)。
各地域の特徴を見てみると、中央部は、土壌は肥沃粘土質地域で、粘土質のため乾燥に弱く、乾期にはひび割れが生じやすい。さとうきびの作型は春植えで、5月から7月に行われ、収穫は12月から翌年の4月に行われる。最近、バンコク周辺の栽培地は、労働者不足や土地価格の上昇により減少傾向にある。
北部は、従来春植え中心であったが、歩留り向上のため秋植えを奨励したことから、最近では秋植えが定着している。また、この地域は12月から2月にかけての気温が低いことから、今後歩留りも向上すると考えられ、増産が見込まれる。
東部は、土壌が砂質で、春・秋植えが混在している。1950年代までは糖業の中心地であったが、最近は工業化が進み、労働力の流出及び土地の高騰によりさとうきび産業は衰退してきている。
北東部は、土壌は砂質で、養分に乏しいが水持ちが良く、乾期の秋植えの生育に向いている。近年、労働力、気候などに恵まれていることから、この地域のさとうきびの生産は増加している。
表6-1:地域別さとうきび栽培面積 |
(単位:千ライ) |
|
北 部 |
中央部 |
東 部 |
北東部 |
合 計 |
| % |
| % |
| % |
| % |
| % |
1990/91 1991/92 1992/93 1993/94 1994/95 1995/96 1996/97 1997/98 1998/99*
|
1,355 1,517 1,548 1,563 1,629 1,955 1,495 1,389 1,322
|
25.6 25.0 24.7 25.9 28.0 30.0 23.7 23.6 23.1
|
2,283 2,474 2,556 2,416 2,223 2,261 2,432 2,166 2,079
|
43.2 40.8 40.8 40.1 38.2 34.6 38.5 36.7 36.3
|
606 639 612 554 355 524 348 287 265
|
11.5 10.5 9.8 9.2 6.1 8.0 5.5 4.9 4.6
|
1,039 1,430 1,551 1,498 1,616 1,786 2,039 2,055 2,068
|
19.7 23.7 24.7 24.8 27.7 27.4 32.3 34.8 36.0
|
5,283 6,060 6,267 6,031 5,823 6,526 6,314 5,897 5,734
|
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
|
|
出所:農業・協同組合省(NOAC)
注1:1ライは0.16ha
2:*は推定値
3:南部では、さとうきびの栽培が行われていない。 |
表6-2:さとうきびの地域別生産量 |
|
1996/97年(A) |
1997/98年(B) |
(B)-(A) |
収穫面積 (ha) |
生産量 (千トン) |
単収 (トン/ha) |
収穫面積 (ha) |
生産量 (千トン) |
単収 (トン/ha) |
収穫面積 (ha) |
生産量 (千トン) |
単収 (トン/ha) |
総 計 北 部 中央部 東 部 北東部
|
1,055,459 250,327 402,093 57,240 345,799
|
58,977 13,988 23,204 2,930 18,855
|
55.9 55.9 57.7 51.2 54.5
|
987,509 232,692 360,104 47,179 347,534
|
45,850 10,801 16,461 2,186 16,402
|
46.4 46.4 45.7 46.3 47.3
|
△67,950 △17,635 △41,989 △10,061 1,735
|
△13,127 △3,187 △6,743 △744 △2,453
|
△33.7 △9.5 △12.0 △4.9 △7.3
|
|
出所:農業・協同組合省(MOAC) |
2.製糖工場
タイ国の製糖工場は、かつて中央部及び東部地域に占める割合が大きかった。1986/87年でみると、全体で46工場あり、北部地域に8工場、中央部地域に23工場、東部地域に9工場、北東部地域に6工場であったが、近年の急速な工業の発展及び潅漑施設の整備等による稲作等への転作が進み、さとうきび原料の確保が見込まれる北部及び北東部地域への移転が進んでいる。1997/98年では、全体で46工場は変わらないが、北部地域に11工場、中央部地域に18工場、東部地域に5工場、北東部地域に12工場となり、北部地域に3工場、北東部地域に6工場移転していることが分かる(表7)。
製糖工場の公称圧搾能力は、2千トン/日から4万トン/日まで幅広い。
全体の圧搾能力は、約62万トン/日であり、これは日本で生産される全さとうきびを2日半で処理できる能力を有していることになる。
表7:製糖工場圧搾能力〔1997/98年〕 |
(単位:トン/日、工場) |
圧搾能力 |
北 部 |
中央部 |
東 部 |
北東部 |
計 |
0〜 2,000
2,001〜 4,000
4,001〜 6,000
6,001〜 8,000
8,001〜10,000
10,001〜12,000
12,001〜14,000
14,001〜16,000
16,001〜18,000
18,001〜20,000
20,001〜22,000
22,001〜24,000
24,001〜26,000
36,000
40,000
|
2 1
1 1 1
2
2
1
|
1 1 5 3 1 2 2 1 1 1
|
1 1 2
1
|
2 1
2 1 1 1
2 1
1
|
2 2 4 5 6 6 2 3 6 1 3 4 0 1 1
|
計 |
11 | 18 | 5 | 12 | 46 |
(1986/87年工場数) |
(8) | (23) | (9) | (6) | (46) |
公称圧搾能力合計 |
159,004 |
232,435 |
37,906 |
189,114 |
618,459 |
平均圧搾能力(A) |
14,455 |
12,913 |
7,581 |
15,760 |
13,445 |
製糖日数
圧搾数量(千トン)
平均圧搾量(トン/日)(B)
稼働率(%)(B/A)
|
986 9,306 9,438 65
|
1,625 12,736 7,838 61
|
475 2,438 5,133 68
|
1,640 17,721 10,805 69
|
4,726 42,201 8,930 66
|
|
出所:さとうきび・砂糖委員会 |
3.砂糖の生産
タイ国内におけるさとうきび及び砂糖の生産量は、1992/93年、1993/1994年及び1997/98年には厳しい干ばつによる減少があったものの、順調に生産量を伸ばしてきている。1994/95年から1997/98年までの平均でみると、さとうきびの収穫量が51,636千トン、砂糖の生産量が5,298千トンとなっている(表8−1、表8−2)。
表8-1:タイの砂糖及び糖蜜の製造実績の推移 |
年度 |
圧搾数量 |
白糖(精製糖含む) |
粗糖 |
計 |
糖蜜 |
1978/79
1979/80
1980/81
1981/82
1982/83
1983/84
1984/85
1985/86
1986/87
1987/88
1988/89
1989/90
1990/91
1991/92
1992/93
1993/94
1994/95
1995/96
1996/97
1997/98
|
千トン
20,244
12,612
18,652
30.264
23,916
23,087
25,053
23,983
24,441
27,189
36,667
33,560
40,563
47,505
34,712
37,569
50,459
57,693
56,192
42,201
|
千トン
515
519
602
690
825
774
900
961
856
1,022
1,256
1,495
1,764
2,204
1,694
1,829
2,381
2,906
2,979
2,581
|
%
28.7
49.7
37.6
25.8
37.3
35.0
36.5
38.8
33.8
39.4
32.2
44.6
45.9
45.1
46.8
47.9
45.2
48.2
51.3
63.0
|
千トン
1,280
526
1,000
1,989
1,386
1,436
1,568
1,517
1,679
1,570
2,642
1,854
2,079
2,680
1,923
1,993
2,884
3,122
2,824
1,513
|
%
71.3
50.3
62.4
74.2
62.7
65.0
63.5
61.2
66.2
60.6
67.8
55.4
54.1
54.9
53.2
52.1
54.8
51.8
48.7
37.0
|
千トン
1,795
1,045
1,602
2,679
2,211
2,210
2,468
2,478
2,535
2,592
3,898
3,349
3,843
4,884
3,617
3,822
5,265
6,028
5,803
4,094
|
%
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
|
千トン
1,059
676
1,029
1,736
1,316
1,230
1,351
1,192
1,208
1,372
1,746
1,718
2,168
2,402
1,623
1,918
2,636
2,850
2,594
2,218
|
|
出所:さとうきび・砂糖委員会 |
タイ国内で生産される砂糖は、粗糖、白糖及び精製糖の3種類があり、その分類は色価により、粗糖が1,001〜3,800ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位、白糖が46〜1,000ICUMSA単位、精製糖が45ICUMSA単位以下のものと定義されている。粗糖は砂糖の生産量全体の約半数を占め、その全てが国外へ輸出されている。白糖は生産量の約40%が輸出され、残りは国内で主に家庭用として消費されている。精製糖は生産量の約35%が輸出され、残りは国内で飲料等の加工業部門及び家庭用の消費に充てられている(表9)。
表9:タイ砂糖分類規格 |
|
糖度 | 色価 (ICUMSA) |
精製糖 白 糖 グレード1 グレード2 グレード3 粗糖 |
99.80以上 99.50以上 99.50以上 99.00以上 97.00以上 |
0〜45 46〜200 201〜400 401〜1,000 1,001〜3,800 |
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出所:OMIC CO.,LTD |
4.糖 蜜
タイ国では砂糖の副産物である糖蜜も重要な商品である。生産量は1994/95年以降、年間2百万トン台で推移している。そのうち30〜40%が日本、韓国、台湾、ベトナムなどへ輸出され、残りはタイ国内で大半がアルコール産業向けとして、また、一部が飼料などに利用されている。
5.国内消費量
タイ国の国内向け砂糖は、製糖工場から7割強が卸業者向け(家庭消費用)であり、残りは飲料、乳製品、製パン、缶詰製品等の大手食品加工業者に直接販売される。タイ国の一般家庭で多く使用される砂糖は、色合いが日本の三温糖に近い白糖で、精製糖は大手飲料業者等で使用され一般家庭ではあまり使用されていない。1人当たりの砂糖消費量は、1980年には12kg程度であったが、タイ国の工業化の進展に伴う国民所得の増加により、近年では29kgを上回っている(表10)。
表10:国内砂糖消費の内訳〔1994/94年―1996/97年〕 |
(単位:千トン/粗糖換算、%) |
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1994/95年 |
1995/96年 |
1996/97年 |
家庭消費量 |
1,275 |
78.8 |
1,335 |
78.4 |
1,309 |
73.7 |
加工用消費
飲料
製パン
製菓
乳製品
缶詰製品
他の用途(食品以外含む) |
140 42 5 74 46 36 |
8.7 2.6 0.3 4.6 2.8 2.2 |
136 47 6 78 45 55 |
8.0 208 0.4 4.6 2.6 3.2 |
160 67 8 94 63 74 |
9.0 3.8 0.5 5.3 3.5 4.2 |
小 計 |
343 |
21.2 |
367 |
21.6 |
466 |
26.3 |
合 計 |
1,618 |
100.0 |
1,702 |
100.0 |
1,775 |
100.0 |
1人当たりの消費量(kg/人) |
27.6 |
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28.7 |
|
29.5 |
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出所:英国LMC社(事業団委託調査) |
6.輸 出
タイ国は、過去30年間で砂糖の生産量を大きく伸ばし、1989年以降は、世界市場へ年間200万トン以上を輸出し、1996、97年には400万トン以上を輸出する世界でも有数の砂糖輸出国となった(表11)。1980年代、タイ国の砂糖産業はアジアの砂糖需要の高まりに刺激されて砂糖の生産は急増し輸出が増大した。1981〜84年の平均は150万トン、1985〜88年平均は200万トンとなっている。粗糖、精製糖、白糖ともに輸出されたが、アジア市場にとってタイ国の砂糖は、運賃面で有利であったため、他の砂糖輸出国にとって強力な競争相手になった。1996年以降の粗糖の主な輸出先は日本、韓国、中国となっており、また、粗糖以外の精製糖、白糖の輸出先はインドネシア、パキスタン、インド、バングラデシュなど南アジア向けになっている。
表11:タイ国砂糖輸出の推移 |
(単位:千トン) |
年 |
計 |
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年 |
計 |
|
年 |
計 |
|
年 |
計 |
1987 1988 1989 |
1,991 1,882 2,970 |
1990 1991 1992 |
2,382 2,704 3,542 |
1993 1994 1995 |
2,333 2,561 3,746 |
1996 1997 |
4,343 4,113 |
|
【3】タイ国の砂糖制度
1.さとうきび・砂糖法
1980年代前半の砂糖の国際相場の急激な下落により、さとうきび栽培農家と製糖工場のさとうきび買い上げ価格をめぐる対立が顕著となり、製糖工場は操業中止等の強行手段に訴えたことから、政府は両者の仲介を行なうとともに、製糖工場の操業継続を可能にするため、さとうきび栽培農家と製糖工場が砂糖の販売収益を分配する政策を1982年4月から試験的に実施した。
この政策は、1982/83年度から収益分配方式(Sharing System)として導入され、1984年8月に制定された「さとうきび・砂糖法」の一部として法制化された。これにより、さとうきび栽培農家と製糖工場との間における砂糖の販売収益の分配は、さとうきび栽培農家7:製糖工場3で行われることとなった。
なお、その具体的な分配方法、割当方法、さとうきび価格、支払い方法等の細かい通知は、同法に基づきさとうきび・砂糖委員会議長名で告示されることになっている(現在の通知は96/97〜98/99年度の3年間を規定したもの)。
同法に基づき分配される砂糖の販売収益は、さとうきび・砂糖委員会が製糖期開始前に製糖工場ごとの圧搾能力等を勘案して、各製糖工場に対して行う生産量の割当により生産された砂糖の販売収益であり、同法に基づき生産割当はA、B、Cの3種類に分類されている。
1) |
A割当は、国内消費用砂糖(白糖、精製糖)の生産割当数量で、国内の需要を満たす数量として決定される。 |
2) |
B割当は、収益分配方式導入の際に設立された栽培農家、製糖業者及び政府代表者で構成されるタイさとうきび・砂糖公社(Thai Cane and Sugar Corporation=T.C.S.C.)を通して、業界の長期契約に基づき輸出される輸出用砂糖(粗糖のみ)の生産割当数量で、製糖工場ごとの過去の実績に応じて決定される。 |
3) |
C割当は、製糖工場別の契約に基づく輸出用砂糖(粗糖、白糖、精製糖)の生産割当数量で、生産量からA、B割当を差し引き、各製糖工場ごとの生産実績に応じて決定される。 |
2.1997/98年度における割当数量
(1) A割当
総量1千7百万袋(1袋=100kg)が各製糖工場に対し以下の比率に応じて割り当てられた。
A割当:B割当+C割当の砂糖の比率 →1:1.4114936200
ただし、小規模の製糖工場は以下4つの規模に分類される(表12)。
(2) B割当
総量8百万袋が最終割当数量
(3) C割当
A割当の白糖、精製糖及びB割当の粗糖により導かれた総量約1千6百万袋
表12:小規模工場のA割当比率 |
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圧搾能力 |
割 当 比 率 |
規模1 規模2 規模3 規模4 |
167,427トン以下 167,428〜251,141トン 251,142〜334,854トン 334,855〜418,568トン |
1:1.4114936200の50% 1:1.4114936200の60% 1:1.4114936200の70% 1:1.4114936200の80% |
1:0.7057468100 1:0.8468961720 1:0.9880455340 1:0.1291948960 |
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3.さとうきび価格
以前、農民団体と製糖工場との直接交渉に委ねられていたさとうきび価格は、さとうきび・砂糖法制定後は以下の公式により決定されることとなった。
〔さとうきび価格=(砂糖の販売収益の合計−控除される諸経費)×0.7÷さとうきび生産量〕
上記の式では、B、C割当による輸出収入が確定しなければ、さとうきび価格を決定できないことから、政府は製糖期開始前に当該年産さとうきびの暫定価格を設定し、最終価格は製糖終了後(概ね10月下旬)に公式に決定されている。
暫定価格は、国内売上高と輸出予想額から砂糖の販売収益を推定し、その推定販売収益の70%を推定生産量で割って算定される。最終価格は、それぞれ実績に基づき算定し直され、最終価格が暫定価格を上回った場合は、その差額を製糖業者がさとうきび栽培農家に対して支払うこととされている。
算定される価格は、1992/93年度から導入された品質取引の基準であるC.C.S.(Commercial Cane Sugar、可製糖率)単位の価格であり、標準となる価格は10C.C.S.単位のさとうきび価格である。
C.C.S.単位が10C.C.S.単位を1単位上回るごとに標準価格の6.0%に相当する金額が加算され、10C.C.S.単位を割り込んだものには、同率の金額が差し引かれる。
最終価格が暫定価格より安い場合は、砂糖基金から製糖業者に補償金が支払われ、最終価格が暫定価格より高い場合は、さとうきび・砂糖基金としてさとうきび・砂糖委員会にその差額の一部が納付される。
砂糖の販売収益の計算に当たり使用される収入及び支出は以下のとおりであり、総収入から総支出を差し引いたものが、さとうきび・砂糖産業における純収入とされる。
〔収入〕
・A割当の白糖、精製糖の売却からの収入
・B割当の粗糖の売却からの収入
・C割当の粗糖、白糖及び精製糖の売却からの収入
〔支出〕
・国内市場及び輸出市場での砂糖の売却による付加価値税、手数料等
・さとうきび・砂糖基金から支払われる国内市場における砂糖の生産及び販売管理のための支出
・砂糖の輸出のための経費
・輸出待ちのB割当の砂糖及びC割当の砂糖の倉庫賃貸料
・保険料
・B、C割当の砂糖の製糖工場から輸出ターミナルにある倉庫までの荷の揚げ降ろしに要する労賃を含む運搬費用(各地区において農家と製糖工場の間の覚え書きに従って合意されたもの。さとうきび栽培農家70%、製糖工場30%の割合で分配。)
4.融資契約による原料さとうきび代金前払い
タイ国のさとうきび栽培農家への原料さとうきび代金の支払いは、さとうきび栽培農家と製糖業者(圧搾業者)との間で締結される代金前払いの融資契約により行われる。
契約したさとうきび栽培農家ごとに過去の出荷記録に基づく当該年産の出荷予定数量について取り決めを行い、製糖業者が収穫期前に契約さとうきび栽培農家に対して、暫定価額の30%から40%を前払い代金として支払う。さとうきび栽培農家は、この代金を作付けの費用に充てる。製糖終了後にさとうきび栽培農家は、最終価額が暫定価額を上回った場合は、その差額を受け取り、逆の場合は、翌年度の暫定価額の受け取り額を調整する。
原料さとうきびの前払いの方法には2通りの方法がある。
(1) 先付け小切手
製糖業者がさとうきび栽培農家に対して先付け小切手を振り出し、契約栽培農家は利子分を割り引いた金額を現金化する。
(2) 製糖業者と銀行との契約
製糖業者が契約栽培農家に対する銀行ローンの保証人となる。この方法は、製糖業者が契約栽培農家と当該農家の借入金額のリストを銀行へ提出する必要があり、そのリストによって契約栽培農家は、銀行からの融資を受けることができるというものである。この場合、銀行ローンの返済管理責任は製糖業者側にあり、契約栽培農家が原料さとうきびの納入を怠ることとなれば、製糖業者がローンの未返済額を決裁することとなる。
農家別にローンの査定を厳密に行えば、作付け作業に着手できない農家が出てくることもあり、結果的に原料さとうきびの減少につながることから、先付け小切手による代金先払いが行われるケースがほとんどである。
小切手による具体的な支払い方法は、各月の1日〜15日の間に製糖工場へ搬入されたさとうきびに関しては、製糖工場はさとうきび栽培農家に当該月の22日までに仮さとうきび価格を支払い、各月の16日以降に搬入されたさとうきびに関しては、翌月の7日までに支払うこととされている。
支払われる仮価格は半分が現金で支払われ、残りの半分は各支払期日から30日以内の先付け小切手により支払われる。
焼ききび(Burned Cane)については20バーツ/トンが仮払い額からペナルティとして差し引かれ、工業省にさとうきび・砂糖基金としてプールされる。
5.収益分配方式の変更
(1) 糖蜜販売収益の分配
糖蜜の販売により得られる収益は、かつては製糖工場のみの収益とされていたが、1987/88年度からはさとうきび栽培農家に対しても、さとうきび1トン当たり一律10バーツが加算されるようになり、1994/95年度からは砂糖と同様に糖蜜販売収益の70%がさとうきび栽培農家に分配されることとなった。
(2) 地域ごとの配分
1996/97年度からは、製糖工場から国内市場・輸出積出港への砂糖の輸送コスト及びさとうきびの品質(C.C.S.)を考慮して、地域別にさとうきび価格を決定するという手法が導入された。
地域区分は、製糖工場とさとうきび栽培農家の個別交渉に基づいて、製糖工場に供給するさとうきびを栽培している地区ごとに編成され、現在、中央部5地域、東部1地域、北部5地域、北東部2地域の合計13地域に区分されている。ただし、北東部の2地域については、価格は同一とされている。
6.国内支持価格
A割当により国内で消費される白糖及び精製糖の販売価格は、価格決定・独占禁止法(1979年施行)に基づき、政府による最も重要な統制対象となっている。
工場渡し卸売価格は、1980年以降全く変動しておらず、白糖が11,000バーツ/トン、精製糖が12,000バーツ/トンと定められている。
小売価格も変動なく白糖が12.0バーツ/kg、精製糖が13.0バーツ/kgと定められていたが、1997年の夏に起こった経済危機(バーツ切り下げ)により製糖業者は政府に対し、国内価格を引き上げるよう要請を行い、その結果、小売価格のみの引き上げを政府が承認し、現在では白糖が12.5バーツ/kg、精製糖が13.5バーツ/kgと定められている(表13)。
粗糖については、B割当により全てがタイ国外へ輸出されることから、国内では全く販売されていない。
表13:国内支持価格 |
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卸売価格(バーツ/トン) |
小売価格(バーツ/キロ) |
(1980年〜) |
(1980年〜96年) |
(1997年〜) |
白 糖 精製糖 |
11,000 12,000 |
12.0 13.0 |
12.5 13.5 |
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【4】タイ国砂糖産業の問題点
1.収穫作業の機械化
タイ国砂糖産業の緊急課題の1つは、さとうきび収穫作業の機械化である。
さとうきびの平均収穫作業能力は、手刈りの場合、通常1日1人当たり1トンであるのに対し、大型機械刈り取りの場合は1日1台当たり150トンと言われている。
タイ国における工業化進展が人口のバンコクへの一極集中を生み、収穫作業時期が他の作物と競合することもあり農村部の収穫労働力不足が問題となってきている。人手不足による収穫の遅れは、さとうきびの品質の低下と、品質の低下による価格の低下という二重の打撃を受けることとなり、さとうきび生産者のみならず、製糖工場もその影響を受けることとなる。特に、操業開始時期は、さとうきびの工場搬入量が少なく、これが工場の稼働率の低下を招き、製糖コストの上昇につながっている。
1991/92年に収穫機が初めて導入され、1994/95年にタイ国全体で100台が主に製糖工場により導入された。その後、収穫機の導入に関して以下の問題が明らかになってきた。
1)栽培地が平坦でない。
2)畑が狭い。
3)畑が幾つにも分散している。
4)森林保護のために木の伐採が厳しく制限されており、畑の立木や木の根が作業効率を著しく低下させている。
製糖工場が収穫機を導入しているのは、製糖工場間のさとうきびの争奪に対処するための1つの手段である。つまり、製糖工場所有の収穫機でさとうきびを計画的に収穫し、製糖工場に搬入することにより、製糖原料の確保ができるからである。
しかし、さとうきび畑の条件は、収穫機が効率的に稼働するには良い条件とは言えず、さとうきび畑を収穫機に適した畑にするには、生産者がさとうきび畑の整備費を負担することになるため現実的には進捗しない状況である。
2.焼ききびの問題
タイ国においては、収穫作業の簡便性及び収穫作業の効率性から、焼ききびが一般的に行われており、1996/97年では、76.5%が焼ききびとなっており、他の作物との労働力の競合が、この方法を助長している。
焼ききびについては、20バーツ/トンが仮払い額からペナルティとして差し引かれ、工業省にさとうきび・砂糖基金としてプールされる。対して、生きび(Fresh Cane)は最高10バーツ/トンの加算金が最終価格決定時に上積みされる。
この制度は、焼ききびが生きびと比較すると品質が悪く製糖歩留りを低下させるため、生きびでの製糖工場搬入を奨励するための制度であるが、他作物との収穫作業の競合等のため、収穫作業効率が良い焼ききびでの収穫はあまり減少していない状況である。
3.生産性の向上
タイ国の砂糖生産コストの70%強は、さとうきびの生産コストとなっており、世界市場におけるコスト競争力を低下させる大きな要因となっている。
1996年10月からの第8次国家経済社会開発計画では、世界市場での競争力維持強化を大きな目標の1つとして掲げているが、近年のバーツの下落が国際競争力を高めているにもかかわらず、国内の賃金等の生産コストは増加することが予想される。タイ国砂糖業界は、将来の国際競争力を維持するために、収穫機導入、さとうきびの品種改良、施肥管理及びほ場整備拡大等により一層コスト削減のための努力が必要と思われる。